ウェイ・イェンウー オフィス 6:30p.m

ええ、その通りです、ウェイ長官。三十二時間後、中心街は龍門に激突します。

都市の識別ナンバーは変わっていません、つまりこのチェルノボーグの移動都市メイン区画は依然ウルサスの領土となっています。

中心街の攻撃はウルサスへの宣戦布告になる、ということか……?

レユニオンはこの方法でウルサスを牽制するわけか、酔狂なことだ。

落ち着いてるのですね、魏殿。あなたにはどうやらウルサスが平和を愛する国に見えるようだ。

ウルサスの拡大欲求は、富、領土と発展への渇望から成り立っている。

数十年前のウルサス帝国であれば、利益のためならば全世界を敵に回そうと躊躇な
く戦争をしかけてきただろう。

しかし、炎国に宣戦だと?

炎国は数百年間、他国との戦争は避けてきが、これは炎国が戦争に勝てないからではない。ましてや軽率な国には、炎国の繁栄がどこから来たのかを理解できはせんだろう。

共倒れに等しい戦争が終わったのちに、炎国は長い年月をかけて国力を養う必要があった、しかし不安定な内政を抱えていたウルサスにとっては大きな打撃を受けた。

今のウルサスはかつての悪徳ではない。この無益で失敗が目に見えている戦争を吹っかけてきたのは愚か者と狂乱者の仕業だろう。

魏長官、その両者を見かけない国や街などないと思いますが。

天災のあらゆる芽を取り除くのが私の責務の一つだ、それはウルサス帝国議会とて変わりはないだろう。

……

帝国議会の答え次第で、我々は直ちに各種の措置を実行、チェルノボーグの中心街の運転を停止させる。

そのあとの外交のいざこざは、外交官に任せる。

我々はこの危機を門前で消滅させる。

相手がウルサスであるのに、ずいぶんな信頼があるようですね?

いや、信じているのは利益だけだ

たとえウルサスが此度の戦争で大量の資源を獲得できたとしても、立て続けにおこった戦争で、内部の腐敗を消すことはできないだろう…

いかなる国家だろうと征服した人民と領土から湧き出た反乱と互いを仇敵とみなす劇毒に耐えることを出来はしない。

今のウルサス帝国は見掛け倒しの屍にすぎん。

それが利益に基づきウルサスがあなたとの協定に締結するだろうという理由ですね?

私と帝国議会議長との間にはいかなる協議も結ばれてはいない。ただまだほんの少しばかりの理性が残っているだけだ。

文月、電報を頼む。速やかに両者との……

はい

……文月

ここにはまだウェイ長官宛てのメッセージがあります。

ケルシー先生、アーミヤさん、それとチェンさんも……聞いてください。

文月?

よくよくお聞き下さい、見方が変わるかもしれませんので。

それは無いだろう

あなたがこれ以上彼女らを断ったら、正真正銘、孤立無援になってしまいますよ。

“ウェイ長官、このメッセージを聞いているということは直ちに行動をとらないといけません。”

これは……私のトランスポーターじゃないか。

“ここからのメッセージはアーツによる暗号化が施されています。”

“ウェイ長官、第三と第四集団軍に動きがありました。理由は分かりません。”

“首謀者すら突き止めることが出来ていません。”

“彼らが議会でこそこそと私の醜態をあざ笑ってました。つまり私では彼らの責任追及のための証拠は見つかりません。”

“チェルノボーグで事件が起こったのであれば、全力で阻止をしてください。でなければ収束が不可能となってしまいます。”

以上です。

……最後まで聞かせてくれ。

残りはトランスポーターの独り言ですが……

彼は私のトランスポーターだ、最後まで聞かせてくれ。

“ウェイト議長には会えていません。私と連絡を取っているあちら側の特使も不明勢力に追われているようです。こちらのトランスポーターが無事だったのが幸いですが。”

”こちら側のトランスポーターも夜中の内に圣骏堡(都市名)から脱出したそうです。どうやら誰かが協力してくれていたらしいdす。ウルサスの内部勢力が対立しているんだと思います。

そのあとの道中で、襲撃に何度もあいましたが誰かも分からない人たちが私を助けてくれた。

ウェイトの勢力が助けてくれたのか……

”こちら、ウラル地溝に到達、そこにある発信施設を少し借りました。この後に何が起こるのかはもう分かりません。

“龍門にもどって故郷の茶が飲みたいです”

彼の今は?

生死不明です。

レコードを聴く限り、帝国議長は傍観に徹するようですが。

帝国議会はウルサスの中枢とはいいますが……チェルノボーグの現在地はウルサスの辺境に位置しています。

辺境はいまも軍と残存貴族の勢力範囲内です。

軍はあの反乱騒動後、ほかの事件に介入する機会がありませんでしたが、感染者達にはありました。

厳重な監視下のため旧貴族たちもチェルノボーグの災難に策を巡らせることが出来なかったようですが、感染者達にはそれが可能でした。

そう、訓練を受けていない大多数のレユニオン構成員たちが軍や警察、ましてや秘匿されていたチェルノボーグ暴動鎮圧部隊に対抗できるはずがない――

しかし、天災になら出来ます。チェルノボーグは事前に土地区画を分離しなかったから。天災の襲来にチェルノボーグは手詰まりだった。

レユニオンは事前に街に潜入して街の武装組織の集中を阻止する必要があった。そうすれば軍隊も察知できなくなるから。

龍門と私たちもレユニオンの動向は予見していました。近衛局もレユニオンに対する包囲殲滅を策していたのに、チェルノボーグは…。

今日に至るまでチェルノボーグ、はてはウルサスには……声を上げる機会は一切無かった。

謎が解けましたね。

ウルサスはあの都市と、そこに住んでる住民の生き死にには目をつむり、ただでチェルノボーグをレユニオンに渡したということ。

死の淵をさまよい、死を恐れなくなった感染者たちが天災終息後にこの都市を引き受けた。

奴らが手を出す必要なんて一切ありません、ただ譲ってあげただけです…道を。

事が起こるのを待っているだけで良いのです。

そうなのであれば、天災襲来後のチェルノボーグは、ただの資源の無い死んだ都市になると思いますが……

そうすることで感染者たちが龍門に流れ込むのです!レユニオンを指揮してるのが誰であろうと、まるでそれがごく自然に起こったかのように仕組まれて……!

――

指令だ。監察司を直ちに止めさせろ、武力を使っても構わん。臨戦態勢を整え、中心街を確実に沈黙させる。

中心街が停止するまで、一切の情報漏洩を禁ずる。

ウェイ長官?!

こちらから仕掛けるのですか?

文月、龍門がこれまで経験したことからお前もわかるだろう。国民はウルサスへの宣戦を絶対に許しはしない。

…たとえ優勢であったとしても、その代償は龍門の全てとなるからだ。だからこそこちらから仕掛けなければならない。

宣戦布告は布告側が必ず他国から敵視されることを意味します。

他国と戦時同盟を結ぶことも難しくなるでしょうし、孤立無援になる可能性も高いでしょう。

それよりも……真相が何であろうと、戦争が終わった後でしか検証することが出来ないというのが最もまずいのでは……!

一部の国家にとって真相なんてどうでもいい、欲しいのは大義名分だけだ。

です、ウェイ長官。和平は平和的な外交手段で取り戻すことができると私は信じていますよ。

意見感謝するよ、ケルシー君。

だが、残念なことに、ウェイトと私のつながりだけが両国最後の和平手段だった。

たとえ敵が帝国第三軍団だろうとウルサス皇帝だろうと、戦争に勝利したとしても、今
回の戦争は遅かれ早かれ避けられるものではない。

和平の可能性はもう残っていないのだよ。

ウェイトが公式の方法でこの件を呵責しないということは、トップから抑え込まれ口が出せなくなったということだ。彼とて政治家だ、身勝手なところもある。

彼をここまで追い詰めた帝国の官僚機構も半分機能していないということ状ろう。

軍は両翼からウルサスすらも挟み込むことができるでしょうが、ウルサス領土内の龍門を挟み込むことができないはず。龍門は他都市への疎開措置を実行すべきです。

ですが、今から都市を疎開させても間に合わないじゃないのでは?!

中心街を止めない限り、龍門は衝突後に瞬時に破壊される。その後の領土衝突もどれほどの災難が引きおこるものになるか。

ですが、中心街を止めるには……

私達が艦砲射撃や暗殺の特殊部隊を派遣することはすなわち、ウルサスへの宣戦とな
る。

本来、ウェイトがかろうじて引きとどめていた事態だが、チェルノボーグにて何もかもが崩れた。

チャンネルが切られ、対話の余地がない孤城はもはや何をしようがお構いなしだ。

先生のおっしゃる通りだ。今は龍門だけが、我々しかチェルノボーグに立ち向かうことは出来ない。

ウェイ長官、どうかもう一度お考えを。開戦は最悪な結果を招くだけです。

この戦争が当り障りなく過ぎ去ったとしても、龍門にとってはさらなる最悪な結果がやってくるだけでしかない。

…

ウェイ長官、ロドスが…。
私が行く。

…。

…

え…チェンさん?

チェン?

私が解決する。

お前は龍門の人間だ。

ならば龍門から抜けるとしよう。

チェン警司、出過ぎたマネはするな、これはお前の職責ではない。

龍門に反逆者が必要なら、私がなる。

ウェイ・イェンウー、私はお前も、お前のこの都市も、お前の綺麗ごとにまみれた街には…。

もううんざりだ。

お前がスラム街に手を出したときから、私はこの街の者ではない。

この緊急事態に君と是非を問う時間などありはしない。

彼らが何をしたというんだ、なぜあんなことをした?

……“彼らが何をしたか”だと?

チェン警司、彼らが何をしたか知っているのか?

教えてくれ、チェン警司。レユニオンがどこを潜伏地に選んだのか、どうやってこの都市に潜入できたのか?

おまえはスラム街の住民を信用しているようだが、彼らはおまえを信用してるとは言えるのか?その信用は一体何処を見れば分かる?

おまえのスパイと灰色のリン以外、“感染者が自分たちの居住区に侵入してる”と報告しにきたスラム街住民がいたか?

事件は急速に進展をしていた、情報を取得できなかったのはだれの過失でもないだろ!

君は民間から情報をひとつでも入手出来ていたか?

…。

どうかね?

無かった。

一つたりとも、一人たりとも無かっただろう。

彼らは君たちを信じてはいない。彼らは自分らを守ってくれるマウスキングと近衛局の隊長を信じるよりも、外からやってきた扇動者と感染者を信じるほうを選んだのだ。

レユニオンの脅迫にあったのかもしれないだろう。あの感染者らは暴力で事を片付けようとする。

龍門は彼らに暴力を振るわなかった、と彼らは思うか?

私は助け合う行為をとがめたりはしない。

むしろ思うことすらもある、もし彼らが身近の感染者を今も憎み続けていたのなら、今日まで待たなくて良かったものをとな。

だが、彼らはマウスキングに、君たちに助けを求め、レユニオンの侵攻を
共に阻止することができた――

だが彼らは、私たちのことを……

そうだ、彼らは君たちを信用はしていない。お前が彼らにどれだけ時間と資源を与えたとて、彼らは一度たりとも君を信用はしなかった。

なら、早急に近衛局がスラム街に進駐するべきだったのでは無いのか!

近衛局の進駐を断ったのは彼らだ。数名の近衛局職員が殺されたのも彼らの仕業だ。

私と灰色のリンがやっとの思いでスラム街の凶悪分子を一掃した時、戦士たちへの犠牲に目をもくれなったのも彼らだ。

それでも龍門が彼らを拒んだと?

答えてくれ、チェン警司。

…。

私の目を見て答えろ、チェン警司!

彼らのせいではない。

では誰のせいだというのだ、チェン警司?

私は何度も君に警告したはずだ。君の考えと理念は尊重するが…それらが職務に影響を与えてはならないと。

近衛局の責務は龍門を防衛することだろう。特別督察隊の責務は近衛局を指導して龍門を防衛することだろう。

君がスラム街保護に力を注ぐことによって龍門に穴が開いてしまった。龍門の敗因にもなりえるかもしれないものをだ。

レユニオンに利用されたスラム街の感染者が龍門攻防戦の中心となり、チェルノボーグから警戒心をそらした。

我々のレユニオン掃討の戦術計画が中心街の侵攻を許してしまう弱点となったのだ。

だが、彼らの中の非感染者は、ただ見てるだけだった。

龍門が陥落したら、彼らがその元凶だ。

…違う…。

龍門が戦争することになり、多大の犠牲を生じ、多くの血を流した際の責任は誰が担うというのだね?

この数区の都市に、我々は幾多の災難への対策を間に合わせることができなかったのだ。

お前の対策ってまさか――

今の論点はなんだと思うかね?

…

龍門が彼らを拒んだのか?そうではない。

彼らが龍門を拒んだのだ。

……お前は彼らを見捨てる気なのか?

浅はかで漠然な行動で自分自身を追いやったのだ。私がもうあの連中の面倒を見る理由など何処にもない。

チェン、人間はどうしても失敗や過ちを作ってしまう。

過ちは誰だって犯すのだ、それは当然だ。その過ちを改め、時には覆いかぶせて成功に導くことも出来る。

私が出来ないことだろうと、いつか必ず誰かがやり遂げる。そして今、私にはやり遂げなければならないことがある。

過ち?やり遂げること?

そうか、お前の言いたいことがすべて理解した。

感染者がこの街にいること自体が過ち、そう言いたいのだろう?

……頑固者だな。

チェン警司、君と話したことはすべて覚えている。今はやるべきことをやれ。

いいだろう、はっ…

ウェイ・イェンウー、私が、近衛局がやるべきことは間違った奴をつまみ出し、間違いを解決することだろう?

どうやら、お前が言っていることによれば間違ってるのは私だけということだな。

もしくは私もその間違いらしい。

わたしも感染者だからな。

君は――

チェン?!

チェン隊長……え?

もう隠す必要はないだろう。

……この三年間、おまえは私が感染者だという情報を隠し通してきた。だが今、感染者がこの街で身を置くことが出来ないというのであれば、私にここにいるべきではない。

ふざけたことを!

私も彼女も感染者だ。ここの人間ではない。私にはやるべきことがあるし、これ以上の過ちも犯しはさせない。

彼女を止められるのは私だけだ。
“思い悩むなよ、分かってるから。誓いを立てた姉妹じゃないか、そうだろ?姉妹だったら……隠し事は無しだ。”
義親相残

私は感染者であり龍門の叛徒……これは私にしか出来ないことだ。
“お前もあいつらも憎い。お前たちを愛しているはずなのに、すべてが憎い。”
血親相残

ここまで来てしまったからには最後まで進み続けなればいけない。
“どうして私なんだ?どうして私じゃなければいけないんだ?この席に安寧なんかあるのか?どうして私が座らなければいけないんだ?”
至親相残

許可は出来ん。

今、ここでお前がオフィスから出ていけば、チェン・ファイギ……おまえは龍門の敵だ。

お前と私の十年間の努力が……水の泡になるぞ。
(斬撃音)

私がしてきたことは……お前があんなことをした時点で無駄になった。

龍門は火の海になり、一面は戦場と成り果てるだろう。お前にはお前の、私には私のやり方がある。

ただ違うのは私はおまえみたいな人間じゃないということだ。誰であろうとその人を“過ち”とは思わない。

この都市の陥落はわたしが許さん、お前がやろうとしている無謀な襲撃もだ。

権威とはいつだろうと道具に過ぎん。その道具で領地を正すというのであれば、その期待に応えなければならない。

はっ。

己をあざけ笑うではない、チェン督察。

……?

それをあざけ笑うということは、己をあざ笑うことだ。

君に教えを問いているのは変えてほしいからだ。君が繁栄のみを求めてきたこの土地の渇望を変えてくれることをずっと望んでいた。

それで変わったか?それで変えられたか?私がしてきたことに意味はあったのか?

今は無理だろうと、いつかは必ずそうなる。

君が成し遂げろ。

お、お待ちください!どちら様ですか!

今お入りになられては……警備員、警備員は!?何者かが侵入してきました!

ウェイ様、お通しを。

――下がっていろ

どうかお通しを!

来てはならん。

ふ、ふふ、はははははは……

ウェイ・イェンウー、お前の正体がやすやすと暴かれてしまったな。お前の私兵が我が物顔でオフィスに入ってくるとはな?

チェン家のお嬢様、龍門は危機に直面しているのです!

理屈は通ってるようだな。

だが、お前たちのことは信じない。言いたいことがあるんだったらあいつに聞くがいい。

ウェイ様……我々はたとえこの身が欠けようと死して衝突を阻止してまいります!ウェイ様のお心を煩わせたりは決して致しません!

下がっていろ!

ウェイ様!

どうした、ウェイ・イェンウー?どちらを行かせるのかがそんなに難しいか?

人を殺す時はすぐに決めるくせに、どうして人を助けるときはそこまで優柔不断なんだ?

今回も……そうだ。

前回もそうだったな。

私はきちんと別れを言いたいだなんて思ってはいない。

まあいい、ウェイ・イェンウー。私はお前に別れを言うつもりなんてさらさら無かったからな。

文月さん、母さんがあなたにしていたこと申し訳なく思っています。ありがとうございました、長い間私のことを世話してくれて。あなたの事はずっと親として見ていました。

……チェン?!

チェン警司!

私はもう警司ではない。近衛局のバッジもお前に返す。

――取り押さえろ!

ここでやり合うと?だれが本当の叛徒か決めるためにか?

チェン警司、お覚悟を!

感染者だから、お前たちの敵なのは当然か。

おやめください!さもなくば容赦いたしませんよ。

だれに容赦しないだと?!

……何?!

こけおどしで脅したって無駄ということをお前らに分からせてやる!

ウェイさま、お気を付けを!

赤霄、振気!
“イェンウー、この剣が龍を屠るというのであれば、ドラクは含まれるのか?”
“入る?じゃあ気を付けないとな、はは……”

これは…アーツの乱流?

先生、下がっててください!私がアーツを防ぎます!

いや……エネルギーの層が切断系のアーツで裂かれるだけだけだ。

彼女はこちらを狙ってはいない。動けばアーツ攻撃の範囲に入ってしまうだけだ。

あ、はい!

アーツの範囲が伸びている。退け!

――来い!

斬龍剣が一瞬で鞘から?!

ちっ……!

腕で防いだのか?

その通りです!チェン警司、剣術が昔より進歩されましたね!

……火で鍛えたオリジニウム、赤霄か?まさかまだ製造していたとは。

先生、あの剣ってアーツに対抗するために作られたのものなのでしょうか?

……最初にチェンさんが見せてくれなかったのも、まだ私達のことを敵として見られていたからでしょうか……?

どけ!

ウェイさま、警司のお考えは固まってるようです。第二波は防ぎきれません。

ご命令とあらば、五体満足は保証出来かねますが、命をかけても必ずチェンさまを龍門に留まらせてみせましょう。

――ならん、おまえは下がっていろ。その剣に触れてはならん!

救援を呼びます。

させるとでも?赤霄――

やめろ!!

はぁ……!

ファイギ、君は雲裂の剣を使うつもりなのか?

……

君に剣を教えたのが誰なのか忘れたのかね?

君に剣術を辞めさせようと考えたことはなかったが、今はそうはいかん。

私に手を出させてくれるなよ、チェン・ファイギ。

好きにするがいい、魏さま。赤霄は私の手にある。

赤霄を私にくれたとき、まさか自分が殺されるとでも思っていたのか?

こいつでお前を殺しはしない、ウェイ・イェンウー。

……

お前は私を守ってやっていると思っている、そうだろう?

母さんは鬱で死に、タルラは連れ去られた。わたしは職でオリパシーに感染した。

お前がしてきたことは全てわたしを守るため、そうなんだろ?それはお前の心の罪悪感から来ているのか?それとも計略に対する自信か?

私はもう悲劇を起こしたくは無いのだ。

黙れ!

ウェイ・イェンウー、この剣には殺すべき人も…守るべき人もいる。

彼女が本当にこの龍門を滅ぼしたいというのならば……

だめだ……だめだ。行ってはならない。

ここでお前と黒子に勝とうだなんて思ってはいない。

……だがなウェイ・イェンウー、出口ってのはドアだけじゃない。

窓から出ようと?!

チェン・ファイギ、馬鹿な真似はよせ。地上から数百メートルは離れているのだぞ

私が何も窓からの脱出が初めてじゃないのなんて知っているだろう。

――

チェン・ファイギ、君は彼女に会ってはならん!

あぁ…チェン…。

私たちがしでかした過ちを繰り返すな!私達のこれまでの道を辿ってはいけない!

仮にこの街のために命を落とすやつがいるとすれば、きっとそいつは――

そうだな。

……伯父さん……

いや、ウェイ・イェンウー……これまでのツケは今日で帳消しだ。
ガラスが割れる音が響き渡り、チェンは仰向けに建物から落ちていった。
龍門の主が声を荒げて叫び、黒衣をまとった私兵たちが矢のごとく割れた窓にとびかかった。
しかし、チェンの心にほころびは生じなかった。