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【アークナイツ大陸版】空想の花庭 HE-2「いのちの水の河」行動前 翻訳

アルトリア
アルトリア

昔々、遠い遠いある場所に、とある村がありました。そこには幸せな村人たちが暮らしていたのです。

アルトリア
アルトリア

彼らのうちの一部の人たちはみんなのために雨風をしのげる小さな家を建て、畑を耕してくれていました。

アルトリア
アルトリア

一方狩りに出かけたり、鉱石を探したり、ついでに村を奪い取ろうとする悪者たちを追い払ってくれる人たちもいました。

アルトリア
アルトリア

その村人たちは誰それ分け隔てることもなく、共にその小さな村の中で暮らしていて、みんなこの村こそが我が家だと考えていました。

アルトリア
アルトリア

けど収穫できる農作物は次第に減り、狩りもうまくいかない日々がやってきます。食べられるものはますます減り、みんなのお腹はぐーぐーと悲鳴を上げるばかり。

アルトリア
アルトリア

季節もどんどん寒くなっていき、それでも暖を取るための燃料はいつになっても足りません……

アルトリア
アルトリア

一体どうすればいいんだろう!村のみんなはこう言いました。「これはきっと主が私たちにお与えになった試練です、赦しを頂けるように祈りましょう」と。

アルトリア
アルトリア

その時、村の者ではない心優しい人たちがやってきました。そして村の境遇を見て、村人たちの長と呼べる人にこう話したのです……

アルトリア
アルトリア

「私たちと共に、私たちの都市に移住しましょう」

アルトリア
アルトリア

「けれど、あなたたちの中から連れていけるのは私たちに似た一部の人たちだけです」

アルトリア
アルトリア

「さあ、共により良い暮らしをすごしましょう。あなたたちの中にいる、ほんの一部の人たちを切り捨てさえすればいいのですから」と。

ボロボロな服を着た男の子
元気な子供

おねえちゃん、もうそのお話はイヤ!

アルトリア
アルトリア

おや、あんまり好きじゃなかったかい?

ボロボロな服を着た男の子
元気な子供

好きじゃない!おなかをすかせるの、すっごくつらいから……!

人見知りな子供
人見知りな子供

うん、とってもつらいの。それに、ほかのみんなを置いていくことなんてイヤだよぉ……

アルトリア
アルトリア

ふむ……あなたたちの言ってることは至極真っ当だ。集団主義的な観念としては「正しい」し、ほんの僅かにヒロイズム的で……ロマン主義的な感覚も伺い知れる。

アルトリア
アルトリア

ロマン溢れる物語は自然と人を突き動かしてくれるものだからね。ただし、ロマンとその傲慢さは時折他者を、あるいは私たち自身すらも惑わしてしまうものでもある。

人見知りな子供
人見知りな子供

うぅ、なんかむずかしくて分かんない……

元気な子供
元気な子供

もうおねえちゃん!またよく分かんないこと言ってる!

アルトリア
アルトリア

おっと、ごめんよ。気を遣えなくて悪かったね。

アルトリア
アルトリア

それじゃあほかのお話にしようか?何が聞きたい?

元気な子供
元気な子供

う~ん……ヒーローが出てくるお話がいい!

アルトリア
アルトリア

ヒーローになりたいのかい?

???
人見知りな子供&元気な子供

なりたい!ママみたいに!

アルトリア
アルトリア

へぇ、あなたたちのお母さんはヒーローなんだね。すごいじゃないか。

(温厚そうな修道士が近付いてくる)

アルトリア
アルトリア

……

アルトリア
アルトリア

少し待っていてね、すぐ戻って来るから。いい子にしているんだよ。

アウルス
温厚な修道士

お邪魔でしたかな、アルトリア?

アルトリア
アルトリア

分かっているくせに。わざわざ言うまでもないでしょ、アウルス修道士。

アウルス
アウルス

気に障ってしまったのなら申し訳ない。ただ別れの挨拶をしにきただけですので。

アウルス
アウルス

想定していなかった旅の仲間が一人増えてしまいまして。その同胞を故郷へ送り返すためにも、なるべくはやく出発しなければなりません。

アルトリア
アルトリア

同胞ね……その哀れな者のために、私からも少しばかりの祈りを捧げるとしよう。

アウルス
アウルス

……あなたとここで言い争うつもりはないのですが。

アウルス
アウルス

特に……あそこにいる子どもたちの前で。

アウルス
アウルス

けれど、その人の生き様に関わる決意に対して、「悲しい」だの「哀れ」だのと形容するものではありませんよ。

アルトリア
アルトリア

決意……決意ねぇ。

アルトリア
アルトリア

人間っていうのはいつだって自分自身を完璧にコントロールできるわけじゃないんだ。特に何かが起こるまで、誰だって断言することはできない。

アルトリア
アルトリア

絶対にそんなことはできないと考えていても、ふと気付いた時にはすでに行動は終わっていた。なんてこともあるからね。

アルトリア
アルトリア

その不本意な行動は責められるべきなのだろうか?そんな身勝手な決意とやらは自分を納得させるためのウソではないなんて、誰が言いきれるんだい?

アルトリア
アルトリア

そういう時に、私たちの最も真摯な感情と思考はどこに隠されてしまっているのか……

アルトリア
アルトリア

あるいは人々の思考、感情、行動は……いつになったら紐づけられるのか……

アルトリア
アルトリア

それが今あなたの抱えている疑問なんじゃないのかな、修道士様?

アウルス
アウルス

……

アルトリア
アルトリア

どうやら今日は色々と起こりそうな予感がするよ。外も騒々しいし、きっと私のよく知る人がここにやって来たんだろうね。

アルトリア
アルトリア

もし私があなただったら、アウルス修道士……こんなタイミングでせっせとここから出ていくことなんてしないよ。

アルトリア
アルトリア

やあ、お待たせ。

元気な子供
元気な子供

おねえちゃんおっそい!

人見知りな子供
人見知りな子供

おそかったよぉ……

アルトリア
アルトリア

ごめんよ。お詫びとしても、とっておきのお話をしてあげるからさ、それで許してくれないかな?

アルトリア
アルトリア

ヒーローが悪者をやっつけるお話なんだけど、どうかな?

???
元気な子供&人見知りな子供

聞きたーい!

アルトリア
アルトリア

よーし、じゃあいい子にして聞いているんだよ。

アルトリア
アルトリア

昔々、とあるお城の中に、無表情で不愛想で、でもとてもケンカが強い男の子がいました……

ジェラルド
ジェラルド

もし私が狩人という言い方に納得できないというのであれば、ほかに言い換えてもらっても構わない。

ジェラルド
ジェラルド

だが私はどこにだっている、歳を食ってしまった普通のサルカズなだけだ。

フェデリコ
フェデリコ

今述べたことがすべて真実とは限りません。

フェデリコ
フェデリコ

あなたは今武器を隠し持っています、すぐその後ろで。行動も意図的に気付かれないようこそこそとしたものとなっています、傭兵の間でよく見られる習慣です。

ジェラルド
ジェラルド

……これはただの護身術だ。

ジェラルド
ジェラルド

お前たちもさっき見ただろ、時折強盗どもがここへ襲ってくるんだ。いつだって平和な場所ではないのだよ、ここは。

フェデリコ
フェデリコ

では傭兵の間でよく見られる習慣についてはどう説明を?

ジェラルド
ジェラルド

……

ジェラルド
ジェラルド

今の私は、武器よりも農具を握ってる時間のほうが長い。

ジェラルド
ジェラルド

狩りと畑を耕すことを生業としているだけだ。たまに鉱脈を掘りに行くこともあるが。

ジェラルド
ジェラルド

つまり言いたいのは、私はお前が警戒するほどの人ではない。生活に苦しんでいるただの一般人だ。

リケーレ
リケーレ

フェデリコ、俺たちの任務を忘れるな。

リケーレ
リケーレ

今は不確定な事実を追及する場合じゃない。

フェデリコ
フェデリコ

……

(フェデリコが銃を収める)

フェデリコ
フェデリコ

……合理的な判断です。

リケーレ
リケーレ

それじゃ、なぜサルカズがここにいるかについて説明していただけますか、主教様?

ジェラルド
ジェラルド

すまない、ステファノ。また迷惑をかけてしまった。

修道院の主教
修道院の主教

……そなたが謝ることではない、ジェラルド。

修道院の主教
修道院の主教

さて、それについてなのだが……

修道院の主教
修道院の主教

十数年前、物資も食料も使い果たし、荒野で方角を見失ってこの修道院の付近にやってきたサルカズの小さな集団が現れたのだ。それがジェラルドたちだ。

修道院の主教
修道院の主教

彼らにとって、修道院を見つけた後に我々と接触することが唯一の選択肢だったのだろう……

フェデリコ
フェデリコ

そしてあなたは彼らを追い払うことをせず、ここへ定住させたということですか。

修道院の主教
修道院の主教

後がない人を追い払うことなど、死へ追いやる行為となんの違いがある?

リケーレ
リケーレ

それはまあ、そうですけど……

修道院の主教
修道院の主教

とはいえ、当初ここにいる全員が彼らを受け入れてくれるわけではなかったさ。

ジェラルド
ジェラルド

……

修道院の主教
修道院の主教

だがそんな謂れのない憎悪や隔たりなど、目の前にある暮らしと比べれば、抱いたところでなんの価値にすらならない……

修道院の主教
修道院の主教

だから儂らは彼らに身を寄せる場所を提供し、彼らはその代わりとして儂らでは手に余る問題に着手してくれるようになった。

修道院の主教
修道院の主教

満足いく食料はなく、強盗から常々襲われる脅威に晒されている上、今にも冬を越すための燃料は底をつこうとしているが……

修道院の主教
修道院の主教

儂らは彼らなしでは生きていけんのだ、それは逆も然り。

フェデリコ
フェデリコ

しかしそれでも、あなた方はラテラーノに報せを送りました。

修道院の主教
修道院の主教

そうするしかなかったのだよ……

修道院の主教
修道院の主教

ラテラーノは儂らの助けに応じ、聖都へ引き揚げてくれることを約束してくれた。

修道院の主教
修道院の主教

だが……たとえ最大限譲歩してくださったあのレミュアン特使でさえ、これだけは絶対に譲れない一つの条件を突きつけてきた。それは――

修道院の主教
修道院の主教

サルカズを連れて行くことはできない。「楽園はサルカズを許容しない」と。

修道院の主教
修道院の主教

なぜだ!なぜ彼らを許容してくれぬのだ!?

修道院の主教
修道院の主教

そういう種族だからか?彼らがサルカズであるがためにか!?

修道院の主教
修道院の主教

彼らと我らとで一体なんの違いがあるというのだ?もし戦い方に長けたこの兄弟と姉妹たちがいなければ、儂らはとっくに死に絶えていたのだぞ!

修道院の主教
修道院の主教

我々が互いに支え合いながら生きてきたこの辛い日々の中で、ラテラーノはいつ我らに援助の手を差し伸べてくれた!?

修道院の主教
修道院の主教

もう一度……頼む!どうか……!

修道院の主教
修道院の主教

英賢なる教皇聖下に、儂の信仰に……どうか……!

枯れ木のように痩せこけた老人が両腕を上げる。
その様はまるで彼の信ずる信仰を高々と持ち上げるようではあるが、その重みに耐えられないようにも見え、今にも腕が崩れ落ちそうなほど震えている。
だがサンクタの信仰は姿形として見出すことはできない。
やがて頭上に光るヘイローを徒に掴み終えたその両腕は次第に降りていき、ついには老人の皺くちゃな顔を覆い隠した。

フェデリコ
フェデリコ

レミュアン特使の言うように、ラテラーノはサルカズを許容することはできません。

修道院の主教
修道院の主教

……

フェデリコ
フェデリコ

聖都への入城も断じて許可することはできません。

リケーレ
リケーレ

おい、フェデリコ。もうちょっとオブラートにだな……

フェデリコ
フェデリコ

事実を述べただけです。

ジェラルド
ジェラルド

もういい。もういいんだ、ステファノ。

ジェラルド
ジェラルド

言っただろ、こちらもその条件は受け入れると。

ジェラルド
ジェラルド

お前たちはラテラーノに戻り、私たちは新しい場所でやり直す。あのレミュアンって特使も私たちに一定の援助をしてくれると約束してくれたじゃないか。離ればなれになるのは表面上だけだ。

ジェラルド
ジェラルド

……それが事実さ。向こうがそんな条件を出してくれるなんて思ってもみなかったんだ、それだけもう十分だよ。

修道院の主教
修道院の主教

事実でいいわけがあるか!これで満足していいわけがあるか!

修道院の主教
修道院の主教

そなたには分からんのか?表面上の離別だからこそ、ますます理不尽に思えてきてしまうのだ!

ジェラルド
ジェラルド

……

ジェラルド
ジェラルド

すまない、ステファノ。

ジェラルド
ジェラルド

こっちはもう諦めてしまったんだ。

修道院の主教
修道院の主教

なんだと……?

修道院の主教
修道院の主教

……それはつまり……

ジェラルド
ジェラルド

つまり、私たちが原因でお前をここまで追い詰めてしまったというのなら、もうそんなことをする必要はないということだ。

ジェラルド
ジェラルド

もう自分を責め立てないでやってくれ。

ジェラルド
ジェラルド

みんなの意見も一通り聞いて回った。全員ここを出る……そう決めたんだ。

修道院の主教
修道院の主教

なんだって……ここから、出ていくだと……?

修道院の主教
修道院の主教

……

ジェラルド
ジェラルド

これで何も問題はないな、執行人殿?

ジェラルド
ジェラルド

私たちはここから出ていくつもりだ。だから明日があるかどうかも分からない流れ者たちのことは見逃してくれないか?

フェデリコ
フェデリコ

罪を犯していない一般人を公証人役場は攻撃対象と見なすことはありません。

ジェラルド
ジェラルド

……それはよかった。

リケーレ
リケーレ

そいつは本当か、フェデリコ?

フェデリコ
フェデリコ

嘘は言いません。

リケーレ
リケーレ

いや……なんていうかそのー……まあいいや、今回の隊長はあんたなんだし、問題ないと判断したのならそれに従うよ。

ジェラルド
ジェラルド

約束しよう、ラテラーノの聖堂にはこれまで一度たりともサルカズが出入りしたことはないさ。

フェデリコ
フェデリコ

その事実だけで罪状が付くことはありません。

ジェラルド
ジェラルド

そうなのか?

リケーレ
リケーレ

まあ、それに関しては特に禁止されてるわけでもないからな。

フェデリコ
フェデリコ

ではステファノ・トッレグロッサ主教。あなたの供述に則り、引き続きオレン・アギオラスの捜索に掛からせていただきます。

フェデリコ
フェデリコ

それと同時に、あなたはラテラーノ側の条件を確認し、当修道院内のサルカズを除く住民たちのラテラーノへの移住に同意した、と見てもよろしいでしょうか?

フェデリコ
フェデリコ

もし沈黙を続けるのであれば、勝手ながら同意と見なしていただきます。

修道院の主教
修道院の主教

……

ジェラルド
ジェラルド

ステファノ。

修道院の主教
修道院の主教

……時間を……

フェデリコ
フェデリコ

はい?

修道院の主教
修道院の主教

少しだけ時間をくれ……

修道院の主教
修道院の主教

最後にミサをして、みなと共に夜を過ごしてやりたい。

修道院の主教
修道院の主教

だから最後に少しだけ……時間を頂きたい。

修道院の主教
修道院の主教

明日の朝会を終えた時に、返答しよう。

リケーレ
リケーレ

どうするフェデリコ?

フェデリコ
フェデリコ

構いません。

フェデリコ
フェデリコ

ただし今すぐレミュアン枢機卿補佐官の身元を確認する必要があります。直ちに面会させてください。

修道院の主教
修道院の主教

レミュアン殿は儂らの客人だ。会いたければご自由に。

フェデリコ
フェデリコ

ありがとうございます。

リケーレ
リケーレ

それじゃあお二人とも、ここで失礼させていただきます……っておい、ちょっと待てフェデリコ!挨拶くらいしたらどうなんだ……!

(リケーレ達が立ち去る)

ジェラルド
ジェラルド

……

ジェラルド
ジェラルド

私はまだ、傭兵としての習慣が残っていたのか?

ジェラルド
ジェラルド

こんなに時間が経ったというのに、まだ直せていないものがあるとはな。

修道院の主教
修道院の主教

ジェラルドよ、先ほど申したことは本当か?

ジェラルド
ジェラルド

当然だ、ステファノ。私がそんなことで冗談を言うヤツじゃないのはお前だって分かっているだろ。

ジェラルド
ジェラルド

……私たちはみな、暮らしに困り果てているんだ。

ジェラルド
ジェラルド

変わりようのない事実だ。

デルフィーヌ
デルフィーヌ

こんにちはー、誰かいませんかー?冬服を届けにきたんだけどー!

デルフィーヌ
デルフィーヌ

あれぇ、おっかしいなぁ。今日どこに行っても人がいないなんて……

サルカズの住人
サルカズの住人

あら、フィーヌちゃんじゃない?どうしたのそんなとこで突っ立って?

デルフィーヌ
デルフィーヌ

あっ、キャロライン!ちょうどいいところに!

デルフィーヌ
デルフィーヌ

みんなに冬服を届けに来たんだけど、今日どうしたの?一日中歩き回っても誰にも会えなかったからさ……なにか用事でもあるの?

キャロライン
キャロライン

今日は……まあ、ちょっとね。

キャロライン
キャロライン

わざわざ届けてくれて嬉しいんだけど、冬服なら足りてるからやっぱり自分たちで使ってあげて。ほかの人たちにも、心配はいらないからって伝えてちょうだい。

デルフィーヌ
デルフィーヌ

なに言ってるの?ここ数年越冬する時にものが足りたことなんてある?

デルフィーヌ
デルフィーヌ

今だってそのうっすいジャンパーしか着れてないじゃん?もうすぐ気温がぐんと下がるんだからさ、そろそろ厚い服を用意してあげたほうが……

デルフィーヌ
デルフィーヌ

……

キャロライン
キャロライン

どうしたの?

デルフィーヌ
デルフィーヌ

キャロライン、あんたそれ何持ってるの?

キャロライン
キャロライン

こ……な、なんでもないわ。ただの食べ物よ。

デルフィーヌ
デルフィーヌ

いいや違うね、いいから見せて!

キャロライン
キャロライン

ちょっ……待っ……!

サンクタの女の子は相手が背後に隠した食べ物とやらを奪い取る。彼女はほぼ直感を頼りに、相手に止められる前にその固くて乾ききったものを手で割った。
そして食べ物と揶揄されたそれにずっと隠し通されてきた事実が、彼女の目の前で暴露した。

デルフィーヌ
デルフィーヌ

なに……これ?

デルフィーヌ
デルフィーヌ

もみ殻?それにこれ……木屑じゃん!?

キャロライン
キャロライン

……

デルフィーヌ
デルフィーヌ

キャロライン!これは一体どういうこと!?

デルフィーヌ
デルフィーヌ

あんた食べ物には困っていないって……食べ物って、これをずっと食べてたの?

キャロライン
キャロライン

違うの、フィーヌちゃん。聞いて、私たちはただ……

デルフィーヌ
デルフィーヌ

ただ、なに?

デルフィーヌ
デルフィーヌ

教えてよ。ねえ教えてよ!

デルフィーヌ
デルフィーヌ

あたしたち……一体どこまで落ちぶれたら、こんなことに……

コン。コンコン。コンコンコン。
ドアをノックする音だ。
ドアの外にいる者は部屋の主人の返事を得るまで、ひたすらノックをし続ける。ドアに鍵はかけられていないと言うのに。
これはかつて学校に通っていた頃、親しい友人ら数名と作った暗号だ。これだけの時間が過ぎ、レミュアン自身もとっくに忘れてしまったと思っていたが、事実そんなことはなかった。
部屋の前にやってきた者が伝えた暗号の内容はこうだ。
「救助成功せり」。
及び、「我、第一に到着せり」である。

レミュアン
レミュアン

どうぞ~、お入り。

スプリア
スプリア

こんにちは~、ルームサービスでーす。

レミュアン
レミュアン

あら、ありがと。食事はテーブルに置いてくれればいいから。チップは必要?

スプリア
スプリア

チップは必要?なんてわざわざ聞く人いる?そういうのは気持ちを見るものでしょ?

レミュアン
レミュアン

う~ん、それもそうね。

スプリア
スプリア

ていうか全然驚かないんだね、レミュアン先輩。

スプリア
スプリア

私とここで会って失望しちゃった?

レミュアン
レミュアン

まさか。

レミュアン
レミュアン

あなたがここに来てくれたってことは、知らせは無事ラテラーノのほうに届いたってことでしょ?

スプリア
スプリア

えっ?まあ……そうだけど。ていうかオレンのやつ、よくも先輩を一人ここに置いていったわね。帰ったら絶対モスティマとフィアメッタにチクってやる。

レミュアン
レミュアン

まあまあ、見逃してあげなさいよ。

スプリア
スプリア

ちぇっ、つまんないの。

レミュアン
レミュアン

さて、話を戻して。教皇聖下があなた一人をここに送り込んでくることはありえない。ということは、ほかにも来てる人がいるってことね……

レミュアン
レミュアン

ひとまずあなたの任務内容、及び今回任務を実行するにあたってのメンバー構成を教えてもらえるかしら?

スプリア
スプリア

役人口調になっちゃってるよ、先輩。まあいいや。はいはい、報告いたしますよーっと、レミュアン枢機卿補佐官。

スプリア
スプリア

今回の任務は聖下の勅令によるもので、メンバーはそれぞれ公証人役場所属のフェデリコとリケーレ・コロンボ、及び参加に志願した私の三名で構成されていまーす。

スプリア
スプリア

隊長は執行人フェデリコが務めていて、主要な任務内容はあなたとオレンの行方の捜索。その次点でこの修道院を調査すること。

スプリア
スプリア

あっ、それとフェデリコにはできるだけ穏便に遂行するっていう任務もあるんだった。聖下、人選ミスっちゃってると思うんだけどなー。

スプリア
スプリア

とまあ、こんな感じ。報告は以上でーす。

レミュアン
レミュアン

なるほどね……フェデリコは教皇聖下直々のご指名と……

レミュアン
レミュアン

状況は大体理解できたわ。ご苦労様、リアちゃん。

スプリア
スプリア

もう、こんな時に名前で呼ぶなんて。

スプリア
スプリア

それで、先輩はこれからどうするつもり?なーんか閉じ込められてるように見えるけど、本当は動きたくないだけなんでしょ?

スプリア
スプリア

だって先輩がここから脱出しようものなら、誰にも止められないわけだし。

レミュアン
レミュアン

足がまだ完治していないのよ。

スプリア
スプリア

一緒でしょ、どっちだって。

レミュアン
レミュアン

分かってる風に言っちゃって~。実際できなくもないけど……まあそうね、確かに私は自分でここに残るって決めたの。

レミュアン
レミュアン

だからもしフェデリコが監禁罪などでここにいる主教様を逮捕するようなことがあったら、代わりにちょっと弁明してあげてちょうだい。

レミュアン
レミュアン

それと先に謝っておくわ、しばらく……まだここから出ていくつもりはないの。

スプリア
スプリア

理由、聞いてもいい?

レミュアン
レミュアン

理由……うーん、外交というのは拳銃や銃弾で解決できるものじゃない、というのはどうかしら?

レミュアン
レミュアン

そりゃ射撃の腕を比べるんだったらもちろん私は負けないわよ?でも会談の席に座っての話し合いだったら、相手に言いくるめちゃうことだってある。

レミュアン
レミュアン

それにちょうどここの住民たちとも仲良くなったばっかりばし、最後くらいどっちが考えを改めるのかが見てみたくて。

スプリア
スプリア

なーんか先輩が本当に譲歩してくれるような人って感じの言い方だね。

スプリア
スプリア

私の時と全然違うじゃん!学生だった頃なんか、学校に通わせるため一学年中ず~~っと私を追い掛け回してさ!

レミュアン
レミュアン

うふふ、そりゃだって、そんなことでリアちゃんが退学させられちゃったら勿体ないじゃない~。

スプリア
スプリア

まあ、今のところこの修道院周りの問題に関しては……まだ友好的な態度を取っているつもりよ。

レミュアン
レミュアン

オレンならきっとここの状況を伝えに行くと思ったから、私はここに残ったの。それにこれ以上主教様を刺激したいくないからね、なんだかイヤな予感がするから。

レミュアン
レミュアン

今はかなり修道院の内情も把握できたから、もう一度会談のチャンスがあれば、主教様も私が提示した案を受け入れてくれると思うんだけど……

スプリア
スプリア

やっぱり。そういう感じの理由だと思ってたよ。

レミュアン
レミュアン

理解がはやくて助かるわ~。

スプリア
スプリア

いや、それそういう意味じゃ……

レミュアン
レミュアン

でもそう考えてるんでしょ?私には分かるわよ。

スプリア
スプリア

はぁ……なんだかちょっぴり共感性が嫌いになってきたかも。

レミュアン
レミュアン

まあまあ、そう言わないで。それで、あなたはここの状況をどこまで把握しているの?

スプリア
スプリア

まだちょっとだけ。

スプリア
スプリア

サルカズがいるってこと以外、別段おかしなところはないって感じ?

レミュアン
レミュアン

向こうはトランスポーターを三人送り出したんだけど、そのことはまだ把握していないのかしらね?

レミュアン
レミュアン

……ところでリアちゃん。

スプリア
スプリア

なに?

レミュアン
レミュアン

あなた外勤任務は嫌いって言ってたでしょ?なのにどうして、自分から参加するようになったの?

スプリア
スプリア

……そんなの、先輩のために決まってるじゃん?

レミュアン
レミュアン

ウッソだ~。

スプリア
スプリア

……

スプリア
スプリア

まあともかく、とりあえずフェデリコたちと合流して、先輩のことを知らせておくよ。

スプリア
スプリア

でも正直言って、先輩のその努力が実るとは思えないかな~。

レミュアン
レミュアン

……ものは試しよ。

スプリア
スプリア

……

スプリア
スプリア

ひぃ~、こっわ。レミュアン先輩どんどんおっかなくなっちゃってる。

スプリア
スプリア

でもまあ、この際はいいとして……

(無線音)

???
聞き覚えのある男の声

ようやっと俺に連絡する気が出てきたのか?

???
聞き覚えのある男の声

てっきりレミュアンの顔を見たら任務を放棄するんじゃないかって思ってたぜ。

スプリア
スプリア

どうだろうね、もしかして本当に途中で投げちゃったりして?

???
聞き覚えのある男の声

……そういう冗談はマジで勘弁してくれ。

スプリア
スプリア

話題をふったのはそっちでしょうが。

スプリア
スプリア

まあいいや、あなたとお喋りしてる暇ないんだし、本題に入ろう。

(無線が切れる)

スプリア
スプリア

はぁ……こういう人の相手ホント疲れる……

スプリア
スプリア

やっぱこの任務めんどうくさーい。こんなことだったら受けるんじゃなかった。

スプリア
スプリア

誰?そこにいるんでしょ?

スプリア
スプリア

ありゃ、もしかしてついて来ちゃったのかな、かわい子ちゃん?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

あ、あなたを一人修道院内で好き勝手させるわけにはいかないから……悪さをしないか監視しに来たの!

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……それと……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

一つお願いがあって来たの……大丈夫、報酬はちゃんと用意するから!

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

えーっと、どれどれ……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

小麦粉に、卵……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

それと……あれ?この前残った砂糖どこに置いてたっけ……

(フォルトゥーナが棚の扉を開ける)

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……はぁ、毎日頑張って節約してるのに、なんでいつもこれっぽっちしか残らないかなぁ……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

スプリアの分でしょ、ステファノお爺さんの分でしょ、フィーヌとレイモンドの分……それからジェラルドさんとクレマンさんとキャロラインさんの分も……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

やっぱり、どう分けても足りなくなっちゃう……

(ドアのノック音)

デルフィーヌ
デルフィーヌ

フォル、いる?

デルフィーヌ
デルフィーヌ

入るよ?あのさ、ちょっと話があって……って、何してるの?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

あっ、フィーヌ!ちょうどよかった!

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

私この前ニーナさんのために一か月畑仕事の手伝いをしていたでしょ?その時お砂糖をもらったんだけど、どこに置いたか知らない?

デルフィーヌ
デルフィーヌ

かなり昔の話でしょ、それ。もう使い切ったんじゃないの?

デルフィーヌ
デルフィーヌ

っていうか砂糖なんか探してなにする気?それにここにある食材も、どっから手に入れたのよ……

デルフィーヌ
デルフィーヌ

……待って、フォル。あんたまさかこんな時にお菓子を作るつもりでいるんじゃないでしょうね?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

えっと、フィーヌ、どうしたの?もしかして……怒ってる?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

ごめんね、あなたに黙って隠してたわけじゃないの!みんなにサプライズしてあげてくて……だから機嫌直して、ね?絶対最初の一口はあなたにあげるから!

デルフィーヌ
デルフィーヌ

フォル、あんた……まあいい、とりあえずそれ置いて。今はそんなことしてる場合じゃないでしょ。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

えっ、でも……

デルフィーヌ
デルフィーヌ

でももだってもない。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

でも、こっちは約束しちゃったの!お礼にワッフルを作ってあげるって……

デルフィーヌ
デルフィーヌ

お礼に?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

そう、お礼に!私の守護銃をあの人が直してくれたの!だからしっかりお礼してあげなきゃって!

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

本当に不思議なのよ?直った銃を持ってみるとね、これまでとは違う感覚が来たの!まるで……生まれついて銃の扱い方を知ってるみたいに!

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

ほら見て、すっごくキレイになったでしょ?これからは一緒にこの銃を使うことができるね!

デルフィーヌ
デルフィーヌ

……

デルフィーヌ
デルフィーヌ

知ってる?フォル。

デルフィーヌ
デルフィーヌ

あたし自分が銃を持っていないことも、ステファノ爺ちゃんのミサの内容も、本当は全然気にしてないの。

デルフィーヌ
デルフィーヌ

ラテラーノのことだってそう。見たことも行ったこともないわけだし。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

え?

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

急になにを言い出すの……?

デルフィーヌ
デルフィーヌ

そんなあたしはさ、普通のサンクタと一緒だって言えるのかな?

デルフィーヌ
デルフィーヌ

他人から見たらそうかもしれないね。

デルフィーヌ
デルフィーヌ

でもあたしはあんたやステファノ爺ちゃんのことを気にしてるように、レイモンドもジェラルドさんも、クレマンさんもニーアさんもキャロラインのことも気にしてる。

デルフィーヌ
デルフィーヌ

みんな、あたしの大事な人なんだ。あたしの家はここでしかないし、あの人たちだけが家族なんだ。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

急にどうしたのよ、フィーヌ!そんなの私だって一緒よ、私もあなたみたいに――

デルフィーヌ
デルフィーヌ

いいやッ!全然違うッ!

デルフィーヌ
デルフィーヌ

もし、あんたもあたしと同じだって言うのなら……

デルフィーヌ
デルフィーヌ

なんでお菓子なんか作っていられるの!レイモンドたちがどうやって暮らしているのか知らないから、そんな甘えたことが言えるのよ!

デルフィーヌ
デルフィーヌ

あんた、あのラテラーノ人が来てから……色々と変わってしまったよ。

フォルトゥーナ
フォルトゥーナ

……変わったって、そんなこと……

デルフィーヌ
デルフィーヌ

その銃、あのレミュアンってラテラーノ人に直してもらったんでしょ?

(ドアのノック音)

クレマン
クレマン

主教様、言われた通り、あのお二人には修道院内で自由にさせておきました。

クレマン
クレマン

しかし、本当によろしいんですか?それになんだか……あまり体調が優れないように見えますけど、お休みになられたほうが……?

修道院の主教
修道院の主教

クレマンか。儂のことは気にするな、心配はいらん。

修道院の主教
修道院の主教

もうひと走りさせて申し訳ないんだが、上に行って鐘を鳴らしてくれないか?今週のミサはたった今行うことにしたんだ、みんなに知らせておいてくれ……

修道院の主教
修道院の主教

その際ジェラルド、そなたらも来てくれるか?

ジェラルド
ジェラルド

すまない、ステファノ。まだ色々と準備があるから、全員来れるかどうかは……

修道院の主教
修道院の主教

……そうか、分かった。

クレマン
クレマン

しかし主教様……

クレマン
クレマン

本当に彼女らの条件を呑むおつもりですか?ほかの人たちを見捨てるなんて……

修道院の主教
修道院の主教

……

修道院の主教
修道院の主教

これ以上は聞かないでくれ。

修道院の主教
修道院の主教

さあ、クレマン。鐘を鳴らしに行ってくれ。

クレマン
クレマン

……分かりました……

修道院の主教
修道院の主教

……

修道院の主教
修道院の主教

……信仰そのものが自身を裏切るというのであれば、儂も選択を下さねばならんな……

修道院の主教
修道院の主教

懺悔せねば。儂の行いを……

 

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