ママ?ママ、どこに行くの?
高いところ?お花がいっぱいな高いところに?
……パパを殺した悪い人がそこにいるの?ママがその人をお仕置きするの?
お仕置きしたらパパは帰ってくるの?
……帰ってこない?
だったら……行かないでママ。
行かなきゃダメ?ママがウルサスに帰るのイヤだよ……あそこのパンは固いし、冬も寒いし……
ママ?
ママ……
……
……
……母さんは二度と戻ってこなかった。
私は母さんが残してくれたお金で、ウルサスに残って勉強して、生活を続けた。
独りで。
独りで何年も待ってきた。独りで何年も生活してきた。
ケルシー先生が私の前に現れるまで、彼女は、私はある研究所の所長だ、私を迎えに来たと言った。
あの頃のケルシー先生はとても疲弊していた、今よりもずっと、私は後からわかった、あの時の彼女はある遠い国から戻ってきて、私を探しに来たそうだ。
そして、私はロドスに加入した。
私はケルシー先生に聞いた、母さんはどこに行ったのかを。ケルシー先生はあまり話してくれなかった、ただ話してくれたのは、母さんも父さんと一緒に、ウルサスの奥深くに埋葬されたこと。
彼女は私が最も尊敬する先生であり、最も憧れるリーダーだ、彼女は私に教えてくれた、私を教育しているのは、何も言葉だけではない、無数のオペレーターがしてきた行いが君に滲みこんでいるのだと。
でもケルシー先生は、彼女は私の最も簡単な疑問にだけは答えてくれなかった――
私は何に復讐すればいいの?
(スズランとフォリニックが走る足音)

……リサちゃん、付いてこなくてもよかったのに。

心配です。

大したことないよ……付近を捜査するだけ、もしかしたらあの武装感染者の集団が残した痕跡があるかもしれない。

フォリニックお姉さん……彼らが事件の元凶だと思いますか?

わからない――は理性によって導き出した答え、「わからない」は当然の答え、だって私たちに証拠はないから。

でも今の町の状況を考慮したら、彼らが一番疑わしい、そうでしょ?

それと冬霊、チェフェリンはどうしても多くを語ってくれない、これが何を意味してるのかはわからないけど……でも感染者の集団と結託しているのよ、きっと同類に違いない。

ここの付近にある冬霊山脈の名で知られる、一年中雪と氷で閉ざされた荒涼な山脈……何か関係があるのでしょうか?

……わからないわ、私がわかるのは、犯人を見つけ出して、その人から一つの答えを得ることだけ。

フォリニックお姉さん、昨日からずっと……とても怖いです。

リサ……ごめんなさい。

……誰でも簡単に疑いや恨みが晴れることはできないのよ。

こんな挨拶もない別れはもう二回目なの……だから今回は、私はもう後悔したくない。

……ん。

出てくるがいい、俺達に敵意はない。

自分の潜伏技術はそこそこなもんだと思ってたんだけどなー……どうやってアタシたちを見つけたの?

うーん……直感?多分だけどな……

お前たちは、誰?

(うわー、こいつなんだかやり辛そう。)

(じゃあ少しは静かにしていろ。)

ロドスの戦闘記録をある程度閲覧した、お前は普通の感染者じゃないな。

……ロドス?そうか、お前たちは……ロドスのオペレーターか。

どうする?ヤっちゃう?

今はグレースロートがいない……だがせめてやつの足は止める!

――!

――落ち着け、やつに攻撃するな!カシャ!

ヘタに動くな!

くっ――!ご、ごめん!

ん……?一瞬、お前の目が鮮やかな赤に変わった、何かの刺激反応か?

……俺がお前を驚かせてしまったのか?すまない、俺はただ……戦っても無駄だって知ってほしいだけなんだ。

お前たちがヴォルモンドの住民なのであれば……ここから離れたほうがいい、危険すぎる。怒りに満ちた冬霊人あるいは感染者がお前たちと遭ってしまったら……ヤバイことになるぞ。

……忠告感謝する。

ではお前はなぜここにいる?

俺はただ花を手向けに来ただけだ、終わったら帰るよ。

……手に持ってるのは、普通の野花か?

ここの秋は寒い、いつも夢を見るんだ……この花を、この花たちはあの雪山の子供のように……ひんやりと冷たいんだ。

……どうか安らかに。

(あいつは本当にただお参りしてるだけなの?もしかしたら花を手向けてると見せかけてなんかアーツを放つんじゃないの?)

(やつの顔が見えない限り嘘かどうかなんてわからない、だが……)

(……本当に悲しんでるようだ。)

――?

動くな、振り向かないで、手を上げて。

グレースロート姉!

……いつの間に現れたんだ、なんという軽やかな身のこなし方……

まあいい、ロドスのボウガン使い、お前の矢では俺をどうこうすることはできないよ。

動かないで、聞きたいことがあるだけ――

力を示さないと……意味ないよ。

――話が通じないわね!
(ボウガンを打つ音)

ほらっ、お前の矢を掴んだぞ……俺を傷つけることはできないんだ。

岩を持ち上げて矢を防いだだと!?

ち、違う!アーツだ!あの人は確かに矢を「掴んだ」、泥で!

――そう。

……いや。

お前は……警告を出す前に矢を放ったな、俺不意打ちは嫌いなんだ、でもお前のことは嫌いにはならないかな。

それに……うむ、もしお前のさっきの二本目の矢が弦に掛かっていたら……どうなる?

あんたの防御アーツが首まで間に合っているかどうかによるわね。

うーん……間に合うかどうかはわからないけど、この防護服って結構頼りになるんだよねー……

まあいいや、お前に戦う意志がないのなら、願ったり叶ったりだ。

もう行っていいか?

ごめんなさい、まだだめみたい。

……それもそうだな、はぁ。

いろんなリターニア人が俺たちに参入してくれた、チームの個性も豊かになってきたけど……

でも……ボウガン使いのお前ならこのマークを見過ごすわけないもんな、この、過去に感染者だった証のマーク。

レユニオンはかがり火を灯した、過去にも、現在にも、未来でも、あれはこの大地の隅々から生まれ続けていく。

でも、レユニオンという言葉は全ての感染者のことを言ってるわけではない。

だから、あんたは?リターニアの賛同者なのか、それとも罪悪と陰謀を背負い、他所から逃げてきた亡命者なのか?

俺か……?うーん……どっちもかな、カズデルから始まった目的も目標もない長い旅だ、俺たちはずっと逃げ続けてきた。

……ヴォルモンドの混乱の惨状に、あんたたちが無関係だとは到底思えない。

確かに、無関係なわけないもんな。

でも俺は……もうレユニオンじゃない、これからも、俺はただのマドロック小隊の隊長、一人の……傭兵かな?いや、ただの感染者だ。

(あいつなんでずっと一人で喋ってるの?そのレユニオンなんとかの考えってあんなに常識外れなの?)

(隊長が交渉してる時ぐらい頼むから静かにしてくれ、本当にやることがないんだったら、カメラでも撮ってろ。)

(それだ!カメラカメラっと……)

でも、そうだよなぁ……俺は何なんだろ、もう傭兵でもないし、レユニオンでもない、今の俺は、一体……

あ……

どうしたの?

えーっと、アーツの余波で花を汚しちゃったみたいだ……この季節に、せっかく採ってきたのに……

戦うんだったら、場所を変えてもいいか?

話し方が本当に余裕ね……でも、遠慮しておく。

カシャ、エアーズカーペ、警戒を怠らないで、攻撃はしちゃだめ、あいつと距離を空けよう。

ふぅ……

――了解。

ありがとう。

……この火災で、うちのオペレーターが巻き込んだみたいなの、情報が欲しいのよ。

すまない……俺たちも仲間が四人あの火災で亡くなったんだ。

俺たちは探偵についてはド素人だからわからないけど……仲間の中にはたくさんのリターニア人がいる。

彼らはみんなちゃんとした教育を受けてきた、ほかの国の人に比べれば、彼らは生まれつき術師みたいなもんだ。

だから少なくとも……はっきりとわかるのは、これは人災だ、決して事故などではない。

誰がやったの?

俺たちが知っていれば、この町はその人の死で平常を取り戻せていたよ。

ほかに何を知ってる?例えばそうね、さっき話していた冬霊人のこととか?

……お前は多分誤解してる、俺はお前と敵対したいわけではない、ただ仲間を弔いに来ただけだ。

でもいつかは、お互い武器を向け合う日が来るかも、俺はお前たちを信用する理由など……ない。お前たちと情報を共有するつもりもない。

……なるほど、でも大丈夫、あんたの態度がすでに大きな助けになってくれてるから。

そうだ、町の中に入ったのか?

ええ。

どうだった?

何もかも混乱していた、感染者たちが抗議し出して、非感染者たちと衝突を起こしている。

あんたの人が彼らを促したのね。

……良くないな、関係ない人たちがそれで罪を被ってしまうのは……だが……

……だがヴォルモンドが罪を認めるまで、あいつらが犯人を渡すまで、譲歩するやつは誰もいない。

俺に仲間の死で怒り狂う感染者たちを止める理由などあるか……?

――わかった。

うむ……どうもありがとう。

……俺たちは行動しづらい立場にいる、だがお前たちは違う。

あ……お互いもう十分喋りすぎたな、俺はお前たちを完全に信用することはできないんだ、ロドス。

うむ、信用しきれない、それじゃあこの辺で……また。
(マドロックが立ち去っていく足音)

……

グレースロート姉!あいつ超怖いよ!ロドスにいるでっかいフェリーンたちよりよっぽど怖いよ!

彼は強い攻撃意識を表には出さなかったけど、もし彼が小隊を保有しているのであれば……今のヴォルモンドではまったく歯が立たない。

このままやつを行かせるのか?

正面衝突はなんとしても避けたい、相手を過度に刺激してしまえばヴォルモンドを困窮に陥れてしまう。それに今はアントの行方だってわからないまま……

もしここにもレユニオンがいるのなら、事態は相当厄介だぞ。

オペレーターフォリニックとスズランには連絡がついたか?

……いえ、町中が混乱し過ぎていて連絡が取れなかった、それにロドスの役職で議事庁に訪れるべきかすら迷っているところよ。

でも気になることも幾つか見つけた、これはどうやらよく見る感染者の衝突じゃない。

「冬霊」は重要な手がかりよ、私たちも続けて調査しなくてはならない。エアーズカーペは私に付いてきて、クリック、お願いなんだけど彼らの駐留ポイントを偵察してほしい。

彼らの小隊規模を把握する必要がある、それと彼らの行動パターンも、ちょっと覗くだけでいいから、安全第一よ。

わかった!

……はぁ、こんなことだったらレオンハルトに付き合って宿舎で石遊びしていればよかった……
ふんふん――♪ふんふんふん――♪
冬霊よ、冬霊よ♪

冬霊?あんたらはどっからその言葉を知ったんだ?

何モンだあんたら?ロドス?部外者はあまり首を突っ込むな、あんたらとは関係ない。

――冬霊なんて知らない、話しかけないで。

冬霊?調査?いや、冬霊人ならとっくにヴォルモンドからいなくなってるよ。

……とっくにいなくなった?

いや、つまりだな……はぁ、お前らに構うんじゃなかった。

よく聞け、お前らが何を考えてるかは知らん、だがヴォルモンドはお前らが考えてるよりずっと仲間想いな町なんだ。

おそらくこんな風習をお前らに教えてくれる人はほとんどいないだろうが、俺が特別にお前らに教えてやろう――

「冬霊人」はヴォルモンドの歴史の一部分なんだ、不必要な争いを起こしてしまう話題ではあるが

私からすれば、もうすでにその「冬霊人」のせいで相当面倒くさい争いが起こっていますが。

……この前動力ボイラーが破壊されたことを言ってるのか?いやいや、あんなの大したことじゃない……

ヴォルモンドが冬の中この荒涼とした大地に留まってしまうのにですか?

ヴォルモンドは天災で甚大な損失を被った以上、今年の冬は厳しいものになりますよ。

……よそ者め、好奇心は猫を殺すぞ。これは貴族の旦那たちが最も嫌う話題なんだ、俺は面倒ごとが嫌いなんだよ。

本当に冬霊人のことが知りたいのなら、自分たちで冬霊人に聞いてみろ。

え……冬霊人のことが知らないのにどうやって冬霊人を探し出すのですか……道理に合ってませんよ……

――もういい!

自分たちで何とかしろ、俺は知らん、俺は何も知らん。
(町民が走り去っていく足音)

あ……

仲間想いな町ですって?確かにそろいもそろって仲間想いね。

チェフェリン長官に聞いてみたほうが早いのでは……?

そうね、これは重要な突破口になる、前回みたいに話題を避けてくれなければいいんだけど。

でももうじき日が暮れそうね。

……ったく。

※ウルサススラング※!どうして今日も何の成果がないのよ――!

フォリニックお姉さん、そんなに急がなくても……

急いでいないわよ……!私はただ、私は……

……ここは何かがおかしい……私にはわかる……でもアント……私はどうすればいいの……

どうすればいいの、母さん……
ふんふん――♪ふんふんふん――♪
折れに折れる木の枝があった♪
冬霊よ、冬霊よ♪
果てしない生と終わりない死に巻き込まれ♪
それは頑なにそれの歌を歌い続けている♪
夏の間も♪
冬の間も歌い続けていた♪
冬霊よ、冬霊よ♪