
ロドスはこの後どうするつもりなのかな?

あっ……えっ……ん?私は自己紹介なんかしたっけ?

貴君はどうするつもりなのかな?

今回の件がようやく片付いたもんなんで、当然あの高みの見物をしていたリャン様に……きっちりと説明追求しに行きますよ。

ふむ。

彼の言ってた通り、貴君と私たちの縁は、まだまだこれだけじゃないのかもしれないね。

ただ……

それもだけど、どうしてレイズさんがここに……

……たまたま同門の者から灰斉山の事情を聴いて、尚蜀へ駆けつけに来たんです。

一歩遅れてしまいましたが、時すでに遅しとまでに行かなくて幸いでした。

……そうだったんだ。

リンさん。

なんだい?

一つ聞きたいことがあるんだが。

あなたたちのような存在は、どうやって……その、年上年下を判別してるんですか?

……長幼の序か。

混沌鴻蒙のさなかで、先に答えを導き出した者が俗世へと降り立つことができるのだよ、そうやって決まっているかな。

その答えってのはなんです?

至極簡単な問いさ……

……“自分は誰なのか”、という答えだよ。

……タイゴウさん、そしてサガクさん、お会いできて幸いです。

こちらこそ、ネイさん。

お目にかかれて光栄に存じる、ネイ侍朗。

……

尚蜀へ来て頂いたのに、おもてなしが間に合わず申し訳ありませんでした。

こちらこそ失礼しました、お招き頂いていないのに勝手に押しかけるようなことをして、ざぞ迷惑だったことでしょう。

サ公子は父君の命を承って、司歳台の代表として盃と灰斉山の一件を対処すべく来られたのですね。

仰る通りです。

それとリャン様には大変敬服致しました、まさかあのような打開策を講じていたとは。

……司歳台が下手に動かなければ、リャン様もあんなことをする必要はなかったと思いますけどね。

構わんさ、粛政院が今回の一件を把握してくれれば、自ずと道理は弁えてくれるだろう。

起草の段階ではあるが朝廷へ今回の一件は上奏してある、内容に一個人の偏見や主義主張は組み込まれていないため安心されよ。

……まさにタイゴウ殿が仰ったように、“忠を取って義を捨てる” とうことだな。

左様。

しかし今回の司歳台の越権行為については、太傅様がいかように判断を下されようと、如実に尚書様へ上告致します。

申し開きもございません。

その必要はない。

サガク。

は……はい!

もしあの三人の歳相が世間に放たれ、尚蜀に被害をもたらした場合、今の情勢において、君はどうやってそれを鎮圧できると推察する?

また仮に歳獣が目覚めたとして、大炎が国を上げてそれを迎え撃った場合、またどれだけの犠牲が生じると君は考える?

……前者は三日ほどあれば鎮圧できるかと思います、後者の場合は共倒れ、巨獣の死と引き換えに、こちらも壊滅的な打撃を受けるかと。

リャン・シュン。

はっ。

礼部と司歳台の蟠りを解くため、今ここで君に死を判決すると宣った場合、君はどうする?

法に従うままでございます。

では今日君が行った振る舞いにもし過ちが生じ、尚蜀の街と百姓に害を被ってしまった場合、君はどうする?

迅速に民間人のために退路を敷き、また亡き獣を速やかに拘束する所存です。

今回の対局は五分五分と言ったところだろう。

リャンが選んだあの龍門人であるが、元から無理手に過ぎぬ相手だったにも関わらず、些細な手がかりを掴んだせいで、危うく計略が台無しになるところであった。

現時点において、彼は幾らばかりかそれを計算のうちに入れておった?またたとえ彼の算段にあった事も、どれくらいが彼の優勢に働きかけてしまったのだ?

……やはり太傅様はこのことをご存じだったのですね。

リャン、君の代役となる知府の者だが、一か月以内に尚蜀へ到着する。引継ぎが済まされたら、私とともにここを去ってもう。

……!

行き先は……どちらになるのでしょうか。

私と共に京へ入ってもらう。

……

……感謝致します。

しかし私にはまだ……

――私、ネイ・ジシュンからリャン様の出世にお祝いを申し上げます。

……私は……

……ネイ侍朗よ。

玉門がすでに既定の航路について帰国を果たした。昨日は龍門とも接触しており、補給の準備に取り掛かっている。

――!

玉門市は……天災を避けるために帰還されたのですか?それとも……

別途の要件でだ。

君は一先ず先に玉門へ向かわれよ。私とリャンは京で用事を済ました後に、そちらへ向かう。

……!承知致しました。

タイゴウ。

すべて順調に進んでおります。

よろしい。

……タイゴウさん、まさか最初からすでに……

“忠を取って義を捨てる”、どうか悪く思わないでくれ。

此度でしでかした司歳台の過失なら、一先ずは不問とする。目下は、あの百八十一ある黒碁石の行方を突き止めることが肝心だ。

……承知致しました。

太傅様はいつ頃尚蜀を出られるのですか?

明日の夜だ。

……急がれているようですが、よろしければトランスポーター部隊に護送してもらっては……

必要ない。

ハク天師からも太傅様をお見送りしたいと申しておりますが。

それも必要ない。

しかし尚蜀の山道はどこも険しく、太傅様単独でお帰りになるのは危険かと……

なんだ、まさか蜀尚領内で跋扈する賊共がいると言いたいのか?

……いえ、ただ、太傅様はお年も召されておりますので、一人で出向かわれるにはやはり注意を払ったほうがよいかと思いまして……

この大炎の国土内で、私が恐れているのは民と国の安寧が脅かされることのみにある。

ほかになにを恐れよと?

ほかの何が恐るるに値すると?

これで全部片付いたな。

波瀾はあったものの、間一髪に収まってよかったよ。

その波瀾を受けたのはお前ではないけどな。

間一髪だったのはここにいる人々であったな。

お前が俺に龍門からあの盃を持って来いって頼んだのは、最初から司歳台からの極秘指令を受けていたからだった。

だが立場がある以上、さらにはお前の傍に誰かさんが控えていたせいで、俺をわざと泥棒として扱い、鏢局にその泥棒を捕まえさせるという茶番を演じさせた。

――だがお前はその茶番を俺には伝えなった、つまり最初からその茶番に付き合うつもりはなかったってことだな。

私が芝居を好まないのは前々から知っていたことだろ。

じゃあ自分なりの策があったってことか?

そうだ。

だが司歳台の秉燭役が尚蜀に来ていた以上、あいつらがそう簡単に諦めるとは思えない。

ってことはお前は最初からこの一件を尚蜀に持ち込みたくはないと考えていた、それと司歳台と礼部の関係を悪化させたくないとも考えていたんだな、司歳台が越権行為してしまったせいで。

そうだ。

でもそうしたら、お前の立場は曖昧なものになってしまう。

そこで誰かさんが、手持無沙汰で暇をしていた誰かさんが、お前を愛している誰かさんが、盃を奪うためにバウンティハンターを雇った。

盃がお前の手からなくなれば、お前はこの一件とは無関係になれたから。

お前知ってたんだな、その誰かさんが誰なのかを。

そうかもしれないな。

だがまさかショウが絡まってくることは誰にも予想ができなかったと。

それで結局は本来の想定に反して、全員があの取江峰に、あの忘水坪のところに巻き込まれたってわけだ、ホントやり方が下手だよお前、下手っぴだ……

しかしお前にしては、あのリャン・シュンにしてはあのやり方は出来過ぎだった。

……だからあえて君に頼んだのだ。

私がなにを企んでいるのかを察することができて、なおかつ決して友人を裏切ることのないような人を。

それってまだ俺のことを友人として扱ってくれたお前に感謝しなきゃならないのか?

俺は最後まで手を貸してやってはいたが、正直に言うと最後の最後に俺はあの盃の持ち主が誰なのかって答えを探していたわけじゃなかったんだ。

ではなにを探していたのだ?

お前だよ。

まだ当時のあのご立派な願いを叶えようとしてるお前なのかどうかをな。

……私はちゃんとできているのだろうか?

一つ言えることなら、お前は賢くなった、リャン。

だが、お前が昔のまんまでよかったよ。

……

……

……ワイの居場所なんだが、少しだけ心当たりはある。

最初から心当たりはあったんだろ、ただ俺の気を逸らしたくないから教えなかっただけで。

教えなかったことで腹を立てているのか?

いいや、ただまだ何か困っているんじゃないかって心配していただけだ。

近頃炎国内である噂が飛び交っている。

武術界隈に関する噂だろ。

武術界であれば、彼に関する噂もきっと少なからず含まれているはずだ。

……

うむ、尚蜀は実にいいところだな。

今年の梅はなぜか遅咲きでね、どうしてだろと考えていたんだが、太傅がプライベートで尚蜀に訪れていたからだったんだね、これはまた珍しいお客人なことだ。

いつからここの主気取りになったんだ?

それを言うのなら、これでも半分はあの山々の主ではあるよ。

……試練がどう訪れるかは人でなく、お前たちにかかっているのだ。

仮にその日が来たとして、お前たちがどちら側に立ち、どちら側に目を向け、どちら側に心を向けているかによって、直接戦争の被害が決定づけられるのだからな。

そう簡単に負ける炎国でもあるまいさ。

……お前なら言えたことだろうな、大炎軍に代わって。

お前とあの師範が百年も北で戍役した功績が没することはない。さもなければ、朝廷も旧情に免じるはずなどあろうか。

司歳台が越権行為に走ったのは事実であるが、それも民のための行いだ。

……起伏に満ちた歳月というものは、どれだけ月日が経っても忘れがたいものだ。

今になって、たまにひどく酔ってしまった時でも、あの時の角笛を吹く音が聞こえて連なる野営と帳が目に浮かぶよ。

……ニェンか。

なんだ。

朝廷はお前と取引がしたい。

こりゃ珍しい、てっきり死刑宣告でもされるのかと思ってたぜ。

千年来、天機閣が休まれた時は一度もなかった。無数の兵と天師が北方の辺境で戦死してしまったが、山を越えればさらに高い山が立ちはだかるように、いくら魔物どもを殺してまた湧いて出てきては、終わりが見えない戦いとなっている。

いくら精鋭たる兵士たちでも、いくらカリスマ的な将校でも、いくら叡智に満ちた天師でも、北の辺境へと駆り出される、毎年毎年な。

……そこでお前には天機閣の外周に、十二の楼閣と五つの城を設けてほしいと朝廷から願いが出ている。三千台の武器兵器、それと兵俑百万人もだ。

今すぐやれとは言っていないし、お前一人に全部任せると言ってるわけでもない。大炎はすでにそれの配置の準備に取り掛かっているうえ、設計図の制作などの作業は、各大天師府に任せている。

お前にはその手助けをしてもらいたい、できることならあの閣楼の中からある人物を引き抜いてほしい。

……誰をだよ?

決して倒れてはならぬ、万が一にも倒れてもらってはならない人だ。

……おいおいウソだろ。こっちはレイズから色々と聞かされているんだからな、あいつのお師匠様は超がつくほど面倒臭い人だって……あいつも会ったことはないって言うけどよ。

フンッ……源石に頼って寿命を無理やり引き延ばしてる例外みたいなアイツのことね、ホントああいう人はどうしても好きになれないわ……

あいつに色々とやられたからじゃなくて?

チッ。

あぁ……彼のことなら憶えているよ。

彼はまだ元気にしてる?

……それなりにはな。

彼が北へ戍役へしてもう三百七十数年にも及ぶ。もしそこから国へ帰還できるのなら、朝廷とて彼には晩年を穏やかに過ごしてもらいたいと考えてはおるさ……

だが本人はそんな暇はないといつも頑なに断るものでな。

こりゃデカい仕事のように聞こえるが、その代わりにアタシはなにが貰えるんだ?

お前のやろうとしていることに、朝廷が手を貸そう。

紅眼を殺せる獣を、いつまでも檻の中に閉じ込めさせることはできないからな。

ハッ、全部オメーらにメリットがあることばっかじゃねーか、取引だけは上手だもんな大炎人ってのは……

話は伝えたぞ、どうするかはお前次第だ。

私からも一つ太傅に頼みたいことがあるんだ。

……なんだね。

彼は今もう……

ヤツの行いは全巨獣学者の予想をはるかに超えるものであった、己の肉体を百八十一の碁石に分けて……俗世に逃げ出すとはな……フンッ。

ヤツはこの世界と相対するつもりだ。

それはなぜ?

終盤のヨセに入った時、ヤツは必ず再び姿を現す、その時に聞いてみるといい。

ならこの一局は、必ず勝たないといけないね。

……決して負けるわけにはいかん一局だ。
(太傅が立ち去る)

……二人とも話は聞いたね?

囲碁であいつがあの太傅に負けたの?

当然負けるわけがない。

じゃあ太傅はどうやってあいつに勝ったの?

太傅は彼と対局してなかったからさ。

それはなぜ?

白と黒が相為す囲碁は、当然ながら一手一手に深い意味がある、けど太傅が言うには、彼は盤上で対戦相手の人が見えていないって言うんだ。

人?

そこで太傅は彼のために別の勝負を設けてやった。大炎の国土を盤上とし、天下にある民を駒とした勝負を。

……それでどっちが勝ったの?

今回は太傅が勝ったよ。だから彼は甘んじて炎国に拘束されるようになった、彼が一試合負けるごとに、一甲子間は監禁されることになってる。

ヘッ、なら炎国がもしずっとあいつに勝ち続けたら、あいつは永遠に京から出られなくなるってことか?

実を言うと彼、本当はそれほど囲碁を得意としているわけでもないんだよね。

だから上達も遅かったよ、数百年前、彼は一甲子内で、数百数千回は負けっぱなしだった。けどその後の一甲子内で、彼が負ける頻度は少なくなり、もう一甲子が経った頃には、すでに百回程度負けるぐらいだった。

となれば、いずれ彼に勝ちが訪れる、そしてそれは訪れた。

そのためその一甲子の間、彼は京を出て……あれが起こった。

ジィエ姉はあの時に……

そうだね。

あれは感覚がとても不愉快なものだったよ、みんな感じていたはずだ。

じゃああいつは太傅に負けたから、罰を受けるため仕方なくまた京に戻ったってことか?

きっと完敗したのが久しぶりだったんだろうね。

それか……大炎以外にも注目し始めたのかもしれない。

……あんたがネイ・ジシュンね。

ではあなたがあの大胆にも天師府の部隊を襲ったバウンティハンターさんですね。

あ、あの時はまだあいつらがいいヤツだったとは知らなかったからってだけで……

それよりもあのハクって爺さん、今どこにいるの?

……私が案内します。

今回の出来事ですけど、あなたにも感謝しないと。

別にいいわよ。

でも、所詮はただの盃でしょ、あれの居場所が分かってたのなら、自分でコッソリ持ち出してこればよかったじゃない?

彼がどうしても渡してくれないものですから、自分で持ち出すことなんてできなかったんですよ。

だから私の手を借りたってこと?それはどうして?

……どうしてなんでしょうね。

たぶん無意識に、彼を余計な面倒事に巻き込ませたくないと思ってたんじゃないでしょうか。

……やはりそちらのバウンティハンターは、ネイ侍朗の人でしたか。

ッ!

大丈夫ですよ、彼らは敵ではありません。

ただ……

もとより司歳台が考えなしに突っ走ってしまった事態ですので、あなたに追及するつもりはありませんよ。あー……当然ですけど、あなたが正規の手続きで大炎に入国した前提での話ではありますが。

……それに関しては問題ありません。

あなたはハク天師のところに行ってきなさい、夜半。彼なら落ち合う場所であなたを待っていますから。

……わかった。じゃあお達者で。
(ブラックナイトが立ち去る)

……

ネイ侍朗はとっくに司歳台とリャン様の思惑を見破っていたのですね。

とっくに、とまではいきませんけどね。

そういうあなた方はリャン様の打開策を見破られなかったようですが。

……彼はネイさんを裏切ることに、懸念を抱いていたんじゃないでしょうか。

……

どうであれ、今回の出来事で確かに司歳台は出過ぎたマネをしてしまいました、後ほど司歳台から礼部に釈明致します。

……結構ですよ。どちらも大炎のためにしたことですから。

外はまだまだ寒いので、皆さんも早めに休まれてください。私は夜半の様子を見にいってきます、初めて大炎に来たものですから安心できなくて。

行ってらっしゃいませ。

では。
(ネイが立ち去る)

……

公子。

男女の愛に溺れすぎて……これから起こる大事に影響が出ないようにしてほしいものですね。

……

公子はまだ若い、そのようなことを言ってしまえば、じじくさいと疑われてしまうぞ。

秉燭役である限り、男女の情事とは無縁かと思いますよ。

しかし、先に通ったあの村で、公子は率先してあの賊共を捕らえに行った、あれはもしや――

お、オホン――あれはただあのお嬢さんを助けてあげただけです!男女のアレと一緒にしないでください!

……

命を救った恩義というのは不純なものです、それに付け込みことなんてぼくは絶対にしませんよ。

なにを誤解してるんですかタイゴウさんは。

……うぅむ。

そうであるな。

リーさんは龍門に戻らないの?

そうですね、まだ人探しをしなくちゃいけないんで。

じゃあついでに一緒にどうかな?

私たちはどうせ一回事務所に寄ってから、ロドス本艦に帰らないといけないからさ……

そうしておきましょう。でも今回ばかりは、もうロドスに迷惑をかけちゃいけないんでね。

そんな遠慮しなくてもいいのに。

今度こそは本当に一個人の事情なんで。

あのウユウってコードネームのお兄さんは今回の面倒事に巻き込まれたせいで、足をむざむざと折ってしまって今も病院で寝たきりじゃないですか、これ以上の迷惑はかけられませんよ。

……わかった。

く、クルースさん!

あっ、マルベリーさんだ!

君がもう尚蜀についたってことは、ラヴァちゃんもすでに事務所についたってことなのかな?

は、はい……それとラヴァさんから言伝を預かっています、はやく事務所に来い、またなにかが起こりそうだって……

あはは……この炎国の旅はホント終わりがないね。

よくあることですよ。

昔はせいぜい龍門で……そうだ。

前から聞きたかったんだけど、リーさんって、リャン様と龍門のウェイさんは似てるって言ってたよね、どこが似ているの?

そんなこと言いましたっけ?

言ったよ。でも会ってみたらそんなに似てないと思うけどなー……

うーん……

まああの二人はどっちも……尻に敷かれるタイプだと思いますよ。

……

帰ったか。

百八十一の分身、歳よりも一歩先に理性を失うことになるかもしれないよ。

お前は今までずっとここで夢に浸っていたのか?いや……お前にとって歳月なんて意味はなかったな。

行裕鏢局のあの茶番、兄さんが手掛けたものだったんだね。

全てではないけどな。

あの人たちは私となんの関係もなかったはず……どうしてあの人たちまでも巻き込んだの?

警告したかったからさ。

私に?

お前はここでこの世のすべてを夢の中で見渡してきた。

江南から北の辺境までの全てをな、それからこの山に戻ったお前は色々と大きく変わった。不安なんだ、妹よ、だから警告しにきた。

言っておくが、人の心というのは道徳家連中が吹き込めるほど純粋なものではないぞ。
殺し合う肉親たち、反目し合う兄妹たち、愛も恨みも所詮は棋譜の一部にすぎない。
お前は恐れていない、今は当然恐れていないとも、だがいずれは必ず恐れる時が来る。ニェンは恐れている、シーも恐れている、あいつらはあまりにもヒトになり過ぎたからな、当然恐れるさ。
これが警告だ……ほんの些細のな。

……

怒らせちまったかな?

盃に入るのは酒だけでいい、酒がこうもベラベラと喋るべきではないよ。
その瞬間、なにもかもがピタリと止まった。
尚蜀の三山十七峰、今そこに一つ多く聳えている峰には、数えきれないほどの樹木が、木の枝、木の葉がある。
だが風が起こっても、木の葉は動かなかった。
かつて尚蜀で、ある天災が起こった。
暴れ狂う嵐には火花が散らされていて、砕けた源石がまるで日の雨の如く降り注いできた。

――!

――尚蜀で――天災が起こったことがあったのか!

誰かが――天に向かって酒を傾けた、それで黒雲は散り、民も安らいだ!あの盃、お前があれをあの黒雲に投げ捨てたのか!
黒い盃。そして黒い碁石。
この大地で最も恐れられている災難の前で、その二つは瞬く間に灰と化して散っていった。

お前は怒りを覚えたのか?それとも憐憫か?それとも嫉妬か?

その感情をよく覚えておけ――もう間もなく大騒動が起こるからな――

……

……大騒動が起こるのなら……私はもう他人事ではいられなくなる……そうだよね。

ふわ~。

……酒でも買いに行くとするか。

……俺は尚蜀を出る。

止めはしないさ。

お前も私も相手だけを殺したいと思っていたのなら、それはそう難しい話ではなかった。

だが二人とも相手に殺されたいと思っていたのなら……

ならお互いここで退いたほうがいいな、さもないと未練たらたらになっちまう。

私はもう引退するつもりだ。

ヤオイェーに引き継がせるにはまだ早い。それにあのお嬢ちゃん、ずっと独立したいって考えているんだろ?

もしそうなら、店を畳むことになるな。

それがイヤなのかね?

俺はもう鏢局の人間ではなくなったからどうでもいい。

そうか。

ジェン、今はお互いここで退くことになったが、それが和解したわけではないぞ。

酒の席についたら因縁の話は禁止だ、そういう規則はあっただろ、とにかく私なら尚蜀でお前のことを待っているよ。

……

……

最後に一つだけ。

噂程度に聞いた話なんだが……
(ドゥ嬢が駆け寄ってくる)

父さん!ショウさん!

なんだね、そんな慌ただしくして……

アタシ決めた!下の連中とも話はついているわ!

玉門に行きましょ!