みんなの意思決定に基づき、半年もの間私たちを楽しませてくれた“大水溜まり”は間もなくその使命を終えようとしている。いずれは爆破解体され、新たに工業用素材として生まれ変わるだろう。
私たちはやがて、この短くも長かった夏のひと時の終わりをとうとう迎えることとなったのだ。
うぅぅ……さようなら、大水溜まりのことは決して忘れないわ……
まだまだ遊び足りなかったが、もう終わりを迎えちまうんだな……
しかし、悲しむことはない!“大水溜まり”はなくなるも、私たちはまた新たな刺激に満ち溢れたシンボルと出会うのだ!なぜならここは最高のデザイナーたちが集うゼルエルツァだからである!
スティッチ・キャンパスとカチ・オブリクライトはここゼルエルツァで最も注目を浴びる新世代のデザイナーたちだ!彼らならきっとこの先新たな案を描き出してくれるだろう!
その時になれば、やがて彼もまた往日のように斬新なデザインを競い合い、私たちを楽しませてくれるはずだ!
みんなも思い出してほしい……彼らが初めて頭角を現し、ドームを巡って互いに焦唇乾舌するほどの舌戦を繰り広げたことを!
あの時、勝者は決しなかった……しかし今回こそ、勝利の女神がどちらかに微笑んでくれるのかもしれない!だから私たちで、その歴史的な瞬間をこの目で見届けようでは……
あっ、ちょっとお水を……
おいおいクロッチ、もうデキ上がってしまっているのか?なんだか普段と全然様子が違うぞ?
いや、まだ入っていないよ。
それにしてはいつもと違って張り切っておるな。
前にイナムが見せてくれた映像に、地上の試合には必ず司会者というポジションの人間が場を仕切っていたんだ。
だから私もビジネスだけに留まらず、もっとキャリアを広げようと思ってね。
ともかくッ!両者のデザインは今だこの世に生まれ落ちてはいないが、私たちの夏はいよいよフィナーレへと差し掛かりつつあるのだ、ゼルエルツァの市民たちよ!
だから僅かに残された時間で……存分に!悔いなく!最後にスライダーを遊び倒そうではないか!!!
うおおおおおお!!!!!
(トミミが走り回る)
きゃ~~~!!!ガヴィルさーん!!!
(ガヴィルが追いかける)
トミミ!そう急ぐなって!危ねえだろ!
いやです~!だってこの前アカフラの大滝のところで遊び倒したって言ってたじゃないですか!もうすっごい羨ましかったんですからね!!
えへへ、これでようやくガヴィルさんと一緒に遊べる~!
ったく、お前ってヤツは……
ん?お前なんかいつも以上に尻尾を隠したがっていねえか?はは~ん、さてはまた太くなったな?
えッ、そ、そんなことないですよ!ここに来る前にちゃんと測ったんですからね、もう数か月は太くなってませんってば!
ほう、なんだ、太いのが気になり始めてきたのか?
う、うるさいですね!水をぶっかけてやります!それ、それ!
(トミミがガヴィルに水を掛ける)
このヤロウやりやがったな~!お返しだ!
あの人たちったら、もはやドゥリンよりもドゥリンをしていますわね。そう思いませんか、スティッチさん?
そういうアンタは“ドゥリン”の何たるかを理解してしていないようだな、アヴドーチャ。
なんだか緊張してるみたいですわね、カチに負けるのがそんなに心配で?
負けるだと?ハッ、笑わせてくれる!なんなヤツに負けてしまうほどオレはまだ落ちぶれちゃいないさ。
世間に迎合することしか知らないようなヤツのデザインとオレのデザインを比べないでくれ!オレのデザインもモノが分かってる一部には人気があるからな。
じゃなきゃいっそのこと……はぁ、もういい、今はそんなこと考えたくない!
……まあ正直、美学を度外視した観点からすれば、この“大水溜まり”は中々悪くはない……満足度は高いだろうな。
あら、あなたがこのスライダーを認めるとは意外ですわね。となれば、あなたも楽しんでおられたのでは?
チッ、まあまたにはな。
(カチが近寄ってくる)
スティッチ、ここにいたのか!
水流をフルパワーにしたスライダーを滑ってみないか?滅多にない機会だぞ、普段じゃ設備に損害を与えかねないからと止められているからね。
さっきエリジウムと試しに滑ってみたんだが、あのスピード感ときたらもう最高だったよ!
まあ水に落ちる際はちょっと痛いってなっちゃうけど大したことはない、だからどうだい?
いい、そんな幼稚なプレイには興味な……
ヒャッホオオオオオイ!のっぽが落ちてくるからみんな気を付けて~~~!!
(エリジウムが落ちてくる)
いや~カチく~ん、君の言う通り、あんな高い水しぶきも出せちゃうもんなんだから、あのスピード感は病みつきになっちゃうよ!
ほかにも面白い遊び方があるんだけどどうかな?たとえば……どっちがより水しぶきを出さずに滑り落ちるとか。
ほう、それってどっちがより静かに優雅に滑り落ちることができるってことかい?それいいね!なんだか痛くなさそうだし!ノった!
オレの、せっかく作り上げた、オレの砂のお城が……
(小声)あちゃ~……ねえ、カチくん……もしかしてアレってやっちゃったんじゃない?
(小声)まあまあ……スティッチは器がデカい人間だ、あんな砂のお城を崩された程度じゃ怒らないって……
(小声)いやでも、あれどう見ても怒ってるよね?
(小声)ここは……逃げるが吉だ!
(エリジウムとカチが走り去る)
おい!人がせっかく作った城を崩しておいて謝りもないのかよ!待てやコラァッ!
さっきの場の暖め方、すっごくよかったわよ。
あなたが見せてくれた映像のおかげだよ、色々と勉強になった。
ならこれからは試合に“競技”という概念を盛り込んで、数か月後に行われるスティッチとカチの競争も利用して、この雰囲気を一気に最高潮まで持って行きましょ。
じゃあ、観客たちに私たちが刷ったメモを渡してさ、自分が応援するチームを書いてもらって、その応援したチームが勝ったら景品を与えるシステムも組み込んでみたらどうかな?
それは地上じゃギャンブルって言うのよ、さすがはクロッチ、目の付け処がいいわね。地上の商人はそのシステムを金儲けに利用しているのよ。
そうなんだ。でもドゥリンはお金にあまり興味がないからなぁ……あっ、そうだ、負けた側が勝った側の一か月分の酒代を負担するってのはどうだろう?
いや、二か月分のほうがいいかも、このほうが刺激的だし。まあこれは投票次第かな。
っていうか、その負けた分を担保にしてさらにギャンブルに発展させることだってできるじゃん!うひひ、さすがは私、だからこれをこうして……
……この先のドゥリンたちが思いやられるわね……
うーん、こう来たのはいいが、なーんも役になってねえとなると手持ち無沙汰な感じがするな。
なんだ、どうしても一発や二発ゲンコツを振らなきゃ気が済まないのか?
いんや、そうでもねえが。
まあ、これでアカフラもドゥリンたちの技術を拝借できたってわけなんだし、役に立たなかったってことでもねえな。
やっぱりガヴィルさんってアカフラのことを心配してくれているんですね!あんな若くして出て行っちゃったっていうのに……
まあな、色んなとこを見てきたが、やっぱジャングルが一番だよ。
なら戻ってくるつもりはないかしら?
しばらくはねえな、ロドスにはまだアタシが診なきゃならねえ患者でいっぱいなんだしよ。
みんな戻ってきてほしいって言ってるわよ、あわよくば首長にもなってほしいとか。
地面から果物が生えてきてほしいみてえなムリあることも願ってる連中だ、そんなアマかねえよこの大地は……
あなたがアカフラの首長を務めてくれたらいいんだけどねぇ……あそこをまとめ上げれるのはあなたしかいないんだから。
みーんなあなたの帰りを待っているわ。
でないといずれ、アカフラ首長の座にはサルゴン宮廷の人がつくことになるかもしれないわよ?
その時になったら、アカフラは今みたいに自由を謳歌することもできなくなっちゃう。
イナムっつう大首長がいるから平気じゃねえか!
……だとしても限界があるわ。
私はせいぜい外からガラクタを持ち帰ってみんなを喜ばせてあげることしかできない……ティアカウを一枚岩にまとめ上げることなんて、私には無理ね。
アタシだって現実から逃げているわけじゃないさ、イナム。
ただ、どうすればいいか分からねえんだ……
ほう、分からないとな。あのガヴィルでさえも頭を使って考える時があるとは驚きだ。
アタシがアカフラのことをなんも思ってねえでステゴロにしか興味がねえヤツだって言いてえのか!一発ぶちかますぞ、ズゥママ!
そこまでは言ってないだろ……いやそうじゃなくて、お前は手を動かしてから考える人間だって私は言いたいんだ。
アタシ自身のことに関しちゃそれでいいんだよ。でも、アカフラのことになりゃ話は別だ……
終わってしまうものはいつしか必ず終わってしまうのさ、このスライダーのようにね。なくなってしまうのなら、また一から作り上げればいいじゃないか。
キミたちが先ほど何を話していたかは知らないが……まあとりあえず、まだスライダーが残ってるうちに、一枚ぐらい記念写真でも如何かな?
ハハッ、まあそうだな、難しい話はひとまず置いておこう。
とりあえず、今は楽しもうぜ!
おらトミミ、お前も笑え笑え!
いいねいいね、どうやらキミたちもドゥリンの人生観を理解してくれたようじゃないか。
そりゃあせっかくの休暇だからな、楽しまなきゃ損だぜ!
よくぞ言ってくれた、ぜひともその素晴らしい格言を言ってくれたキミに一杯奢らせてくれ!オススメのトマト酒があるんだが、どうだい?一杯いっとく?
いや、それはいいや。
解体作業用の炸薬は配置し終え、サポートロボットたちも続々と準備を済ませていく。
もう間もなく、幾度となく皆を楽しませてくれたスライダーが消えてなくなるのだ。
だがいつしか夏は終わりを迎えるも、この先に訪れる楽しい時間までもが消えてなくなることはない。
ゼルエルツァにいる一人ひとりが、そう堅く信じていた。
5、4、3、2、1……
爆発音が鳴り響く、だが皆が想像するよりも轟くものではなかった。スライダーはゆっくりとその姿を崩していく。
もしそれらしい言い方をするのであれば、あれはまるで水に溶けていくようであった。
あぁ……消えて無くなるのは、いつだってこうもあっけないものに見えてしまうね。
なんだ、アンタも見届けていたのか。てっきり酔い潰れて見逃すのかと思ってたぞ。
あはは、なあに、こういう儚さも楽しんでおかないと損だ。
ただ、さすがに酔い潰れた不格好な面持ちで見届けるわけにはいかないよ。
消えゆくモノへは、最低限のリスペクトを向けてあげないとね。
ふぅん、普段はひょうきんなヤツだが、いざという時はまともにもなるんだ。だが、そんなキャラ付けならもう見飽きたよ、図書館に収蔵された本にはごまんと載っているからね。
相変わらず容赦ないな~……
スティッチ。
……カチ。
いよいよこれからが本番だ。お互い正々堂々、勝負しようじゃないか。
だからここで、握手を交わしてもいいかい?
……いいだろう、こういう時はリスペクトしなくてはな、最低限でも。
やっぱりさ、君たちって案外仲がいいんじゃないの?
いいわけないだろ!アンタの目は節穴か!?
さあ、これからが勝負の本番だ!一体どちらに軍配が上がるのか!私たちでそれを見届けてやろうじゃないか!
……コイツまたデキ上がってるのか?
まあまあ、盛り上がらせるための前説みたいなもんだよ……さあでは!ゼルエルツァ大連続競技大会!その最初の項目は……!
ジャラジャラジャラジャラジャラ……じゃじゃーん!水・泳・大・会ィ~!!!
地上から来たみんなも、是非とも参加してやってね!