
ど、どうしてあの部外者たちは俺たちの邪魔をするんだ!

それとお前!チェフェリン!お前の息子はあの火災で死んだんだぞ、なのにどうしてまだあの穀潰し連中に手を貸してるんだ!

……刃物を下ろせ、そして話すんだ、誰がお前たちを諭したんだ、誰がお前たちに武器を与えたんだ。

最終警告だぞ。
(殴る音)

くそっ!

……人を傷つけてしまった以上、家に籠ってどうする?まあいい、憲兵隊がドアノックして問いただすだけだ。

問いただすだけなんですか?

「問いただす」具体的な内容を旅客に教える義務はないんでね。

ではその「旅客」に何か言うことがあるんじゃないですか、「長官」?

……うむ、君たちは強い、まさか医者がこれほどやれるとはな、見聞が広がったよ。

それと……協力に感謝する。

一般的に、「オペレーター」と称される私たちの事情は様々なものなので。

ではそろそろアントがどこへ行ったか教えていただけますか?

……ここは安全ではない、戻ってから教えよう。
(チェフェリンが立ち去る音)

……

お疲れ様です、フォリニックお姉さん。

ごめんなさい、戦闘であまり役に立てませんでした……

いいのよ、あなたは十分頑張ったわ、ヴォルモンドの状況がこうだと先に知っていれば、あなたを連れてこなかったのに。

ちょっとしたトラブルを解決するためだろうと、こんなに早くあなたを戦闘に巻き込みたくは――

もうフォリニックお姉さんったら!

はぁ、はいはい、リサちゃんはもう子供じゃないもんね、怪我はない?

はい、大丈夫です!

でもフォリニックお姉さんさっきから何処から上の空みたいで、どうしたのですか?

……ここら一帯は隔離地域のはず。事を起こした感染者が追いやられたあと、ここは静けさを取り戻した。

はい……ほかのところとそんなに大きな違いはないような?

大きな違いはないわ、その通り、商店も、カフェも、演奏会場もアートサロンの広告も……

彼らは衛兵に取り押さえられる必要も、凍土に流刑されることもない、それどころかいたって普通な生活を送っている……なんて言えばいいかな、結構いい暮らしをしてるってこと。

感染者の待遇もいろいろあるのね。

もし皆さんが感染者にこんな感じに優しくできれば……

じゃあ私たちは失業ね。

えぇ!?でも本当にこういう理由での失業なら、私なら嬉しいですよ!で、でも私オペレーターになったばっかりなので……

冗談だって……感染者が町で何事もなく生活できているということはヴォルモンドの環境は特殊ってこと。

……彼らは私たちに何か隠しているようね。

え?どうして急にそれを――

シッ!声が大きい!それはあの憲兵が去ってから言ってくれないと!

ここの感染者の反抗してた態度は見てておかしく思ったのよ。彼らは「火災」とか「先生」とか口にしてた、そうよね?

あとさっきのあの憲兵は最初から私たちがロドスだって知ってた、私はアントの行方を聞いてるだけなのに、ひとこと答えるのがそんなに難しいのかしら?

それにここ……この町の雰囲気もちょっと怪しすぎる。

たとえリターニアだしとして感染者を町に放置しておく訳が無い。衛兵は何をしてるの?どうして誰も止めないの?

確かにちょっとおかしいですね……

イヤな予感がする。

も、もしかしたら町の状況が良くないから、皆さんピリピリしてるのではないでしょうか?

……そうだといいのだけれど。

お二人ともお疲れ様でした、本当に申し訳ありません、来て早々このようなことに巻き込んでしまって、どうお詫びすればいいか……

あぁ……全然大丈夫ですよ。

ここの憲兵隊の方ですか?

いえ。ただヴォルモンドの住民はみな正規な軍事訓練を受けているんです、特殊な事情が起こったときに、武器を持って戦う義務がありますから……

あ、でも伯父さん……チェフェリン長官は本町の最高長官になります。

……サボってタバコを吸っていたあの男が?責任不履行と職務放棄の姿を見てしまえば人の品格もイヤでも知れてしまうものね、残念です。

長官があのようになってしまったには理由が――

いえ……なんでもありません……

そうだ、お二方はどのようにお呼びすれば?

……オペレーターのフォリニックです、こちらはオペレーターのスズラン。

フォリニック、スズラン……コードネームですか?

私たちの間では本名を使って仕事する人は少ないんです、「アント」も同じです。

アント先生……

その様子ですと、お知り合いなんですね。

あ……すみません、疑っているのはわかっています、でもチェフェリン長官は必ずアント先生のことを教えてくれますよ。これは……私の一存で決めれる範疇ではないので。

とりあえず、私に着いてきてください。

……わかりました。

彼女らにどこまで話したんだ?

そんなには、みんな不機嫌にはならない程度までだ。

お……俺は確かに無情な意見を言った、だがお前はその意見を拒否することができたんだぞ。

くだらない責任転嫁はやめろ、私がお前たちに慰めの言葉をかけると思うな。

私が今全ての事実を彼女らに伝えたら、お前は喜ぶのか?みんなハッピーになるとでも?

俺達は代表であり、お前はヴォルモンドのトップだ、俺達が嬉しい嬉しくないになんの意味がある?

……面倒ごとは嫌いなんだ、特に感染者たちが騒ぎ出してるときに客人をもてなさなければならないことが。

はぁ……待て、やめろ、ここでタバコはよせ、バリスタの矢もイジるな、元に戻せ、ロドスのお客さんにはいい印象を与えないといけないんだから。

いい印象ならもうとっくに無くなってるけどな……

お前――待て、窓の外にお嬢さんが二人いるんだが?

お嬢さんね、ハッ、お前も彼女らの戦いぶりを見れば、公務員たちみたいにリターニアの学校での芸術課程の比率が多すぎるんじゃないかって疑い始めるかもな。

長官、店長、お見えになりました。

おお、ようこそいらっしゃいました!ロドスの先生方!ようこそヴォルモンドへ!先ほどの事件に巻き込んでしまって誠に申し訳ない、お詫びの印として、今晩はご一緒に――

ご好意に感謝致します、ただ私たちはアント先生の行方を確認しに来ただけなので、長くは滞在致しません。

それで、彼女は今どちらに?

えーっと、それなんだが――

現地の感染者も「アント先生」を知っています、時間を延ばす必要は、無意味かと。

……お二方、本当に申し訳ない、何分ヴォルモンドで起こった事情が複雑ゆえ、御社への説明に少々時間を取らせて頂きたい、それを以てアント先生の行方を――

彼女は失踪した。

えぇ!?

……憲兵さん、よくこのような話題でも我関せずの軽はずみな態度を示せますね。

真実というものは軽はずみだ、簡単な話さ、重苦しくないということだ、今の君みたいに憤ってはいるが、さほど驚きもしていない、とっくに予想できていたのだろ?

私たちは確かに「アント」という感染者医師を知っている、ヴォルモンドが最も困窮していた時、彼女は多くの感染者住民の世話を助けてくれた、我々も深く感謝している。

彼女は失踪したと私たちに伝えることが、あなたたちの感謝を示す方法なんですか?

そう剣幕を立てないでくれ……ゴホッ、ゴホッゴホッ――

あの、顔色が悪いです、タバコはもう吸わないほうがいいですよ。

もしよろしければ、一度全体的なメディカルチェックを受けられた方が良いのではないでしょうか。もしかすると――

……いや結構だ、お気遣い感謝する。

話を戻そう、ヴォルモンドが天災を回避するため当座標に避難したあと、感染者住民をあてがうのを助けるため、アント先生は町の外れにキャンプを立てられた。

だがついこの前、キャンプ地で火災が起こったんだ。

……

うっ……

……火災。

そんな渋い顔をしないでくれ……目下の調査によれば、あの火災は事故だった可能性が高い。

アント先生はその後ヴォルモンドから離れたと思われる、うむ、どこに行ったかはわからないんだ。

人が失踪したのによくもそんな平気な顔で――!

フォリニックお姉さん!落ち着いて、落ち着いてください!

私たちが、自分で確認しに行きますから、でも、火災のあとに行方不明なんて、そんな言い方だと不安すぎます!

……申し訳ない。

平気な顔をしなくても、私には――「申し訳ない」としか言えない。

アント先生は立派な人だった、彼女はリターニアの血のつながりもなく、我々ともなんの関係もない赤の他人なのに、誰よりも崇高な心を持っていた。

ヴォルモンドが天災に見舞われて大きな損害を被ってもなお、彼女は逃げずに、我々に救いの手を差し伸べてくれた。

私は先生のことを尊敬している、だから彼女に不測の事態に遭ってほしくない。

だがあの火災のあと――君も見ただろ、一部の感染者住民はそうは考えていないのだ。

だが彼らは何も悪くない、今のこの町は外界との連絡がつかず、航路もズレていて、補給も欠けている、おまけに武装した感染者が町周辺をウロウロしているんだ。

武装した感染者?

外からやってきた連中で、みな感染者だ、完全武装している、リターニア人以外に、魔族もいる。

「サルカズ」です、その言葉の意味をちゃんと分かってください。武装感染者に関しては、ほかの情報はありますか?

連中は火事場泥棒に過ぎない、数回被害に遭ってはいるが。

そうですか。ではなぜ彼らはすぐさま町を攻めてこないのですか?なぜこの周囲を「徘徊」しているのですか?

何か思い当たるところがあるようだな。

ヴォルモンドが感染者問題に敏感でないこと、それは理解できます。

長い間、リターニアの感染者が一般人となんら変わらない生活が送れることは、いわば奇跡であり――

――何者かが隙を見て入り込むきっかけにもなる。

……つまり?

言ったはずです、ロドスはただの医療集団ではない、私たちは感染者対策のエキスパートです。

特定の事件なら……私たち自身の判断を信用出来るはず。

例えば……「レユニオン・ムーブメント」はご存じですか?

大峡谷が出現する前に、新聞でその名前を見たことがある、ほとんどはウルサス関連だが、リターニア国内でもたまに耳にする。

だが一つの小さな町から言えば、耳にしたこともない、意味も分からない専門用語より隣町の夫婦の噂のほうがよっぽど耳に入ってくる。

それで?それらと関連があると?

――いいえ、それは確認が取れた後にしか出せない結論です、今はとりあえず置いときます。

わかった……ゴホッ、とにかく、情報提供感謝する。

私の今までの仕事の経験上、あなたの言い分で私たちの任務の動向を決めることは叶いませんよ。

それは残念だ、だが正直に言うと私も君たちが言うことを聞いてくれるとは思っていないのでね。

私たちは町で少し調査をします、「失踪」の具体的な結果次第では……

ロドス側からこの町の責任者に必要な代償を支払ってもらいますので。

ぐっ……

……承知した。

その表情を見るに、拒否する理由もない。

君たちの町での自由行動を許可しよう、アント先生の同僚であれば、ヴォルモンドは君たちを賓客としてもてなすのは当前だ。

ああ!その通りだ!ここの部屋はどうぞご自由に使ってください、階上にはヴォルモンド政府最高の客室を用意してありますので。

お二方も長旅で、さぞお疲れでしょう?どうぞ階上でおくつろぎください、お二方のために――

結構です、まだ気になることがあるので。

今から調査を始めても構いませんね?

……後程こちらが手続きの準備と住民たちへ、特別調査を行っていると知らせる、ご自由に。

ありがとうございます。

スズラン、行きましょ。

え?あ、はい!ではヴォルモンドの皆さん、またのちほど!
(フォリニックとスズランが去っていく足音)

……はぁ。

……あとどれぐらいもつ?

彼女のあの表情を見たか?

……ああ。

そうだな、ロドスは利益のために我々を騙すような会社ではないのかもしれん、だが彼女らは失った仲間のために予想外なことをするのかもしれん。

私たちにとってみれば、どれも結果は同じだ。

しかし……しかしあれは俺達の責任ではないだろ、いや、どれもこれも、あの死にぞこないの感染者たちが火を放ったからだろ!?

こちらに証拠はない。

だが俺達もただ責任を負うわけにもいかないだろ!

俺達は可能な限りあの感染者たちに大目を見てやった、だがやつらは俺達に対して何をした?憲兵隊がここを離れて以降、毎日管理に従わない感染者が出てきているじゃないか!

……そうだな、真実はいつも軽はずみだ、このマッチ棒が見えるか?マッチ棒のほうが真実よりよっぽどあてになる。

お前は確かにタバコを辞めるだ、医者の話には素直に聞き入れろ、寿命も数年は伸びる。

彼女らは「オペレーター」だ、私は「医者」の言うことしか聞かないんだ。

うまいこと言って……

……タジャーナ、彼女らの後をついて、客人たちの身に面倒ごとが起こらないように見てやってくれ。

あ、はい!了解です、長官!

……彼女を行かせるのか?

ハッ――あのなんだ……そうだ、フォリニックだ。

私があのフォリニックの悲しみと憤りに満ちた表情を見て、何を思ったか知りたいか?

もったいぶるな。

……思ったんだ、どうしてタジャーナはあんな表情をしなかったのか?

トールはあともう少しで彼女の夫になるはずだったんだ、彼女も悲しみに暮れて当然だよな。