――やつらはいつ潜り込んできたのだ?
分からない、「蓄音機」は作動してはいなかったが……
あのテスト段階の自律術式ユニット装置は頼りにならんと言ったはずだ。
感染者の集まりの中に高等教育を受けたリターニア人がいれば、やつらを簒奪するのは、簡単なことだ。
今となってはもう間に合わない、感染者居住区内でやつらの痕跡が至る所で発見されている、くっ、やつらが感染者たちを煽動しているんだ。
……ヴォルモンドの民はそう易々と煽られるはずがない。
し、しかしどんどん多くの人が抗議に賛同している、彼らが束となって――
要求はなんだ?
ドデカフォニー通りの物資供給の回復……それとドデカフォニー通りでの全ての隔離措置の撤廃だ。
……ふざけたことを言いやがって。
もちろん、一番の要求は……あの火災に対しての正式な釈明ではあるが……
彼らが火災に関心を持っているはずがない……見ておけ、すぐに全員その初心を忘れることになる。
どうすればいい?ロドスの人ももう来ている、バレるのも時間の問題だ。
お互い分かってるはずだ、でなきゃなぜタジャーナを行かせた?
ロドスが仕事を終わらす前に、やつらがどんな会社なのか確認しなければならん……やつらがアントと同じ感染者なのか、それとも「やつら」と同じなのか。
そうして良いのか悪いのかは俺には分からない……彼女らに俺達が隠していることがバレたら事態は余計に悪化するんじゃないか?
はぁ……好きに解釈しろ、顔に出やすいやつはいずれそうなる、今のヴォルモンドがどういう状況にあるか、お互い見るよりも明らかだろ。
分かってはいるが――
――じゃあ善人になろうなんて思うな、善人はろくに得をしない、結果が一番重要なんだ。
ゴホッ、ゴホッ……一番面倒なやつらの状況は?例えば魔族とかは?
やつらはまだ俺達と接触してはいない……
火事場泥棒の連中が、町民を煽って、隙間を作り出す、よく見る常套手段だ。
やつらは慎重に、事態を探っている、もしヴォルモンドに憲兵隊が駐在していないとやつらに確信されれば……
ここの町民は全員戦闘の準備はできている、こちらにはL-44「蓄音機」防御システムもある。
だがお前たちは結局のところ憲兵ではないのだぞ……はぁ、人命は最低限に抑えたいんだ、ゴホッ――ゴホッゴホッゴホッ――
自分の体はいたわってくれ、ヴォルモンドはまだお前を失うわけにはいかないんだ。
そうかい、私はどっちでもいいが……
ほかに誰がこの憲兵が一人もいない状況で、ヴォルモンドの治安を崩さずにいられると?
強大な血筋にすがっているだけだ、高貴なリターニア人は不正な身の行いは許さないたちなんでね、彼らをもう一押ししてしまえば、ここは生き地獄と化す。
一刻も方法を見出さなければ、私たちもすぐにおじゃんだ。
せめて冬に入る前に、この廃土の上に留まるのではなく、なんとしてでも正規航路に戻さなければ、飢饉と暴動がこの町を滅ぼしてしまう。
確かに、ああ……お前の言う通りだ。
気温も涼しくなってきている、ゴホッ――
……ヴォルモンドにまだほかの選択肢が残っていることを願うよ。
ねえ、あなた達はどこから来たの!?
あなた達ももあの能無し達を助けるんでしょ、私達をここに閉じ込めて死なせる気なのね!?
動かないでください!
さっきは誰の話を聞いていたのですか?その人に何を教えたのですか?
あら、ビビってるの?そりゃそうよね!ビビって当然だわ!
あなた達みたいな税金を無駄使いしてる無能のせいで、ヴォルモンドは今みたいに落ちぶれてしまったんだから!
こんなことになるのなら、私達が全部を管理するわ!
これは誰のせいでもありません!
責任を天災になすりつけておしまいのつもり!?あなた達の誤りのせいで、私たちは逃げ遅れたのよ!
……全くもって屁理屈ですよ、そこの感染者。
あなたはほかの都市に行ったことがありますか?ほかの感染者の生活環境を見たことがありますか?
たとえよそ者の私でもヴォルモンドが窮地にあることは分かります、ほかの人も感染者と同じ日々を送っているんですよ、今こそ共に協力してこの瀬戸際を乗り越えるべきではないのですか?
は?そういうあなたは誰なのよ?
ロドスのオペレーター、感染者の医師です、私たちも感染者たちが窮地を乗り越えることに協力します、ただ前提として、争いごとを起こさないことですが。
こ、こんにちは、できれば、抵抗を諦めてください……
はっ!脅してるつもりなの、私があならに敵わないとでも思ってるのかしら――!
協力する、助ける?よくそんな綺麗ごとが言えるわね、どっちが先に手を出したのか、あの女に聞いてみなさいよ!
それは……
……ねえ、あなた、あなたも感染者なんでしょ?
はい。
尻尾を九本持つヴァルポ人はそうそう見ないけど、あなたもいずれ私みたいになるわよ。
大丈夫ですよ……皆さんによくしてもらっているので……
今じゃなくとも、ここじゃなくとも、いずれはそうなるの。
もしアント先生がまだ居てくれれば――
ぐっ――!何よあなた、手を放して!
今なんて?
フォリニックお姉さん、落ち着いて!
あなたさっき、アント先生って言ったわよね?
彼女はどこ?彼女はどうなったの?
何言ってるのよ、あの火災は全てを奪っていったの!
大峡谷が現れてからあいつらは私達を排斥し始めたの、あいつらは恐れているのよ!
逃げ込んできた感染者たちもあいつらに一か所に集められた、何故なら、私達を支配下に置くため、あいつらの虚偽の人道的精神を満足させるために、私達を飼い始めたのよ!
私たちはそんな……チェフェリン長官はそんなことをするはずがありません!
勝手に言ってなさい、それだけなら……それだけなら私達も文句は無かったわ……
せめてアント先生がいれば、私達に仲間がいれば、あなた達がこの町を放棄したとしても、私達には住む場所が残っていた……
だけど――あいつらが――あいつらがアント先生を殺した、私達の仲間を殺したんだ!
何もかもあの火災のせいだ!
――あなた、何をするつもりよ?
……アントはあの火災から生き残ってるはずよ。
はぁ!?
あぁ、分かった、なるほど、あいつらはあなた達も騙してるのね。そうよ、あいつらは全員騙してるんだ。
あれは事故なんかじゃない、あれは放火、謀殺なのよ!いつも礼儀正しくペコペコしている連中が化けの皮を剥いた証拠なの!
あんたの感情任せに吐き出してるものなんて必要ない――
フッ、あなた知ってるかしら――
やめなさい!
――火災当日、テントから逃げ出した人なんて一人もいなかったのよ!
……!
つまり……
ようやくわかったかしら、あなたがどっちに立つべきかっていうのが?
もういい。
(殴る音)
きゃっ!手加減ってものを知らないの――!?
……暴れないでください、あなたを逮捕します。
あなたは憲兵じゃない!あなた達もよ!ここに法律なんか存在しない!ここは移民してきたやつらの残飯しか残ってないのよ!
チェフェリン長官があなたの処罰を下します、ごめんなさい。
フンッ、あなたじゃ私を殺せないわ、私を殺せばここの全ての感染者住民との関係が決裂するからね!
あなた達が私を荒原に捨てる日を待ってるわ、そうすればあそこに正式に加入できる――
……あなたとあなたの仲間たちは、私たちが全てを主導したと考えている。
私たちは同じここの住民のはずなのに、同じヴォルモンドの一員なのに、ずっと一緒に何事もなく平和に暮らしていたはずなのに――
どうして私たちを信じるより、あの荒野で流浪してる怪しい感染者のほうを信じるんですか?
私たちにどこか非があったのですか?
……あなたが冬霊の一員じゃないからよ。感染者でもないし、あなたは何不自由なく暮らせているからもであるわ、お嬢さん。
感染者が何なのかを忘れないで、鉱石病が何なのかもね、今の私はあなたよりはっきりと理解できた、それだけよ。
見つけた!タジャーナはここだ!
それにロドスの二人も、ご無事ですか?
あ、私たちは大丈夫です!
彼らを連れていってください、お願いします。
はっ、またチェフェリンに会いにいかなきゃならないってことなのね……
彼らが再発させないように尽力致します、タジャーナさん、ロドスのお二人?
私が責任を取ります。
――わかりました、ではお先に。
では、説明を頂けますか?
フォリニックお姉さん……
ぜ……全部お二人にお教えしますから。
私はチェフェリン長官と代表たちが何を考えているかはわかりません、でも……フォリニックさん、スズランさん、あなたたちが真相を知るのは当然です。
なにより先ほど助けていただいたわけですし……
……余計な話は無用です、私がただ知りたいのは……彼女は生きてるんですか?
わ……わかりません……
わからないですって!?
フォリニックお姉さん、落ち着いてください。
タジャーナさん……どうして嘘をついたんですか?
……私たちも全てを受け止める覚悟が出来ていなかったんです。
どうかご理解を、私たちもロドスがそんな企業かわからないので、まずは先に信頼を築き上げて――
私たちが冷血で、無情で、ヴォルモンドをさらに悪化させる――これもあんたが私の仲間の結末を騙した言い訳なわけね!
……ごめんなさい、本当にごめんなさい、私……
ずっとあなたたちに隠すつもりはなかったんです……!わ、私たちもがんばってあの怪しい感染者集団を調査してる最中なんで!
……いや、わかっています、これは自分を守るための、言い訳にしかならないって……
……そう、それは言い訳にしかならない。でも……情状酌量の余地はある。
私はただ……ただ真相を知りたいだけ。ロドスはあなたたちを、感染者の問題で窮地に陥っている町を見捨てることはありません。
――!
でないとアントが悲しむから、彼女は悲しむとすぐに鼻を鳴らして泣いてしまう、彼女が泣いてるとこなんて見たくない。
今はまだ間に合います、あなたにとっても、私にとっても。
感染者を助けて、感染者の問題を解決する、それが私たちロドスの仕事ですから。
タジャーナさん、私たちがお互いに信じ合えば、きっともっとたくさんのことが出来るはずです!
……ありがとうございます。
天災が起こる前に、長官はアント先生に聞いたんです、難民たちと一緒に離れないのかって……
あの時アント先生も言ってくれました――「ロドスはあなたたちを見捨てません」って。
私と一緒に来てください。