
こちらはゼルエルツァの市内放送です。

マスター・イェギーの源石鉱脈測定の最新情報をお届けします。

測定の結果、活性源石鉱脈が爆発するタイムリミットはおおよそ25日と最終的に判断されました。

これより、ゼルエルツァ全域に避難指示を発令いたします。

またこの後、各代表の議論を経て、広場にて全体的な会議を開催する予定です。

会議では、具体的な避難対策と都市最後の景観建設を決定したいと思います。

引き続きゼルエルツァの市内放送にご留意ください。
(カチが寝ているデコルテに近寄ってくる)

デコルテ、起きて、デコルテ。

……スティッチロボット、言うこと聞くね~……むにゃむにゃ……

……デコルテ、デコルテってば。

スティッチロボット……ホント鈍くさいわね……

あなたたち……ちょっくら戦ってみて……

一体なんの夢を見てるんだか。

デコルテ!ほら起きて!

ん~……?なに……?

……こっちが聞きたいよ、スティッチのお庭でまた昼寝をするなんて。

だってここ静かなんだもん。

その熟睡っぷりじゃ、さっきの市内放送も聞いていなかったでしょ?

なんか言ってた?

……マスター・イェギーが測定した結果、源石鉱脈が活性化してるのを発見した。どうやら以前の地震が鉱脈を上の地層に引き上げた際に引き起こされたみたいだね。

あと、これから代表らが全体会議を開いて、避難計画について議論する予定だ。

そう。

でも、それだけじゃないんでしょ?

……分かる?

スティッチを探しているんだ、どこに行ったか知らないかい?

スティッチなら、私から借りた船に乗ってイェギーたちを探しに行ったわよ。

そうなのか?ならここで待っておくか。

彼になんか用?

ああ、彼には……設計部に戻ってドームの改修に参加してもらいたいんだ。

ゼルエルツァが滅びを迎える以上、ここでランドマークの設計を競ってももう意味はない。だが、時間だけはまだ残されている。

となれば、後で開かれる大会で地震がドームに開けた穴の処理をどうするか決めなければならない。

そんなの放っておいてもいいんじゃないの?

それはゼルエルツァの住民ら次第だな。

この地に存在する都市とここにあるすべてには完璧な状態で最期を迎えてもらいたいんだ、どの建築デザイナーにとってもこれは非常に有意義なことなんでね。

後でこの都市を最後に一回きっちりと視察して、限られた時間の中でできるだけ改修案を捻り出しておくよ。

だからスティッチに戻ってきてほしいのね。

そういうこと。

なぜマスター・ヴィンチが忽然と姿を消したのかはボクには分からない、一部じゃ師弟関係がこじれたとか言われているが、それだけはありえないだろうね。

マスター・ヴィンチの元助手として、ボクなら誰よりも理解しているよ。あの方はなにかと破天荒な人だったが、スティッチをとても気に掛けていた。

あの方にとって、スティッチは実の息子みたいな人だったからね。

だから、スティッチがああなったのもきっと師匠が消えてしまったことと関係があるのかもしれない。

師匠が出て行った後のスティッチの変わりようなら、君も知っての通りだろ?

何度自分の案を提出しても尽く否定され、そして徐々に設計部にも顔を出さなくなった……ボクなら力になれたはずだったのに、何もできなかったよ。

このドームは、そんな彼の師匠マスター・ヴィンチがこの都市に残した最高傑作だ。

でもスティッチからすれば、却って重荷になっているんだろうね。

……

つまり、彼には後悔してほしくないってこと?

そうだね。

これが……最後のチャンスなんだ。

そういうところ、ホントあなたらしいわね。
(イェギーやガヴィル達が近寄ってくる)

スティッチ、スティッチ!いるか!

あれ、お前らじゃねえか。

おやおや~、カチとデコルテはそういう関係だったんだね~?

違うから。

あっ、そう……きっぱりと否定されちゃった。

冗談もほどほどにしてね、エリジウムの兄さん?

マスター・イェギー、それにガヴィルさんも、お疲れ様。

ちょうどここで昼寝してたのよ、で彼がここに来てスティッチを待つと言ってたから一緒にいたってだけ。

あいつは戻ってきていないのか?

そっちにモノを届けに行ったんじゃないの?それなりに騒ぎも起こしてたけど。

それが途中からいなくなったんだ、家にもいないわけだし……一体どこに行ったんだか……

トミミも途中そいつに会ったって言ってたぜ?なんか複雑な表情をしていたとか。

なんか心当たりはないのか?

……どうしたんだろう。

心当たり……あるかも。

ズゥママ、コノ棚ニモ、ナカッタ。

そうか、じゃあ次の棚も頼む。

ふぅ、少し疲れてしまいましたわ。

こんなに探したのにまったく見つからないだなんて……

疲れたのなら少し休んでもらっても構わないぞ。

やっぱりどうしても気掛かりになってしまいますわ、どうしてさっきの妾の提案を退いたのかを。

ここに来て、ドゥリンたちの素晴らしい暮らしっぷりを知らないはずはまずありませんわ。

ここには貴族どもの陰謀も、企ても存在しない――あったとしても、どれも可愛げのあるものばかりですわ。

こうして災害に直面しても、ドゥリンたちは相応の対策を講じてくれる。今だってみんな呑気に――

どうやって一番いい形のままゼルエルツァに滅びを迎えられるのかとしか考えていないのに、なぜなんですの?

お前の考えを否定するつもりはないさ、アヴドーチャ。

お前の言う通り、ここの暮らしは本当に素晴らしい。

お前の提案を拒んだのはそれが良くないものだからというわけではない……私の性に合わないってだけだ。

もし私たちのジャングルの誰かが地下に移住したいと言っても、私にしろイナムにしろ、きっと誰も止めはしないはずだがな。

なぜですの?妾は単に自身の経験から地上の生活を否定してるわけではありませんわ。

ドゥリンたちと暮らしていくうちに、妾だって何度も考えてきました。

結果から言えば、ここでの暮らしは紛れもなく地上よりも勝っている、より人間らしい生活だと言えますわ。

なのにどうして、あなたにしろガヴィルにしろ、誰もここの暮らしに微塵も興味を抱かないんですの?

……

私には師匠がいるんだが、機械の知識に精通している以外にもかなりの映画好きでな。

よく私を誘って色んな映画を見せてくれた、こっちが興味を持っていようがいまいが。けどいつからか、あることを学んだんだ。

たとえば、映画の中で長ったらしく理論を並べてくるキャラクターが出てきたとする、その際師匠は決まってこう言うんだ――

「こんな理路整然と長ったらしいセリフを吐いてるヤツは決まって悪役か主人公の足手纏いでしかない、もう少し可愛げのあるキャラクターにしてくれないかな……」とな。

……

なぜお前はいつも私やガヴィルを説得しようとしているんだ?

それは……

オッホン、ついでに言うとなお嬢ちゃん、一つだけお前はドゥリンたちを誤解している。

何をですの?

もしお前が、ドゥリンたちの暮らしは地上よりも“便利”で“心地よく”、そして“安全”だと言っても、ワシはなんも反論はせん。

じゃがな、ドゥリンたちの暮らしが地上よりも“勝っている”点だけは違うぞ。

お前は賢い子だ、ワシが今言ったこれらの違うもきっと分かってくれるじゃろ。

ご老輩……と今はとりあえずそう呼ばせて頂きますわ、あなたの仰りたいことはよく分かります。

しかし、ほかの方にも肉体面でも精神面でも豊かな暮らしを過ごしてもらいたいと考えるのは、間違いだと言うのでしょうか?

それとこれとは別個の問題じゃよ。今のお前は、もうすでに結論付いた話題を掘り返して自分のメンツを取り戻そうとしているだけに過ぎぬ、違うか?

……

じゃあスティッチは、あまりのプレッシャーに耐えきれず逃げ出したってことか?

そうだね。

もしそうだとしたら、彼は今きっと湖畔にある小屋に引き籠もっているはずだ。

この家に引っ越してくる前までは、ずっと師匠と一緒にあそこで暮らしていたからね。

カチよ、ワシの言いたいことはもう理解したか?

もしドームを改修することになっても、スティッチがやらなかった場合はボクがドームを設計することになる、でいいんだよね?

そうだ、これは何も最期を迎える都市の景観建設の一環として設計するだけではないぞ、ドームを補強すれば多少なりとも時間を稼いでくれる。

ヴィンチとは友人じゃったよ、ヤツがなぜ急にいなくなったかは分からないが、それでもヤツの友人として、ワシも可能な限りスティッチの面倒を見るようにした。

だが、何事にも限界というものがある。こればかりはもう、あいつを甘やかしておくわけにはいかんのだ。

……ガヴィルさん、頼みがあるんだが、スティッチを探しに行ってくれないかな?

言わなくとも探すつもりでいたよ。トミミも自分から町のみんなの手伝いをするって奮起していたからな、ちょうどやることなくて暇してたんだ。

それに、あいつとはちょっとケリをつけなきゃならねえこともあるしな。

……では、頼むよ。

その小屋ってのはどこにあるんだ?

湖畔だよ、この家とよく似ているからすぐに見つかると思うよ。

おう、んじゃ探しに行ってくるぜ。
(ガヴィルが立ち去る)

カチくんは探しに行かないのかい?

……こんな状況で彼とどう向き合えばいいから分からないからね……

心配してるんだね、彼のこと。

マスター・ヴィンチが消えた後、ずっと彼を助けてあげたかったんだが、どうにもしてあげられなくて……

優しいのか、優しすぎるのか……

でもまあ、君たちドゥリンはそういう人たちだもんね。ここに降りてきてそう感じたよ。

え?

ボクもよく分からないんだが、スティッチに関してだけはなんだかほかのドゥリンたちと比べていじけてるように感じるんだ。

彼みたいな性格の人からすれば、たとえ君が対等な態度で接してあげても、向こうからすれどうしても高圧的な態度に見えてしまう。

だって向こうは、相手と対等的な態度を作り出すだけで精一杯だからね。

人との交流は、真心を込めれば通じ合えるものでもないのさ。

じゃあ、ボクはどうすればいいの?

エリジウムの兄さんって呼んでくれた以上は、年上のお兄さんらしく、君に少しだけコツを伝授してあげよう。

と言っても簡単だよ、ボクと公平に競ってほしいとか、君にはまだ選択肢が残されているとかを言わなければいい。

むしろ彼の退路を塞いで、もう君には選択肢はない、ボクと一緒に頑張るんだって言ってやるんだ。

ずっと狭いとこに引き籠もってきた人ってのはね、どうしても時折強めの刺激を与えなきゃダメなのさ。

デコルテさんはどう思う?

なんで私に聞くのよ?

色々言ったってこれはあくまでボクの憶測だからね、だからこの場で一番彼のことを理解しているのであろう君の意見も参考にしたいのさ。

……確かに、彼は少しいじけてる節があるわ。

それにあなたの言う通り、彼に必要なのは慰めじゃなく、誰かに引っ張ってもらうことなのかもしれない。

しかし、そうすれば却って彼を傷つけてしまう恐れがあるんじゃないのかい?

あるさ、荒治療だからね。

でもね、君が言うようにこれが彼にとっての最後のチャンスだとしたら――

彼と単に仲良くなりたいだけなのか、それとも少々関係が悪化してでも彼を後押ししてやるたいのか、自分自身に聞いてみるといいよ。

……

わかった、やってみるよ。

いいね、だったら早めにやったほうがいい。

じゃないと“引っ張り出す”だけじゃ済まされないかもしれないよ、なんせガヴィルがあっちに向かっていったんだからね。

あはは、そうだね!それじゃあ、行ってくるよ!

……
(カチが走り去る)

……

活発で、社交的で、人当たりもいい。確かにそれはあなたのいいところよ、カチ。

人はみんなそうあるべきだって、だからあなたはそうやって接してきた。

でもね、だからってみんな自分と同じだって考えるのは間違いよ。

エリジウムの言ってることは正しい。もし私がスティッチを助けることになったら、私だってそうしていたかも。

でもさ、悩んだり逃げたりしたっていいじゃん。

だから……

あなたがあなたのやり方で彼を救うのなら、私も私のやり方で彼を救うわ、カチ。

スティッチが逃げたいって言うのなら、私が彼を逃がしてあげる。

デコルテ様、オ探シデスカ?

スティッチを探しに行ってちょうだい。

……デコルテさん、案外分かりやすく顔に出るタイプなのを自覚していないのかもしれないね、あれがわざとじゃなければの話だけど。

ボクの言ったことには頷いてくれなかったか、ふふ。

いやぁ……こんな青春チックな雰囲気は久しぶりに味わったよ、こっちもなんだか賑やかししたくなっちゃった。

……

いや、やめておくか、なんかガヴィルに巻き込まれそうな気がしなくもないし。

タダであのゲンコツを食らうのはゴメンだからね。

まっ、そういうわけだ、スティッチ……君もそろそろ目を覚ましなよ。

こんなにも君を助けようとしてる人たちがいるんだ、それに応えてあげなくちゃ、いずれバチが当たるよ?

分かりませんわ、あなた方ならまだガヴィルより理解してくれると思っていたのに。

どうしてあなた方はそんなに――

彼女を甘やかしているんですか?
(イナムが近寄ってくる)

ガヴィルみたいな人を見て、私たちにはああいう人が必要なんだとは思わないのかしら?

イナム、外にいたんじゃなかったのか?

全然出て来る気配がないから様子を見に来たのよ、それがそんな話をしていたとはね……

アヴドーチャ、実を言うとね、私たちってば結構似たもの同士なのよ。

私がアカフラのトランスポーターになったのは、見境ない首長たちの軋轢から逃れるためだった。

アカフラには何もないわ、でもあそこでの生活はとっても心地がいいの、私は好きよ。

仮に心配事があるとしたら、上に上がってきたドゥリンたちが何かやらかさないかだけね。

ではなぜ……

ガヴィルがアカフラを出てもう長い間になるけど、彼女はちっとも変わりはしなかった。

何者にも阻まれないかのように。

ガヴィルを見てるとね、私こう思うのよ……あぁ、この大地にはまだこんな人が存在していたんだって。

だからどうしたって彼女に一つ手を貸してあげたくなっちゃうのよ。

そういうこと。

……

ガヴィルと一緒にアカフラを出るまで、私もとんだ無知な人間だった。

ロドスに入ってから色んなモノを知ったよ。そして徐々に分かってきたんだ、私が本当に学んだのは、単なる知識だけではない。

この大地にはまだ私の知らない当たり前のことでいっぱいなんだと。

だからきっとガヴィルも、自分じゃどうしようもできないことと直面してきたはずだ。

私には夢があってな、この大地で最強のロボットを作ることだ。

だが作り出した後のことは、まだ何も考えていない。

しかしだ、ガヴィルを見ていると、少しずつアイデアを思い浮かんできたんだ。

私が作りだしたロボットなら、ガヴィルの力になれるかもしれない、とな。

きっといつか、ガヴィルでさえ穴を開けられない壁と直面する時が来るのかもしれない。

だがこれはガヴィルがどうこうという話ではない、所詮彼女だって生身の人間だからな。

だからその際はまた今回と同じように、私が彼女のために最高の装備を作り上げてやる。

ゲンコツがダメなら、斧を使えばいい。斧がダメなら金槌を。金槌がダメならドリルを。ドリルがダメなら……ビッグアグリーを作ってやろう。

もしビッグアグリーでもダメなら、移動都市を作り上げてやるまでだ。

なぜそこまで彼女を信頼できるのですか?

なぜなら彼女はガヴィル、アカフラの誰よりもアカフラらしい人間だからだ。

いわば私たちの大黒柱みたいなものだな。いや、この先はきっと多くの人たちの大黒柱にもなるだろう。

だから私たちは、ガヴィルの拳が阻まれないように支えてやるんだ。

……

まあ、もしアカフラを彼女に任せても、それはそれで心配なんだけどね。

彼女のあの性格じゃ、たとえ権力を持つことになっても逆にその権力が屈しちゃうかもしれないから。

だからもし首長になるんだったら、きっちり彼女に首長のなんたるかを勉強させてやるつもりだったわよ。

そんなことしてもあまり意味はないと思うぞ?

フッ、そうね。

はぁ、どうしてこんなにも彼女のためにと思えるようになっちゃったのかしらね……自分でもよく分からないわ。

……

なぜガヴィルのような人間を疑ってしまうのか、それはあなたが経験したことに起因しているんじゃないのかしら?

否定はしませんわ。

だったら、彼女を信じてあげるところから始めればいいと思うわよ、どう?

……まあ、やるだけやってみますわ。

っとまあ色々話しこんじゃったけど、肝心な地図は見つかった?

あっ……すっかり忘れていましたわ。

フンッ、お前たちがガヴィルで盛り上がっていた間、こっちはロボットと一緒にずっと探し回っておったわい。

それにさっき気付いたぞ、この本棚にある本、どれもまったく旅行とは関係のない本ばかりじゃないか。

だから違う本棚を探してみたら大当たり、すぐに見つかったわい。

ほれ、この本で合ってるか?

間違いない、これですわ。

……

……

アヴドーチャ、バカ、アヴドーチャ、バカ。

……ああもう、はいはい妾の勘違いでした、ごめんなさい!

これで満足!?

あっ、アヴドーチャ!よかったぁ、ここにいたんだね。

さっきマスター・イェギーから言われたんだけど、今から広場で会議を開くって。各代表もすでに揃っているから、君にはご意見番をやってもらいたいってことなんだけど、どうかな?

……

ズゥママさん、あなたには感謝しておりますわ。

まだ完璧には納得できておりませんけど、でも――信じてみますわ、ガヴィルのことを。

ああ。

それじゃあクロッチさん、イェギーさんにご意見番をやると伝えておいてくださいまし。妾が必ず、ゼルエルツァの住民たちを説得してみせますわ。



