朝の霞、それは夜と昼の別れである。
夜の霞、それは昼と夜の再会である。
別れてはまた出会い、月日は交代し、時間は流れ、万物は再び動き出す。歴史もまた突き動かされ、文明は続いて行く。これらすべては、出会いと別れがあってこそなのである。
――『夕暮れの紀行』、ウルサス、作者不明。

シャオヘイ……?シャオヘイ!


シャオバイ!

本当にシャオヘイなの?

そうだよ!ボクだよ!

もう二度と会えないかと思ったよ……

ずっと君を探してたんだ。

ボクも!そっちは大丈夫だった?

(シャオヘイの肩を叩きながら)大丈夫だ、心配はいらないよ。

シャオヘイは?ケガとかしてない?ちゃんとご飯は食べられてる?

(首を振る)大丈夫、ボクは強いからケガなんかしてないよ!ご飯だって毎日食べてる!

あはは、よかったぁ!

しかし、こんなところで再会するなんてね。

再会できたんだから何だっていいよ!

そうだね!

じゃあ今は、そのリーさんってところでお手伝いしてるの?

うん、そうだよ。あの人がボクを引き取ってくれたんだ、居候するだけじゃ申し訳ないしね。

そっちは?そのロドスってところでちゃんと過ごせてる?

まだロドスの本艦には行ったことはないけど、今はそこの事務所に置かせてもらってるよ。

その事務所ってどういう場所なの?

会館みたいなところかな。主に特殊な人たちを手助けしてるのさ。

君も会ったことはあるんじゃないかな?ほら、身体に石が生えてる人たち。

それ知ってる……みんなロクな生活をしてないし、ほかの人たちからひどい扱いを受けてる。

そうだね、だからこそロドスのオペレーターたちには感服してるんだ。

ボクもずっと心配してたよ、もしかしたらお前たちもここに来てその病気を貰っちゃうんじゃないかって。そこにいたら危ないんじゃないの?

事務所にはきちんと防護措置が取られてるから平気だよ。シャオバイも、ボクがしっかりと見てるから大丈夫。

心配しないでシャオヘイ、事務所で働いてる人たちのほとんどはその病気を貰ってない人たちだから。

例えばあっちにいるロックロック姉さんがそう!

ずっとその患者さんたちを手伝ってあげてるけど、全然病気は貰ってないんだよ。

(ロックロックのほうを見る)

ロックロックお姉さん、あのフェリーンの男の子がこっちを見てますよ。

ホント?

(シャオヘイに手を振る)

(ギクッ)ハッ!?

大丈夫、みんないい人だよ。

キミがシャオヘイだね、シャオバイやアグンから聞いてるよ。

やっぱり、キミもカワイイね。

ど、どうも、ロックロックさん。

ねえシャオヘイ、キミとちょっと話がしたい子がいるんだ。

ユエンちゃん、おいで。

あっ、こんにちは……

(シャオヘイ、ほらあなたも笑って。ユエンちゃんが緊張しちゃってる。)

あっ、うん。

あっと、こんにちはユエンちゃん、話って……?

その、ありがとう……リュウスーチーを見つけてくれて。

いいよいいよ、もしこいつがいなければ、ボクもシャオバイたちと出会えなかったんだし。

三人とも知り合いだったんだね。じゃあ今日は良い日だね、みんなそれぞれ出会いたい人と出会たんだし。

そうだよね、リュウスーチー?

(手を舐める)

みゃう……

こいつリュウスーチーって名前なの?

うん、この子を拾った時、箱に六十七龍門ドルが入ってたから。

この子って、前のご主人に捨てられた子だったの?

そうなんだよ、六十七龍門ドルなんかペットフード一袋すら買えないよ。

(寝転がる)みゃあうー……

リュウスーチー……なんかこの前聞いたことがあるような……
(回想)

確かその人は感染者だったかな、見るからに末期症状でそう長くはなかったよ……それにこの子を引き取ってくれって私にお願いしてきたんだ。

言ってて思い出したよ、その人全身隈なくお金を探して私にこの子を引き取らせようとしていたんだが、可哀そうに。

……確かその時渡してきた金額も……

六十七(リュウスーチー)、六十七龍門ドルだったよ。
(回想終了)

ねえユエンちゃん……昔ある医者んとこに、すっごく変な喋り方するけど、めちゃくちゃ腕がいい医者のところに行ったことはない!?

自分が病気だからって、その医者にこいつを預けてもらおうとお願いしたことは!?

ううん、ないけど?

この子はわたしのペットなんだよ、ほかの人に預けることなんてしないよ!

それに事務所にだってすごいお医者さんはたくさんいるんだよ、ほかの人を探す必要なんかないよ!

じゃああの人は違う人なのか……

だったら、誰なんだろう?

(烏雲獣をジッと見つめる)

お前が探そうとしてる人って……まだほかにもいるってこと?

(顔を下げる)

リュウスーチー……ほかにも探してる人がいるの?

みゃー……

えーっと、誰の話?こっちはあんまり聞き取れなかったんだけど。

ユエンちゃんだったりほかの人だったり、一体誰なんですか?
誰もが一か所に集まってはそれぞれ異なる表情を浮かび上がらせる。眉をつねってる人がいれば、鼻をつまんだり、眉を顰めたりする人もいる。みな頭の中で混乱しながらも、ある一つの問いを繰り返しているのだ。
一体誰?
その人は一体誰なんだ?
そこへふと、金網にある一枚一枚の写真に映ってる顔が鮮明に映し出されていき、シャオヘイとロックロックたちのガヤをかき消すほどの騒々しい音を発する。
一人ひとりの面影は写真から飛び出し、シャオバイの周りをぐるぐると素早く回り始めては、やがて小さなつむじ風を形作っていく。
シャオバイはそのつむじ風の中心で様々な顔を見た。嬉しそうな顔、苦しんでいる顔、悲しんできる顔、やるせない顔、泣いてる顔、笑ってる顔、若い顔や年老いた顔……絶え間なく彼女の目の前で多くの顔が過っていく。
そこでシャオバイは目を閉じた。
あなたなの?そう心の中で問いかける。
写真たちは漏れなく空中に滞り、つむじ風もいつの間にか姿を消していた。
ようやっとシャオバイが目を開いたその際、とても優しく笑みが含んだ目つきが彼女の目に入ったのだ。
その目つきは見知らぬ男のものであった。しかしその懐には見慣れた烏雲獣が抱えられていた。

あっ……

どうしたの、シャオバイ?

……

この子の探してる人が見つかったかもしれない。
(シャオバイが歩く)

ここでその写真を見つけたの。リュウスーチーそっくりの烏雲獣が抱っこされていたよ。

いつそれを見つけたの?

今日だよ。スズランちゃんにリュウスーチーのお葬式をやってもらおうとお願いしに来た時だね。

お葬式?でもリュウスーチーはここにいるじゃん?

あはは、話すと複雑なんだよ。ボクたちもユエンちゃんのためにリュウスーチーを探していたんだけど、見つかったのは血のついた首輪だけだったんだ。

だからもうこの子は死んじゃったんだって思っちゃって、それでお葬式をやろうって流れになったの。

そうだったんだ、じゃあその時のこいつはきっとケガをしただけなんじゃないかな。

(烏雲獣を抱える)

リュウスーチー、またこんな傷だらけにして……足にできた傷だけじゃ懲りてない?

(ユエンちゃんの頬を舐める)

(金網から例の写真を取る)

結構年季のある写真ですね。でも色んな写真の下に埋もれてたおかげもあってか、あんまり色は褪せていないみたいです。

ちょっと貸してもいいかな……うん、リュウスーチーだね。ほら、ユエンちゃん見て。

(写真を受け取る)

この人が……リュウスーチーの探してる人?

だからいつもジッとしてられなくて、いつも窓の外を見てて逃げ出そうとしてたの?

ずっとこの人を探すために?

(写真に額を擦りつける)

あの変な医者が言ってた。むかし石の病気を貰った人がやってきて、全財産を差し出してまでこいつを自分に引き取らせようとしてたって。

それでここに来たら、見つかるかもしれないって言ってたから……

あいつの言ってた遺品って、ここにある写真なのかな?

ここにある写真って全部誰が金網にかけてるの?

お参りに来る人とかは?

多分だけど、そういう人たちもここにある写真の一部になってると思うよ。

……

ねえユエンちゃん、そのお金以外に、ほかにも何か置いてなかった?

ううん、お金だけだったよ。もしシャオヘイの言う通りなら、あのお金があの人の全財産だったんだと思う。

リュウスーチーも残していったんだもんね。

わたしに残してくれただなんて……

ユエンちゃん、写真の後ろに何か書いてありますよ。

えっ!?

(写真をめくる)

なんて書いてあるの?

詩(うた)、なのかな……

どんな詩?

えっと……
……また一人、僕と同じようにキミを愛してくれる人が見つかりますように。

(アグンの裾をぎゅっと握る)お兄ちゃん……

(烏雲獣のおでこにキスする)

ねえ……リュウスーチー。

あなたはね……

最初から棄てられた子じゃなかったんだよ。あなたはわたしへの贈り物……とっても優しいこの人からの贈り物なんだよ。
烏雲獣の喉から聞こえてくる心地いいゴロゴロとした声は、はたしてその人への呼びかけか、はたまた向けられた悲しみか。
リュウスーチーは顔を向け、優しくその写真に頬ずりする。
そんなリュウスーチーの頬に、夕焼けが落ちていた。まるで過去から伸びてきた暖かな手が、時間という暗い霧と歳月という埃を払いながら、優しくキミの頬を撫でているようだ。
キミが受けてきた不遇や不安を除け払い、キミが抱いてきた疑惑と悔しさを拭い去っていく。

リュウスーチーは、ずっと前のご主人に会いたがっていたんだね。

もう、その人はいないのに。

そうだね。でもその人なら、ずっとリュウスーチーの思い出の中で生きてるよ。

じゃあ私も、ずっとお兄ちゃんやシャオヘイの中で生き続けられるのかな?

はは、バカだね。キミにはまだ早いよ。

そうだよね……お兄ちゃんもシャオヘイも、ずっとこの先もいてくれるもんね……

ねえ、シャオヘイ。

ん?

もしいつか遠い遠い場所に行こうとする時は、今度こそきちんとお別れを言ってからにしてね。

うん!

絶対絶対!また一緒に大好きなおやつを食べようね!

うん!

また一緒に大好きなマンガを読もうね!

そうだね。

絶対にまたぎゅってハグしようね。

うん。

えーっと……それから、あとはなんかあったかな……?

今はこうして一緒にいることが、何よりも大事だよ。

(アグンとシャオヘイと手を繋ぐ)

そうだね!

うんうん!
あれは夕暮れ時だった、朝だった、夜でもありお昼でもあった。
かんかんと照り付ける日差し、どしゃぶりの雨、雲は分厚く、そして薄っすらとしていた。
キミを起こさないように、僕は気を付けながら別れの足音を忍ばせた。
僕はキミを棄て、キミは僕から離れていくんだ。
嫌だったし、悔しかった。
そしたら運命がお慈悲をくださった。
指を弾いて、時計の針を戻してくれたんだ。
カチカチ、カチカチと。
雨粒は雲の中へと落ちていき、字跡もペン先へ戻っていき、落ち葉は枝に、勿忘草は蕾に。
僕もゆっくりとキミのもとへ歩みを戻していく。
キミを起こしたくはないと思い、足音を忍ばせていた。
でもあの日、僕はキミを抱え上げる。僕とキミは出会ったのだ。

ユエンちゃーん、車がもう外で待ってるよー、はやくしてねー!

はーい、すぐ行くから!待ってよ、ロックロックおねえちゃん!

忘れ物はない?

うん、全部荷物にまとめておいたよ。

じゃあリュウスーチーは?忘れ物はない?

にゃー!

じゃ、出発するか!

待って待って、ロックロック姉さん!私たちもロドスに行く!

シャオバイ!?

シャオバイ、そんな急がないで!転んじゃうよ!

アグンまで!龍門には残らないの?

うん、リーさんがシャオヘイにロドスまでモノを届けてほしいってお願いされたんだ。

届けてほしいものって?

それは秘密。ドクターって人にだけ教えろって。

ドクター……変な名前だね。

あはは、ドクターは名前じゃなくて、役職名みたいなもんだよ。

その人のことを知ってるの?

うん、ロドスの総指揮官にして創設者の一人なんだ。どのオペレーターからもすっごく尊敬されているの。

なるほど、じゃあその人はお前たちのボス!言うことを聞かなきゃならないんだね!

あはは、そう単純な関係でもないんだけどね。

じゃあ結局その人は一体どういう人なのさ?

キミたちもきっと気に入ると思うかな。会ったら分かるよ。

ロックロックお姉さん、まだ準備しているんですか?運転手さんが急いでくれって言ってましたよ。

シャオバイたちもロドスに行きたいんだって!

うん!

えー!そうなんですか?

……ついさっきまで、お別れで泣いちゃったらどうしようかと思ってましたが、一緒に行けるのなら何よりですね!

それじゃあユエンちゃん、出発の準備はもうできた?

うん、リュウスーチーもばっちりだよ。

みゃ!

じゃあ、行こっか。
(ロックロック達が立ち去る)

シャオバイ――荷物を忘れちゃってるって!

ボクが持っていくよ。

ありがとうシャオヘイ。じゃあ忘れ物もなさそうだし、ボクたちも行こっか。

(周りを見渡す)

時間……もうこんなにも過ぎちゃったんだね。
(アグンが扉を開けて出ていく)

ヤンニー、近衛局から送ってきたフードを食べてるのか?そんながむしゃらに食って、そんなに美味ぇのかよ?

わんわん!

俺もちょっと味見してみるか。

わうん?

ぺッ!ぺぺぺぺぺッ!やっぱ人が食えたモンじゃねえな。

わうん……

やっぱり饅頭だよ饅頭。

ってお前、また来たのかよ。
(循獣訓練員が入ってくる)

ヤンニーのためじゃなけりゃ、絶対こんなところに来てやるもんか。

ああそうかよ。ならヤンニーのためじゃなけりゃ、ぜッてぇお前なんかを入れさせてやるもんか。

(ギロッと睨みつける)

なあヤンニー、新しいおやつとおもちゃを買ってやったぞ~。どうだ、近衛局に戻る気にはなったか?

わんわん!

ったく、こすい手を使いやがって。

(饅頭にかぶりつく)

ほら、持ってけ。

なんだよこれ……野菜と卵?どういう意味だ?

フッ、私は優しいんでね。

ハッ……そりゃどーも。

あーあ、シャオヘイも烏雲獣も行っちゃいましたねー。これから寂しくなるなー。

そうだな、本艦に着くまでお腹を空かせていないといいんだけど。

いや、これでもかってぐらい持たせたじゃないですか……

あの歳のフェリーンならすぐに平らげてしまうさ、成長期だからね。

それもそうですね。

ウン兄、私たちもペットを飼ってみます?

何を飼うつもりで?

雲獣とか?

うーん……そうだな、一応アにも聞いてみよう。
(爆発音)

な、なんだこれは!?

ゲホゲホッ、なんですかこの臭い!鼻がもげそう!

ゲホゲホッ、おいア!今度は何をやらかしたんだ!
(アが姿を現す)

いや~、ちょいと実験室でミスを犯しちまって。

ミス?

へへ、ああミスだ、つーわけでお先に。
(アが走り去る)

やっぱ……やめときましょう。

ああ、そうだね、飼うのは無しって事で。

よーし、よく聞いとけよお前。このレコーダーはな、この大地で一番べらぼうな作品なんだ。

そんなべらぼうなレコーダーの製作者は、まさにこのオレだぜ!

ちゅーちゅー!

グッド!もう待ちきれねえって感じだな、ん?

んじゃあミュージック――スタート!

ちゅー!

♪バーのカクテルをかっ食らう♪

ちゅー!

♪数えきれねえ金がある~♪

ちゅー!

♪街の連中を見渡すも♪

ちゅー!

♪あっちもこっちも知らねえ顔♪

ちゅー!

♪色んなヤツと出会うのに♪

ちゅー!

今じゃお前を思うばかり♪

ちゅー!

♪ダイヤも金塊もキラッキラ♪

ちゅー!

♪だがお前のほうがギラッギラ♪








