あの忌々しいレジスタンス共め、キリがねえぞ!サディアン区からここまでずっと邪魔立てばっかしやがって!
おい、テメェらが持ってるあのドデカいブツを持ってこい!
自走砲のことか?まだ目の前に味方が大勢いるんだぞ、よく考えろ!
だったら合図なりなんなり送ればいいんだろ!
自走砲の攻撃範囲はバカ広いんだ、送っても撤退は間に合わない!
知ったこっちゃねえ、逃げ遅れたそいつらが悪い!戦場での生き残り方を考えるのも戦士としての務めだろうが!
(自走砲の駆動音)
ねえあっち――移動式の源石砲が現れたよ!
(砲弾の発射音)
なっ……なんじゃありゃ!あ、あれ、ただの砲弾じゃないよ!
カズデルにあんなものを作り出せるハイレベルな研究施設なんてあったっけ?
しかもこんな短時間で……マンフレッドは一体どうやってアレを手に入れたわけ?
・ドローンはちゃんと制御区域を見つけたか?
・集中しろ。
制御区域……制御区域……あっ、まずいかもドクター、あの砲弾から出てるアーツでアタシのドローンがジャミングを受けてるかも。
ほら言ったよね、ロンディニウムのシステムは解析しやすいけど、サルカズの巫術はすっごい面倒臭いって!
ならオレたちに任せてくれ、ドクター。
わっ、フェイスト!
言われた通り、こっちはすでに準備はできてるぜ。
ドローンが無事目的地まで辿り着けるように、エンジニア隊がルートを確保してやるよ。
なんかいいアイデアでもあるの?
あの自走源石砲はな、全部オレたちの工場で組み立てられたものなんだぜ、クロージャさん。
えっ、じゃあ……まさかその場であいつらをバラすとかじゃないよね?
あはは、もしオレたちエンジニア隊が全員ブラッドブルードとかだったらできるかもしれねえな。
でもすまねえ、生憎オレたちはみんな平凡な作業員ってだけさ。
自分の手で作り出したものにしか詳しくねえんだよ。
あいつらの弱点なら知ってる、そこを狙うんだ。これもオレたちの頼もしい戦友たちのためだぜ。
なんたって、オレたちエンジニアが戦場で最大限実力を発揮できるのもこういった場面しかねえしな、そうだろ?
そのワイヤーロープ……もしかして自走砲の上に乗っかるつもり?
あいつの主砲さえなんとかすりゃ、ドローンは動けるでいいんだよな?
理論上はそうだけど、でも危ないんじゃ……
お互い協力し合おうって言ってただろ、クロージャさん。
つーわけでお二人さん、すまねえが一番安全な落下ポイントを探してくれねえか?
(砲撃音)
砲火が響く中、フェイストは目の前で繰り広げられてるこの戦場を眺める。
もはや凶悪なサルカズなど眼中になく、今はただ組み立てラインの傍にいる知り尽くした機械だけを見ていた。大きな機械が稼働する際の響きなど、彼のよく知るリズムとなんら差異はない。
彼は自分のやり方でいずれ自分たちの都市を取り戻すのだ。
ふぅ……この戦場上空の景色はずっと見てみたいと思ってたんだ、今回はそんんないい機会なんじゃねえのかな?
(自走砲の駆動音)
巨大な機械がゆっくりと街中を進んでいく。
その巨大な図体と比べて戦場にいる人々は、ヴィクトリア人であれサルカズであれ、みなどれも矮小に見えてしまう。
自走砲の歩みを止められる者など誰もいやしない。自走砲が見つめれば、その箇所はたちまち灰と化してしまう。
まるでこの鋼鉄のジャングルを統べる主であるかのように。
だが突如、そんな自走砲が悲鳴を上げた。
その視界にある死角に、十数ものかぎ爪が飛んできて、がっしりと自走砲の一番脆弱である首の部位に嵌めこまれていく。
そして立て続けに、数十もの小さな人影が次々とロープを伝って自走砲の背に乗っかっていった。
(自走音が停止する)
ドクター、自走砲を抑え付けたぞ!
狙撃手、付近の敵を片付けろ!
(ヴィクトリア傭兵が無線に応答する)
了解した!
(無線が切れた後に複数の矢が飛んでくる)
術師隊、攻撃!
了解!
(ロックロック達がアーツを放つ)
バンシーよバンシー、血の一滴さえも近づくことを許してはくれぬのだな。
うぬの操る血には、一滴であれうぬの巫術が施されているのでな。
フフッ……バンシーの呪術か。
バンシーもつまらぬものになってしまったものだ、一体いつからだね?
昔の貴公らは、骨笛を吹き鳴らしながら夜を飛び交い――
甲高くも悲し気な声で荒野に彷徨う者たちを悼んでやるも、情け容赦なく漆黒の骨爪をその哀れな者たちの後頭部に突き刺してやっていたものだ。
それこそがバンシーたる者よ。
いずれにしろ貴公らは、我らブラッドブルードが最も感服する狩人であった。我らは戦場で共に肩を並び、恐怖を武器に、弱小な獲物たちの命を刈り取ってきた。
だが、今のバンシーはもはや見る影もない。貴公らは真の自我というものを自ら、あのリターニアの術師と相違わないほどの装束に縛り付けた。なんとも、自惚れた様相だ。
見る影も失ったのはうぬらのほうかもしれぬぞ、ブラッドブルードよ。
月日は容赦なくこの地を濯いでいくも、同時にこの地の命を形作ってくれておる。
なにゆえ我が身を顧みようとせぬのだ?うぬもとうに、原初の姿を失っておるではないか。
フッ……なぜただの皮袋なんぞを気に掛けねばならんのだ?
その皮袋とやらは、我が羽織っているこのローブと相違わぬ。いずれも同じくして、我らがこの大地に生きる際の真の姿である。
古の王庭の根底はすでに腐り果てた。今ある王庭たちは徒に樹冠を広げるも、相も変わらず根が張っておる地面を見向きもしない。
なんとも間抜けなものよ……死したものが今もなお元より痩せこけた地から、本来生まれるべくして生まれるはずの命を奪い、養分を吸い取ろうとしているとは。
……それが貴様の目的か?
笑顔が、ブラッドブルードの顔から消え去った。彼の周りで煮えたぎっていた血も鳴りを潜める。
それも束の間、僅かに地面から揺れが伝わって来たと思えば、次第に上の階まで揺れは強まっていく。
血が進軍してきたのだ。
各員、防御態勢へ!
……
下の戦場が……
マンフレッドはふと、自分はここに留まり過ぎていたことに気が付く。この都市防衛軍司令塔の弱点はレイトンだけではなかったのだ。
彼やブラッドブルードが目の前にいる“魔王”と旧識に目を奪われていた隙に、ロドスと自救軍は別のルートからここへ近づき、彼らの求めている情報を入手しているのかもしれない。
これこそがロドスの策略だった。彼らは何も司令塔でマンフレッドやブラッドブルードを倒すつもりなどなく、ただ時間稼ぎをしていただけだったのだ。
クソッ、はやく阻止しなければ……
もう遅い。
(アスカロンがマンフレッドに襲いかかる)
……
そうだ、もう遅い。マンフレッドであれば、アスカロンを振り切れるのに腕一本さえあれば十分ではあるが、今の彼を阻んでいるのはほかでもない血の海である。
ブラッドブルードはすでに怒り狂って周りが見えなくなっていた。マンフレッド一行は上の階で足止めを食らってしまったのだ。
……バンシーめ。
貴様よもや王庭を……サルカズの伝統そのものを滅ぼすつもりか?
(ブラッドブルードの大君のアーツが放たれる)
天地を覆わんとする血の波が司令塔全体を包み込む。ロドスのオペレーターらも都市防衛軍の兵士らも、このままではみな血に溺れてしまうだろう。
見えない力によって血の海が掻き分けられるその時までは。
(Logosのアーツが放たれる)
滅ぼすのではない、救うのだ。
これ以上、冗漫な追憶に縛られるでない。往日の驕りはもう忘れよ、サルカズの古なる王よ。
(Logosがアーツの呪文を書き続ける)
サルカズはすでに変わった、変わらねばならぬのだ。
骨の筆が走る中、金色の呪文が次々と自ら文字を綴っていく。
血の波はその主の怒りに従い唸りを上げ、地面からも、壁からも、さらには頭上からも雪崩れ込もうとする。だがこの年若きバンシーへ、あるいは彼が背後で守ってる人たちへ近づくことはできない。
それはこの呪術の王が、すでにこの異邦の塔の上で掟を設けたからだ。
ドクター、司令塔のほうが……
・向こうも激戦らしいな。
・アーミヤと、Logosとアスカロンを信じよう。
ふぅ、それにしてもみんな……上にいるおっかない連中を抑え付けてくれたようだね……
よっし、これでドローンも無事に制御区域に到着したよ。
今からハッキングしてっと……
・どのくらい掛かりそうだ?
・どのくらい掛かりそうかだけ教えてくれ。
0分……あいや、20分で終わらせるよ。
アーミヤちゃんも自救軍もいま大変な目に遭ってるのは分かってるけど……でもアタシを信じて、今ほど自分にもう何本か腕が生えてないことで悔しい思いはしてないよ!
(自走砲の駆動音)
巨大な機械は再び怒号を上げた。
静止していた砲身がまた旋回し始めたのだ。
どういうことだ?
自走砲に乗っかってる人たちが攻撃された!
(アーツが自救軍の戦士を襲う)
何者かが遠くから……ぐふッ!
……サルカズだ!
――
このサルカズたち、正体不明のアーツを使ってきやがった!
急に……息ができなくなって……
……聴罪師の巫術だ。となれば、この者たちはその衛兵たちなのだろう。
まずいな、この類の巫術は急速に相手の命を貪っていく。医療用のアーツをもってしても間に合わない。
フェイストに戦士らを連れて自走砲付近から撤退させろ。
でもそれじゃ、あの兵器がまた動き出してしまいますよ!
戦士らの命が最優先だ。
その兵器なら……私が破壊する。
(クロヴィシアがアーツを放つ)
ハァ……ハァ……助かりました、クロヴィシア司令。おかげでだいぶ良くなりました……
……
司令官、それって……司令官のアーツですか?
……いいや。
これは……ただの受け売りだ。
私のと比べて……こっとのほうがまだ温かい。
み、見ろ!急に現れやがった聴罪師の衛兵の後ろに、誰かがいるぞ!
白い角に、真っ黒なローブ……あいつも聴罪師なのか?
あ、あの聴罪師……ほかのサルカズと戦ってるぞ!
ドクター、見て――シャイニングが来てくれたよ!
もしかしてドクターが呼んでくれたの?
・彼女と連絡を取ってるのはケルシーのほうだ。
・彼女自らの意思でここに来たのだろう。
はぇ~、中々腕はあるってことは知ってたけど、シャイニングが戦場であんなに戦ってるところを見るのは初めてだよ。
なんていうか、その……すっごく……
なんで今までずっと戦いたがらなかったのか、分かった気がするかな。
……
……聴罪師様。
やはりここへお越しになられましたか。また、頭領の意志に背きましたね。
仮に今でも彼に縛られているのであれば、私がああして出て行ったところでなんの意味もないではありませんか。
そこまでして頭領のことを恨んでおられるのですか?
……
いいえ。
一度だって彼のことは恨んでいませんよ。恨んでいるのは私自身です。
(斬撃音と共に衛兵の仮面が割れる)
そう言い終えると、衛兵の仮面は割れてしまい、聴罪師の鞘には彼が倒れる前の表情を鮮明に写し込まれていた。
だがそんな相手を見つめているシャイニングの目は、とても静かで悲哀に満ちている。
またもや命の炎が揺らめく最後の瞬間を――彼女の剣に取り込んでしまったからであろう。
(血の霧が霧散していく)
一方その頃、血の霧は呪術によって瞬く間に蒸発していた。
(黒いアーツが放たれる)
呪術によって一つ一つ引き裂かれてできた隙間に、無数もの黒いエネルギーの束が突き刺さっていく。
そこでようやく、司令塔を覆い隠していた血の波も幾ばかりか退いてくれた。
……フッ。
中々に……いい剣筋をしているな。
大君様、ここはヤツらを即刻撃破したほうがよろしいかと。
私の邪魔をするな。
(ブラッドブルードの大君が血のアーツを放つ)
そう言い終わるや否や、血は唸りながらマンフレッドを数歩下がらせた。
(アスカロンがマンフレッドに斬りかかる)
アスカロンのアサシンブレードも、まるで己の影のようにつき纏ってくる。相手はそう易々とマンフレッドを逃すつもりはない。
……
(マンフレッドがアーツを放つ)
だがそこへ突如と、赤色の稲妻が司令塔上空にある雲の層から一閃した。
あれは……ティカズの根底か。
貴様なら憶えてくれていると信じていたぞ、私が貴様の剣筋を憶えているのと同じようにな。
……お前、ヤツに知らせたのか。
アーミヤ、もう時間がないぞ。
分かっています、あとはレイトンを確保すれば……
(血のアーツがアーミヤに襲いかかる)
くッ――!
気を逸らすでない。ブラッドブルードの実力はあんなものではないぞ。
フンッ……また血を無駄にしてしまった。
これまでの戦いはどれも、この大君を満足してやれるには程遠いものであった。
そこで彼は、傍らに隠れているヴィクトリアの兵士たちを視線に捉えた。
ッ……!な、なりません……そのようなことは……
案ずるな、レイトンよ。貴公もじきに食ってやる。
ちゅ、中佐……中佐ァ!
うわあああああああ!
(ヴィクトリア兵達から血が吹き出す)
それからレイトンの兵士たちが言葉を発することはなかった。
彼らはよろめきながらもブラッドブルードの前へとやってきては、彼らの手足を取って代わるように血が脊椎から噴き出し、ブラッドブルードの命令に従いながら屋上の端へ向かっていく。
彼らはブラッドブルードの祝福を受けたのだ。
……
(アスカロンがブラッドブルードの祝福を受けたヴィクトリア兵に斬りかかる)
やれ、気ままにな。
血は決して失いゆく命によって干からびることはない。むしろ徒に動き回ることで、さらにその奔流を巡らせていくのだからな。
……
彼らはもはや、レイトンの指示に従う兵士ではなくなった。
彼はただ、元兵士らが屋上の縁まで向かっていくのを見てやるだけだった。
この司令塔は、サルカズたちの戦いでいつ崩れてもおかしくはない。彼らの目にはまったく生死の狭間に取り残された一般人の兵士らが映っていないのだ。
レイトンと違い、兵士らの大多数はヴィクトリア人である。彼らは今になっても、何が目的でサルカズとどういった取引を結んだのかすら把握できていない。
そんな彼らは今までずっと、レイトンと一緒に瀬戸際を渡ってきたのだ。
あぁ……
ここで自分は動くべきではない、そうレイトンは理解していた。隅に隠れていれば、今しばらくはブラッドブルードとマンフレッドに殺されることはない。
しかし彼はどうしても、今にも塔から落ちてしまいそうな自分の兵士だった者たちを引き留めたい一心だった。
くッ……
(黒いアーツがレイトンに襲いかかる)
黒い……エネルギーの束……
……レイトン中佐。
あなたの目から……苦痛が見て取れます。
今も自分をガリア人だと思っているのですね。あなたはあの消えて久しい巨大な幻影を今もまだ愛している。必死にそれを掴み取ろうと、連れ戻そうとしているのですね。
でも……
あなたは本当に今も、サルカズたちが交わしてくれた約束を信じているのですか?本当にまだ……ガリアを復興する夢は叶うと、思っているのですか?
……
恐れているのですね、レイトン中佐。
自分にはまだ希望があると、あなたは自分自身にウソをついている……戦争から逃れたいという自身の弱さと、向き合いたくないがために。
これまでの犠牲はすべてガリアのためなんだと、自分に言い聞かせているのですね。
でもあなた自身は……あなたに騙され、あなたによって死へ引きずられていった兵士たちの目つきが、どうしても忘れられないでいるのですね。
君がその……彼らがよく口にしていた……幼い魔王とやらか。
……はい。
私は君の敵なのだぞ。
分かっています。
なのに君は今……私を引き留めようとしている、このまま死のうとするこの私を。
彼らはみな君のことを魔王と呼んでいたが、私にはどうしても……ただの心優しい子供にしか見えないじゃないか。
……
ッ――!
突如と、とてつもない痛みがアーミヤを襲った。
目の前にいるこのリーベリの仕業でも、ブラッドブルードやマンフレッドのアーツによるものでもない。
何よりも、これは攻撃ではないのだから。
アーミヤ、アーミヤ。
とある声が彼女を呼んでいる。太陽に干されたばかりの、真っ白で暖かい羽毛布団のように柔らかい声。
その声を聴いたアーミヤが、猛然と顔を上げた。
頭上にある空が今にも彼女に襲い掛かり、分厚い雲の層は押し寄せ、頭の先端からつま先まで彼女を呑み込もうとする。
……それはまるで窒息してしまうほどの、力いっぱいの抱擁のようであった。
ドクター、司令官、自走砲をもう一回抑えつけたぞ!
あと10分……10分ちょうだい!それまでに全部終わらせるから!
ふぅ……ねえドクター、もしかしたら今回は、数日ぶりに勝てちゃうかもしれないね。
……クロージャさん。
なに?
今のそれ、言ってほしくなかったかも。
何さ、まるでアタシの言ったことは全部……って……あわわわドクター!なにこれ!?アタシのドローンが一気に警報を出してきたんだけど!
……
黙ってないでなんとか言ってよ!黙られちゃうとマジでおっかない感じがするんだから!
ちょっと待って、あれって――
(警戒するような唸り声)
・ケルシー。
・ケルシーが来てくれた。
……
えっ、ケルシーってアタシらのために足止めしてくれてるんじゃ……って……
ドクター、それってもしかして……ナハツェーラーの軍が想定してたよりも早く戻ってきたってこと?
……
彼らの進軍は、もしかすれば音を発するものではないのかもしれない。さもなければ、彼らがすでに城壁を超え、都市の半分も渡ってきたことに気付かないわけがない。
この足音は単なる合図に過ぎないのだ。震動する地面を通じて、戦場にいる一人ひとりの心臓へと響いていく。
見渡す限り、どこの道や通りにもサルカズの戦士で敷き詰められている。
頭上にある雲から降りてくる陰影では彼らを覆い被さることはできない、なぜなら彼ら自身が陰影そのものなのだから。今や彼らは、大地を覆い被さんとしているのだ。