
――ここでお待ち下さい。



マウスキング様



お疲れ様じゃ。先に帰っておれ。



良い射撃じゃったぞ。



ありがとうございます。失礼ですが、本当にお怪我はありませんでしたか?



まあのう。じゃが、お主がわしを殺したいと思ったのであれば――。



私に引き金を引くチャンスなんてありませんよ。謙遜をしないでください。私も旦那さまもあなたの過去を見たことがあるのですから。



それはどうじゃろうなあ。歳月とは容赦がない。今夜儂はその事実を再認識したよ。



人を恐れさせる力を弄ぶのは自分を飲み込む。駆け出しの子供達と遊んでおったら宝物のコートを壊してしまったわい。



そのコートは?



針仕事というのは儂にとっては重労働じゃわい。



お主は既にお主の任務を完了させたんじゃ、トランスポーターよ。先に行き、お主の主に告げるが良い。彼には安心して自分のことをしてもらおうぞ。



――メモしておきます。ですが旦那様は自身であなたにお会いに来るかもしれません。では、失礼させて頂きます。



…ふむ、ここは本当にとっちらかっておるのう。もったいないのう。流石ペンギンの仕業と言ったところか。



…ここには完全な酒もあるし、ふむ、色も悪くはない。



一杯いかがかな?



それはマウスキング自らが腰をかがめて拾った酒じゃろう。何故飲まない?



そんな滅相な、ウェイ長官。



長官。久しぶりにお前からこの呼び方を聞いたのう。



この茶番にお前が直接参加をするとは、ペンギン急便の手を借りるだけかと思っておったのに。



老人は老人らしく、優しく、子どもたちの活動に参加すべきじゃよ。



はっは。相変わらずお前が老けたという実感は無いがな。お前の娘は日に日に若い時のお前に似てきているからかな。



あの子がどこまで歩いていくことが出来るのかは知らぬが、時には手を離すべきじゃろう。この点については儂は全て上手くは出来ていないのじゃが。



彼らが選んだ先が断頭台だったとしても?



彼らが選んだ先が断頭台だったとしてもじゃ。



ところで、どの道が本当に長いのじゃろうか?誰が決めるのじゃろうか?天災か?



お前は本当に歳を取ったのじゃな、リン。



何故儂があのトランスポーターに関心を持っているのか分かるか?彼女たちの間には共通点があるかもしれんからじゃ。



――本題に戻るとしよう。お主は自らここに現れるべきでは無いのかもしれん。長官。



近くを「たまたま偶然通った」「龍門市民」じゃよ。儂らは分かっているじゃろう。



はあ。



マウスキングもため息をつく時があるのじゃな。



ため息に値することは多くあるが、儂はその中で一つを選んで出しただけじゃ。



…きっと、引退をする頃合いなんじゃろうな。



それは出来んな、龍門はまだマウスキングを失うわけにはいかない。



リンを失うことは出来るじゃろう。儂らは以前とは随分と違っている。



気にするな、少なくとも、龍門がマウスキングを失っても十分な日までは頑張るわい。



儂の娘が本当に成長をした日じゃ。



本当にそう思っているのか?



わしは彼の父であり、貧民窟のマウスキングであり、以前はお主の友人でもあった灰色のリンじゃぞ。



儂は決心を付けられていなかったのかもしれぬ。たくさんのことを間違えたのかもしれぬ。



まだ過去のことでくよくよしていたのか、リン。



お主が龍門を儂らの手に取り戻した時、儂はお主に承諾を得たじゃろう。儂はウェイ・イェンウーの影の中にいる。この暗い路地に触れる必要は無いとな。



まあ、こんなにも長くなってしまった。約束をしたからこそマウスキングが出来上がったのじゃ。



お前は多くの犠牲になった。



そんなことは言うな。わしはいつ潔白になった?わしらはいつ潔白になった?



….お前との約束は守っているぞ、旧友よ。それにお前が不満を持っていることにも否定はしない。



お前の娘のためか?



わしがこのような面倒な方法でシラクーザ人を追い払ったのは何のためか、お主には分かるじゃろう。



面倒な相手は多いが、少なくとも儂はお前を信用はしておる。



信頼と利用は実際は同じこと。その地位で自分の職務を図るだけ。儂らはもう少し着実にやるべきじゃがのう。



お主は以前はこのような話をするのが嫌いじゃったのに。



偶然じゃ。今夜は久しぶりの再会じゃったが、満足できるようなものは一つも無いようじゃな。



そう言うな。今はただの二人の古い友人で、鎮魂の夜の後の挨拶じゃ。儂らは少し楽にすべきじゃろう。



お主の言う通りじゃ。ふむ、寒くなってきたな。だが古い戦友たちにキャンドルを灯す時間は無さそうじゃの。



それにあまり時間は使わないじゃろ。お前がそこを離れた後に儂はそこにいたが。



…ウェイ・イェンウーが一人で墓地の前で花を捧げる姿なぞ想像できんな。



お前の葬儀には参加はしないだろうが、墓の前に花束位は捧げるかもしれんぞ。その時にならないと分かるじゃろう。



…お前を救ったのは誰じゃと思うとる。この一生まっすぐ起きて歩くことが出来ているのは?



そういう奴らは数え切れないほど多い、儂らと一緒に戦って、儂らのために寛大に死んでゆく。。



そして儂はこの人達を忘れたことはない。



――お主の目変わったな。もしかしたら、お主は長生きするかもしれんのう。



それが秘訣だからな。



まあ、長生きするのじゃぞ。



ではレクイエムフェスティバルの祝福として。



老い!ぼれ!ネズミ!



あ!?



――



見事なフライングキックですね、皇帝さん。だがマウスキングを尊重してくださいよ。



こんばんは、それとも、おはようかな。ウェイ長官。



にぎやかな夜だな、オーウェルさん。意外なことは多かったが、しかし、全て必要なものは取っていく。



VIPルームにはいるだろうと思って追ったが、全ての事が無事に終わるのをまっていたのかな。



息子を剣山や火の海に投げ込んで、自分は暖かいVIPルームに隠れてウェイ長官の答弁を待つというのは正しくはないでしょう?



お前の剣山や火の海とはどういう意味だ?



手加減するのじゃ。皇帝。



さっきは思いっきり手を出してきたよなあ、老いぼれネズミ!



そんなに怒ることは無いじゃろう、腹に穴が開いただけじゃ。



それだけだと!?



絆創膏を貼っただけじゃろ?結局お主は死んだのか?死んでないじゃろ、何が気になるんじゃ?



*弾を込めた音*てめえは私の一番好きな服を壊しやがった。老いぼれが、私がこれだけの金を使ってお前と一緒に苦労したんだぞ。この恩を仇で返すのか、ああ?



安心して下さい。今日の全ての出費は弊社は負担をしますので。



黙ってろ、金のことじゃねえんだよ。



オーウェル、どうしてお前の配下がマウスキングを撃ったかというと同調してたからだ。この老いぼれネズミは冗談をぬかして私を串刺しにしたんだぞ!?



我慢出来んかったのじゃ。
(発砲音)



…危ないじゃないか、皇帝。



手が滑った。



はいはい、ウェイ長官もまだ見ているのですよ。そんなに殺気立っては駄目です。



いずれにせよ、一度の天災による経済損失には及ばないでしょう。あなたにとっても私にとっても何が問題なんです?



ペンギン急便は確かに鍛錬に適した所じゃろう。何しろ自称トランスポーターの娘たちはただものではないからな。



しかし儂はやはりお主に助言しておきたい。火が点かないように気をつけるのじゃぞ。



は、当然です!でもあれは息子のため!挑戦を恐れないのが峯驰です!



モスティマと龍門全体で家庭教師をしてあげてくれ。老いぼれネズミや儂らをまた弾として使うのであれば、この値段を払うことは出来るのかのう?



銃として使う?無いですよ。



わしはあの二人のシラクーザ人があそこまで納得してくれるとは思わんかった。ちょっと叩いてやればあやつらは心を入れ変えると思ったのに。



ばかいえ、お前ならひと目で奴らを見通すことは出来ただろ。



濡れ衣じゃ、濡れ衣。



…ふう。本当に賑やかじゃな。



たまには朝の空気でも吸って入れ替えないとな。



シラクーザ人の話は棋局がどれほど混乱を極めていても、お前の理不尽な一手は本物の妙手になるってことだ。



いつまでもそうとは限らんが、お主は儂より多くしっておる。まだウェイ・イェンウーが心配をする番ではない。



お主はシラクーザの動きには注意をするべきじゃろうが。



分かっているさ。



残念だったな。今度もネズミを捕まえられなくて。ウェイ・イェンウー。



…皇帝さん。そういう話をすると気持ちを傷つけますよ。



ですが、マウスキングの暴犯に関しては計画にあったとしても深くお詫びいたします。。



彼の射撃はとても巧みじゃった。少なくともあれは本物じゃ。彼の過去には興味があるぞ。



残念だが、作られたものは無いぞ。



…お主は本当に世が乱れることを望んでいるようじゃな



オーウェルさん、龍門がこれから貴社に委託する協力案を考慮すれば、息子を一時的に中心から遠ざけるのは賢明な選択でしょう。



ははは、この茶番劇の潜在的価値から見れば、これくらいの面倒なんてことないですよ。



ともかく皇帝さんは龍門がペンギン急便に目を瞑っている理由を知っていて欲しいが。



私達の素晴らしい業務能力と私の魅力があるからじゃないのか?



…はあ、そうだな。儂はお前を誰よりもよく知っている。



は!今度こんなことがあっても、私を呼ぶなよ!次は領収書と請求書を皆様の手に送るからな。安心しろ、決して小さな数字じゃねえからな。



ははははは、それこそ皇帝だ。全くどのような脅しの機会だろうと見逃さないのは私もある程度は学ぶべきかもしれないな。



龍門をまるごとゆすりに掛ける人なんぞ多くはないぞ。学ぶところなどない。



さて、ウェイ長官。



そうじゃな。しかし儂らは場所を変えるべきじゃろう。みんな自分の仕事があるのだから。



あ?お前達また何か企んでやがるのか?



株に投資します?一緒に物流業界を新たな段階に踏み出させませんか、龍門からテラまで。



いらないな。正直に言うと、お前の会社のネーミングセンスは本当にひどいと思うぞ。



ははは――!そんな理由でですか!それは残念だ!



しかしこの話はあなたに言っても良いですかな?



お疲れ様、リン。



それを話すときではない。



今日のことだけじゃなく、長い歳月でじゃ。



…日が出てきたな。



儂らはここで初めて日の出を見た。前の時もこうやって肩を並べて立っていたな。



貧民窟の家は入り組み、影は重なっている。これに慣れてはいかん。



――それで、何年もの間、お前はここで何を見た?



…変化と老いたウェイ。



儂らが歩いているこの道には――。



とっくの前に後ろには誰もいなくなってしまった。