【明日方舟】ペナンス(斥罪 Penance)の詳細(性能やスキル、資料)

造影検査の結果、臓器の輪郭は明瞭で異常陰影も認められない。循環器系源石顆粒検査においても、同じく鉱石病の兆候は認められない。以上の結果から、現時点では鉱石病未感染と判定。

【源石融合率】0%
鉱石病の症状は見られない。

【血液中源石密度】0.13u/L
源石との接触は極めて少ない。

とても厳粛な裁判官。

オペレーターのペナンスは自分がかつて犯した過ちを補うために訪れたと告白していた。その過ちの具体的な内容とは自身ではどうしようも無かった事ではあるが、法的正義を裏切るような事だという。

私たちのシラクーザ事件に対する調査によれば、ペナンスはもともとシラクーザ都市裁判官であり、背後にはベッローネファミリーの支持があることが分かった。しかし、他のファミリーの支持を受けている裁判官とは異なり、ペナンスはベッローネファミリーの意志の元で事件を判決する事は無く、ベッローネファミリーのメンバーにも判決を下していた――これはシラクーザではほぼ不可能な事といえる。オペレーターヴィジルの関係は上下関係があるものでは無く、姉弟のような付き合い方をしていることから、ベッローネファミリーは一般的なシラクーザファミリーとはかけ離れているのかもしれない。

ただ、現在の所では私たちはベッローネファミリーの先代当主についてよく理解していないので、ペナンスかヴィジルから話を聞いてから判断すべきだろう。

ペナンスはロドスに加入した後に法務部に配属され際、人事部オペレーターはロドスの仕事内容に上手く適応できるかどうか心配していた。なにしろ、彼女は法的主義は不可侵の領域だと明言しており、ロドスは各国や各地域との取引の際には現行法ではグレーゾーンで行う事も少なくは無いからだ。

しかし、人事部オペレーターがしばらく彼女を観察していた限りではペナンスはロドスの一部の業務に対して誤解する事は無く、私達の真意を即座に理解、自身とは異なる対応をする一部オペレーターと衝突する事も無く、暗黙の理解の上でお互いに助け合いながら業務を行っていた。恐らくでは有るが、法曹界に身を置く者として、就任以来はどのような苦労があろうと、どのような手段を用いようと「法の元にある正義を貫く」という理想から始まるという事に変わりはないのだろう。

ペナンスはシラクーザの法律体系を詳しく紹介してくれた。

シラクーザでは各ファミリーが彼らに属する移動都市を保持しており、これによって特殊な司法制度が広がっている。

シラクーザには警察機構はなく、裁判官はシチリア夫人の意志代弁者として、シラクーザの社会治安の維持を担っている。

しかし、実際の所はファミリーは様々な事に気を配っている。事件の関係者が属するファミリーによっては、裁判官の事件に対する判断に程度の差こそはあれども、ファミリーが介入する事があるのだ。最もより一般的なのは実際は事件は裁判官の前には一切提出されずに何かの決着が着いたとか、内々に決着を着ける必要があるとかだけが知らされる事が多い。

過去には彼女を知っている多くの人がラヴィニア裁判官、つまりペナンスは「公正だ」と言っていた。これはシラクーザにおいては非常に珍しい言葉である。「公正」とはシラクーザの裁判官からすれば他の裁判官への警告であり、ある日裁判官が姿を消す、あるいは身体の一部を失うかもしれないという意味を持つ。

ペナンスにはこのような結末は待ち受けなかったものの、彼女は自分が「公正」であるという点には納得がいっていなかった。

彼女はベッローネファミリーの援助を受けて裁判官にはなったものの、ベッローネファミリーの先代当主には「私が真に法の正義を貫けるようになったのであれば」という理想的な未来を約束したと語っている。ベッローネファミリーの背景を見るにペナンスは自由を与えられたように見えたが、ペナンスはその自由によってより苦しむ事になった。ファミリーの一般的な正義というものは根本的に間違っているからだ。

しかし、ペナンスはそのような命題にのめり込んだからと言って、自身や周囲の人達の人生を邪魔するという事はしない。自分を厳しく律する事はするものの、それを他者に押し付けたりする事はしない。但しヴィジルのみは――同じ場所から訪れたという事やヴィジル自体が本質的に健康的な習慣を持っていないので、その点については他のオペレーターもほぼ理解はしている。

「丁度終わったばかりなのにお祝いには来てくれないのか、ラヴィニア？」

「……どうしました？」

「私はいつも君がベッローネファミリーという後ろ盾がいる事を羨ましく思っていた。今では私もファミリーの支えはあるが。君のようにファミリーに庇護してもらえば物事はとてもやりやすくなるからね」

「後ろ盾がいるという事は何よりも良いことだからね」

「ラヴィニア、私が君なのであれば、今のように落ちぶれる事は無いだろうな」

「……裁判官になって何年経ちましたか」

「どうしてそんな事を聞くんだ？」

「二年以上かな」

「今日ボルトロッティに会いました」

「それは誰だ？」

「……裁判官です」

「今は殺し屋ですが。彼は矢で撃ち抜かれ、今日、目の前で死にました」

「私は生きているだけで幸運なのでしょう」

「あなたが今、私に言った事は聞かなかった事にしても良いでしょう……」

「私が幸運だと？『後ろ盾としてファミリーがいてよかった』と？裁判官として、あなたが最も自慢出来て祝える事が頼る事が出来るファミリーがいるという事なのですか」

「いいえ、私にあなたを責める資格はありません。なぜなら、ボルトロッティは死に、彼は死ぬ前に自分の理想を捨てたのに自分の裁判官証を持っていたからです。そして誰もがラヴィニア裁判官の背後にはベッローネファミリーがあることを知っているので私は無事なんです」

「ですが何故シラクーザはこのような司法はなったのでしょう。私は毎日そのファミリーメンバーたちと共に座り、私は毎日彼らから何をするべきなのかを教わり、どうやって彼らを助けるべきなのか考えました。そうする事で誰にとっても『良い事』になると思ったから。翌日には全てが『何事も無かった』ように見えましたが」

「ですが、普通の人達がどんどんと恐怖を感じて離れていく理由がわかりました。彼らは判決が出た後に堂々と泣き、堂々と裁判官の所に苦情を言いに来るのさえ恐れているので水」

「私は一体何をしているのでしょう。それは法の正義を守る事になっているのでしょうか。シラクーザの法と秩序の安定を守る事になっているのでしょうか。私はどちらもやっていません。全ての裁判官、全ての裁判所、シラクーザの司法制度の全てがファミリーの共犯者として機能しているのです」

「かつて理想を抱いていた者は皆死んでしまいました。しかし、私は生きていますし、あなたも生きている。私は何も成し遂げていない。あなたはファミリーの後ろ盾を見せびらかしているだけ」

「これがシラクーザの法律であり、シラクーザのファミリーであり、シラクーザの裁判官です」

「……ラヴィニア、君は酔っているんだよ」

「私はお酒を飲んでいません」

「馬鹿な事を言わないで下さい、それではお先に失礼します」

――裁判官休憩室の監視録音

ペナンスは新都市に多くの期待を抱いている。

これは彼女が有意義な形で正義を実践出来る始まりかもしれないからだ。新都市は多くの人にとって異なる意味を持っている、ファミリーは利権の対象として利用し、市民は自身が実際に生活する場所を気にかける権利は無いように見える。裁判官として彼女はシチリア夫人から何らかの承認を得た。これはまだ何らかの権力の威を借りているだけとも考えられるが、今回は今まで考える事が出来なかったほどの自由の機会があり、様々な事に向き合う事も出来る。

シラクーザでは誰もがファミリーに対しての法定奉仕が一般的だった。彼女は裁判官として何をすべきなのだろうか。

生まれてから勉学に励んで裁判官になるまで、彼女はこの司法体系には不合理な点が多すぎると思っていても、シラクーザで育った彼女は他国の法律システムを身を以て体験した事は無い。シラクーザがファミリーによる制約からの解放を望んではいたものの、ファミリーがシラクーザの司法制度から離れれば、その後には何が残るというのだろうか。

そんな新たな都市を前にして、志を同じくする者たちがヴィジル達に協力してくれたとしても、物事がそう簡単には上手くいかない。新たなシステムを構築するという事はシステムを破壊するという事よりもいつの時代も難しいからだ。シラクーザ一族からの支配から解き放たれた訳でも無いのにどうやって新たな秩序を構築するというのだろう？

ただの裁判官である事を理解しているペナンスは自分にはそのような能力が無いという事、新たな秩序を構築するという事は簡単な事では無いという事、彼女がここ数年間で学んで経験した事は、新たな納得のいく司法制度を作るための支えにならない事をは彼女自身がよく分かっている。この時、ペナンスはふとベルナルドが一貫した行動を取っていた理由が分かった気がした。ファミリーのいないシラクーザというベルナルドの考えは狂った理想であり、真の正義のある都市というものは自身の狂った理想だ。ベルナルドはそれに命を捧げたが、彼女は何処までそれに捧げる事ができるのだろう？

酒に酔った勢いでペナンスは珍しくドクターにベッローネファミリーの初代家主であるベルナルドの話を切り出した。ペナンスは会話の中で、彼は彼女が知っているようで知らない男であり、彼女に希望を与えはしたが、最後まで彼女を信じるような事はしなかった。今の彼女は彼が残した希望を見て、それを実現するために残りの人生を捧げるしか無い。しかし彼は共にその希望が現実になる日を見る事は出来ない。

「私は彼を憎んでいます。しかし、私は彼を憎んでいるのと同じく位、私は…」。

ペナンスはしどろもどろになりながらそう言い、ドクターはそんな彼女を宿舎に帰した。

私は皆さんが現状を知らないわけではないと信じています。皆さんは壇上に上がったこの人が言う事は大言壮語、将来への誤った希望を抱かせるだけでの言葉だろうと心の中で思っている人もきっと多いでしょう。

しかし、私はそれでもあなた達が教えられてきた事を信じなさいと言いたいのです。

それは大きな代価を支払う事になるでしょう……私にはここでこのような事を言う資格は本当はありません。私達裁判官がより多くの人のために信念と法典を手に自分の足で立つことが出来ないのであれば、私達より弱い立場にある人達のために正義が実践される事はもう二度とありません。

裁判官になることを選んだ初心を忘れないでください。

――ペナンスが再び母校に戻ったときの後輩たちへの発言