
アンタ怪我してるじゃない!?

大丈夫です、ただの擦り傷ですから。

どう見ても擦り傷なわけないでしょ!除菌ウェットティッシュ持ってるから、こっち来なさい。

本当に大丈夫ですって……

顔をこっちに向ける!

わかりました、わかりましたから。

傷口は大きくないけど、深いわね。見た感じ……アーツの痕跡もある。

……まさかチェンがやったの!?あの※龍門スラング※!

アハハ……大丈夫ですって、あの年ごろの子ですから、何をしでかしてもおかしくないですし

……ホシグマ、アタシ怖いの、アイツがもし……

レユニオンに寝返るんじゃないか?

うん。

小さい頃アタシもタルラと一緒に遊んだことがあるのよ。

もうはっきりと憶えてはいないけど、でもアタシ……彼女と友だちでいてよかった。

血気盛んでワルガキだったけど、アタシたちの前にいつも立ってくれた。

一言も喋らないし、全然退くことも知らないけど。なんでも一番にならないと気が済まない、アタシたちに助けを求めることなんて一度もなかった……

年上の子だって彼女に敵わなかった。でも彼女がチェンを、小さい頃のあのおかしな状態から引っ張り出せたのよ。

アタシ怖いの……

大丈夫ですよ。

……

チェンという人は、言行不一致でいつも困ったもんです。

でも彼女は龍門のチェンですよ。口ではああ言っても、彼女の夢は、彼女の目標は、彼女の人生は、全部ここにあるんです。

じゃあどうして止めに行ったのよ?

……もちろん彼女が死ぬんじゃないかって怖かったからです。

スワイヤー、これからはあなたが近衛局を背負う番です。

アタシにそんな力があるわけがない。アイツじゃないんだし……

おや、自分から彼女には及ばないって言うなんて。

自分が近衛局には合わないって言いたいだけよ!

いいや、Missy、あなたはすごくお似合いですよ。

小官には似合わない、チェンも似合わない、ナインだって似合ってません。

近衛局を真に輝かせられるのはあなたなんです。

この任はあなたが背負わなければいけません、なぜなら、あなたでしか背負えないんですから。

小官は最善を尽くしましたけど、でもやはりこの街をどうにもすることはできませんでした。小官もこの街が、正真正銘みんなの街になってほしいんです。

私もそう思うわ

――あなた――

お久しぶりです、スワイヤーさん。

こんにちは、ホシグマ督察。

鼠王のご令嬢がどのようなご用件で近衛局の本山に?

彼女に何をするつもりですか?目的を話してください、Missyの髪一本でも触れるものなら……

敵意はございません。

アンタ……間違ってるわよ。

かもしれません。

私たちに選択の余地がなかったのかもしれません。

選択の余地がない時なんて……ないわよ。

顔を上げてください。

今日は雪が降るそうです。あなたには降らないようにすることができるんですか?

……

雪……どうして雪が降るわけ?
眠れ、眠れ♪
父の白い髪も、母さんの針糸も♪

ダメだ、溶解限界値を突破した!排気口を強制的に開ける!

さっきの揮発で強力な吸熱効果を起こした、排気量を増やさないと、ポットが丸ごとダメになってしまう!

雨雲だってまだ遠くまで行っていない……これは大雪が降るかもしれないな。

このフロストノヴァという人物……一体どういう感染者なんだ?
全ての夢の世界は湖の底に沈んでいく♪
……時間すらもここに凍てつく♪

オホン、ふう。

……

まったく耳障りな歌だ、クソ。

クソ!

なんでフロストノヴァなら上手く歌えるんだ?ぼくではやっぱり……上手く歌えない。

雪です。

このお爺さんは……

……

全身の結晶率は60%を超えてた。たとえサルカズだとしても、動くことはままならない。

彼の意識はもうすでに消えていたんだ……だが、鋼鉄の意志は動き続け、彼の身体に満遍なく伝わっていった。

……ボジョカスティ。

恨み。悔やみ。憎しみ……

全部消えていった。

最後に残ったのが、怒り。

フロストノヴァさんへの悔しい思い、タルラへの敵意、ウルサスとカズデルへの限りない懐かしみ……

消えることのない怒り。不条理と傍から亡くなった人たちのための怒り……全ての人たちを弄んだ運命への怒り。

運命に抗うということは、全てに抗うということだ。その全てがいわゆる「運命」という概念を作り上げたのだ。

ボジョカスティの怒りは、全ての大地に向けられていた。

……この不条理な全ての大地へ。

……パトリオットさん……

手をどけろ。

お前に言っているんだ、コータスの感染者。

……大尉が成し遂げられなかったことは、私たちが代わりに遂行する。

……もういいでしょう。

あなたたちは彼の死を無駄にしたいのですか?

彼はあなたたちを死なせたくなかった、あなたたちに自分の道を突き進んでほしかったんです。

あなたたちを活かすために、孤独な死を選んだのに……!

私たちは死にに行くと誰が言った?

それに私たちは聞こえたぞ。

コータス人。お前が未来全ての災厄の根源だとな。

あの古い予言は、本当だったんだ。

・だがフロストノヴァは私たちを信じることを選んだ!

フロストノヴァは……大尉すらも……

・もちろん彼はフロストノヴァの選択を鵜呑みにしてはいなかった!

・自分の娘の選択を鵜呑みにしないということは……

・彼は盲目ではなかったということだろ!

彼の選択こそが……公正だ!

・それでもお前たちは予言のほう信じることを選択するのか?

……違う、私たちは予言を信じてるわけではない。

私たちは大尉を信じているのだ。

・……フロストノヴァの飴の味は辛かった。

……なんだと!?

イェレナが……お前に飴をやったのか?

・私は彼女を信じる、彼女も私を信じてくれた。

・お前たちがそれでも誰かを殺すというのなら……

・自分の目で判断しろ!
・他人の意見に付きまとうな!
・自分の意志を最後まで貫き通せ。

……

いや。

ロドスの、お前が言っていることは、理解できる。だが同意できない部分もある。

私たちが大尉に付いていったのは、完全に彼という人を追いかけていたわけではない。

もし――もしいつか、お前の傍にいるコータスの少女がタルラのような暴君になってしまったら……

私たちは容赦しない。

大尉が抗った全て……全ての奴役者、全ての悪しき王、全ての圧政者、全ての災厄を引き起こした者、誰だろうと逃さない。

大尉は知ってるんだ。天災に殺されたチェルノボーグの人々を、非業に死んでいった感染者の戦士たちを、訳も分からず犠牲になったレユニオンのことも。

彼は憎んでいた、でも逃れることはできなかった。だが今の私たちはもう違う。私たちは大尉と彼の信念に属している、レユニオンなどではない。

これからの私たちは「盾」だ、感染者の盾だけではなく、隷属されし者の盾でもある。

お前のことも見ているぞ、コータス人。お前が一つでも過ちを犯せば、決して容赦はしない。

予言のことだが……今は黙っておこう

それよりも、司令塔でまだ暴君が私たちを待っているからな。

……我々を互いに争うように仕向け、これまでの惨劇を作り出してきたのは、まさにレユニオンのリーダー、タルラだ

私たちは隊を立て直す。遊撃隊に知らせなくては。

お前たちは……遂行する任務でもあるのだったら、好きにするがいい。

雪……

この大雪は……イェレナが大尉を迎えにきたのか……?

アーミヤ、あまり気にするな。

サルカズ人は長年オリジニウムと接触してきた、彼らの生体記憶の一部がオリジニウム結晶体と混ざることがある、混ざった記憶は大地に流れ続け、再びサルカズ人の体内に蓄積される。

ある時は、オリジニウム結晶を伝達している一部のサルカズ人がそれぞれの記憶を一緒に混ぜてしまうことがある。

アーツを幾度と使う過程で、これらの記憶は交差し、さまざまな方法で具現化する。

そのほとんどに意味はない、その他一部も過去の情報にすぎない。予言というものに真実性はない。

でもそれは人体に影響を及ぼしています。

原因の一つとしては……予言を聞いた人は、予言が実現する方向に向かってしまうから、ですよね?

……

あれが暗示なのか……それとも本当に現実に現れるのかはわかりません。ただ……

彼は私を殺せました。

でも彼は……彼は思い出したんです……

では今すぐ彼女を殺しにいかねば。

ダメだ、彼女が悪いやつだという根拠はあるのか?

彼女はコシチェイの継承者なんだぞ!彼女もいずれはあの老いた黒蛇のように、私たち全てを毒牙で殺す!

違う、この石頭め……違うんだ。

彼女が最後にはそうなろうと、今の彼女を殺す道理はない。

……

なぜなら今の彼女はそのコシチェイのなんとかではないからだ、はぁ、何言ってるのかさっぱりわからん。あれは誰だと?ただのタルラだ。

……どこでそんなものを知ったんだ?お前の闘争心はそれで乱れてしまうかもしれないのだぞ。

乱れてるって……何のことだ、この石頭が、純粋な闘争心なんて、もし本当にあるんだったら、私はあんたには出会えなかった。

そして、今みたいに火の傍に座ってスープを飲むことだってなかった。

お前は……まだ16歳だ。

スープは冷えたか?

ずっと冷えたままだ。このほうがいい。

……

一回は聞いてやろう。

違う。父さんこそ、間違ってる。

もし正しいと思ってるのなら、あんたは……これから何が起きようが、正しいと思い込んでしまう。

なぜなら、タルラのことは、彼女と彼女の身内の問題だ。

でも今この時が真実なんだ、そうじゃだろう、父さん?

この先がどうであれ、今の私は私、あんたはあんただ。

いくら考えたって、今の自分は自分だ。変わるのも自分だし、決めるのも自分。

彼女と一緒に付いて行ってみよう、少し試すだけでいいから。

……お前は将来素晴らしいリーダーになるな。

私は上に立つような柄じゃない。私はただあんたと、兄弟たちと、叔父さん叔母さんたちと一緒に、生活したいだけだ。

憶えておこう。

憶えてくれるのか?

忘れはしない。

ローズマリーさん……先生……ドクター……

……彼は私を殺せた。ボジョカスティさんは……私を殺せたんです。

でも私……彼の頭の中が見えたんです。

彼から手を止めたんです。最後は彼自身が止まりました。

それにあれも……聞こえてきたんです……

アーミヤ。

最も重要なところを教えてくれ。彼は最後に何を言った?

……
「厄運と惨劇を見た。」
「死と虐殺を見た。」
「遺棄と冒涜を見た。」
「誰かに言われた、為せば成ると。即ち、未来の一切は、お互いの目にあり……」
「幼き魔王よ。為せば成る。もしこれが運命なら……」
「私は信じない。」

彼は……彼は……
彼は感嘆としていた……
「我が王よ……何処へ行かれるのか?」

――以上です。

先生……これが全部です。全部見てきました。

彼の生涯を。

アーミヤ……

ボジョカスティは、生涯に二度己の信念を背いたと言った。

一つは、カズデルを離れ、サルカズの戦士として生きることをやめたこと。

もう一つは、ウルサスに反抗し、ウルサス帝国の戦士として生きることをやめたことだ。

おそらく、彼は三度目を背いたのだろう。彼は彼が従うレユニオンと感染者を裏切り、レユニオンの戦士として生きることをやめたんだ。

そして彼は死んだ、彼の裏切りの道も終わった。

しかし――

彼は自分の信念を高く掲げるあまり、自分の大切な全てを裏切ってしまった。

でもそれは、間違ってはいなかったのではないですか?

この種の「崇高なる裏切り」は、世間を欺く人にとっては、一種の解脱だ、楽に最善の結末を迎えられる。

だがボジョカスティにとっては、そうではなかった。

……まさか……

アーミヤ、言ってみろ。

……カズデルはボジョカスティさんの故郷ですよね。

あそこから去っても、彼はずっとカズデルを懐かしんでいました……帰りたくないのではなく、帰れないんです、一度目の裏切りの……代償のために。

ウルサスは彼の祖国でもありました。彼はウルサスために生涯を費やして戦った……けど自分の息子の死を自責していました。

彼はウルサスを悪と認めた、でもこの大地のためにも、最後まで戦い……命を捧げました。二度目の裏切りの、代償です。

そして今回……彼はタルラに対して断固反対でした。でも、彼は自分が今まで守ってきた人たちが、自分の行いで死ぬことを予知していたんです。

彼の行いは感染者の未来を守ってきました、でも彼は……死にゆく人たちために……ただ苦痛しか感じれなかった。

これが彼の三度目の裏切りです、彼の贖罪への決心でもありました。この戦いは最初から、裏切りがもたらした結果を補うためだったのです。

この三度の裏切りは、運命が彼をより遠い場所へ誘うためだったんです、でも彼はただ振り返りたいだけでした。運命の残酷さといたずらを憎み、流れに身を置くことを嫌う彼は全ての結末を無理してでも背負ったのです

十年、二十年なら……まだ理解できます。でも……あまりに長すぎたんです。彼があの些細な間違いから大きくなった後悔と抗った時間は、あまりに長すぎたんです。

最後の最後は、私にもわかりません。

彼は私を殺せたのに、最後に止まってしまった。

……彼は彼自身の苦痛に、彼が掲げた数百年もの信条に、彼がこの大地に注いだ愛に打ち勝った。

最後に幾年も守り続けてきた自分に課した制約に遵守しませんでした。彼は……運命に屈したのです。

いや、これだと彼を貶してしまいます。つまり、彼は自分が抗ってきたものを無視して、心のわだかまりを超えたんです。

彼は未来を君に託した。今回、彼はある理念を守るために苦痛に耐えることを選んだのではなく、自分が正しいと思ったことを快く選んだんだ。

だがもちろん、彼の心の奥深くにある、その部分は、君の言っていたように……

元はタルラに属していたが、今は君に属している、でもそれは変わらずフロストノヴァにも属しているんだ。

パトリオットさん。フロストノヴァさん。

ケルシー先生。ローズマリーさん……そしてドクター。

私がこの戦いを終わらせます。

ここから。今から。

うん。

あなたに付いていきます、アーミヤ。ずっと。

……
お前が多くを救ったとしても、無数の苦痛をもたらしてしまう。
怒り。私の怒りは、運命がこの大地に下した不条理にあるのだ。

まさか、幾年を超えて……現代にやってきたのか?

こんなことがあり得るのか?この予言は、ただのサルカズの歴史の破片ではないのか?
セントラルシティ倉庫区域

――ん?

パトリオットの手下がなぜここに来た。ここはお前たちの巡回ルートではないぞ。

そこのお前、彼を放せ。

うっ……!

今回は、聞き入れよう。次は余計なことをしないでもらいたいがな。

先ほど連絡がきた。

……パトリオットが亡くなった。

なんだって!?

……

そいつは特ダネだ。

そのため、今……我々はもう以前の状態を維持する理由がなくなった。

貴様ら魔族の野郎どもめ、サルカズの俺たちより何倍もひどい匂いをしてやがる。

パトリオットが亡くなったってのはどういうことだ!?

まずはこのレユニオンのクズを片付けてからだ!

このセントラルシティと抗うつもりか?

やらない理由があるとでも?

……パトリオットも亡くなってしまったなんて。お前らの悪逆非道には、もう我慢できない!

遊撃隊!何か手伝えるんだったら……何でも言ってくれ!

感染者の命を弄ぶこいつらを全員セントラルシティから排除してやる!

Mantra-2、制服に着替えろ。君たちの識別番号はクロージャがチェック済みだ、内蔵してる装備は外にバラすな。

あのことはすでに街中に広がってしまった。君たちに必要なのは……

混乱ですかね?

いや。秩序だ。遊撃隊を援助する。感染者と、善意あるレユニオン構成員と不公平に抗う人々を、彼らの下に団結させるんだ。

パトリオットの死がタルラの計画外だったとしてもだ。

なんだ……なんだって?あいつは何を言った?

パトリオットは死んだ!

真にレユニオンのために想い、俺たちのために戦ってくれたパトリオットは、死んだ!

タルラはパトリオットへ陰謀を仕掛けていたんだ……タルラこそがウルサスのスパイだ!

そんなデタラメ誰が信じるかよ!

いや……タルラはおかしかったぞ。彼女は、俺たちに街の通信は維持するなと命令したんだ……

それが証拠にでもなるのかよ!

俺は知ってるぞ……傭兵は遊撃隊を奇襲するつもりなんだ!あいつらの計画も知ってる……あいつらはイカレてるんだ!

てめぇ――

動くな!命が欲しければ、俺たちと敵対するな。さもなくば、お前たちを粉砕する!

我らの盾は……感染者ために、全ての敵と最後まで戦い続ける!敵がタルラだろうが関係ない!

パトリオットのために!

パトリオットのために!

状況が変わったようだ。お前らも早く行け。

お前たちはどうするんだ?

俺たち傭兵も好みが違うんでね。俺に関していえばタルラの陰謀にはなんら興味ねぇ。がんばれよ、ちゃんと生き延びろよな。

感染者の未来のために!

ファウスト隊長の……

……ファウスト隊長のために!

タルラに裏切られた全ての同胞のために!ファウストのために!
パトリオットは死んだ!パトリオットが死んだ!パトリオットはタルラの陰謀により、彼女に殺された!タルラは俺たちを裏切ったのだ!
でも彼を殺したのは組織外の人間じゃなかったか?俺は別の人が彼を殺したのを見たぞ、タルラじゃない!
パトリオットがウルサスの軍と繋がって、リーダーを殺害しようとしたんだ!目を開けて良く見ろ、パトリオットこそが裏切り者だ!

……

パトリオットはこの出来事を予見していた。

彼はかつて嵐に立ち向かった。盾も彼の協力の方針を選んだのではなく、彼の最も崇高な理念を選んだんだ。

これから、セントラルシティは混乱に陥る。レユニオンは無くなったも同然だ。

ローズマリー、これが君の求めていた復讐か?

……

違います。これじゃありません。これは違います。まだ目標が見えていません。まだ……

君が誰と対峙しようと、結果はみんな似たり寄ったりだぞ。

レユニオンはただの記号にすぎない。その中に誰がいようと、何をしようと……彼らは個として認識されない。彼らはレユニオンという記号の一部分にすぎないからだ。

復讐は、そこまでま行ってしまうだろう。人の顔を認識できず、ただ記号を目印にそれを消すことしかできない。

ローズマリー、続けたければそれでいい。だが……その復讐に、収穫はあるのか?

ケルシー……

私は間違っていたんですか?

私は……ただ……

君に答えを言ってしまうのはあまりに無責任だ。

君が認めるべきことは、君自身で探し出さなければならない。ローズマリー、この問いの答えをくれる人は私ではないのかもしれない。

私たちの中に潜んでいる怒りを、己を解き放ち、それを為すがまま流し、憎しみに固めるのか?

それとも、それをより高潔な物差しに変え、私たちの行いを測り、私たちの理性と知恵を照らしてくれるようにするのか?

君はただ善悪を分けたいのか、それとも事の発端の背後に潜む原因を理解したのか?

オペレーターたちの生死、君を揺るがす情景……私たちが様々な感情を感じる理由。

そのほかの全ては、ローズマリー、君が心からそれらを消し去ったとしても、それらは依然と君の命に残り続けるんだ……

あるいは私たちの命に正しさなんてないのかもしれない。全ての記号を取り除いたとき、私たちの命に価値が生まれるのかもしれない。

――

ケルシー先生。

なんだ。

私、原因が知りたいです。

ドクター。これから二手に分かれます。

私とローズマリーさんが司令塔に向かいます。そして、ケルシー先生がドクターと共に司令塔地下にあるエネルギー区域に行きます。

・会えない時間が出来てしまうのか?

ほんの数時間だけですから、ね?

それに、ドクター……

私があなたの傍に居なくとも、わかりますよ、この大地では、ドクターみたいな人が……私と一緒に戦ってくれるって。

私の見えないところでも、みんな同じ目標のために戦ってくれてるんだって。

それで十分満足です。うん。

・作戦終了後に会おう!
・また会おう。
・また後で、アーミヤ。

はい。

チェンさんも司令塔付近まで来ているかもしれません。彼女は私たちよりだいぶ先を行っていますから、私たちも早く行動しないと。

ドクター……十分に気を付けてくださいね。

無事にロドスに戻らないと、仕事に意味はありませんから。

本当に気をつけてくださいね!

・君もだ、アーミヤ。
チェルノボーグエネルギー区域
3:00p.m.

・どうして私と君が組んだんだ?

セントラルシティ司令塔方面では、斬首作戦小隊は全方面からレユニオンからの攻撃に遭遇する。あのような戦場は君が参加できるようなところではないからだ。

遊撃隊との戦闘のとき、私たちは一時撤退して隊列を立て直すことも出来た。だが司令塔では、私たちに一息入れる暇も与えてくれないだろう。

司令塔での戦闘は明確な目標がある、これ以上アーミヤとローズマリーの気を緩めることはできない。

それに私といれば君は安全だ。

・君は危ないが。
・……
・なぜアーミヤとじゃないんだ?

私たちは私たちにしか成しえない任務があるからだ。

石棺に入ったあと、通信状況はより一層悪化する。

そのときは、正真正銘私たちは孤軍奮闘となる。

待て……

ドクター、少しの間隠れていてくれ。

・なぜだ?

……いやなら、もしくは我慢できないのなら、止めはしない。

うっ、ゴホッゴホッ……

ここどこ?爆破して……ここに来ちゃったの?

ん?アンタは……

……ロドスか。私もとことん運が悪いわね……

ん!?

……予想外の再会ね、ケルシー。

――ひどい傷だな。

君の今の名はなんだ、まだWか?

まだWよ。名前を変える時間なんてなかったわ

待って、どうしてアンタがこんな場所に現れたわけ?まさか……

あのおジイさまが、亡くなった?

そうだ。

彼が死んだの?どうして?

でも……そりゃそうね。生きていけるはずないもんね。あのジイさまは投降するわけないし、ましてや道を譲るわけもないもんね。

しょげているのか、君は?

そうよ。

このレユニオンで、唯一一目置けたのが、彼だったわけだし。

理想主義者の最期が……今日だったのね。

・彼は偉大に死んだ!
・君は全く分かっていない。
・本気で言ってるのか?

・彼は私たちの前で息を止めたんだ。

――

ケルシー。説明してちょうだい。

説明しなければならないことなんてあるか?

口答え?アンタが私に口答え?まだ聞こえないフリして、見えないフリして、無関係なフリをしているわけ?
サルカズの女性はこれまで見たこともない目で君を見ている。
彼女はケルシーと話しているが、目は君から離れることはなかった。

ケルシー、あんたドクターと行動しているのね?

何か問題でも、W?

アンタがこのアホみたいに何も憶えてないフリをしているのなら、もちろん、本当かもしれない、でも関係ない……

もしそうじゃないのなら、アンタの脳細胞はきっとアンタの訳の分からない実験で何もかも綺麗さっぱり焼き尽くされているということね。

ったく。私がイカれてるんじゃなかったら、イカれてるのはアンタたちよ。いや、私がイカれてても、アンタたちがイカれてない理由にはならないから。

君はちゃんと理性的だ、W。雑談なら後にしてくれないか。

いやね。どういうこと?アンタを見てるだけなのに。吐きたくなっちゃう。

吐くのを我慢しようとしたら、笑えてきちゃうし。

ケルシー、アンタもとうとうおかしくなったのね。バベルの悪霊を飼い慣らす気?

それは自身に記憶がある証明にはならない。私たちは依然協力関係だ。

その人の記憶喪失、演技じゃないって証明はどこにあるの?

ソレは全員を騙してきたのよ。そう、全員よ。アンタが認めようが認めまいが、アンタもソレに騙された……私が見てきたものはそれよ。

ケルシー、アンタもバケモノでしょ?頭がはっきりし過ぎて脳みその溝が全部発光してるようなバケモノ。

隣のもう一匹のバケモノがどんな結果をもたらすのか、同じバケモノのアンタなら私よりわかるはずよね。

では、この大地でバケモノと言われる生物はごまんといるようになるな。一つのイメージを過剰に使用すれば新鮮味も薄れる。

アンタが本当に狂ってんのなら、話は別だけど。

・お前は一体何を知ってるんだ?

アンタが口を挟む場所じゃないわよ、ここは。彼女との話が解決したら、その時は二人でゆっくり話し合ってあげる。

アンタに怒っても意味ないわ。アンタ記憶喪失らしいし、記憶が失ったフリをしているだけなのかもしれないし……

でもアンタの隣のその女、本当に気が確かなのかしら?

あの時――

あの時議長室に入れたのも、テレジアの行方を知っていたのも、ただ一人だけ。ケルシー、この意味がわからないわけ?

確かに。君より意味ははっきりと分かっている。

言ったわね!

じゃあ今はどうなの、どういう意味?

あー、わかった、また八方美人してるのね、こっちに行ったり、あっちに行ったりで。

でも一方はテレジアなのよ!

真相を知る前に推測で感情を左右されてはならないぞ、W。

私の推測はただ一つ、アンタは人じゃないってこと。さっきも言ったわ、テレジアの死と犯人を同じ天秤で測れるアンタは、ただのバケモノよ。

ケルシー、アンタは人じゃない。

真相は知りたい。でも真相を知る前に、アレが犯人よ、私は犯人に対して手加減したことないわ。

あ、わかった。

アンタ放っておけないのね。

――

W、君は言ったことがある……

「アンタと私は同じタイプの人」と。

どこで聞いたのかは知らないけど、ほんと、聞かなかったことにしてほしいわ。アンタと私は同じ生き物じゃない。

違う、W。ある程度では、君と私は同じ人種だ、間違いない。

たとえば、君もタルラの暴行を止めたい、そうだろう?

……そうね。アイツには本当に頭に来ているわ。

それに、アイツから私の傭兵たちを取り返したいし。アイツは指示するだけで、ちっとも大事にしてくれないわ。私の死に銭が無くなってたら大変だもの。

では、先にレユニオンの問題を片付けよう。

いいわよ。私の目標はすでに決まっているわ、聞きたい?

まずは、上にいるあの気色悪い龍女。

次は、そいつにほれぼれしてるテレジス。

遠い将来設計図だな。

そして、三つ目は、アンタの隣の○○を殺すこと。

君は三番目なのか?

・私は三番目でいいのか?

ハッ、まだ○○に聞きたいことがあるからね。

そいつとは、じっくり、じっくりと聞きたいことがあるのよ……

では現段階で私たちには共通の目標が出来た。

ちなみにだが、君がチェルノボーグで私たちのオペレーターにした行為だが……

まずは交易を通じて○○と一部のオペレーターの命を保ててくれたことに感謝する。そして、君の「交易」のせいで、こちらのオペレーター十三人が犠牲になった。

礼には礼を、君との過去の友情を顧みて、送ってやろう。司令塔まで。

ケルシー……アンタってば本当にムカつく人ね。

最初っから気に食わなかったわ、先にアンタを治してあげたほうが良さそうね、お互いどれだけの……

Mon3tr。

(咆哮)

このクソ※※が
(爆発音)

・Mon3trが彼女をつまんで……放り出した?

彼女と付き合ってる暇はない。

Mon3tr、通気管の壁、隔離璧、基礎保護層と外壁を彼女もろとも、爆破しろ。

この老いぼれが!つ―――ぎは絶対楽には死なせな――

期待しているよ。
(爆発音)

・彼女の話を遮るのかと思っていた。

どうせ君はわかっていないのだろ。

・じゃあどうして説明してくれないんだ?

まだその時ではないからだ。

それを知ったとき、自ずと理解する。

秘密とは泉のようなものだ、欲しくないときでも、勝手に湧き出てしまう。

……

変な装置だね。

ぼくをどこへ連れていく気だい?

君はぼくの身体に空いた穴を塞いでくれるのかな、それとも傷跡を治してくれるのかな?

君はぼくを、あの人のように、全てを忘れさせてくれるのかな?

もし全てを忘れることができるのなら……

ぼくは全てを忘れたいのかな?

ぼくは……

……
ぼくはそれを選んでいいのか?
セントラルシティ

……まさか。曇り?雪が降るのか?

だがこれで太陽を遮ってくれた。少なくともこれからの動きはし易くなるはずだ。

くっ……これ以上の傷はまずいな。

チッ。この程度の流血で、怖気づいたのか?チェン・ファイギ、お前の決心はどこに行ったんだ?

……

レユニオンで内乱が起こったようだな。動くのなら今が一番いいタイミングだ。

ようやくお前に会えるからなのか、手が少し震えている。

……私は絶対にやってみせる。

今のお前がどんなであれ、今のお前が過去のタルラだろうが。

タルラ……約束は約束だからな。

……

大雪ね……

まるで……あの時のクリスマスみたい。

そのことは私に一度も話してくれませんでしたが。

うっ。

でも知ってるんでしょ?

私が知っていることと、あなたが話してくれることは、別です。

リンお嬢様、小官ら近衛局のMissyをあまり困らせないでください。

――オニの姐さん。
…

…その呼び方はやはり遠慮していただけませんか、リンお嬢様。

オニの姐さん、あなたがして頂いたこと、リン家は忘れることはありません。

ただ今は、あなたに恩を返す機会があるかどうか。

何言ってんのよ。きっとできるわ。

アイツなら……彼女ならきっと。

彼女なら……チェンなら……

うぅ……

――ほんと情けないですね。

いやぁ、仕方ないですよ、Missyはずっとこの調子でしたから。

大丈夫ですよ、Missy、泣かないでください。

アンタ……なに子供扱いしてんのよ……

大丈夫ですって。何事も無事に終わりますから。

でも……最後の別れだったのよ。アタシまだ準備が、心の準備がまだなのに……もうあのクソ龍に会えなくなるなんて。

Missy、そんなことはありません。

小官好きな言葉があるんですよ、えっと……うん。人生生きてる限りまた会える。

……そう。人生生きてる限りまた会える。

……なんだ?

何が起こったんだ?私はなぜ涙を?

誰かが……私に死の知らせを伝えに来た。

誰だ?

セントラルシティ内の全ての出来事は私の計画の内にあるはずだ。

パトリオットは感染者の手によって死ぬ、サルカズ傭兵は一般のレユニオンと交戦するはずだ。

ほう。

パトリオットが死んだ、そうなのだな?なるほどパトリオットか。

偉大なる戦士。この称号はもはやあなたを言い表すには物足りないだろう。ウルサスはあなたにとって、やはりまだ小さすぎたか。

そうかパトリオットか。

……だがなぜ私は涙を?私を殺そうとする人への涙は、一種の礼節なのか、それとも懐古なのか?

「全ての悪には終わりがある」?

では最後まで見届けるとしよう。悪なのであれば、終わりに向かっているはずだ……
終わりの果てに、私はお前を待っている。
終わりの果てに、私は彼女を待っている。

なぜここにいるのだ、コジュイ。

数十年前の同じじゃ。ある人が焦っているときは、馬鹿を犯しやすく、ここで右往左往しているだけじゃとな。

だが変なのが、この癖が数十年も変わっていないのじゃ。

私のやろうとすることを知っているな、コジュイ?

ちょうど知ったばかりじゃ。お前さんとこのバカな姪っ子のおかげでな、まったくもってお前さんとそっくりじゃわい。

――

コジュイ、ここへ散歩しに来たのではないのだろ。散歩だったとしても、私の時間を無駄にしないでほしい。

旧友との昔ばなしが、時間の無駄になるのかのう?

お前さんはわしをまだ友として見ておるのかね、我が旧友のウェイイェンウーよ?

もしそうなら、約束してくれ……

無理な話だ。お前の口から出た話なんぞに答えてやるものか。

では手を動かすしかあるまいな。お前さん今日はどこにも行かせんぞ。

……己を過信するな。

そのセリフそのまま返そう。ウェイイェンウー、お前さんは高みに身を置きすぎて、人としての感情を失っておる。下に来て風にでも当たってみんしゃい、身体によいぞ。

腰を抜かすなよ、老いぼれが。

老いぼれなど……お互い様じゃろうて。
まさかね。あのパトリオットの老いぼれも死んでいったとは。
私は笑うべき?それとも涙を二粒ほど流すべき?
笑うべきなのは、彼が死んで、アンタがレユニオンの最も高いところまで上り詰めたこと、リーダーの次の位置まで。
あーあ、よくやったのなら、自分に拍手をあげるべきよね、W。
パチパチパチパチ。
涙のわけはね、彼すらも死んでしまったことね。あぁ、あぁ、可哀そうなパトリオット!
死ぬときの彼は何を考えて、どんな様子だったのかしら?倒れてた、それとも立ったまま死んだ?彼すらも死んだのよ、死なないヤツなんかいるのかしら?
もしかしたら彼が一番死にやすいタイプだったのかもね。
自分を隠すことを知らずに、在りもしない考え方を抱えて、ずっと歩き続けていく、周りの連中がみんないなくなってから、ようやく自分は安心して死ぬことができる。
なんてひっどいのかしら。
ちょっと待って。アンタと似てるんじゃない、W。
いやいや、どこが?
W、自分に嘘つかないで、ほとんど一緒じゃない。
いいや、私は自分に嘘つかないわ。私はパトリオットにはならない、私にはできないもの。
私にはできないもの。
それに、死は彼にとって、一種の解脱でしょ?
けどアンタにとっては違う、W。死は、アンタの命にとってはゲームなのよ。
殺せないアンタは、アンタをより死に近づけさせる。
死に近づけば近づくほど……狂気に近づいていく。

感謝するわ、ケルシー。

アンタがいなければあのゴミ溜めからどうやって這い上がればいいかわからなかったわ。

それと、タルラね……

聞こえる、タルラ?もしもーし?

まあいいわ、とりあえず、アンタたちに一言言いたいだけ。

――ただいま。