(レイモンド、どうしちゃったんだろ?あんな勿体ぶって……)
(今じゃなくて夜にならないと言えないことってなに?)
(はぁ……考えても分かんないし、とりあえず放っておこ。)
(それにしても、レミュアンさんお腹空かせちゃってるんじゃないかな……給仕がこんな夜遅くになっちゃって。それにこれっぽっちしかない。)
(……)
(フォルトゥーナの腹の虫が鳴る)
(ダメよ、あなたはさっき食べたでしょ!しっかりしなさい、私のお腹!)
(はぁ……)
(いつか何も考えないで、お腹がパンパンになるくらいのご馳走を食べてみたいなぁ……)
(物音)
……!
だ、誰?
誰かそこにいるの?言っておくけど、も、もうバレてるんだからね……!
……
そこ、誰か隠れてるんでしょ?
黙ってても、わか……見えてるからね!あなた、修道院の人間じゃないわね!
(フォルトゥーナな銃を構える)
はやく姿を見せなさい!さ、さもないと、人をよ……いや、銃を撃ってやるから!
わかったわかった、いま出るから。
あ~あ、失敗しちゃったな~……
(スプリアが姿を現す)
あなたいい目してるね、私の羽がうっかり出ちゃってたのかな?やっぱ人ぞれぞれヘイローと羽の見た目が異なってるサンクタが自分の正体を隠すなんてムリムリ。
ホント、ここなら堂々と廊下を歩いても問題ないと思ってたんだけどな~。
……見ない顔だわ、あなた誰?
やっほ~、こんにちは。まあとりあえず銃を下ろしてよ~、イイ子ちゃんが同族に向けていいモンじゃないよ、それ。
あなたもサンクタなら分かるでしょ、敵意はないって~。
私の正体はまあ……正義の味方って感じ?まあそんなところかな、人を助けに来たわけだし……
……言いたくないのなら結構よ、今すぐ人を呼んでや――
(スプリアがフォルトゥーナの口を塞ぐ)
まあまあ、そう焦んないでよ~。
むぐぐ!
もごご!(放して!)
(スプリアが手を離す)
いいけど、大声は出さないでね?
っぷはぁ!ハァ……ハァ……
ごめんごめん、ちょっと力強すぎちゃったかな?大丈夫?
ハァ……ゲホゲホッ……あなた一体誰なの?なにが目的!?
言ってもいいけど、本当に人を助けに来ただけだってば。
私たちと同じサンクタ、ピンク色の髪の毛をしていて今はまだ車椅子に乗ってるかな?見た目は優しそうだけど、性格はそこまでな人を探してて……
(それってレミュアンさんのこと!?)
おやおや~?その表情……もしかして知り合い?私ってばラッキー、こうも早く見つけちゃうなんて。
さっき持ってた料理、それ誰に渡すつもりだったの?そうだねぇ、もしかしてレミュアンって人に渡すつもりだったとか?
(うそ!?)
(なんで分かったの!?)
あはは、また当たっちゃった~?あなたの顔、分かりやすすぎるよ~。
それじゃあ教えてくれないかな?そのレミュアンさん、最近元気にしてる?
……
話したくないのか、それとも話せないのか……あなた迷ってるね、しかもちょっと怖がってる。
て、適当なこと言わないで!
適当なこと言ってないよ~、一番それをよく知ってるのは自分でしょ?
ほかにも悩みがたくさんあるみたいだね。おっかしいなぁ、こういう隔離された場所に住んでる人ってあんまり悩みはないって思ってたのに。
一体どうしてなのかな?あんまり同族のサンクタが少ないから、ほかの人たちと険悪な関係になっちゃってるとか?
……あなたには関係ない。
違うの?じゃあ……その手に持ってる守護銃が使えなくなっちゃったから、とか?見た感じかなり錆びついてるから、もうずっとメンテしてないんじゃない?
それが原因だったら手伝ってあげてもいいよ?私、銃のメンテは得意だから。レミュアンがどこにいるのかさえ教えてもらえればいいからさ。ね、お得でしょ?
だから教えてほしいな~、あなたも私がどういう人かは予想ついてるんでしょ?あなた賢そうだし。
……
あなたもレミュアンさんと同じ、ラテラーノから来た人なの?
ピンポーン、そうだよ。
さっ、無駄話はここまでにしておいて。私まだ急いでるから。
本当にレミュアンの居場所を教えてくれないの?
……
ふーん。まっ、話したくないんだったら別にいいよ。
あっ、そうそう。
(スプリアがフォルトゥーナが持っていた食事を手に持つ)
給仕の仕事は、私に任せてもらえればいいから。
あっ……!
じゃ、そういうことで。じゃあね~。
(スプリアが立ち去る)
(銃声と人が倒れる音)
これで最後の一人だ。
こいつら……本当に強盗なのか?結構しぶとかったぞ。
そっちはどうだ、フェデリコ?かなりでかい音が聞こえたけど、建物は壊しちゃいないだろうな?
いえ。
そうか、ならご苦労さん。こっちは片付いた。
本当にありがとう、お二人ともすごいんだね……
これだったら、あの強盗たちもしばらくは大人しくしてくれるだろう。
それを聞く限りじゃ、一度や二度襲われただけじゃなさそうだな?
いつもこんな目に遭っているのか?
お前らがラテラーノから来たって言うんだったら、ここまでの道中がどれだけ過酷なものかは分かっているはずだろ。
もし乗り物がなかったら、近づくことすら難しかったかもな。
後がない人じゃなきゃ、誰もこんな場所でうろつきたかねえよ。
見ての通り、周りの荒野にはこの修道院しかねえんだ。あのクソどもに見つかれば、のこのこと見逃してくれるはずもねえ。
うん。それにもうじき冬になるから、襲われる頻度もますます高くなってくるんだ。
そうだ、この前ベニーが右足をやってしまっただろ?今どうなってるんだ?
まだちょっと痛むらしいが、我慢すればなんともないってよ。
……
そ、そうだ。そういえばお二人はどういう……
ラテラーノから来た者だ。強いて言えば、使いの者ってとこかな?
ら、ラテラーノからの……えっと、どうお呼びすれば?
ラテラーノ公証人役場執行部門のフェデリコです。
同じく執行人のリケーレだ。ほかにひとり同行者がいたんだが、先に入られてしまってね。
フェデリコさんに、リケーレさんだね。
ちっとも驚かないんだな。
ラテラーノならきっとまた人を送り込んでくると、みんな思っていたから。
てっきり、もっと過激な……
のっぽで覇気のないこの男は無意識にこのラテラーノ人たちが手にしている銃のほうへ目を向けた。
もっと直接的な方法を取るんじゃないかって思っていたよ……
断罪?なにか罪を犯したのですか?
公証人役場では、大半の者がそこで自首し、なおかつ相手から赦免を得ることができれば、情状酌量の余地をもって減刑することも可能です。
じ、自首?減刑……?
おい、このクソ野郎一体何を言っていやがるんだ!?
待て待てフェデリコ!今はまだここの状況を掴めていないんだ、そういうのはレミュアンとオレンを探し出してからにしてくれ!
すまない、脅かしてるつもりはないんだ。ちょっとここの責任者に会いたいから、一声かけてもらえないかな?
あっ、うん!ちょっと待っててね、今すぐお呼びするから……
(主教とジェラルドが近寄ってくる)
その必要はない。
お二方が助力してくれて感謝をするよ、そなたらが探している人はまさにこの儂だ。
すまない、少し遅れてしまった。
主教様!それにジェラルドさんまで……
ジェラルドの兄貴!
あなたがこの修道院の主教様ですか?そちらの、ジェラルドさんだって?ここの責任者で?
……いいえ。
その人は違います。
はは、確かに責任者と言えるほど立場ある人間じゃないさ。
……
そなたらに聞きたいことが山ほどあるのはこちらとしても承知している。
その前に場所を移そうか、もっと話し合いに適したところに移動しよう。
クレマン、門を閉めてくれ。しばらくはほかの者たちを入らせないようにな。
しかし主教様……
私がいる、心配するな。
レイモンド、お前もだ。やることがまだ残っているだろ、戻っていなさい。
……分かった、気を付けてくれよ、兄貴。
(レイモンドが立ち去る)
じゃあ門の外で待っていますから……何かあったらいつでも呼んでください。
(クレマンが立ち去る)
さて、これでゆっくりと話をすることができるな。
自己紹介がまだだった。儂はここで主教を務めているステファノ・トッレグロッサだ。この修道院の院長も兼任している。
わざわざ遠くから来てくださったというのに、もてなしができず申し訳ない……
堅苦しいご挨拶なら結構でしょう。
我々は教皇イヴァンジェリスタ11世の命を受け、連絡が途絶えた特使二名の捜索に来ました。レミュアンとオレン・アギオラス、彼女らは今どこに?
……
儂が言えることは……
少なくともレミュアン殿はこの修道院内におられる。
心配は無用。客人に手荒な真似をするつもりはない、彼女ならとても安全だ。
ではオレン・アギオラスのほうは?
オレン殿の行方は……こちらのほうこそ知りたい。
そのオレン殿がラテラーノに連絡を入れたから、そなたらが駆けつけてきたのではないのか?
……なんですって?
すみません主教様、今あなたが述べた内容とこちらが把握してる情報に少々齟齬があるみたいで。
こちらは、荒野にあるこの修道院がラテラーノに向けて救助の手紙を送ったため、特使二名を送り込んだものの、その後二人とも連絡が途絶したという内容です。
だからそのこともあって、教皇聖下から捜索と調査の任務を受けて俺たちがここに来たんですが……
ここまで何か、そちらが把握してる情報や内容と食い違いが起こってる箇所はあります?
……オレン殿は逃げたのだ。儂らでは引き留められなかったよ。
それはつまり、オレンは身動きが制限されていないということですね。
そのことについてなら私が保証しよう。あのオレンという特使は警戒心が強いと伺える。
レミュアン殿へここに残ってもらうよう“お願い”を申し出た時、こちらの不注意の隙を突いて、包囲していた我々から脱出して逃げていったんだ。
その後の行方は私たちでも分からない。
フェデリコ。
はい。
オレンは逃げた。が姿を見せることもなければ、連絡を寄越すこともしない。
なにか嫌な予感がしないか?
ええ。
相槌以外にもなんか言ってくれよ……
まあいいや。ところでマントを羽織ってるあんた、ここにいる一般の人たちはこの件について把握しきれていないと思うんだが……あんた一体何者なんだい?
ここで身を寄せている狩人たちの代表みたいなものだ、ここに住んでいる人たちの護衛も兼ねている。まあ私のことは気にしないでくれ。
……
そうか。なら、今はそういうことにしておこう……
オレンのことならひとまず放置しても問題はないでしょう。しかしレミュアン特使のことについては、合理的な説明を求めます。
なぜいち修道院が援助しにやってきた特使の身柄を拘束しているのですか?返答次第では、こちらも行動を改めなければなりません。
……お二方がラテラーノからの使者というのであれば、この修道院の経緯はよくご存じのはず。
任務に記載された内容に限って言えばそうでしょう。
十数年前……我々は天災を避けるために誤ってこの荒野に迷い込んでしまったのだ。燃料は使い果たしてしまい、そのままここに閉じ込められてしまったのだよ。
外界と通信することはまったく叶わず、儂らは自給自足を試みるしかなかった。だがもとからこの土地は痩せていてな、今日まで満足いく食料は作れていない。
それだけではない。荒野に住まう獣たちと獣たち以上に狂暴な強盗たちも大きな脅威だ。
あの頃はほかに成す術がなかったのだよ……
そのためあなた方は、荒野に彷徨う流浪人たちを引き取ったということですか。
……
「引き取った」なんて横柄な。「引き取った」わけではない。
儂らはただ、寄る辺のない人たちを受け入れただけだ。様々な因縁によって帰るべき家を失った人たちはいるものだろう?だから儂らが彼らに家を与えた。
ステファノ……
話の腰を折って申し訳ないのですが……
一つ、急いで確認したい事項があります。
おい待て、フェデリコ。あんた一体何をするつもりで……
(フェデリコがジェラルドに斬りかかり、フードを剥ぐ)
――!よ、よせ!
執行人殿!何をするつもりだ!
確認できました。
……
あんた、無茶し過ぎだぜ……
だが、こりゃでかい発見だ。主教様、これは一体どういうことなんですか?
なぜラテラーノの修道院内に――
サルカズがいるんです?
……
……まったく困った人たちだ……
もし不快にさせてしまったのでしたら、お詫びを申し上げます。
ただ、なるべくこちらの質問に答えてくださったほうが賢明でしょう。あなたは一体何者ですか?
言ったはずだ、私はただの狩人。狩人のジェラルドだ。
……と言っても、信じちゃくれないようだが。