おい聞いたかよ、あの超やべえ情報を!
なんのこと?
代表たちが新しいナニかを話し合われているってニュースだよ!ほら、クロッチが言ってたアレ!
街中の電気を全部緑色にするみたいなことならイヤよ、私あれ好きじゃなかったもの。
そんなつまんねえことじゃねえって!スライダーに関することだってよ!
どうやらスティッチとカチが“大水溜まり”のデザインについてあれこれ言い合ってるらしいぜ!
あの二人が!?それ、どこまで進んでるの?
なんか利用者を片方の水鉄砲からもう一方の水鉄砲の中に撃ち込んで、そんでまた違う水鉄砲に撃ち込んでいく……みたいなとこまで進んでたぜ?
ナンセンス!それだけは絶対にナシだ!
ならもう一つの代替案にしよう、水鉄砲で利用者を高いとこに設置したジャンプボードまで打ち上げて……
アンタは水鉄砲以外にアイデアはないのかよ!
水鉄砲を言い出したのはキミのほうじゃないか、ボクはそのアイデアを拾っただけだ。そういう大建築デザイナーであるキミは何かいいアイデアはないのかい?
あるわけないだろ!オレはただアカフラからやってきた連中のために案をまとめ上げてるだけだからな!
地上人に鉄道橋を作らせることならボクも反対しないよ。でもいま話し合っているのは、その鉄道橋の上に作られたスライダーの処理、ゼルエルツァのシンボルについてだ。
ボクにドームを触れさせたくないのならそれでいい、キミのドームに対する思いは理解しているからね。だからスライダーの次となるランドマークのことについて考えようじゃないか。
だったらシンボルはシンボルらしく、シンプルにしてやればいいだけの話だろ!なんでそんなワチャワチャとした余計なおもちゃを付け足したがるんだ!
いやいや、シンボルなんだからもっと刺激的なものにしょうよ!
刺激するのはアンタのそのイカレた脳みそだけで十分だよ!
ハァ……こんなことをしても埒が明かない。もうここの連中にどっちの案のほうが優れているか決めさせてもらおうじゃないか。
いいだろう、また昔のように切磋琢磨できるんだね。
うんうん~、私も賛成~。
クロッチ?なんでここに……っていうか、もう飲んじゃってるね?
全然~、ちょっとしか飲んでないよ~。
もう樽三つ分よ。
スティッチ、あなたのアイデアは聞いてよ、すごく面白そうじゃない。
カチも反対していないとなれば話ははやい!
それじゃあ一先ずデコルテを探しにいこう~!新しいものを作るには彼女は欠かせないからね~!
つまり、もっとほかの方法でこの子たちと接してみろってことを言いたいのね……
そうだ。お前はこいつらが可愛いとは思わないのか?
確かにこいつらは“ヒト”と称せる存在ではない、ヒトの持つ複雑さを機械たちが理解してくれるはずもないだろう。
だがな、だからといってそんな障壁でヒトと機械の交流が妨げられることはないはずだ!
それにデコルテ、お前はこいつらの“親”なのだろ?
……親。
そうだ。こいつらは殻を破った羽獣の赤子のように、お前を信頼し頼りにしているんだ。お前はそいつらに応えてやれているのか?
ずっとずっと……私はまったくこの子たちに“関心”は抱かなかった。先代や先々代と同じように、私も工業代表のやるべきことをただ淡々とこなしていただけ。
工業代表には、この子らの製造過程の理解も必要不可欠なの。だからいつも図書館のメカニカル本が置かれてあるエリアに籠ってるドゥリンたちがその候補先だった。
ロボットを作るといっても別段難しいことでもないわ……説明書通り、自分の想像力を発揮して好きなパーツを組み立てれば、それでおしまい。
私の先生は何年もこの子たちの動く原理を明らかにしようとしてけれど、結局は何も得らず終いだった。
先生の先生もそれを研究していたって聞いたことがあるわ、しかもロボットたちにジョークを言わせることに成功したとか。
ドゥリンノ怒ラセ方ハ知ッテイマスカ?答エハ誰モ知ラナイデス!ハハハ!
……じ、実に高水準なジョークだな……
それに比べて私は、ただこの子たちの力を借りることしか考えていなかった……ズゥママ、あなたの言う通りね、私ももっとこの子たちと“関わる”べきなんだわ。
0429号、あなたの仲間の0428号はもう退役済みだから、メンテナンスをしても復活することはないわ、残念ながら。
でもあの子は今だって私たちの仲間よ、あの子が作り上げたものが消えることは永遠にないわ。
退役が終点というわけではないからね。
退役ハ終点トイウワケデハナイ……0429号、本指令ヲ理解シマシタ。
友だち……ええそうね、友だち。もしかしたら私たちもそういう関係を築けるのかもしれないわね。
ねえ0429号、友だちっていうのはお互いを助け合う関係なのよ、知ってた?
今までずっと、あなたたちに面倒な仕事を任せっきりだったけど……
それじゃダメね。友だちになったんだから、もっと対等な関係でいないと。
だからこれからは任せるのではなくて、友だちとしてあなたたちにお願いをするね。
了解、友ダチヲ助ケル。
それじゃあ早速なんだけれど、0429号――
三ダースほどの麦酒、あとおやつを私の自宅まで運んできてちょうだい。それとマスター・イェギーには昼寝をするから今日の代表会議は欠席しますと伝えといてね。
……友だちとは……
ズゥママ!
(ガヴィルが近寄ってくる)
おお、ガヴィルたちじゃないか!
紹介しよう、このロボットは私の友だち、0429号だ。そしてこちらがこのロボットたちの管理者、良心の欠片もないデコルテだ。
デコルテ様、各代表者が集い会議には出席シタホウガ――
そうね、では任務変更よ。やっぱり友だちとして、ひとつ私に代わって会議の出席を取ってきてくれないかしら?お願いね?
友ダチカラノオ願イ、喜ンデ!
そこは自分で行けェッ!
そういえば、最後にみんなで会議を開いたのは何を決めるためだったっけ?
酒類の供給不足についてだったよ。
足りなくなかったことなんてあったの?
あなたは欠席したのだから知らなくて当然だよ。
ははは、いや~懐かしいな~。確かリキュール勢に酒が渡らないようにするため、ミード酒勢がゼルエルツァ中の酒を買い占めたことが発端だったかな?
だがその報復として、リキュール愛好家協会側も街中のミード酒を買い占めたことによって酒類の供給不足問題が引き起こされてしまったのだったな。
こいつら酒がないと生きていねえのかよ……
そりゃもちろんさ。だから結局双方とも自分が買い占めた酒を飲むハメになったんだよ。
あはは、そうだったね!確かその後、双方の協会からメンバーがごっそり脱退したんだっけ?いや~、今思い返しても面白い話だよね!
やっぱりトマト酒が一番だよ。
なっ……
……
カチ、お前……トマト酒の者だったのか?
えっ、そうだけど、それがどうしたの?
どうりでどこの協会からも……
オホン、まあそことはひとまず置いといて……今日ここに集まってもらったのは“大水溜まり”をどうするかについてなんだが……
撤去解体なら大賛成よ、早ければ早いほどにしてちょうだい。
私も。
ちょっとちょっと、二人とも結構スライダーを気に入っていたじゃないか!クロッチなんか、週に何回も遊びに行っていただろ?
まさかトマト酒を飲んでるヤツが作ったスライダーを知らず知らずに楽しんでいただなんて……屈辱だ、吐き気すら催して……うッぷ。
まさか知らぬ間にこんなヤツのプロジェクトに関わってしまっていただなんて……工業代表失格だわ。
そこまで言わなくてもいいだろ!それにイェギーさん、何なんだその顔は!
ふふふ、まあ確かに、トマト酒好きが造ったモノとなると……うッぷ……
そんじゃみんな意見も一致してんだし、さっさとそのド派手なスライダーを吹っ飛ばして、イェギーを安心させてから鉄道を建て直すで決まりでいいんだな?
名残惜しいけど、自分の作品が足かせとなって縛られる建築デザイナーはいないさ。ポジティブに考えよう、これはむしろ新たに実力を発揮できるチャンスだ。
ところでスティッチ、さっきこいつとゼルエルツァのランドマーク建設を競うつもりだって聞いたけど、それ本当なの?
ああ。
ほう、そうなのかスティッチ?ようやくお前も動いてくれるのだな?
アンタらがそこまでやるっていうのなら、こっちも少しは本気を出さざるを得ないだろ。
ほっほ~、こりゃ数か月は楽しみができたわい。どれ、早めに祝杯用の酒でも用意せんとな。
ならこれを機にトマト酒を飲んでみては如何かな、イェギーさん?味は想像するよりも悪くはないよ、本当だって。
絶対にヤだ。ノーだ。飲んでやるもんか。
それでは――開票、計算始め!
ふむ……では投票結果に基づいて“大水溜まり”は取り壊し、以降はその跡地に鉄道橋と新たなゼルエルツァのランドマークを建設することに決定!
イヤッホー、やったぜ!ちょうど遊び飽きてきた頃だったんだよな~!
新しいランドマークってなんなんだろうな?ジェットコースターとかか!?
いいねそれ!水上ジェットコースター!
だったらもっと面白くしてやろうぜ!水上回転ジェットコースターとかどうだ!
もっとだもっと!打ち上げ水上回転ジェットコースターにしようぜ!各座席に水鉄砲つきで!おまけに自走車用のレースも付けちゃえ!
具体的な案は今後ボクとスティッチがそれぞれみんなに案を提出して、その際にまた採決会に召集をかけて投票してもらうことにするよ。
スティッチって……あの正方形の箱に住んでいるスティッチか?
か前にあいつのデザインを見たことがあるぞ!それほど刺激的なものではなかったが、なんか物言えぬ美しさがあったな……
ならあいつにも遊びのアイデアを捻り出してもらおうぜ!なんせ決まったのはまだ場所だけだからな、そこで何が遊べるかが肝心だぜ!
でも、あいつの設計思想って何もせずに寝っ転がるのに最適な気が――
それって『ほらばなし』の中で書かれていた超リラックスできるガリア式の瞑想のことか!
まあ……そんなところかな。
んで、これで万事解決ってか?アタシら全然なにもやってない気がするんだが……
とはいえ、中々言葉に絶するほど大変な議論を経たことも事実だわ。ねえ、クロ……
ほらイェギー爺さん!ほやく飲んじゃいなよ!そのコップは鱗獣を飼う用なんですか~~~!?
ぶへッゴホッ……ま、待て!た、叩くなゴホッ!少しは休ませてくれェ!
私たちなら一緒にたくさん買い物したり、バカンスしたり、アカフラのためにでっかいプロジェクトを取って来れたじゃないですか!何もやってないわけじゃないですよ~!
妾の気分をめちゃくちゃにしたことも忘れないでくださいまし。
まあそう言うなって、結果仲良くなったんだからいいじゃねえか!
ああ、予想してたのよりも上手く進んだものだな。
つまりお前もそれなりに実力があったってことだよ、そうだろ?
当たり前だ!でも……
どうしたんだよ、しょげた顔して?
もう長い間ペンを執っていないからな、きっと腕も鈍って……
いや、オレなら大丈夫だ。少しだけウォーミングアップさえすればきっとまた昔のように……
ああそうだ、昔のように戻れば、オレだってきっとできるはずだ――