……そんな……
……こんなの……あまりにも酷すぎるよ……
火災が起こったんだ、現場はすでに処理されている、時間も随分と経っているな。だが……
ここだ、ロドスの物資箱がある、番号も、日時も、全て揃っている……
ここだけホコリが積もってないよ、何かボックス状の物が箱の上に置いてあったのかな?
……おそらくはアントのIDカードね、彼女は首に掛けるのが好きじゃなかった。
カシャ、エアーズカーペ、状況が変わったわ。
ア、アタシにだってわかるよ!
グレースロート姉とエアーズがアタシを山から救けてくれた以上、アタシもちゃんと手伝うから!
エアースって呼ぶな……ったく、レオンハルトはあんたと一体何を話したんだ……
天災がもたらす結果はどれもひどいものだ、今のヴォルモンドも例外なく、あそこの天災トランスポーターは何をしてるんだ?
もしレオンハルトもしくはアーススピリットさんがいれば、少なくとも状況はこう最悪にならずに済むはずだ……
もしもの話なんて無意味よ……私たちが今すべきことは最悪のシチュエーションに備えること。
町の外に駐留するけど、二人とも問題はない?
全然ノープロブレム!
……俺は仮にも天災トランスポーター専門の護衛だ、こっちのオペレーターは動画のネタを撮影するために冬霊山脈に入り遭難した「天才児童」だからな。
こんな時でもアタシをイジらないと気が済まないの!?
ただの冗談だ、でないと……グレースロートは俺たちに今すぐ町に乗り込んで議事庁の門をこじ開けさせたくないんだろ、違うか?
……ごめん、もう少し我慢してて、私はアントの状況を確認しに行く。
すぐ戻るから。
……飢饉?
そう飢饉だ。飢饉は全員を襲った。
君の聞きたいことはわかる、ヴォルモンドのような規模の町なら、自足自給の能力は当然備わっている――
だがそれも大峡谷が発生したあの日、オリジニウムが地下から構造区域を貫き、土地を切り離し、畑と供給施設が爆破されずに済めばのことだが。
商業区域と町の中心で爆発が起こらなかったことは、不幸中の幸いだった。だがだとしても私たちの損失は依然と大きい。
季節もまずい、もうすでに秋に入った、私たちの今の航路は冬霊山脈に向かっているため、今年の冬は例年より早く到来する。
この事実を町民たちに教えてこなかったのは、不必要なパニックを起こしてほしくなかったからだ。
そして、私たちは事情を知らない身内にナイフで刺されたってわけだ。
あの裏切者は……どうするんだ?
タジャーナが若い連中を連れてしらみつぶしに捜査しに行ってる、案内がなければ、動力ボイラー室に辿り着けない。
各街道には各々の予備設備があるはずだ、状況はどうなっている?
……それだと進行速度が遅すぎる、せいぜいほかの都市の八分の一の速度しか出ない、冬が来る前に山脈から離脱できないぞ。
穀倉は絶対に問題を出してはいけない、人手を増やせ。
人手なんて……老人だろうと子供だろうと、武器を持ってくれる人なんて、もう……
穀倉に手を出すことは、ヴォルモンドの全ての人を殺すと同然だ!あいつらは、あいつらはそこまでしなくても……
あいつらをあまり良く思うな。
あの……
――どうぞ。
ドデカフォニー通り、つまり隔離区、あんなに寂れてしまったのって、もしかして……?
もし、ただ単純に感染者の人口問題で供給が細くなったと言えば、君たちは信じるのか?
いや、君たちが信じるかどうかは重要ではない、彼らは信じるのか?
彼らは穀倉の門を無理やりこじ開け、穀物を一粒一粒じっくり調べない、私たちの言うことを信じてくれないんだ。
では、私たちは彼らのしていることを何もせずにじっと見ていればいいのか?
……
もし本当にただ調べるのだったら、私も喜んで公開しよう、だが全員見れば満足というわけではない。
たとえ政府が告知しなかったとしても、頭の冴えた人なら航路と季節からヴォルモンドが冬に大飢饉を起こすことは推算できる。
あいつらが煽動し、略奪している、今あるその行いは、ただ一部の自分たちだけ生き残って、もう一部の人たちを餓死させようとしてるんだ、言ってしまえば、言い訳を作って強盗を働いてるようなものだ。
ロドスが感染者問題の専門家なのは、当然信じている、アント先生がしてきたことと君たちの戦いぶりがそれを説明してくれてる。
だがな――
――この大地の難題は、鉱石病だけだと思うか?
……
……こういう場面だったとしても、私はアントに代わって言いたいことがあります。
あなたたちがしていることは人殺しです。
――無関係者は出ていくんだ!長官とロドスのお二方が重要な話をする!
チェフェリン。
……わかってる。
では、任せたぞ。
……どうやら、テーブルの上でじっくり話せるような話題ではなさそうですね。
人殺しの話題が机上に置けるとでも?
あなたたちの隠蔽はそれ相応の最悪の結末を迎えます――場面にそぐわない言い方だけど、あなたたちを見てると虫唾が走る。
ロドスのオペレーターであるアントはヴォルモンドで起こった謀殺事件で殉職した、その正式な回答を要求します。
……それと、目を覚ましたあの感染者の証言によると、彼らも「犯人」を捜しています。
犯人なら彼らの中に潜んでいるかもしれん、常套手段だ、盗人が他人を盗人と呼んでいるのかもしれんぞ。
……それも可能性はあります。
でも先に犯人を探る前、私に――
――おっと、口に出さなくてもいい。
私にも良心が響く時があるんだ、君が口にしてしまえば、私の心も痛んでしまう。
ヴォルモンドはまだロドスの助け船が必要だ、ここまで来てしまえば、君たちを無下にすることはできないな。
……ついてきてくれ。
これは……
……
こんなおろそかな処理で本当に申し訳ない、だが彼らのほとんどは感染者なんだ、こんな地下に置いておかないとほかの人が安心してくれないんだ。
……寒い。
いついかなる時でも、冷却装置の作動は確保しているんだ。
精巧なアーツですね、さすがはリターニアの士官長。
……被害者は、計八名だ。
ヴォルモンドの住民が四人、アント先生、それと外から来た感染者が三名。
……チェフェリン長官の息子さん……トールヴァルトさんもこの中にいるんですね。
……タジャーナが君たちに教えてくれたのか。
そうだ。
私の失職のせいで彼は……
アント……ここにいたのね。
本当に……探したんだから……バカ猫。
どうしてだ……彼女はなんで判別できるんだ……
(チェフェリン長官……その、二人だけにさせてあげましょう。)
……そうだな。
……彼女の威勢でよく忘れてしまうが、彼女も努力して前に進んでいる女の子なんだな、歳もタジャーナと近い。
タジャーナお姉さん……すごく我慢しています。
わかっているさ。
あ――!タバコはダメですって!私言いましたよね!
……たぶんな。
タバコはあなたの気管支疾病をさらに――
――
ま、まさか――?
……気が付いたか。キツネちゃん、君は想像よりも察しがいいようだ。
だが今は、まだ秘密にしておいてくれ。
……
フォリニックお姉さん……大丈夫ですか?
……うん。
君はその歳からすれば、すごく大したもんだ。
目が腫れてるのは自分でもわかります、皮肉ですか?
親友を失ってもこれほどの冷静さを保っている、君を嘲笑う道理などない。
……
……まだ事件は終わっていません。
そうだ、事件はまだ終わっていない。君たちと私が、お互い同じ前線に立っていることを願うよ。
これは?
都市用防御アーツ発生装置L-44「蓄音機」の自律アーツ発動ユニット、つまり言うと、これが今回の事件の凶器だ。
この破壊力は民間では当然違法だ、だが逆に言えば、高等な教育を受けたリターニア人なら、このコアを動かすことができる。
オーバーロード、温度上昇に、爆炎、仮にも都市防御設備の一部だ、アーツの過程は複雑で、誰でも使える品物ではない。
……これが、こんなものが、アントを……
……
……犯人を見つけ出します。
その後はどうする?
その後は、犯人に代償を払ってもらいます。
……意外だな、不安と悲しみが過ぎたあとの君は、復讐を選ぶのか。
フォリニックお姉さん……それはダメです……
わかってる。
わかってるよ、ロドスのオペレーターとして、ケルシー先生の教え子として、誰よりもわかっている。
でもその人だけは――その人だけは裁きを受けなければならない!
アントが何をしたって言うの?彼女はただ感染者たちを、彼らを助けていたのよ!どうしてアントがこんな目に遭わなくちゃいけないのよ!?
せめて――
せめて……私はせめて犯人に……どうしてこんなことを……何を以てこんなことをしたのか聞きたい。
……わかった。
チェフェリン長官、スズランさん、フォリニックさ――
あ……フォリニックさんはもう……
再会できたんだ……慌ててるな、また何か揉め事でも起こったのか?
はい。捜索の過程で、感染者がまた一般人との間に衝突が起きました……
またか。
でも今回ばかりは……代表たちが顔を出してもみなさんを落ち着かせられません、あの武装感染者たちと戦うとみなさんわめいています……
町の移動手段のほとんどがコントロールされてる、これが何を意味するのかみんなわかってるはずだ……どうやらもう我慢の限界のようだ。
で、でも新しい発見もあります……感染者の住民たちと結託している大多数の人は感染者ではありませんでした、彼らは……
……もうわかっている。
え?
冬霊人だ、クソあの部族め、またヴォルモンドにつき纏ってきやがった。