(奇妙な機械が叩く)
ズゥママ、船ノ組ミ立テ、コレデイイ?
ああ、構造上は問題ないが、ここはこう調整したほうがよさそうだ。ほら、こんな風に――
ユーネクテスが叩く)
そら、これでもっとしっかりしただろ。
ズゥママ、ズゥママ、スゴイ。
なに、少し経験を積んできただけに過ぎないさ。
(イナムが近付いてくる)
やっぱりここにいたのね、ズゥママ。
イナム?どうしたんだ、こんなところに来て?
この源石測定器を向こう岸まで運ぶんでしょ?どうせ暇してたから、私も手伝おうかなと思って。
そうか、それは助かる。
あなた……もうすっかりこのロボットたちの一員になっちゃったのね。
ああ、せっかくこんなにたくさんの友だちが出来たものだからな。
ズゥママ、ズゥママ、友ダチ!
それに、実はLancet-2姉様のお見合いの相手を探してやってるんだ。
……Lancet-2って……あの時ロドスと一緒にやって来たロボットのことよね?
ああ、今じゃ私の姉だがな。
いま私が持てる知識ではLancet-2姉様のような高い知能を持ったロボットを作ってはやれない、だからこいつらの中から相応しいヤツを探しているんだが……
見つかったの?
みんな優しい子だが、姉様が気に入っているタイプはいなさそうだ。
どうやらドクターみたいな知的なのがタイプらしい、困ったものだ。
……
ティアカウには変な連中しかいないけど、あなたもそこそこね。
どもども~、こちら実況席のクロッチで~す。今は比較的安全な高所から実況をお届けしておりまーす。
ではまず、現時点におけるゴールまでの残りの距離を見てみましょう。えーっと……300mぐらい?まあもうなんでもいいや。
さて、建築デザイナーの中でも異彩を放つその人、マスター・ヴィンチの唯一の弟子であるスティッチ・キャンパスが、どこからともなく船を操縦して、試合へと乱入してきました。
ん?そんな彼がこちらに向かって何か叫んでるみたいですね、カメラをズームして彼の唇を読んでみましょうか。
えーっと、なになに……あー、「オレが一番を取る!」みたいですね。
おや、しかも世間では放映できなさそうな怒りのハンドサインまで見せてきましたね。まさかあの冷淡な面持ちの下に、こんなにも熱いハートを秘めていたとは!
参加には相当遅れてしまいましたが、しかし!船に乗っていればまだまだ十分チャンスは残されています!
っと私がこうして実況してる間にも、かなり距離を縮めてきましたァ!
あっちもかなり盛り上がっているわね。
ガヴィルが通ったところはどこもあんな感じになっちゃうけど、ここは段違いだわ。
まだこういうのには慣れていないのか?
昔はね。ただアカフラにずっと住んでいると、イヤでも慣れてしまうわ。
今じゃ騒いでないほうがむしろ慣れないって感じね。
お前もすっかりティアカウの人間になったな。
そりゃなるわよ。
そういえば確かあの時、もしガヴィルが帰ってこなかったらあなたがアカフラの大首長になるつもりだったのよね、ズゥママ?
正確に言うと、大首長になるのが目的ではない。私はただそういった形で私自身の存在を証明したかっただけだ。
私の理想はいつだって最強のロボットを作り上げることにある、いつになってもこれだけは変わらないさ。
そっ、あなたならもしかしてと思っていたんだけれど、期待するもんじゃなかったわね。
王宮のことを考えているのか?
あら、少しは外で国家体制に関することを勉強したじゃないの、あなたもトミミも。ガヴィルは論外ね。
ホント、一体ここ数年間外でどうやって生きてきたのかしら。
ガヴィルと差し当たれば、私たちが当然と思えていることだろうと彼女のほうに寄ってしまうものなのさ。たとえば、環境とか。
ふふっ、それは確かに。
それで、彼女に王の首長になってほしいようだが……適任なのか?
正直、彼女よりもサルゴンの街中を歩いてる一般人のほうがまだ王の首長としては適任だわ。
そうだな。
でもね、ティアカウの中からアカフラをまとめ上げられる人を選べとなると、彼女以外いないわ。
それはティアカウ目線で言ってるのか?それともサルゴンのトランスポーター目線で?
……
さあ、いよいよ試合も後半戦です!
依然ガヴィル選手が先頭!しかし徐々に距離が縮められている!
予想外なことに、ガヴィル選手を抜こうとしているのはアヴドーチャ選手ではありません!
アヴドーチャ選手も十分頑張りましたが、やはりあのまま飛び込んだのがそもそもの間違いだったか!
そう!水を吸った衣装が重荷となって、ここでのしかかってきたのです!
つまるところなんと!今ガヴィル選手に肉迫してるのはあのエリジウム選手となりました!
前半戦で体力を温存して今!私たちに実力を見せつけてきたのです!
おおっと並んだ並んだ!ガヴィル選手と並びましたァ!
しかし――
皆さんお気付きでしょうか、本当の脅威が今まさに背後から迫ってきていることに!
あのガヴィルに追いつくなんて、エリジウムも中々やるわね。
あいつはただおちゃらけた態度で自分を隠したがっているだけだからな。まあ、それも一種の自尊心ではあるが。
ふふっ、確かに。ここに降りた時には気づいていたわ、他人に知られたくないってだけで、こいつも実はかなり実力者なんだって。
本題に戻ろう。
……そうね。まっ、あなたもロドスで色々と学んできたわね、ズゥママ。
私だって不本意だったんだ。ただクロージャ師匠がいつも技術とは無関係な会議やらに連れて行くものだからな、イヤでも知ってしまう。
それはあなたに期待を寄せているからよ。
とまあ、そのどちらの視点でモノを言ってるのかっていうあなたの質問だけれど……
私はもう随分と長い間アカフラで住んできたわ、ズゥママ。
都市で暮らすよりも、ジャングルの中であなたたちが日々無意味ないざこざでケンカし合ってるとこを見たほうが心穏やかと思えてしまうほどにね。
信じちゃくれないかもしれないけど、あなたがさっき言ったその二つの視点、私からすればもう一つに合わさっちゃったようなもんよ。
だからあなたたちには先手を打ってほしいの、アカフラだって永遠にただの無名のジャングルではいられないからね。これ、サルゴン側の視点での物言いよ?
お前が言うのなら、そうなのだろうな。
さあ、試合もいよいよ白熱してきました!
驚きの爆発力を見せてエリジウム選手は、徐々にガヴィル選手との差を縮めていきます!
抜かれたアヴドーチャ選手だって諦めておりません!死に物狂いで前方を泳ぐ二人に食らいついていく!
アヴドーチャ選手!そんなに頑張らなくてもいいんですよー!
しかし!この時三人とも背後に迫って来た真の脅威に――小船を操縦してるスティッチの存在にとうとう気が付きました!
偉大なる機械の力を利用して、瞬く間に前方の三名に追いついていく!
ゴールまで残りも100mといったところでしょうか!
三人が泳ぐ泳ぐ!一隻がエンジンを唸らせていく!ゴール直前を境に、三人と一隻が最後の勝負にしかけたァ!
だがな、イナム。
私は彼女を説得するつもりはないぞ。
ガヴィルに王の首長は相応しくない、あの席に大人しく座ってくれる人じゃないだろ。
トミミに聞いても、きっと同じ答えが返ってくるだろうさ。
どうして?
そこは自分で考えてくれ、私はまだ忙しいんでな。
……そう、わかった。
そうだ、もし暇だったら、考えながら私と一緒に船を組み立ててくれないか?
……フッ、中々人の扱い方が上手いじゃないの。
残り80m!
小船が巻き上げた水しぶきと波のせいで、むせてしまったアヴドーチャ選手が脱落してしまいました!よっしゃ――
オホン、いやその、残念でなりません!
残り50!
エリジウム選手もなんとか船に上がろうとしていますが、スティッチの行為に怒ったマスター・イェギーの攻撃を誤って脳天で直に食らってしまい、あっけなくまた湖にィ!
ブクブクと泡が上がっています!大丈夫なんでしょうか!?
残り30!
おおっとマスター・イェギー!ガヴィルの背中から麦酒号に飛び移り、スティッチの脳天に重い一撃を食らわせました!痛い、これは痛そうだぞ!
ついでにお伝えしますと、麦酒号はついさっき思いついてつけたあの小船の名前です、これはまた私がつけた“大水溜まり”に次ぐ素晴らしいネーミングになりますね!
おおっと!どうやらそんなこんなしてるうちに、勝利確定はガヴィル選手のものか――
いや、違う!
見てください!どうやら麦酒号の上で二人がもみくちゃにケンカしたせいで、船の制御機器が壊されてしまったようです!
あーっと!麦酒号から何やら悍ましい轟音が聞こえてきます!そして!
速い!なんというスピードだァ!
これはガヴィル選手でさえ、暴走した小船の前では無力!
エンジンが唸り声を上げながら、小船が真っ先にゴールインしましたあああああ!
よって、この水泳大会の優勝者は――
麦酒号おおおおおお!!!
……なんでそんなことになるわけ?
いや待った!
どうやら麦酒号、ゴールに到達してもまだ満足しきっていないご様子!
あー!麦酒号が岸辺に上がって、崩落した洞窟に向かって突っ込んでいきましたァ!
ドガーン!!!
あーっと!我らがマスター・イェギーとスティッチ選手がその勢いで船から振り落とされてしました!
そしてトンネルを塞いでいた岩石に麦酒号が衝突したことにより、大きな穴が……!
哀れ麦酒号!チャンピオンに贈呈するはずのクラフトビールを味わえずに爆発四散してしまっただなんて!
麦酒号に哀悼の意を!これではもう優勝景品を贈呈することも叶わなくなってしまいましたね!
……この人たち一体何がしたいのかしら……