(草木をかき分ける音)

ここのジャングルも相変わらずだな。

ガヴィルさんもう随分と来ていませんもんね。

昔からここは好きじゃないんだ、空気は湿ってるし、地面は柔らかいし、強そうな感じが全然ないんだよ。

でも色んな部族がジャングルに引っ越してますよ。

そうなのか?……おっ、ドクター、起きたか、昨日はよく寝れたか?

・ああ。
・……
・目覚めばっちりだ。

なかなかの適応能力じゃねぇか、ドクター、こんな環境で野営なんて耐えられないんじゃないかって思っていたぞ。

ハハッ、お前のその目を見ればわかるさ。

ああ、こめかみをずっと揉んでいなければそうなんだろうな。

最初のころに言っただろ、ドクター、心の準備はしておけって、ジャングルはまだまだ続くぞ。

ほらっ、ここら辺で採った食材で眠気覚ましのスープを作った、飲みな。

ふっ、そういえば、昔は知らなかったけど、さっきあたりを回ってみたんだが、ここのジャングルは結構薬用植物が生えてるんだな。

……あのガヴィルさんが人の世話をしている。

ガ、ガヴィルさん、私も昨日あんまり寝れなくて……

ハァ?お前それでもアダクリスかよ?

アダクリス……うぅ、やっぱりガヴィルさんは私たちの本来の名前を忘れてしまったんですね……

ん?ああ、すっかり忘れてた。ティアカだったな。

ここを離れてから、ティアカなんて言葉はすっかり言わなくなったからな、ドクター、お前も知っておいてくれ、ここで暮らしてるアタシらは、種族で自分たちを区別しないんだ。

種族で区別するんだったら、そうだなぁ、アタシはアダクリスだろ、ズーママはフェルディアだろ、それとリーベリ……うん、だいたいはこの三種だな。

だがここでは、アタシらはみんな自分のことをティアカって呼んでるんだ、アタシらの言葉で「好戦的で勇敢な人」って意味なんだ。

それと、お前は別に使わなくてもいいが、アタシらはこの土地のことを「アカフラ」って呼んでるんだ、「森が生え茂る地」という意味だ。

ったく、いつまで泣きじゃくってんだ、お前の子分たちも起こせ、そろそろ出発するぞ。

ううう……

ロドス、ドクター。

ああ、そうだった、会社っていうのはな……

あ、知ってます、ガヴィルさんが出ていったあと、外の情報はちゃんと集めてましたから!

お?言われてみれば、その恰好も確かに昔とは違うな。

はい、これは外ですごく流行ってるファッションなんですよ!

ファッションはあんまりわかんねぇな、そうなのか、ドクター?

・雑誌で見たことがある。
・……
・私も知らないな。

ドクターもやっぱり見たことがあるんですね!

ガヴィルさん、お友だちはあんまりファッションに詳しくないようですよ。

はは、ドクターにもわかんない時があるんだな。

そうだ、トミミ、先にドクターにアタシらの土地を紹介してくれないか。アタシも長い間離れてたから、何が変わったのかわからねぇんだ。

わかりました!

うーん、そうですねぇ、外の人に紹介するんでしたら……そうだ、部族から話しましょうか。

この地図を見てください、ここがガヴィルさんが向かってる場所で、ここが私たちが通った道です。

ここの大きく森に覆われた区域がアカフラです。

アカフラで生活してる大小さまざまなすべての部族は、伝統に則り、ある時期ごとに、祭典を通じて大首長を一人選ぶんです。

あ、祭典の形式は格闘です、すべての挑戦者に打ち勝ってほかの人の承認を得られれば現任の大首長に挑戦できる権利が得られるんです。

現任の大首長に勝てば、新しい大首長になれるというわけです。

大首長の権力ですか、うーん、すべての部族がその人の言うことを聞く、です!

ほとんど変わってねぇじゃん。

変わってるとこもありますよ。

前任のフーアン大首長はお酒があまりに好きすぎて奥さんに崖まで追い詰められて崖を飛び降りてから二度と戻ってきていません、本来なら前回の祭典で後任の大首長を選ぶはずでしたが。

でも、ガヴィルさんによって、前回は大首長が選出されませんでした、そしてガヴィルさんが出て行ったあと、各部族お互い不服に思っているんですよ。

なので今各部族の間で乱戦状態に陥ってるんです。

前任の大首長が……?

ん?ここではよくあることですよ。

私のお父さんによると、フーアン大首長はかなり長い間大首長を務めていたのですが、一般的に大首長は二三年したら交代するんだと言っていました。

大首長が居なくなれば、その都度祭典を行って新しい人を選ぶんです。

ガヴィルによって、というのは?

あ?ああ、そうだったな、このことは確かロドスでは話していなかったな。

当時の祭典でアタシが全員タコ殴りにしたあと出て行ったんだよ。

・追い出されたからか?
・全員!?

ああ、あの時アタシすげームカついてたから、全員とりあえず殴っておいたんだ。

まあいいや、この話はまたあとだ、今は強い部族がいるのか?

はい。

比較的強い部族はいくつかあります。

一つ目はズーママをボスに置いてるユーネクテスの部族です。

彼女は部族をジャングルのもう一方の端に設立しました、鉱脈に近い場所です、大部分の金属資源を占有しています。

彼女の部族は以前から変な道具や武器を製造するのが好きなんです、周辺の小さな部族も次々と呑みこんできました。

二つ目はクマールのフリント部族です。

ジャングルで生息しているティアカは私たちみたいに部族を結成して生活することはしません、彼らの生活はもっと分散しているんです、普段私たちと交流することもありません。

でも今は、大首長との約束が失ったため、多くの部族がジャングルに入っていきました、なので今のジャングルには結構な部族がいるんです。

クマールもその中の一つです。

彼らは自分たちの力を信奉していて、やはり自分たちの縄張りを持っています。

三つ目の部族は少し特殊でして、ガヴィルさんも知ってる、イナームの部族です。

彼女の部族は「イナーム商会」って言います、そこの部族の人たちはちょっと変わっていて、ケンカがあまり好きじゃないんです、逆に人と商売するのが好きなんです。

でも彼女らの人数が少ないからといって、甘く見てはいけません。

ズーママの野郎が部族を鉱山に置いたのは想像できる、あいつは昔から、自分でなんか武器を作るのが好きだったからな。

まさか彼女も今では一部族の長とはな、「ユーネクテス」、いい名じゃねぇか!

はい、ズーママことユーネクテスの部族は今一番強力な部族でもあります、みんな彼女が次の大首長になると思ってるぐらいです。

あいつは昔から結構やり手だったからな。

あのぉ、ガヴィルさんはやっぱり大首長にはなりたくないんですか?

ああ、今は外でやらなきゃならないことがあるからな。

そうだろ、ドクター?

・ああ。
・……
・残ってもいいんだぞ。

そうなんですか……

うーん、ガヴィルさんは直球すぎるって言えばいいのでしょうか、それとも残忍って言えばいいのでしょうか……

ふっ、いつかは戻ってくるさ、だが今じゃない。

でもお前手紙で自分も首長選に出るって書いてなかったか、しかも自信満々に?

も、もちろんですよ!

私だって十分な準備をしてきましたから!

じゃあいい戦いっぷりを期待してるぞ!
(殴り合いをしている音)

ん?なんか騒いでる音が聞こえるぞ?

あそこだ、見に行ってみよう。

言え!

ぜってー言わねぇ!

チッ、なかなか肝が据わってるじゃねぇか。

なんだ、ただのケンカか。ドクター、放っておこう、先に進むぞ、よくあることだから気にすんな。

お前はもうおしまいだ、細い尻尾の、今日は何が何でも太い尻尾のほうがいいって認めてさせてやるからな!

寝言は寝て言え!俺は屈しねぇぞ!

ん?

おい、そこのお前、今なんつった!?

なにモンだ、お前も細い尻尾の部族の人か!?

アタシは違う、お前は太い尻尾のほうがいいって思ってるのか?

あ?当たり前だろ!オレのこの尻尾を見ろよ、パワフルで、力強く、骨太じゃあねぇか、こんなひょろひょろな尻尾よりいい尻尾があると思うか!

チッ、聞き捨てならねぇなぁ!

アタシの尻尾を見てみろ、スレンダーで、繊細で、それにクッキリラインだってあるんだ、持ち物だって持てる!これこそが尻尾ってモンだ!

そうだ、細い尻尾こそ至高!ゴホッ、ゴホッ!

ハァ?お前の尻尾なんざ、小さすぎてケツに隠れて全然見えねぇじゃねぇか!

お前の尻尾こそ、太すぎて座ることすらできねぇようだな!

何を言い争ってるんだ?

あー、ガヴィルさんはあの人と尻尾の細さ太さを言い争ってるんですよ。

ここだといつものことです、尻尾はアダクリス人が一番誇りに思う部分なんです、なのでみんないつもよくこうして比べ合ってるんですよ、尻尾の細さと太さで集まる部族だってあるんですよ。

ガヴィルさんと言い争ってるあの人は多分太い尻尾の部族の人でしょう。

※汚い言葉※、お前ら、全員出てこい!

今日は何が何でも太い尻尾のほうがいいと言わせてやる!

あ、人が増えてきました、ドクター、ちょっとガヴィルさんを手伝ってきますね。