私だ。
目的地に到着した。信号煙の座標を肉眼で確認した。
…久しぶりの同行だったから、少し損失をしたな。
だが、あいつらが地下で隠れて発信をしているんだから物資も十分にあるだろう。何とか挽回は出来る。
ああ、そうだな。斥候は先に出発してもいいだろう。
出来るだけ早くな。
…そう言えば、予想外の損失があったんだよ。
Wが死んだ。
そんなひどいことを言って、結局は四つん這いになってでも帰ってくるんじゃないのか?
…
それとも苦肉計でも誘いだしただけとか?
じゃあ、キャンプ場を離れて俺たちが迎えに行っても良いぞ。そんなに心配するほどでもない。
私は誰も心配なぞしてないが。
Wが殿を勤めてチャンスを作ってくれなかったら誰も逃げることは出来なかった。
…。
それはいつのことだ?
二時間前に通信を遮断された時に小隊は待ち伏せされた。
Wは廃墟を破壊して、それで俺たちは逃げた。あいつは最後の瞬間まで戦った。
残念だ。
…確かに、あいつが生きてキャンプに帰ってきていたのであれば、誰が見てもあいつは俺を抜いてここで最も価値がある傭兵になっただろうな。
もういい。今更そんなことを言っても意味が無い。少なくともあいつはもう戦争をしなくて良いんだ。
敵が撤退をした。回収しに行くか?
無理だ。新たに深入りするにはリスクが大きすぎる。誰もリスクを負担することなんで出来ない。
どうした?仲でも良かったのか?俺が知らない内に?
あいつの戦利品を思うと残念だなと。
特に何も無いさ。あいつよりコレクションが豊富なやつなんていくらでもいる
この戦争が終われば、俺たちも前の事業をやり直す機会はたくさんある。
…もし終わればだがな
ふん…
互いに慰め合う言葉でも続けるか。日没前にここをでないとこれ以上の滞在は標的にされるけどな。
キャンプに戻ったらすぐに整列して出発だ。
ん――?
それは私に命令をしているのか?ヘドリー「副」隊長?
…他のチームとの通信は失っている。今の総指揮権は私の手にある。
私達は同じ席ということか。
ええっと…。
…イネス、俺達は急いでここを離れて拠点に戻る。そして雇い主に連絡をして報酬をもう一度相談する。
これはただの提案、命令じゃない、良いか?
ふん…
Wの死にどれくらいのチップを弾んでくれるかね。
たくさんだ。
あいつは優秀な傭兵だ。間違いなく優秀だ。
少なくともあいつが…無駄死にしたとは思えないが。
あいつが最期に何を残して――。
静かにしろ。
近くに人だ。三時の方向、私達とは違う…
…
――人が出てくるぞ。
…。
サルカズ…?地元のやつか?
いや、違う。手に持っているのはWの刀と銃だ…
お前は何者だ?
…。
話さないのか。では、死ね。
待て待て。
彼女は俺たちに付いてきたんだろ。
…
…彼女の後を付けるのか?
俺たちの歩きは遅くはないのに、彼女はWの遺品を手にして歩いてついてきた。彼女の腕で歩いてきた。
彼女は「経験ある」サルカズだ。撤退する時は現地ガイドが必要になるかもしれないだろ
――何をとち狂ったことを言っているんだ?ここであの女は殺すべきだろう?
お前が私たちを皆殺しにしたいのであれば手を出してくるが良い。
どうやってそんなことをしてくるんだ。
もしあいつが刺客だったら?あいつが私達を罠に連れて行っているのであれば?
カズデルのどれくらいの奴らがお前の頭を欲しがっているか知ってるのか?
え、どれくらい?
…お前の目の前に一人いるな。
お前の頭はとても貴重だから、しばらくは私がお前の首を預かってやるが、独断先行はするな。
お前の勤勉さには感謝はしているが、俺だって冗談を言っている訳じゃないさ。
彼女は危険を冒してWの刀を拾った。銃もある。そして俺達の前に堂々と立っている。
お前のアーツからは彼女に敵意があることが感じられるか?
…普通の頭の持ち主だったら、得体の知れないサルカズをいきなり受け入れるなんてことはしないと思うが。
ああ、それが俺とお前の違うところだ。
途中、俺は彼女に何度も油断を見せたのに、彼女は…俺に3回石を投げてきただけだ。
善意の表し方としては面白くないか、そうだろ?
…は?
場合によっては彼女にチャンスを与えるべきかもしれないな。
この戦いで多くの席が空いてしまった。募集の方法として同じ得体のしれないサルカズを招くよりも、自分で選んだほうが良いだろ。
…
しかしあいつは他人だ。そのルールは適用されない――
――はっ、もういい。
10分後に出発する。少人数での出発だったとしても気にはしない。
だがもし私が死体を追加で処理するなんてことがあるのであれば、それが誰のものであろうとさっさと動くことを勧めるが。
…分かった。お前さん、よく聞いてくれ。
はは、本当に気が短いな。
…。
お前さんが持っているものは俺達の戦友の遺品なんだ。
それをここに置いてくれれば生きて帰れる。他の適当な場所で死ぬかも知れないが、少なくともそれは今よりももう少し後の話だ。
…。
最期のチャンスだ。
…
…
…私には選択の余地があるとは思えません。振り向けばあなたは剣が振り下ろし、私は倒れるでしょう。
…チャンス?
最初から…あなたのもう片方の手を柄に掛けているというのに。
…分かった。
あなたは俺たちを見たことがあるかもしれないし、以前は誰かのために働いていたのかもしれないが知ったこっちゃない。
戦没者の武器を引き継ぐっていう意味、分かるよな?
もちろん。
では、まずは撤退の準備をしろ、詳しくは後で話す。
今すぐチームに戻るぞ――。
――「W」。
戦争こそ俺達がこれまで生き延びていくために常に頼りにしていた道具のようなものだ。
戦争はとめどなく続いた。俺達は戦争を一度たりとも止めたことは無い。
…ああ、確かにそうだ。
一部の人は躊躇い、一部の人はすでに順応している。後者は生き、前者は死ぬ。
そして一部の人は…生まれつきこの方面の名手でもある。
それは意外な喜びだ。
崩壊寸前の廃墟で彼女に出会った時から俺は確信していた…。
彼女は最も優秀なサルカズの戦士になるだろうと。