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【明日方舟】未尽の篇章 ジェッセルトン「トゥルーストーリー」 翻訳

親愛なるミスターKへ:
順風満帆を祈っております。私は今、朝方未明のマンスフィールド刑務所であなたの手紙を書いております。
ここでの状況は私が潜入した時から何も変わっておりません。
看守たちは意気揚々で、我が物顔。囚人たちはその過剰な気力を喧嘩で発散するばかりです。
そういう私は、囚人たちや看守たちからとても――

ジェッセルトンは“とても”という文字にしばし考え耽り、枕カバーの中から黄ばんで久しい手紙を取り出した。その手紙の送り主には“ミスターK”と書かれていて、自身がその受取人である。
独房の外から入ってくる僅かな光を頼りに、彼は声を小さくして手紙の内容を読み上げた。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

「どうかしばしの間、刑務所内で不要な争いは避けるように……」

ジェッセルトン
ジェッセルトン

「ジェッセルトン様は依然としてビーチパラソル社の重要な人員にございます。あなたのポジションや待遇につきましては今まで通りに保持し続け……」

ジェッセルトン
ジェッセルトン

「刑務所内で良き模範として過ごされた際はこちらで時機を伺い、必ずあなたを釈放するように刑務所側に働きかけ、かつ今までの分の補償もお返し致しましょう……」

ジェッセルトン
ジェッセルトン

フンッ。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

会社の連中め、今さら私のもとに手紙を送りつけてきたか、思い出したかのように。

ジェッセルトンは首を振り、丁寧に読み上げた手紙を折り畳んで封筒に入れ、枕カバーの中に収めた。

A区囚人A
A区囚人A

※クルビアスラング※、いい夢見てたのによ、ションベンのせいで全部台無しだぜ、クソが……

A区囚人A
A区囚人A

よぉ、ジェッセルトン、また徹夜しながら手紙を書いてんのか。

A区囚人A
A区囚人A

先週も書いたっていうのに今日も書いてるのかよ、一体誰に書いてやってるんだ?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

あなたとは関係ありません。

A区囚人A
A区囚人A

隠すことはねえだろ、ほらちょっと見せてくれよ?何書いてんだ?パパとママに金でもせがんでるのか?それとも浮気しないように女房を脅しつけたりとかか?

A区囚人A
A区囚人A

今日ほかの連中と賭けをしててよ、タバコ十本だ。

A区囚人A
A区囚人A

何書いてるか教えてくれよ。もし勝ったら、その半分はくれてやるからさ。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

申し訳ありませんが、個人のプライバシーを尊重して頂きたい。

A区囚人A
A区囚人A

へいへい、プライバシーね。

A区囚人A
A区囚人A

暗殺のため看守に偽って潜り込んだのに、目当てを殺せなかっただけじゃなくて逆に自分がブタ箱にぶちこめられたくせに、プライバシーもクソもあるかよ?笑えてくるぜ。

(警笛の音)

看守
看守A

全員揃ったか?

A区囚人A
A区囚人A

ジェッセルトンがまだ来ていませーん。

看守
看守A

ジェッセルトンか?今度は何があったんだ?

A区囚人A
A区囚人A

外出した際に頭を鉄格子にぶつけちまったみたいでーす。

(ジェッセルトンが駆け寄ってくる)

ジェッセルトン
ジェッセルトン

申し訳ありません、先ほど医務室に行っておりました。

看守
看守A

医務室だぁ?そりゃ重傷なこったな、“同僚さん”よ。

看守
看守A

それで、今度は誰に足と取られてコケちまったんだ?ここしばらく大人しくしていたことに免じて、代わりに俺がそいつにガツンと言ってやるよ。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

いえ、自分で躓いてしまっただけです。

看守
看守A

本当か?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

本当です。

看守
看守A

なら二日三日も医務室通いしてるんじゃあねえぞ!テメェが鉄格子なんかにやられるタチじゃねえのは分かってるんだ、暇さえあれば医務室なんかに飛び込んでいきやがって!

看守
看守A

ほかの者は指示通り仕事にかかれ!ジェッセルトン、お前は私と一緒に来い、お前には別の仕事が当てられている。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

いや、私もこの者たちと一緒に同じ作業を――

看守
看守A

いいから来い!つべこべ言うんじゃあねえ!

看守
看守A

ほら、バケツとスプレーだ、持ってろ。お前には全A区独房のトイレを掃除してもらう!

ジェッセルトン
ジェッセルトン

お任せください、与えられた任務は必ず遂行してみせましょう。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

しかし、ブラシをまだ貰っていませんが……

看守
看守A

ブラシを使う必要はない。

看守
看守A

かのジェッセルトンなら並ならぬアーツでスチールのたわしを作り出すぐらい造作もないだろ?ほらさっさと行け!終わったら私がチェックする、キレイに磨き上げてなかったら飯抜きだからな!

A区囚人A
A区囚人A

ぷぷぷ――

ジェッセルトン
ジェッセルトン

(深呼吸)

ジェッセルトン
ジェッセルトン

分かりました、看守殿。なにせ、今はあなたのほうが立場は上ですからね、素直に従いましょう。

A区囚人A
A区囚人A

……

A区囚人A
A区囚人A

ケッ、トイレ掃除をさせられるってのにまだ涼しい顔をしやがって。

(A区囚人が近寄ってくる)

A区囚人A
A区囚人

よぉジェッセルトン、トイレ掃除はおしまいか?

A区囚人A
A区囚人

あんな汚れ仕事をさせられるなんてご苦労なこったな。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

他愛ない作業でしたよ、なんてことはありません。

A区囚人A
A区囚人

ほらよ、ランチのパンだ。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

ありがとうございます、ジャックさん。おかげで午前中、あなたに代わって医務室で情報を引き出しに行った甲斐がありましたよ。

A区囚人A
ジャック

鉄格子に頭をぶつけたからじゃなく、俺のためにケガのフリをして医務室に行ったってのか?いや~ありがとう、どう感謝していいものか!

A区囚人A
ジャック

んで、俺の病気はどうだって……?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

中々しぶとい医者でしたよ、小銭を忍ばせてようやく口を割らせることができました。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

医者が言うには、あなたの肝臓の病気はもうこれ以上看過できないものになっていると――

A区囚人A
A区囚人C

おーいジェッセルトン、またここで“友だち作り”か?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

チッ。

A区囚人A
A区囚人C

何を企んでいるか知ったこっちゃねえが、今日の乱闘には必ず参加してもらうぞ!

ジェッセルトン
ジェッセルトン

申し訳ありませんが、あなたたちの娯楽イベントには興味がないんです。

A区囚人A
A区囚人C

興味ないだぁ?俺たちA区が最近あの感染者どもにどれだけ痛めつけられてるのか教えてやろうか?

A区囚人A
A区囚人C

テメェのせいでアンソニーが逃げちまった後、B区の連中はますます好き放題暴れ回りやがった。これも全部テメェの責任だ、それなのに行きたくないだとぉ?

A区囚人A
A区囚人C

まあいいだろ、だが次またトイレ掃除させられた時は、とびっきりの“サプライズ”を用意してやるから楽しみにしてろよな!

ジェッセルトン
ジェッセルトン

私はどうもあなたたちみたいに低俗な暴力から快感を得られるような人間ではありませんので辞退させて頂きます、本当に申し訳ありません。

A区囚人A
ジャック

おいジェッセルトン、やっぱ行ったほうがいいって……

A区囚人A
A区囚人C

そこのジャックって野郎、お前ここに来てどんくらいだ?言っておくが、そいつと仲良くなってもロクなことがないぜ?

A区囚人A
ジャック

ロクなことがない?そんなわけあるか、ジェッセルトンには色々と助けられ――

A区囚人A
A区囚人C

ちぇッ、聞き入れたくないのならそれでもいい、俺は言ったからな。

A区囚人A
A区囚人C

おいジェッセルトン、もうすぐおっぱじめるから、さっさと来たほうが身のためだぜ!遅れたら俺たちみんなでもてなしてやるからな!

ジェッセルトン
ジェッセルトン

(肩をすくめる)やれやれ……

ジェッセルトン
ジェッセルトン

そこまで言うのでしたら、様子ぐらい見に行きましょう。

A区囚人A
A区囚人C

様子を見りゃいいってだけじゃねえ――テメェも――

A区囚人A
A区囚人C

まあいい、とにかく来い!いいな!

B区囚人A
B区囚人A

ヒュ~ヒュー~、おい見ろよ!ジェッセルトンが来てくれたぜ!

B区囚人A
B区囚人B

お似合いな囚人服だな、ジェッセルトン~!

B区囚人A
B区囚人C

看守にはもう飽きたから、今度は俺たちと一緒につるもうってか~!

???
B区囚人たち

ギャハハハハハハハハハ!

A区囚人A
A区囚人A

(小声)ジェッセルトン、お前あのアンソニーと実力が互角らしいな?ならこいつらをやっつけるのも造作もないんじゃねえの?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

私を舐めないで頂けますか?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

こんなたかが感染者数人程度など――

どうかしばしの間、刑務所内で不要な争いは避けるようにしてください。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

……

A区囚人A
A区囚人B

おい聞いたかよ、感染者のクズども!たかが感染者数人程度が私に敵うわけがねえってよ!

A区囚人A
A区囚人A

ほう、そりゃ見ものだな!このニセ看守がどれぐらいのモンかお手並み拝見といこうぜ!

B区囚人A
B区囚人A

やれ!

(殴り合いの音)

看守
看守A

おっ、また始まったな――おい、あれ見ろよ。

看守
看守B

ジェッセルトンじゃないか?

看守
看守B

今日はA区に軍配が上がるな、賭けてもいいぞ?

看守
看守A

ならお前の負けだな。A区が苦い汁を啜るに賭けるぜ。

(囚人達が殴り合う)

A区囚人A
A区囚人A

おいジェッセルトン、柱みたいにボーっと突っ立ってねえで、テメェも加勢しやがれ!

(囚人達が殴り合う)

A区囚人A
A区囚人B

ジェッセルトン、テメェ――

A区囚人A
A区囚人A

テメェこの※クルビアスラング※が、寝返るつもりか!

B区囚人A
B区囚人A

ヘッヘ~、おいA区のクソ野郎ども、まったくサマになってねえぞ!テメェらが寄越してきた助っ人も手を出さねえみてぇだし、ここで半殺しにしてやろうか!

B区囚人A
B区囚人B

まあまあ、そいつらをやり合ってもな~んも面白くはねえって。

B区囚人A
B区囚人A

どういう意味だ?

B区囚人A
B区囚人B

今ぶつのめすべきなのはA区のゴミどもじゃなくて、あそこでボーっと突っ立てるニセ看守殿とは思わないか?

B区囚人A
B区囚人B

さっきなんて言ってたっけ?「たかだか感染者数人程度が自分に敵うわけがない」だっけか?

B区囚人A
B区囚人B

おかげ様でハラワタ煮えくり返ってきやがったぜチクショウが!そっちが手を出さないってんなら遠慮なくこっちから一発お見舞いして――

(囚人がジェッセルトンに殴り掛かる)

B区囚人A
B区囚人B

※クルビアスラング※!クソ、骨が……折れちまったみてえだ……ヤロウ鉄塊みたいにカチコチになりやがって!あれじゃあまるで鉄板を殴ってるようなもんだぜ!

B区囚人A
B区囚人C

バールでも食らいやがれ!

看守
看守B

いいぞいいぞ!その死に損ないをぶっ殺せェ!

看守
看守A

ヒュ~ヒュ~!んなことしても無駄だよバーカ!

B区囚人A
B区囚人C

バールが曲がっちまっただと!?

A区囚人A
A区囚人C

B区の連中はマヌケばかりだぜ、あいつがアーツを使えるのを忘れたのか?このタコ!

B区囚人A
B区囚人C

自分らなら対処できるみてえな言い分だな!ならテメェらもなんかやってみたらどうなんだ!

B区囚人A
B区囚人C

そもそも!アイツはテメェらが連れてきた人なんだろ、今じゃただの彫像みたいに突っ立てるだけでなんの役にも立ってねえじゃねえか!テメェらこそマヌケばかりだぜ!

A区囚人A
A区囚人C

おいジェッセルトン、あとで容赦しねえぞ!

ジェッセルトン
ジェッセルトン

皆さん、どうか落ち着いて。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

私は最初からあなたたちの粗暴な余興に付き合うつもりはないと言ったじゃないですか。ここに立ってるだけで、あなたたちに最大限譲歩してやっているのですよ?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

もしまだ少しだけ理性が残っておられるのなら、さっさと道を開けて帰らせてください。

A区囚人A
A区囚人A

ベラベラと舌を転がしやがって……

A区囚人A
A区囚人A

俺たちはテメェにも加勢してもらうためにここに連れてきたんだ、観戦するためじゃねえ!分かってんのか!

A区囚人A
A区囚人A

そうか、ニセ看守をやってた時期が恋しくて仕方がなかったから付いて来やがったんだな?

A区囚人A
A区囚人A

そんな時代はもう終わってんだよ!!

(囚人がジェッセルトンに殴り掛かる)

A区囚人A
A区囚人A

いッッッ……

ジェッセルトン
ジェッセルトン

もうこれ以上付き合ってられません。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

私に危害を加えれば加えるほど、元から不健康なあなたたちの身体をさらに痛めつけることになりますよ?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

なにより、暴力から快感を得るなど、到底品のある行為とは思えません。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

囚人に成り下がっただけでも哀れなことだというのに、人に備えられた最低限の品格すら損なわれてしまったとは……まったく嘆かわしい。

A区囚人A
A区囚人C

※相次ぐクルビアスラング※

A区囚人A
A区囚人C

おいテメェら一一時休戦だ!こいつがどこまで持つかタコ殴りにしてやろうぜ!

(囚人がジェッセルトンに殴り掛かる)

B区囚人A
B区囚人B

……おい、あいつってA区の助っ人なんだろ?内輪揉めし始めたぞ?

B区囚人A
B区囚人A

らしいな。

B区囚人A
B区囚人B

あ~あ、ここがブタ箱じゃなかったら、ポップコーンでも買って楽しめてたのによ~。

B区囚人A
B区囚人B

どうすんだ?観戦か?

B区囚人A
B区囚人B

ポップコーンもねえのに、観戦したってなんも面白かねえだろ!

B区囚人A
B区囚人B

俺たちもあの※クルビアスラング※をぶちのめしに行くぞ!

看守
看守A

んー?なんだお前、なにか用か?

B区囚人A
B区囚人C

みんながもっと楽しめるようあるブツを借りられないかと思いまして。

看守
看守A

ブツって?

B区囚人A
B区囚人C

(ひそひそ)

看守
看守A

ぷッ、ククク。

看守
看守A

いいだろ、許可する。だが逃げるようなマネはするんじゃないぞ、さもないと皮を剥いでやるからな――

看守
看守A

あと、自分で言ってたことも忘れるんじゃないぞ。もし別のものを置いていったら、ウソつきの教訓を一生分脳みそに叩きこんでやるからな。

B区囚人A
B区囚人C

へい、分かってますよ!

看守
看守B

なにを言われたんだ?

看守
看守A

まあ見てろって。

看守
看守B

しっかし、ぶっちゃけもう見飽きてしまったよ。

看守
看守B

あのジェッセルトンも中々硬い野郎だな。もう何本もノコギリがダメになってしまったのに、傷一つすら付いてないとは……

A区囚人A
A区囚人たち

ハァ……ハァ……

B区囚人A
B区囚人たち

ぜぇ……ぜぇ……

ジェッセルトン
ジェッセルトン

意図したことではありませんが、そろそろそちらも争い気力が残っていないのではありませんか?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

仮に私がこの場へやってきたことで双方が手を取り合うことができたらのなら、それはそれで悪いことでもなさそうではありますが。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

では、私はこれにて失礼させて――

“ばしゃあ――”

ジェッセルトン
ジェッセルトン

なんだこれは――強酸か!?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

いや、これは――

A区囚人A
A区囚人A

おえええええ!

A区囚人A
A区囚人B

くっせええええ!なんなんだあのドブ水は!?

B区囚人A
B区囚人C

ジェッセルトン、お前自分は品も実力もあって、誰にも手出しさせられねえって言ってたよな?

B区囚人A
B区囚人C

自分が洗ったトイレの水でのシャワーの感想はどうだ?気持ちいいか~?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

……

B区囚人A
B区囚人C

なんだテメェ?やんのか?いいぜ来いよ、さっきまで落ち着けと俺たちを宥めてたくせによ!

ジェッセルトン様は依然としてビーチパラソル社の重要な人員にございます。あなたのポジションや待遇につきましては今まで通りに保持し続けるように尽力致しましょう。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

……あなたのような下品な人とやり合うつもりはありません。

B区囚人A
B区囚人C

ケッ、この役立たずのタマ無し野郎が!

ジェッセルトン
ジェッセルトン

なんとでも言ってください、こんな汚物程度じゃ私を貶すには足り得ませんよ。もっとも、このような下策に出たあなたたちがいかに無聊な人間であるかが証明されることにはなりましたがね。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

では。

(ジェッセルトンが立ち去る)

A区囚人A
A区囚人B

なんなんだあいつ、もはや感心しちまいそうだぜ……

A区囚人A
A区囚人A

いいからさっさとどっかに消えやがれ!鼻が曲げられちまいそうだ!

B区囚人A
B区囚人C

帰ってママのおっぱいでも思いながら指でもしゃぶってな!それと寝る前に着替えとけよ、ベッドまで匂っちまったらたまったもんじゃねえからな!

???
囚人たち

ギャハハハハハ!

看守
看守A

どうだ、面白くなったか?

看守
看守B

こりゃB区の連中のメシをしばらくはご馳走にしてやらんとは――おい待て、賭けはどうなった?

看守
看守A

そりゃ俺の勝ちだろうよ。

看守
看守B

はぁ?

看守
看守A

忘れたか?俺はA区が“苦い汁を啜る”に賭けたんだぜ?

看守
看守B

ケッ、この口先だけのペテン師が!

A区囚人A
ジャック

ジェッセルトン、大丈夫か?あいつらに何か――

A区囚人A
ジャック

おえええええ!くっせええええ!

A区囚人A
ジャック

何されたんだよ!

ジェッセルトン
ジェッセルトン

少々イタズラをされてしまいましたが、気にするほどでもありません。

A区囚人A
ジャック

なんてことをするんだあの連中は!?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

余った囚人服はありませんか?

A区囚人A
ジャック

あるにはあるが、替えの一着しか持ってないからな……

ジェッセルトン
ジェッセルトン

……

A区囚人A
ジャック

……ジェッセルトン?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

先に自分の独房に戻っててください、着替えてきます。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

おや、ジャックさん。

A区囚人A
ジャック

おい、濡れたままの服を着るのか?

A区囚人A
ジャック

すまない……ケチってないで替えの服をやるべきだった。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

(呆れるほど純粋な同情心ですね……はやくこの愚か者が信頼しきった後のマヌケ面を見たくなってきましたよ。)

ジェッセルトン
ジェッセルトン

(彼はもう充分私に恩義でいっぱいのはず。あとは少しだけ誘導して、彼の内側に潜む憎しみを煽り立てれば……)

ジェッセルトン
ジェッセルトン

(しばらくの獄中生活でもこのような退屈しのぎの相手を持てるとは、いまったく私はなんて幸運なんだ。)

A区囚人A
ジャック

ジェッセルトン?どうしたんだ、どこか気分でも悪いのか?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

いえ、なんでも。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

それよりもあなたの容態について詳細をお伝えしましょうか。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

報告によれば、あなたの病気は酒の暴飲によるものです。入獄してからアルコールを摂取してはいませんが、獄中の化学製品を扱う作業で身体が悪影響を受けてしまっている。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

医者から直接言われましたよ。このままでは余命もあまり楽観視できないと。

A区囚人A
ジャック

ああ……そんな……女房も、七八歳になった子供も、全部俺のせいで……

ジェッセルトン
ジェッセルトン

それと医者からあなたの身体検査の報告書だけでなく、妻からの手紙も預かってきました。

A区囚人A
ジャック

手紙?パティからの手紙か?なんでそんなものが医者のところに?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

あなたの健康状態を考慮した上で預かったのだと仰ってましたよ、感情的になってこれ以上身体に悪影響を受けさせないためだとか。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

しかしご自身の状況を知ってしまった以上、今さら隠す必要もなくなったので渡すことになったのです。

A区囚人A
ジャック

ありがてぇ、パティから手紙を貰えたのならもうここで死んだって構わねえや!それでなんて書いてあったんだ?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

それは……ご自分で確認してください。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

(先週徹夜してまで真似した筆跡がバレないといいんですがね。)

A区囚人A
ジャック

「悲しいお知らせがあります。もう今の生活には耐えられませんので、ビルさんと再婚することに決め――」

A区囚人A
ジャック

なんだって!?

A区囚人A
ジャック

これは――おいジェッセルトン、これは本当に――

A区囚人A
ジャック

パティは本当に十五歳の俺の弟と再婚したのかッ!?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

(クソ、そのビルは弟だったのか!?)

ジェッセルトン
ジェッセルトン

その――よく考えてください、もしかしたらほかの人の名前かもしれませんよ?

A区囚人A
ジャック

ほかの人、ほかの人って……まさかディキンソン家の大工、俺が入獄する直前に女房を亡くしたあの野郎か!?

A区囚人A
ジャック

め、面会だ――パティと面会させろ!こんなことで俺を見捨てるなんて……俺たちのガキにあのよぼよぼの大工のジジイをパパって呼ばせる気か!?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

申し訳ありません、ジャックさん。もしかしたら渡さなかったほうがよかったのかもしれません……

A区囚人A
ジャック

いいんだジェッセルトン、むしろ――なんて言えばいいか、お前が俺にこの手紙を渡さなかったら俺は……

ジェッセルトン
ジェッセルトン

お待ちを、まだお礼を言うには早いですよ。

A区囚人A
ジャック

なんだって?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

ご存じの通り、クルビアにいる限りでは金と権力の支配から逃れることはできません。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

なぜ奥さんがあの大工に取られたのか分かりますか?金ですよ。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

あなたが刑務所に入ったことで奥さんは思い負担を背負うようになった。だから奥さんはその老人と再婚して、自身を愛してくれたあなたから離れることを選んだのです。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

だからもし、あなたに復讐するお気持ちがあるのでしたら……

A区囚人A
ジャック

復習?いやいや、俺はただパティに事情を聴きたいだけで……

ジェッセルトン
ジェッセルトン

その後はどうするんです?見逃すのですか?奥さんを見逃したとしても、お子さんのことはどうするのですか?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

あなたはお互いが相思相愛だと思われていましたが、ここクルビアで愛はどれくらいの値段で買われてしまうのでしょうね?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

奥さんはあなたを裏切り、そして今はお子さんにさえ裏切られてしまうのですよ!それなのにあなたはまったく怒りを覚えないのですか?

A区囚人A
ジャック

ジェッセルトン、頼むから言わないでくれ……

ジェッセルトン
ジェッセルトン

(純粋無垢なだけでなくオツムも悪いときた……どうやら直接ガツンと言ってやるしかなさそうですね。)

ジェッセルトン
ジェッセルトン

(たとえ私がもうじきここから出られることを伝えても、このマヌケなら羨むだけで嫉妬することはないでしょう、何も心配はいりません。)

ジェッセルトン
ジェッセルトン

いま私たちにできることは一つだけです、金と権力を自分たちで手に入れましょう!

A区囚人A
ジャック

金と……権力?そんなものでどうやって子供を取り戻せるって言うんだ?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

金があれば、保釈金を支払えます。そうすればここから抜け出し、奥さんからお子さんを奪い返すことができますよ。

A区囚人A
ジャック

そんな金がありゃ、俺だって最初からハメられることだって……

ジェッセルトン
ジェッセルトン

そして権力。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

実はですね、この刑務所内外ではそれなりのコネを持ってまして。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

信頼できる何人かの友人が、近いうちに私をこの刑務所から拾い上げてくれるんです。

A区囚人A
ジャック

それ本当か?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

ええ、本当です。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

長年這いずり回った結果、多少なりとも権力の末端に触れることができました。おかげで釈放の目の前です。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

私がここに閉じ込められてるのは、ちょっとした不都合に巻き込まれただけに過ぎません、何も心配することはありませんよ。

A区囚人A
ジャック

そりゃいいなぁ……

A区囚人A
ジャックジャック

でもありがとうよジェッセルトン、俺みたいな苦労するだけな人と話をして、ましてや手伝ってもらって……

ジェッセルトン
ジェッセルトン

いいんです。もっと自信を持ってください、ジャックさん。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

クルビアじゃ、自分は役立つ存在か、あるいは自分を牽引してくれる人がいれば苦労をされることはありません。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

詰まるところ、私がその前者であなたがその後者です。私があなたを引っ張って差し上げましょう。

A区囚人A
ジャック

俺はその後者で――お前は俺を引っ張ってくれるって……まさかここから出してくれるのか?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

その通りです。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

あとで私のコネを紹介してあげましょう、近いうちその者たちに声をかけて頂ければ……

看守
看守A

ジャック!

看守
看守A

ジャック・グレー!

A区囚人A
ジャック

はっ――はい!

看守
看守A

出ろ、面会だ。

A区囚人A
ジャック

はい……

看守
看守A

モタモタするんじゃあない!この運なしのクソ野郎が!家の者が保釈金を集めてきた、さっさと仮釈放の手続きをしてこい!

A区囚人A
ジャック

えっ!?

A区囚人A
ジャック

ウソだろ――俺――

A区囚人A
ジャック

誰が……誰が金を集めてくれたんですか?親父ですか?

看守
看守看守A

ゴチャゴチャ聞くんじゃあない、ここを出たいのか出たくないのかどっちなんだ!

A区囚人A
ジャック

お願いします、誰なのか教えてください!

看守
看守A

うるせえな!パティって女だ、テメェと同じ苗字の!これで満足か?満足したらさっさと行け!

A区囚人A
ジャック

パティだって!?

(ジャックが走り去る)

看守
看守A

よぉ“同僚さん”よ、また会ったな。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

なぜあんな貧乏人に保釈金が……まさかあなたちが――いや、そんなバカな!

看守
看守A

するわけねえだろバカが!囚人に金をやるヤツなんざいるか!

看守
看守A

だがな、お前が裏でコソコソやってる小細工がバレてないとは思うなよ?“友だち作り”はもうすで所長にまで知れ渡っているからな。

看守
看守A

そんでわざわざお前を監視させるため俺をここにやったんだ、余計なマネをするんじゃあねえぞ?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

やはりあなたたちの仕業ですか……

看守
看守A

勘違いすんなよ、ジャックの野郎は本当にただ運がよかっただけだ。女房が家を売ったかどうかで保釈金をかき集めたんだとよ。

看守
看守A

俺たちが何をやったかって言いたいのなら……ちょいと手続きを遅らせたってだけだ。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

遅らせた?

看守
看守A

一週間前からあいつの女房が保釈金を渡してくれるって知ってたんだよ。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

!?

看守
看守A

そういうお前は先週、あちこち駆け回ってはその僅かなお小遣いで色んなとこと関係を保とうとしてたもんなぁ――ぷっ、ブハハハハハ!

看守
看守A

今どんくらい残っていやがるんだ?

ジェッセルトンの目つきが変わった。

ジェッセルトン様は依然としてビーチパラソル社の重要な人員にございます。あなたのポジションや待遇につきましては今まで通りに保持し続けるように尽力致しましょう。

黒い物質が彼の腕に凝固し始め――

(アーツ音)

看守
看守A

おいおい、マジなのか?

そして消えた。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

……

ジェッセルトン
ジェッセルトン

まさか。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

暴力で怒りを晴らすのは愚か者の所業ですからね。

看守
看守A

そりゃ残念だぜ、アンソニーが脱獄してから、上が超強力なテーザーガンを配布して試し撃ちしようと思ってたのに。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

それならほかの者で試してやってください。なにせ近いうちにもう会えなくなるかもしれませんからね、粗暴な看守殿。

看守
看守A

なんだよ、お前も保釈金をかき集めてきたのか?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

保釈金なら……もちろん。

看守
看守A

そりゃいいね。けど保釈金を集めたって言うなら、なんでジャックと一緒に出て行きゃしねえんだ?

ジェッセルトン
ジェッセルトン

……

ジェッセルトン
ジェッセルトン

浅はかですね。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

本当に金と権力を握ってる者たちが釈放させるのに、たかが金銭ごときを利用すると思いますか?

看守
看守A

ヘッ、相変わらず口だけは達者だな。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

事実を言っただけです。

看守
看守A

ならさっさとここから出られるといいな、その金なんざ利用しない人たちに。

看守
看守A

ペラペラと舌をご機嫌に回しちゃいるが、今のお前はマンスフィールド刑務所の囚人のままだ、ジェッセルトン。

看守
看守A

分かったらこのバケツとスプレーを持って、さっさとC区のトイレを磨きに行きやがれ!

親愛なるミスターKへ:
順風満帆を祈っております。私は今、朝方未明のマンスフィールド刑務所であなたの手紙を書いております。
ここでの状況は私が潜入した時から何も変わっておりません。
看守たちは意気揚々で、我が物顔。囚人たちはその過剰な気力を喧嘩で発散するばかりです。
どうか、いち早く釈放して頂くようお願い申し上げます。

あなたの力量さえあれば、私のような小物を釈放するには容易だと存じます。
手紙の中で私はビーチパラス社の重要な人員の一人だと述べて頂けましたが、所詮私は無数にいる人材の一人に過ぎず、他者よりも多少なりとも腕に覚えがあり、それ故に幾分か価値がある程度の者に過ぎません。
どうか一日も早く私をここから釈放して頂くようお願い申し上げます。さもなければ、いずれはこの獄中生活に慣れてしまい、往日の鋭さと上述した幾分かの価値すら失われてしまうことでしょう。
あなたの忠実な……

ジェッセルトンは署名欄で戸惑った。
ペンを握り歯を食いしばるも、最初に書き連ねた署名に線を引いて書き直した。
「あなたの最も謙虚なるしもべ、ジェッセルトン・ウィリアムズより」と。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

これで……これでいいだろう。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

元気を出せ、ジェッセルトン……お前はビーチパラソル社で5年連続最優秀スタッフの称号を手にした人材じゃないか、向こうは必ず助けに来てくれる。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

必ずだ!会社は必ずお前を助けに来てくれるはずだ!

ジェッセルトン
ジェッセルトン

そうだ、会社が私を見捨てるはずがない。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

もう少しだ、もう少しの辛抱だ。

ジェッセルトン
ジェッセルトン

私がここを出た暁には、必ずやここにいる下作な囚人と看守どもを――

ジェッセルトン
ジェッセルトン

……いや、この話も出てからにしよう。

???
テレビからの声

ジェッセルトン・ウィリアムズは一体どうなってしまうのだろうか?

???
テレビからの声

ビーチパラソル社のK氏は苦境に立たされてる自社のスタッフに救いの手を差し伸べてくれるのだろうか?

???
テレビからの声

次回も皆様に真実の物語『トゥルーストーリー』をお届けして参ります、それではまたお会いしましょう!

???
通行人A&B

ブッ、ブハハハハハハハ!!!

通行人A
通行人A

中々面白ェ番組じゃねえか、『トゥルーストーリー』だっけか?こりゃ来週も楽しみになってきたぜ。

通行人B
通行人B

ほら見ろ、きっと気に入るって言っただろ?

通行人B
通行人B

わしぁこの番組をかなり昔から追ってきたんだが、あんな素晴らしい演技を見せてくれたジェッセルトンって役者は初めて見るわい。

通行人A
通行人A

このチャンネルも中々の出費をしたな、あんないい役者どこで拾ってきたんだ?昔もどっかで役者をやっていたとか?

通行人B
通行人B

さあな。『トゥルーストーリー』っつうのは昔からニセのドキュメンタリーを作ってきた番組だ、演者のクレジットなんて一度も見たことがない。

通行人B
通行人B

どうせどっかの演劇学校から入ってきた新人役者だろ。ありゃきっと将来大物になる、賭けてもいいぞ?ワッハッハ!

通行人A
通行人A

ならそいつの将来にかんぱ~い!

通行人B
通行人B

乾杯!

通行人B
通行人B

しかしこりゃいい酒だな。

通行人A
通行人A

ああ、まったくだぜ。

通行人A
通行人A

なあ、もしもだ、もしもの話なんだが。

通行人A
通行人A

もしさっきの人は役者なんかじゃなく、本当も囚人だったとしたら――お前さんどう思う?

通行人B
通行人B

……

通行人B
通行人B

冗談にしてはよくできてるじゃないか。

通行人A
通行人A

いや、そういう意味じゃ――

通行人B
通行人B

中々面白い冗談じゃないか、ワハハ!

通行人B
通行人B

ワッハッハッハッハ!

通行人A
通行人A

あ、あはは……

???
テレビからの声

(音楽)

???
テレビからの声

この番組はフィクションです。実在する人物や団体とは一切関係ありません。

???
テレビからの声

ではまた次回お会いしましょう。

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