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【明日方舟】将進酒 IW-3「光と影」行動後 翻訳

正午、晴れ、まるで前日の雨がただの冗談だったかのような晴れ模様だ。
尚蜀三山十七峰、その二番目に高い山は、居奇山と言う。そしてその居奇山には峰が二つあり、二番目に高い峰は、泥泥峰と言う。
泥泥峰にはまた二千二百二十二階もの階段がある、本来ならこんな揃った数ではなかったのだが、なにかと話題が欲しかったらしく、後からあえて数を付け加えたという。
階段は天に向かうように伸びていて、雲を穿って霧を跨る。高く登れば登るほど、観光客も少なくなっていき、人影もまばらになり、青山がそこに残るのみだ。
しかしまばらでも人影はあるが、ざっと見たところ、その人たちはみな歩荷だけに留まる。

街の青年
茶館で休む人

天岳とは比べられないが、ここも高い山って言えるな。

街の青年
茶館で休む人

こんな道もまともに敷けない山の中腹なのに、どうやって茶館が建てられたんだろうな?

雪掻きする人
茶館の観光客

どうもなにも、人の手によって建てられたんでしょうが。

雪掻きする人
茶館の観光客

私たちが登ってきた時、歩荷が山から下りてきたのを見たでしょ?彼らはああやって毎日コツコツと、お茶や食料、それに煉瓦まで全部山まで担いでいってるの。

雪掻きする人
茶館の観光客

ひと登りするだけで何時間もかかるって聞くわよ、すっごく大変な仕事なの。今になっても、辺鄙な山からすれば、ああいった歩荷はありがたい存在なのよ……

街の青年
茶館で休む人

だったらケーブルカーやロープウェイでも引けばいいんじゃねーの?

雪掻きする人
茶館の観光客

引くにしても工事する足場が必要でしょ?

街の青年
茶館で休む人

それもそうか、ここがどうやって建てられたのかは分からねぇが……それでも歩荷たちは大したもんだよ。

街の青年
茶館で休む人

それだと結構稼げてるんじゃないのか?

雪掻きする人
茶館の観光客

昔はそうでもなかったけど、この前ニュースで見たら、あの尚蜀知府はとてもこういった力仕事を重視してるって言うから、茶館のお茶とかの費用は全部政府が持ってるらしいわよ……ん?

歩荷
歩荷

……ちょっと失礼。

歩荷
歩荷

お茶を頼む。

旅館の従業者
茶館の従業員

はいよ、ショウさん。

旅館の従業者
茶館の従業者

最近はどうだい?かれこれ数日は見かけてないが……

歩荷
歩荷

どうもこうもないさ。

旅館の従業者
茶館の従業者

今度はどこ行ってたんだい?

歩荷
歩荷

息子を見に行ってた。

旅館の従業者
茶館の従業者

あぁ……もうそんな時期か……忙しすぎてすっかり忘れちまってた。

旅館の従業者
茶館の従業者

ショウさんも事前に言ってくれればよかったじゃないか、それなら一緒に付き合ってやれたのに。

歩荷
歩荷

……結構だ。

歩荷
歩荷

あいつは静かなほうが好きなんでな。

旅館の従業者
茶館の従業者

はぁ、もう何年も前の話になっちまったもんだな……俺とあんたは長い付き合いなんだ、だから言わせてもらうよ、あんまり気に留めないでくれ。

旅館の従業者
茶館の従業者

人はいつだって前を向いて進まなきゃならんさ。

歩荷
歩荷

……それはジェンを庇って言ってるのか?

旅館の従業者
茶館の従業者

そりゃもちろん、うちの店は全部ジェン総支配人が投資してくれているからな。

歩荷
歩荷

人の金を得てる以上、悪くは言えないってことか、恨まれずに済んだな。

旅館の従業者
茶館の従業者

]つっても半分は本心だけどな。

歩荷
歩荷

……ならこの恨み半分はお前向けだ。

旅館の従業者
茶館の従業者

もうこんな歳なんだからよ、俺もあれこれ言いたくはないんだが。

旅館の従業者
茶館の従業者

茶でも飲んで、ちょっとは落ち着きなって。

歩荷
歩荷

……

街の青年
茶館で休む人

……なああの人、さっき桟道で下りるところを見なかったか?

雪掻きする人
茶館の観光客

そ、そうよね?まだそんなに時間経ってないはずだけど?もう登ってきたの?

雪掻きする人
茶館の観光客

きっと途中で仲間に仕事を引き継いでもらったんでしょう……じゃなきゃ一時間で、山の中腹からここに戻れるはずがないものね?

(無線音)

クルース
クルース

……ダメだ、やっぱり繋がらない。

クルース
クルース

信号も反応がない、ってことはニェンさんもシーさんも尚蜀地区にまだいないってことだね……最初から行動原則に従ってこっちに向かっていない可能性もあるけど。

ウユウ
ウユウ

……恩人様。

クルース
クルース

うん、言いたいことは分かるよ。

ウユウ
ウユウ

私は別に一度見たら忘れないような頭が冴えた人ではありませんが、あれは見間違いじゃないと思います……

ウユウ
ウユウ

リー殿がリャン殿に手渡したあの箱には、ニェン殿があの時手にしていた物と同じような模様が記されていました。

クルース
クルース

やっぱり彼女たちが突然部隊から離脱したことと関係があったね。

ウユウ
ウユウ

恩人様、これからどうしましょう?

クルース
クルース

うーん……まあこういう事態は予測できていたよ。

クルース
クルース

ラヴァちゃんとも話はついてるよ、彼女が事務所についたら、すぐ尚蜀付近にいるオペレーターに連絡して私たちを迎えるようにするって。

ウユウ
ウユウ

ほう?事前に備えていたと?

クルース
クルース

ここに来る途中ニェンさんがずっと怪しい動きをしてたからね、絶対ロクなことがないって思ってたよ。

ウユウ
ウユウ

では、やはり一先ずここに留まるということですかな?

クルース
クルース

偶然リーさんとも会ったんだから、彼のことも手伝ってあげないとね。契約にもそう書かれていたから。

ウユウ
ウユウ

なるほど、片側の贔屓はせずあくまで公正に仕事を進めるとのことですな、さすがは恩人様、その真面目な仕事っぷりには尊敬の念を抱かざるを得ません。

クルース
クルース

……でもリーさんも分かってたんだと思う。旅館でばったり会った時、彼は一度もロドスの協力を求めてこなかった、きっと暗にこの件に関わるなって私たちに言ってたんじゃないかな。

クルース
クルース

でももし今回の一件が本当にニェンさんたちと関係があるのなら……あのタイゴウさんとサガクさんもあんなこと言ってたし……

クルース
クルース

とにかく、その時になったら合流場所に行って聞いてみよう。ニェンさんは時間を守るような人じゃないけど、シーさんは違う。会えたら聞いてみよう。

ウユウ
ウユウ

そうですね、シー殿なら少しばかりか手がかりを教えてくれるかもしれません。

クルース
クルース

はぁ。

クルース
クルース

それにしても、今回の事件も本当に――

ウユウ
ウユウ

――都合が良すぎる、と?

クルース
クルース

ウユウ君、わざわざあの旅館を選んだのって、やっぱりなんか企んでたからなんじゃないの?

ウユウ
ウユウ

ご冗談を、いくら企んでいたとしても、あの時鉗獣に自分の車をひっくり返してもらい、偶然恩人様と出会えるようにするほどの智謀な脳みそは持ち合わせておりませんよ。

クルース
クルース

じゃあ一体誰が今回の事件をこんな都合よく作り上げたんだろうね?

クルース
クルース

うーん……

(クルースが立ち去る)

ウユウ
ウユウ

……恩人様、さっきのは冗談、冗談なんですよね?また私のことを疑ってるのですか?ちょっと恩人様!?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

父さん。

ジェン総支配人
ジェン総支配人

……なんだ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

今回の一件は全部私に任されるはずなんじゃなかった?

ジェン総支配人
ジェン総支配人

だとしてもお前に後始末は無理だ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……!

ドゥ嬢
ドゥ嬢

父さんにできれば、そんなの私だって――

ジェン総支配人
ジェン総支配人

いいや違うぞ。

ジェン総支配人
ジェン総支配人

お前にできたとしても、できないのだよ。お前がまだドゥ・ヤオイェーであるかぎり、鏢局の頭でないかぎり、絶対にできっこない。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

なんでよ!?

ジェン総支配人
ジェン総支配人

父さんがなぜ旅館でわざわざお前を止めたのかまだ分からないのか?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

それはあの手馴れのコータスとウユウとかいうヤツらが――

ジェン総支配人
ジェン総支配人

まだまだ未熟だな

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……なにがよ?

ジェン総支配人
ジェン総支配人

人を見定める目だよ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

父さん!

ドゥ嬢
ドゥ嬢

父さんはアタシに継がせたいの?それともずっとこんな世間知らずなお嬢様のままでいてほしいのどっちなわけ?

ジェン総支配人
ジェン総支配人

……鏢師は多くの仇を貰う職だ。お前には分からんさ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

だからアタシは箱入りお嬢様のままでい続けろと?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

あのジェン総支配人はもう真っ当な商売を営むただのジジイになって、その後を継いだアタシは何の役にも立たない穀潰しだって周りに言いたいわけ?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

そんなのアタシじゃないわ。

ジェン総支配人
ジェン総支配人

……ヤオイェー。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

いま鏢局にいる若い連中がどれだけ父さんに不満を抱えてるか分かってるの?

ジェン総支配人
ジェン総支配人

ヤツらになにが分かる。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……そういう父さんもなにが分かるのよ?

ジェン総支配人
ジェン総支配人

……

ドゥ嬢
ドゥ嬢

総支配人になって人を指図するだけで自分は何もしない、下の世代がどれだけ鏢局の現状に不満を抱いているのかまったく見向きもしてないくせに。

ジェン総支配人
ジェン総支配人

……では良かれと思って父さんに教えてくれ、お前がやりたいのはあの役立たず共の弟子たちと一緒に独立することなのか?

ジェン総支配人
ジェン総支配人

それで今のお前は、お前だと言えるのか?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

父さんが今回の仕事をアタシに振ったのは事実、それに仕事を納められれば、従わせることも、もっと大きな仕事も貰えるようになる、それだけは確実よ。

ジェン総支配人
ジェン総支配人

お前が全うできるとは思えない。

ジェン総支配人
ジェン総支配人

それにしないはずだ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……なにを言ってるのかよく分からないわ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

もし考えが変わったのなら、すぐアタシに知らせてちょうだい、けど考えが変わらないのなら……

ドゥ嬢
ドゥ嬢

アタシたちのことはもう放っといて。

(ドゥ嬢の足音)

町の青年
町の青年

……お嬢、どうでしたか?総支配人はなんて言ってました?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

フンッ、どうもこうもないわよ。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

ジェンも弄ばれていたのよ、偽物を掴まされたわ。

町の青年
町の青年

じゃあ俺たちがわざと依頼をダメにする必要もないんじゃないすか、総支配人が勝手にダメにしてくれますよ……

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……どうだろうね。

ドゥ嬢
ドゥ嬢

アタシたちの考えはもう彼に感づかれていたわ。

町の青年
町の青年

えっ、マジすか?

町の青年
町の青年

感づかれたって?じゃあどうするんすか?もし師匠たちから外出を禁止されたら、なにもできなくなっちまいますよ?

ドゥ嬢
ドゥ嬢

……ことを素早く終わらせるのは困難だけど、ことを素早く起こすのは、いつだって簡単よ。

リー
リー

むかし尚蜀を観光した時も感心しましたよ、ここの人たちは本当にすごいなって。

リー
リー

新巒区から流雲区までの間にはたくさんの険しい山々がそこら中に聳え立ってる。そんな地形の中で縫いように建てられた都市、そして山一面を埋め尽くさんばかりの家々、絶景奇景とはまさにこういうことだな。

水夫
水夫

……あの時ブツを盗まれた件だが、判明したか?

リー
リー

まあ少しは。俺もバカじゃないんでね。

リー
リー

ただ俺はリャンを信じてる、だからシェンさんのことも信用していますよ。

水夫
水夫

老獪みたいな人だな、お前は。

リー
リー

リャンからもそう思われてるんです?

水夫
水夫

私が思っただけだ、リャン様は関係ない。

リー
リー

昔もあいつに言われましたよ、いつもネコは被るし、予測は外れる、だが計り知れない人の心だけはいつも的中させるってな。

水夫
水夫

やはり老獪と言っても差し支えないじゃないか。

リー
リー

……経験によるものですよ、経験。

水夫
水夫

先を進もう。この昏譚峰はそう広くないが、見たところ東屋らしく建物は見当たらないな。

水夫
水夫

取江峰も遠くないとはいえ、なぜあえてそこを選んだんだ?人探しなら、人が多いところが行くのが常套なのではないのか?

リー
リー

取江峰は昔なんて呼ばれていたんです?

水夫
水夫

攥江峰だ。だが名前も書きづらい上に覚えづらい、景勝地開発の時に名称を変えられた。

リー
リー

そういうことですよ。

リー
リー

以前変な夢を見たんです、夢の中で、俺はその峰の山頂で人を探していた。

水夫
水夫

……そりゃおかしな話だな。以前尚蜀に来た際にその古い名称を耳にしたとかそういうことか?

リー
リー

そうかもしれませんね……あるいは……

リー
リー

……神様が導いてくれてるのかもしれません。

水夫
水夫

……お前確か、法術は使えたはずだったな。

水夫
水夫

今はアーツという呼び名か?たいそうな名前だが、昔では神や妖が使う類の常人離れな技といった扱いだったよ。

リー
リー

そりゃ違うさ、シェンさん。法術というのは人のためにある、人定勝天の道なのさ。

???
リー?

人定勝天の道?

???
リー?

いい言葉だ、気に入った。

リー
リー

……!

水夫
水夫

まあいい、アーツと呼ぶことにしておこう、今時のアーツ関連のものは理解に苦しむ……ん?呆けてしまってどうしたんだ?

リー
リー

今……俺なんか言いましたっけ……

水夫
水夫

人定勝天だが?

リー
リー

……いや……

リー
リー

……なんでもない、夢でも見てたんだろう。

リャン
リャン

……取江峰、攥江峰。

リャン
リャン

こちらも何度も捜索したが、見つからないどころか手がかりすらなかった。

(タイゴウが近寄ってくる)

タイゴウ
タイゴウ

……当然だ。

リャン
リャン

やはり司歳台も決断されたのだな。

タイゴウ
タイゴウ

うむ。

リャン
リャン

しかし彼女は……尚蜀にいる彼女は、本当に歴史において大悪事を働いたことがあるのか?

タイゴウ
タイゴウ

……

リャン
リャン

であればなぜ当時彼女は炎国のために力を貸し、数十回も軍と共に郷土を守ってくれたのだ?

タイゴウ
タイゴウ

歳月が過ぎれば、人も変わる。

タイゴウ
タイゴウ

だが貴殿が望んでるように物事というのは進まないものだ、リャン殿。

リャン
リャン

……彼女が影であれば、龍門から持ってきたあの盃は光だな。

リャン
リャン

フッ……光が先か影が先かなど、問いただしたところで意味はないか。

タイゴウ
タイゴウ

問いではなくその問いを解く者にこそ意味がある。

リャン
リャン

分かっている、貴殿たち司歳台が正当な理由をもって私のところに来たことならな。

タイゴウ
タイゴウ

貴殿はサ将軍と約束したはずだ、盃が尚蜀へ運ばれた時、盗難されたフリをしてそれをサ公子のもとに届けると。

リャン
リャン

……一部の目を誤魔化すために、だったな。

タイゴウ
タイゴウ

左様。

リャン
リャン

だとしても無関係なリーに内容をすべて教えるわけにもいかないだろ。

タイゴウ
タイゴウ

ではその龍門人にこの件を依頼すべきではなかったな。

リャン
リャン

私はこういう身分にあるため、下手なマネはできない、万が一尚蜀で早春を過ごす人々に影響を及ぼしてしまえば、損失は計り知れない。

リャン
リャン

尚蜀で官人になった以上、ここにある暮らしこそが何よりも大事なのだ。

タイゴウ
タイゴウ

しかしあの龍門人は貴殿の友人なのだろう?

リャン
リャン

友人ではある、だがそれ以前によそ者だ。

タイゴウ
タイゴウ

……心中その苦労を察する、リャン殿。

タイゴウ
タイゴウ

して、その盃は今どこに?

リャン
リャン

……

リャン
リャン

盃なら今はその友人が持っている、私が頼んだ以上彼に預けるしかない。

タイゴウ
タイゴウ

リャン殿は他人の手を借りて、リンの居所を突き止めようとしておられるのだな?

リャン
リャン

そうだ。

タイゴウ
タイゴウ

ふむ……

タイゴウ
タイゴウ

噂によればその盃は器物に命を吹き込むと聞くが、それは真か?

リャン
リャン

……その前にタイゴウ殿、こちらも一つ聞きたいことがある。

タイゴウ
タイゴウ

なんなりと。

リャン
リャン

お互い今ある役職を置いて話そう。

リャン
リャン

今回の一件において司歳台は礼部の確認を経ずに事態を進めている、越権行為とみなされてもおかしくはない。もし礼部がこの件を感づけば、論争は避けられないだろう。

リャン
リャン

粛政副監察御史であるあなたは、この状況をどう思われているのだ?

タイゴウ
タイゴウ

私は将軍に恩義がある、それを返すつもりでいるだけだ。

リャン
リャン

……つまり私情というわけか。

タイゴウ
タイゴウ

然り、私情だ。

リャン
リャン

粛政院の監察御史は、官人たちを取り仕切り、粛々と朝廷が行われる儀式を全うする職分ゆえ、私情という言葉は似合わないはずだ。

タイゴウ
タイゴウ

……

リャン
リャン

もし粛政院が詳細を知り、この一件は司歳台ではなく礼部に任せたほうがいいと判断された時、その私情はどう片付けるのだ?

タイゴウ
タイゴウ

忠を取って義を捨てるまでだ。

リャン
リャン

ふむ……はやり剛毅果断だな、タイゴウ殿は。

タイゴウ
タイゴウ

当然だ。

タイゴウ
タイゴウ

この言葉を教えて頂いたのも、まさしく将軍であるからな。

リャン
リャン

……さすがは将軍の位についてるお方だけはあるか。

タイゴウ
タイゴウ

リャン殿も案ずるな。

タイゴウ
タイゴウ

サ将軍は炎国の軍人である以上、勝手に法を反することはせん。

リャン
リャン

……ということは礼部を無視させてまで司歳台を動かしている者がほかにいると?

リャン
リャン

いや、考えてみたらそうか……平祟侯であるサセンリョウ将軍は従来より辺境の任務を第一に考えてる、そんな方の目をたかだが盃一杯に移せることなどできるはずもない。

タイゴウ
タイゴウ

左様。

タイゴウ
タイゴウ

その司歳台を動かしている者が誰だかについだが、わざわざ口に出さんでもよい。

リャン
リャン

……ッ……

タイゴウ
タイゴウ

ご自愛を、リャン殿。

リャン
リャン

……今年の尚蜀の春は、予想よりも冷え込むな。

水夫
水夫

ここだ。

水夫
水夫

取江峰の周辺にある家々を除けば、まとまった村はここだけだ。

リー
リー

ここはどういった場所なんです?

水夫
水夫

尚蜀の都市がまだ建てられていなかった頃、ここは辺境に近い地方だったよ。鉱脈資源が豊富で、多くの鍛冶師やら彫刻師が集ってきたんだ。

リー
リー

今はどうなったんです?

水夫
水夫

……大した争いもない上に、移動都市も山々の中に入ってしまったから、景観として残されたタタラ場を除いて、ほとんどは民宿になってしまったよ。

リー
リー

じゃあこの取江峰の山頂には……?

水夫
水夫

……私にもよくわからん。

水夫
水夫

いや……酒の飲み場なら残っていたかもしれないな?

水夫
水夫

景勝地とかなら、私の手を借りる必要はないだろう、辺鄙で人も来ないような場所ならともかく……

水夫
水夫

……尚蜀の地理なら私も一応熟知してる自負はあるが、取江峰に誰も来ないような庵があるなんて聞いたこともない。

水夫
水夫

取江峰の山頂にはただの空き地しかないぞ。あとは伝説が残ってるぐらいだな、神がそこで臨淵忘水の悟りを開いたため、“忘水坪”と呼ばれるようになった伝説が。

リー
リー

……そうですか。

リー
リー

ならここでの人探しは難しそうになりますね……酒屋から探してみるのはどうです?でもリャンもその人がどういう顔と恰好をしてるのか分かっていないから、聞いても無駄だな……

リー
リー

シェンさん、なんか策はないんですかい?

水夫
水夫

人探しだろ、それなら一番簡単な方法がある。

水夫
水夫

向こうから来させればいいんだ。

リー
リー

確かに簡単ですが、向こうが動かなければ話は始まりませんよ。

リー
リー

それなら俺もいい方法を思いつきました――

リー
リー

……ん。

歩荷
歩荷

……なんだ?

歩荷
歩荷

なんか用か?

リャン
リャン

……ネイ殿か。

ネイ
ネイ

リャン様が暇な時間の間に本を読まれるなんて珍しいですね。

リャン
リャン

本は読んでおいて損はないからな。

ネイ
ネイ

……

リャン
リャン

言いたいことがあるのだろ、話してみてくれ。

ネイ
ネイ

最近、なにか困ってらっしゃらない?

リャン
リャン

ふむ……なにを指してのことかな?

ネイ
ネイ

あの龍門のご友人についてとか。

リャン
リャン

……そうだな、だが大したことではない。

ネイ
ネイ

どういった困りごとなんです?

リャン
リャン

人を探しているんだ。

ネイ
ネイ

へぇ……どなたをお探しで?

リャン
リャン

私と彼との古い友人でね、武人なんだ。

ネイ
ネイ

……武人、ですか?

リャン
リャン

ワイと言う人だ。

ネイ
ネイ

それが大したことではないと?

リャン
リャン

前にも言っただろ、気に留めるほどの……ことでもないさ、ネイ殿が心配する必要はない。

ネイ
ネイ

誤魔化しはいけませんよ、リャン様。

リャン
リャン

誤魔化してなどいないさ。

ネイ
ネイ

……そうですか。

リャン
リャン

……

目の前にいる女性は部屋の中をゆっくりと歩いては、さっと本棚を見渡す、彼女の周囲にはどんよりガッカリしたような雰囲気が纏わりついているようだった。
しかし幸いに、すぐさま元気を取り戻した。
彼女の情緒はいつもこういった風にコロコロと変わる。

ネイ
ネイ

……リャン様が今お読みになってるのって、歴史の本ですか?

リャン
リャン

……ここ尚蜀の地で天災が起こった時の歴史を書いた本だ。

ネイ
ネイ

リャン様はそこの歴史が大好きですものね。

リャン
リャン

生涯忘れられない出来事だったからな。

ネイ
ネイ

確か……『三山談』というタイトルでしたっけ?

リャン
リャン

よく覚えているな、どうやら私は知らぬうちに何度もこの本を読んでしまっていたらしい。

ネイ
ネイ

……たまたま目に入っただけですよ。

ネイ
ネイ

もしよければ私にも貸してくださいな、あとでハクさんのところに行く際、暇つぶしに読んでみたくなったので。

リャン
リャン

良いだろう。

ネイ
ネイ

やった……でも……

リャン
リャン

……あぁ、すまん。

リャン
リャン

私が取ろう、最近すっかり読まなくなったから高いところに置くようになってしまってな。

(リャンが本に手を伸ばす)

ネイ
ネイ

ありがとうございます。

リャン
リャン

ネイ殿はこれからハク殿のところに行かれるのか?

ネイ
ネイ

ええ。

リャン
リャン

では代わりによろしく伝えておいてくれ。

ネイ
ネイ

……わかりました。

ネイ
ネイ

では行ってきますね。

ネイ
ネイ

……『三山談』。

ネイ
ネイ

あなたが徹夜仕事のため書斎で寝てしまったあの時、まさか私が何度もこっそりとこの本を読み漁っていただなんて、リャン様は思いもしていないでしょうね……

ネイ
ネイ

(この本……本来なら本棚の上に置いてはいなかったはず。)

ネイ
ネイ

(その代わりに箱が置かれてあったわ……一体何が入っているのかしら?)

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