昔々、本来なら小さくも美しい町で幸せに暮らせられる女の子がいました。
けどある日、嵐が夥しい量の黒い石をもたらし、女の子の家は破壊されてしまいました。
美しい我が家を取り戻す方法を探すべく、女の子は勇敢にも旅路へ出たのです。
伝説によれば遥か遠いところにはとてもすごい術師が住んでいて、すべての不可能を可能に変えうるアーツを持っているらしい。女の子はその術師が住まう奇跡の地と呼ばれる場所を目指しました。
旅の途中、女の子は一匹の飛べない羽獣と器だけのブリキ男と出会いました。
羽獣は飛ぶことを、ブリキ男は自分の身体を、みんなそれぞれ違う夢を抱いていたのです。
奇跡の地を探すべく、三人はとてもとても長い時間彷徨いました。羽獣はすべての羽毛を失くし、ブリキ男が錆びてしまうほどに。
「ボクの翼を授けましょう、そうすれば砂塵を払うことができるよ」と、羽獣は言いました。
「私のブリキを与えよう、そうすれば嵐を超えることができる」と、ブリキ男は言いました。
女の子は羽獣から授けられた翼を身体につけ、ブリキ男から与えられたブリキを被り、砂漠を超え、そしてようやく嵐までをも超えました。
そしてついにその術師を見つけたのですが、その術師はなんとウソばかりを言うだけの狂乱者だったのです。
女の子はとても悲しみました、けど彼女のお友だちは女の子を囲んで、彼女に話しかけてくれたのです。
「ありがとう、君のおかげでボクは越えられない砂漠を飛び越えられた」と、翼が話しかけてきました。
「ありがとう、君のおかげで私は再び身体の温かさを感じられた」と、ブリキが話しかけてきました。
「本当に素晴らしい旅だったよ」と、最後に揃ってこう言いました。
「じゃあ、わたしも夢が叶ったね」と女の子が彼女のお友だちをぎゅっと抱き締めてこう続けたのです、「あなたたちのいる場所が、わたしの新しい家なのだから」と。
そうして女の子は親友たちの夢を連れて、新しい旅に出かけました。もう術師を探す必要はありません。
女の子は新しい夢ができたのです。遠い遠い、誰も辿りつけなかった場所を目指すという新しい夢が。
……
ママのこのお話、気に入ってくれたかな、ドロシー？
ずっと彷徨ってきたかのように、また瞬く際の刹那しか過ぎていなかったかのように、ドロシーは目を覚ました。
目の前には青葉が茂った木々と紅く燃え上がったバラ、明るく希望に満ちた白昼、そして穏やかで深い夜が彼女の眼前に広がっていた。
天を横切る虹が、目の前に立っている人々の笑顔に映り込んでいる。
彼らはみな仲良く、食べ物や天気、収穫のことについて語り合いながら団欒していた。
そしてドロシーが目に入り、こぞって彼女に手招きする。
「やあ、ドロシー。」
「ここはいい場所だね、ドロシー。」
「飲み干せないほどのキレイな水と、食べきれないほどの食べ物がある……何より、獣たちはみな隠れて出てこようとしない、実に素晴らしい場所だ。」
「ここは本当にいいサボり場だね。」
「あっちにいた時はホントにいつも実験データに追い込まれて気が滅入っちゃったよ、いつどこかで主任がぽっと出て来るんじゃないかってビクビクしてたからさ。」
「でもあまり長くここに留まってちゃダメだよ、もしかしたらもうすぐ嵐が来るかもしれないからね。」
「大丈夫よ。嵐の対処方法ならみんな分かっているわ、じゃなきゃここまで来ていないわよ。」
「そうさ、一体何を心配する必要があるってんだい？」
「あはは……そりゃもちろん、この先どうなるのかが心配だよ。」
「もうここみたいな素晴らしい場所が見つからないんじゃないかって……」
「……でもさ、いくら逃げたって、明日ってもんは必ず来てしまうだろ？」
「ずっとここに逃げ込んでいたら、いつまで経っても立派な科学者にはなれないよ。」
「だから進もう、夜が明けたら。」
「でもおかしいなぁ、今夜ばかりはいつもよりやたらと長いや……」
ッ――！
向こうの動きがもっと苛烈になりました！あれは……藻掻いている？
……ドロシー主任が入り込んだせいで藻掻いているのかもね。
あれって本来はフランクスさんの実験、彼女がずっと追い求めてきた夢なんですよね？本当に彼女はそれを諦めてくれるのでしょうか？
ドロシー主任が望んできたのは実験の成功じゃない。
もし彼女がハッキリと自分の愛する人たちの声を耳に収めたら……きっと彼らにとって一番いい選択肢を取ってくれるはずだよ。
今頃、何を見ているんだろうね？
有効なデータが欠如しているため、その質問については判断できかねます。
“伝達物質”は注入されませんでしたが、私もかつてはアレを感じ取ったことがあります。
一つの推測として、あのシグナルに対して九号デバイスは高い感受性を有していたため、フィリオプシスは部分的な情報の断片をキャッチできたのではないかと思われます。
でも、その断片には具体的な言語や音声も含まれていたよ？
……あれは感情でした。
言語とはあくまで意思伝達のためのツールに過ぎません。大脳皮質の微細な電気信号までをも精確に表現することは不可能です。
今、仮定を必要とするのであれば、フランクス主任はおそらく……夢を見ているのだと思われます。
……夢？
それはドロシー主任自身の夢？それとも……“セントラル”に接続された開拓者たちの夢？
分かりません。
私が夢を見てる時に、誰の夢を見てるのかが分からないのと同じ……なんじゃないかしら……
ジョイス、また口調が……
オリヴィア……？私……一体何が……
もしかして……デバイスがまた干渉された？
分かりません。
今の私、とても悲しくも幸せに感じるわ、オリヴィア。
私たちはみんな、向かう先も分からない、ゴールも見えないような道を歩き出してしまっているんじゃないの？
……そうかもね、特に私たちみたいな研究者たちはそうだよ。
ずっと……あなたに伝えたいことがあったの。
これからも九号デバイスは私にたくさんの苦しみをもたらし、あるいはいつでも私の旅路に終止符を打つかもしれないわ。でもね……
オリヴィア、あなたたちが傍にいてくれたからこそ――
私はずっと孤独と絶望を感じずに済んだわ、ありがとう。
マリー、俺たちはここで……死んでしまうのか？
そんなことを考えてる暇があるのなら、もう少し手を動かしてくれない？
(マリーが矢を放つ)
ハァ……ハァ……もう矢も残り僅かだろ？
この……全身武装野郎が俺に首輪をつける前に、俺がまだ自由に息を吸ったり吐いたり、考え事ができる間に……
色々と言いたいことがあるんだ。
話したきゃ好きにすれば？舌噛んでも知らないからね。
はは、やっぱりお前はその強気があってこそだな。
開拓隊の隊長をやってると、隊員の連中はいつも俺の言うことが全部正しいと思い込んじまっているから、正直言って疲れた。
マリー、お前の傍で死ねるのなら……俺はもう満足だよ。
でもそれ、望んでた死に方じゃないんでしょ？
そうだな、できればフカフカのベッドに寝て、妻や子供に握られてて、かつて助けてやった人たちからの手紙を枕元に置いて……
ああそうだ、窓……窓だけは絶対に欲しいな、空が見たい。
そう考えると、ここには部屋もベッドも……
妻も子供もいないが、そんなものはもうどうでもよくなってきた。
そうか、俺は……
もうとっくに野垂れ死んでも気にしなくなっていたのか。
ねえお母さん、ずっと歩いてるのって疲れない？なんでみんな安全な場所に残りたがらないの？
みんながそんなに必死でいるのは、みんな遥か遠い場所にある光景をこの目で見てみたいからなのよ、ドロシー。
じゃあ私もいつかお母さんと一緒に行ける？
ドロシーにはドロシーの旅があるのだから、自分の旅に出なさい。
お母さん、どうして泣いてるの？もしかして、行ってほしくなかった？だったら夏合宿、私やめておくよ。
ううん、ドロシー……私じゃあなたの未来を決めつけられないから、行きたければちゃんと行きなさい。
お母さんはね、いつかはここに残って、あなたを見送ることになるわ、ドロシー。
この先目にする風景は、きっとお母さんなんかよりも素晴らしいものになるはずよ、ドロシー。
ドロシー、どうして泣いてるの？
もしかして、ここ嫌いだった？
幼い子供がつま先を立たせては腕を目いっぱい伸ばし、ドロシーが流した涙の痕を拭いようとした。
ドロシーも腕を上げようとする。
でも幼子を触れようとした時……
彼女は腕を下ろしたのだった。
ううん、違うの。
ここは私が生涯追い求めてきた……夢の土地。
あなたたちに安寧と幸福をもたらすのが、私の願いだった……
でもあなたたちの未来はあなたたちだけのもの、私のではない。
だからあなたたちをここに閉じ込めるわけにはいかないわ。
私も……ここに閉じ籠ってはダメね。
今度は私が、見送ってあげるから……
この先目にする風景は、きっと私なんかよりも素晴らしいものになるはずよ。
見てくださいサイレンス先生、あれはボクの錯覚でしょうか？銀色の液体たちが全部……後退している？
実験室に向かっている……
どうして急に方向転換して、実験区域のほうへ？
あれでは建物にぶつかって……
アレは……自分の生まれた場所を目指しているんだ。
半分取り残されたビルが大きな音を轟かせながら崩れていく。
先ほどの成長段階とは異なり、銀色の被造物は崩れたビルの瓦礫を分解いないでいた。
そして分散させた液体をすべて回収し、己が心臓を躊躇なく引き裂いたのだ。
今にも幾何学模様の巨体はみるみると崩壊していく。
土埃は舞い上がり、やがて地面にはゆっくりと流れる銀の川が流れるようになった。空も本来あるべき色合いを取り戻したのだ。
そんな……
そんなバカな。
データだ……データを見せろ！
……
“セントラル”とのコネクトは切断、実験体の構造も完全に崩壊……
“セントラル”は……破壊された、だと？
……なあ、マリー。
ん？
俺は幻覚でも見てるのか？あのバケモノが……消えたぞ？
俺たちは……助かったのか？
助かった……いや、助かったんだ――マリー、俺たち助かったぞ！
油断するんじゃ……ないわよ……ハァ、ハァ……いつどこでまたライン生命のクソ野郎どもが出てくるか……
待って、ライン生命の連中が退いてる？
あれは……あの恰好をした連中は……
フランクス主任はご自分で創り上げた被造物の破壊に成功しました。
……やったんだ、成し遂げたんだ。
こうなるって、ずっと彼女を信じていたのですか？
ドロシー主任は……あなたにも開拓者たちと同じような勇気を持っているって言ってたよ、グレイ。
私、言いそびれちゃったな……主任にも同じような勇気があるって――
自ら編み出した理想の夢から醒める勇気があるって。
……
ドロシー主任、具合はどうですか？どこか調子の悪いところとかは？
よくはないかな、でも……
……スッキリした。
答え……見つけたんですね？
答え？
ううん……新しい旅路を見つけたの、オリヴィア。
彼らだけの旅路を。
そして……私だけの旅路を、ね。
夢を打ち砕かれた感覚はどう？
……“セントラル”の詳細位置を知ってるのはドロシーだけだ。
ヤツめ、まさか自ら創り出したシステムを破壊したのか……あの被造物のコントロールすら可能だと？
想像もつかない、って感じかな？
そうだよね、だってキミ、一つの可能性を度外視していたんだもの。ドロシーが自分に注射を――あのデカブツにコネクトするっていう可能性をね。
……君は直接それを見たわけではないだろ、なぜ断定できる？
見てないよ、でも私は彼女を理解してるから分かるもんね。
彼女の心は最初からずっと開拓者たちと一緒だったんだ。彼らのためなら彼女は何だってやるし、必要な時に手放すことだってする、それがドロシーだよ。
……彼女を見つけ出さなければ。
彼女の研究は私の想像を超えるほど神秘的なものなのだ、ここで実験を終わらせるわけには――
……どういうことだ？警備課の連中は一体どこに――
フェルディナント主任、監視所が囲まれてしまいました！
囲まれただと？誰がそんなことを……いや、基地での出来事を嗅ぎつけたのか？バカな、なぜ基地のことを！？
……はは。
私のアーツ……ようやくキミが通信を遮断するために使われていた制御パネルに効いてきたかな。時間はかかっちゃったけど、キミのご指導には感謝しなくちゃね。
なんだと？だがキミはずっと私の目の前にいたんじゃ……
もし私と話してた時に、もう少し注意深くしていたらバレていたかもしれないね。
(ライン生命警備課員が駆け寄ってくる)
フェルディナント主任、ヤツらが来ます……ぐはッ！
(ライン生命警備課員が倒れる)
ライン生命エネルギー課主任、フェルディナント・クルーニーだな？
お前には臨床実験における品質管理条例の違反と、この基地で非法な実験を行った容疑がかかっている、証拠は揃っているぞ。
直ちに抵抗を諦め、部下たちにも武装解除を命令しろ。
……
これはきっと何かの誤解だ、まずは電話をさせてくれ。
規定違反ではあるが……電話を許可しよう。
……
……使われていない電話番号だと？
君はどこの所属の人間だ？今すぐ大佐殿に連絡を取らせてくれ……
私の知ってる大佐なら大勢いるし、なんならそれぞれ異なる部隊に所属している。お前の言う大佐はどの大佐だ？
それは……
無数の武器がフェルディナントに向けられている。
そうして大佐の名は彼の舌先から出ることはなかった。
この名前を口に出さなくて幸いだったと、フェルディナントはその時ばかりは安心感を覚えた。
通信機が繋がってるぞ。
……
私だ、フェルディナント。
ははは……
そうか、そういうことだったのか、クリステン。
やれやれ、君の勝ちだよ、おめでとう。
最初から勝ち負けを競うゲームじゃなかったのさ、フェルディナント。
君の賭けで危うくライン生命は消えかけた。
ライン生命……
私はライン生命でテラ最強のラボを作り上げてやると言って、それを叶えた。
私にかかればライン生命という名前を次の時代でも輝かせることだってできる。
なのに君はどうだ？君こそ本当にライン生命を気に掛けてやっているのか、クリステン？
……
気に掛けていちゃいないさ。君はただ我々の努力を我が物にしたいだけだからな。
阻止されるべきなのは君のほうだ、これもライン生命のために……
ライン生命は誰のものでもないよ。
フェルディナント・クルーニー、君は色んな事象に首を突っ込み過ぎだ、注意力散漫と言ってもいい。ライン生命にそんな学者は必要ないよ。
……わざわざ総括が直々に解雇を言い渡しにきたのか？
警告しているのさ、判断を誤るなってね。
それは……私が君の提案に乗り、いい弁護士を雇っては政府関係者に融通を利かせてから、州の刑務所に二百年もの懲役刑に課すことを言っているのか？
フッ、ごもっともな判断だな。
(爆発音)
フェルディナント――！
じ、自殺……？
ゲホゲホッ……床の構造が、壊されてる……
おそらくは逃亡したんだろう。
こういう用意周到な知能犯の捕縛はいつだって面倒だ……だが致し方ない。
追跡するぞ、幇助がなければ遠くへは逃げられないはずだ。
これで君の思い通りだ、サリア。
君とロドスが持ち込んだ情報で……形勢は大きく変わったよ。
フェルディナントは失敗し、君は再びライン生命を“救ってやった”。
……私の用は済んだ、もう行く。
サリア――
数年前のことだが、何もすべて忘れたわけじゃないよ。
君、アーツの展開手法を変えたね――当時と比べて、カルシウム化による物質の再構築がまた一段と複雑になっている。
捨てたんだね、最初に私たち二人で編み出した数式を。
破られてしまった防御術にはもうなんの価値もないからな。
ふむ、君のカルシウム化を解いたのは私一人だけだったもんね。
……ああそうだ。
さらばだ、クリステン。
フェルディナントは忌み嫌っていた。
なぜなら、予備の案を使うのはいつだって敗北者だけだからだ。
フェルディナントのラボに予備案などはそれほど必要ない、彼自身が突き進むための風向きを敏感に察知してやれるからだ。
彼は経営に向いていると多くの者たちは言うが、それを言う者たちは何も理解していない。
フェルディナントはただ正しきを保ち、前へ前へと突き進んでいるだけなのだから。
他者よりも一歩はやく先を進めば、金も注目も絶え間なく自分のもとへ流れてくる。
そのリソースがあるからこそ、彼はよりはやく、より遠くへ行けるのだ。
だが……
今の彼はこの暗くて狭い道を進まざるを得なくなった、一度も起用しようと考えたことすらなかった退路を。
通路の果てに、誰かがフェルディナントを待っている。
なぜこんなところに待ち人が？
同僚も、家族も、エレナも、彼の計画を知る者は誰一人としていないはずだ。
私を除いて、誰もこの逃走経路を知っている者はいないはずなのだ。
ようやく来ましたね、フェルディナント。
数分間待たされてしまいましたよ。
……ホルハイヤ。
まさか……ゲホッ、最後に手を貸してくれる人が傭兵とはな。
ふ～ん、どうでしょうね？
……
手を貸しに来たわけではなさそうだ。
なぜ――すぐ私を撃たない？
ご安心ください、殺しに来たわけじゃないんです。
……信じれるものか。
大佐は……軍はきっとここで私を殺して口封じするつもりだ。
クリステンも私を監獄にぶち込もうとしていた……フッ、そこに入ってしまえば、きっと私はローキャンたちみたいにイカレてしまうか、あるいは大人しく屍に成り果てるかのどちらかだろう。
クルビアじゃ狂った科学者など珍しいものでもない、軍や政府が一般人を犠牲にする非道な実験を行ったという汚名を着せられることがないからな。
……クリステンがどうやって基地での情報を入手し、こんな短時間の間に政府を動かせたかは分からないが……
ふふ……
……君の仕業か。
ただの傭兵ではないことは分かっていたんだが……政府が寄越したスパイの類か？一体誰に仕えている？
シー……沈黙は金、ですよ。
あなたのような人がクルビアで隠し事をしても無意味です……こういった秘密の逃走経路だって例外ではありません。
……
ジロリと眼前の人が近づいてくるのを見やるフェルディナント、嫌というほど背筋に冷や汗が湧いて出る。
数分前に直接クリステンと電話越しに会話していた時でさえ、これほどの絶望感を覚えたことはない。
だがこの時ばかりは、このリーベリの腕が彼に伸びていくにつれ、胃の底から苦味が込み上がっては彼の喉元を締め付けてくる。
その場で吐きたくなるぐらいの不快な感覚だ。
あら、髪の毛がぐちゃぐちゃですね、フェルディナント。
このまま外に出ても、イメージが損なわれてしまいますよ。
……
そうだ、先に言っておきましょう。あなたが用意しておいた逃走用の車両なら壊しておきました。
なっ……
それに先ほど、判断を誤らなくてよかったですね～。
本当ならあの場でクリステンも一緒にライン生命を道連れにしてやれたはずなのに、あなたはそうしなかった。
ですので……うーん、そうですねぇ……あなたの口癖を拝借すると……
許そう、フェルディナント。
……
10m先、消防器具箱の中に用意しておきました、あなた用のパワーアーマーを。
――しかも最新式ですよ？
それを装着するもよし、遠隔操作するもよし、なんなら放っておくのもよし、お好きにしてください。
ただし、もうツリーマウンズに戻れるとは思わないことですね……ほかの移動都市に逃げることもあまりオススメしません。とはいえ、まだ広々とした土地があなたのために用意されておりますから、何も心配はいりませんよ
さあ、それでは行きましょうか――
――“開拓者”さん。