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【明日方舟】メインストーリー8章 R8-5「寒冷、知覚より来たる」後半

あれは彼女の最も印象深かった出来事の一つだった。
あれは彼女の「貴族生活」が幕を閉じる一日であった。

コシチェイ
ピューティアの貴族

戻ったか。

タルラ
タルラ

……

コシチェイ
ピューティアの貴族

その剣は嫌いではなかったか、なぜそれを持っている?

タルラ
タルラ

ついでに持っただけだ。

コシチェイ
ピューティアの貴族

ふむ。

コシチェイ
ピューティアの貴族

君からは泥の匂いがする、しかし血腥さと、焼き焦げた匂いがしない。君のメイドが君が沐浴も着替えも済まさずに急いで私に会いに来たと言ってた、つまり、当ててやろう、君は手を出さなかった。

コシチェイ
ピューティアの貴族

もっといい方法でも見つかったのか、タルラ?あの目の上の瘤を、邪魔者を対処する方法が?もっといい方法が見つかったから、私の言った通りにはしなかった、そうなのだろう?

タルラ
タルラ

貴様は私にアントニオ少佐を排除させようとしただけではなく、子供を一人殺させようと私を騙してくれたな。

タルラ
タルラ

コシチェイ……子供だぞ。アントニオは彼の息子を連れて旅行していた、私に彼を陥れて、憲兵を遣わして彼が次に行く都市の道中で殺すつもりなんだろ、そうすれば彼の息子も難を逃れられるはずもないからな。

コシチェイ
コシチェイ

アントニオは匿うことをとても得意としている。君なら分かるだろう、あの少年は彼の息子ではない。

タルラ
タルラ

ふん……

コシチェイ
コシチェイ

教えたはずだ、より重要な目標が目の前にいるとき、道徳面や資源面での犠牲は避けられないと。

コシチェイ
コシチェイ

君はアントニオを逃した、次に彼が現れるのはヴィクトリアのとある特務官の官邸だろう。

コシチェイ
コシチェイ

鼻につくフェリーンたちが私たちの四都市のこれから一年の航路を探り出し……

コシチェイ
コシチェイ

……それをもとに我々のビジネスパートナーを特定し、我々の物資の出元を調査し、我々の輸出入ルートを描き出し、我々の防衛配置を洞察してくるだろう。

タルラ
タルラ

ファイルはすでに処分した。

コシチェイ
コシチェイ

素晴らしい!よくやった。君にもできるではないか、違うか?

コシチェイ
コシチェイ

しかしタルラよ、君はどうやって……証明するのだ、アントニオはあのファイルを一度も「見ていない」ということを。

コシチェイ
コシチェイ

もし彼があのファイルの内容を知っていなかったのであれば、なぜあれを持ち出したのだ?

タルラ
タルラ

では貴様はどうやって彼が貴様の公爵領を、ウルサスを裏切ると証明してくれるんだ?なぜ彼を尋問せず、捕らえず、直接排除しようとした?

コシチェイ
コシチェイ

私に証明など必要ないからだ。尋問は彼に反駁や罰から言い逃れる機会を与えてしまう、彼の行為を赦免するわけにはいかないのだよ。

コシチェイ
コシチェイ

彼はそうする可能性がある、であれば、私にとって、ウルサスにとって、法にとって、それだけで十分だ。

コシチェイ
コシチェイ

してはならないのだ。彼は「そうすること」ができないのだよ。

コシチェイ
コシチェイ

――アントニオは私のほうで処理しておいた。君がファイルを処分したあと、私の蛇たちが君の尻ぬぐいをしておいたよ。

タルラ
タルラ

そうだろうな。知っていたさ……貴様なら絶対に彼を逃さないとな。

コシチェイ
コシチェイ

私はこれまでずっと君を鍛え上げてきた、より優秀な人になるために、しかし見てみろ、君はまた私の期待を裏切ったではないか。前回よりも成績が悪いぞ、タルラ。

コシチェイ
コシチェイ

スヴァダ会議での表現はあれほど素晴らしかったというのに、それに、タルラ、君もあの感覚を味わえることをいい加減認めるべきだ。

コシチェイ
コシチェイ

あの万に一つもない頂点の感覚を。

タルラ
タルラ

私を侮辱するな。貴様は私の怒りにさらに油を注いでいるだけだ。

コシチェイ
コシチェイ

では、君ならきっと完全無欠な感覚のほうを味わいたいのであろう。

コシチェイ
コシチェイ

君の懸念はよく分かる、君の考えも理解できる。だから……

コシチェイ
コシチェイ

蛇たちに彼の息子に扮していたあの少年を見逃してやった。

コシチェイ
コシチェイ

どうだ、タルラ?君一人でもこの程度ならできるのではないか?

タルラ
タルラ

あの少年は彼の息子だ。紛れ、も、なく。

コシチェイ
コシチェイ

息子にならないことも可能だ。

コシチェイ
コシチェイ

あの少年は成人したら、君のところに来て、父のために復讐するだろうな。

コシチェイ
コシチェイ

では君は……いつになったら、君の父のために復讐をするのだ?

コシチェイ
コシチェイ

タルラ、君の父を殺めた人は、まだ健在だぞ。

タルラ
タルラ

……

コシチェイ
コシチェイ

君をその手で復讐が果たせるように鍛えてあげようと、私は君に約束した、しかし、今の君では……まだ足りない。

タルラ
タルラ

……もういい、コシチェイ!

コシチェイ
コシチェイ

やれやれ、そういうのは除け、タルラ、己の要求を除くんだ、私だって君が優秀な人になることを望んでいるのだぞ。

タルラ
タルラ

人殺しに、憲兵の親玉に、貴族の軍官に、陰謀家に、虐殺を生み出す術師になることか!?それが貴様の言う優秀な人だというのか!?

コシチェイ
コシチェイ

タルラ、タルラよ。それは違う。

コシチェイ
コシチェイ

私は継承者を渇望しているのだよ。

タルラ
タルラ

……

タルラ
タルラ

貴様はよくそんな気持ち悪いことを素直に言えるな。

タルラ
タルラ

ただ、ふん、申し訳ないが、公爵よ。

タルラ
タルラ

貴様の期待はもうすでに……

タルラ
タルラ

地に堕ちた。

コシチェイ
コシチェイ

ふむ……

コシチェイ
コシチェイ

興奮しているな。言ってみろ、タルラ、言ってみるがいい、君が何をしたのかを、何が君をそんなに得意げにしたのだ?

タルラ
タルラ

半年前に採掘場で小さな源石鉱材の破片を拾った、それをどうしたと思う……?

タルラ
タルラ

私はそれを自分の腕にはめ込んだ。

コシチェイ
コシチェイ

……ほう?

タルラ
タルラ

効果はてきめんだった。

タルラ
タルラ

私はもうすでに感染者になった。

タルラ
タルラ

私は感染者になったんだ、コシチェイ公爵。我が命久しからず。貴様の権謀術数も、計画も、投資も、すべて水の泡だ。貴様はもう私を利用することはできなくなった。

タルラ
タルラ

私の一切はすべて貴様のために用意されていた、そうなんだろ?だが今はもう違う。

コシチェイ
コシチェイ

あぁ。それはそれは……なんと予想外なことか。

タルラ
タルラ

陰謀が破綻した味はどうだ?

タルラ
タルラ

コシチェイ、私はすでにウルサスとこの大地が最も恨めしく思い、最も忌み嫌う感染者になった……

タルラ
タルラ

都市で、凍原と荒野で最も下劣な感染者にな。

コシチェイ
コシチェイ

君の姉が今の君の姿を見て、果たして喜ぶと思うか?

タルラ
タルラ

……貴様!

コシチェイ
コシチェイ

一体何が君をこうも私に抗うようにしているのだ、我が娘よ?

タルラ
タルラ

――貴様。

コシチェイ
コシチェイ

貴様は私を欺いた、ウェイが私の父を殺した首謀者だと私を騙した。二人はかつて共に貴様に抗い、貴様を龍門から追いやったことを私に教えなかった。

タルラ
タルラ

貴様が私の父の死に際にどんな人物を演じたかを教えなかった、たとえウェイが私の父を殺し、その罪を背負い、死ぬべき人だとしても――

タルラ
タルラ

貴様もその咎から逃げられると思うな。

タルラ
タルラ

貴様は表では自分の領民を重んじて、ほかの集落を都市の周囲に配置し、感染者たちに安息の地を与えるようにしていた……

タルラ
タルラ

だが実際は、貴様はあえて感染者と住民たちの生活を天と地の差に仕立て上げた、貴様は感染者を経て住民たちに自尊心を見出させようとした。

タルラ
タルラ

都市が市民に対する略奪は貴様によって美化され義務となった、奴らは感染者や住まう所を失った非市民たちをいたぶることで慰めを得ようとしていた!

タルラ
タルラ

これが貴様の公爵領か?これが貴様の都市と統治だというのか?

タルラ
タルラ

不平等を用いて虚像を創り出し、虚像をもって貴様の影響力を拡張していたと?

タルラ
タルラ

もうこれ以上我慢できない。貴様の偽りばかりの手法と捻じ曲げれた手腕を責めないにしても、貴様の偽りだらけの主義主張とその偽りの慈しみに満ちたにへら顔を見るだけで、もう我慢の限界だ!

コシチェイ
コシチェイ

教えたはずだ、タルラ。

コシチェイ
コシチェイ

「この平和な時間の中で、彼らは互いの平等的な扱いを享受することはできない」――そう教えたはずだ。

コシチェイ
コシチェイ

この一連の凡庸な年月を終わらせることを除けばな。

コシチェイ
コシチェイ

君も私も彼らの自治を受け入れることはできる、クルビアやイェグラの市民のように。しかし彼らはどうだと思う?

コシチェイ
コシチェイ

彼らは次の執政官と次の貴族を推挙するだろう、なぜなら彼らは他人への尊重心を持たず、権力と暴力を畏怖しているからだ。

コシチェイ
コシチェイ

それだけではない、彼らはほかの人が彼ら以上に勇敢で聡明で、善良で、慈悲深いことを許しはしないのだ……

コシチェイ
コシチェイ

君が彼らの公爵、あるいは皇帝でない限り。

コシチェイ
コシチェイ

君は彼らを同情している。私の領民たちを同情している。税吏や官僚たちに追いやられて逃げ場を失った市民たちを憐れんでいる。

コシチェイ
コシチェイ

それはいいことだ。

コシチェイ
コシチェイ

しかも、君がいくら感染者を侮蔑する言葉を吐き出すように無理していたとしても……私は未だに憶えているさ。

コシチェイ
コシチェイ

君は次から次へと私の政策を弄り、より多く彼らを守ろうとした、その上市民たちの怒りを湧き立たせるようにした。

コシチェイ
コシチェイ

私は長い時間をかけてやっと彼らの情緒を抑え込めたというのに、タルラ。

タルラ
タルラ

彼らを同情してるわけではない!

コシチェイ
コシチェイ

だが君は確かに彼らを愛しているのだろう。

タルラ
タルラ

貴様……!?

コシチェイ
コシチェイ

いいぞ、タルラ、君は本当に彼らを重んじているのだね。ますます私に似てきたではないか、我が娘よ。

タルラ
タルラ

……よくもまたそんなことを口に出せたな!?

コシチェイ
コシチェイ

しかし君のその浅はかな行動は必ず失敗する。

タルラ
タルラ

私がこれから何をするのかを知ってるような口ぶりだな?貴様にそんな能力は……

コシチェイ
コシチェイ

たとえ全員がいい結果を欲していたとしても――あれらは必ず失敗するものだ。

コシチェイ
コシチェイ

タルラ、タルラよ。なぜなら彼らが求めているいい結果と君の夢は、本質上違うものだからだ。

コシチェイ
コシチェイ

君では異なる人種に同じ行為を認めさせることはできない、彼らの紛争、衝突と混乱は避けて通れないものなのだよ。

コシチェイ
コシチェイ

サルカズはどうやってサンクタと対面すればいい?カジミエーシュ人はどうやってウルサス人と対面すればいい?逞しくも勤労な熊はいかにして傲慢で無能な鷹と対面すればいいのだ?

コシチェイ
コシチェイ

彼らに方法を教えるのか?なんて傲慢な考えなのだ、我が娘よ!君はその姿とその身分で彼らを命じようとしているのかね?

コシチェイ
コシチェイ

あぁ、もちろん、分かっているとも。君なら必ずやり通すだろう。

コシチェイ
コシチェイ

タルラ、君は君によって統治される定めにある者たちを統治しに行くだろう。君は黒蛇の英知を継承し、紅き龍の血が流れ、熊の国土を足踏み、鷹の歴史を振り返っているのだからね。

タルラ
タルラ

生まれついてから他者によって統治される人など一人もいない。

コシチェイ
コシチェイ

しかし彼らは君の統治を渇望している。彼らは生涯君のような人が自分たちを統治してくれることを待ち望んでいる。

コシチェイ
コシチェイ

ウルサスはいずれ君によって震え上がるだろう、我が娘よ。

タルラ
タルラ

他者を統治する者はいずれ必ず更なる強者によって統治されるぞ、コシチェイ。

コシチェイ
コシチェイ

あぁ、その点については私も懸念している、タルラ。では最後の授業をしよう。

タルラ
タルラ

……ん?

コシチェイ
コシチェイ

タルラ、我々はいずれこの短く世俗的な統治を超脱する。

コシチェイ
コシチェイ

先代の皇帝はお隠れになった、しかし先皇の影は依然この大地に被さっており、先皇の意志と思考はすでに彼の時代を超越した。

コシチェイ
コシチェイ

彼は真のウルサス帝国を継承したのだ、ウルサスの土地の繁栄を支え、ウルサスの人民に安息を与えた。

コシチェイ
コシチェイ

しかし一旦太陽を失えば、ウルサスの繁栄なる木の葉はたちまち枯れ果てた、そしてこの土地は互いの養分を吸い取り合う低俗な生き物と更なる腐敗しか残らなくなった。

コシチェイ
コシチェイ

君が世話を焼いてるその人たちも――

コシチェイ
コシチェイ

暴力を、四方への虐殺を、自虐を、畏怖と己の図々しさを愛してやまないのだよ……

コシチェイ
コシチェイ

君は教育と信念で彼らを吸収し、彼らを教化しようと夢見ているが、彼らが君の言うことに微塵の興味もないことをまだ知らないんだね……タルラ、君はもっとこれらを知るべきだ。

コシチェイ
コシチェイ

彼らはこの土地で幾年も生き延びてきた、彼らは己の根深い悪しき生活方式に慣れてしまっている、しかしそこへ足を踏み入れる君は彼らにとってはただのよそ者に過ぎない。

コシチェイ
コシチェイ

いわゆる統治者とは、いわゆる貴族とは、いわゆる軍とは……みな逞しい人民にすぎない、贅沢に暮らしている人民にすぎない、訓練を受けた人民にすぎないのだよ。

コシチェイ
コシチェイ

領地は改編される、軍隊は編制され直される、統治もいずれ崩壊する……

コシチェイ
コシチェイ

いかなる統治も久しからず、ウルサスの人民がそれに追随したい意志があることを除けばな。統治は永遠ではない。ただ前に突き進んでいるだけなのだよ。

コシチェイ
コシチェイ

――君が薄っぺらな恩や恵みを換えて得たのは、服従だ、非現実的な期待だけだ。

タルラ
タルラ

彼らの本来の姿などなぜ貴様が知っているんだ?ウルサスが彼らをあのような姿に変えたのではないか!

コシチェイ
コシチェイ

もちろん知っているとも、あぁ、むしろ知りすぎた。

コシチェイ
コシチェイ

彼らは君についていく、そう思っているのだね?パンのために、ジャガイモ、きれいな水と暖かな焚き火のためにか?君はそんな彼らを承諾するのか?

コシチェイ
コシチェイ

彼らはついていくさ。そして、彼らが飢えたとき、真っ先に君の身体を自分たちの腹に収めようとするのだよ。

コシチェイ
コシチェイ

もし彼らに非現実的な幻想を抱いているのであれば、君は彼らを恨むだろう。必ず恨むだろう。

タルラ
タルラ

コシチェイ、私は貴様ではない。

タルラ
タルラ

私は断じて貴様などではない。

コシチェイ
コシチェイ

しかし君はもうすでに私と同じだ。ただ甘い夢からまだ覚めていないだけだ。

コシチェイ
コシチェイ

もし君に目指すべき目標があるのであれば、行くがいい、恐怖で恐怖を滅ぼし、命で命を統治し、犠牲で犠牲を導き、無知で無知を育み、痛みで痛みを生み出すがいい。

コシチェイ
コシチェイ

方法はすべて君に教えた、それらはもうすでに君の武器となった。あとはこれらをどう使いどうやって……慣れることを知るだけだ。

コシチェイ
コシチェイ

君の愛する人たちが自分たちの国と自分たちが生きている意味を理解するまでにそうするといい。

タルラ
タルラ

貴様のその屁理屈と邪説が何を言いたいのかさっぱり理解できない。

コシチェイ
コシチェイ

すべて事実なのだよ。すべて、君はいずれ対面する。

コシチェイ
コシチェイ

ではこうしよう、我が娘よ。君は私を信用していないのだろう。

コシチェイ
コシチェイ

君と一つ賭けをしよう。

コシチェイ
コシチェイ

この長い年月の間、私が君の身体の中で培ってきたアーツはとっくに芽を出した、そして実を結ぶときが来た。

タルラ
タルラ

……なに……を……?

コシチェイ
コシチェイ

君はこれから一生、君が固く抱いてきたすべてに疑問が生じたとき、君の同胞と称される者たちに、その自由であるべき人々にほんの少しの恨みでも抱いた瞬間……

コシチェイ
コシチェイ

君の中ですぐに私たちが交わした契約が履行される。そのときになれば君は私が教えた道を歩むようになる。

コシチェイ
コシチェイ

これから数年間、君は幸いにもそういった状況には遭遇せず、おとぎ話のごとき土地で生活を送るだろう。

コシチェイ
コシチェイ

君が対面する人々が遭遇してきた苦しみに、理解することも、それらに迫害されていると解釈することもできるだろう……

コシチェイ
コシチェイ

私は待とう。この国も待ち続けよう。三年、五年、十年、百年経とうと、君は同じ答えしか導き出せない。感染者となった君にそれほど長い命はないだろうが、その日はいずれ必ずやってくる。

コシチェイ
コシチェイ

ウルサス帝国は今まさに病に蝕まれている時期にある。作物が荒廃とした土地で育たないように、陰暗な土地では腐敗した花しか咲かないように。

コシチェイ
コシチェイ

君は君の愛する人々によって裏切られる、君は君の友が君によって死ぬ瞬間を目にする、君は自分の未来に対する期待に意味を失ったことを見つけ出す。

コシチェイ
コシチェイ

なぜなら他者の目には、君がしてきたことすべては己の身分によってもたらされた圧力を補えないように映るからだ。

コシチェイ
コシチェイ

君はすべてが犠牲にできることを知る、すべての人が隣人より我が身を大事にすることを知る、君は君の誇らしい奮闘の象徴が実は虚無であることを知る。

コシチェイ
コシチェイ

君は、君のすべてを捧げたこの大地が君を望んでいないことを知る。

コシチェイ
コシチェイ

君は君の求めるものが無に帰すところを目にする、彼らが君の尊ぶ一切に唾棄するのを目にする、命も、尊厳も理念もすべて意味を失う。

コシチェイ
コシチェイ

なぜならその人々は、君が謳っている崇高な人々は、ただの歩く屍だからだ。

コシチェイ
コシチェイ

私が遭遇したものは、君もいずれ遭遇する。

タルラ
タルラ

貴様……貴様は私を……屈服させようと……!

コシチェイ
コシチェイ

いいや、違うよ。私は確かにこのアーツを使える、これは騙しでも、脅しでもない。

コシチェイ
コシチェイ

しかし、私のアーツはあまりに弱くてね、君に教えたすべてもこのアーツを構築するための基礎なのだよ。

コシチェイ
コシチェイ

このアーツは、君が私を否定する間は、なんの作用も働かない。

コシチェイ
コシチェイ

しかし君が一旦私を認め、私を理解し、君自身がどんな大地に身を置いているのかを理解した途端……

コシチェイ
コシチェイ

――しとしと、しとしと、ポタ、ポタ、ポタと。

コシチェイ
コシチェイ

君は私になる。

コシチェイ
コシチェイ

ウルサスの未来もいずれ君が握るようになるだろう。

タルラ
タルラ

……何を言っているんだ?

タルラ
タルラ

貴様は何を……一体何を言っているんだ?

タルラ
タルラ

意識を操れるのか?思考に暗示をかけれるのか?頭でも狂ったか、私にそのアーツに対抗する方法を教えたのは貴様だろ、貴様が私にその心を操るアーツを見破る方法を教えたんだろ!

コシチェイ
コシチェイ

とんでもない。

コシチェイ
コシチェイ

自分の継承者にそのような下作で有害なアーツを施すと思うか?

コシチェイ
コシチェイ

私はアーツで一つの過程を速めただけだ、君のこの大地への認知、己への疑心、己への懐疑、己を恨み己を見直す過程を速めただけだ。

コシチェイ
コシチェイ

このアーツを施さなくとも、すべて同じように起こりえる。ただこのアーツは君をより早く到達させるためにすぎない。

コシチェイ
コシチェイ

正常に都市で暮らせているフリをしている人はみな自身への催眠を習得している。

コシチェイ
コシチェイ

彼らは現実逃避を、規則と道徳で己を飼いならすことを、失敗した者の卑下な殻で残酷な事実で容易く傷つけられる己の人格を隠すことを得意としている。

コシチェイ
コシチェイ

私は鎧と、武器と、自我を君に授けた。

コシチェイ
コシチェイ

そうすれば君は自我に対する疑いと自傷の過程を省ける、君の困難、君の抗い、君の時間を省ける、君は現実に打ちのめされたとしても瞬時に立ち上がり、再生することができるようになる。

コシチェイ
コシチェイ

君は自我の否定で多くの命を浪費しなくて済むようになる。

コシチェイ
コシチェイ

私が君に教えたすべては君の脳裏でまた新たに育む、君は繭を剥いて糸を引くようにこれらの知識を新たに編集し直す。

コシチェイ
コシチェイ

君は君の原初の迷信を打ち破り、豊富な知恵の庭の中で曲がりながらも終わりがある道を探し出すだろう。

コシチェイ
コシチェイ

タルラ、ウルサスの運命は君次第だ。

コシチェイ
コシチェイ

黒蛇は君と共にいよう。この朽ち果てぬ意志は永遠に死ぬことはない。

タルラ
タルラ

――貴様――

タルラ
タルラ

私を呪うのか?

タルラ
タルラ

貴様は……貴様自身で……私を創り上げようとしているのか?

コシチェイ
コシチェイ

いいや、タルラ、これは呪いではない。祝福なのだ。

コシチェイ
コシチェイ

君を祝福しているのだよ、我が娘よ。

コシチェイ
コシチェイ

いつか君が人の本性への非現実的な想像から目を覚ましたとき、君は知るだろう、なぜ私たちはこの大地の輝かしい未来のために死して奮闘せねばならないのかと。

タルラ
タルラ

嘘だ!で……でたらめを言うな!

コシチェイ
コシチェイ

そんなはしたない炎国の言葉は教えなかったはずなんだがね。しかし学ぶのもいいだろう、これも君が未来で君を演じるためにもなるからね。

タルラ
タルラ

ハッ、当然だ。貴様は私に公衆の面前でこういう言葉を言わせなかった、貴様が言う私の印象を――

コシチェイ
コシチェイ

――君の出所を隠すためだよ。

コシチェイ
コシチェイ

私は心から君のために思っているというのに、君はむしろ私のアドバイスに歯向かい、私の言葉を冒涜し、私が教えたすべてを知りなおも逃げ出そうとしてきたな、タルラ……

コシチェイ
コシチェイ

だが心配はしていないさ。なぜなら君はいずれ必ず私が示した道を辿るのだからね。

コシチェイ
コシチェイ

人と人の間は恨みによって占められているのだよ、恨みによって統治し、愛によって、彷徨いによって、羨望によって恨みは生まれる。

コシチェイ
コシチェイ

恨みとは人々の関わりの必然なる結果だ、人が二人いれば自然と統治が産み出される、私みたいにすべての人を平等に愛せることを、除けばな。

コシチェイ
コシチェイ

私が憎いか、タルラ?私がしてきたことは、この大地が君にすることでしかないというのに。

タルラ
タルラ

貴様がしてきたことなど……私には関係ない。

タルラ
タルラ

なんら関係はない……!これっぽっちも!

コシチェイ
コシチェイ

あぁ……いい。素晴らしい。

コシチェイ
コシチェイ

名を受け継がず、権力を駆使せず、地位も利用しないとは、素晴らしい、我が娘よ。決心は固いのだな。

コシチェイ
コシチェイ

ならば君自身の手で君のやるべきことを切り拓いていくがいい。君は私の領地と政治資源、私の富と私の力も受け継ぎたくないのであろう、それは素晴らしい。

コシチェイ
コシチェイ

ではこれらは、君の手で奪い取るがいい。君がそうしてくれれば、私の心願も満足する。

タルラ
タルラ

勝手に私の意志を決めつけるな!

コシチェイ
コシチェイ

いいや、もちろんしないさ。しかし本心でもあるのだよ。このような「贈呈」を甘んじて受けるコシチェイなどいない。勤勉で自尊な我らにとって、これは侮辱とも言えるからな!

コシチェイ
コシチェイ

君に教えられることはすべて教えた。

コシチェイ
コシチェイ

君がこれから奪い取ろうとするものはすべて、君のものだ。

コシチェイ
コシチェイ

我が娘よ……君は実に素晴らしかった。

コシチェイ
コシチェイ

君は以前の君が抱えていた決裂を手放しても、違う道を辿ろうとしているのだな……

コシチェイ
コシチェイ

感染者は君のためにほかの領土を切り拓いてくれるだろう。君がしようとしていることはこのウルサスの大地には一つたりともないからね。

タルラ
タルラ

(剣を抜く)

タルラ
タルラ

私が今日貴様のところに来たのは他でもなかった。よりによって貴様の邪悪で毒に満ちた布教を延々聞かされるとは思わなかった。

コシチェイ
コシチェイ

ほう。ついにこの日がやってくるのか?

コシチェイ
コシチェイ

私は常に思うんだ、ウェイは私を殺し損ねた、では彼の傍にいる誰がいずれ私を殺しに来るのかと。その結果が君だったとは、その結果は――当然君だったということだ。

コシチェイ
コシチェイ

己の父を屠った仇に罰を与える、君が恨む人の代わりにその者が恨む人を殺す。なんと素晴らしい結末なのだろうか。

コシチェイ
コシチェイ

君の殺戮は私の懸念を証明してくれた、ならば私は抵抗を諦め、君の手によって死のう、我が娘よ。君の行いは君が真理へ向かう橋となる、であれば私は死によって君の基盤となろう。

タルラ
タルラ

私は貴様の娘などではない……断じて。

タルラ
タルラ

貴様を殺すのは、貴様のこれ以上の悪事を阻止するためだ。

コシチェイ
コシチェイ

では、タルラよ、君が悪を働け。

タルラ
タルラ

もういい。

コシチェイ
コシチェイ

そして善を働くがいい、さすれば君は私の善行も認めてくれる。

コシチェイ
コシチェイ

ほう。その剣、執事に収納するように言わなかった……その剣は好きじゃない、君は剣よりアーツを多用してきたが……それを持って行くといい。

コシチェイ
コシチェイ

その剣は君がどこから来たのかを常に教えてくれるからね……

タルラ
タルラ

(吠える)

コシチェイ
コシチェイ

……その剣は君と私の道も指し示してくれるからね。

コシチェイ
コシチェイ

私が憎いか、タルラ?

タルラ
タルラ

騙されんぞ、老いた毒蛇め!貴様の命はここで終わりだ、この悪人が!

(斬撃音)

コシチェイ
コシチェイ

スゥー、ゴホッ、スゥー、スゥー……

コシチェイ
コシチェイ

肺……が……スゥー……

コシチェイ
コシチェイ

狙いが……まだ……甘いな。

タルラ
タルラ

貴様を恨むことはない、コシチェイ。

タルラ
タルラ

その恨みが貴様のいつもしつこい上に胡散臭い詭弁の一部だとしても、貴様は恨むにも値しない。

タルラ
タルラ

むしろ哀れに思うよ。貴様の死は貴様の孤独と、貴様の妄想がただの泡沫であったことを証明しただけだ。

タルラ
タルラ

貴様の話してきたことがどれも荒唐無稽であることを証明してやる、貴様にそれを知る機会はもうないが。

コシチェイ
コシチェイ

は、は……素晴ら……しい……

コシチェイ
コシチェイ

私が死ねば、ウェイの……重荷も外れる……

コシチェイ
コシチェイ

期待しているよ……そのときの……君……の後悔と……君の……恨みを……

コシチェイ
コシチェイ

……忘れるな……

タルラ、忘れるな。
君の終着点は私であることを。

タルラはゆっくりと剣を公爵の胸から引き抜いた。
彼女の思考はすでに遠くへ漂ってしまった。彼女は城から、都市から、追っ手から逃れた……
種は蒔かれた、あとは芽が出るのを待つのみだ。

アリーナ
アリーナ

そして私たちのところにやってきたと。

タルラ
タルラ

もう何年も前のことになるけどね。

アリーナ
アリーナ

……コシチェイが死んだあと、都市はどうなったの?危険な目に逢わなかった?

タルラ
タルラ

もし何かがあったら、私は君たちのところには来れなかったよ。

タルラ
タルラ

都市は……噂によると、私が去った後コシチェイの領地と財産はすぐさま第四軍集団に割譲されたって聞いた。

タルラ
タルラ

私に関しては、誰も気にしてないみたい。自ら姿を隠すような……フフ、町の若手を気にする人なんていないよ。

タルラ
タルラ

でも確かに結構遠くまで来たな。気が付いたときは、もうお爺ちゃんとお婆ちゃんの家の前まで来てたから。

タルラ
タルラ

あのときの私は、思考が吹っ飛んでたから、来た道に何があったかなんて、憶えてないよ。

アリーナ
アリーナ

お婆さんが私に言ってたわ、あなたに初めて会ったとき、全身血まみれだったって。その服を綺麗に洗うにも、苦労したって。

アリーナ
アリーナ

私の村がひそかにあなたを殺そうとするかもって、考えてみなかったの?

タルラ
タルラ

なんで急にそんなことを言うの!?

アリーナ
アリーナ

だって……きっと少しは考えたことはあるんでしょ、って思って。

タルラ
タルラ

君たちならそんなことはしないよ。作物の収穫量は悪くなかったし、消された夜の踊りの焚き火や、柵の内にいた荷物運びの獣、それと壁に掛けられた装飾品を見れば……

タルラ
タルラ

君たちの生活は豊かとはいえないけど、自分たちの生活は気に入っていることぐらいはわかるよ。

タルラ
タルラ

君たちは絶対私を殺しはしない、もししたら、踊りすら心置きなく踊れなくなっちゃうからね。

タルラ
タルラ

人を殺したあとになおも素っ気なくできるのは邪悪な怪物だけだ、そんな人はあまりいないけどね。

アリーナ
アリーナ

人のことをいい方に考えすぎなんじゃないの?

タルラ
タルラ

あまりにも悪事を見てきたからね。その多くの悪事も当人たちに選択の余地がなかったからこそ引き起こしたにすぎないんだ。

タルラ
タルラ

もし選択の余地があれば、私には分かる、この大地のほとんどの人ならきっといい人になるほうを選ぶって。

タルラ
タルラ

……コシチェイが言っていたようになるのではなく。

アリーナ
アリーナ

彼はこの世の全員は悪で、あなたも最後はその悪人たちを恨むようになる、あなたは優しすぎるからって言ってたのよね。

アリーナ
アリーナ

……なんてひどい呪いなの。こんな言葉以上にひどいものなんてないわ。

タルラ
タルラ

だから、私は絶対誰も恨まない。彼らがしてきたことには必ず何かしらの原因があるからね。

アリーナ
アリーナ

私に促してほしいんでしょ?

タルラ
タルラ

そうしてもらうと嬉しいんだけどね。

アリーナ
アリーナ

じゃあ私がいなくなったらどうするの?結局は自分で考えないといけなくなるわ。

タルラ
タルラ

そんな縁起悪いことは言わないでよ。

アリーナ
アリーナ

いつかはそうなるわ。私たちの後ろにいる感染者たちも、きっといつか先に去ってしまう。

アリーナ
アリーナ

私たちに残された命で、私たちの生活を有意義なものにしても……バチは当たらないわ。

タルラ
タルラ

そうだね。私もそう思ってる。

タルラ
タルラ

それを成し遂げるには難しい、アリーナ、難しいけど、でも感染者はもう一度団結するべきだと私は思うんだ。

タルラ
タルラ

ウルサスで私たちのあるべきものを取り戻すんだ。もしできたとしたら、この大地もきっと自分の行いを顧みてくれる。

タルラ
タルラ

そしたら、感染者だけじゃない……感染者だけじゃないんだ。

タルラ
タルラ

ウルサスも、ヴィクトリアも、リターニアも、国も、種族も、出身も問わず……私たちを隔ててきたものはきっと消滅する。

タルラ
タルラ

私たちは同じ愛される生活を送れる権利があるんだ。もし何者かがそれを阻むのなら、私たちで私たちのあるべきものを取り返せばいい。

アリーナ
アリーナ

そうしたいのなら、試してみるといいわね。

タルラ
タルラ

でも今そうしても全滅してしまう。

アリーナ
アリーナ

そりゃあ第一歩がウルサスに挑むつもりなんでしょ?

タルラ
タルラ

私たちの一挙手一投足はもうすでにどれもウルサスへ挑んでるようなもんだよ。

タルラ
タルラ

でもね、犠牲もあれば、得られるものもある。その得られるものが私たちのものでなくともね。

アリーナ
アリーナ

私の考えてることはあなたほどじゃないけど……ただ私の印象では、この大地はいつもあなたの予測通りにはいかないわ。

タルラ
タルラ

つまり?

アリーナ
アリーナ

タルラ、あなたは得られるもののためなら犠牲を厭わないの?

タルラ
タルラ

……

タルラ
タルラ

……アリーナ、違う。違うよ。そんなこと……そんなことって……

アリーナ
アリーナ

分かってる。でもそう考えざるを得ないわ。

タルラ
タルラ

しない。いや、絶対にそんなことはしない。

タルラ
タルラ

私たちがしてきたことには必ずいい結果が待っていると信じてる、原因は簡単だ。なぜなら彼らはその結果を得るに相応しいからだ。この大地の生きとし生ける者はその結果を得るに相応しいからだよ。

アリーナ
アリーナ

……うん、そうね。じゃあ行きましょうか。

アリーナ
アリーナ

遊撃隊と合流するの?

タルラ
タルラ

遊撃隊に私たちを認めさせに行くんだ。

アリーナ
アリーナ

難しいわよ。

タルラ
タルラ

難しいだけじゃ私は退かないよ。

スノーデビル隊員
スノーデビル隊員

姐さん!こいつは……さっき俺たちを助けてくれた人だ!

フロストノヴァ
フロストノヴァ

警戒を緩めるな。

タルラ
タルラ

はぁ、ふぅ。

タルラ
タルラ

噂通り、本当に寒いな、君たちスノーデビルは。こんな寒い冬の日以上に寒い。

タルラ
タルラ

君が彼らの指揮官だね?

フロストノヴァ
フロストノヴァ

感染者か?

タルラ
タルラ

そうだ。

フロストノヴァ
フロストノヴァ

説明しろ、なぜウルサス軍官の服を着ている。

タルラ
タルラ

これまで色んなウソをでっちあげてきたけど、どれが聞きたい?

フロストノヴァ
フロストノヴァ

矢を撃て。

タルラ
タルラ

ちょっと待て!君は冗談通じない人だな。スノーデビル小隊の隊長なんだろう?

フロストノヴァ
フロストノヴァ

なぜ撃たなかった?

スノーデビル隊員
スノーデビル隊員

だってよぉ……あいつは本当に……俺たちを助けてくれたんだぜ、姐さん。本当だって。

フロストノヴァ
フロストノヴァ

……我々を助けただと?

タルラ
タルラ

握手をしよう、スノーデビルの隊長殿!誠意を示すのであれば、こちらも平等で尊厳のある方法で示したい。

タルラ
タルラ

双方ともに立場を損なわず、落ち着いて話ができるばいいな。

フロストノヴァ
フロストノヴァ

必要ない。

タルラ
タルラ

……ものは試しだ。君のことは噂で聞いているよ。

タルラ
タルラ

彼らが背負ってるあの源石の結晶は、君のアーツの源かな?

フロストノヴァ
フロストノヴァ

フッ。

タルラ
タルラ

もし君の氷を融かすことができれば、少しは話を聞いてもらえるかな?

フロストノヴァ
フロストノヴァ

――ほら吹きめ、できるはずがない。

タルラ
タルラ

ものは試しだ。

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