
武器の信頼性証明?

それってなに?

僕本人が武器を持参して、工房で検査を受け、工匠のサインをもらう必要がある?

自分専用武器の使用に、そんな工程があるの……チェッ、なんだかめんどくさそうだなぁ。

先生がちょっとぐらい融通利かせて、僕の代わりにサインをもらってきてくれればいいじゃないの。

だめ?ロドスの規則だから?

つまんないなあ。わかった、わかったよ、先生がそう言うんだったら、ちゃんと自分で行くよ。

来て早々、あのケルシー先生に怒られるだけはごめんだからね。

じゃあまたあとでね、せーんせ。
ロドス艦船、第三修理工房、早朝
(ノックする音と扉を開ける音)

誰かいないのー?

こんにちは、工房は今営業をお休みしているんですよ、五名の工匠たちがみんなメンテナンス競技試合に参加しちゃったもので。

メンテナンス競技?なにその変な試合。

先に武器を壊してからどうメンテナンスするのかを競うの?それとも誰が一番刃物をきれいに磨けるかとか?

残念だけど、ただの戦場で半壊した武器のメンテナンスと改良を競う試合ですよ。

もし本当に武器をピカピカに磨いて、それを攻撃手段に変えられるんだったら、優勝できなくもないかもしれませんけどね。

……ん?結構いいアイデアかも。今度試してみようかな。

はは、変な人。お好きにどうぞ。

こんなことのためにまた往復するのはゴメンだからね、工匠がいないけど、ここにはあんたがいるじゃないか。

どうせただの恒例行事の検査なんだし、そんな真面目にならなくてもいいでしょ。どう、そこのアミーコさん、代わりに見てくれないかな、この証明にサインしてくれればいいからさ。
(書類をめくる音)

武器の信頼性証明ですか?

そうだよ。

武器の信頼性証明は二人の工匠が同時に検査したあとに確認済みのサインを入れなきゃならないんですよ。

オレはまだ実習生でアシスタントだから、オレの名前をサインしても役に立たちませんよ、助けになれなくてごめんね。

二人のサインが必要なんだったら、ここにはきみとぼくの二人がいるじゃないか、ちょうどいいじゃん。

自分のアーツロッドのことは、自分が一番よく知っている、何も問題はないよ。何も起こらなければ、誰にも知られない、誰も知らないってことは、つまり何も問題はない、違う?

その考え方は面白いですね。

でもここの人をナメないほうがいいですよ、特に厳しい何人かは。

万が一何かが起ったら、重大な事故になりかねません。オレたちだけじゃなく、その場にいなかった工匠も一緒に処罰されるんですよ。

チェッ、真面目だなー、あーあめんどくさいなー。

でも使えそうではありますね。武器をメンテナンスするって考えを持たない人たちだっていますし。

戦場で使い捨てにしたほうが楽なんでしょうね。

そんなバカがいるの?

まあいいや。そういうことだったら、じゃあ――

きみだけでも武器を検査してよ。

それだったらいいでしょ。完全にただの無駄足にするわけにもいかないし、イライラしちゃうんだよねそういうのって。

あー……まあいっか。じゃあちょっと待っててくださいね。

この最後のボルトを締めたら――よし。

お待たせ。

……ん、あなたの表情を見るに、まだ何か企んでいて、諦めきれていないようですね。

なんのことだか、ぼくにはさっぱりわからないかな。

ほら、渡したからね。ぼくのアーツロッド。

はぁ……まあいいや。

よし、じゃあ検査させてもらいますよ。

(小声)気を付けさえして、事故を起こさなければ、たぶん大丈夫だよね……

じゃあ頼んだからね。

武器の検査には少しだけ時間がいるので、ここで少しだけ待ってもらいます。

見学ならご自由にどうぞ、でも工房の中のものはできればあまり触らないようにしてください、いつも危ないものを作りたがる何人かの工匠の師匠たちがいるので……

あなたもわかりますよね?半分しかできていない未完成品ならもっと危ないんですよ。

それに、ここには源石成分が含まれてる鉱物も少なくありません……たとえあなたが感染者だとしても、気を付けたほうがいいですよ

心配ご無用。ぼくはそんな無鉄砲じゃないよ。

……ちょっと待って。

変だな、ぼくは自分は感染者だなんて言ってなかったはずなんだけど?

言ってませんよ。でも見れば大方予想できます。

言ってみてよ、どうやって見抜いたの?そんなにはっきりしてた?

うーん……説明するにはちょっと難しいんだよね、オレにもよくわからないんです。

やっぱりたくさん観察してきたからかな、みんな表情とか、動きとか、それと行動のルーティーンとかで、色んなものが見えてくるんですよ。

なんだかバカにされてる感じ。

本当なんですって。

この杖の検査だけでいいんですか?ほかにまだあるんでしたら、まとめて見てあげますけど。

その杖だけだよ。

残念だけど、ぼくは検査が必要な守護銃を持っていないんでね。

奇遇ですね、オレも持っていませんよ。

……

きみって本当に変な人だね、ちょっと面白いかも。

うーん……お褒めいただきありがとうございます?

褒めてなんかないよ。

このアーツロッドに使用上の問題はないから、適当に見てもらえばいいよ。

検査するからにはちゃんとやらないと。
(???がアーツロッドを弄る音)

うーん……すごくいい材質ですね。

杖にぶら下がってるこれってアーツソースですか?

そうだよ、でもそれよりかは個人的な趣味かな、それで殴れるし。

それもいいアイデアですね、接近戦でも有利に戦えますもんね。

工匠さん、名前はなんて言うの?

オレはまだ工匠とは呼べませんよ。

行動予備隊A4小隊のメンバー、アドナキエルです、ついでに兼業でここで弟子をやってます。

あなたは?

アレーン。

いい名前ですね。
(アドナキエルがアーツロッドを弄る音)

うーん……メインアーツユニットに損傷は見当たらず、ぶら下げてるアーツソースの表面にも明確な裂傷や破砕の痕跡は見当たらず。

状態は良好なようですね。

ふふん、だから言ったでしょ、問題はないって。

じゃあ次は、杖を使ってご自分のアーツを放ってもらえますか?そうすれば実行プロセスから杖の作動状態が確認できますので。

このままでいいの?ぼくのアーツはそんな優しいもんじゃないよ?

そうなんですか、じゃあ簡単でいいのでアーツのタイプを教えてくれますか?

分解、毒素。

うわ、確かに危なそうですね。

それじゃあ杖を隣の透明ボックスに置いて、手をボックスの横にある穴に入れてもらってから、能力を使ってください。

そうすればどんなに強い発揮性な能力でも、安全です。

便利でしょ?

めんどくさいなー……

これで、よしっと、こんなもんか。
(アレーンがアーツロッドを弄る音)

やっちゃっていい?

いいですよ、オレは機械を操作しますので。

腕部に圧迫を感じるようになっても、気にしないでください、正常な現象ですので。

これでよし!

じゃあアーツを使っても大丈夫ですよ、オレに被害は及びませんので。

誰も心配してないんだけど?

(アーツを放つ)
(アーツを放つ音)

はい、完了です!

残りは全部こっちの作業なんで、杖を預かりますね、隣で休憩してもらってもいいですよ。

うん。
(アレーンが歩く音)

サンクタ人って銃とクロスボウにしか興味がないんだと思ってた、でもきみはアーツロッドにも詳しいんだね、外にいるサンクタってみんなこうなの?

オレを連れてるアイアンハンマー師匠がアーツロッドのメンテナンスと鋳造に長けてるってだけですよ、それに小隊の仲間の武器もメンテナンスが必要ですからね。

アーツロッドに長けてるのに、コードネームはアイアンハンマーなの?

そうなんですよ。

師匠たちってすごく適当に名前を決めちゃうんですよ、オレが初めて実習しにきたときも半日ぐらいポカンとなりましたよ。

ほら、そこに師匠たちの名札がかけてありますよ。

興味があったら見てもいいですよ。

……

じゃあ遠慮なく。

(第三修理工房工匠リスト)

(アイアンハンマー、スズカン、ロック、シールドブレイク、アバンドンナート)

(適当すぎだろ……)

(でも、これはチャンスかも……)

工匠たちってみんな自分のサインを名札に刻むの?

いやいや。

あれは師匠たちがカッとなったときの産物ですよ。

ある日師匠たちが工芸で論争になって、そしたら全員自分たちの知り尽くした工芸に名札を彫ってほかの人と比べ始めたんですよ。

気が収まったあと、みんな面白いと思って、工房では自分たちが作った名札を、外出時は会社が配布した統一の名札を使うって約束し合ったんです。

面白いでしょ。

おも……しろいかな。

(全員のサインがかけてある。)

(全部手書きだ。)

(いいね。時間が省けそうだ、適当に二つ選べばいっか……)

(チラッ)

(よし、チャンス。)

(捺印をしてっと……)

(できた。アーツも結構便利じゃん。)

(ん?このサイン、ラテラーノ語だ。)

アドナキエル、この工匠は?

ん?

ああ、それはアバンドンナート師匠ですね。

ラテラーノから来たんですよ、オレと一緒です。

でも師匠は銃関連のものを作らないんです、剣のほうが好きなんですよ。

どうして?彼も守護銃を持ってないの?

守護銃はさすがに持ってますよ、ただ師匠は銃が好きじゃないんです。

聞いた話によると銃をラテラーノの実家に置いていって、それっきり戻ってないみたいなんですよ。

「あんなそこら中薬莢だらけの場所なんざ、見るだけで頭が痛くなる」って。

師匠はそう言ってました。

いいねぇ。

その人とは気が合いそう、そんな予感がするよ。

はぁ、師匠はそれで家族と険悪になってしまい、ラテラーノに帰れそうにないのが残念です。

もしそのお師匠さんがきみの言った通り本当に銃が嫌いなんだったら、ラテラーノでの生活に、あまりいい思い出はなさそうに思うけど。

それでも、帰りたいと思うの?

ラテラーノにそんな懐かしむ価値があるの?

言われてみれば、確かに考えてもみませんでした。

じゃあさ。

きみはどうなの、きみはラテラーノに帰りたい?

うーん……どうでしょうね。

オレはとっくの昔からラテラーノで生活していませんので。

この天使の輪が原因でね。

それにそのあと鉱石病にも罹っちゃったから、なおさら帰れませんよ。

だから、きみの天使の輪の位置が……鉱石病のせいじゃないよね?

そうですね、オレは生まれつきほかの人とは違うみたいなんです。

それは……可哀そうだね。

小さい頃父さんと母さんがいつも笑顔で言ってくれて、いつも褒めてくれてたから、オレは今でもこれって実は幸運なことなんだって思ってますよ。

生まれつきほかとは違うって、なんだかカッコよくないですか?

まあ当然、笑い話なんですけどね。

謙遜しなくていいよ。確かにきみはほかとは違う変な人だから。

そうですか?自分はまだ普通だとは思ってたけど……

ほかのサンクタ人と共通点も多いし、あまり変わったところはないと思うけどなぁ。

例えば?どんな共通点があるの?

例えば……うーん、オレも帽子が被れないとか。

……

あははははははは!

ゲホッゲホッ、うん、そうだね、確かにそうだ。

あんなものを被るなんて人を全く隙間のない卵の殻に閉じ込めるようなもんだよ、気持ち悪いったらありゃしない。

専門的な訓練を受けたヤツとか、例えば公証人役場や教皇騎士の人たち、それか戦闘狂以外じゃないと、あれに耐えられるサンクタ人はいないだろうね。

そうですよね。

とにかく、たぶんこの輪っかが原因で、オレは銃の所持資格審査に通過できなかったんだと思う、それから暫くしない内に家族揃ってラテラーノを出ました。

鉱石病もそのあと罹ったんです。

ラテラーノは感染者を迎え入れてくれませんからね、あなたも感染してから、戻っていませんよね?

……うん。

だから、ラテラーノには……あまり思い出はありません。

小さい頃に起こった出来事もほとんど憶えていませんし。

あっ、でも街角にいたヨハネ師匠のことは憶えていますよ!

彼はオレにデザートの作り方を教えてくれたんです、オレが出て行くときもわざわざ店にある全デザートのレシピを本にしてオレに送ってくれたんですよ!

(チッ……出たよ、サンクタたちになくてはならないデザート。)

引っ越しのときにあの本を無くさなければなぁ、はぁ。

(毎年両親がぼくのためにでかいケーキを用意してくれた、ぼくが食いきれないと知りながら、家で一人にさせて、あれを、吐きそうになるぐらい甘さの塊を片付けなきゃいけなかった。)

でも今は、自分でもヨハネ師匠と寸分違わないマフィンが作れるようになりました。

今でもあの時のデザート店内のマフィンの匂いを憶えてるんですよ。

(ぼくもよく憶えてるよ、あの匂い、嗅ぐたびにのどがオエッてなるようなあの匂い。)

……

おや、デザートは嫌いでしたか。

珍しいですね、デザートが嫌いなサンクタ人は初めて見ました。

……また見抜いたの?

はい。

いつもは言わないようにしてるんです、不愉快になる人も大勢いますから、だからいつも黙っているんです。

でも、あなたはあんまり気にしないと思ったので。

そっか、確かにね。

気にしてないさ。変人はどうであれ普通の人よりは面白いからね。

デザートが好きじゃないというんだったら、あなたはオレ以上に変人ですよ。

今度あんまり甘くないデザートを作ってみますから、そのときは試食させてあげますね。

ヨハネ師匠元気にしてるかな……

あとでトランスポーターたちにお願いしよっかな。

……

一つだけよくわかったよ。

なんです?

きみは正真正銘ラテラーノのサンクタだ。

銃を持っていなくても、天使の輪がズレていても。

うーん……

そうかもですね。

オレにはあそこの思い出があるし、帰れないのは都市だけであって、家ではない。故郷というのはいつでもどこでも手に触れられるものですからね。

都市への往来がなくても、行き交う信書、言伝、写真があれば。

本当に懐かしく思うのであれば、便利じゃないですか?

確かに言われてみれば納得しちゃうかもねー。

でもそこの匂いを嗅いだり、そこの壁を触れたり、実際に故郷に戻らないと、ホームシックになっちゃう人もいるからねー。

まああたしはどうでもいいんだけど。

二人がデザートを楽しむときにあたしも入れてちょうだいよ、あんまり甘くないのもいける口だからさ。
(アンブリエルが歩いてくる足音)

こんにちは、アンブリエル。

こんちはー。

おっ、ちはーっす。新入りさん。

どう呼べばいいかな、お兄さん?

アレーンだ。

こんちはーっすアレーン。

アドナキエル、相変わらずだね、んじゃ銃を頼んだよー。

そこに置いてもらえばいいよ、まだアレーンの武器をやっていますから。

はいよ――

うっ、何この、甘い匂い、町の店で売ってるようなものじゃなさそう……

お好みだったら、ぼくのところに来ていっぱい吸ってもいいよ。

うーん……やめとく。

いいことなさそうだし。

でもー、もしあんたの香りがあたしを一日中昏睡させることができるんだったら、ちょっとは考えてみよっかなー。

あのいっつもしかめっ面してるヤツがあたしんとこに来て、「義務を履行してください」って言ってくるからねー。

あれから逃げ出す方法を考えたら、昏睡する方法が一番現実的かな。

でもあいつらの頑固な石頭程度じゃ、一日昏睡しただけじゃ足りなさそう。

めんどいねー。

しかめっ面してるやつって、公証人役場の人のこと?

それ以外に誰がいるのさ。

あいつらに目ぇ付けられてないの?公民の責任と義務の履行を監督するとかなんとかって。

ぼくも言われるよ。

でもこの前ぼくが昼寝してるときに部屋のドアを破って入ってきたやつが、今はぼくの代わりに用事を済ませるためにあっとこっち行ったり来たりしてくれてるんだよ。

あいつらは確かに面倒くさいけど、面倒くさい用事の処理は得意だからさ。

ちゃんと扱えば、あんな面倒くさいこともなんともないよ。

わお、なんか悪モノみたいじゃん、さっすがー。

ぼくは褒めてくれてありがとうって言うべき?

いやいいよ。

アレーン、アーツロッドの検査が終了しましたよ。

アーツ回路に少しだけ腐食が見えるだけで、大きな問題はありませんでした。

軽微な腐食程度ならアーツに影響はありません、もしメンテナンスをするんでしたら、今ここで処置してあげますよ。

午後に工匠たちが戻ってくるんで、そのときに信頼性証明書にサインしてもらってください。

(小声)もう必要ないかもしれないけど。

はい、お返します。

ありがと。

次はアンブリエルのライフルですね――よっと。

お願いねー。

きみは……自分で銃を調整したりしないの?

するよー。

でもめんどくさくなる時もあるじゃん、そのときはどうするの。

壊れるまで使えばいい。

それは……なし。

銃がないと給料が貰えなくなる。

給料が貰えなくなるとサボる機会もなくなる。

あたしはそんなアホなことはしないよ。

ふーん……意外とまともなんだね。

もし銃が必要なくなった生活になって、銃を隅っこに置いて埃を被せることになったとしても受け入れなれないかなー。

あっ、ラテラーノにいればそういうこともあるかな、でもホントに埃を被せたら、二日目にはどっからか湧いてきた親戚とか友だちに怒られたり睨まれたりするから、うざいんだよねー。

だから、あたしはもう諦めた。

アンブリエル、ライフルに問題はないですよ。

問題なんてあるわけないっしょー、先週チェックしたばっかじゃん。

あとはオイルを入れてくれればいいよ。

わかりました……

こういうときは銃を持ってて疲れるとは思わないの?

まだマシだよ。

なんだかんだ言って方法はあるからねー。

きみがラテラーノを離れて、ここにやってきたように?

ん?

あんたってホント遠慮ないよねー、会ったばっかりの女の子にそんなドストレートなこと言っちゃったらさ、モテなくなっちゃうよー?

それはごめんなさい、怒らせたかな?

まだ平気。

でもまあ、そうかもしれないね、確かにあそこは好きじゃないなー。

都市を守る仕事で、毎日栄誉のために栄誉のためにってうるさく言われるより、自分の財布を膨らませたほうがマシ。

悠々自適に、気楽に過ごす。

そっちのほうがよっぽどいいよ。

銃の検査終わりましたよアンブリエル!

あざーっす。

すご、あたしよりピカピカに磨かれてるじゃん。

じゃあお二人ともごゆっくりー、あたしは先に戻って休むから、じゃあねー。

じゃあね!

……

もうすぐ飯時だ、アレーン、まだほかに何か手伝うことはありますか?

なければ工房を閉めてご飯に行きたいんですけど。

?

ああもうないよ。

ご一緒にどうですか?

遠慮しておくよ、あのエグゼキューターっていう公証人役場のオペレーターと先約があるんっでね、ぼくに通達があるっぽい。

ついでにアンブリエルが出没した情報をあいつに言ったら、恩を買ってくれるかな?

えっと?それって冗談?

そうだよ。

あなたってホント冗談好きですよね……

オレにはわかりますけど、ほかの人からすれば誤解が生まれるかもしれませんので、ほどほどにしてくださいね。

心配しなくても大丈夫だよ。

そうだ、午後もここにいる?

ん?いますよ。昼食を取ったら戻ります。

わかった。

ねぇ知ってるかな、きみの観察眼は確かに普通じゃないけど、一つ大きなミスを見過ごしたよ。

午後にまた来るね。

あのアバンドンナート師匠の話は面白そうだったから、彼に会うために、もう一往復するのも悪くはないかな。

それじゃあまた午後に。

ただいま、先生。

もちろん、工房にはちゃんと行ったよ。

あっ……でもこれは先生には渡せないかな。

見抜いてたの?あいにく工房に人がいなくてね、このサインは捺印したやつなんだ、工匠本人のサインじゃないよ。

はぁ、どうやらこの証明書を持っていっても、どのみち見破られちゃうんだね。ロドスのドクターはやっぱり鋭いね、アンブリエルの言ってた通りだ。

安心して、午後にまたもう一回行くから。もう一枚証明書をちょうだい、工匠たちが試合を終えたら、本物のサインをもらいに行くから。

ん?急に素直になったって?

はは、ヤだなー、ぼくはいつだって先生の言うことはちゃんと聞いてるよ、違う?

ねぇ、先生、なにその表情。

心を変えた理由?

うーんそうだなぁ……

面白い人たちを見つけたんだ、彼らのために時間を費やしても悪くないかなって。

どうかな?

ちゃんとした理由に聞こえるかな?