真夜中の龍門の街では昔から幽霊に出会うという噂がある。それらは過去の盛世を見学しようという誘いを掛けてくるが、時間を掛けてよく見分ける必要がある。「幽霊」は生と死であるということを。
0:00 A.M. 天気/砂塵
龍門市区、商店街
――。
ねえ、今のあなたの顔、とても怖いってこと分かってます?
…戻ってきたのか。あの人達はもう調べたのか?
少し鼻につくところがありますし、あいつらに滅茶苦茶仕打ちをしたいですが、私一人で出来るようなことでは無いので。
事務所の連中に頼むかもしれません。
相手の勢力は小さくはないですし、あいつは直接教えてくれませんし、思わせぶりなことも…。
あいつら?
あ。
あ?
…彼の名前はあ。
はあ…まあ、要するに簡単じゃないってことだろ。
手伝ってやるよ。
…聞き取れませんでしたか?相手がただ紛らわしいだけの奴らならまだしも、組織や規模のある派閥組織なのであれば軽率に行動してはいけません。
「軽率な行動をしてはいけない」つっても不可能なことでは無いだろ、なあ。
どうしてわざわざ言ったことをほじくるのです?
冗談を言っている訳じゃないんだが。
…おじいさんは無事だったのですか?
怪我は重くはなかったが、それは重要じゃねえ。
――そうです、確かに重要では有りません。しかし真っ黒な事件であれば余計なお節介はしたくはありません。
ですが私の前で罪のない人が傷つき、奴らが勝手な真似をさせることだけは出来ません。
…ありがとう。後でつみれを奢るよ。
つみれは必要ありませんが…。
そうだ。
今夜の事件にはペンギン急便も関係しています。彼らは誤魔化そうとすらしていません。
あいつらは悪い奴らじゃない、多分巻き込まれただけだろ。
今年だけで何十回トラブルに巻き込まれているんですかね?彼らはもっと注意すべきでは。常にトラブルを起こして良いという訳ではありません。
彼らに会う機会があれば、警告する必要がありますね。
砂、オリジ二ウムアーツ、アーツ、ふん。
思うに龍門の裏の面を操っている化け物は本当に単なるお飾りじゃないってことだな。
カポネさん、それはどういう意味で?
一番手出ししちゃいけねえ人物ってことだ、違うか?
マウスキングですか?ですが俺たちはボスとペンギン急便も同時に対処をするべきでは…。
まだ龍門の座は半分ある。そうだが、状況は楽観的じゃない。だから一歩足りとも間違えられない。
カ、カポネさん、何をしているのですか?クロスボウを置いて下さい!
ファミリーを裏切るっていうのが本当に些細なことだと思うか?
俺の龍門に根を下ろしたい。ガンビーノを捨てて生きていく。こいつらの顔を全て覚えてな。
お前はその中にはいねえ。ガンビーノの犬は死ね。
出てこい。
お前のことを恩を忘れるような馬鹿だと思っていたが、人の心を買うっていうのにはそれなりの方法があるんだぜ。
そういえば、それはお前が教えてくれたな。
何故それを覚えていない?
お前はかつて俺の忠誠を勝ち取ったが、また俺を失望させた。俺はお前の二の舞にはならない。
裏切りの意味っていうのをお前は知る必要があるな。
裏切りはシラクーザでは最も汚い罪だ。だが残念ながらお前が抱いている栄誉というものは龍門では価値はない。
これを受け取れ。
――スペードのJ?
お前は言ったな、お前はカードを隠す速度が遅すぎると!
(斬撃音)
お前の剣は更に遅くなった、ガンビーノ。ペンギン急便との殺し合いで怪我でもしたか?それとも古傷が開いたか?
お前の弱さが俺を失望させた。ただ俺は血生臭い末路が裏切り者にはお似合いなのか考えているんだ。
今、余ってるカードはお前だ。
(クロスボウの発射音)
それで?何をするつもりだ?打倒ペンギン急便、打倒マウスキング、打倒龍門近衛局、打倒ウェイ・イェンウーでもやるのか?
どうせ夢を見るなら、覚めないほうが良いんじゃねえのか。
安心しろ、少なくとも俺はお前の骨はシラクーザに送ってやる。それで、お前の故郷でお前の骨を粉々にしてやるよ。
(斬撃音)
あんた達、やめてくれよ――!?
――何?
邪魔者がいるみたいだな。
…お前を早く殺さなかったのは俺のせいだ。だが、まずはよそ者を迎える必要がある。
(殴る音)
あいつを抑えろ!おい!俺の足を踏むな…。
こいつ、炎国のカンフーか!?あの女に全く触れられない!
素手でどうするつもりだ――ぐはっ!
――ねえ。
ところで、あなた達は?
俺は罪の無い奴を殺したくはないが、しかし――。
お前は俺のチームの所を通って、俺の目の前に現れたっていうのに服は少しも汚れていねえ。
お前がマウスキングか?
…お前ら、さっき貧民窟にいたか?
シシリアンの決闘を中断させて、更には質問すらするのか?
…ああ、どうやらお前達みたいだな。
――!?
(斬撃音)
こいつ、ぐっ、何を――!
(斬撃音)
あなたは見ているだけ?
誤解するな、包丁を使って殺すのも悪くはないってだけだ。それに俺自らが見送る必要もねえ。
だが俺が見た限りでは…お前も只者じゃねえな。
真面目に投降することをお勧めしますよ。
笑わせるな!
(斬撃音と打撃音)
お前とあの狼の腕前は同じくらいだ。まさかマウスキングがまだお前のようなカードを隠しているとは思ってもいなかったぞ!
何のカードか、あなたが何を言っているのか分かりませんけども。おとなしくうつ伏せになって警察官に会いに行きましょうね――!
は!
(斬撃音)
ちっ、思い出したぜ。お前には会ったことがある。お前は生鮮商人を装った討ち手だったな。
おかしいな、特に注意するべき相手ではないと思っていたんだが。
いや、それは誤解なんだが…まあいいか。
今日、今、俺はそのつもりだ。
はあ!
ぐ!
(斬撃音)
小娘にひどくいじめられているようだな、ガンビーノ。
お前を殺すのは後の話にしてやる、まだ喜ぶのは早いからな。
お前は何度ものチャンスを使って奇襲を掛けたいと思っている。卑怯な奴だ。
拳が正しくない、それでどうやって勝つのです?
あなた達は自分たちがやりたい放題してきた暴力に対して代価を支払わなければいけません。
…こんなにも長く待たしたのはわしをここに連れてくるためか?
何のためだ?墓探しか?それとも死んだらわしの隣で一緒にいたいのか?
お主は何年も商売をしている割には、どうしてそんなにも口が悪いのじゃ。
客相手にはこんな態度はせん、お前は客ではないからな。
気持ちを傷つけおって。
――。
…これは发の墓だ。お前は知らないかもしれないが。
これは黄癬のチンで、閻魔の所に行きおった。
後ろには呉さんと鉄狂人が住んでいる。それに安老八も。安老八家は金持ちだったから、あいつのために山の斜面に配置してやった。
人が多いな。
良いんだよ、少なくとも隣同士なんだから。儂らもこれからの住むべき住所は考えるべきだな。
それを考えるのはまだ早いじゃろう。それとも何か不治の病にでも掛かっておるのか?
早くはねえよ。儂達はもうあまり長くは生きることは出来ないし、それにいろんな経験もした。
儂のような人に兄弟たちは命を掛けて儂の命を救ってくれた。何日か平穏な日々を過ごし、自分の一生を振り返って思い出したんだ。
大したことじゃねえが、大きな事をしただけに平穏な暮らしは出来ねえんだなって。
何を言うとる、つみれを売って悟りでも開いたか?
正直なところ、料理の値段ってのはマフィアよりもずっと高いもんだ。
ボス、お前は本当に将来わしをお前の隣人にしようという考えは無いか?ここは風水的にも良いし、共同で買えば墓地はずっと安くなるんだが。
もう良いか?
冗談だよ、冗談。えっと、お前には娘がいるんだっけか、俺は一人だけど。
貧民窟の子どもたちがお主に従っておるだろう。孑という男の子がいるだろうて。
血の親とは結局のところ違うからな。歳を取ってから、初めてこういうのを知った。
だから、わしより長く生きるんだぞ。だが、ほどほどにな。少し長い程度だ。下で待っててやる。
…お前は絶対にわしを咽させるという気概でもあるのか?
そういえば、後でまた古い友人に会いにいくんじゃ。一杯飲まないか?
いやいい。孑のことが心配だからな。あいつは本当にトラブルを起こすからちゃんと見ていねえと。
わしも少し手伝ってやろう。
それにしても、儂の他に生きている古い友人なんて何人にいるんだ?ここに全部いるんじゃねえだろうな?
一つだけな。
――ウェイとか言ったか。あいつとは話があわねえな。あいつとは長く付き合ってると本当に命が短くなるぞ
だが、当時ウェイ・イェンウーのために流れ弾を止めたのだろう。生涯まっすぐ歩くことが出来なくなった人が。おぬしだろう。
わしのことを思ってくれるのか?へっ、あのことはいつもわしが損したと感じているさ。
…少なくとも龍門はまっすぐ歩けているさ。それは損じゃないだろう。
お主は少しも変わらんな。それもいいじゃろうて。
本当に彼に会いたくないのであれば、先に行くといい。
それに彼がお主に会うとなると、儂は怖くて何も言えんわい。
やっと儂を開放してくれるのか。儂だってけが人なんだからな。リン。
…。
董。
聞こえなかった。
長く生きるのじゃぞ。つみれをたくさん売るのじゃ。
まずは龍門で店頭を買って、店を開き、弟子を何人か集めてから、棺桶を何処に置くのか考えるのじゃな。
マウスキングはまだ生きておるがお主達の死を見送る番ではない。
…そうだな。