では、第一回ゼルエルツァ&アカフラとロドスの合同開催の水泳大会が今!幕を開けました!
えー今回の試合は私、ゼルエルツァの商業代表のクロッチ・レンガと、デコルテ・シルバーコインが作って頂いた高画質撮影カメラで実況をお送りま~す!
ではでは、まずは今回の試合のルートをご紹介しましょう。
ルートは至極簡単!こちらの岸辺からトンネルがあるもう一方の岸辺へ辿り着くだけの、直線で約1km程度の湖のルートとなっております。
では続いて試合のルールをお伝えしましょう――ルールはずばり!ありません!一番速くゴールへ辿りついた者が優勝です!
そしてその優勝者が代表されるチームまたは組織には、クラフトビール一か月飲み放題権を贈呈しましょう!
(大歓声)
さて、続いては出場選手のご紹介になります!まずはロドス代表から――
イベリアの纏いし風、ロドス一の爽やかイケメ~ン、エリジウムゥ!!!
(歓声)
ハロー!ドゥリンのみんな!
……さっきまでしつこくクロッチに話しかけていたのはこれを彼女に言わせようとしていたの?
続いて、アカフラ代表から――
ガヴィルゥ~!!!
ガヴィルさ~ん、がんばってくださ~い!
よろしく頼むぜ!
(歓声)
そして我らがゼルエルツァを代表する選手は、なななんと!
まさかのまさかの!環境気候管理代表の、マスター・イェギーだああああ!!!
(大歓声)
……
あの、たかがトンネルのところで測定器を設置するだけですよね?どうしてこんな、水泳大会みたいなことに発展してしまいますの?
まあまあ、いいじゃねえか。せっかくなんだしよ。
装備諸々はそうすぐに準備できるわけじゃねえ、まだかかりそうなはずだよな?
それに鉄道はまだ繋がっていねえ、行ったり来たりしても不便ってもんだ。だったらいっそのこと面白おかしくやったほうが楽しめるってもんだろ?
はぁ……もうお好きなようにしてくださいまし。
お前は参加しないのか?
興味ありませんわ。これに参加するぐらいなら、トミミさんやデコルテさんが準備を済ませてるか確認しにいったほうがまだ有意義です。
はぁ、お前らウルサス人ってのはつまんねえな。
ウルサス人ではありません!
あと、あのイェギーさんをどう説得してやったんですの?
ワシから志願しただけだよ、アヴドーチャ。
えっ、でも……
お前たちが楽しく遊んでる間に、ちょっくらワシの手伝いもしてやってほしいだけなんでな。
だから手伝ってくれるというのなら、ひと肌抜いで参加してやったというわけだ。
ここの連中はそりゃ水遊びには目がないが、水泳選手となれば話は違ってくる。ロクに速く泳げるヤツがいない。
はぁ、だからワシらゼルエルツァのメンツもかかっていることだし、仕方なくこのワシが志願してやったというわけさ。
……
はは、いいさいいさ気にすんな。試合結果は二の次、大事なのは楽しむことだ。
フンッ、そうは言うが、もしゼルエルツァが地上人との試合に負けたという知らせが広まってしまったら、メンツが持たないではないか。
でもお前も聞いただろ?アヴドーチャは興味ないってよ。だからこいつに泳がせようったって無駄だ。
まあ参加したくないのあれば無理はしないさ……ワシらドゥリンは寛容だからな。
……
それに、元を辿ればアヴドーチャはゼルエルツァの者ではない、ここを代表したくない気持ちも分かる。
あ~あ、アヴドーチャが参加してくれるのなら、すっごく助かったのになぁ~……こりゃ今回の試合に参加したらしばらくは動けそうにないわい。
……ああもう、分かった分かりました!妾がドゥリンを代表しますわ!
はい!これでいいんでしょ!?
おお、ワシの代わりに出てくれるのか?
そこまで仰るのなら妾が出るしかないじゃないですの!
ハハハハハハ!そう来なくっちゃな!
おーい!クロッチー!
(クロッチがアヴドーチャに近寄ってくる)
はいはーい。えーっと、ではマスター・イェギーに代わってアヴドーチャさんがゼルエルツァを代表して試合に出るということでいいんだね?
そうですわよ、何か問題でも?
(小声)一か月飲み放題権……もし彼女が勝っちゃったら大損じゃ済まされないぞ……
ま、まあ、ただの親善試合みたいなものだから、本気を出さなくてもいいからね?
いいえ勝ちます!ゼルエルツァのためにも、ビールのためにも!妾が必ず勝ってみせますわ!
あぁ~そっかぁ……じゃあ、頑張ってね……
(クロッチが走り去る)
えー、ここで急遽お知らせがありまーす!
なんとゼルエルツァを代表する選手が、我らのマスター・イェギーに代わってアヴドーチャさんが務まることになりました!
皆さん、盛大な拍手で彼女をお迎えしましょう!
(大歓声)
そういや、試合には参加しなくても結局向こうまで行って測定器を設置しなきゃならないんだよな、イェギー?
だったら、試合が開始したらアタシがおんぶして向こうまで連れてってやるよ。
おお、それはありがたい。
それはハンデを自ら負っても妾には勝てると仰りたいのかしら?
えっ?いやそんなことねえが?
爺さんを背負ってもアタシは誰にも負けねえって思ってるだけだ。
……
っていうかお前、これ水泳大会だぞ?参加するならその服を変えてきたほうがいいんじゃねえの?
いいえ、この衣装で結構ですわ。そちらがハンデを背負う以上、妾だけ身軽になるわけにはいきませんもの。
本当にいいのか?
普段はあまり身体を動かすことはありませんが、だからといって運動音痴というわけではなくてよ?
妾はまだ、サルゴン人に負けてしまうほど落ちぶれてはいませんので。
いいねいいね、その目!初めて出会ってから最高の目つきをしてるぜ!
(ウルサス語)無礼な方ですわね、ホント。
では間もなく試合を開始します!お三方スタートラインまでお越しくださーい!
おっ、呼ばれてるぜ。
言われずとも分かっております。
(ガヴィルとアヴドーチャが立ち去る)
うーん……今は話しかけていいような雰囲気じゃないのは分かるんだけどさ……あのー、なんかボクの存在忘れてない?
まあいいや、どうせみんないずれ知ることになるんだ。ボクこそがこの場にいるみんなを驚かせるスーパーマンなんだってね。
よし、ではお三方、配置についてね。
それではカウントダウンを始めます!三!
しっかり掴まってろよ、爺さん。じゃないと振り落とされちまうぜ?
フフッ、安心せい。振り落とされない術ぐらいは持っておる。
二!
……チッ、ガヴィルに煽られて、ついウルサス語が出てしまいましたわ。
ガヴィル……あなただけには絶対勝ってみせます。
一!
あっ、今思いついたんだけど、やっぱさっき紹介してくれる時にもう一つ“荒野を行くロンリーレンジャー”って二つ名を付け加えてほしかったなぁ。
いや~残念残念、次は忘れないようにしよっと。
――ってカウントダウンをしたのはいいものの、今思ったんだけど、撮影するんだったら私も彼らについていかないと映像が撮れないんじゃないの?
でも船なんか持ってないしなぁ……泳ぎながら撮影するのも無理あるし……どうしよう……
う~ん……まあいいや。ともかく試合開始ィ!
(クロッチがホイッスルを吹く)
クロッチの号令に従い、三人の人影が……いや、正確に言えば、二人の人影と、人ひとりを背負った一人の人影が一斉に湖へと飛び込んだ。
水泳大会の始まりである。
お~速い速い!やはり、先頭を泳ぐのはガヴィル選手!
ここゼルエルツァを訪れてから、ガヴィル選手は幾度となく私たちにその類稀なる運動能力を見せつけてくれました!
しかし背中にマスター・イェギーを背負っておりながらも、先頭を泳ぐ姿には驚くあまりです!
……どいつもこいつも暇な連中ばかりだ。
参加しなくてよかったの?
デコルテッ!?なんでアンタがここに……!?鉄道修理の準備をしていたんじゃなかったのか?
ぱぱっと済ませちゃったわよ、難しいことじゃないんだし。あとの仕事は全部ロボットたちに任せたわ。
言っておくが、オレは鉱石病を患っているんだ、近づかないほうがいい。
でも、そう簡単に伝染する病気でもないんでしょ?
あと、あなたのお家は静かだから休むにはちょうどいいの。私は好きよ?
……
これはまた驚きです!今でも先頭を泳いでいるのはガヴィル選手ではありますが……!
その真後ろに食らいついているのは――なんとアヴドーチャ選手!アヴドーチャ選手です!
いつも私たちの前では優雅な佇まいを崩さずにいたあのアヴドーチャ選手!そんなパワフルな姿を見せつけてくる今の彼女には目を丸くせざるを得ません!
しっかりとガヴィル選手に食らいついていく!まったく距離を離しません!
あっ、ちょっと見えなくなってきちゃった。お~い誰か~、ちょっと肩貸して……よいしょっと。
うん、これでよく見える、ありがと。
『ほらばなし』じゃウルサス人はみな抜群な身体能力を持ち、氷を食うだけで三か月は生きていけると書いていたが、まさかあのガヴィルにも追随するとは驚きだ……
興味ないって顔をしてるくせにやたらとあっちの状況を気にしてるじゃないの、もういっそ見にいったらどう?
フッ、あんな時間を無駄にするだけの行事なんぞには興味ない。
そう?でもさっきから採決会に提出する図面、まったくペンが動いてないわよ?
……
アンタ一体何しに来たんだ?
ちょっと気になっただけよ。ねえスティッチ、あなた今悩んでいるんじゃないの?
ガヴィルたちを騙したことに後ろめたい気持ちになってるのかしら?
……あなたがドームを直してくれさえすれば、こんな面倒臭いことには発展しなかったのにね。
言い訳もひどいものだわ、みんなが投票したから自分はドームを直せないんだ、とか……だからあなたは“仕方なく”スライダーを吹っ飛ばして鉄道を建設する案を出したのね。
スライダーを解体して鉄道さえ繋げ直せば、どちらにせよ活性源石の地盤状況を測定できるだろ!オレはなにも間違ったことは言っていないからな!
別にあなたは間違っているなんて言ってないわよ、測定器で源石を測定する技術はもう遅れた技術だけど、まあここじゃまだ使えるものだわ。
船を作ってから設置してもよかったでしょうに。それならマスター・イェギーが抱えている問題も解決できたはず。
そうすればもうあなたにドームを直せと迫ってくることもないし、あなたも心行くまで自分のデザインに没頭して、またカチと張り合うことができる。万事解決じゃない。
なのにどうしてそんなに焦っているの?
ナニがあなたをそんなに焦らせているの?
オレは……
さあ、私の目測ではありますが、もうすでに300mを超えたといったところでしょうか?
えっ、400mだって?あっ、そう。
ともかく、試合開始してから順位はまったく変わっておりません!ガヴィル選手が一位!アヴドーチャ選手が二位!そしてエリジウム選手が三位!
奇妙なことに、エリジウム選手は一度も順位を上げてはいませんが、その泳ぐ姿はなんとも……カッコよく仕上がってるようですね?
まさか彼は、あえて三位を維持しているのでしょうか!
オレはただ……不安なだけなんだ。
全部あいつらに任せっきりな感じがして……
ここの新しいシンボルを設計する勝負なら、確かにカチに吹っ掛けたさ。でも……ここにいるみんなを納得させてやれることなんて、オレにはできない。
もしカチの前でもそれぐらい素直でいてくれたら、もう少し彼とも仲良くなれたはずなのに。
……どうだろうな。
あいつのことは嫌いだ、仲良くなれることは絶対にない。それに、向こうだってオレのことは嫌いなはずだ。
ふーん……まっ、私は休みに来ただけだし、あなたがどんなに悩んで図面に手が付けられなくとも私には関係ないわ。
でもね、もしそんなに向こうの様子を見にいきたいのなら――
デコルテ様、言ワレタ通リ、鉄道橋建設用ノ船ノ一隻目ガ出来上ガリマシタ、スデニ湖畔ニ停泊サセテイマス。
船にはマスター・イェギーが必要としてる岩盤掘削と源石鉱脈を測定する装置やら装備を載せてあるわ、あっちに行くついでに届けてきてちょうだいな。
……
フッ、いいだろう。
(スティッチが立ち去った後に奇妙な機械0429が近寄ってくる)
デコルテ様、スティッチサンノ面倒ヲ見テアゲナイト。
平気よ……ほかの人たちだって面倒を見てあげてるんだから。
まっ、彼も出て行っちゃったもんだし、これでようやく少しだけお昼寝ができるわ。
あとの仕事はあなたたちとあの地上人たちに任せるわね。
オ任セクダサイ、マイフレンド・ズゥママガ居マスノデ、ゴ安心クダサイ。
本当に彼女のことが気に入っているのね。
ズゥママ、私タチノ面倒見テクエル、ズゥママ、好キ。
ホント、不思議な地上人ね。
えー、より皆さんに実況中継を楽しんでもらえるために、実況席一同は湖畔のほうへ移って参りましたー!
おっと~?あれはもしや建築デザイナーのスティッチではないでしょうか?
ちょっ、動かないで、落ちちゃうでしょうが!
うわっ、うわあああああ!
より試合状況をはっきりと確認すべく、クロッチはドゥリンたちに人間タワーを作らせた。
しかし、十数人も積み上がったタワーは元よりグネグネと曲がっていて不安定だ。クロッチが少し身体に捻りを加えた境に、ドゥリンタワーもたちまち傾斜を増していき、そしてついに――
(クロッチ達が倒れる)
あいったー!!!尻がああああ……!!
うーん、確か船はここに止まってるってロボットたちが……
あっ、あったあった。えーっと、ここに入ってるのはイェギーさんが必要としてる装備一式ですよね?
よいっしょっと、ガヴィルさんの装備も入れちゃえ。あとは船を運転してくれる人に向こう岸までお願いして……
(スティッチが駆け寄ってくる)
ふぅ……はぁ……
あったあった。この船で間違いないな?
あっ、スティッチさん……はい、多分この船で間違いないかと。
そうか、じゃあ先に行ってるぞ。
えっ?
(スティッチが船に乗り走り去る)
スティッチが……ロボットたちが湖畔に停泊させていた船にスティッチが乗り込んで……む、向こう岸まで船を動かしていきました!
まさか、まさか彼もこの試合に参加するというのでしょうか!?
あっ、でも交通手段を使っちゃダメとかいうルールはまったく設けてないんで、これも全然アリですね!うん!