
つまり、あなたは彼らを追いやった、ということね?

うん。

あなたについていかなくて正解だったわ。火で人を焼く……あんな匂いなんて、もしまた嗅いだら、きっと吐き出しちゃうわ。

アリーナ、無理しなくていいんだよ。

あの時は自分であなたについていくって決めたから。

だから、私がアリーナたち感染者を守ってあげるから。

違う、私が言いたいのは――

分かってるって。アリーナ、君がいなければ私は物資や情報を集める時間すらなかったからね。

あなたと通信してる人が誰なのか、よければ私に教えてくれないかしら?

……

私をウルサスのスパイって疑っているの?

君をこんなことに巻き込ませたくないだけだってば。

感染者になってしまった以上、これ以上最悪な生活なんてないわよ。

私が連絡していたのはほかの都市にいる感染者たちだよ。

彼らから都市の動向をいち早くキャッチしたからね、それで凍原で生活してる感染者の助けになれれば。

あなたはとても大したことを……やっているのね。

そんな強い正義感はどこからきたの?昔そう教えた人でもいたの?

ううん。

私が受けた教育は、毒々しいうえに狂っていて、統治の傲慢さと権力への恐怖で満ち溢れていたよ。

だから私はその真反対を歩もうと決めたんだ。あいつらのお上品ぶってる化けの皮を剥いで、あいつらが鼻を高くしている貴族都市を一階ずつ崩して、真実をすべての人に、この雪原に住むすべての人に教えてやろうと決めたんだ……

そして私たちは私たちで自分たちの運命を決める。

私たちでこの大地をもう一度開墾するんだ。自分たちの住まいを建てる、そうさせない奴がいたら、そいつらを打ち倒す。

この大地の一部は本来であれば感染者のものなんだ……この大地にある色んな場所だって、本来はみんなのもののはずなんだ。

……もう少し現実を見て、タルラ。それだとあまりにも非現実的よ。

タルラ、そんなことしたら、村はおしまいよ。村人たちは帰る場所を失い、治安維持隊が一生彼らの背後を追いかけてくるようになるわ。

私がやらなくても、あの村は同じようにどんどん廃れていくよ。

みんな戦士になれるわけじゃないわ。老人や、子供、傷病を負った人、生きることを諦めてしまった人たちは、貧相な土地に行っても、生きていけないのよ。

分かってるよ、アリーナ。だから新しい場所を探しているんだよ。

さあ、行こう、アリーナ。今晩はやっと屋根の下で寝られるよ。

はぁ……

招待してくれてありがとう。

よしてくれ、あんたらがいなければ、俺たちはもうとっくに死んでたよ。今も死んでるようなもんだけどな。

申し訳なかった、出会い頭あんたにあんな態度をとって、それにあんたを懲らしめようとしていた。俺に意志がなかったからだ、すまない。

あんたたちをもてなしたいが生憎何も残っていないんだ、麦の粥しかないが、分けて食べてくれ。

本当にありがとう、そんなことしなくてもいいのに。

いやいや、いいんだ、どうせあとこれっぽっちしかなかったわけだし。この先も同じ日を過ごすだけだ、大して変わんないよ。

村を建てようとしても、こんな辺鄙な場所でも……無駄だった、何もかも無駄だった。

俺たちは逃げられない。こんな広大なウルサスでも、どこに行こうが無駄だ、そこら中治安維持官だらけだ……ほかの連中もあんたらを受け入れてくれるはずもないよ。俺たちはもう逃げ場がなくなっちまったんだ。

なら、私についてこい。

……どこへ?今からか?

今でなくてもいい。

お前たちの考えが決まったら、あるいはこれ以上逃げ場がなくなったとき、それでも生きたいと思うのであれば、私のところに来るがいい、もしくは私の同胞たちのところへ。

荒野や、凍原での生活は……とても過酷だ。

しかし私たちには暮らせる場所がある、未開の地が待っている、土を耕し作物を収穫することができる土地が残されているんだ、私たちには仲間もたくさんいる、彼らが各村々の商売を手伝うよ、だから収入も手に入る。

私たちだけでも生きていくことはできるんだ。

治安維持隊が来たらどうするんだ?

――私たちで奴らに打ち勝つ。

え?

……今なんて言った?

私ならできる、お前たちにもできる。君がさっき私に武器を指したことは、間違ってはいない。

誰かが私たちを略奪しようものなら、団結して撃退すればいい。感染者だって力はある。

私たち感染者はこれから少しずつ己の命を取り戻していくんだ。

パン、それと暖かな火も。