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【明日方舟×羅小黒戦記】久しぶりだね「ヤンニーとオレ」翻訳


龍門上城(ションセン)区、上廠(ションホン)街、近衛局ビル
正午ちょうど

近衛局、ここは特殊な場所だ。誰も来たがらないし行きたがらない。だがいつだって、ここの世話になる人はいるものだ。

近衛局隊員
近衛局隊員

(警備に務める)

???
???

おいお前、二十年前に咸祥(ハンチョン)飯店で起こったマフィア同士の殺し合いの事件は憶えてるか?

近衛局隊員
近衛局隊員

(無視)

???
???

んじゃあ、十年前に宝華(ボウワー)街に起った強盗事件は?

近衛局隊員
近衛局隊員

(無視)

???
???

じゃあ、七年前の斬り付け事件は?

???
???

お前が言った事件はどれも知らんし聞いたこともない。いいから邪魔するな、こっちはまだ公務中だ。

アグン
アグン

(やれやれとため息をつく)

アグン
アグン

はぁ、まあいいや。

(アグンが近衛局隊員に近寄る)

アグン
アグン

おじさん、お巡りさん!

アグン
アグン

いま目の前にいるこの人が、さっき近くの広場で自動車を盗んでるところを見かけたよ!

???
???

は?おいなんだよそれ!

???
???

適当なことを言うんじゃねえぞクソガキが!

近衛局隊員
近衛局隊員

まあそう怒鳴るな。

近衛局隊員
近衛局隊員

お前がやったかどうかは監視カメラで確認する、署までご同行願おうか?それと君も、事情聴取に協力してもらうよ。

???
???

チッ……わぁったよ。

アグン
アグン

(ウィンクする)わかった。

アグン
アグン

(上手く行ったよ、ロックロック姉さん。)

ロックロック
ロックロック

(了解。ロック二十七号、ステルスモードを起動。)

その前日

アグン
アグン

多分ここのはずなんだけどなぁ。

アグン
アグン

こんにちはー、ここって野良動物の愛護センターですか?

アグン
アグン

もしもーし?

???
???

テメェに構ってるヒマはねえ、消えろ!

アグン
アグン

……ちょっと聞きたいことがあって来ただけです、すぐ済みますから。

???
???

テメェらクソガキが何を企んでここに来たかは分かってんだ!

???
???

心配そうに動物をここに連れてきたと思ったら、翌日には街中にポイしやがって!

アグン
アグン

あの、なんか誤解してません?別にペットを引き取りに来たわけじゃないんです、ただちょっとなくした烏雲獣を探してて。

???
???

消えろつってんだろ!

???
???

自分じゃロクに世話もしないくせいに、何かあったらすぐこっちに寄越しやがる!

???
???

お前らみたいな無責任なガキのケツを拭くつもりはねえんだ、いいから消えろ!

???
???

テメェのケツはテメェで拭きな!

???
???

とっとと消えやがれ!

アグン
アグン

あの、話しぐらい聞いてくれませんかね!

???
???

うるせえ、消えろ!!!

アグン
アグン

あの!あの!

アグン
アグン

……なんだよ、こっちは何もしてないのに。

お隣さん
お隣さん

もうやめときなって、いくらシャッター叩いても出てこないよ。

お隣さん
お隣さん

ああいう性格だから諦めなって。

アグン
アグン

お姉さん……ここの人?

お隣さん
お隣さん

すぐ隣に住んでるの、まあこの人と話したのは年に数回程度だけどね。性格はああだし、シラクーザのマフィアで結構ワケありなもんだから、怖い物知らずしか彼に構っちゃくれないよ。

アグン
アグン

でも動物愛護の仕事をしてるんだよね?そこまで悪い人でもないんじゃないの?

お隣さん
お隣さん

所詮はまだ子供ね、簡単に信用しちゃうんだから。こうやってシャッターを閉められたら、中でどんなやましいことをしてるか分かったもんじゃないでしょ?

お隣さん
お隣さん

人ってのは見かけで判断しちゃダメなんだよ。

アグン
アグン

それ、知ってるから教えてくれてるの?

お隣さん
お隣さん

数日前、近衛局がガサ入れしてきたんだよ。

アグン
アグン

このえ……きょく?

お隣さん
お隣さん

あっ、他所から来たの?まあ警察みたいなとこだよ、で違法に警察用循獣を隠し持ってるとかなんとか。

アグン
アグン

警察用かぁ、それって……犯罪だよね?

お隣さん
お隣さん

もちろん、だから何をしてるのか分かったもんじゃないってこと。警察の循獣だって取っちゃうような人だよ?

アグン
アグン

じゃあその人が動物を引き取ってるのって……

お隣さん
お隣さん

よく動物を引き取っては、すぐに送り出してるところを見かけるんだけど、もしかしたら……闇市にある肉屋に売ってたりして。

アグン
アグン

(怪しすぎる。もし本当に愛護センターに偽装してそういった悪事を働いてるのなら、見過ごせない。)

アグン
アグン

そっか、ありがとうお姉さん。

お隣さん
お隣さん

じゃあ、あたしは家に戻るね。君もはやく戻ったほうがいいよ、こんなとこにいないで。

女の人が玄関のドアを閉めた後も、アグンがそこから立ち去ることはなかった。板戸にかけられた錠は、触れた後にみるみると氷漬けにされ、アグンに軽く叩かれて断ち切られた。
そして門を少しだけ内側に開け、そこにできた狭い隙間にアグンは潜り込む。

アグン
アグン

籠も檻もない、あるのは餌用の皿だけ。中に入ってる水も食料も数日前のものだ。

アグン
アグン

動物は?どこにいった?

アグン
アグン

(まさか本当に肉屋に売られた?)

アグン
アグン

だとしても、なんでこんなにペットフードが置かれてるんだろう……?

アグン
アグン

この机に置かれているのは……建物の見取り図?

アグン
アグン

こ、の、え、きょ、く、び、る……ん?丸く囲ってる箇所もある?

アグン
アグン

拘留所、循獣の収容部屋……隣接してる……

アグン
アグン

(この人は一体なにがしたいんだ?まさかその循獣のために……?)

運営主
運営主

おいガキ、誰だテメェは?どうやって入ってきた!?

運営主
運営主

一体どうなってんだ?鍵は閉めたはずなのに!

運営主
運営主

鍵が壊れてる?ッ……しかもなんか冷てぇ!

運営主
運営主

(ギロリとアグンに振り向く)

アグン
アグン

勝手に入ってきてごめんなさい。

運営主
運営主

テメェがやったのか!?弁償してもらうぞテメェ!ったく先週買い換えたばっかなのに!

アグン
アグン

えぇ!?

運営主
運営主

何がえぇだ?

アグン
アグン

(眉を顰める)あいや……ごめんなさい。

アグン
アグン

そうだ、ついでに聞いてもいいかな?この見取り図に色々マークついてるのはなんで?

アグン
アグン

(机に置いてる図を見せる)

運営主
運営主

人のものを勝手に触んじゃねえ、ぶっ殺されてえのか!

アグン
アグン

気を付けてよね。

運営主
運営主

なっ、これは――

アグン
アグン

動かないで、さもないとこの氷の輪っかがどんどん首を絞めつけることになるよ。

運営主
運営主

クソ、ガキのくせに!

アグン
アグン

それで教えてくれないかな?近衛局に行って何するつもりなの?

運営主
運営主

……近衛局の恥知らずどもは、適当な言い訳をでっち上げて俺の循獣を攫って行きやがったんだ。んだよ、奪られたら奪り返すのがスジってもんだろ?

アグン
アグン

へぇ、でも君が先に近衛局の警察循獣を奪ったって聞いたけど?

運営主
運営主

ペッ、俺があいつを拾った時はもう命からがらだったんだ、近衛局なんざ影もなかったわ。

運営主
運営主

こっちは仲良くやってたってのに、なんで近衛局に攫われなきゃならねえんだ!

アグン
アグン

じゃあ、最初はその獣たちを保護してただけってことだよね……ならほかの動物はどこにいったの?いた痕跡すら見つからないんだけど?

運営主
運営主

こんな見ずぼらしい場所でそいつらを置けると思ってんのか?外縁区画で廃棄された工場地帯を買ってそこに置いてる。

アグン
アグン

それだけで信じれると思う?

運営主
運営主

信じようがいまいがテメェの……

(何かがチーンと鳴る)

アグン
アグン

なんだ!?

アグン
アグン

電子レンジ?

運営主
運営主

んだよ、饅頭を温めただけだろうが!

アグン
アグン

それ夜ご飯?

運営主
運営主

いちいちうるせえんだよ!

アグン
アグン

それで足りるの?

運営主
運営主

……テメェにゃ関係ねえだろ!?

アグン
アグン

ペットフードに金を使うあまり、自分は骨をしゃぶるしかないってわけだ。

運営主
運営主

……あんな数もいりゃ、イヤでも節約しなきゃならねえだろ!

アグン
アグン

……

アグン
アグン

悪かった。

アグン
アグン

(アーツを展開してる腕を下ろす)

運営主
運営主

ゲホッ――

運営主
運営主

(今も少し怯えながら首をさする)

運営主
運営主

おいガキ……お前アーツができるのか?

アグン
アグン

うん、少しは。

運営主
運営主

じゃあ……さっきカギを開けた芸当も、他んとこでできるんだよな?

運営主
運営主

烏雲獣の行方を捜してるんだろ?

アグン
アグン

そう、去年いなくなったんだ!何か知ってない?

運営主
運営主

何匹か保護したことはある、が生憎記憶が鈍いもんでな、具体的なことは何も憶えちゃいねえ。でも確か記録は取っていたはずだ。

運営主
運営主

もし俺に協力してくれるのなら、そのファイルを探してやる。

アグン
アグン

うーん、ボクにはファイルを見せるだけで、その代わり近衛局の潜入に加担させるのはちょっと釣り合わないんじゃないの?

運営主
運営主

フンッ、なら勝手にしろ。

運営主
運営主

その烏雲獣のことなら他所で聞きな。

アグン
アグン

……

ロドス駐龍門事務所
早朝

ロックロック
ロックロック

アグン!

アグン
アグン

えっ!あっ、おはよう、ロックロック姉さん!

ロックロック
ロックロック

顔色が悪いけど、ビックリさせちゃった?

アグン
アグン

あはは、ちょっと考え事してて気づかなかった。

ロックロック
ロックロック

昨日はどこ行ってたの?シャオバイが先に帰ってきて、キミが一人でスラム街に行ったって聞いたけど。どうだった、何か手がかりはあった?

アグン
アグン

ロックロック姉さん……

ロックロック
ロックロック

どうしたの?

アグン
アグン

ボク、ヤバいことに巻き込んじゃったかも。

ロックロック
ロックロック

それで……結局その人に協力するって言っちゃったの?

アグン
アグン

うん、循獣を取り返すのは無理だから、近衛局に潜り込むことに加担させられちゃった……

ロックロック
ロックロック

近衛局なんかに行ってどうするの?

アグン
アグン

もしその循獣が中でヒドい扱いをされてたら、死んでも取り返してやるって言ってたよ。

ロックロック
ロックロック

だとしてもダメだよ!それは彼の責任でしょ?なんでキミまで巻き込まれなきゃならないのさ!

アグン
アグン

ボクも仕方がなかったんだ、烏雲獣を探すにはああするしかなかった。周りにも聞いてみたんだけど、野良の動物で一番詳しいのは彼しかいないって。

ロックロック
ロックロック

子供をそんなことで脅すなんて。ダメ、やっぱりキミ一人じゃ行かせられない、あいつが何を企んでいるのか分かったもんじゃないんだから。

アグン
アグン

でもそっちの仕事のほうが優先度高いんでしょ?こういうことならボク一人でもなんとかできるよ。

アグン
アグン

もしその時本当に何かあったら、彼に全部押し付けるからさ。近衛局からすれば、あのマフィアよりもボクのほうがまだ信用できるはずだし。

ロックロック
ロックロック

だとしても安心できないよ。それに急いで決めつけなくても大丈夫、こっちもキミに付き合ってあげられるぐらいの時間はあるんだから。

アグン
アグン

でもここのオペレーターたちって近衛局と親しい関係にあるって聞いたよ?ロックロック姉さんには頼れないよ。ボクは一応これでも余所の人間だから、何か起こっても収まりはつくはずだ。

ロックロック
ロックロック

そんなことはどうでもいいの!

アグン
アグン

ロックロック姉さん、落ち着いて……

ロックロック
ロックロック

でも……そうだね、軽率だった。

アグン
アグン

うん、だから安心して――

ロックロック
ロックロック

あたしは無理だから、あたしのドローンを向かわせるよ。

アグン
アグン

……それでも姉さんだって正体がバレちゃうじゃん!

ロックロック
ロックロック

出発する前にクロージャから最新の光学反射モジュールを貰ったんだ、一時的にドローンをステルス状態にすることができるヤツ。

アグン
アグン

なんか嬉しそうだね……

ロックロック
ロックロック

プロペラも改造して、なるべく音を出さないようにだってできる。音を出さずに飛んでいれば室内に入ってもバレたりしないでしょ?

アグン
アグン

でも、工具なんて今持ってるの?うわ……姉さん本当にここで改造しちゃうの?

ロックロック
ロックロック

シッ、いいから座ってて、すぐに終わるから。

ロックロック
ロックロック

こいつは優れものだよ。ビルに入ってもルートやら人の配置をこと細かく教えてくれるんだ。

ロックロック
ロックロック

それに監視カメラをジャミングしてキミの居場所がバレないようにだってきでるんだよ。キミがそこまで厄介だと思うような相手なら、こっちだって手は打っとかないと。

アグン
アグン

じゃあ……姉さんの言葉に甘んじよっかな。

龍門上城区、上廠街、近衛局ビル
午前

アグン
アグン

あれ、お水を買いに行くって言ってなかった?なんでポテトチップスになったの?

運営主
運営主

食え。

アグン
アグン

ボクに買ってくれたの?

運営主
運営主

ほかに誰がいるってんだ?俺はこんなもん食わねえんだよ。

アグン
アグン

……どうも。

運営主
運営主

さっさと食え、食ったらやるぞ。

アグン
アグン

昨日ビルに入り込む方法はあるって言ってたけど、今なら教えてくれないかな?

運営主
運営主

なんだ、分からないのか?

アグン
アグン

おじさんってば本当にマフィアなんだね。

運営主
運営主

見えねえのか?

アグン
アグン

見えるよ……でもなんでマフィアを辞めて愛護センターなんか開いたの?

運営主
運営主

あん時ファミリー内で内紛があったんだ、派閥を間違えた俺はドンに追い出されちまった。んで落ちぶれた俺はヤンニーと出会って、お互い救われた。

運営主
運営主

それから分かったんだよ、俺を必要としてくれるヤツもいるんだって。

アグン
アグン

そのヤンニーとは仲が良かったの?

運営主
運営主

当たり前だ。拾った時は俺を見ただけでぶるぶる震えていたが、今じゃ逆に俺を目に入れなきゃぶるぶる震えちまう。

アグン
アグン

奇妙なこともあるんだね、マフィアのメンバーが警察循獣と仲良くなるなんて。

運営主
運営主

“元”マフィアな!

運営主
運営主

フンッ、俺だって龍門に来てからこんなガキと一緒に近衛局ビル前でポテチを食うことになるたァ思いもしなかったぜ。

アグン
アグン

あっ、じゃあいる?もう食べちゃうよ?

運営主
運営主

ちょっとくれ。

運営主
運営主

歳月は刃物の如しとはよく言ったもんだぜ、年々人が削られて丸くなっちまう。

アグン
アグン

……

運営主
運営主

俺もとうとう頭がおかしくなっちまったらしい、なんでお前みたいなガキにいちいちこんなこと教えなきゃならねえんだ!言っても理解しないくせに。

アグン
アグン

それじゃあ、そろそろ行こっか。ポテチも食い終わったし。

運営主
運営主

……ああ、行こう。

龍門上城区、上廠区、近衛局拘留所
午後

運営主
運営主

お前正気か?自動車を盗むなんて罪をでっち上げやがって。

アグン
アグン

いいじゃん、少なくとも近衛局に潜入する目的は達成したんだし。

運営主
運営主

ていうかお前どうやって取調室から抜けてきたんだ?

アグン
アグン

色々細工をしたのさ、お巡りさんが部屋を出た後にこっそり抜けてきた。

運営主
運営主

俺が書いた図に従ってちゃんとカメラを避けてきたんだろうな?

アグン
アグン

それよりも確実な方法があるから大丈夫だよ、ここに来るまでの間ボクはまったくカメラに“映らなかった”から。

アグン
アグン

あっ、さっきも言ったよね?手を檻に置かないで、凍って皮が剥がれちゃうよ?

運営主
運営主

分かってるからさっさとしてくれ!

(アグンが氷を放ち、檻が開く)

運営主
運営主

収容部屋ならこの先にある。急げばヤツらが帰ってくる前に拘留所に戻れるはずだ。

アグン
アグン

それと約束、一目確認するだけだからね?

運営主
運営主

分かってるから黙ってろ、さっさと行くぞ。

(アグンと運営主が走り去る)

アグン
アグン

見えた、あそこだ。

運営主
運営主

ヤンニー!

ヤンニー
ヤンニー

(嬉しそうにその場を回る)あう、ワンワンワン!

運営主
運営主

ヤンニー、寂しかったか?俺は毎日お前に会いたかったぜ。

ヤンニー
ヤンニー

キャンキャンキャン――

運営主
運営主

よしよしいい子だ、ここでもちゃんと元気にしてるようで安心したぜ。それに見ろよお前の部屋、俺の寝室よりも広いじゃねえか、ハッハッハ。

ヤンニー
ヤンニー

わふぅ?

運営主
運営主

本当ならお前を連れて帰りたいところなんだが、俺から引き離されてからなんだか肉がついたようじゃねえか。

運営主
運営主

お前にもずっと苦労させちまったな。

ヤンニー
ヤンニー

(鼻を檻に押し当て、隙間から出ようとする)

運営主
運営主

ハッ、肉がついちまって檻から出られねえようになっちまってるじゃねえか。

ヤンニー
ヤンニー

わうぅ……

運営主
運営主

ずっと一緒にいたい気持ちは痛いほど分かる、でも仕方がねえんだ。

???
???

アグン、そろそろ戻らないと。向こうから警備員が向かって来ているよ。

運営主
運営主

誰だ?

アグン
アグン

……ステルスドローンだよ。

運営主
運営主

なんでそんなものを持ってるんだお前は!?

アグン
アグン

今は説明してるヒマはないよ。はやく行こう、警備員が来てる。

運営主
運営主

もう少し時間をくれ、こいつと話がしてぇんだ!

ロック二十七号
ロック二十七号

いいからさっさとそこを離れてよ!あんたが捕まろうがどうなろうがどうだっていいの、でももしアグンまで巻き込むことになったら、絶対に許さないんだからね!

運営主
運営主

急に怒鳴るんじゃねえ!ビックリするだろうが!

ロック二十七号
ロック二十七号

いいからさっさとそのデカいケツを引っ下げてそこから離れなさい!本当にブタ箱にぶち込まれたいわけ!?

運営主
運営主

テメェがそんな大声で怒鳴ったらバレねえもんもバレるだろうが!

運営主
運営主

じゃあなヤンニー、ここでおさらばだ。もう……もう会うことはないだろう。ここでいい子にして、しっかりご飯を食べるんだぞ。俺のことはもう忘れていい、新しいご主人を見つけな。

ヤンニー
ヤンニー

きゃうぅん!ひぃん!

ヤンニー
ヤンニー

(鼻先を檻に突っ込む)

ヤンニー
ヤンニー

くぅん……

運営主
運営主

(涙を拭く)もういいんだ、ヤンニー!

アグン
アグン

ロックロック姉さん……

ロック二十七号
ロック二十七号

なに?

アグン
アグン

先にドローンを撤退させて、ボクがこの人のために時間を稼ぐってのはどう?

ロック二十七号
ロック二十七号

ダメだよそんなの!キミまでバレたらどうするの?

アグン
アグン

大丈夫、心配させるようなことはしないから。

アグン
アグン

(服を引っ張る)

ロック二十七号
ロック二十七号

何してるの?

アグン
アグン

顔を隠してる。

ロック二十七号
ロック二十七号

アタシがいるんだからそんなことしなくてもいいでしょ?

アグン
アグン

(口を開ける)

ロック二十七号
ロック二十七号

まだ気を遣うっていうのなら今すぐここから出ていくけど?

アグン
アグン

(口を閉じる)

ロック二十七号
ロック二十七号

あんた、あと10分だけ時間を稼いであげる。それまで言い残したいことを言っておきなさいよ!

運営主
運営主

……お前ら、なんでそこまで俺を……

ロック二十七号
ロック二十七号

今伝えなきゃ永遠に後悔するからだよ、あたし痛いほど知ってるから。

ロック二十七号
ロック二十七号

ほら行こ、アグン。

アグン
アグン

うん。

近衛局隊員
???

……ここなんか寒いな。

近衛局隊員
???

壁に氷が付着してる……まずい、これはアーツだ!

近衛局隊員
???

支援要請せねば――

ヘルメットに備え付けられた通信機に触れようとする近衛局人員の手を、冷たく堅い氷が阻もうとする。
振り解けないことを知った彼は、思い切って壁へ激突しようとした。だが足が地面から離れることはなく、下から這い寄ってくる寒気に気を取られて下を向けば、氷の層はすでに腰の辺りまで来ていた。

アグン
アグン

お巡りさんを傷つけるつもりはないよ、ただちょっとお願いしたいことがあるんだ。

アグン
アグン

一つはこの場所を借りたい、もう一つはあと何分か待っていてほしい。

近衛局隊員
???

それが人にお願いをする時の態度か?顔を隠しやがって。

アグン
アグン

それについては申し訳ないと思ってるよ。

近衛局隊員
???

お願いするんだったら、もっと詳細を教えてくれたらどうなんだ?

アグン
アグン

お別れしたい人がいるんだ、これじゃダメ?

近衛局隊員
???

お別れがしたいのならカフェにでも行ってゆっくりやればいいだろ。なんでわざわざ動物の収容部屋なんかで……

近衛局隊員
???

まさか……

近衛局隊員
???

あの野郎メイタンに会いにわざわざ近衛局にまで来やがったのか!よくもそんなことができたな、さっさと出てこい!

アグン
アグン

ヤバッ、喋り過ぎちゃった!

ロック二十七号
ロック二十七号

(中々頭が冴えてる人だね……アグン、どうする?)

アグン
アグン

(大丈夫、氷はそう簡単には剥がせない。ボクたちが逃げた後も証拠は残らないさ。)

ロック二十七号
ロック二十七号

(だとしても早くしてね、あとできっと人が増えてくるから。)

近衛局隊員
???

さっさと出てこい!コソコソしてそれでも男か!

近衛局隊員
???

メイタンにメロメロと惚気やがって!

運営主
運営主

このクソッタレが――

アグン
アグン

(まずい、煽られちゃってる。)

運営主
運営主

おいガキ、そいつを放してやりな。今日という日はこいつをタコ殴りにしてやる。

近衛局隊員
???

お前、未成年を唆して犯罪に加担させたのか!?

アグン
アグン

いやお巡りさん、それは誤解だよ。

ロック二十七号
ロック二十七号

(アグン、今は何も喋らないほうがいいと思うよ……)

運営主
運営主

いいからさっさとそいつに纏ってる氷を剥がせ!

アグン
アグン

でも……

運営主
運営主

いいからやれェ!

(氷が全て溶ける)

アグン
アグン

(参ったな……)

アグン
アグン

ごめんね、お巡りさん。

運営主
運営主

このクソッタレが!

(運営主と循獣訓練員が殴り合う)

近衛局隊員
循獣訓練員

命知らずめ、メイタンを攫いに近衛局まで入り込んできたのか!

運営主
運営主

メイタンじゃねえ、ヤンニーだ!俺のペットなんだよ!

近衛局隊員
循獣訓練員

いいやあいつの名前はメイタンだ!チェルノボーグ事変で救助活動、爆発物探知、追跡任務に何度もあたってくれた、近衛局で一等勲章を叙勲した循獣だ!断じてお前のもんじゃない!

運営主
運営主

ほざけ、俺のモンじゃなけりゃ誰のモンだって言うんだ!テメェがあいつのご主人って言いたいのかよ!

近衛局隊員
循獣訓練員

なら教えてやる!メイタンのご主人はここにいた上級警司のシェー・ミンだ!貴様みたいな前科まみれのダメ人間が飼っていい循獣じゃない!

運営主
運営主

クソッタレが――シェーミンだろうがなんだろうが、んなもん知ったこっちゃねえ!

近衛局隊員
循獣訓練員

大人しくしろ!

運営主
運営主

ひっかいてる爪を引っ込ませろってんだこのクソが!

近衛局隊員
循獣訓練員

なら私の太ももを放せ!

運営主
運営主

じゃあまずはテメェの腕を俺の首からどけろ!

アグン
アグン

あの二人、ケンカしてるの?

ロック二十七号
ロック二十七号

どちらかと言うと暴れ回ってるだけね。

ロック二十七号
ロック二十七号

あんな地面をゴロゴロと転がってて、ケガでもしないのかな?

アグン
アグン

ケンカじゃないならケガはしないはずだよ。

ガシャン――ガシャン――
一方その頃、例の循獣は未だケガのことなど顧みずに檻へ頭をぶつけていた。早く檻から抜け出し、地面で暴れ回ってれる二人の止めに入ろうと必死でいるようだ。
檻への衝突は回数を重ねるごとに激しくなっている。すでにこの子の柔らかそうな鼻は血まみれだった。

アグン
アグン

……こっちはそれどころじゃないかも。

ロック二十七号
ロック二十七号

あの循獣を止めるのが最優先みたいだね、あの二人はとりあえず放っておこう。

アグン
アグン

ねえ君、外に出たい?

ヤンニー
ヤンニー

(必死にアグンが差し伸べてきた手を擦る)

アグン
アグン

あの二人を止めたいんだね?

アグン
アグン

大丈夫だよ、あの二人ならただ暴れ回ってるだけ、変にケガを負ったりはしないよ。

ヤンニー
ヤンニー

わう……?

アグン
アグン

でも確かに、あのままやり合ってても埒が明かないね……

アグン
アグン

(しゃがんで檻のカギに手を置く)

アグン
アグン

とっくにどっちの味方に付くかは決まってるんでしょ?

ヤンニー
ヤンニー

わんわん!

アグン
アグン

ただ向こうの二人が勝手に決めつけてただけなんだよね。

アグン
アグン

だったら、自分でその二人に教えてあげな。

アグン
アグン

ほら、行って。

ヤンニー
ヤンニー

(尻尾フリフリ)

檻が開ききるのも待ち遠しく、その狭い隙間から抜け出したヤンニーは、一目散に地面で揉みくちゃにされてる二人のもとに駆け付き、懸命に吠え出した。
いくら吠えてもまったく構ってくれない二人を見て、ヤンニーは堪らず訓練員の足に噛みつく。痛みから動きを止めた訓練員は、困惑しがらその循獣を見下ろした。

近衛局隊員
循獣訓練員

メイタン、お前それどういう意味だ……?

運営主
運営主

ヤンニー……

アグン
アグン

二人とも、そろそろ手を止めてもらえないかな?

近衛局隊員
循獣訓練員

ようやく顔を見せてくれたか、坊や。

近衛局隊員
循獣訓練員

きっとこいつに唆されたんだろ。君はまだ子供だ、今日の出来事については追及しないでおく、だからはやくお家に帰りなさい。これは私とこいつの問題だ、手出しは無用だよ。

運営主
運営主

そうだ、ガキはすっこんでろ。お前の欲しがってた記録なら下城(ハーセン)区九番街の四にある廃棄された工場に置いてある。部下にもそのことを伝えてあるから、そいつから渡してもらいな!

アグン
アグン

ボクとしては、ここで無理してでもおじさん二人を止めてやってもいいんだけどね。

近衛局隊員
循獣訓練員

君、一体なにをするんだ!

運営主
運営主

おい、言ったそばから氷の柱を急に出すんじゃねえ!

近衛局隊員
循獣訓練員

……一時停戦だ。三つ数えたら、お互い手を離そう。

運営主
運営主

いいだろう。三、二、一。

???
運営主&循獣訓練員

ふぅ――

運営主
運営主

ゲホッ、なんで二日も首を括られるハメに遭うんだよ。

アグン
アグン

いや~……なんでだろうね。

近衛局隊員
循獣訓練員

フッ、お前……マフィアなんだろ?そんなお子ちゃまな戦い方でよく今まで生き残れたな?

運営主
運営主

テメェに言われたかねえ、近衛局のくせに恥ずかしくねえのか?

近衛局隊員
循獣訓練員

私は事務職から異動してきたんだ。

運営主
運営主

マフィアだって……似たような仕事ぐらいあるわ。

近衛局隊員
循獣訓練員

(白い目を剥く)

アグン
アグン

二人とももうちょっと場所を空けてもらっていい?ボクが間に入るから。

運営主
運営主

どうしても真ん中に座らなきゃ気が済まねえのか?

近衛局隊員
循獣訓練員

(しぶしぶ場所を空ける)はぁ……

ヤンニー
ヤンニー

わんわん!

運営主
運営主

おお、お前も俺の隣がいいのか?

近衛局隊員
循獣訓練員

メイタン、それはそいつに付くって意味でいいんだな?

近衛局隊員
循獣訓練員

あんな見ずぼらしい住居と飯しか与えられてないのに、一体そいつのどこが気に入ったんだ?

運営主
運営主

……確かに俺んとこはテメェらんとこほど環境は整ってねえが、それでも俺は……できるだけこいつがひもじい思いをさせないだけのことはしてきた。

運営主
運営主

俺の腹が少しでも膨れてりゃ、こいつは飯で困ることはねえ。こっちが寒さを凌ぐ代わりに、こいつが寒さを覚えることはなかったさ。

運営主
運営主

満足させてやれねえかもしれねえが、それでも俺はできるだけのことはした。

近衛局隊員
循獣訓練員

ミンがまだいた頃は、朝早くからお前を散歩に行かせてあげてた。食べるのも着るのも、なんだって一番いいものを用意してやった。

近衛局隊員
循獣訓練員

そんなご主人を、お前は忘れてしまったのか?

ヤンニー
ヤンニー

くぅん……

近衛局隊員
循獣訓練員

彼はとてもお前を愛してたよ。お前がまだ赤ちゃんだった頃だって、片時も離れずお前の世話に明け暮れていた。

近衛局隊員
循獣訓練員

チェルノボーグがぶつかってきたあの日、彼がお前を任務に連れて行ったきり……お前は失踪し、彼は帰らぬ人となってしまった。遺体は見つからなかったよ。

近衛局隊員
循獣訓練員

そんなお前は、彼がいなくなった途端に忘れてしまったのか?

運営主
運営主

横山(ワンサーン)ビルってとこでか?

近衛局隊員
循獣訓練員

ああそうだ……

近衛局隊員
循獣訓練員

忘れもしない。

運営主
運営主

なら、ヤンニーも忘れちゃいないさ。俺はそこでこいつを拾ったんだが、しょちゅうそこに連れていかれては吠えまくってたよ。

近衛局隊員
循獣訓練員

そうなのか?憶えていたのなら、なぜご主人を挿げ替えたんだ?

ヤンニー
ヤンニー

くぅん……

運営主
運営主

(優しく抱えてるヤンニーの鼻にできた傷を撫でる)

運営主
運営主

おいガキ、さっきから黙っててどうした……?

アグン
アグン

ちょっと疲れただけだよ。

近衛局隊員
循獣訓練員

……子供なのにまるで可愛げがないな。

近衛局隊員
循獣訓練員

メイタン、いや、今はヤンニーだったな?

ヤンニー
ヤンニー

くぅん……

近衛局隊員
循獣訓練員

今のご主人のことが大好きなんだろ?ならそいつについて行くといいさ、もう私に無理して引き留めるような資格はないよ。

運営主
運営主

いいのか?

近衛局隊員
循獣訓練員

私も疲れてしまった。何年も背負ってきたが、さすがに重すぎた。

運営主
運営主

そんなあっさり諦めるのかよ?

近衛局隊員
循獣訓練員

一つだけ言っておく。こいつがお前について行くと決めたのなら、何があってもきちんと世話をし続けろ。

近衛局隊員
循獣訓練員

貴様のあのボロ家にはちょくちょく顔を出す。もし飼育放棄なんざしたら、タダじゃ済まないぞ。

運営主
運営主

俺がこいつを棄てるわけがねえだろこのバカ野郎!

近衛局隊員
循獣訓練員

ならもう黙ってろ、連絡を入れる。

運営主
運営主

(おい、あいつを止めねえと!)

アグン
アグン

シーッ――

近衛局隊員
循獣訓練員

フー、すまないが三階からあるファイルを取ってきてもらいたい。

近衛局隊員
循獣訓練員

それとアトン、循獣の収容部屋の空調がおかしくなったみたいなんだ、診てくれ。

……

ロック二十七号
ロック二十七号

(アグン、こっちに向かってきてた人たちが余所へ行ったよ。)

アグン
アグン

じゃあボクたちは先に帰ろっか、ロックロック姉さん。

運営主
運営主

さあヤンニー、俺たちも帰ろう、我が家に!

運営主
運営主

おい、なんで檻に戻るんだ?

近衛局隊員
循獣訓練員

メイタン……どうしたんだ?

近衛局隊員
循獣訓練員

もしかして、残りたいのか?

近衛局隊員
循獣訓練員

メイタン……

近衛局隊員
循獣訓練員

相変わらず食いしん坊なヤツめ。

ヤンニーは丸っこく愛らしいお尻をフリフリと振りながら、檻の中からフリーズドライの袋を咥えてトボトボと元マフィアの男のもとへ駆けつけて行った。

近衛局ビルの入口

近衛局隊員
循獣訓練員

見送りはここまでだ。

運営主
運営主

ったく……なんであんなに道が入り組んでんだよ、目が回っちまいそうだぜ。

近衛局隊員
循獣訓練員

さっき案内した通路は普段誰も使わないところなんだ、文句を言うな。

運営主
運営主

ハッ、お巡りさんの世話になっちまったな。

近衛局隊員
循獣訓練員

フンッ――お前のために案内したわけじゃない。

近衛局隊員
循獣訓練員

じゃあな、メイタン……いや、ヤンニー。

運営主
運営主

時間があったら……お前もこいつに会ってやれよ。

(運営主達が立ち去る)

近衛局隊員
循獣訓練員

(長く息をつく)

近衛局隊員
循獣訓練員

……安心してくれ、ミン。ちょくちょく顔を出しにいくよ。

下城区九番街の四

運営主
運営主

入りな、記録なら全部ここに残してある。

アグン
アグン

すごいたくさん……天井にまで届きそうだ。

運営主
運営主

烏雲獣だろ……どこにあったかな、確かにちゃんと分けてあったんだ。

運営主
運営主

(探し回る)

アグン
アグン

あっ、気を付けてね!

運営主
運営主

あったあった。おい、ちゃんと受け取れよ。

運営主
運営主

わかった。

(運営主がはしごを降りてくる)

運営主
運営主

この中だ。どれどれ……去年のだろ……

運営主
運営主

烏雲獣なら四匹も来てたのか……

運営主
運営主

こいつか?拾った後、近くの婆さんに引き取らせてもらったんだ。場所もあそこからそう遠くはない。

アグン
アグン

ううん、こいつは耳がちょっと欠けてる。ボクが探してるヤツは耳にケガはない。

運営主
運営主

じゃあこいつは?いや違うな、こいつはもう飼い主が引き取ってたか……

アグン
アグン

歳も違うしね、こいつ口に白い毛が生えちゃってるぐらいヨボヨボだ。

運営主
運営主

じゃあこいつで間違いねえな。見ろ、そっくりだ。

アグン
アグン

いやこいつ、胸の辺りの毛が茶色っぽくなってるよ。

運営主
運営主

あぁすまねえ、見間違えちまった。

運営主
運営主

ん?なんか落ちたぞ?机の下、なんも見えねえな。

アグン
アグン

おじさんはファイルを探してて、ボクが拾うよ。

運営主
運営主

おう。んで烏雲獣だから全身真っ黒だろ?ケガもないし、7月25日の朝に窓から逃げたヤツとなると……

アグン
アグン

そのまま読み上げてて。あと見つかったよ、名札がついた首輪みたい。

運営主
運営主

見つかった時は……紐が切れた首輪と……大量の血痕が地面に残ってたっと。でもあの血の量じゃ……もうとっくに死んでるだろうな。

アグン
アグン

……

アグン
アグン

(首輪を灯りの下で観察する)

運営主
運営主

名札になんか書いてるか?

アグン
アグン

……うん。

運営主
運営主

なんて書いてあるんだ?

アグン
アグン

六十四(リュウスーチー)……

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