本日午前、科学倫理道徳共同委員会の代弁者はマックス特区にてメディアに対して、今週木曜日にライン生命の地域横断的な科学研究計画についての公聴会を開催すると発表した。
この公聴会ではトリマウンツ事件以来、ライン生命に対しての初めての公開質問となる。 コンポーネント統括課執行代行のサリア女史は明日特区に到着し、ライン生命を代表して委員会の質問に対応するという。
情報筋によれば、ライン生命は今後3~5年以内にイェラグに投資を行い、一連の科学研究施設を建設、カランド貿易と科学研究分野の協力を展開する計画があるとの事だ。 ――《特区テレグラフ》
「空洞」のカウントダウン
こんばんは、委員の皆様。私はライン生命コンポーネント統括課執行代理のサリアです。公聴会が正式に始まる前に私は慣例に従い、ライン生命を代表して冒頭陳述を行わさせて頂きます。
ライン生命が誕生した当初から、クルビアにて最も優れた科学研究人材と協力をし、前人未到の血に足跡を残し、道徳と公共秩序の制約の下での科学において積極的な変化をもたらす事を望んでいました。
ライン生命がそれを忘れた事はありません。トリマウンツ事件後、私達は何千人もの優秀な研究者とともに、これまで以上に「目前に存在する」未知の境界を探索し続けました。
「星のさや」の仮説が実証された現在、我々はトリマウンツ理工研究団体から来た研究チームと共に「空洞」について慎重な観察と研究を行いました。結果、研究チームは二つの結論にたどり着きました。
第一に、「空洞」は永遠には存在しないという事。
第二に、制御可能な条件下では「空洞」を同等の規模で再現する事は出来ないという事。
これは「空洞」が消滅すると、星のさやに関する全ての研究が否が応でも止まる事を意味します。これは決して危険を誘う言葉ではありません。ここの誰もがそれがどれほど特殊なものであるかはご存知でしょう。私達はもう一度空の秘密を明らかにする機会を得る事は出来ないのです。研究チームが一分一秒を争うのと同時に、ライン生命科学考察課と生態課は地域を超えた科学研究協力の提案を始めました――
私達は何処にいようが空を見上げる事が出来ます。そこで私達は見上げている場所が目の前に迫っている場所がある事に気付いたのです。最終的にこの提案は皆さんの前にある計画書の通りです。皆さんはこの計画についてある程度は理解しているものだろうとは思われますが、ここで正式に説明をさせて頂きます。
ライン生命は地域を超えた協力を通じて、イェラグ高原山間部に一連の探査観測施設を建設する事を望んでいます。
――規模はより小さく、必要電力はより低い、イェラグの恵まれた環境の中で役割を果たす事が出来るエネルギーウェルを。
マッターホルン
過去十年間、ライン生命科学考察課は何度もイェラグに深く入り込み、現地の地理環境と自然気候を考察、カランド貿易関係者の助けを得て、マッターホルン周辺の山地とトゥリカムのある高原盆地の測量を行いました。
一部には説明のしづらい気候環境要因も存在しますが、地元の人々は宗教活動の中でイェラガンドの加護のおかげだと考えており――しかし、イェラグは確かにテラの他の高海抜地域には無い環境条件が揃っており、探査分野の研究として重要です。
第一として、イェラグ山間部は明確な気象記録がある過去二世紀の間、一度も天災が発生した事は無く、源石環境値はクルビアのどの都市よりも著しく低いものでした。高海抜特有の問題を克服した後、私達科学研究者と精密設備は極めて理想的な研究環境を得る事が出来るでしょう。
第二には、先日、科学考察課のメンバーがマッターホルンの西側、標高4000m付近の地帯に臨時観測所を設置しようとしたところ、探索チームが所持していた源石器具とアーツユニットは全て機能しなかったのです。事後調査によれば、星のさやの干渉効果が故障を引き起こした事が分かりました。その後、考察は中止されましたが、私達は予想外の収穫を得ました――これは科学史上初めて、星のさや理論から約2km離れた位置から飛行装置の力を借りずに効果を観測した出来事です。
私達がこのような報告書を受け取った後、とある主任がすぐさま私に連邦政府が自分の出国禁止を解除しなければ、遅かれ早かれ適切な動力学的方法を用いて、自身をマッターホルンに向けて打ち飛ばすと言っていました。
また、私は私達の衆に公然と存在する偏見には反論しなければならないでしょう。今のイェラグは産業基盤が乏しく、交通手段は原始的、外部の事は一切知らない開発を待つ場所ではありません。双方の交渉の過程で、カランド貿易最高技術責任者を努めた議長”ノーシス・エーデルワイス”氏は工事計画に非常に価値のある参考意見を提出、イェラグの工事チームを除いてライン生命の厳しい基準に合った建設工事を雪山で完了させる能力がある団体は無い事を保証してくれました。
これらの陳述を統合するに「空洞」はいつ消えるか正確に予測出来ない前提の下、これらの理由はイェラグに長期的な科学研究サイトを構築する計画を早期に作成する理由となるでしょう。
空に向かって目配せをする者
確かに、不安を引き起こしているのは科学研究サイトではなく、「クルビア国外に別のエネルギーウェルを建設すると公言している人物がいる」という事なのは十分に認識しています。事件の経験者として、トリマウンツのエネルギーがテラの科学史上最も偉大な瞬間の一つをもたらした事は言うまでもありませんが、これはかつては秘密軍事施設であり、戦略的打撃兵器の一部だったのです。
クルビア国外にこのようなエネルギーウェルを建設し、これが戦略兵器計画の思想の復活では無い事をどのように保証するのか。クルビアの国家安全保証に直接な脅威になるのではないか。私達の秘匿技術は盗まれる可能性があるのか。次の質疑応答では、これらの質問に事細かにお答え致しましょう。ですが今は、ライン生命を代表して私達の立場を述べさせて下さい。
私達は空はテラに属するものだと考えています。それは見上げたり、想像したり、目配せ出来る勇気のある者達に属しているのです。私達は空の理想を探し出し、ある種に具体的な野心のために注力する必要はありません。私達はこの研究計画を国境なき科学研究協力プロジェクトに転換し、各国の研究機関を広く招き、責任ある集団行動を通じてより多くの人を参加させる事を望んでいます。
そうしてこそ初めて、私達はもう一度空に向かう時、憂いに背後から掴まれないようにする事が出来るのです。
クリステン・ライト、彼女私達のために空への道を開いてくれました。トリマウンツで雨が降る度に彼女が残した暗雲が都市の上空に戻ってくるのです。私達は天才が自らの犠牲に屈従するのを許すべきなのでしょうか?偉大な理想は異なる色と共存出来ない運命にあるのでしょうか。空に目を向ける人は必ずしも孤独なのでしょうか?私の発言が煽情的に聞こえてしまう事は望んではいません。
特に委員会の学会の同僚の皆さんの前では――――――科学的で理性ある立場に立ち、私達はこれらの問題の答えを持ち、ライン生命はそれを書き直したいと考えています。開放的な協力を前提に、ライン生命は新たなエネルギーウェルの設計と建造を主導します。エネルギーと構造上のボトルネックから、予想される電力はトリマウンツの2万分の1から1万分の1に過ぎませんが、星のさやに対して持続的且つ近距離の爆撃を行うには十分であり、トリマウンツでは達成出来ない大量の高エネルギー物理実験を完遂させる事が可能です。
私達は非常に重要なデータを最初に手に入れ、他の研究機関からの実験依頼を受けて、大空の下で生活している全ての人と私達の成果を共有します。ライン生命は委員会と同様に科学技術がこの時代に与える複雑な影響に注目をしており、私達はここにいる全ての人達と協力し、科学の進歩と道徳規範を共に遵守出来る事を嬉しく思います。
私は次の質問に喜んでお答えし、正直に知識をもってお答えしましょう。私達の事業にテラのご加護がありますように。