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【アークナイツ大陸版】イル・シラクザーノ IS-ST-3「縺れ」 翻訳

ルビオの娘
ルビオの娘

あっ、本当に裁判官さんが来てくれた!

ラヴィニア
ラヴィニア

あなたがルビオさんの娘?

ルビオの娘
ルビオの娘

うん……でもてっきりお父さんが言ってたあなたがお世話しにくるって話、ウソだと思ってた。

ルビオの娘
ルビオの娘

あのね、わたしもわたしの友だちもみんなあなたのことすごく尊敬してるの。

ルビオの娘
ルビオの娘

うちのおとうさんなんかと比べれば、裁判官さんはもうこの国唯一の良心みたいなものだよ。

ラヴィニア
ラヴィニア

……お父さんとはあまり仲が良くないの?

ルビオの娘
ルビオの娘

……良くはないかな。

ルビオの娘
ルビオの娘

おとうさんのこと嫌いってわけじゃないよ。あれでも結構時間があいてるほうだから、よく一緒に遊んでくれるの。

ルビオの娘
ルビオの娘

でも、おとうさんみたいな保身しか考えてない人、あんまりにも情けないなって思うかな。

ルビオの娘
ルビオの娘

昔おとうさんと一緒に下っ端から仕事を続けてきた仲間も、今じゃみんな大出世しちゃってるんだし。

ルビオの娘
ルビオの娘

あの歳でまだあんな地味な仕事しかしていないのはおとうさんだけだよ、しかも向上心がちっともない。

ラヴィニア
ラヴィニア

昔の仕事仲間?

ルビオの娘
ルビオの娘

うん、ほらこの前亡くなっちゃったあの建設部部長のカラッチさん

ラヴィニア
ラヴィニア

あそこは危険なお仕事だから。

ルビオの娘
ルビオの娘

わかってるよ……でも、毎日テレビであの人見かけるし、でっかいファミリーの人からも一目置かれてるってなるとどうしてもね。

ルビオの娘
ルビオの娘

ねね、やっぱりお役所で働くんだったらさ、あれぐらいすごい仕事をしないと意味はないって思わない?

ラヴィニア
ラヴィニア

そうかもしれないわね。

ルビオの娘
ルビオの娘

だからね、おとうさんが急に建設部部長の仕事を引き継いだって言ったとき、わたし驚いちゃったよ。

ルビオの娘
ルビオの娘

一体どうしてあんないきなり開き直ったんだろう……もっと早くそうしてくれれば、おかあさんも離婚しなかったはずなのに。

ラヴィニア
ラヴィニア

離婚?

ルビオの娘
ルビオの娘

うん、おかあさんね、おとうさんがあまりにも腰抜けだって思ってたから、数年前に離婚しちゃったの。

ルビオの娘
ルビオの娘

それにうちのおかあさん、性格がちょっとアレだったから、おとうさんについて行くことになったけど。

ルビオの娘
ルビオの娘

そうだ裁判官さん、おとうさんがどうやって建設部部長に選ばれたのかってこと知ってるよね、よかったらあたしに教えてよ。

ラヴィニア
ラヴィニア

……ごめんなさい、私もよく知らないの。

ルビオの娘
ルビオの娘

おぅ、そっか。

ルビオの娘
ルビオの娘

じゃあ部屋の中で適当にくつろいでって。

ルビオの娘
ルビオの娘

今日わたしも出かけるつもりはないからさ、おとうさんのスピーチとか聞いてみたいし。

ラヴィニア
ラヴィニア

……

(ラヴィニアが歩き回る)

ラヴィニア
ラヴィニア

(ルビオさんのお部屋……思ってたよりも片付けられているわね。)

ルビオの娘
ルビオの娘

変だよねー、おとうさんってばズボラな人に見えるのに、案外きちっとしてるでしょ。

ルビオの娘
ルビオの娘

そうだ、あと日記を書く習慣もあるんだよ。

ラヴィニア
ラヴィニア

日記?

ルビオの娘
ルビオの娘

うん、確か……あった、ここ。

ルビオの娘
ルビオの娘

まあ日記って言っても、思いついたら書くって程度みたいなんだけどね。

ルビオの娘
ルビオの娘

ちらほら書いても、今年分はこれぐらいしか書かれていないかな。

ラヴィニア
ラヴィニア

見ても大丈夫?

ルビオの娘
ルビオの娘

いいよいいよ、ここに置いてるのは見られても気にしないってことだから。

ルビオの娘
ルビオの娘

わたしも何回か読んでみたんだけど、つまんないことしか書いてなかったかな。わたしからしたら、おじさんの生々しい生活実録みたいなもので、退屈で長ったらかっただけだよ。

ルビオの娘
ルビオの娘

もし興味があるんだったら、好きなだけ読んでもいいからね。

ラヴィニア
ラヴィニア

……

3月5日
トラットリアでたまたまカラッチと会ったものだから、久しぶりに二人で少し飲んだ。
昔のことを思い出すと、涙が禁じ得なかった。

ガードマン
ベッローネファミリーのメンバー

ここがスピーチする部屋になります、ルビオさん。

ルビオ
ルビオ

ありがとう、もう下がってもらっていいぞ。

ガードマン
ベッローネファミリーのメンバー

えっ、でも……こっちは護衛につけって命令が出てるんですが。

ルビオ
ルビオ

ここに侵入しようとするヤツなんていないだろう?

ガードマン
ベッローネファミリーのメンバー

わかりましたよ。

(ファミリーのメンバーが立ち去る)

ルビオ
ルビオ

……

ルビオ
ルビオ

やれやれ、権力ってやつか。

(ルビオが扉に鍵をかけてソファを扉の前まで引きずる)

ルビオ
ルビオ

ソファーでドアを塞いでっと……ふぅ、できることと言ってもこれぐらいだな。

ルビオ
ルビオ

それからは、まあこんなもんか……

ルビオ
ルビオ

もう少し待っててくれよカラッチ、もうすぐ会いに行ってやるからな。

(エクシアがソラと電話をする)

エクシア
エクシア

どうだった?

ソラ
ソラ

……お医者さんの先生が、心臓から数センチズレたところをやられたから一命は取り留めたって言ってたよ。

ソラ
ソラ

でも油断はできないって。

ソラ
ソラ

テキサスさんは?

エクシア
エクシア

それが……

テキサス
テキサス

……

エクシア
エクシア

昨日からあんな調子、まるで魂が抜けちゃったみたい。

エクシア
エクシア

ずっとそこに座って全然動かないし、ご飯あげてもまったくの無反応だよ。

ソラ
ソラ

……きっと頭の整理が追いついていないと思うからそっとしといてあげよう。あたしはクロワッサンと一緒に病院で見張っておくから、テキサスさんは任せるね。

エクシア
エクシア

わかった、そっちも気を付けてね。

(エクシアが電話を切る)

エクシア
エクシア

……あ~あ、つまんないなー。

エクシア
エクシア

そうだ、今日確かなんかスピーチでもやるんだったっけ?

エクシア
エクシア

まあ聞いてみるかー。

???
ラジオ

親愛なる市民の皆さん、どうも。

???
ラジオ

さしずめほとんどの方は私のことをよくご存じじゃないかと思われます、まあそれも当然でしょう。

???
ラジオ

なんせ私は過去に、たかだか食品安全部部長という地味な役職を担ってきただけの男なのですから。

???
ラジオ

ほかにもまた、皆さんのほとんどは、前任者であるカラッチとラヴィニア裁判官を除いて、自分たちの政府についてもあまりよく知らないのかと思います。

???
ラジオ

先ほど言った裁判官殿とはあまり面識はありませんが、カラッチ前部長とは少なからず親交はありました。

???
ラジオ

ですので今日のスピーチは、皆さんがよく知るその人のことから始めたいと思います。

???
ラジオ

私とカラッチは、市場監察局での同期でした。

???
ラジオ

その頃から彼はとても逞しく、精力旺盛だったため、実地での視察を担当していましたが、私と言えば後方で事務仕事を任されるばかりでした。

???
ラジオ

当時から界隈では怖い者知らずな有名な人でして、ファミリーの大御所にすら物怖じしない男でしたよ。

???
ラジオ

今振り返ってみても、彼がどれだけタフな男だったか分かります。何度か不満を募らせていたファミリーに消されかけたことがあったのですが、いつも運よくそれを躱したり、自分で収めたりしていました。

???
ラジオ

まあとにかく、当時から局内での彼はひねくれ者として扱われていたものですから、彼に手を貸そうとする人間は誰もいませんでした。

???
ラジオ

そのため、彼に仕事を報告する業務は、見向きもされなかった私に振られたわけです。

???
ラジオ

その業務も実に大変で面倒でした。

???
ラジオ

しかし、この業務のおかげもあって、私は達成感を感じることができたのです。

???
ラジオ

私は彼のように実直な人間になることはできませんでしたが、彼は何かと私のやりたかったことをやってくれていたので、ここで向こうの助けになることもある種の恩返しなんだろうと思っていました。

???
ラジオ

そういう関わりもあって、私たちはいつからか親交を深めていくことになったのです。

ベルナルド
ベルナルド

レオン、カラッチの横で二年も働いてきたものだから、お前もきっと彼に一目置いていたはずだろう。

ベルナルド
ベルナルド

お前から見た彼はどういう人だった?

レオントゥッツォ
レオントゥッツォ

……何かと元気な人だったな。

レオントゥッツォ
レオントゥッツォ

ファミリーとの付き合い方もよく分かっていたよ。だが単にこちらに合わせるだけじゃなく、ファミリーにメリットを感じさせながら、自分の目的のために利用することを分かっていた。

レオントゥッツォ
レオントゥッツォ

それぞれのファミリーからの邪魔が入るような仕事もたくさんあったはずだったんだが、なぜか彼の手にかかれば――すべて上手くいった。

ベルナルド
ベルナルド

お前のやり方も少なからずそんな彼の影響を受けたのだろうな、見てわかるよ。

レオントゥッツォ
レオントゥッツォ

……彼の考えと俺の考えには似たところがあると思っただけだ。

レオントゥッツォ
レオントゥッツォ

今はもう殺しで問題を解決できるような時代じゃなくなったからな、親父。

レオントゥッツォ
レオントゥッツォ

時代に合わせたいのであれば、ファミリーも相応に変化を遂げるべきだ。

ベルナルド
ベルナルド

お前はまだ分かっちゃいないな、レオン。

レオントゥッツォ
レオントゥッツォ

何がだ?

ベルナルド
ベルナルド

お前は今も無意識に、自分の傍にラヴィニアとカラッチを置いている。

ベルナルド
ベルナルド

だが忘れるな、お前とあの二人は違う人間だ。

レオントゥッツォ
レオントゥッツォ

分かっている。

ベルナルド
ベルナルド

分かっているのなら、お前がここに来るはずもないだろ。

ベルナルド
ベルナルド

しかし残念だな、もう時間はなさそうだ。

レオントゥッツォ
レオントゥッツォ

親父?

(ベルナルドがレオントゥッツォを殴り気絶させる)

ベルナルド
ベルナルド

レオン、もし生き残ることができたのなら……

ベルナルド
ベルナルド

いや、まあいい。

……

???
ラジオ

しかし、彼は多くのファミリーから睨まれることはありましたが、その実力も相まって、みんな彼のことを一目置いていたのです。

???
ラジオ

そのため彼は、私よりもいち早く出世することになりました。

???
ラジオ

正直に言ってあの頃は、出世してしまったからには早死にしてしまうのだろうなと思っていましたよ。

???
ラジオ

昔はまだそれほど他人の利益に触れるような場所にはいませんでしたからね、彼もそれで執拗に命を狙われずに済んでいただけなんだと思います。

???
ラジオ

地位が上がっても相変わらずあのままでは、いずれ触れてはならない人にも触れてしまうのだろうなとも。

???
ラジオ

しかし、その予想は外れました。

ルビオの娘
ルビオの娘

……うちのおとうさん、こんなに話せる人だったなんて思いもしなかったよ。

ルビオの娘
ルビオの娘

ねえ、裁判官さんはどう思う?

ルビオの娘
ルビオの娘

裁判官さん?

ルビオの娘が呼びかけるも、ラヴィニアはまったくそれに気付かずにいた。
彼女は一心に、手にしている日記を読み耽っていたのである。

5月3日
……
今日は一つ小さい仕事を片付けたが、思うことがあった。
誰も気付いていない、あるいは気付いていないフリをしていることだ。
なぜスィニョーラの時代になっても、ここシラクーザの表と裏には二つの秩序が共存しているのだろうか?
ファミリーの粗暴さと貪欲さはとっくに歴史が証明してくれている。なのにそんな彼らは、すべての支配を他者に委ねることを選んだ。
そうするには理由があった。
とても簡単な理由だ。
それは即ち、人の数にある。
ファミリーというのは血縁、または人となりが認められてこそ成り立つものだ。
しかしこんな効率の悪い方法では、ファミリーが移動都市を一つとて支配するに至るまでの人数規模には決して達しないことを意味する。
これにより彼らは多数いる一般人という枠組みを利用せざるを得なくなった。背後からこういった枠組みを操ることで、シラクーザという巨人を支配する構図に。
そこにスィニョーラは目を付けた。そのため彼女がトップに君臨した際は、明確にファミリーと一般人の間に境界線を引いたんだ。
それから彼女は自分の絶対的な武力と支配力を誇示することで、数十年もの歳月をかけて人々に、ここシラクーザでは“表と裏に二つの秩序が共存しているのは当たり前のことだ”ということを浸透させてきた。
しかしその一方で、地上にある秩序が秩序たらしめているからこそ、アングラの秩序も成り立っているんだという事実を、誰もが忘れ去ってしまっている。
まさに賢い政治のやり方とも言えるだろうな。

ラヴィニア
ラヴィニア

ルビオさん、あなたは一体……

???
ラジオ

実を言えば、我々の中でカラッチのような同じ志を持っていた人は少なくありませんでした。

???
ラジオ

ただ様々な理由によって、彼らは最後にファミリーへ屈すること、あるいは自ら媚びへつらいことを選んでしまったのです。

???
ラジオ

しかしカラッチは違っていました。彼は屈するどころか、むしろ常にと言っていいほどファミリーたちへ対抗姿勢を見せていたのです。

???
ラジオ

そんな彼の努力は有意義なものでした。

???
ラジオ

彼は私が思っていたほど早死にすることもなく、むしろますます高みへと登っていったのですから。

???
ラジオ

ある時私たちはとある宴会で再会した際に、彼は私に今でも記憶に新しい一言を話してくれました。それは――

???
ラジオ

「今のファミリーはどこも軟弱者ばかりだ」と。

エクシア
エクシア

このおっさん結構キモが据わってるなー……

エクシア
エクシア

ん?

(複数のマフィアたちが周囲を歩き回る)

エクシア
エクシア

んー……テキサス、外がなんか騒がしいからさ、アタシちょっと見に行ってくるね。

テキサス
テキサス

……

テキサス
テキサス

エクシア。

エクシア
エクシア

んー?

テキサス
テキサス

ジョバンナも、龍門に連れて行ってはどうだ?

エクシア
エクシア

いいんじゃない?

エクシア
エクシア

アタシもあの人結構面白い人だなーって思うし。

エクシア
エクシア

でも――本当にそう思ってるわけでもないんでしょ?

テキサスは窓辺の小机の上に置かれたネックレスに視線を向けた。
あれはスィニョーラの印だ。
ジョバンナが彼女のために残してもらったプレゼントでもある。
祖父からすれば、クルビアのファミリーらはみな変わってしまった。
利益のためなら、弁えることを知らない事業とも手を結び、無作為に道義のない殺しを行ったからだ。
一方父親からすれば、シラクーザのファミリーらはみなとことん腐り果てていた。
容易く手に入れられる利益には目もくれず、たかだか道義のためだけに自らの歩みを止めることは、愚かとしか言いようがなかったからだ。
しかしテキサスからすれば、祖父も父親も考えていることは正しかったが、同時に間違ってもいた。
もし、もしも彼女がジョバンナの身に起ったことに憤りを覚えていたのなら。
彼女はまた七年前のようにここから立ち去ればいい、今度はジョバンナを連れて。
しかし、彼女が祖父の死を耳にした時、あの洗車屋に見向きもしなかった時、父からの増援の命令を無視した時、彼女は心の中でこう思った――
これらすべてに終わりはないのだ、と。

???
ラジオ

彼は私に、笑いが込み上がってしまうほど簡単な、ファミリーの面々を手駒にする方法を教えてくれました――

???
ラジオ

それは相手が断れないモノ、あるいは利益を持ち出すという方法です。

???
ラジオ

彼が持っていたパイプを強引に奪い取る、そんなことファミリーらにはできませんでした。

???
ラジオ

それに、向こうは優秀な管理者をも必要としていたからです。彼らはただ略奪することしか知りません、真の意味での管理をまったく理解できていないのですから。

???
ラジオ

そんな彼は自らの突出した実力をもって、一歩一歩でかいファミリー間の人気者へとのし上がっていったのです。

???
ラジオ

そしてそのファミリーらが建設部部長のポストに手を打ち出そうとした時、彼は全員が納得するような人材にもなってやったのです

???
ラジオ

ここまで聞いて、おそらくこんな疑問を抱き始めた方も出てきたのではないでしょうか――

???
ラジオ

カラッチと言えど、八方美人な連中と大して変わりはないじゃないか、と。

???
ラジオ

しかしここで言いたいのは、このシラクーザのような国には、悪を基盤とするような国には最初から、善人など一人も存在してはいないということです。

???
ラジオ

さらに踏み込んで言えば、我々全員がその悪人なのです。

ルビオの娘
ルビオの娘

……これ、本当に就任スピーチで言っていいことなの?

ラヴィニア
ラヴィニア

……

10月15日

例のラヴィニア裁判官と会った。
きっとカラッチと同じように、自分にウソをつきたくない正直な人なのだろう。噂を聞いただけでも想像ができる。
そして会った後はやはりそうだったよ。
自分が今までやってきたことはすべて徒労に過ぎないことなど、彼女自身が分からないわけがない。
ファミリーからの不満を募らせれば、自分自身の身が危ないとうことも。
だが皮肉なことに、彼女が裁判官の立場から守ろうとしてる一般人の権利というやつは、ファミリーからすればまったくの無価値なものだ。
おかげで彼女は自分の進む道の半ばで殺されずに済んでいる。
彼女との交流は相当苦労したよ。表立って彼女に親指を立てることもできず、今まで通りの態度で接しなければならないのだから。
カラッチも昔は私に、お前がいてくれているおかげで俺は安心できると冗談めいたことを言ってくれた。そうすればたとえ自分がいつか死ぬことになっても、ワシが彼の遺志を引き継いでくれると思っていたからな。
しかし――ワシも死んでしまった際はどうするんだ?
ここ数年間、ワシも若いのを育てなかったり引っこ抜いてこなかったわけではない。しかし、カラッチのような毅然とした態度を備えた者は一人もいなかったよ。
その点で言えば、ラヴィニアは紛れもなく理想的な後継ぎだ。
当然、ワシの考えを彼女に強要するわけにはいかない。
だがワシに残された時間はもう残り僅かだ。
今がその千載一遇のチャンスなんだ。だからワシの考えを詳らかに――本人へ伝えてやれる時間はない。
だがもしワシの計画が成功すれば、少なくともラヴィニアならワシに代わって娘を守ってくれると信じている。
やれやれ、カラッチよ、今だけはお前の死を利用させてもらうぞ。
もしお互いの魂が再会できたら、その時にまたお前に謝るよ。
――しかしお前のような高潔な魂なら、きっとワシとは違うところにいるはずだろうな、ははは。

ラヴィニア
ラヴィニア

……

(複数の銃撃音)

エクシア
エクシア

ああもう、やっぱりアジトを移転させとくべきだったよー。

エクシア
エクシア

でも昨日あんなことが起こっちゃったしなぁ、どうしようもないか。

ガードマン
ファミリーのメンバー

チッ、厄介なサンクタだぜ。

ガードマン
ファミリーのメンバー

あいつは一人だ、囲い込んじまえ!

エクシア
エクシア

うちのバディー今休んでる最中だからさ、ちょっとは静かにしてくれないかなー?

(他のマフィア達も集まってくる)

エクシア
エクシア

まったくもう~、お騒がせな連中だねあんたらは~。

エクシア
エクシア

……あっ、でもほかのみんながいたらきっと、「お前もだよ!」って言われてたかも。

エクシア
エクシア

やっぱ一人だとつまんないなぁ。

(ラップランドが突然姿を現す)

ラップランド
ラップランド

何やらここに手助けしてもらいたい人がいるみたいだね?

エクシア
エクシア

前からずっと気になってたんだけどさ、君もしかして……ヒマなの?

ラップランド
ラップランド

ボクもキミと同じように、答えを待っているだけだよ。

エクシア
エクシア

それどういう意味?

エクシア
エクシア

テキサスが龍門に帰る帰らないのは君にとっても気になることなんじゃないの?

ラップランド
ラップランド

もちろん。

ラップランド
ラップランド

でも今は、どちらかと言えばそっちに帰ってもらいたいかな。

エクシア
エクシア

ふーん……じゃ、今はアタシの味方についてくれるってことでいいんだよね?

ラップランド
ラップランド

ああ。

エクシア
エクシア

そっ、まあこうして一人で戦うことになるよりはありがたいよ。

???
ラジオ

これは申し訳ない、途中で話がズレてしまいましたな。

???
ラジオ

しかし、ここで皆さんもお気づきでしょうが、今日私は就任スピーチをするために、ここに座っているわけではないのです。

???
ラジオ

どうか私の本音を少しだけ、皆さんにも聞いて頂きたい。

???
ラジオ

中々立派な抱負を持っていたカラッチではありましたが、彼は一度も私に新しい都市への展望を話してはくれませんでした。

???
ラジオ

なぜなら彼は、この席に座った時からすでに、死ぬ覚悟ができていたからです。

???
ラジオ

彼がここ二年間やってきたことなら、おそらく皆さんもすでにご存じでしょう。

???
ラジオ

彼ならきっと新しい都市が出来上がる時まで生きていけるだろう。そう思い込んでいた矢先、つい数日前に彼は突如と逝ってしまわれた。

???
ラジオ

私はそのことに、どうしても納得ができなかったのです。

???
ラジオ

だから私は、ベッローネ家に接近し、自分を売り込んでこの席を勝ち取ることにしました。

???
ラジオ

その最中、ベッローネ家とサルッツォ家が秘密裏に企んでいた謀も知ることができたのです。それは――

???
ラジオ

彼らは最初から市内の秩序を乱し、新しく出来上がる都市を奪おうと計画していたのです。

???
ラジオ

それをもってスィニョーラに対抗しようとも。

ガードマン
忠実なファミリーメンバー

ドン、これは――

アルベルト
アルベルト

……

アルベルト
アルベルト

ベルナルドのほうに動きは?

ガードマン
忠実なファミリーメンバー

いえ、まだ。

アルベルト
アルベルト

……ベルナルドの老獪め、一体何を企んでいるんだ?

(アルベルトが電話を掛ける)

アルベルト
アルベルト

ダンブラウン。

洗車スタッフ
洗車スタッフ

……

アルベルト
アルベルト

ダンブラウンッ!

洗車スタッフ
洗車スタッフ

……聞いていますよ。

アルベルト
アルベルト

今ルビオの近くにいるだろ。

洗車スタッフ
洗車スタッフ

はい。

アルベルト
アルベルト

今すぐそのイカレた野郎を片付けろ。

洗車スタッフ
洗車スタッフ

……分かりました。

(洗車スタッフがドアを蹴破る)

ルビオ
ルビオ

まあ……あの程度じゃ本気で侵入しようとする人を止められんわな。

洗車スタッフ
洗車スタッフ

バカだねあんたは。

洗車スタッフ
洗車スタッフ

こんなことしてなんの意味があるんだ?

洗車スタッフ
洗車スタッフ

……

ルビオ
ルビオ

その恰好、普段は作業員とかか?

洗車スタッフ
洗車スタッフ

いつもは洗車屋で働いてるんだ、“ダンブラウンの洗車屋”でね。

ルビオ
ルビオ

あぁ、見たことがあるかもしれん。

洗車スタッフ
洗車スタッフ

そこだよ。

ルビオ
ルビオ

なら君がダンブラウンだね?

洗車スタッフ
洗車スタッフ

ああ。

ルビオ
ルビオ

今の自分の仕事になにか思うところはあるか?

洗車スタッフ
洗車スタッフ

ない。

洗車スタッフ
洗車スタッフ

あの仕事はただの暇つぶしだよ。シラクーザがますます呑気になってきたせいで、こっちはやることもねえ。

ルビオ
ルビオ

それは残念だ、なら君はもっと周りを見ておくべきだったな。

ルビオ
ルビオ

君たちのようなお高く留まってるファミリーの連中は、いつまでもワシらを支配してやれると思っちょる。

ルビオ
ルビオ

自分たちの敵はいつまでもお互いだけだって、ワシらには構うだけの価値すらないと。

ルビオ
ルビオ

しかしだね、時代は進むものだ、いつまでも変わらないなんてものはない。

洗車スタッフ
洗車スタッフ

あんたがいくら真っ当なことを言おうが、所詮はペチャクチャと下らねえことを喋っただけに過ぎねえんだよ。

洗車スタッフ
洗車スタッフ

そんなことを喋ったぐらいでファミリーを、スィニョーラを倒せるとでも思ってんのか?

ルビオ
ルビオ

今日はワシにとって千載一遇のチャンスだったよ、ワシもすでに自分の考えを外に伝えてやれたから満足さ。

ルビオ
ルビオ

ここから勝つのがベッローネだろうがスィニョーラだろうが、ワシには知ったことではないし興味もないね。

ルビオ
ルビオ

だがいずれ――時代が必ず君たちを置き去りにすることだけは見えているよ。

ルビオ
ルビオ

もしシラクーザが新しい時代を迎え入ることがあれば、その時の主役は決してファミリーなどという存在ではない。

ルビオ
ルビオ

ワシらは確かに力は持たないし、弱い存在だ。

ルビオ
ルビオ

だがね、文明というものは、元から暴力を克服するために存在しているのだよ。

ルビオ
ルビオ

平等を、暴力の上に成り立たない秩序を、ワシらは何よりも求めているのさ。

洗車スタッフ
洗車スタッフ

暴力こそが俺たちの本能だろうが。

ルビオ
ルビオ

そうなのかい?ではなぜファミリーたちは揃いも揃って同じものを目指しているのだ?

ルビオ
ルビオ

なぜ彼らはみな暴力と闘争ではなく、金と権力ばかりを求めているのだね?

ルビオ
ルビオ

今ここでワシを殺そうとするのも、ある種の暴力の捌け口みたいなものなのかな?

ルビオ
ルビオ

君の後ろにいる人が権力を握ろうとするところを、ワシがこうして邪魔したからではなくて?

洗車スタッフ
洗車スタッフ

……

ルビオ
ルビオ

ほら、君も自分でよく分かっているじゃないか。

ルビオ
ルビオ

それと、もしできることならお願いしたいのだが、ワシ自らケリをつけさせてもらえないか?

ルビオ
ルビオ

これがなんだか分かるかね?

洗車スタッフ
洗車スタッフ

銃?

ルビオ
ルビオ

そう、数年前に裏でブラックスチールから仕入れたものだ。

ルビオ
ルビオ

まったく銃は使いづらい品物だよ。それにこんなもので、血の気が盛んなファミリーの面々に効くとも思えん。

ルビオ
ルビオ

せいぜいワシと同じような弱い人間から自分を守ってやれるぐらいだ。

ルビオ
ルビオ

だが今、何年も悩み抜いた末にようやく思いついたよ。こいつを誰に向ければいいのかとね。

ルビオ
ルビオ

……

ルビオはゆっくりと、自らのこめかみに銃口を突きつけた。

ルビオ
ルビオ

そうそう、ダウンブラウン君。

ルビオ
ルビオ

いつか君がここシラクーザで、ただの洗車屋として働ける日が来るのを願っているよ、殺し屋としてではなくてね。

10月19日
ずっと胸に溜まったこの思いを、スピーチですべて吐き出してやりたいものだ。
だがワシにできるはずもない。
ワシはカラッチの死でファミリーらに報復すると決心したことも、彼らに思い知らせてやらなければならない。
それに、まだまだワシには早すぎたこともある。
ワシは何も、時代を変えたいからこそこんなことをしようとしてるわけではない。ワシはそこまで自惚れちゃいないさ。
こんなことをして、大勢の人が感化して行動に移ってもらえるとも到底思えん。
だが少なくとも、こんな国でもきっとカラッチやワシ、そしてラヴィニアと同じような人はいると、ワシは信じている。
であればこの国にもまだまだ希望は残されていることだろう。
ひとまずここに、ワシが話そうと思っていることを綴っておく。
これまでたくさんカラッチについて話してきたが、君たちならきっと、ワシが言いたいのはカラッチではないと気付いてくれるはずだろう。
ワシが言いたいのはワシら、つまり市民らなのだよ。
今のワシらは、ファミリーという名の檻籠の中に住んでいる状態だ。
彼らは直接的にワシらの暮らしへ影響を及ぼすことはないだろうが、ワシらの暮らしの至るところに存在してる。
シラクーザで育った一般人ならみんな何かしらの形で、大きくなるにつれファミリーという存在を知ることになる。
そして最後には、その存在に慣れてしまうのだ。
しかし、そこでみんなにはどうか、周りの人たちを見て、自分たちの暮らしを振り返ってみてほしい。
そうすればきっと、あることに気付いてもらえるはずだ――
ワシらも生きた人間であり、ワシらの暮らしも真っ当なものであり、決して飼い慣らされる家畜の類ではないということに。
それに、ワシらにだって力はある。
ワシらが作り上げてきた暮らし、それが力だ。
あのファミリーらが享受してる暮らしも、ワシらが作り上げたものだ。
この国はワシらが作り上げたということを、努々忘れないで頂きたい。

ラヴィニア
ラヴィニア

……

ルビオの娘
ルビオの娘

裁判官さん、わたし夢でも見てるのかな?おとうさんが……あんな風に殺し屋と話ができただなんて。

ルビオの娘
ルビオの娘

いや、そんなことよりおとうさんが……おとうさんが危ないよッ!

ラヴィニア
ラヴィニア

……

ラヴィニアは自分の瞼が涙で濡れていたことに気付く。
しかし彼女はすでに心の中である種の予感を覚えていたために、その涙を拭ってやれることはできなかった。
そこで彼女はルビオの娘の傍に寄り添い、そして優しくこの子の耳を塞いでやることにした。

(一発の銃声がラジオから流れる)

この日は、ヴォルシーニの市民ら全員が記憶に留める日となった。
いつも通りの早朝に、渇いた銃声はラジオを通じて、ヴォルシーニの市内全域へと広がっていったのである。
元ヴォルシーニ食品安全部部長のルビオは、建設部部長の任を引き継ぐ就任スピーチの際に死亡した。
それから発生した多くの混乱とした事態は、半日以内にすべて収束することにはなったが、シラクーザの未来を大きく変えるきっかけの日となったのである。

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