
恥ずかしがる必要はないわよ、トミミ、似合ってるじゃないの。

ほ……本当ですか?

えへへ、この水着一目で気に入っちゃいました、こういうタイプ大好きです!

あの仕立て屋さんもすごいわね、こんな早くあなたのスタイルに合った水着を仕立ててくれるなんて。

す、スタイルは大丈夫ですか?最近は結構運動量を増やしてダイエットしてるんですよ!

安心して、とっても可愛いわよ。

ならよかったです、もう尻尾が太いって言われたくありませんから……イナムさんは水着を試着してみなくていいんですか?

私はいいわよ。むしろさっき水着の仕立てを手伝ってたあの金属の物体のほうに興味が湧いちゃったし。

あれもドゥリンの技術なのかしら……

エクセレントおおおおおお!

こんな美味しいお酒初めて飲んだよ!

さあ兄弟、もう一杯乾杯しようぜ!そら、お前さんの健やかを祝して!

ボクたちの健やかに、かんぱ~い!カール印ばんざ~い!

ねえトミミ、あのエリジウムって人……本当に頼りになるの?

えーっと、肝心な時はすごく頼りになるので大丈夫だと思います。

そういえばロドスにもドゥリンのオペレーターたちはいますけど、まったく自分たちの都市のことを話したりはしませんね。

もしかしてドゥリンにも人に言えない秘密とかがあるんじゃない?

いや、多分ですけどあんまり気にしていないからなんじゃないでしょうか?きっとそんなことよりも今日のお昼は何を食べようかぐらいしか気にしていないんだと思います。

そんな私たちが、そのドゥリンたちの地下都市を訪れることになるとはね。

ええ、これはガヴィルさんの名前をドゥリンたちにも知らしめるいいチャンスになるかもしれません……

それより今回の休暇で、ガヴィルとズゥママとクマールを一緒に連れてこなかったわね?

クマールさんはブレイズさんと鍛錬に励むと言っていましたし、ガヴィルさんはまだズゥママさんと任務に出向ていたので。

それよりも最近のガヴィルさんは働き過ぎです!ホント心配なんですから、無理しないでほしいです……

ロドスを出る前には手紙を書き残しておいたんですよ、イナムさんたちがスティッチさんと出会った時のこととか、スティッチさんが話していたこととか。

ガヴィルさんたちもこの機会にアカフラに戻ってしっかりと休んでくれたらよかったのに……

あの二人にしろあなたにしろ、あの頃は有無も言わさず私を大族長の席に就かせたんだから、私の努力の結果を見にそろそろ戻ってきてもいい頃合いかもしれないわね。

それよりさ、あのエリジウムって人、ロドスにいる時もあんな鬱陶しいの?

おおお、こりゃまた違う風味だね!

ねえのっぽさん、さっきあのミード酒が好きな連中とつるんでるとこを見かけたけど、一つ教えてあげるよ、彼らの飲んでるのは所詮子供の飲料水なだけだわ!

一番いいのはウチらのセブンスリキュールよ、ほらほら、一緒に乾杯しましょ。

イェ~イ、かんぱ~い!

う~ん、この匂い、嵐が過ぎ去った後のジャングル、そして地下洞窟に生えるコケのような爽やかな匂い……!

あらごめんなさい、注いであげた木のコップがちょっとカビちゃってたわね。

あの人中々楽しんでるわね。

それにしてもイナムさん、どこでスティッチさんと出会ったのか教えてもらえますか?

うーん、それを言うと話が長くなっちゃうのよね。
(回想)

大族長、前回持ち込んできたアレまじですげーっすよ!もう何日も寝ずにアレと向き合いっぱなしっす!

とうとう俺の魂がアレに連れ去られちまうって女房に文句を言われる始末っすよ!

クルビアから持ち込んできた型落ちの作業用旋盤なだけでしょ、そこまでハマる要素ある?

アリアリっすよ!だって噂に聞く機械を作る機械っすよ!アレが目の前で稼働してる感覚なんて、ウチが女房と恋に落ちた時以上に心臓がバクバクっすよ!

そう、じゃあ今度あなたの旋盤に緩衝材でも付けておくわね。

もうすぐトミミも帰ってくるんだから、早めに準備をしておきなさい、迎えに行かなきゃならないから。

トミミを迎えるだぁ?こりゃまたとんだ重労働が目に見えてきたぜ。

旋盤に殴られた後ぐらいの疲労が溜まっちまいそうだな、間違いねえ。

どうせまたとんでもない量のコレクションを持って帰ってくるんだろうな!前回寄越してきた荷物だって、何人で運ぶハメになったか……

最初はキャラバンでも来たのかと勘違いしちまったぐらいだぜ!

トミミは小さい頃からああだからな、いつもよく分からんモンを集めたがる……

しかしよ、ロドスに入って数年にはなるが、前よりもあの収集癖がヒドくなってるんじゃねえのか?

なんでガヴィルが穴を開けた鉄板すら持ち帰ってくるのかだけはどうしても理解できねえわ。

ロドスにある宿舎の部屋じゃ置けねえから、らしいぜ?

ねえ、前に人影が見えないかしら?

オレはきっとどっかイカレてしまったんだ。複雑な洞窟を通って、こんな訳分からん場所に上がってしまうだなんて!

ホロウアースもウザいったらありゃしない、毎日毎日引き籠もってはグチグチと……ああもう!なんなんだこの鬱陶しい蔓は!日差しも熱すぎる!

やっぱり人工太陽光のほうがよっぽどマシだよ!

……

喉乾いた、それにすごく眠い。

なんで師匠はゼルエルツァを離れてしまったんだ?まったく理解できない……ドMなのか?
(イナムが近寄ってくる)

あら、子供?

子供言うな!

それに訛りも変ね、どこで教わったの?

独学だ、悪いか?

子供ならちゃんと礼儀も学んでおきなさい、人と話す際はきちんと堪え性も持つようにね。

こいつ変な背格好してんな、アカフラにこんなヤツいたっけ?どっかの迷子か?

太い尻尾んとこでも細いとこでねえみてえだし……

リーベリにもフィディアにも見えないわね。いや、まさかあなた……

ドゥリン?

ドゥリン?ドゥリンってなんだ?

本で見たことがあるわ、地下に住んでいるらしい変な種族よ。

じゃあこいつはカニの類なんじゃないのか?

カニ言うなカニって!殴るぞ!

ああ!思い出したぞ!数年前の『ほらばなし』って本に書いてった、ドゥリンの醸造技術はべらぼうに高いってよ!その点はまったくカニらしくないな。

だってカニって自分から発酵した果物を食べちまって勝手に酔っちまうことがあるって言うし。

それとカニだって地下で生息してるわけじゃないわよ、地下に身を隠してるだけに過ぎないわ。

いい加減カニから離れろよ!

ハッ、やっぱりな、地上に連中ってのはどいつも目先のことしか目に入らない浅はかな連中だ、何も知らないくせに口だけはベラベラと喋りたがる。

ドゥリン以下のバカな連中だよ。

チッ、何よりも美的センスが壊滅的だ。

あら、ドゥリンのボクくん、私が着てるのはサルゴンで一番流行ってるスタイルよ?

“流行りのスタイル”を選んでしまうのが何よりの証拠だろ。他人が作り出した美的感覚を選んでどうする?つけ上がってるだけじゃないか。

大族長、こいつちょっと頭おかしいじゃねえのか?

歳が歳だからね、仕方ないわよ。

とっくに成人しとるわ!

はぁ、こんなバカと話しても時間の無駄にしかならない、じゃあな。
(成人したドゥリンのボクくんが立ち去る)

あっ、行っちまった。

あれ?また立ち止まったぞ?

あのさ……

……オホン、もしも差し支えなければなんだが……

飲み水をくれないか?
(回想終了)

それでイナムさんが手紙で書いてたように、ドゥリンの都市がちょっと大変なことになってるから私たちに助けを求めてきたって?

少なくともあの時はそう言っていたわね、あのスティッチが。

いやいや、周りを見てみなよ!こ~んな美しい町のどこに……ヒック!問題を抱えているって言うんだい?

う~ん、お酒が美味しすぎるのが問題っていうのなら一理あるかもね、飲んだらすぐに酔っぱらってしまう。でもボクは大丈夫!全然酔ってなんかいないよ!そらもういっちょ乾杯だ!

あの捻くれた坊やもきっと、自分がデザインした部屋を見せびらかしたいだけなんだろ、気持ちは理解できるよ。

そういうあなたも捻くれものね、エリジウム。

スティッチが私らのところで一か月滞在した時、ある日列車の製造でヒィヒィ言ってたアダクリス人たちが目に入ったのよ。

そしたら彼なんて言ったかしら……ああそうそう、「さすがはプロだ!アンタらが溶接してるこのガラクタならきっとオレの役に立つ!だからゼルエルツァに来てみないか?」って。

それでキミは――すいませーん、もう一杯――キミは彼に手を貸したってのかい?

スティッチは極力ことを大袈裟に言いふらしてたけど……まあ私は自分の好奇心を満たす目的で約束したようなものかしらね、地下にいるお隣さんとも商売ができるかどうかって。

図太い!

アカフラが野蛮から脱却するには、まだまだ色々足りていないからね。ドゥリンの鍛冶技術はピカイチって聞くし、今回手を貸したついでに少しだけ拝借できるものなら……

あなたたちも今後ちょっとしたガラクタなんかでギャーギャー興奮せずに済むようになるでしょ。

イナムさん……本当にしっかりと大族長をやっていたんですね!てっきり毎日町に行っては買い物して、お金を無駄遣いしてるのだと思ってましたよ!

この子ったら、普段からそんな目で私のことを見てたの?

アカフラが発展するにはもちろんお金が一番重要よ。サルゴンの金貨にしろ、クルビアの紙幣にしろ、ヴィクトリアのポンドにしろ、あるものは全部欲しい。

でも今アカフラで製造できるもの――あんな粗造なハンドメイドの品々と未精錬の鉱石だけじゃ稼ぐどころか、みんなを食わせるにもギリギリよ。

ただまあ、あなたたちが都市の標準的な“いい暮らし”に無頓着で幸いだったわ。

あと、お金があってもそれが豊かさと直接繋がることにはならないの。ひたすらお金を貯め込んだって無駄、それを回し始めてこその“豊かさ”よ。

アカフラなら着々と豊かになり始めているわ、けどもっと豊かになるためにはキッカケが必要ね。

例えば、ドゥリンのテクノロジーを取り入れるとか。

うーん、途中からよく分からなくなってきた……でも困ったらとりあえずアーツを放つ!それでもダメならロッドで殴る!

それが私たち“ガヴィルウィル”のやり方です!

あははは、ロドスに入って結構経つのに、まだそんなことをしているの?

はぁ、でも私にできることならこういった瑣末なことぐらいね。本当にアカフラを発展させたければ、どうして“カリスマ”が必要になるわ。

でも、イナムさんは今じゃ大族長ですよ?

あなたたちティアカウをまとめ上げられるのがカリスマって存在なのよ。私には無理ね、何より面倒臭いし。

のらりくらりと町をブラブラしたほうがまだ性に合うわ。

素晴らしいね!ボクも街ブラは好きだよ、でもアウトドアのほうがもっと好きかな、ヒック!

そういえば、ギャーギャーうさかったあの坊やを見かけなくなって随分と経つけど、一体どこに行っちゃったんだい?

言われてみれば確かにいませんね……

たぶん準備しに行ったんじゃない?

でも目の前にこーんな大きなウォータースライダーがあるんだし……少しだけリフレッシュしてもバチは当たらないわよね?

ろ、ロドスにいる炎国オペレーターさんからこんな諺を聞きましたよ!えっと……“客は主人の便宜に従う”……でしたっけ?

多分ですけど、主人がいないのなら客人は好きにしていいって意味なんじゃないですか?

ヒック!その通りだ!それを言ってくれたことに、ボクはもう一杯頂くとしよう!

おーいみんなー、誰が一番速くあのウォータースライダーに辿りつけるか競走しようぜ~!

……エリジウムさん、もうすっかりドゥリンたちの暮らしに融け込んじゃってますね……

ハァ、ハァ、ようやくあの飲兵衛たちから逃げられた。

だからあの血も涙もないドゥリンたちはいけ好かないんだ!どいつもこいつも貴重な時間を上っ面なものばかりに費やしやがって!

たった一か月しか経ってないのに、余計醜くなってきてるじゃないかこの町は!まったく、帰ってくるんじゃなかったよ!

そういえばあのバカ丸出しの地上人はどこ行ったんだ?チッ、まあ崩れない程度の鉄道橋を作ってくれれば、こっちも妥協してやらんでもないが……
(ドゥリンの老人が近寄ってくる)

スティッチ?戻ってきたのか?酒を飲まないドゥリンがゼルエルツァですたこら駆け回ってるって聞いたが、やっぱりお前だったんだな!

イェギー・ホロウアース……まだくたばってなかったのか。

この一か月間どこに行ってたんだ?あちこち探し回ったんだぞ、死に物狂いで崩れかけてるあの洞窟にだって!

その割にはピンピンしているな、こっちは危うく死にかけたって言うのに。

まさかお前……地上に上がったのか!?

なんだ、ダメだったか?

スティッチよスティッチ、まさかな……

お前がそんな怖いもの知らずな子だったとは知らなかったよ、よくもまあ……

こんな立派になっちゃって!ささ、一体地上から何も持ち帰ってきたのかワシに見せておくれ!

エレベーターの上にある洞窟は道が複雑で歩けたもんじゃないし、地図もどっか消えてしまったし、もう何年も地上に上がった人は見ておらん!

お土産は持ってきたんだろ?地上にある鉱石の標本か?それとも地上特産の醸造用の植物か?まさか最新号の『ほらばなし』か!?図書館のはどれも古いヤツばかりだから助かるよ。

いや、なんて言うか……

何人か人を連れてきたんだ。

えっ、人?

「そうして、彼女は選んだのであった……」

「カール印のミード酒を!」

いや、これはナシですわね。少々入りが急すぎたかしら?もう少しだけ直してみましょう……

「より安く!よりクレイジーに!」

「心行くまで楽しめるリゾートと遊び尽くせない時間、そして魂をも潤す甘露なる美酒を求めるのであれば――」

「是非ともゼルエルツァ公認のカール印のミード酒を!」

うん、簡潔明瞭、これでよし。委託人も気に入ってくれるはず、だといいんですけれど。








