龍門上城区 7:00p.m. 空が暗くなりはじめた頃

秘密逮捕状?チェンさんに!?

どういうことなんだ?そんな訳が…

おい!ちょっと待て!これ間違ってんじゃないのか!!

くそ、チェンさん、なんなんだ……一体何がどうなっているんだ!

チェンさんを見つけ出して、本人から聞いてみるしか!

……ああ、理解しておる。

ご主人様、まだ何かございますか?

いや、もうない。わしが前に指示したことは処理しておけ。終わったらささっと避難するのじゃ。

承知いたしました。

さあ、はやく行け。

ふう。

――ああ、まさかウェイ・イェンウーを困らせるやつがいたとはのう。

タルラや、タルラ……これが宿命というやつなのか?

若様はこれを予知できたとしても、このような光景を見たいとは思わないじゃろうな?

やめじゃ、やめじゃ、龍門は結局の所、ここまで来てしまったのじゃから。

しかしファイギ……ファイギよ!気を付けるのじゃぞ、ファイギ……命だけは投げ捨てるでないぞ!
龍門停舷接弦区 7:20p.m.

あ……あ!うっ、あぁ……。

はぁ、この数、冗談でも言うんじゃなかった……近衛局はまだこっちには来ないのか?

昨日はレユニオン、今日は特殊感染者……流石の俺たちでも持たないぞ。街中で大規模武装を使うわけにもいかないし……

こんにちは、オペレーターさん。あれが敵ですか?

ローズマリー!はぁ、助かった。

オリジニウムアーツで改変された感染者……?彼らの動きを抑え込むことはできないのでしょうか?

ああ、俺たちに配備されたのはほとんど防御用装備なんだ。ワイヤーも高繊維ネットも効かないとは思わなかった、こいつらとやり合うには本格的な兵器じゃないと厳しいな。

防衛線でのプレッシャーが大きすぎたから、仕方なく本部に支援を要請したんだ。君が来てくれたおかげで対処出来そうだ。

あいつらの体内にあるオリジニウム構造が身体をガチガチに固くしているんだ。重火器類を使わないと活動を抑えることが出来ない。それと……あいつらの大脳の活動形跡を検出することができなかった。

観察結果からして、あいつらは……実際は、もう死んでしまっている。今のあいつらは単純に支配性のアーツで動かされてる。全く、ひどいことをするもんだ。

こんなことをする人には……重い対価を支払わなくちゃいけませんね。

あ、もちろんあなたたちの安全が最優先ですが。

プランを練るので手伝ってください。私が……彼らを止めましょう。

・君も戦うのか?

はい。

でも、君が戦えるようには……

…ドクター、あの子が戦ったところを見たことないんですよね?

ドクター、少し下がって下さい。

気を付けたほうが良いです、離れて下さい。この戦闘スタイルを見るのはきっと初めてだと思うので。

・キャビンに置いてた鉄箱が飛んだ!?
・……?
・空中に浮いてる機械、君の装備なのか?
ローズマリーが能力を用いて武器を空中に浮かべさせ、敵を迎え撃った。

私のですよ。

オペレーターさん、標的の概要を教えてくれますか。

了解、個体リストを調べて……えっと、標的は、あー、特性が活発な不安定個体?

集団行動、効果的対処法は見当たらず、目的地は不明、だいたいこんなもんかな!

――わかりました、私に任せてください。

ケルシー先生に言われました。処理し終えたあとはロドス本艦をただちに龍門から離脱させると……!

こんばんは、チェン。

ホシグマ……?どうしてここにいるんだ?傷はどうしたんだ?

小官は鬼ですよ、これしきの傷位、どうってことありません。

そうか、じゃあ私はこれで――

いや待て、お前はここで私を待っていたのか?

チェンが押しているこのバギーって、レム・ビリトンの最新モデルじゃないですか?

「野原、山地、防塵、低燃費で長時間走行、自然に与える影響も最小に抑えた、最高のドライブ体験」?

……

あ、すいません。広告を見すぎてしまいキャッチフレーズまで全部覚えちゃいまして。

いい車ですよね、レジャーは興味ないですけど欲しくなっちゃいますよね。

お前は何が言いたい?

へとへとじゃないですか、チェン。そんな状態でどこに行くつもりなんです?

お前はなぜ私がここにいることを知っている…?

あなたはいつもプライベートで街に出るときはここを通っている。人が知らない出口やその通路がどこにあるのか、お互い熟知していますから。

――近衛局から指名手配が出てます。

お前は信じていないんだろう。

そりゃもちろん。あなたがどういう人間かは小官は知り尽くしていますから。

この通路でなければ龍門から出られはしない。

だから身を隠してきた。近衛局の連中がお前みたいに物分りが良かったら良いんだがな…。

じゃああなたは龍門からは絶対に出られませんね。

……なんだと?

お前は何を言っている?

あいつらも小官と一緒なんです。あなたには行ってほしくない

ホシグマ…私の邪魔をする気か?

ホシグマ、どうしてお前まで私を止めるんだ?!

止めるのは当然でしょう、チェン。私は龍門近衛局の督察であり、あなたの友人でもあります。

一騎当千の英雄みたいな大冒険でもしたいのですか?あなたを街から出させない理由はこのたった一つだけです。

お前は龍門人なんだぞ!ホシグマ!

私たちにはもうチャンスがないんだ、またウェイの手段で今回の件を解決すれば犠牲がもっと増えることになる!

あなたの方法なら解決出来るとでも?

……

お前は隊員たちから姉さんって呼ばれてるのだろう、あいつらはお前が自分たちの愛する龍門を守ってくれるって信じている。だからホシグマ、私を行かせてくれ。

……ハッ。

チェン、あいつらが本当に龍門を愛していると思っているのですか?

お前――

小官は古臭い人間でありましてね。

マンガも、酒も、雨が降る街並みも、傘をさしていない急ぎ足の人たちも、バイク以外のものは古臭いのが好きなんですよ。

人によっては時代遅れなものもあるでしょう。ですがチェン、私たちは時間に追いつけると思いますか?

小官には無理です、できません。時間が早すぎるんです。それは小官の多くの大切なものを粉々に踏みつけていきました。

残ったのが、たったこれだけ。切り傷、折られたツノ、あざ、全部できた経緯を憶えています。

小官は時間が嫌いです。周りの人を連れて行ってしまった。

あいつらはみんな自分の居場所のために散っていった、では小官は?

一人一人消えていくのを、握りつぶされていくのを、小官は見てきました。自分で手を下して、あいつらの夢を粉々に砕いたことすらもありました。

あいつらは龍門を愛してなんかない。居場所がないんです。そして、最後の最後は小官があいつらの居場所を壊した。

あなたまで行くなんて言わないで下さい、チェン。

…。

お前はファーの死も、龍門のために死んだ大勢の人も……無かったことにするつもりなのか?

知った風な事言わないでくださいよ。

あいつらといた時間は小官の方が長いのですから。だからあいつらのことも小官はよくわかっています。

だが龍門を守るのが私の責務だ。誰が邪魔しようがそれに変わりは無い。

まだ自分を警司と思ってるので?その責務をくれたのは誰なんです?

私自身だ。

……話の分からない人ですね。

一人で龍門を救えるとでも?一人でレユニオンを皆殺しに出来るとでも?冗談もほどほどにしてくださいよ。

面白い事ですよね。前まではあなたがウェイさんの命令を執行していた、ウェイさんを理解していたから。ですが、それは変わった。今は小官がウェイさんの命令を執行している、小官がウェイさんを最も理解しているから。

ウェイさんの考えは大体分かります。人が死ぬ以上は自分から行くしかないのですから。あなたはチェン家の血筋ですから、この事件が終わっても責任追及には巻き込まれはしません。

あいつが――

ウェイさんは自分が死んでも構わないとは思っていますが、あなたを死なせたくないのです。

お前はあいつを優しく見すぎだ。

あなたもウェイさんのことを誤解し過ぎているんですよ、チェン。

死にたいのなら勝手に死ねばいい。だが、あいつが死んだら解決できるとでも?それで何ができる?戦争が始まらないとでも?龍門が攻撃や災難に遭わないとでも言いたいのか?

彼の死で龍門は咎められなくなります。全ての責任が彼本人の死とともに消えていくと思っているのでしょう。

そんな虫にいい話があるとでも?

あなたが彼の後を継ぐんです。近衛局局長の席は遅かれ早かれあなたのものになります。そして、この街の主になり、あなたはこれまでの解決できなかった問題を解決するべきです。

ウェイさんのやりたいことははっきりと分かります。彼はいつも待ち焦がれていました。あの人の目と考えは小官が出会ったときから変わっていません。

……

龍門はまだあなたを必要としています。だから危険を冒してほしくないんです。

虫唾が走る話だな。

あなたはウェイさんの死には動かされないのかもしれませんが、彼が亡くなった後ならば、あなたがこの街を変えることができるんですよ。

お前に真実の一つを教えてやろう、ホシグマ。私がこの街に属さない理由をだ。

そんなことは無いでしょう、チェン。あなた以上にこの街が似合う人なんていませんから。

私は感染者だ。

……え?

……

……いつからですか……?

三年前だ。

隠していたのですか?

わざとではない…。

どうして小官が知らないのでしょう……?

ウェイは誰にも知ってほしくなかったからだ。近衛局に感染者はあってはならない、だから私の感染情報を徹底的に隠蔽した。

ホシグマ、この街に感染者の居場所なんてものはない。この世界の何処にも。

ウェイに指図されるのはもううんざりなんだ。あいつに指を指されることも。

いえ、これではっきりしました。

ようやく……はっきりと分かりました。どうして、チェン、どうしてあなたが龍門を離れてはならないのかを。

……ホシグマ?

もしあなたが離れてセントラルシティに向かったら、ウェイさんはあなたを敵として見ざる負えない。だたの敵ではなく、感染者として、龍門に敵対する危険な感染者としてです……

そうなると街全体があなたが感染者だということを知ってしまう。レユニオンと協力していると思う人たちも出てくるかもしれない。

覆水が盆に返らないように、あなたは二度とこの街には戻れなくなります。

私は気にしない。

それはこっちのセリフです

「お前が感染者?気にすることでは無いだろう」

私は気にしません、Missyも気にしませんし、九も、近衛局も気にしないでしょう。

ウェイさんだって気にしていません。あの人は感染者に対する認識を変えてほしいのであって、追い出してるわけじゃないんです。

あいつの感染者への無情な仕打ちを見てないから何とでも言えるんだ、私ははっきりとそれを見てきた。

九は、彼女は去った。彼女は感染者だったから近衛局を離れたんだ。

……九もですか……。

思い返すと、私も九もおそらく同じ任務にあたって鉱石病に罹ったんだろう。

その後、彼女は私のスパイになった。表向きはレユニオンに加入していたが……結果はレユニオンのために龍門を捨てている。

彼女もこの街の真相を知ってしまったからだ。

ですが、あなたは一切龍門を裏切ってはいない。小官はあんなことをあなたにはさせません。

ホシグマ、お前は……私がなぜセントラルシティに行くと思う?

なぞなぞは苦手なんで、もう少しヒントをくれませんか。

ふっ……

レユニオンのリーダーが誰だか知ってるか?

名前は覚えてません。

タルラだ。

Missyが教えなかったか?

何をです?

タルラは私の姉ということを。

あ、あー……ふっ。分かりましたよ。

チェン、今日は絶対にあなたを行かせはしません。

……どうしてそんなことを言うんだ……?私の肉親、私の家族が……大事じゃないって言うのか?!

だからこそ……

だからこそあなたを行かせるわけにはいきません。

今日ここで私が死のうと、私はあなたを行かせるわけにはいかない。

……

お前に決定権などはない、ホシグマ。

それは般若が決めることです。

――今日私の前に阻むものは例え天災だろうと許しはしない。盾一帖、鬼一人ならなおさらな!

この盾を鋳造した匠は流浪の悪鬼に無残に殺された、彼の怨念は天災よりも毒々しい。

この盾にこびり付いた惨劇の鮮血は……天災よりも邪悪ですよ。

チェン、ウェイさんが悪いやつなら、一緒に殴りに行きましょう。

あなたのやりたいことなら何だって付き合いますよ。小官のコロンビア大型シリンダー70vvが好きじゃないでしたよね?それもあげましょう。

チェン、今はやめてください。行かないでください。私に手を出させないでください。最後の少しばかりのお願いです。

手を出させるな?どうしてお前までウェイの話し方と一緒なんだ?……そんな風に言わないでくれないか。

ウェイが始めたときから……いや。

あいつが自分の兄弟を、私の母を裏切ったとき、この街があいつのどす黒い罪悪に沈んだときから決心したんだ。

ウェイが何をしようが、あなたは彼と結びつけようとしますが小官はそれとは何ら関係はないと思います。

お前は何を言ってるんだ……。

あの人がやっている事と、あなたのためにやっている事、それとあなたがするべきことは、一切関係はありません。

ウェイさんは期待しているんです。あの人は悪になろうとはしてない。望んでるのは支配ではないから……。

あの人はその剣をあなたにあげたのでしょう?

……お前は何も分かっていない。

――何が分かっていないと?

一度だけじゃありません、二度、三度に四度……小官は自分の家を、自分の家族を壊してしまった。

小官はいつも血まみれで、最期はいつも、小官だけが立っていました。

いつも思うんです、小官に生きる資格はあるのかと。

小官に生きる資格は無いでしょう。でも生き残ってしまったんです。だからもう自分のために生きるのはやめました。

罪を認めるため、一歩を踏み出す……それは人の一生のなかで最も愚かな行為でしょう。

そして後悔の味は一生小官の口の中に留まっている。

自分だけが罪をたくさん背負っていると思いで?チェンお嬢さま?

やめろ!

……ではどうして小官のことを一切理解してくれないのですか?

これまでずっと一緒に乗り越えてきたのに、まだ打ち明けられないことがあるのですか?

私も、お前も、苦しい記憶を持っている。それは分かっている、分かっているはずなんだ……。

ならばお前は何故まだ分からない?私はお前たちを誰一人巻き込もうとしてないのに、お前たちは私が一体何を理解していないって言うんだ?!

小官は無意味な死をたくさん見てきたからです。

あなたが何者かなんて私は気にしません、ただ行き先が気に留まるだけです。

私は絶対にあなたを行かせはしない。敵のボスがこの段階までやってきた以上、あなたが何をしようと無駄です、犬死するだけだ。

あなたの死を見たいという人は誰一人いません。近衛局も、龍門も、誰一人も。

――ありがとう、星熊。

それでも行かなければならない。

本気ですか?

やるというのなら、私は本気でお前を斬る。

絶対に行く、そういう事なんですよね?いま自分の心が鉄みたいに固くなっているとか思いません?

前に言ったはずです。自分の思考に固執しすぎると、周りが見えなくなり、他人が自分のためにどれだけ尽くしてきたのかすらも見えなくなると。

意地を貫き通すだけでは己を傷つけるだけです。

ふん。

もう良い。一発思いっきり殴らねえと昔の私みたいに自分の滑稽な執着がただの思い当たりだって気付きもしない。

やるというのであれば、チェン……二年前よりどれだけ成長したのか見せてみろ。

そ の 言 い 方 で し ゃ べ る な 。

EX-42オリジニウムアーツ遠隔操作型器機、使用者ローズマリー、承認を。

防衛での使用に許可します、器機使用を承認。

使用者:殲滅戦専門員、ロドスエリートオペレーター、ローズマリー、起動を承認します。

はい、では行ってきます。

ロドス艦船の起動をすみませんがクロージャさんに伝えといてください。

ドクター、急いでゲートに入って下さい。ぼーっとしないで。

ローズマリーが戦ってるときに出た破片に当たりでもしたら死ぬかもしれないんですから。