【明日方舟】ヴィジル(伺夜 Vigil)の詳細(性能やスキル、資料)

造影検査の結果、臓器の輪郭は明瞭で異常陰影も認められない。循環器系源石顆粒検査においても、同じく鉱石病の兆候は認められない。以上の結果から、現時点では鉱石病未感染と判定。

【源石融合率】0%
鉱石病の症状は見られない。

【血液中源石密度】0.13u/L
源石との接触は極めて少ない。

寡黙なループスの青年。

身分は公開されていないが、シラクーザ出身である事、そしてその隠されていない服装などから、ほとんどの人はヴィジルが持つ背景を微かながらも推測することが出来たため、彼が初めてロドスを訪れた時は行く先々では突然として沈黙に包まれていた。

しかし、この状況は問題を引き起こす前にすぐに改善される事となった――

昼食の時、同じくシラクーザ出身のキアーべがいつものように陽気な態度で声を掛けたのだ。キアーべと側にいたアオスタとブローカは明らかに戸惑っていた。しかし、周囲が予想していた一触即発の事態は現れず、ヴィジルは穏やかな態度でキアーべ一味と交流を繰り広げた。

そしてこの交流の結果、なんとキアーべはヴィジルの肩を持ち、周りのオペレーターにキアーべ一味がヴィジルを迎え入れる事を周囲に伝えたのだ。

その場にいたとあるオペレーターはこう振り返る。

「キアーべの性格を知らなければ、当時はキアーべのほうが地位が高いとまで信じそうになったよ」

新ウォルシーニとの連携を築くことはロドスにとっては予想外の事であり、かなりリスクが高い事でもあった。

その理由はこの街があまりにも特殊であるという事に他ならない。

シチリア夫人に認められた特別行政都市、ファミリーの立ち入りや介入を許さない都市。シラクーザのような国家が既成勢力から独立し、パニックが反発を招く事なく、何処からともなく新たな都市を作り出したというのは、恐らくこの大地でもこの国だけだろう。

この都市はシチリア夫人が認めた未来、シラクーザで起こりうる権威への挑戦を象徴付けたものなのだろうが、同時に他のファミリーからすれば貪欲の対象となる運命にある。

ヴィジルがロドスに近づいてきたのは医学面での協力を求めての事だった。

原則としてロドスはどのような微妙な政治的存在だったとしても関わりを避けたいと考えている。しかし、オペレーターのテキサスがケルシー医師の執務室にヴィジルを連れて姿を現した後は事態は一筋縄ではいかなくなった。

ヴィジルは旧ウォルシーニで起きた物語を隠すことなく、彼の未来へのビジョンも最終的にロドスを動かす事になり、提携に一役買っている。

彼がオペレーターになることを選んだのも起こるべくして起きた事故なのかもしれない。彼の理由はロドスには様々な国から様々な階層の人が集まっていることに気づき、ロドスの人ともっと多くの時間をかけて交流し、学びたいという考えた身体。

シラクーザの外での物事に対する知識欲を隠すことなく、謙虚な姿勢も多くのオペレーターに認められている。

それにより、彼は多くのオペレーターと親しくなり、オペレーター達の間でも高い評価を受けるようになった。かつてキアーべが多くのオペレーター達に与えていたシラクーザ人への印象はヴィジルによって一変したと言えるだろう。

ただ、彼は時間の許す限りロドスに長く滞在しているのだが、彼の身分から考えればそれはしばしばペナンスからは批判されてしまっている。

ヴィジルとペナンスが艦内にいる時、食事を共にする姿が見られている。

ヴィジルとペナンスがロドスに加入した時、彼女の事を隠すことなく他オペレーターには姉のような存在として紹介していた。ペナンスはこれまで正面からそれを認めたことはないが、否定する事もあまり無い。

ヴィジルにとってペナンスの存在とペナンスが追い求める理想は特別なものであるという事に間違いは無い。

「俺はファミリーの後継者として育てられた。当初はファミリーをより発展させる方法と、自分がやるべき事を効率的にやり遂げる方法を追求していただけで、それほど高尚なものでも無かった」とドクターとの雑談の中で自分の起点について笑いながら言及していた。

「今思えば、その時はまだテキサスファミリーの清算は始まっていなかったが、クルビアファミリーの勢力はますます拡大していたから、彼らの考え方とやり方は多かれ少なかれシラクーザのファミリーの文化にも影響を与え始め、俺も影響を受けていた」

「本来であれば俺はファミリーのためなら何でもする人間になるはずだったんだ。ラヴィニア……いや、ここではペナンスというコードネームになるんだったな。彼女もそれに納得している。とにかく、ペナンスが父にファミリーに引き入れられてからは状況が一変したんだ」

ヴィジルはここまで言った後にしばらく沈黙した。言葉を整理しているようだった。

「彼女と父親の確執、父親が彼女のために配置した裁判官の職を引き受けることを決めたこと、色々なことがあった。それは俺があなたに言う事じゃない。あなたが興味を持っているのなら、自分で彼女に聞いたほうが良い。総じて俺は今振り返ってみると、ファミリーのリーダーになるために色々なことを勉強しているうちに俺はシラクーザのルールだけでなく、クルビアの狡猾さも、彼女の決して諦めない公正さも学ぶ事が出来た」

「残念ながら、ディミトリーは早くから情報収集の役割に回って常に奔走していたからペナンスと接触する事はほとんど無かった。もし彼が俺と同じであれば、あんな事にはならなかっただろう」とため息をついた。

「まあ、それは言わない約束だ」

「とにかく、俺にとってペナンスは尊敬に値する人物だ。彼女はシラクーザのような環境の下で自分の新年を貫くという事はとても珍しい。それに俺の母は早くに亡くなり、父とは……俺と彼の関係は悪くは無いが、何かを簡単に分かち合えるような関係でも無かった。だから……」

彼はそう言うとまた急に口に出す事を躊躇したが最後は話を続けた。

「俺がまだ幼い頃、彼女は俺の人生の中では姉のような存在だったんだ……」

「ヴィジル、新しい街作りについて相談したい事があるのですが。それと、最近任務であまり調子が良くないと聞いているのですが、また夜更かしを？」そう遠くない所から澄んだ女性の声が聞こえてきた。それは間違いなくペナンスの声だった

「ええと……ドクター、それじゃ俺はこれで」ヴィジルは立ち上がった後に声のするほうへと軽く駆け足で向かいながら「俺の任務に影響を与えてはいない」と弁明していた。

彼の姿は怖いもの無しの少年のように見えた。

ヴィジルは不安だった。

準備が整っているとは思えなかったからだ。

実際、ルビオの死やダンブラウンの非難が無ければ、重要な時に目を覚ます事が出来ていなければ、父が起こした大きな波の中で命を落としていたからだ。

しかし、教会の中央で立っていた彼は結局の所、父が何故自身を犠牲にし、ファミリーを犠牲にし、そのような行動を取ったのか、その答えはディミトリーに言った事と変わらないと感じたので問うことをしなかったのだ。

いずれにせよ、彼はかつての兄に背を向けて、未だ日の目を見ない茨の道を選んだ。

ヴィジルは怖がっていた。

彼は成功する未来が全く見えなかったのだ。

彼はシチリア夫人の向かいに座っていた時、自身も滅びる事を覚悟したほどに。何しろ、彼はあの時になるまでシチリア夫人と顔を合わせようとさえ思っていなかった。シチリア夫人の前では彼女の何気ない、しかし致命的な質問の前では彼は自分の最も正直な考えを打ち明けるしかなかった。そして、彼は自分のやり方は不変的なものではないと告げるしか無かった。

いずれにせよ、とある考えが彼の心には根付いていたのだが、それは幼稚なものでしか無かった。

ヴィジルは恐れていた。

彼は自分はまだ多くの事を学ばなければならないと考えている。

彼は以前、カラッチの秘書として複雑ではない事務を処理していただけで、都市全体の運行に影響を与える公務に直面した時、すぐに自分が力不足である事に気付き、この落差は彼を非常に苦しめた。それは時間でしか埋め合わせが出来ないものであり、自分に欠けているものは時間という事に気付いていたからだ。

いずれにせよ、彼はその頭でその時出来る事をするしか無かった。

しかし、ヴィジルは自身が十分に幸運であることを知っている。

シチリア夫人は彼の挑戦を受け、彼の周りにはテキサスとペナンスのような助けてくれる人がいる。そして、新ウォルシーニの中には都市建設の夢中になっている人たちがいたのだ。

彼は自身で切り拓いた道を進んでいた。

彼はシラクーザが彼によって変わるとは言えなかったが、彼は自分のやろうとしている事がシラクーザの地に深い足跡を残すことは知っていた。

そして、彼はそのために全てを捧げようとしている。

ロドスの食堂では様々な文化圏のオペレーターの多様な味覚に対応するために、国毎の料理体験週間を時々開催しているが、シラクーザ人はロドスの中でも特に自分の食の伝統に真剣に向き合っていると言えるだろう。

食堂に掲示されたメニューの中にシラクーザの食べ物があるたびにヴィジルが厨房に現れて料理の本来の味が確保されているか確認をする。この時は彼の冷静さと威圧感が全面に出てくる事が多く、この部分だけは新しい変化を求めることに力を入れている青年の唯一の保守的な部分かもしれない。

彼は事前に全てのレシピをよく精査し、購買部には可能な限り信頼できるシラクーザ現地の仕入先を出来るだけ多く選ぶように仕入れ部門に促し、自らも調理に加わる。

この時だけはどれほど独創的で想像力豊かなシェフであっても中々一歩を踏み出す事は出来ない。

匿名希望のシェフによれば料理に添えるソース「絶妙な珍しい食感を提供するトロピカルフルーツ」を入れようとしたとき、「誰かに監視されている、自分の命の保証が出来ない」と感じたという。

しかし、ヴィジルが艦から降りると報復と言わんばかりに斬新なシラクーザの料理を作り出す。

彼らの安全のためにも、写真は撮らないで欲しい。