……
オレたちはむざむざとあいつらに利用されたってわけか?
……
……あいつらが本当に「レユニオン」の名を借りていたら、どうなるんだ?
……彼らはきっとそう名乗るさ。
俺たちもきっと捕まえられてしまう。
ただこの規模の町なら、俺たちをどうこうすることはできないさ、だが……だがもし移動都市丸ごとなら?
リターニアの聳え立つ塔から、大地を睨み下ろしてる大銀行家や大音楽家、大貴族たちが、適当に都市に指さしただけでオレたちは終わりだ。
傲慢は彼らの身を滅ぼす。
傲慢だからこそ、リターニアの汚らしい侵略の野望が押さえつけられている。
オレたちももうヴォルモンドでたむろってる場合じゃない、こんな状況が続ければ、もう後が無くなっちまう。
――俺たちは戦場で相まみえるべきじゃなかった。ここは……ここは戦場なんかじゃない、戦場であってはならないんだ。
お前たちももう時間はないぞ。
――?誰と話してるんだ?
なんでもない。
ただ……ちょっと感極まってしまった。
もうすぐ、冬が来る、俺たちにもう選択肢はない。
うわー……なんだかヤバそうな予感……
――では、ほかに質問は?
念のために、チェフェリン長官にお伺いしたい、あの八体の遺体の身元は……どうやって確認できたの?
体型、性別、おおよその年齢、及び町内での失踪リストから。
……だが今はあの火災について討論してる場合じゃない、目下の緊急事態に目を向けてくれ。
確かにそうね、けど……
…
…何か発見があったのですか?
私たちが接触したレユニオンの供述によれば、火災で亡くなった感染者の人数は「四名」とのこと。
……敵の戯言を気にする必要があるのか?
はっきり言うけど、必要は大いにある、「気になる」と「信じる」ことは別、双方誤解してる可能性は極めて高いと思われる。
私に言わせておけば未だにそんなので問題が解決できるとは考えられない、それに加えて……火災の真相が公になったとしても、事件をこれ以上悪化させないよう抑止できるとは思わないがね。
私たちにとっては、意味はあります。
……ではこちらもはっきりと申し上げよう、ミス・フォリニック、途中からのあなたの行動は、いささかご自身の主観に偏りすぎている。
だとしても――
私はヴォルモンドのために戦っているのだ、それが私の職責だからね、諸君の正義心には……興味はないのだよ。
私はロドスに真相を提供するための責任はある、だが君の復讐に責任を背負ってるわけではないのだ。
なんですって――
――いえ、あなたの言う通りです。
ちょっと頭を冷やしてきます……リサが負傷者の手当をしてる、私……手伝ってきます。
(フォリニックが立ち去る足音)
結論は出たな、兎にも角にも、ドデカフォニー通りの奪還を最優先事項とする。
全面紛争は逃れない、ロドスの諸君には自立アーツユニットの奪還、それと、サルカズが混ざり込んでる武装集団の監視をお願いしたい。
……正面から暴徒を押さえつける任務は私が受け持つ、一番危険な任務を、すまないが君たちに任せる。
……
ん、うむ……さっきは言い過ぎたか?
……いいえ、チェフェリン長官。あなたは街道の叛乱者から、門外の憤ってる町民から、彼らの目から何を見たの?
私たちですら我を見失っていたら、このヴォルモンドはとっくに滅んでいた。
……それにたとえ真相がどうであれ、「レユニオンが再び現れてリターニアの一都市を壊滅させた」なんてことは……
こんなたくさんの犠牲と別れの後に、私はもう二度と見たくない。
……エアースカーペ、カシャに連絡、合流時間よ。
私は感染者捕虜の様子を見てくる。
(グレースロートが立ち去る足音)
長官?フォリニックさんを会議室から出たのを見かけましたが、会議はもう終わったのですか?
ああ、ご苦労。
……それにしてもうるさいな、外の連中は。
家を壊されて我慢できる人がいるか!
あいつらは私の店を壊して、私の子供も傷つけられたのよ!
あのクソッたれの叛乱者どもめ!恩知らずが!恩を仇で返しやがって!
やつらと戦うんだ!
戦え!戦え!戦え!
戦え!戦え!戦え!
叛乱者どもを許すな!許すな!許すな!
……ふぅ、窓の外を見て見ろよ、みんな正義になったつもりでいる。
伯父さん、だからタバコはお辞めになったほうが……
……いいんだ。
はい、これでよしっと!
とは言ったものの……あなたの感染状況はまだ軽いんですから、これからアーツを乱用してはいけませんよ!
ふざけんじゃねぇ――俺はリターニア人だぞ、高等教育を受けたリターニア人が、アーツを使うななんて――
戦いもダメです!
違う……戦うかの問題じゃない、アーツを使えないんじゃ、家の冷蔵庫が使い物にならねぇじゃねぇか!?
でしたらこれからは装置を通して使用してください、体内の源石を刺激しないように、そうしたら感染の悪化も防げますから!
……あの時安さに目がくらんで買った、術師の操作が必要の中古品だっていうのに……
ダメです!
くっ……お、お前みたいなよそ者に何がわかるんだ?そんなんで普通の生活に戻れるかってんだ!?俺たちが抗うべきなのは――
はいはい、悪化を防ぐためにちゃんと安静にしててくださいね、まだまだ健康なんですから、あ、でもアーツを乱用するのは絶対にダメですからね!
俺たちが……抗うべきなのは……はぁ、もういいや、ガキと何ムキになってるんだ……
では次の方――
あ……お爺さん?かなりお年を召してますね……
……フフ、九尾のヴァルポとは、珍しいのう。
うむ……であれば、最近冬霊人のことについて聞きまわっている他所から来た人とは、君のことじゃな?
あ、はいそうです……お爺さんはどこかケガをされたのですか?
ん?いやいや、怪我はないさ、わしはただ己の首を献上しに来ただけじゃ……もう目もまともに見えんからな、今も少しウトウトしてるんじゃよ……
く、首?怖い話は勘弁してくださいね……
お嬢ちゃん、わしが君たちが探し回っていた冬霊一族の者じゃよ、最後のな。
――
ホホ、お嬢ちゃんの、驚いてる顔もなんて可愛らしいんじゃ、純粋で敵意が……まるでない。
最後の……?でも皆さん、冬霊人が率先して叛乱した感染者たちに味方したって……
はぁ、憎しみに火が付いた時に限って、彼らは自分たちの血統を思い出すんじゃ、血統はただの言い訳にしかならん……彼らが憎んでおるのは別のものだというのに。
少しこの老いぼれの話を聞いてくれんかのう?所詮、わしはもうすでに君たちの捕虜じゃ、やましいことするつもりはない……何より、わしはもう歳じゃからな。
あ、うん……でもかなりお年を召してますので、先にせめて外傷だけでも診させていただけますと……
ハハ、おいぼれだが身体はまだまだ丈夫じゃよ……いや、やはり年を食った……
一族の者たちのほとんどは……ほかの地区に移った、あるいは、ヴォルモンドの人たちと通婚した。
最後に残った純血の冬霊人は、あと何人残っておる?もうわしらみたいな老いぼれしか残っておらんわい……
お爺さん……あなたは何をしたのですか?
わしは……人を殺した。たくさんの人を殺した。
ヴォルモンドに商いをしにきたキャラバン隊、傲慢にも荒野に足を踏みいれた貴族……たくさん殺してきた。
最初のころは、これは正当な復讐だ、殺されて当たり前だと、わしらは思っていた……
じゃから今の老いぼれたちは復讐に精を出していたが、若者たちのほとんどは傍らで見ているだけじゃった、もう自分らとの生活とはなんら関係が無くなったんじゃからな……
しかし、復讐しても、復讐しても。わしらは裏切者、腐敗しきった貴族を殺しきることはできなかった、そしていつの間にか、わしらは憎悪を多くの無辜な人たちの身で晴らしていた――
わしらはリターニアに、彼らの法に、彼らの移動都市のエンジンの轟きには敵わなかった――
そしてわしらは諦めた。諦めがついた後、わしはヴォルモンドに逃げ込んだ、ほかの老いぼれたちは皆チェフェリンによって処分されてしまった、血も涙もない男じゃ、手加減することは決してなかった。
じゃが本当かどうかは知らんが……やつは死にゆく敵に寄り添って、一緒に煙草を吸うと耳にしたことがある、現代の煙草じゃ、量産煙草、大して美味いものではないがのう。
で、わしじゃが、わしは拾い集めたベニヤ板で巣みたいな家を作った……ヴォルモンドの地下にある、チェフェリンはわしを追い詰めることはしなかった。
死ぬのは怖いかって?怖くはないさ、わしを信じてくれ、ヴァルポのお嬢ちゃん、わしは本当に死など恐れてはおらん。
わしの復讐に身を焦がした生涯は虚しくも終わった、今のわしはただ町を動かす動力炉に静かに耳を傾けたいだけじゃ。
いつか、ヴォルモンドは移動都市まで発展するやもしれん、あるいはいつか、このまま滅び亡くなってしまうやもしれん……
じゃがな……はぁ……冬霊人なるわしが、初めてあの町を動かしておる熱く滾る動力炉を見た時、わしは怒りに沸いたのか?それとも何もかも空虚になったのか?わしは未だに憶えておる、わしは泣いたのじゃ。
それはなんと力強く澎湃し、熱く滾り、妨げられぬモノなのじゃろうか……手に握る弓と短剣で、どうやってこれを撃ち滅ぼせというのじゃろうか?わしはあれを愛してしまった……あの凶器を愛してしまったのじゃ……
……じゃがヴィットマンはやり遂げた、まったく姑息な青二才じゃ……一人の天災トランスポーターが、一人のよそ者が、わしが金輪際成し遂げれなかったことを成し遂げたんじゃ……
――ちょ、ちょっと待ってください、お爺さん!あの、さっきヴィットマンって――?
確かリターニアの天災トランスポーターの名前のはずですよね、でも彼は火災で亡くなったはずでは――
ん?それについてはわしはあまり知らんなぁ……じゃが堰を切ったのは確かに彼じゃったぞ。
まさか……
お嬢ちゃんは無力感というものを知っておるか?
え?
ヴィットマンが……感染者たちを率いて、アーツを放ち、破壊し、動力炉が破壊尽くされたのを見て、わしはとてつもない無力感に苛まれたのじゃよ……
過去にわしらを征服していたあれが、ただの鉄のガラクタじゃったとは――ウトウトしてきおったわい。
……聞いておるかお嬢ちゃん?
うん、聞いてますよ。
復讐に我を囚われるな、戦いに急ぐな、わしの言うことをよく聞くんじゃ……お嬢ちゃん。
此度の紛争の起因は冬霊人などではない……少なくとも、今のところはじゃが……
ヴォルモンド人の中に一体いくら冬霊人の血が流れてると思っておる……?一番最初にこの町を作り上げたのは、まさしくわしらなのじゃ……
冬霊、冬霊こそがヴォルモンドに輝ける月なのじゃ……彼らは、己を滅ぼそうとしておるのじゃ……
……そういうことだったんですね。
……見てみ、ヴァルポのお嬢ちゃん、目の前の道はどこに通じておると思う?
目の前の……目の前は普通の街道ですよ?議事庁に向かう普通の道……
いいや……
あれは山に向かう道だよ。
旗がなびき……十二の曲がりくねった山道……旅人と吹雪……それと……動力炉も……ぐぅ。
……うん、私の間違えでした
あれは確かに山に入る道ですね、お爺さん。
それではおやすみなさい。
フォリニックお姉さん……全部聞きましたか?
私たちは今まで何を追っかけていたのでしょうか?
死んでいたはずの天災トランスポーターが、暴徒を指揮していた?
ねぇ……ヴィットマン。
ふんふん――♪ふんふんふん――♪
折れに折れる木の枝があった♪
冬霊よ、冬霊よ♪
果てしない生と終わりない死に巻き込まれ♪
それは頑なにそれの歌を歌い続けている♪
夏の間も♪
冬の間も歌い続けていた♪
冬霊よ、冬霊よ♪