
ミンミン姉さん、おはよう。

おはようシャオバイ、今日は――

11号室の患者が容態急変。血中源石濃度が急上昇、体表源石も急激に成長し始め激痛を引き起こしている。急性発作と見られるので当直医は直ちに11号室まで来てくれ。

了解、救急薬剤と設備を持って直行します。

ミンミン姉さん、私にも何かお手伝いできることって……?

ごめんねシャオバイ、あとでまた話すから!

あっ、うん。

おはようシャオバイ、朝ご飯はもう食べた?

おはようロックロック姉さん、ご飯ならもう食堂で食べたよ。

ロックロックさーん、今お暇ですか?ちょっと事務所の汚水処理施機が故障しちゃったみたいなんで、診てくれます?

わかった。今ちょうど工具一式を持ってるから、案内して。

ロックロック姉さん、私もついてって……

それじゃあまたお昼時に、シャオバイ。
(ロックロックが立ち去る)

何か手伝えないかな……

……みんな忙しそう……
(スズランが近寄ってくる)

シャオバイさん、おはようございます!

スズランちゃんおはよう、これからお出かけ?

はい、ここ数日に何人か亡くなられた方が出たので、その遺品を簡単に供養しようと思ってるんです。皆さんが安からに眠れますようにって。

事務所って……毎日人が亡くなってるの?

はい……いつも医療オペレーターさんたちが尽力してくれてますけど、それでも避けて通れないこともありますので。

じゃあそのお葬式で私も何か手伝えることってないかな?私も何かお手伝いがしたくて……

お葬式?いえいえ、ちょっとした儀式なだけですよ。

ですので大丈夫です、シャオバイさん、私一人でもできますから。

シャオバイさんならここにいてください。色んなオペレーターさんたちから聞きましたよ、ここに来てから患者さんたちがみんな笑顔になれたって。

あはは、ホントに?

はい、鉱石病の治療は退屈で長いものですから、ここ数日患者さんたちとお話してくれて皆さんとても喜んでましたよ。

それはよかった、でもほかにも何か手伝えることって……

私たちにとって、話しかけてくれる時に恐怖の目を向けないであげるだけでもありがたいことなんです。もう十分シャオバイさんには助けられていますよ。

それって当たり前のことでしょ?それを言われちゃうと、ますます何もやってないように思えちゃうよ……

あっ、もうそろそろ時間ですね、行かなきゃ。

あっ、ごめんね引き留めちゃって!

いえ、じゃあまた夜に!

うん、またね!
(スズランが立ち去る)

(口をとがらせる)むー、また暇な一日になっちゃった……

お兄ちゃんも、ユエンちゃんのために一緒に烏雲獣を探そうって言ってたくせに、私を先に帰らせて一人で探しに行くだなんて。

……私が探すって言い出したのに、結局はお兄ちゃんに任せっきりじゃん。

荒野にいたあの時も、全然お兄ちゃんを手伝ってあげられなかったし、心配までかけさせちゃって。

いつまでもお兄ちゃんに頼ってないで、私も何かしなきゃダメなのに。
(アグンが近寄ってくる)

どうしたの、シャオバイ?

お兄ちゃん、いつ帰ってきたの?烏雲獣の手掛かりは見つかった?

あるにはあるけど、悪いニュースしかないかな。その烏雲獣なら……もう死んじゃったらしい。

そんな……それユエンちゃん知ってるの?

うん、さっきユエンちゃんのところに行ってきた。

絶対悲しんじゃってるよね……どうしようお兄ちゃん?

そうだねぇ、ここはシャオバイの出番かな。

私?私に何ができるの?

ユエンちゃんの傍にいてあげて。ユエンちゃんもそうしてほしいと思うよ?

私が傍にいたら……ユエンちゃんは悲しまずに済むの?

シャオバイが傍にいてあげたらね。

わかった!しばらくはユエンちゃんに付きっきりでいてあげるね!

リュウスーチー……うぇぇぇん……
(ドアのノック音)

ユエンちゃん、入ってもいい?お菓子を持ってきたよ。

(ささっと涙を拭く)

シャオバイ、入っていいよ、カギかけてないから。
(シャオバイがドアを開けて入ってくる)

ふふーん、ここでクイズです!お菓子はどっちの手に入ってるでしょーか?

わかんない……

当ててみて。

右手?

あはは、あったりー!イチゴ味の飴一個ゲットだね。じゃあ当てられたご褒美として、右手にあるこのモモ味のグミもあげちゃいまーす。

クスッ。

隣、座ってもいい?

うん……

さっき、お兄ちゃんが病室から出てきたのを見たよ。

ユエンちゃん……大丈夫?

わたし……アグンおにいちゃんには感謝してるよ。でも事実を受け入れるには……もうちょっと時間かかりそう。

(ユエンちゃんの手を握る)

じゃあ私が傍にいてあげるね。もしお話がしたくなったら、いつでも呼んでくれてもいいから!

……ありがとう。

(ユエンちゃんの指をむにむにする)

アグンおにいちゃん……首輪を持ってきてくれたの。わたしがリュウスーチーにつけてあげた首輪。

首輪……血がついてた、何も考えたくなかった。きっと苦しかったんだろうって。

(ユエンちゃんの手をぎゅっと握る)

ん……心配しないで。ロックロックおねえちゃんと約束したんだ、悲しんでも自分を傷つけちゃダメだって。

ユエンちゃんは頑張ってると思うよ。

じゃあ……来週にもロックロック姉さんと一緒にロドス本艦に行っちゃうの?

うん、荷物はもう片付けたよ、ベッドの下に置いてある。リュウスーチーがいないのなら、もうここにいる意味もないし、できれば出ていきたいかな。

ユエンちゃん……

じゃあ、リュウスーチーのためにお葬式をやろう!

お、お葬式!?

そっ、ユエンちゃんが行っちゃう前に、リュウスーチーにお葬式をやってあげて、しっかりとお別れを言うの。

いいよそんなの。お葬式ってお金持ちにしかできないことだから、わたしたちには無理だよ。

どうして無理だって言えるの?

ここにいる感染者たち、死んでもお葬式できないから……

……ユエンちゃんが無理って言うんだったら、私がしてあげる!

え……?

亡くなってしまったんだったらきちんとお別れをしなきゃ!リュウスーチーのお葬式なら、私がやってあげるよ!

ごめんくださーい、ここって順心(シュンサン)葬儀社ですか?

おい、受付けに子供が入り込んじゃってるぞ。お帰り願いな。

あの、入り込んじゃったわけじゃないの!お葬式をお願いしに来ました!

なら葬儀用品を買いに来たのか?それとも申し込み?

も、申し込みです!

亡くなられた方は?

私の友だちのペットです。

あはははは、君からかってるのかい?龍門でペットのために葬式をやるのは、金があり余ってる人だけだよ。

笑わないでください!どこもおかしくはないじゃないですか!

はははは、いや~子供ってのは純粋だね。

いいかいお嬢ちゃん、うちは主に上客のためにサービスを提供してやってるのさ。市街地の中心に埋葬されるようなすごい人の葬式だって執り行ってきたことがあるんだぞ。

何よ、一般人はお断りってこと?

お友だちを亡くしたのなら花やら蝋燭を買って、自分たちで広場に行って追悼するぐらいなのが龍門じゃ主流なのさ。

ペット一匹のためだけに葬式を執り行うのは贅沢ってもんだよ。

贅沢だったら……たくさんお金がかかるはずだよね?

じゃあやめときます……そんなのにお金持ってないし、申し込みはキャンセルでお願いします。あっ、でももしペットの葬式で使えそうなものがあったら教えてくれますか?

うーん、うちに置いてるのは全部ヒト用だしなぁ……ペット用は置いてないよ。ペットってなんの動物なんだい?代用できるモノがないか探してみるよ。

烏雲獣です、これ写真。

(ん?なんかすごい見覚えがあるな……これ、ユエンお嬢様のとこの烏雲獣じゃないのか?)

お嬢ちゃん、そのお友だちの名前も聞いてもいいかな?

ユエンちゃん。

(ユエンお嬢様をユエンちゃんと呼んでるのかこの子は?もしかしてユエンお嬢様のご友人とか?)

(そういえば数日前にもユエン家から、いなくなった烏雲獣の件で色々問い合わせてきていたな。)

(じゃあまさか、この子はお嬢様の代わりにそれを伝えにきたのか?)

オホン、えー、そのユエンちゃんさんの烏雲獣は見つかりましたか?

うん、色んな人に探すのを手伝ってもらったけど結局見つからなくて、私のお兄ちゃんが首輪を見つけたの。血がついてたって言ってたから、もう死んじゃったんじゃないかって。

(そんな大勢の人を雇って探しても結局見つからなかったのか、おいたわしや。)

ではもう少しだけお伺いしたことがあるのですが、そのユエンさんは落ち込んでらっしゃいましたか?

無理してるみたいだけど、悲しんでたと思う。

(うちの社長はずっとユエン家のお眼鏡に叶いたがっていた。ならそこのお嬢様のこととなれば無視はできないぞ。)

(クソぉ、なんで見分けられなかったんだ。よくよく考えてみたら、ただの子供がペットのために葬式をやれるはずもないじゃないか……)

心中お察し致します。しかしご安心を、葬式なら当社が受け持ちましょう。きっとユエンさんのご満足いく葬式にして差し上げますよ。

でもペットのために葬式をやるのは贅沢だって言ってなかった?

それならお忘れ頂ければと思います。ユエンさんのために葬儀を全うできるのであれば、こちらとしても何よりでございますよ。

じゃ、じゃあ……?

葬式の費用もすべてこちらが持ちましょう。ただその後に、是非ともユエンさんから我が社の社長に労いの言葉をかけて頂くようにお願いしたいのですが……

いい葬式ができたのなら、ユエンちゃんもきっと褒めてくれると思うよ。

ありがとうございます!あははは、ではお客様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?

苗字はロだよ。

ロ様、ですね。いや~ユエンさんは大変幸運なお方でございましょう、なんせ貴方様のようなご友人を持てたのですから~。

(顔を真っ赤にする)えへへ、そんなことないよ~。

では我が社が提供する最高のサービスについて、少しだけお話いたしましょう。こちらへどうぞ。

まずはこちら、精巧に作られた冥幣です。今お手元にあるのが尚蜀の冥幣職人に作って頂いた品物でして。

亡くなられた方々の生活様式や年齢、性別や性格に合わせた作られたものもございます。

ゲーム機やコントローラー型まである……しゃあ烏雲獣に合うようなものってありますか?

ペット用でしたら遂次オーダーメイドして頂く形になりますね。ご要望がございましたら、紙製の小屋とかお椀、爪とぎ、缶詰やらドライフードなど、なんでも製造して頂けます。

……バリエーション豊富なんだね。

では二つ目の項目をご覧ください、こちらは花輪になっております。

色んな色があるんだね……目が眩んじゃいそう。

そうでしょう、こちらの花輪はすべて9981種もの素材で作られたものでして、あしらい方もしっかりと五行八卦にちなんでいるんですよ。

葬式には欠かせない一品でございます。

えーっと、でも烏雲獣にこんなおっきな花輪は必要ないよね?

その際はコンパクトサイズな花輪を設置することも可能です。花輪に書かれたメッセージなら龍門で著名な書法家の先生にお願いすることもできますよ。

色々と用意してくれてありがとう。

では最後の項目、うちで一番好評なサービスをご紹介致します。

お父さああああああん!どうかお達者でえええええ!!!

(ギョッと驚く)

なんですかあれは!

おいお前たち、ここで練習するな。お客様を驚かせてしまっただろ!

あっ、いえ、お構いなく……

いや~失礼しました。あれが我が葬儀社が誇る悲痛な雰囲を作るプロ集団になります。ご来場くださった方々もあれを聞けばどっぷりと悲しい気持ちに浸かることができるはずです。

じゃあその……ペット葬の雰囲気ってどうするの?

おいお前たち、こちらのお客様に烏雲獣のバージョンをお見せしろ。

(ささっと烏雲獣の耳のカチューシャをつける)

にゃうあああああああ!!!みゃみゃみゃああああああ!!!

うわっ……えっと、すごいですね。

ロ様、本当に住所はここでお間違いありませんか?

うん、一緒に何度も確認したよね?

本当にユエンさんはこちらでご療養を?

うん、ここだよ

なるほど、では必要なものはすべて入口に用意しております。その際もう一度確認したいのですが、本当に僧侶は必要ないのですか?ご紹介させて頂いた方々はみな経験豊富な方たちですよ?

ありがとう、でももういるから大丈夫。

では、差し支えなければそのお方をご紹介して頂けないでしょうか……?

私とユエンちゃんのお友だち、極東から来たの。小っちゃい頃から神社に住んでるから、儀式のやり方には困らないと思う。

あっ、ユエンさんのご友人でいらしたんですね。寡聞にして存じ上げられませんでした。

(今の上流階級は外から僧侶をお招きするのが主流になってきたのか。なら、ウチもサーボスを一新してこの先も選んでもらうように工夫しておかないと……)

では、ほかにお聞きしたいことがないのでしたらここで失礼させて頂きます。ほかにも何かご用がございましたら、いつでもお呼びくださいませ。

うん、ありがとう!

ユエンちゃん、さっきから覗いてきているけどどうしたの?入ってこればいいのに。

シャオバイ、あのおじさんは?

色々用意してくれたすっごくいい人!本当は自分たちでちっちゃいお葬式をやるつもりだったんだけど、リュウスーチーの写真を見せたら喜んで葬式をやってくれるんだって。

ここに置いてあるもの、どれもすっごく高いモノに見えるんだけど、いくらかかったの?

大丈夫、費用は全部向こうが持ってくれるんだって。それにユエンちゃんが悲しんでいないかまで心配してくれたんだよ。

すごいね、わたしたちみたいな人のためにここまでしてくれる人がいただなんて思いもしなかったよ。

ねえこれ見て、これどう思う?一日で作ってくれたらしいよ。

すごーい、まるで本物のリュウスーチーみたい……あの子が生きてた時なんて、こんなにいいモノなんか用意してあげられなかったのに。

ここまでしてくれたのなら、あのおじさんにもお礼を言っておけばよかった。

シャオバイもありがとうね、わたしなんかのためにここまでしてくれて。わたしにはこんなことできないよ。

こちらこそ、ユエンちゃんには感謝してるよ。

ここに来てから、私は何もお手伝いできなかった。みんな忙しそうにしてたのに。

治療もアーツも、機械の修理だって私にはチンプンカンプン。私はただここで、患者さんたちが苦しんで悲しんで……離れていくところを見ているだけだった。

だからユエンちゃんのために何かしてあげられて、私すっごく嬉しいの!私を信じてくれてありがとう、ユエンちゃん。

ううん、シャオバイがいてくれるだけでも嬉しいよ。

さっ、とりあえずお葬式の準備に取りかかろっか!

それにしてもスズランちゃんまだ帰ってこないね、取り仕切ってもらいたんだけどなぁ。

今日の儀式って、多分終わってるはずだよね。

私ちょっと探してくるよ、ユエンちゃんはここで待っててね。

(首を傾げながら遠ざかっていくシャオバイの後ろ姿を目で追う)

わたしもシャオバイみたいに……勇敢で真っすぐになれたらいいのになぁ。

聞いてくれよ、ついさっきデカい客から案件を貰ったんだ。驚くなよ――あのユエン家のお嬢様からだ。

(あれ、あのおじさんまだここにいる?)

(あいさつしたほうがいいかな?でも電話してるし、なんだか忙しそう。)

(ちょっとだけ待ってみようかな。)

ユエンちゃんだよユエンちゃん。ほら、この間社長に電話したあそこの、思い出したか?

先月烏雲獣がいなくなって、もし見つからなかったら葬式をやってくれって、今日彼女の友だちがそれを伝えに来たんだ。

(あれ、ユエンちゃんの烏雲獣がいなくなったのって一年前なんじゃ……?)

ただその友だちがくれた住所がどうもおかしくてな。必要な用具諸々をユエン家じゃなくてロドスっていう製薬会社に届けてくれって言うんだ。

いやでもおかしくもないか。ユエン家は長い間化粧品業界で儲けてきたんだから、製薬方面にも事業を展開したんだろう。

(“ユエン”家?ユエンは苗字じゃなくて、名前なんだけど……それに化粧品ってなに?あそこのオペレーターさんたちがそんなものを作ってるところなんて見たことないんだけど。)

まあ詳しいことはまた後で話すよ。これでユエン家とも繋がりができそうだ、会社にとっても自分にとっても美味しい話だよ、まったく。

(さっきから聞いてると、どれもユエンちゃんのことを話してるようには……)

(もしかして、誤解しちゃった?)

なんかよく分からないけど、とりあえずスズランちゃんを探しに行こう。

ここが感染者のためにお葬式をやる場所なのかな……朝行ったあの公園とは全然違う。

ここにある写真って全部遺影なのかな?

みんなすごい若く見える……

あれ、これ……リュウスーチー?

写真の半分が隠れちゃってる。

(上に被ったほかの写真を除ける)

ん?このリュウスーチーを抱っこしてる男の人、誰だろう?

……どういうことなの?
一切衆生、苦厄無終、輪廻回転、重入安楽。

スズランちゃんの読経の声だ!

スズランちゃん!

シャオバイさん!どうしてここに?

帰りが遅いなーと思ったから、様子を見に来たの。

わっ、もうこんな時間になっちゃったんですか?祈祷に夢中になってて、お日様が傾いてることに全然気付きませんでした。

ここにある写真に映ってる人たちってみんな最近亡くなった患者さんたちなの?こんなにたくさんいただなんて知らなかったよ。

ロドスの患者さんだけじゃなく、ほかの方たちもいるんですよ。お葬式できるお金もないものですから、こうして親族や親友の方からお写真を借りてここで供養してるんです。

えっ、写真だけなの?

写真があるだけでもマシなんですよ。写真すら……ない方たちもいますから。

そうなんだ……

ねえスズランちゃん……さっきは亡くなった感染者全員にお祈りしてあげてたの?

万物には霊魂あり、命の終わりは死にあらず。写真がここに放置されてると、私もなんだか可哀そうだなと思って。だから少しでも安らかに眠れるようにお経を読んであげてたんです。

それだけでいいの?

さあどうなんでしょう……ただ、私にできることと言えばこれぐらいしかないので……

この写真に映ってる人たちってその鉱石病に罹っちゃったからお葬式をしてあげられなかったってこと?どうして?

私には理解できないよ。
シャオバイは昨日訪れた公園のことを思い出した。キレイに刈られた芝生には蝋燭と花が添えられており、葬式に参加していた人たちはみな厳粛で悲しい表情をしていた。
だがここにそんなものはない。
ここにある色褪せてしまった写真と錆びた金網、そして耳をつんざくほどの噪音と空気に弥漫するむせてしまうほど匂いが絶えず彼女に語りかけてくるのだ――
去り行く感染者が所持していけるのは己の命だけだ、と。

……どうかしましたか、シャオバイさん?

前に……

これとはまったく違うお葬式を見たことがあったの。

感染者のためじゃないお葬式、ですか?

うん、すごく豪華なお葬式だった。

それって誰のお葬式だったんですか?

……ペットの。

ぺ、ペット!?

えぇッ!?じゃあ、あのユエンお嬢様のご友人ではないと!?

そのユエンお嬢様が誰なのかは分からないけど、少なくとも私の知ってるユエンちゃんではないのは確かかな。

なんでそれをもっと早く言ってくれなかったんだ!?この嘘つきめ!

そっちが最初からずっと勘違いしてたからでしょ!私はウソついてないもん!

クソッ、なんてこった!こんなこと社長に知られたら怒られるだけじゃ済まされないぞ。

回収だ、用具は全部回収しろ!一つも残すなよ!

はい!

こんな時も整然としているんですねー。

お前らに何が分かる!これがプロってもんだ!

まったく、とんだ大損だ。はやく撤収するぞ。
(葬儀社社員達が立ち去る)

ミンミン姉さん、この後弁償とかされるのかな?

しないと思うよ。ああいった人情をかけて関係を築こうなんてこと、龍門じゃ表に出せないからね。だから今回の葬儀費用も、自分たちで払うしかないのかも。

でもなんだか……申し訳ない気がする。

いいっていいって、あんな人を見下してる連中なんて、あれぐらい痛い目に遭ってちょうどだよ。それよりもユエンちゃんのところに行ってあげて、あそこの空き地で待ってるから。

シャオバイ、来てくれたんだね!あいつらになんか言われてない?

ううん、平気。なんと言ったって、あっちが勘違いしてたことだし……

ならよかったー、あいつらと一緒にお葬式なんかしてやるもんですか。

ユエンちゃん、ごめんね。リュウスーチーのためにお葬式をやってあげるって言ったのに。彼らが何もかも回収していっちゃったもんだから、何も用意できなくなっちゃった。

それでいいよ、あいつらが用意してくれたものなんか使いたくなかったし。

でも……すっごくキレイなものだったよ?

うん、確かにどれもピカピカしててキレイだった。でもあれを見てるとわたしイヤな思いしちゃうの。

あれだけじゃ足りなかった?

あんな見てくれだけの用具は偉そうにお高く留まってる連中にしか似合わないって、ユエンちゃんは言いたいんだと思うよ。ユエンちゃんは感染者としてのメンツを保ちたいんだよね?

うん……そうだね。

借りてきた身分からでしかプライドを得ることができないのなら、意味なんかないもんね……

だからわたしに本当のことを教えてくれてありがとうね、シャオバイ。

ううん、結局私はみんなのために何にもしてあげられなかったよ。

(シャオバイの頭を撫でる)

そんなこと言わないで、シャオバイ。

誰だってどうしても実現できないことはある、でもそれが全部ってわけではないんだよ。その行動に込められた気持ちが一番大事なんだ。

だからありがとう、いつもアタシたちのために思って動いてくれて……機械のことについてはチンプンカンプンだったとしてもね。

それ慰めになってないよ……ロックロック姉さん。

私からもありがとうございます、シャオバイさん。鉱石病の治療はできなくても、何も気にせず私たちに話しかけてくれていますから。

そんな、私なにも……

(手を差し伸べる)

なに?ユエンちゃん?

シャオバイの目から落っこちてくる水玉をキャッチしてるの、わたしにとっての宝物なんだから。

もうお兄ちゃんからも、なんか言ってよ!

あはは、いいじゃないか。実際その通りなんだし。

もう!お兄ちゃん!

森羅万象、そのすべては出会いから始まると、お父さんはそう私に教えてくれました。

そして終わりのすべては悲しい別れでもあると、お母さんが教えてくれました。

そこで私は二人にこう聞いたんです。じゃあ出会いと別れまでの間には何があるのって。

そしたら二人は、そこには一つ一つのかけがえのない奇跡があるんだよと、答えてくれました。

だから私たちはここに集まり、私たちと出会ってくれた友人たちのために、彼らが私たちの空虚な心に理解と寛容と、付き添いと支えという名の奇跡を残してくれたことに感謝しましょう。

こうして私たちが尽くしても尽くしきれないほどの奇跡を受けられたのは――

私たちが共に、こうして出会えたからなのです。

ありがとう、リュウスーチー。
黒夜から聞こえてくる慟哭と悲しみを帯びた夕暮れの風は、夕日が焼く野草と蒸気に蝕まれたフェンスと呼応し、哀愁漂う楽曲を奏でる。
烏雲獣の写真が小さな女の子の手によって寂れた金網にかけられた。その傍にある色褪せた写真たちと一緒に、夜風の中で音に聞こえぬ哀歌を歌う。
空はやがて暗くなり、黒夜が空を塗り替えようとも、シャオバイたちは黙祷を捧げ続けた。
夕日も辛うじて最後に顔を覗かせては、暗澹とした空にその鮮やかな赤色を織り交ぜる。
だがこの厳粛な静寂は、とある呼びかけによって打ち破られたのであった。

シャオバイ!?アグン!?

……どうしてお前たちがこんなところに?

(驚きながら後ろを振り向く)

幻覚、じゃないよね……?
(シャオヘイと鳥雲獣が近寄ってくる)

リュウスーチー!





