昼に一日中降りしきった雨は、夜になると晴れはしたものの、空気は依然と幾らばかりか湿っていた。
空を覆っている暗い雲はまるで無情な防壁のように、静かに照らしてくれる月光が降りることも、街の灯火が空へ届かせることすら許してはくれない。
ホントいやな天気、へっくし――
ちょっとだけ寝ようと思ってたのに、屋上がびしょ濡れだよ。
(くんくん)ん?この箱の中、まだ濡れてないな。
(箱に入り込む)
みゃふ……でもこの天気でひと眠りするのも悪くはないかな。
本日も大特価、一つお買い上げいただけたらもう一つおまけで付けちゃいます!龍門の中でも最安値、ぜひともお見逃しなく!
(左に寝返り)みゃッ――
何度言ったら分かるのよ!ご飯を食べ終わったらはやく宿題をしなさい!もう、こんな怠け者のペッローはあなたぐらいよ!
(右へ寝返り)むぅ――
近頃は湿った天気が続いており、湿った空気で電化製品が火災事故を起こしやすくなっているので、家電を定期的にチャックするなどの対策を怠らないようにしましょう。
(猛然と起き上がる)ああもううるさいな!そんな早口で喋られたら何言ってるのか分かんないだろ!
……
再び箱の中に潜り込むシャオヘイ。頭上は相変わらず陰鬱とした夜空が広がっており、耳元には様々な噪音が聞こえてくる。だがその中には、彼が求めているような内容は含まれていなかった。
シャオバイ……アグン……今どこにいるの?
シャオヘイ、屋上にいるのか?そろそろ晩飯だぞ!さっき雨が降ったばかりだからほらはやく降りてきなさい、風邪を引くぞ!
(無造作に目を拭う)
わかった!すぐ行く!
ウン兄、食器運ぶの手伝うよ、今日は何人来るの?
食器ならワイフ―がもう運んでくれたから大丈夫だ、ありがとう。
じゃあほかに手伝えることってない?
ん……?
シャオヘイ、なんか濡れてないか?
もしやまた屋上に上がったな?どうりでさっきから見つからないと思ったら……ア、キレイな毛布を持ってきてくれ!まったく髪も濡れているじゃないか。
ほらよガキンチョ、しっかりキャッチしろよ、礼ならいらねえぜ。
(シャオヘイが濡れている箇所を拭く)
フンッ、お前に礼なんか言うもんか!
はいはいケンカはよしな。シャオヘイもはやく髪を拭いておきなさい、ご飯だ。
シャオヘーイ、はやくこっち来なさーい!デカいパイクーをお椀によそってあげましたよー!いっぱい食べてくださいね、成長期なんですから。
あっ、ボクがドアを開けるね、ワイフ―姉。
(リーが近寄ってくる)
おー、シャオヘイじゃないか。
おっ、しかも今日は粉蒸排骨(フェンゼンパイクー)か?廊下までいい匂いがしてきてるな。
うん、ウン兄が朝っぱらから市場に行って買ってきてくれたんだ。
さすがはリーおじさん、鼻が利きますね。でも生憎、それは私も同じですよ。さあ白状しなさい、後ろに隠してる瓶はなんですか!
そうだぜ、大人しくそいつを渡しな。そしたら容赦してやらんでもねえぜ?
いやね、仕事終わりにソンの酒屋を通ったら、どうしてもお礼にと黄酒を持たせてきたんだ。断るわけにもいかないから持って帰ってきたのさ。
言っておくが、おれが買ったわけじゃないからな。
それはソンさんに感謝しなきゃな、ちょうど今日で料理酒が切れてしまったんだ、いいタイミングに持ってきてくれたよ。シャオヘイ、そのお酒をキッチンの下のタンスに仕舞っておいてくれ。
わかった。
おいおい、こっちはまだ一口も飲んじゃいないんだぞ?バカ正直に仕舞ってくれるなよぉ……それにチビ助も乗っからんでいい。
あはは、いい子ですねシャオヘイ!
いや~図体はちっこいのにいい食いっぷりだね~。いいことだ、しっかり飯を食う子供に悪い子供はいない。
(夢中にかっ食らう)
そうだ、シャオヘイ……
(お椀を置く)
なにか手がかりが掴んだのかリーさん!?
あーいや、お前から頼まれたことはまだ目星がついちゃいないんだ……
そっか……
(小声)先生、食事してる時に言っていいことじゃないだろ!
いやね、実は別件でシャオヘイに頼みたいことがあるんだ、手伝ってくれるかい?
手伝いか?なんでも言ってくれ!
実はユエン家のお嬢さんがペットをなくしてね、色々あってウチんとこに回ってきたのさ。色々調べた結果、南坪湾(ナンペンワン)のグルメ街で目撃情報があった。
だが最近リーさんは色々と忙しくてな、手が回らないんだ。だから一つ手を貸してくれたらすごーく助かるんだけど、どう?
わかった、ボクに任せて。
そいつは助かるよ。ほれ、ペットの写真だ、持っておきな。
これ、なんの動物なの?今まで見たことがないんだけど……
見たことがないって?変な子だな……
こいつは雲獣って言うんだ。ここじゃビンボーもボンボンもみんな一匹は飼ってるぐらいメジャーなペットなのさ。
俺にも見せてくれないかシャオヘイ?全身真っ黒……これは烏雲獣だな、この毛色はかなり珍しいぞ。
烏雲獣?
大炎じゃそう呼んでいるのさ。あまりにもこいつを飼ってる人が多いから、みんな色で種類を分けているんだ。
白い種類は雪雲獣。紅いのは丹雲獣。ほかにもカラフルな種類もあるが、まあとりあえず色んな呼び名があるってことを知っていればいい。
ふーん、そうなんだ。
シャオヘイ、さっき見たことがないって言ってたが、もしかしてお前の故郷じゃこいつはあんまり飼われていないのか?
ううん!み、見たことはあったけど、ド忘れしちゃった。
へー――
あっ、リーさん、ウン兄、ごちそうさま!もう寝るね!
おいおい、もう寝ちまうのか?明日は南坪湾のグルメ街に連れて行くんだから、忘れないでくれよー。
わかった!
(シャオヘイが走り去る)
おいウン、なんだしかめっ面は?
先生……身内の仕事をお客さんに振っちゃダメだろ。
人手は多いほうに越したことはないだろ。
先生!
悪かった悪かった、まったく事務所の先生なのに躾られてばっかりだ。
ところで、あの子今日も屋上に上がってたのか?
……そうだが、なんで知ってるんだ?
家に入った途端湿った匂いがしたからだよ、屋内で雨が降るわけもあるまいし。
まだ付き合いは長くはないが、見て分かるよ。あの子は何か思ったことがあればすぐ屋上に引き籠もる。きっとホームシックなんだろうな。
それかもしくは、ここに居座ってもやることがないから面目次第もないって思っちゃってるんだろ。
だからといって仕事を振るわけにもいかないだろ、まだ子供だよ?
フッ、子供だけど子供じゃないさ。ウン、あの子と手合わせしたことは?
なっ、まさかそれほどの実力があるって事!?
ああ、大人顔負けさ。あの子と初対面した時に、警戒するあまりおれに何発か襲い掛かってきたことがあったんだが、どれも中々なもんだったねぇ。
それはまた珍しい、一体どういった場所ならあんな子が育つんだろう?
いい質問だね、おれも知りたいよ。
現在時刻は午前2時45分です、ようこそ龍門へ。税関手続きをお受けする際は、お互いの間隔を空けて、列にお並びください。
ここが龍門?こんな深夜になっても灯りがついてるなんて、キレイな街ね。来てよかったかも。
ロックロックお姉さんも初めてここに来るんですか?
そうね、まさに異郷って感じ。
どこか違う点でもあるんですか?
うーん……とても若くて、活気に溢れてる感じがするかな。
税関を通る大勢の人たちを見てると、なんだか……数年前に起ったあの騒ぎも実はなかったんじゃないかって思えてしまうぐらいには。
それはきっと街も人も、自分で傷を癒せるだけの力を持ってるからだと思いますよ。
そうだね、生き生きとした都市ってのはどんな重傷を負っても、すぐに治り切ってしまうものなのかも。
でも、いくら表面の傷が癒えたとしても、内側に残った傷はどうなんだろうね?
それは……それもいつかはよくなりますよ、だって人はすぐに物事を忘れちゃいますから。
……どうだか、記憶ってのは消したいと思って消えるようなもんじゃない。ただその出来事が過ぎ去って、みんなもう口にしなくなったってだけだよ。
よく分かります。大人たちはいつも口に出さないで、ゆっくりと自分の中で消化しなきゃならないことを抱え込んでいますからね。
スズランちゃんって……色々と物分かりがいいんだね。
ロックロック姉さーん、待ってよ~!
(ねえお兄ちゃん、ここってば不思議な場所だね、こんな移動する都市なんて見たことがないよ。)
(あはは、だね。ボクもこんな動物みたいにあっちこっち動き回る都市なんか見たことないよ。)
シャオバイ!アグン!どこに行ったの?もうすぐ私たちの番だよ、自分たちの書類は用意できた?
ごめん、待たせちゃった。シャオバイがトイレに行きたいって言ってたから、色々と探し回ったよ。
ピヨ!
すっごい人だかりだったよ、さっきだって――
そのことはまた後でだ、とりあえず列に並ぼう。
なんかあったの?
もしかして危ない目に遭ったんじゃ!?
いやいや、そうじゃないよ。
アグン、君は落ち着いてる子だし、アーツもスバ抜けてる。しっかりと自分とシャオバイのことを守ってやれるから、その点は安心してるよ。
でも危ない目に遭ったらちゃんと言ってね?じゃないと心配しちゃうから。
ロックロック姉さんがボクたちをここまで連れてってくれただけでも感謝してるよ。
なんせあの時は姉さんがボクとシャオバイを助けてくれたからね。いくらボクにアーツの腕があったとしても、シャオバイをあの狂暴な“銓(セン)獣”から助けてやれなかったよ。
“センジュウ”?
お兄ちゃん、また間違えてるよ、あれは“鉗獣”だってば。
あはは、ごめんごめん。でも、もうすでに姉さんたちには色々と迷惑をかけっぱなしなんだから、これ以上心配させちゃ申し訳ないよ。
じゃあ龍門に入った後、住居の宛てはあるの?
あー……今のところはまだ。
やっぱり。じゃあしばらくはロドスの事務所に置いてもらうといいよ。
じゃあ……またご厄介になっちゃうかな。もし何か手伝えることがあったら、遠慮なく言ってね。
もう、ここまでずっと一緒に過ごしてきたのに水臭いよ。
そうですよ、アグンお兄さん、今回はそんな重要な任務でここに来たわけじゃないんですから。主に龍門で感染してしまった患者さんを本艦に移す作業ってだけですよ。
こう見えてスズランちゃんってば、すっごく頼りになるでしょ?これでも私よりも先にロドスへ加入したセンパイなんだよ。
あちこち行って人々の命を救うか……ロドスってのは立派な会社なんだね。
そうだね、お注射は怖いけど、働いてくれれてるお医者さんや看護師さんも大変だよね。
実はそれだけが私たちのお仕事じゃないんですよ、ほかにも……あっ、もう私たちの番ですね。大丈夫、事務所についたら分かりますよ。
そうね、じゃあシャオバイにアグン、行こっか。
(ロックロック達が立ち去った後に近衛兵達が集まりだす)
あれ、なんか急に近衛局の人が増えてないか?
さっき通った時に見てなかったのか?密入国しようとした手配犯がアーツで手すりに凍らされてたぞ。
なんだと!?冗談だろ!
冗談じゃないし、その開いた口も閉じときな、あんたの番が来たぞ。
え?あぁ……すまない。奇妙なことも起こるもんだな……
お兄ちゃん、ここがロックロック姉さんたちの働いてる場所なのかな?あのおじさん、胸に石が生えてる、苦しそう……
あんまりジロジロと見るもんじゃないぞ、失礼だ。
あっ!ごめんなさい、おじさん、悪気はないんです。
はは、いいんだよ。好奇的な目線を向けられることにはもう慣れてるさ、お前に悪気がないのは分かっているよ。
おじさん、ついでで申し訳ないんだけど、ロックロック姉さんがどこに行ったか分かる?
あー、この先にあるゲンちゃんの病室かな?この先を進んで左に曲がったらそうだよ。
ありがとう。
じゃあねおじさん、はやく治るといいね。
治るね……あははは、いや、ありがとう。気持ちは嬉しいよ……
(ねえお兄ちゃん、私なんか悪いことでも言っちゃったのかな?おじさんなんだか無理して笑ってるみたいだよ?)
(首を振る)とりあえずロックロック姉さんたちを探そう。
お姉ちゃん、本艦に行きたくない、あたしまだ平気だもん。ここにいさせて、お願い。
事務所での医療措置じゃもうキミの今の症状は抑えられないの、本艦に行かないとよくならないんだよ。だからお願い、ね?いい子だから。
本艦にはあなたと同い年の患者さんもたくさんいますから、きっと向こうでも新しい友だちをたくさん作れるはずですよ、ゲンちゃん。
でも……リュウスーチーが戻ってきてからじゃないとイヤだよぉ!うえぇぇん……
リュウスーチーって?
いなくなったの。だからあたしだけ本艦に行くのはイヤ。も、もうちょっとだけ待ってたいの。
ピンさん、もしかしてその患者さんがいなくなったの!?
いやいや、リュウスーチーはこの子のペットだよ。去年どっかいなくなっちゃってね、ゲンちゃんずっと探してるんだ。
だからおねえちゃん、ここにいさせて、お願いだから。もうちょっとだけ時間ちょうだい、絶対見つかるからぁ、うぇぇぇん……
泣かないでゲンちゃん、ほら、とりあえず涙拭こ?
俺たちも探してはみたんだけどね、ほら龍門ってデカいからさ、簡単にはいかないんだよ。それにいつも人手が不足してるもんだから、途中で切り上げちゃって……
どうしよう……このまま無理やり連れて行くわけにもいかないし。
(わんわん大泣きする)
イヤだイヤだ!ここを離れたくない!連れて行かないでぇぇ!
だったら、もう一度私たちで探してみませんか?
でも人手が……まだ本艦へ患者を移す作業だって残ってるし……
それに来週には戻らなきゃならないんだよ?じゃないと患者のスケジュールが全部めちゃくちゃになっちゃう。
どうしましょう……なにか打開策は……
お兄ちゃん、私たちで手伝ってあげられないかな?
知らない街での捜索で、ボクたちが役に立つかどうか……
うーん……
手伝ってあげたいのか?
だって……ロックロック姉さんたちはこんなにも手伝ってくれたんだし、お返しをしなきゃ悪いよ。
確かに、そろそろボクたちでも恩返しをしなきゃだね。じゃあ、やれるだけやってみよう。
ロックロック姉さん、ボクとシャオバイにそのことを任せてもらってもいいかな?
でも……
やらせてよ、ロックロック姉さん。
お兄ちゃんならできるよ、だから心配しないで。
ロックロックさん、いますかー?診察室の撮影装置が故障しちゃったんで、診てもらってもいいですか?
分かった、今行く!
……じゃあ分かった、でも何かあったらすぐアタシに伝えるんだよ?
うん、わかった。
こんにちはゲンちゃん、ボクはアグン、こっちは妹のシャオバイ。
(止まらないしゃっくり)
まずは落ち着いて、ボクの話を聞いてほしいな。
泣かないでゲンちゃん……私たちがちゃんと見つけあげるからね!
……ごべんなさい……わたし、わがままで、みんな忙しいのに、いっぱい探してくれたのに、迷惑かけちゃダメだのに……
気にしなくていいんだよ、お友だちと離れ離れになるのはイヤだもんね……
うん、だからなるべくボクたちで探してあげるよ。
ほ、ホントに!?これあの子の写真なの、とっても可愛くて大人しい子なんだよ。きっとどこかに隠れちゃってるはずだから……
写真ありがとう、必ず見つけ出すよ。でも……あんまり期待はしないでほしいかな。
そうだよゲンちゃん、別れはいつか必ずやってくるものなの。だから勇気をもってそれを受け入れなきゃ。絶対そんなことで自分を傷つけちゃダメだよ、いい?
(すすり泣く)うん、最後、これで最後だから。もしこれで見つからなかったら、あたし……もう諦める。いい子にして……ロックロックおねえちゃんと一緒に本艦に行く。
分かった、じゃあ明日シャオバイと一緒に聞いて回ってみるよ。
手伝わせちゃってゴメンね、今日はもうしっかり休んでおくといいよ。じゃ、私は先に帰ってるから。
大人しくしてろ。
みゃお!
こら、暴れるな!
シャーッ!
(通信を受け取る)
(無線音)
みゃあ――
リーさん?ボク、シャオヘイ。例の烏雲獣を捕まえたよ、今事務所に戻るね。
え?
そのペットならもう見つかった?
でも……うん、わかった、すぐ戻る。
おっかしいなぁ、じゃあお前はどっから来たんだ?写真に映ってるヤツとそっくりじゃん……
後ろっ首を摘み上げられた黒い雲獣はジタバタと暴れ回り、牙や爪をむき出しにしてシャオヘイから逃げ出そうと試みる。だが同時に、痩せこけたあばら骨をシャオヘイの前に晒すのであった。
お前しばらく全然メシが食えてないだろ?うーん……とりあえず連れて帰ってメシを食わせてやるか。
すっごい賑やかな街だね~、こっから探すの?
うん、グルメ街の付近には野良の小動物が結構集まってるかもしれないからね。料理屋が多ければ、食べ物も多いってわけだ。
でも動物が人間の食べ物を食べても平気なの?
平気じゃないかな、でも動物たちはそんなの構ってられないよ。腹をこしらえなきゃ死んじゃうからね。
……シャオヘイもこっちでお腹を空かせてなきゃいいんだけど。
大丈夫、あいつなら自分でなんとかするさ。
ほら、とりあえずそれは一旦置いといて、朝ご飯を食べよう。お前もお腹空いたはずだろ?街に入った後ロックロックさんからここのお金をくれたから、何か買っておこっか。
うん……
親父さん、豆乳二つ、テイクアウトで、どうも。
はいよ、豆乳二つね。
それと親父さん、ここって野良の小動物がたくさんいるの?
ああいるよ、毎日汚らしいのがあっちこっち走り回るもんだから、うんざりだよ。
じゃあ最近黒い雲獣は見かけなかった?
憶えちゃいねえな、朝っぱらから忙しいもんだからそんなこと気に掛けてるヒマなんかないよ。
その通り、しかもそいつら全身ばい菌と寄生虫まみれでばっちぃったらありゃしねえ、殺さないだけ優しいもんだよ俺たちは。
(アグンの裾を握る)殺すって……
おいあんた、子供の前で言うことじゃないだろ!
いやいいんだ、気にしないで。行こっかシャオバイ、ほかを当たってみよう。
搾りたてのフルーツジュース!今なら二割引きだよー!
大将さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、ここ最近黒い雲獣は見かけなかった?
ないない。買わないのなら店の前に立たないでくれ、商売の邪魔だ。
あっごめん、ジュースっていくら?
一つ120龍門ドルだよ。
うーん……ちょっと高いな。
いいよお兄ちゃん、ほかのとこを聞いてみよ?
できたての饅頭だよ!どんな具も揃ってるよー!
こんにちは!あの、黒い雲獣は見かけませんでしたか?
やあお嬢ちゃん、生憎見てないねぇ、ほかを当たってみたらどうだい?
そっか……お邪魔しました。
落ち込むことはないよ、次いってみよう。
野良の動物を探してるのならスラム街にある救助ステーションに行ってみるといいよ、あそこはよくこの街にいる野良の動物を連れて帰ってるからね。
本当ですか?ありがとうございます!
でもそこを運営してる人、最近すっかり顔を出さなくなったからなぁ……
ありがとう大将さん、じゃあ熱々の肉まんを二つ頼むよ!
はは、七龍門ドルね、毎度アリ。
あれ、饅頭の皮しか食べてないよ?
お腹を空かせてる小動物たちに残してあげたいの。
あはは、そっか、じゃあ後でもう少し饅頭を買っておくよ。それはもう食べちゃいな。
いいよお兄ちゃん、お金はとっとこ?あとでリュウスーチーを探す時も使うかもしれないから。
わかった。
お金が残ってたら、シャオヘイに会った時も買ってあげられるしね!ちゃんと食べてるか心配だよ。
へっくし――おっかしいなぁ、くしゃみが出ちゃった……
(暴れ回る)
もう、暴れないでよ。お前をとっ捕まえるために、こっちは朝飯も食べられてないんだから。
シャオヘイなら、きっとボクたちよりも運よくどっかで美味しいご飯にありつけてるはずだよ。
もうすぐお昼かなー、ウン兄もうご飯用意してくれるかも?
じゃあ安心だね!
はやくシャオヘイにも会いたいなぁ。
シャオバイもアグンも、今頃どこにいるんだろ……
きっと見つかるさ。
いつになったら会えるんだろ……
うん!はやく会えるといいなぁ!
考えててもダメだ!きっといつか必ず会えるはずだよね!
(キョロキョロ)
(あちこち探り入る)
何を探してるの?
ウミャアア!!
怖がらないで、ボクはお前を連れて帰った人だよ。これはボクの別形態なの。
もしここから出る通路を探してるんだったら、あっちにある避難階段から降りられるよ。
(不安げに尻尾を振る)みぃ……
おっかしいなぁ、違う世界の動物なのに、お前の言いたいことも大体分かっちゃってる。
どうして行っちゃうの?ここに残ればいいじゃん?リーさんもなんちゅうもんを拾ってきたんだって言ってたけど、別にお前を追い出すつもりはなかったよ?
(首を振る)みゃう。
外じゃメシにはありつけないし、挙句の果てには追い掛け回されるだけじゃん。どうしてそれでも外に行きたいのさ?
みぃ……みぃ……
お前……お前も人を探しているのか?
こっちおいで、大丈夫、どうにもしないからさ。
(寝そべる)
その人、ボクも一緒に探してあげるよ。
(顔を上げる)
……ここに来てから、ずっと誰にも言えないままでいるんだ。ボクは違う世界からきたヤツだって。
あっちにいた頃は、最高の師匠と、最高の友だちがいたんだ。
二か月前に森の中で変な生き物を探しててね。あっ、こっちにいるオリジムシってヤツ、それがなぜかあっちの世界に現れたんだ。
アグンが手分けして探そうって言ったから、ボクは一人でそのムシを追っかけてたんだけど、気が付いたら来た道が消えてたんだ。
そしたら足を滑らせて、パァッと目の前が真っ白になって、ずっと落っこちていって……
そして目を開けたら、こっちの世界に来てたんだ。
アグンもシャオバイもこっちに来てるかどうかは分からないよ?会いたいなぁ、でもこっちの世界では会いたくないかも。
(耳をピコピコ)みゃう?
こっちの世界は危険がいっぱいだからね、ボクとアグンならまだなんとかなるけど、シャオバイは……それに石が生えてくる恐ろしい病気もあるしさ……こっちには来てほしくないよ。
(シャオヘイの背中に腕を乗っけようとする)
慰めてくれてるの?
みぃ!
……ありがとう。