

撤退しろ!ぐずぐずするな!

ちっ、あいつら、前の奴らか――どうやってここを嗅ぎつけやがった!?

さっさと突破する方向を見つけろ!!

既に包囲済み、敵は多数。

敵の斥候は既に私達の見張りを全て処理、敵は私達の居場所を知っているのに私達は敵の居場所が分からない…。

くだらないことを言うな!ここに突っ立って術師に撃たれて死ぬつもりか!?

待て、お前、お前はヘドリー側の人間だろ…どうしてここにいる?

ヘドリーは?あいつは?あいつが責任――。

…うるさいなあ。

警戒を担当していた人は確かに私よ。陣地の周りにオリジ二ウムの爆薬を設置するのには便利だったわ。

…お前!ヘドリー!裏切ったな…!

お、お前通信設備を破壊したのか!何を考えてやがる――!

しょうもないことを聞かないでくれる。

私達は遠出をするだけ。でも来客があってもいい時期だから、誰かがお留守番をしないと。

お客にはデザートを残しておいて、しっかりとおもてなしをすれば、追われたり、叩かれたりされるなんてことも無いでしょ?

という訳で、あなた達お疲れさまでした。

お、お前たちはずっと前に敵の近況を見つけていたはずだろ。故意に俺たちをここに置き去りにして死ねってか――!?

頑張って足掻いて頂戴。足掻きが長ければ長いほど私達は遠くに行くことが出来るわ。

…ふふ。

――改めて心より感謝するわ。


…何故他の人達は逃げなかった?

彼らは自分の意思で殿として残ったわ。

安心して、私は彼らにプレゼントを残しておいたから。だから彼らが敵を引っ張っておいてくれる。

…ここで人生を諦める人なんているとは思えないが。

他人を犠牲にし、自分のチームを優先して守る。非難の余地の無い判断を嘘でごまかす必要はない。

だがそれと上司に真実を隠すということは別だ。

…。

お前では私の目を誤魔化すことは出来ない。W、お前は自分自身の言動に注意するんだな。

お前はまだひよっこだ。

…肝に銘じるわ、イネス隊長。

結局私達は未だに共存している…長い時間。

今何を?

――大丈夫だ。もう事は始まっているんだ。どうせ最後まで同じ道だ。

Wの決めたことは正しいのかもしれない。

…本当にそう思うか?。

俺たちはこのキャンプのサルカズとは一切の関係が無い。

彼らの身分、彼らの過去、彼らの生死、全てが俺たちと関係がない。

しっかりしているのね。

まずは仕事に取り掛かろう、イネス。Wと手分けをして従軍トランスポーターと共に無線を維持、指定された場所に向かい合流をするんだ。

…俺は終わらせてから追いつく。

…。

…。

…もう一つ。

お前たちはいくら互いを利用しあっていると言っても、直接相手に手を出したりはするな。

直接でなければ良いのか?

ホッとしたわ。

…あーっと。

そうなっては欲しくは無いが、正直なところ俺にはどうにも出来ないからな。

だが真っ当に生きたいのであれば、今はとりあえずはサルカズを最大限活用するんだ。
ヘドリーはいつもそうだった。
考えるべきこと、考えられることが非常に少ない、考えても無駄なこと、色々と考えた。
…Wは優秀な戦士であることは否定しないが、彼女には欠けているものが多すぎる。
もし彼女が戦闘がとても得意なサルカズに過ぎないのであれば…
…。


まだ暗くも無いのに、自分で火を焚いてここに隠れる必要なんてある?

まあ、あなたが焚き火が好きなら良いんだけど。

…邪魔をされるのは好きじゃない。

お前のチームは予定の合流時間よりも3時間も遅い。

あなたとヘドリーが攻撃を計画したのかしら?

ヘドリーに聞いてこい。

彼はこのことは知らないわ。

…ただの偶然だ。あそこにいる傭兵は扱いづらく、恨みを招きかねない。当然だろう。

なんだ、ヘドリーがわざと位置をバラしたのかと思ってた。

お前はやったほうが良いと?

どうしてそうしないのかなって。

私達が嘘を付いていないとどうして分かる?

私を殺したければ、もう殺しているはずでしょ。それにそんなことをしてそれぞれにどんなメリットがあるのかしら?

ふん…。

私達に合流する前は何処にいた?

え、今になって入社試験するの?

ヘドリーは絶対にメンバーの過去は追及しないが、私は違うからな。

あなたは確かに私達とは違うようね。

お前は…喧嘩でもしたいのか?

私が知る限りではイネスさんって至近距離での戦闘があまりお得意じゃないみたいだけど。


――!

少し教えておいてやる、長く生きたいのであれば、お前は自分の力の一部に頼りすぎないことだな。

サルカズの傭兵は刀を帯刀している。

それは意外ね。あなたのはアーツロッドだと思っていたのだけれども、でも――

――ん、「サルカズ傭兵」?あなたが?

――ちっ。。

やはりあなたには白兵戦では勝ち目は無さそうね。でも、うん、確かに油断していたところがあったのは事実。

ありがとう、腕に小さな傷が残っただけだし、戒めが安く済んだわ。

人をたぶらかすことが好きな時点であなたとヘドリーは似ていると思うわ。

お前こそおかしな奴だ。お前のような浮世離れした傭兵はほとんど死んだのだからな。

それ以前に短期間でこれだけ多くの同業者から関心を集めることが出来たにも関わらず、加入する前は一度も名前を聞いたことが無いなんて疑うのは当然だろう。

ヘドリーにわざと近づいてきたのだろう、何故だ?

あなたも自分で言ってたでしょ。

何だと?

カズデルには彼の頭が欲しいという人が多いの。

…そこまで素直かつ冷静になれるとは心変わりでもしたのか?

ええ、そのほうが分があると思って。

何を賭けている?

あなたに関係は無いわ。

お前が動揺するとは。面白いな、何か言い訳でもしたらどうだ?

――またあなたのアーツスキル?

本当に嫌な目をしているわね。私の理由なんてあなたとは関係がないのに。

これは不味いな…。

…。

何の音?

…東の方角から何かが近づいてくる。

一つのチームだけでは無いようだが。しかし本物のチームは一つしか無いはずだ。ふむ、本当に身長だな…。

ええっと、規模が大きいとは聞いていたけど、彼らは何人雇っているのかしら。

…ヘドリーが言っていた通り、この戦いはいつもより大きくなるな。

私達が経験したことが無い戦場が目の前にある。

ビビってるの?

はっ。

ヘドリーがチームと一緒に来るはず、トランスポーターに無線をかけないと。

私に命令か….?

はいはいはい、そうね、そうね…。

この焚火を守っていて頂戴。キャンプに行って状況を見てくるから

…。

あれは…バベルの…。

すまない、途中でコースを変えて時間を少し無駄にしてしまった。

だが、ここから先は本当の仕事が始まるからな。

全員位置についた。

ええっと…そっちは?

準備万端。

…焦げた草と綺麗に割れた地面を見る限り、二人共遊んでいた訳では無いみたいだな。

あら、ウォーミングアップをしただけであって、直接手を出したとは言えないわ。

でしょう?

安心しろ。今度は誰かに見つかる前にお前の死体を影に埋めてやる。

…はあ。

もう一度言うぞ。俺たちの任務は簡単だ。何人たりとも目標に近づけさせるな。

全ての疑わしい危険をこの峡谷の外から排除し、警告無しに近づく全ての者は直接火を放て。

他に何か質問は?

それで目的地は?

話せない。護衛の任務は段階的に行われる。ルート図は配られているはずだ。三日後には終点に着く。そこに引き継ぎがいる。

…ヘドリー。

あいつらが運んでいるのは何だ?

これは――ちょっと待て、イネス。

お前の方法で運送チームを試すのは契約違反だ、彼らを甘くみる、止まれ!

だが、あいつらはただの輸送チームだと――

輸送チームは…いや、先入観が先走っているな。確かに輸送チームは保護すべきだが――。

だが彼らが運んでいるのは…大きなこの影は…。

…一つの船?いや、一組の…

骨格?
