龍門上城区 7:20p.m.
(斬撃音)

ハァ、ハァ……

……あなたがこれほどの頑固者だったとは思いませんでしたよ。

まさか。いやまさか、小官が……血を流すことになるとは。

私たちは、ハァ、私たちは、ずっと……囚われたままだ。

ホシグマ、この街はお前の居場所だろう。だが私は……最初からこの街に私の居場所なんてなかったんだ、だから逃げ回ってきたんだ。

きっと、私は一生この街を受け入れることをできはしない。

結局くだらないふざけ合いになってしまいましたね。

小官にはもう止めることは出来ません、どうぞ行ってください。

……

すまない、ホシグマ。

私が去った後、代わりにスラム街に行ってくれないか。あそこの住民はとても不安なままのはずだ。誰かが近衛局を代表して保護してやらなければいけない。

もし感染者の子供がぬいぐるみの熊をくれたら……。

受け取ってやってくれ。とあるウルサス人が彼女らに教えたんだ。我々の過失で亡くなったミーシャがそれを教えたんだ。

分かりました、ちゃんと受け取ります。

すまないな。お前に借りが出来てしまった。

小官はあなたからの謝罪なんて聞きたくはありません。そういうのはあなたには似合わないですから。

ホシグマ……

……もう話すことはありません。

行って下さい!そしてもう戻ってこないでください。

――

……元気で。

「この街が受け入れいられない」?

……あなた以上にこの街を気にかけてる人がいるとでも?

嘘つきが……

ホシグマ督察!

……なっ、督察、怪我されたんですか?一体だれに……

そうだ、先ほど、つい先ほどチェン長官があなたと――

あー、えーっと、すまない。

少しだけおしゃべりをする時間は無いか?

督察……あなたも公務の妨害をするのですか?

……そんな言い方はしなくていいだろう。

下がっていいぞ。

かしこまりました、ウェイさま。

言ったはずだ……その呼び方はやめろと。

かしこまりました、あなたのご命令のままに。
(ドアを開けて???が出ていく音)

……

ケルシーさんにアーミヤちゃん、話を進める前に、私が先に彼と少し話をしてもいいかしら?

はい、どうぞお構いなく。文月さん。

どうぞ。

もう長い付き合いになるわね、ウェイイェンウー。

なぜそれを言う――どうして今それを?

あなたの考えてることなんて、目を見れば分かります。

……文月。

ええ、ええ。全てお見通しです。

龍門があなたにとっての血肉、夢、あなたの全てだということ分かっています。

いや、文月……

あ、ごめんなさい(東国語)。今の一進一退の境遇のことではありません。

私が言いたいのは……あなたがすべてを捧げて手に入れた繁栄のこと。

あなたはもう肉親を二人も失いました。いや、あなたからすれば、三人、十数人かもしれない。

そして今、あなたの姪っ子すらも死なせようとしている訳では無いでしょう?

彼女は影衛たちを心底憎んでる。やつらにチェンを捕まえさせようとすると余計に抵抗されるだけだろう。

違うわ、ウェイイェンウー……今話してるのはそれの事ではありません。

後悔しているのでは?それとも、あの子たち二人を異国の街で死なせるつもりで?

感染者が何だと言うのです?感染者になるとあなたの姪では無くなるのですか?

あなたは私達に子供がいたら、その子たちもそう扱うのですか……?

私がやってきたことは全てこの地をより良くするためだ。ファイギにそれをやらせるなんてこれまで一言も言ってないだろう。

だけどあの子はそういう性格なのよ!

間違っているのよ。あの子に隠し事をするということは彼女の心の削ぎ落すだけ。あの子は自分はここの人間じゃないんだって思ってしまうだけなのよ……。

あなたがあの子に期待してることは、あまりに遠く、あまりに難しいこと。

では私に手を止めろと?

この都市の住民たちは、この都市は私と彼らは今まで競い合ってきたが、こんな結果にしかにしか辿り着くことは出来なかった。

……ここまで来て龍門が私を許すとでも思っているのか?

彼女がやると言ったんだ、彼女が解決したいと言ったんだ、私がこの都市を支配してほしくないと言ったのは彼女なんだ。

私はただそれを実行するために何をすればいいのか、何が必要なのか、何を諦めなければいけないのかを教えただけでしかない。

はいはい、分かりました。まだ言い訳するんですね。耳にたこが出来てしまいますよ。

私があの子を連れ戻します。あの子を見殺にする訳にはいかない。

あなたが出来ないというのであれば私がやります。

ふざけるな!そんなこと許すとでも……!

すでに策は練ってある。私が彼女を連れ戻す。そして文月、お前はここから一歩も出るな。

へぇ、私を止めるのですか?

(東国語)?!

これはこれは。

ええっと、ケルシー先生、文月さんは今なんとおっしゃったのですか?

彼女が言わなかったら、東国にこんな粗暴な悪口があったことを忘れかけていたものだ。

ウェイイェイウー、私のことをお忘れになったのでは無いでしょうね?

文月、私にだって限度というものはあるぞ。

あなたは自分が何者なのか分かっているの?

文月……!

……先生、多分なんですけど……

(ウェイさんって、文月さんのことをとても気にかけているのでしょうか?)

(文月に対してはそうだろう。あるいは……)
(場面転換)

それでは、ロドスのお二方。ロドスに龍門とチェンちゃんを助けて頂きたいのですが、いくら必要でしょうか?

お金は私が出します。

お前……

月さん、本当にこの形式で依頼をお出しになられるのですか?

そうです。

こう言うのはだめなのでしょうが、うちのあれが今日は本調子じゃないみたいですので。

それに相手の策略があまりにも予想外な所もあり、彼の計算も対策されてるみたいですし。

相手は龍門だけでなく、彼のことも非常によく分かっているようです。

文月、それ以上喋るな!

私に指図するおつもりで?!

先生がお値段を決めて頂いてかまいません、いくらでもお支払いします。

文月さんがおっしゃりたいことはよく分かりました。お金は必須ではありませんが、ただお二方には少し私の話を聞いて頂けますか?

……先生。

こういうときに進言するべきではないのかもしれません。しかしあえて言わせていただきます、龍門は外部との協力が必要です。

文月さん、続けさせて頂いても?

どうぞ。私に人が話している所に指図をする趣味なんてありませんので。

……この……

ロドスは製薬会社です。

誰だろうとぼんやりと生きることが許されないこの世界では、市場や人事、政治的傾向と国家利益の脅威と判断されれば、数多の敵を抱えてしまう製薬会社でもあります。

しかし、各国の間を彷徨う行動は我々にとっては仕方がないことなのです。

各勢力が我々に圧力をかける時、我々には独自の抑制均衡、チェックアンドバランスを行う手段が存在しています…。

しかしながら、この方法が有効である条件があり――それは圧力をかけた首謀者に僅かながらの理性がまだ残っているという事です。

そして、特殊な事態が随時発生する今日、我々ロドスにもそれ相応の対策の準備が必須となっています。

要点を言いたまえ。

提案が一つあります。

その提案が有用であることを願うとしよう。

ウェイ総督、この情報をお伝えするべきなのはかわかりません。

ですが信じていただきたいのです。龍門の実力とウェイさんの本領があればロドスを滅ぼすことなど、その眼光だけで十分だということを。

我々の装備がどれほど進んでいようと、ウェイさんの部隊と同等にやり合うことなど出来はしないでしょう。

あなたの意思に逆らえば、ロドスでは必ず血の河が流れることになります。

……

話してくれ。先生もアーミヤさんも心配する必要はない。もはやこちらにロドスと対峙する余力など持ち合わせていないのだ。

だから、そう辟易とする必要はない。

わかりました。

我々とウェイ総督の最初の交渉の際、ウェイさんはこちらが有する武装力に大変ご興味を抱いていたと存じます。

正直に申し上げましょう。先ほどお伝えしたようにこの分野においてロドスは龍門とは比較になりません。

しかし、たとえどれほど強力な武装力だろうと戦局に左右されれば動けなくなる。我々と龍門の違いはそれに左右されるかどうかにあります。

例え、あなたの直属部隊だろうと手足を捕らえられては本領を発揮することは出来ない。あなた自らが出陣しても相手は依然としてあなたの尾を捕まえることが出来るでしょう。

事実、私の同僚が資金繰りのパーティーでコシチェイ公爵と彼の養女に会ったことがあります。

そこは人身売買の場でも、欲にまみれた貴族の娯楽の場でもありませんでした。あのパーティーに出席していた人達は、全員が異なる勢力と権力団体の代表でしたから。

……

……続けてくれ。

その後の事はお分かりでしょう、ウェイ総督。あの晩の会で多くの優秀な青年たちが持ち前の理論と構想を披露して必要な資金を獲得していった――

しかしそこでタルラは得るものは無かった。そのこともあって私も私の同僚も彼女がレユニオンのリーダーにまで成長するとは思いもしなかった。

実際の所……気付くべきだったのです。コシチェイ公爵は必要な場面でしか姿を見せず、必要なことしかしない、それ以外は影も形も分からない存在だということを。

コシチェイは自ら力を誇示して協力を獲得しようとはしません。タルラもそうです。彼らの関係はウェイ総督のほうがお詳しいかと存じますが。

つまり、コシチェイ公爵は彼女を奴隷や人質として扱ってはいません。

彼女はコシチェイ公爵の後継者です。

え?

あなたの見聞が私の予想を確信させてくれたよ、ケルシー先生。タルラはコシチェイの後継者だろう。

その通りです、ウェイ総督……

コシチェイ公爵はあなたが何を持っており、何が出来るかを熟知している。それはタルラも同様でしょう。

どうかこの件を我々に任せていただきたい。この件に関しては私達は最も得意としています。

アーミヤが前に言ったようにロドスと龍門の正式な提携は既に終わっています。

今、ロドスの艦船はすでに龍門の接舷区域から離脱しています。ロドスが龍門から離れた後の事は龍門にはなんら関係は無いことです。

アーミヤ、これでいいか?

……はい。

ウェイさん。私たちは……正直に言って龍門のこの先やあなた方の事情にそこまでの関心はありません。

ですが、陰謀者が感染者を利用して起こした事件と、それがもたらした結果を全力で回避させるのが私たちの使命です。

もしウェイさんに許しを出してもらえれば、誓約を、私たちを攻撃しないという誓約を出して頂ければ――

あとの戦いは私たちロドスの戦いとなります。

私は感染者には頼りはしないし、感染者を信用してもいない。君たちとレユニオンの違いは私の目から見れば龍門と敵対しているかどうか、それだけに過ぎない。

レユニオンが以前はどうだったのか?我々が覚えていなくとも、誰かは覚えているだろう。やつらも最初はこんな姿では無かったはずだ。

美辞麗句のように、浮石沈木のように、レユニオンがどれだけ自分たちには感染者の処遇を変える力があると誇示したところで、今のままではウルサスの犠牲になってしまう。

この後はウルサスがいとも簡単にレユニオンの火の粉を消し飛ばすことになるだろう。

君たちがもう一つのレユニオンではないという証拠は?誰が証明できる?誰が偽れる?君たちがこちらを裏切り、牙を向けてくる可能性も十二分にあるだろう?

その上、私は君たちにコシチェイの後継者をやれる実力があるとは到底思えない。

コシチェイ公爵と……彼と敵対して勝利を勝ち取ったのはいまだに龍門だけだからだ。

ウェイ総督、あなたは自ら武装部隊を率いてチェルノボーグのセントラルシティに襲撃、そのつもりでしょう?

誇大妄想だな。

今ので、ウェイ総督――あなたの観点はすでに自分自身の奥深く潜んでいた本心を暴露しまています。あなたはあなたしかこの件を解決できないと思っているようだ。

確かに龍門にはその実力があるでしょう。あなたにはウルサスの策略に勝利した経験もある。

そして今回、あなたは自らの死で龍門宣戦の罪を償いたいと考えている。

文月さんがおっしゃったように自分が起こした多くの不本意な出来事を自身の死で逃れようとしている。

生涯で多くの罪を犯してしまったのだ、この身を捧げても償いきれないほどの。誰に向けて償うのかすらも分からんよ。

であれば、ウェイ総督、あなたの死を咎める人がいないという事を保証出来るでしょうか?

龍門は炎国の要地だ。龍門が維持できていれば繁栄が終わることは無い。

私が言いたいとしていることは文月夫人のことです。

(ケルシー先生……直球ですね!)

先生?!何をおっしゃっているのですか!

そうです、ウェイ総督。私が危惧してるのはあなたのせいで夫人が傷つくということです。あなたが亡くなろうと夫人はあなたの寡婦です。あなたの考えていることならば夫人も基本的には理解されています。

あなたに今まで不本意なことをさせる人がいるのでしたら、おそらく、今回のことも……いたって当然のことなのでしょうが。

その方の心の器がさぞかし小さいのでしょうね?

もうよしてくれませんか、先生!なんてひどいことを言うのですか、私は……

つまり、私が死のうが生きようが、文月がもたないと。

文月さんだけではないと思いますよ。

……付き添うことは出来ますよ。死ぬぐらいであれば……

文月!!

あらまあ。

続けてくれ、ケルシー先生。

あなたが大事にしている都市のため……あなたが本当に大切に思っている人のためにも。

どうかお願いです、ウェイ総督。今回の件は正真正銘の専門家に任せていただきたい。

他のいかなる勢力だろうとこちらに勝機は無いでしょう。ですが感染者となれば話は別です。

感染者が何を求めているのか、何を嫌悪しているのかを我々は熟知しています。

感染者には感染者でしか対抗出来ません。

――。

それで、何を求めるのかね?ロドスのリーダー、そしてロドスの医者は?

ここに来たのは慈善のためでは無いのだろう。セントラルシティに攻め込むのは卵で石を打つのと同義、必ず甚大な損失を受けることになる。ましてや成功するとも限らない。

ウェイ総督はよくご存じで。

ここまで来たのであれば双方包み隠さず話そう。それが互いの利益のためにもなる。

私達にはウェイ総督の我々の作戦への承認、および請け合いが必要です。

この先、ウェイ総督のお考えが変わるかもしれません……そのための承認です。今この時のための承認が私達には必要なのです。

それが龍門とあなたの家族を、チェンさんを、守るための価値があるものだと信じています。

……

文月さん、お金は大丈夫です。あたなの優しさと感染者への姿勢が無報酬の任務の活力になってくれましたから。

(うさぎちゃん……)

え?

(サムズアップ)

……??

いいだろう。龍門とチェルノボーグ事件が解決されるまで、我々龍門はロドスのいかなる行動に干渉しないことを約束するとしよう。

それに、どうやら先生はまだ言いたいことがあるようだ。

話してくれ。今は何を言われようと認めるとしよう。私もロドスには一人でも感染者を助けてもらいたいところだからな。

……では、もう一つご提案が。

いかなる値段であろうと引き受けよう。

二十年前、エドワード・アトリアス、つまりタルラ・アトリアスの父が龍門で亡くなっています。

ウェイ総督には彼の遺品を私どもに貸与して頂きたいのです。