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【アークナイツ大陸版】春分「チュウバイ 帰郷への不安」 翻訳

ねえ母さん、父さんはまた遠出?今回はどのくらいかかるの?
河周りの雪もそろそろ融けそうだね。今年は雨の頻度は多くも少なくもないから、きっと干ばつが起こらないいい年になるはずだ。
上流で新しく開墾したあそこの土地も、面積はそれほど大きくないけど、稲を植えておけば、一家が腹を空かせることはないはずだ。

ねえ、母さんもいい加減父さんに何か言ってやってくれよ。もう“シノギ”はやらなくていいって。新しい服もキレイな装飾品も、何もいらないからさ。家族が全員、平穏に暮らせていればそれで十分だよ。
なんだか、イヤな予感がするんだ……

貧しければ野草が生え、豊かになれば青々とした苗が生える。
草鞋で千里も踏破すれば、高山長水も郷(さと)となる。

慌てる少年
慌てる少年

ゼェ……ハァ……

慌てる少年
慌てる少年

クソ、この先はもう崖だ……

(崖から小石が転がり落ちる)

慌てる少年
慌てる少年

クソ、クソ!なんなんだよ!これじゃもう逃げられないじゃないか……

慌てる少年
慌てる少年

いいや慌てるな、慌てるんじゃない……腕っぷしじゃ敵わないにしても、ここまで仕込んでおいた罠なら少しはあの女に一泡吹かせてやれるはずだ。

慌てる少年
慌てる少年

そんで弱ったところをとっ捕まえて、コテンパンにしてやる。このおれサマを舐めてかかった罰だ……

(チュウバイが近寄ってくる)

チュウバイ
チュウバイ

もう気が済んだか?

慌てる少年
慌てる少年

なっ、なんで――

慌てる少年
慌てる少年

こ、こっちに来るなッ!

チュウバイ
チュウバイ

年端も行かないのに、中々悪知恵が働くじゃないか。狩りを教えた人からは教わらなかったのか?獣用の罠は、人間には通用しないぞ。

チュウバイ
チュウバイ

それに万が一ほかの者が罠にかかってしまったら、また一ついらぬ罪を重ねることになるじゃないか?

慌てる少年
慌てる少年

ヘッ、なにがいらぬ罪だよ……言っとくけどこっちは……山ほど悪事を働いて来たんだ!

チュウバイ
チュウバイ

なら、私が今ここで君を殺してしまっても問題はないということだな?いわば勧善懲悪というやつだ。

慌てる少年
慌てる少年

ああそうだよ!

慌てる少年
慌てる少年

い、いや……ちげーし!

慌てる少年
慌てる少年

と、とにかくこっちに来るんじゃねえッ!

(慌てる少年が炸薬を見せる)

慌てる少年
慌てる少年

懐に仕込んであるこの炸薬が見えるか?一歩でも近づいたら、今すぐ導火線を引っ張って起爆させるぞ!いくらお前が武術の達人だろうと関係ねえ、道連れだ!

チュウバイ
チュウバイ

……

チュウバイ
チュウバイ

いいだろう、もう近づかない。その代わり、大人しくいくつかの質問に答えてもらう。

慌てる少年
慌てる少年

おれから何かを聞き出そうとしたってムダだぜ!

チュウバイ
チュウバイ

あの山の洞窟に隠れていた賊たちとはどうやって知り合ったんだ?

慌てる少年
慌てる少年

知り合いもなにも、おれはあいつらのかしらだ!

慌てる少年
慌てる少年

全員片付けたからって調子に乗るなよ!絶対あいつらのために復讐してやるからな!

チュウバイ
チュウバイ

かしらだって?君、今年でいくつになるんだ?

慌てる少年
慌てる少年

ハッ、ガキだからって舐めるんじゃねえぞ?ここら一帯の村々に聞いてみればいいさ、このおれ“方小石(ファン・シャオシー)”の悪名を知らないって人はいないはずだぜ!

慌てる少年
慌てる少年

お前ですらド肝を抜くような悪事をこれでもかってぐらいやってきたんだ!

チュウバイ
チュウバイ

呆れた……

半日前

山海衆
慌てる山海衆

おいシャオシー!シャオシーどこだ!

(ファン・シャオシーが駆け寄ってくる)

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なんだなんだ、呼んだか?お前らの仇でも襲ってきたのかよ?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

それかようやくおれたちも出陣ってところか?なな、今日こそおれも連れてってくれよ~。

山海衆
慌てる山海衆

クソぉ、玉門に行った連中、どっからあんなバケモノを引き連れてきやがったんだ!もうほとんど全員やられちまってらァ!

山海衆
慌てる山海衆

片付けてる暇もねえ、みんな逃げるぞ!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なに言ってんだよ、相手は一人なんだろ?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

おれと手合わせした時なんか、お前らみんなそこそこ強かったじゃねえか。一人も敵わないなんてそんなこと……

山海衆
慌てる山海衆

黙らっしゃい!

山海衆
慌てる山海衆

今はゆっくりお間とお喋りしてる暇はねえんだ!おい、お前に預けておいた駄獣はどこに行った?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

えっ、あの駄獣なら……売っちまったけど。

山海衆
慌てる山海衆

なぁぁぁにぃぃぃぃ!?売っちまっただとォ!?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

それで食うもんを買ってこいって言ったのはお前じゃん。

山海衆
慌てる山海衆

こんのドアホォ!駄獣を預けたのは、お前を町まで行かせて俺たちがかっさらった宝石を売るためだったんだよ!この野郎、駄獣まで一緒に売り払ったのか!?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

あの石ころなら、肉屋のおっちゃんまったく興味がなかったぞ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

その代わりおれたちが飼ってた駄獣が丈夫そうだったから、いい値で買ってくれたんだぜ?その半分のお金で肉を買ってきたんだ。

山海衆
慌てる山海衆

な、ななななんてことを……!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

って、おれたちもうずっとこの山に籠りっぱなしだろ?無駄に駄獣なんか飼って、おれたちよりもいいもん食って肥えやがって。そのせいで肉食獣を誘き寄せちまうかもしれねえだろ……

山海衆
慌てる山海衆

※言葉になってないスラング※、なんでテメェのような役立たずを引き入れちまったんだチクショーッ!おかげでこっちはおしまいだッ!んのガキ、ぶっ殺して――

(山海衆が斬られ倒れる)

チュウバイ
チュウバイ

子供だと……?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

だ、誰……?

チュウバイ
チュウバイ

身体に外傷は見当たらないから、この子はおそらく玉門の一件とは関わっていないのだろう。

チュウバイ
チュウバイ

山海衆め、悪事の限りを尽くす連中なのは分かっていたが、まさかこんな幼い子供まで巻き込むとは……想像よりも遥かに限度のない連中だ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なにごちゃごちゃ訳の分かんねえことを言ってるんだ!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

言っておくが、ここで手を引いておいたほうがお前の身のためだぜ。おれの手下たちをしょっ引いたことなら、今はひとまず目を瞑ってやる。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

だからここは大人しく道を譲るんだ。今日はお互い会わなかったってことで――

チュウバイ
チュウバイ

逃がすなんて一言も言っていないぞ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

っておい、来んじゃねえつってんだろ!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

懐に仕込んでるこの炸薬が見え……

少年は微かな風が吹きつけてきたと思えば、懐に潜らせていた布袋が破られていたことが目に入り、ジャーキーやらその他諸々の雑貨がボロボロと地面一面に転げ落ちている。
その中には、“平安”の文字が彫られた木製のお守りが混ざっていて、粗造な鍵に括りつけられていた。その上に筆の筆跡で書かれた“謀善村”という三文字は、赤色でとても目を引く。

チュウバイ
チュウバイ

お守り……謀善村?

(シャオシーがチュウバイが拾った物を取ろうとする)

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

返せッ!

チュウバイ
チュウバイ

これは君の家鍵か?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

お前には関係ねえだろ!

チュウバイ
チュウバイ

……家が待っているのなら、なおのことあちこちに行っては駄目だろ。

チュウバイ
チュウバイ

君はまだ子供だ、どういう人とつるんでいたかが分からないのも致し方ない……それでも、少なくとも善悪の判断は身につけなければならないぞ。

チュウバイ
チュウバイ

たとえあの連中とそこまで深い関係でなかったとしても、万が一この先あいつらがまた君のところへやってきたら、自分がどうなってしまうか想像したことはあるか?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なにが善悪の判断だよ、お前に言われたくねえってんだ!

チュウバイ
チュウバイ

なら、このまま一番近くの官府まで連れて行ってやってもいいぞ。その際は自分で事情を説明するんだな。

チュウバイ
チュウバイ

しかしそうしてしまえば、こちらとしても面倒だな……

チュウバイ
チュウバイ

ひとまず家まで送ってやろう。君の処遇は家族に決めさせてもらえ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

イヤだ!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

死んでも帰るもんか!

チュウバイ
チュウバイ

駄々をこねても無駄だ。

少年は腰から小刀を抜いて仇白へと向けたが、その腕は弦のように真っすぐ張り詰めており、小刀もまるで言うことを聞かずガタガタと震えている。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

これ以上おれに突っかかるのなら、こっちも本気を出すぞ!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

辱めを受けるぐらいなら潔く死んでやる!それが漢ってもんだ!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なにを言おうがおれは行かねえぞ!やれるもんならおれを殺してみやがれってんだ――

チュウバイ
チュウバイ

いいだろう――

女は明らかに少年から二メートルほど離れていたはずだったが、次の瞬間には彼の耳元で女の声が聞こえ、身体半分も動けなくなってしまっていた。
そして当然ながら反応する間もなく、冷たい刀身が少年の喉元に当てられる。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

……

チュウバイ
チュウバイ

どうやら死ぬのはまだ怖いみたいだな。

チュウバイ
チュウバイ

いいことだ、少なくともそこまで頭のネジが外れていないことになる。

(チュウバイが剣を収める)

チュウバイ
チュウバイ

人はいずれ口にした言葉に対価を払わなければならないものだ。戯言は誰でも言うことはできるが、誰しもが運があるわけではないぞ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

お前……い、一体なにが目的で……

チュウバイ
チュウバイ

家まで送り返す、道案内を頼もうか。

ここは山入りする前の最後の町、その町にある唯一の客桟である。
そこまで大きな客桟ではないため、二人は隅にある机に腰かけた。
少年は椅子に座ればすぐに、周りに目を配っていく。そのせいで、隣の机に座っている客も堪らず彼へと見返してきた。
一方仇白は、静かに剣を机に立て掛けた。

チュウバイ
チュウバイ

周りに助けを求めようとしても無駄だぞ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

あーはいはいそうですか。分かったからそいつでいちいち脅かしてくんなよ。

これまでの間、二人は実に半月もの時間を共に過ごしてきた。それまで片方が逃げればもう片方が追い、もう片方が怒れば片方が身を隠すことばかりをしてきたため、二人の間にはある種の“心の通じ合い”が芽生えていた。

店員
店員

この町から真っすぐ北に向かって森を超えれば、河が見えるはずだよ。河を超えたら山に入るけど、そっからは一本道だから、そのまま山道に沿って進めばいい。

店員
店員

山ん中には多分まだ村が何個か残ってるんじゃないかな?でもここ数年でだいぶ引っ越しちゃったようだから、お姉さんが探してる“謀善村”がまだそこに残ってるかどうかは分からないね。

チュウバイ
チュウバイ

どのくらいかかりますか?

店員
店員

険しい道だからね、急いでも一週間はかかると思うよ。

店員
店員

あとそうそう、もう春に入ったからね、暖かさで獣たちも活動し始めてるはずだ。道を急いでるにしても、気を付けたほうがいいよ。

チュウバイ
チュウバイ

ありがとうございます。

チュウバイ
チュウバイ

“江湖を渡り歩いてきた”とは言うが、家からそこまで離れてもいないじゃないか……なんならその家から逆の方向を案内するとばかり思っていたぞ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

お前みたいな厄女と出くわしたら、渡り歩けたはずのもんもロクに歩けねえだろうが……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

それにおれだってバカじゃねえんだ。もし人がまったくいねえような場所に連れて行ったら、お前と一緒に飢え死にしちまうだろ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

逃げるんだったら、もっとほかの方法を考えるよ。

チュウバイ
チュウバイ

フッ、そこは頭が冴えているんだな。

チュウバイ
チュウバイ

まあいい、まずは腹ごしらえだ。町を出れば、いつまともな飯にあり付けられるか分からないからな。

チュウバイ
チュウバイ

食べたいものがあれば、自分で注文しろ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なんでもいいのか?お前の奢り?

チュウバイ
チュウバイ

私もそこまで金は持っていない。万が一代金が足りない場合は、君をここに残して皿洗いをさせる。

店員
店員

冗談はよしてくれよ、お客さん。うちみたいな小さい場所、金が足りなくなるほどのご馳走なんか作っちゃいないって。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

フンッ、なら遠慮はしねえからな。メニューを寄越せ!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

これと、これと、あとこれ……ああもう、とりあえずこっからここまで全部だ!

店員
店員

えっと、お客さん二人だよね?その量の注文はちょっと……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

(茶水で机に字を書く)

店員
店員

ん……?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

(“誘拐されてる”)

店員
店員

――!?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

(“警察を”)

チュウバイ
チュウバイ

注文し終えたか?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

ああ、とりあえず頼む!

店員
店員

あ、あいよ……

(店員が立ち去る)

チュウバイ
チュウバイ

どこに行く?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

厠だよ、まさかそこまで一緒について来るつもりか?

チュウバイ
チュウバイ

……

チュウバイ
チュウバイ

余計なマネをするんじゃないぞ。

(シャオシーが立ち去る)

店員
店員

さっき向こうにいる子どもがこっそり、自分は誘拐されているって伝えてきたんだ……

店員
店員

店に入って来る際は普通の姉弟と思っていたから、何も疑っちゃいなかったんだけど……一体あの子の身に何が……

???
警察

それで、その誘拐犯はどこに座っているんです?

チュウバイ
チュウバイ

……はぁ……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

ゼェ……ハァ……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

あの女……さすがに、ここまでは追ってこれねえだろ……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

ヘッ、このおれを捕まえようだなんて、百年はえーってんだ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

にしても、ツいてねえぜ……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なんだよ“山海衆”って……てっきりどっかのデカい一派かと思ってたのに、あっさり女一人に全滅させられやがって。おかげでこっちも追われる身だよ……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

金は稼げてねえし、ロクに武術も学べてねえし。せっかく手に入れた干し肉もなくしちまったしで……

ファン・シャオシーはそのまま座り込むも、地面はとても固く冷たい。
二言ほど罵り終えれば、腹がそれよりも大きな声を発するのであった。
志を高く掲げていても、今ここにいるのは江湖を練り歩いて名を上げようとした、背中に腹の皮が付きそうになっている一人の少年だけであった。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

さっき少しだけ飯を口に入れてから逃げればよかったなぁ……これからどうすれば……

チュウバイ
チュウバイ

言ったはずだぞ、三度目はないと。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なっ、なんで――

チュウバイ
チュウバイ

私にも我慢の限界ってものがあるんだぞ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なんでそこまでおれに突っかかってくるんだよ!?

チュウバイ
チュウバイ

子供を荒野で野放しにしても死ぬだけだ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

死んだら死んだで別にいいじゃねえか!お前になんの関係があるんだよ!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

小さい頃から誰にも心配されたことなんてなかったのに、なんで今さらそんな……

チュウバイ
チュウバイ

自分の命すら惜しくない人に、他人が心配する余地などあると思うか?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

お前に何が分かるってんだよ……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

小さい頃から辺りを彷徨って、誰にも助けられずに独りで生き抜いていく暮らしの辛さを知らないくせに……

チュウバイ
チュウバイ

……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

いつもいつも知った風のことを言いやがって!お前みたいなスゲー武術を習った剣客が、おれの苦労を知ってるわけが――

(獣の咆哮)

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

――!

少年は振り向けば、この森の中で唯一腹を空かせている生き物は自分だけではないことをそこで初めて知った。暗い木々の影から、ぬらりと一匹の肉食獣の姿が現れたのだ。
肉食獣の血眼はまるで暗い夜を彷徨う鬼火のように見え、草木は低い唸り声に怯えて背を丸めているようにすら見える。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

た、助け……

チュウバイ
チュウバイ

動くな!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

う、動けないって……

チュウバイ
チュウバイ

大声を出すんじゃないぞ。走っても、背を向けるのもダメだ。

チュウバイ
チュウバイ

慌てないで、ゆっくりとこっちに近づくんだ。私の後ろに……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

む、ムリだよぉ……

(獣が襲いかかる)

チュウバイ
チュウバイ

まずいッ――

(チュウバイがシャオシーを押しのけ獣に斬りかかる)

柔らかい落ち葉を踏んづけてしまったのか、それともあまりにも気を張ってしまっていたのか、少年は咄嗟に走り出したと思えば、思いっきり地面に躓いてしまったのである。
それにより肉食獣のほうは恐怖の匂いを嗅ぎつけ、一瞬の隙を逃がさずに襲い掛かるが、それは女剣客のほうも同じであった。
仇白からすれば、戦場で襲い掛かってくる刀剣と比べて、肉食獣の爪など脅威ではなかった。
だがそれも、背後に守らなければならない子供がいなければの話だ。

チュウバイ
チュウバイ

さあ、食べよう。

チュウバイ
チュウバイ

君の干し肉を台無しにしてしまったからな、焼き獣肉で弁償だ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

お前、大丈夫なのかよ……?

チュウバイ
チュウバイ

なんのことだ?

チュウバイ
チュウバイ

この肉食獣に少し引っ掻かれたことを指してるのか?それともさんざん君に腹を立たせられてきた私のことを心配しているのか?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

これ……やるよ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

親父から薬の作り方を教わったんだ。狩りをする時はいつも持ち歩いていたから、そういう噛まれたり引っ掻かれた傷に効くって。

チュウバイ
チュウバイ

それは毒薬じゃないってどうやって信じればいいんだ?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

……

少年は小刀を取り出し、自分の腕にそこそこ深い傷を作り出せば、そこに薬瓶の粉末を塗りたくった。
歯を食いしばるほどの痛みではあるが、それでも少年は根性で声を抑えた。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

これなら信じれるだろ?

チュウバイ
チュウバイ

……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

獣一匹に手こずるなんて、剣術の達人とばかり思っていたのに。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

ふーん、肉食獣の味ってこんなもんなのか……うえッ、硬いし血腥い。

チュウバイ
チュウバイ

野外で火の通った肉が食えるだけでも贅沢というものだ、あまり文句を言わないでくれ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

それもそっか……あいつらと山の洞窟にいた時は、数か月も肉にあり付けられたなかったんだし。

チュウバイ
チュウバイ

あいつらとは、君の“手下”たちのことか?そこそこ名を轟かせている大悪党も、腹を満たせない日があるんだな?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

チッ、ここぞとばかりにバカにしやがって……

チュウバイ
チュウバイ

君のような年頃の子供が、家族とケンカして家出していったところならそれなりに見てきたものだが、自分のことを大悪党などと呼ぶヤツは初めてだ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

……舐められたくないからそう呼んでるだけだよ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

いい人だろうが悪い人だろうが、誰からも恐れられる人にならなきゃ、結局イジメられるだけだろ。

チュウバイ
チュウバイ

なんだその屁理屈は?誰に吹き込まれたんだ?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

自分で思いついたんだよ……経験ってもんだよけーいーけーんー!

チュウバイ
チュウバイ

フッ、半分は正解だな。

チュウバイ
チュウバイ

誰からも恐れられる人になればイジメられることはなくなるかもしれないが、却ってその人たちは手を組んで君をやっつけに来る。

チュウバイ
チュウバイ

イジメられたくなければ、とにかく敵を作らないことだ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

……一つ、聞いてもいいか?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

そんなスゲー武術、一体どこで学んだんだ?

チュウバイ
チュウバイ

荒野を五年練り歩いて、さらには戦場に放り出されて五年、それまで生きていれば、誰しもそれなりに武術は身に付くさ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

……もっとすごい人にも会ったことがあるぞ、私はその人から教わったんだ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

お前よりもスゲーのか?

チュウバイ
チュウバイ

比べられないほどにな。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

じゃあ俺が今からちゃんと鍛錬を重ねたらさ、どのくらいでお前ぐらいになれるんだ?

チュウバイ
チュウバイ

十年だな。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

十年ッ!?

チュウバイ
チュウバイ

それまで生きていればの話だが。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

え、えへへ……ね、姉さん~。

チュウバイ
チュウバイ

……なんだ急に?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

剣客の姐さん……おれを弟子にしてくれねえか?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

これからどこへだってついて行くし、義侠もやっていくからさ、姉さんのことを師匠って呼ばせてくれ!

チュウバイ
チュウバイ

弟子は取らないし、易々と他人に武術を教えるつもりもない。

チュウバイ
チュウバイ

それにあんなに悪さをする君に武術を教えてしまったら、却って本物の大悪党を育て上げたことになってしまうだろ?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

おれを姉さんみたいなスゲー武人に育ててくれれば、もう誰かにイジメられることもないだろ!そしたらちゃんと言うことを聞いていい人をやるからさ、お願いだよ~!

チュウバイ
チュウバイ

ふふっ、そういう私はいい人に見えるのか?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

えっ……まあ、うん……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

だっておれを助けてくれたし、今も食べ物を分けてくれたし……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

あんなにつえーのに、物を奪わないでちゃんと金で払ってるんだから、あいつらとは違うと思う……

チュウバイ
チュウバイ

ふっ、まったく善悪の分別がついていないわけではないみたいだな。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

でもやっぱり分からねえんだ、なんでおれを助けてくれたのか……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

姉さんたちみたいな凄腕の人たちって、みんなこんなに“お節介”なのか?

チュウバイ
チュウバイ

私はもう君に何個も質問に答えてやったはずだぞ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なあ姉さん……おれを弟子にしなくてもいいからさ、姉さんと一緒にいさせてくれよ。どこへだって行くからさ、家だけはマジで勘弁してほしいんだ。

チュウバイ
チュウバイ

なら、一つ聞きたいことがある。

チュウバイ
チュウバイ

どうしてそう頑なに帰りたがらないんだ?ずっとその家の鍵を持っていただろ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

おれ、家を出た時に決心したんだ。絶対大物にならない限りは帰らないって。

チュウバイ
チュウバイ

家に家族はいるのか?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

母ちゃんは物心がついた時からいないけど、父ちゃんならまだいる、はず……ほかはいないよ。

チュウバイ
チュウバイ

だったらなおのこと家に帰るべきだ。きっと心配してるはずだぞ、それでもいいのか?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

帰ったところで喜んでくれるとは限らねえよ……村のみんなはおれのことが嫌いだし、見下してイジメてくるし……言っても姉さんには分からねえって。

チュウバイ
チュウバイ

もう一回言うぞ。他人と仲良くしたいのであれば、その人たちを敵に回すな、だ。

チュウバイ
チュウバイ

何より君はまだ子供じゃないか。子供がそんな村重に恨まれる仇を持つことなんてあるのか?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

姉さんすら腰を抜かすような大悪事をやったことがあるって、おれ言っただろ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

とにかく、何も成し遂げられずに生きるぐらいなら、死んだほうがマシだって、おれは考えてるんだよ。

チュウバイ
チュウバイ

この地にどれだけの人間が苦しみながらも生きる機会を得ようとしているのかを知れば、そんなことも言い出せないはずだ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

はぁ、もういいや。姉さんには口でも腕っぷしでも敵わねえんだし、もうなんとでも言ってくれ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

じゃあ最後に。どうして姉さんについて行っちゃダメなんだ?

チュウバイ
チュウバイ

江湖を練り歩くのは危険だからだ。それに君のような子供なら、放浪するよりも帰るべき場所に帰ったほうがいい。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

じゃあ姉さんは?姉さんの家はどこにあるんだよ?

チュウバイ
チュウバイ

……家ならもうない。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

ないってどういう意味だよ?天災で?それとも移動都市がそこを通るから更地にされたとか?

チュウバイ
チュウバイ

とにかくなくなったんだ。住む場所も、人もな。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

じゃあさ、姉さんことを色々と教えてくれよ!ずっと俺のことばっかりだし……そうだ、名前だ!姉さんの名前をまだ聞いていなかった!

チュウバイ
チュウバイ

仇白(チュウバイ)だ。仇敵の仇(チュウ)、白雪の白(バイ)。

チュウバイ
チュウバイ

名もなきただの剣客だ、面白い話なんてないぞ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

ちぇっ、なんだよ。まあ喋りたくないのなら別にいいけど。姉さんみたいな武侠ってのは、みーんなそうやって素性を隠したがるんだな。

チュウバイ
チュウバイ

話したくないのは、聞いても気まずくなるだけだからだ。

チュウバイ
チュウバイ

さあ、明日もまだまだ歩かなければならない。腹がいっぱいになったのならはやく休みなさい、体力を温存しなければな。

「森を越えて、河を渡れば山に入れるよ。」
いいや、あれは山と呼ぶよりも、山々が合わさってできた森と呼んだほうが正しいだろう。
山同士が繋がり、一つの山頂がもう一つの山の麓と連なっている、そんな山の森。終わりも道も、どこにあるのか見当もつかない。
見渡す限り、その深山だけがこの地から切り離されているように思えてしまう。距離も遠いためか、そこだけの時間がまるで止まっているかのように見える。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

もうすぐだ!たぶんここで合ってると思う!

チュウバイ
チュウバイ

一体なんのつもりだ?わざわざ遠回りしてまでこんな山を登って。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

ここの山頂に登れば、たまに玉門の都市が見れるって聞いたんだ!

チュウバイ
チュウバイ

……

少年は懸命につま先を立たせ、山頂の崖から西の方向を見渡す。だが見渡す限りは荒野が広がるばかりであり、地平線も朦朧とした黄砂に覆われて何も見えない。やがて少年の顔色には、落胆の色が浮かび上がってきた。
だがチュウバイには分かっていた。二人の視界のさらに外、あの満身創痍の移動都市は今も傷を舐め、気を張り詰めながら荒野のどこかを走っているのだと。

チュウバイ
チュウバイ

数年前ここを渡った時は、もっと荒涼としていたはずだ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

前にもここに来たことがあるの?

チュウバイ
チュウバイ

かなり前にな。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

それってやっぱ馳道(ちどう)があったからだろ!ほらあそこ!

崖のもう片側を見下ろせば、そこには目を引くような灰色の道路が荒野に敷かれている。地形に沿って、視界の端まで曲がりくねりながら伸びている。
“馳道”とは、天災対策の一環で辺鄙な地域へ物資を届けるために炎国が開通させた、いわば国道や高速のような役割を持つインフラ設備のことを指す。
このような道路は全国に点在する百余りもの移動都市と、果てしない荒野を繋げている。
猛々しい山に穴を開き、窪地には橋をかけて道を繋いでいく。そのところどころに設けられた補給ステーションはさながら均等にできた竹節のようであり、生きるチャンスというものをこの道路が繋げている隅々まで行き届かせているのだ。
もし神々がこの不毛な地を見捨てたと言うのであれば、人間はそれを新たな血管として作り変えたと言えるだろう。
この大地はとても残酷なものだが、人間の力が及ばないわけではない。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

家を出た後、たまに馳道を工事する人たちを見るんだ。にしても、こんな道を直してなんの意味があるんだ?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

移動都市みたいにあちこち動き回ることができるわけでもねえんだし、天災が襲ってきたら全部台無しじゃねえか?

チュウバイ
チュウバイ

その移動都市の渡れない場所を、ああいった道路が繋いでくれているんだ。

チュウバイ
チュウバイ

壊されてしまったのならまた新しく作り直せばいい。やらなければならない公共事業だからな、労力も物資も惜しみなくそこへ割かれる。

チュウバイ
チュウバイ

だがその道を敷いてくれている人々がいるということと、道の有難さを知ってくれている人は……極々わずかだ。

以前、この山道に天災が押し寄せた。天災はそのまま玉門へと襲っていき、都市そのものに甚大な被害を与えはしたが、その代わりとして新たな英雄譚もそこで生まれた。
一方ここは人里から離れているため、負傷者も建築が被害を受けることも発生していなかったため、ここで起こったことはほぼ誰にも知れ渡っていない。
だがそんな場所では、今や施設復旧部隊のみがせっせとこの無名の馳道を修繕しているだけであった。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

この道をずーっと西まで辿れば、玉門に着くらしいぜ。姉さんは色んなところに行ったことがあるって言ってたけど、玉門にも行ったことがあるのか?

チュウバイ
チュウバイ

ああ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

この前あの連中と一緒につるんでいた時、人手を募って玉門で大暴れするって言ってたんだ。でもあいつら、おれは実力がないからって、全然連れてってもらなかったんだよ。

チュウバイ
チュウバイ

それなら、君を連れて行かなかったあの人たちに感謝すべきだな。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なあ、玉門って一体どういう場所なんだ?英雄とも呼べるような人たちがいたり、すげー軍隊とか武器があるような場所なんだよな?

チュウバイ
チュウバイ

いいや……むしろあそこは極々普通の人たちが、極々普通の暮らしを過ごしていただけの場所さ。

チュウバイ
チュウバイ

玉門は年中、砂嵐が吹く砂漠の中を彷徨っているんだ。そこでの暮らしは大変なものだぞ、君が想像しているものよりも華はない。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

苦労なら平気だよ、デカいことができればそれでいいんだ……いつまでも山の洞窟に引き籠もっているよりはマシだし。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

まあとにかく、おれの目標は変わらねえさ……だから今は姉さんの言うこと聞いて、ひとまず家に帰ってやるよ!そこでしっかり準備したら、また山を下りるけどな!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

次ここに立った時は、きっとここら一帯に名を上げている――いや、天下に名を轟かせている大武侠になっているって誓いを立てるぜ!

チュウバイ
チュウバイ

なら、まずはしっかりと人として成長しなければならないな。もし“悪名高い”方小石になっていたのなら、また懲らしめに来させてもらうぞ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

チッ、こういう時ぐらい冷やかししなくてもいいだろ……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

まあいいや、この山を越えたら謀善村だ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

そっからの道は憶えているから、心配はいらないぜ。

早朝、朝日は山霧を払い除け、風に吹かれて斜めになった炊煙が何本も村から上がっている。
遠くにある山頂付近を見上げれば、雪はまだまだ融け切っていない。その麓には、ちらほらと田んぼが広がっている。
おそらくは耕していた途中で雨に降られたのか、畝を作るための土は固められる前に流されてしまい、田んぼは泥濘と化している。
耕されていない箇所も、土は固まってしまっている上、麦わらも未だに首を重く垂れ下げている。
三月末の春分の日、一年を通してやってきた農作業の終わりと始まりでもあり、休むこともままならない。
田畑を耕している村人も犂を置き、曲げた腰を上げて揉み解しながらひと息ついていた。

耕作する村人
耕作する村人

ようやく晴れ間が来てくれたか。日差しもちょうどいいし、こりゃ今日はいい日になりそうだ。

耕作する村人
耕作する村人

はやくここも耕しておかねえと、って――

耕作する村人
耕作する村人

お、おおおお前は!?

(シャオシーが村人に近寄る)

耕作する村人
耕作する村人

ファン・シャオシー……?ファン・シャオシーなのか!?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

おー、大遠(ダーユエン)のおっちゃんじゃん?その通り、おれサマが帰ってきたぜ!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なんだよ、そんなおっかなびっくりした顔して?肥料を餌に間違えて、おっちゃんとこの飼槽に入れちゃっただけだろ、それも三年も恨まなくもよくねえか?

耕作する村人
耕作する村人

お前……ゆ、幽霊じゃねえよな?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なに言ってんだ、当たり前だろ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

れにしてもおっちゃん、三年も会わないうちに余計背中がひん曲がっちまったな。

耕作する村人
耕作する村人

え、えらいこっちゃ……えらいこっちゃあ!

耕作する村人
耕作する村人

はやく族長に報せておかねえと!

(村人が走り去る)

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

ほら見ろ、村中から嫌われてるって言っただろ。

チュウバイ
チュウバイ

嫌われているより、怖がられているように見えたが。

チュウバイ
チュウバイ

あんなに慌てふためいて、一体どれだけの悪事を働いたんだ?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

それを言うのなら、まずはどっちが先に手を出してきたのかを聞くべきだぜ!

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

どこだって一緒だ、一番イジメやすそうなヤツをイジメるんだ……でもこうして帰ってきたからにゃ、もう村の人たちなんか怖かねえぜ!

チュウバイ
チュウバイ

……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

どうしたんだよ、そんなキョロキョロして?ここまで貧しい村は初めてか?

チュウバイ
チュウバイ

君はまだまだ見識が狭いな、と思っただけだ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

ちぇ、なんだよそれ。

チュウバイ
チュウバイ

だが土地神を祀った御廟を村の入口に建てた村なら、確かに初めて見るな。

チュウバイ
チュウバイ

それに、なんで御廟の隣に墓が建てられてるんだ?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

墓ぐらい珍しいもんでもねえだろ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

なんで廟の隣に置かれたかは知らねえけど。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

まあいいや、お前が誰なのかは知らねえけど……ここに埋まってるってことは、お前も村の一員だったんだろうな。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

死んだら死んだで、これ以上苦しまずに済むんだから、それもいいことだよな。

少年はその墓前でしゃがみ込み、手を合わせる。平然そうに縁起でもないことを言っているが、その姿勢は真摯なものであった。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

おれん家ならこの先だ、もうすぐだよ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

……

チュウバイ
チュウバイ

どうした、行かないのか?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

おれ……

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

……まあいいや、ここまで来たら逃げられるわけでもねえんだし、全然怖かないね。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

父ちゃーん、帰ったぞー。

とても小さな土壁の家だ、どうやら家主はいま留守らしい。屋内には雑貨物が大量に置かれているが、ほかと比べればまだ整理整頓されてるほうだろう。
かまどに置かれていた残飯を見て、少年もほっと一息ついた。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

おっかしいなぁ、どこ行ったんだろ?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

もしかして畑かな……ちょっと探してくるよ。

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

父ちゃーん……父ちゃーん?

ファン・シャオシー
ファン・シャオシー

どこにいるんだよ……

(村人達がぞろぞろと集まってくる)

耕作する村人
興奮した村人

あいつを捕まえるんだ、逃がすんじゃねえぞ!

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