Loading...

【明日方舟】11章 淬火塵霾 11-17「答えよ」行動後 翻訳

クロージャ
クロージャ

ドクター!はやくアーミヤちゃんを連れて、ここから離脱しないと!

ドクター
ドクター

……

クロージャ
クロージャ

相手はあのテレシスだよ……シャイニング一人じゃ長くは持たないって!

クロージャ
クロージャ

ドローン――

(ドローンがドクター達に近寄ってくる)

クロージャ
クロージャ

しっかりロープに掴まっててねドクター、逃げれるだけ逃げるよ!

(サルカズ兵達が通り過ぎる)

クロージャ
クロージャ

ゼェ……ハァ……ゲホッゲホッ……

クロージャ
クロージャ

本っ当にこれ以上どうしようもなくなったら、アタシがあいつらと戦ってやるからね。

クロージャ
クロージャ

アタシだって、できれば戦いたくなかったさ。でも……テレジアがアタシを部屋から引っ張り出してくれて、アーミヤちゃんとケルシーが、今の責任重大な任務を寄越してくれたからには……

クロージャ
クロージャ

まあ……これでも伊達にブラッドブルードはやってないよ。

クロージャ
クロージャ

ドクターたちのためだったら、アタシだって……

フェイスト
フェイスト

クロージャさん、こっちだ!

クロージャ
クロージャ

へ?

フェイスト
フェイスト

こっちだ、ドクター――ロープは固定した、手を貸せ!

長剣が地面に突き刺さり、光が瞬く間に広がっていく。
その場に居合わせた者たちは全員、ほんの刹那ではあるが、時間の停滞を肌身に感じた。

テレシス
テレシス

……聴罪師の巫術か。

マンフレッド
マンフレッド

テレシス様!

マンフレッド
マンフレッド

ケルシーは……

テレシス
テレシス

彼奴なら終いだ、此度の命もじきに終わりを迎えるだろう。

マンフレッド
マンフレッド

現状報告として、例のコータスがロドスに連れて行かれてしまいました。大君様もバンシーとアスカロンを追撃しております。

テレシス
テレシス

テレジアのほうはどうなっている?

マンフレッド
マンフレッド

それが、先ほどテレジア様から連絡が入られまして。

マンフレッド
マンフレッド

アレの用意が整った、とのことです。

テレシス
テレシス

結構だ。

摂政王は顔を上げ、暗雲に遮られた空と遠くに聳え立つ城壁に目を向ける。
城壁の外にこそ、サルカズが真に留意すべき戦場があるのだ。

テレシス
テレシス

では始めるとしよう。

アラデル
アラデル

……覚悟はいい?

シージ
シージ

覚悟も何も。

アラデル
アラデル

そうね、ここまで来たからには覚悟も何もとっくに決まっているはずね。

アラデル
アラデル

ヴィーナ、どうか私に――

アラデル
アラデル

私たちに、すべてを見届けさせてちょうだい。

地下空間の果てに、黒い建物が静かに佇んでいた。その周りには、複雑で精巧な構造体がずらりと並ばれている。
歴代ヴィクトリアの最も傑出した頭脳らはかつてここに集まり、心血を注いでここにあるすべてを形作ったのだ。
かの剣を、この奥へ納めるためだけに。
その剣を手にして、天災を切り裂ける英傑はあまりにも稀有な存在である。そのために、人類の叡智をかき集めてはこの嵐を防ぐ盾を作り出した。
ここにある構造体、ましてやそこに鎮座する建物は、みなそのために生まれたのである。
そこへまた、声が聞こえてきた。
しかし先ほどと打って変わって、切羽詰まった様子も、喚き散らすことも、諫めるつもりも煽り立てるつもりもないようだ。
それらと引き換えに、シージは疲労を伴ったとある安心感を覚えた。
そう、彼女はここに来たことがあるのだ。物心がつく頃よりも前に、何者かに導かれてこの場所を訪れたことがある。
そんなあの時と同じように、今のシージも、自分はどこに向かって何を手にすればいいのかを理解していた。
剣はすぐ奥にある。誰にも取り囲まれず、何者にも守られず、まるでその建物全体を着飾っている小さな装飾品と変わらぬように、ただただ真っすぐ部屋の中央に差し込まれていた。

諸王の息吹。
それは千年もの時を経て、幾度も作り直されながらも、いつまでもそこに鎮座している。
そのような剣に、シージは手を伸ばす。
しかし手が近づくにつれ、幻影の破片がうねって共鳴しながら、この空間に埋め尽くしてくるようになる。
アレクサンドリナ。アレクサンドリナ・ヴィーナ・ヴィクトリア。それら幻影は、何度も何度も彼女の名前と姓を繰り返し囁いてきた。

だがとうとう、シージが剣に手を触れた。
瞬く間に、往日の断片が彼女の身体を通り過ぎ、鳴り響く轟音が彼女の脳裏から炸裂した。
そこでシージは忽然と理解したのだ。
今、目に見えているものと声のする発生源は、すべて自分自身だったのだと。
彼女自身の迷い、困惑、悔やみ、懐かしさから来たものだったのだ。
彼女自身がすでに忘れ、あえて忘れたものたちであったのである。
巨大な手が、シージを持ち上げた。ロンディニウムと名の付く巨人が彼女の下で立ち上がり、彼女が歩んできたヴィクトリアの地を引きずっていく。
あれは彼女とその仲間たちが、かつて歩んできた地だ。
そこへやがて、夥しい声が重なって聞こえてくるようになった。
ヴィクトリア。ヴィクトリア。
これがヴィクトリア。
これが私のヴィクトリアだ。

「ヴィーナ、ヴィーナ。」
気が付けば、誰かが自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

シージ
シージ

――

シージが目を見開くと、そこにはもう幻覚も幻聴もなく、視線を下ろせばヴィクトリアの王権を象徴する諸王の息吹が手に握られていた。
見たところでは伝説に聞くほど特別感はなく、巨大なわけもなく、派手で煌びやかな装飾も施されてはいない。
極々一般的な剣にしか見えなかった。

アラデル
アラデル

ヴィーナ、諸王の息吹を手にしたのね。

シージ
シージ

想像するよりも……随分と軽い。

シージ
シージ

よし、剣は手にした。私たちもそろそろ戻るとしよう、仲間たちにも見せてやり――

手にしたその剣冷たさを、仲間たちにも見せてやりたいと思って振り返ろうとするシージではあるが……

アラデル
アラデル

……動かないで。

そこに、さらに冷ややかなナイフがシージの腰に当てられた。

シージ
シージ

……アラデル。

アラデル
アラデル

こっちを見ないで!お願いだから、振り返らないで。

アラデル
アラデル

……その剣を渡してちょうだい。

シージ
シージ

……

アラデル
アラデル

ごめんなさい、本当に……本当にごめんなさい、アレクサンドリナ殿下。

アラデル
アラデル

私にはもう……

アラデル
アラデル

……

アラデル
アラデル

こうするしかないの。

アラデルの声はとても落ち着いてはいたものの、断然とした悲哀が含まれていた。
そこでふと、シージはモーガンが冗談交じりに数ページは書き起こしていた“回顧録”のことを思い出した。
文章の構成はとてもじゃないがお粗末なもので、文体も決して上品なものとは呼べないものであった。
物語はデタラメにでっち上げられた戦いから始まった。その戦いが終わり、アジトに戻れば、その中に登場するアラデルが自ら手を振るって、みんなのためにシチューを作ってくれる。
その部分を思い出して、シージは密かに心の中で微笑んだ。なぜならアラデルは確かにみんなのためにシチューを作ってくれはしたものの、回顧録では一部事実が……
お世辞にもシチューの味は美味いとは言えないところが端折っていたからだ。

ダグザ
ダグザ

シージ!

(ダグザが駆け寄る)

ダグザ
ダグザ

ッ――!

トター
トター

……動くな。

(トターが刃を抜き、傭兵達が集まってくる)

ダグザ
ダグザ

てめ……テメェら……

トター
トター

あんたのことは傷つけたくないんだ、騎士のお嬢ちゃん。

トター
トター

だがな、俺にも返さなきゃならない恩義ってもんがある。

トター
トター

アラデルに協力して王たちの眠る墓所からその剣を入手する、それが俺たちの任務だ。

トター
トター

はぁ、この仕事さえこなせば、俺もとうとう引退できる。

トター
トター

……引退するには十分、美味しすぎる仕事だからな。

ダグザ
ダグザ

……

ダグザ
ダグザ

傭兵、アタシらはついさっき、一緒に裏切りに遭って死んでいった英雄たちを弔ってやっただろ。

ダグザ
ダグザ

お前だったら、分かってくれると思ってたのに……

ダグザ
ダグザ

そうかよ、テメェらもアイツらとはなんも変わっちゃいなかったんだな。

ダグザ
ダグザ

さっきまで一瞬でもテメェを信頼していたアタシが……バカだった。

トター
トター

お嬢ちゃん、“生きることは難しい”って話、さっきしただろ。

トター
トター

すまないな、俺たちだって生きていたいんだ、仕方がなかった。

トター
トター

俺たちはみんな一緒さ、あの……仲間に裏切られて死んでいった人たちと。

トター
トター

だからこそ残念だよ、俺たちは今回たまたま違う道を目指していたらしい。

シージ
シージ

アラデル……

アラデル
アラデル

アレクサンドリナ殿下。

アラデル
アラデル

ご自分の身のためにも、諸王の息吹をこちらに渡してちょうだい。

シージ
シージ

……

シージ
シージ

本当にこれしか方法はないのか?

アラデル
アラデル

私はあなたの信頼を踏みにじった。私からは何も言えないわ。

アラデル
アラデル

責めるなり戒めるなり、あるいはここで倒すなりしたって構わない。全部受け止めるわ。

アラデル
アラデル

それでも、剣だけは貰っていくわよ。

アラデル
アラデル

それが私のロンディニウムにおける……“使命”なのだから。

シージ
シージ

……諸王の息吹は嵐の中からロンディニウムを守ることができると、確かにそう言ってたな。

アラデル
アラデル

私だってロンディニウムを戦禍に陥れたくはないわ。でも安心して、この剣だけは絶対にサルカズたちの手には渡さないから。

シージ
シージ

となると、大公爵らとの交渉材料にするつもりだな。

アラデル
アラデル

……

シージ
シージ

アラデル、貴様の背後にいる人物は、諸王の息吹を脅しの材料としてほかの公爵らを自らの陣営に組み入れようとしているのだろう。

シージ
シージ

その人物、本心からヴィクトリアを守ろうとするつもりはないのかもしれないぞ。

シージ
シージ

だが我々は、戦力が乏しくありながらも、ロンディニウムに身を置きながら守ろうとしているではないか。

シージ
シージ

危害と屈辱を被った者たちと一緒に。

アラデル
アラデル

分かっているわよ。

アラデル
アラデル

彼女の目的ならよく分かっている、でもそんなの私には関係ないの。

アラデル
アラデル

私はただ……私にできることに集中して、責任を負うだけよ。

シージ
シージ

では自救軍はどうする?

シージ
シージ

貴様とクロヴィシアが共に自救軍を作り上げ、貴様の栄誉をもって自救軍を守ってきたではないか。

アラデル
アラデル

私に栄誉なんてものはない。

シージ
シージ

なら、命をもって自救軍を守ってきたのだろう。

シージ
シージ

しかしだアラデル、貴様がここで剣を持ち去ってしまえば、私はどう自救軍の戦士らに説明してやればいい?

アラデル
アラデル

……クロヴィシアがしっかりと処理してくれるはずよ。

アラデル
アラデル

その際向こうからどう見られようが、私にはもうどうだっていいわ。

シージ
シージ

……

シージ
シージ

アラデル、自分のやれることだけに集中すると言っていたが……

シージ
シージ

そうやって固執するあまり、自分がすでに持っているものを疎かにしてはいないだろうか?

アラデル
アラデル

あなたに何が分かるのよ……いずれ必ず失ってしまうものに固執してどうするの?

アラデル
アラデル

全員から寄せられた信頼も敬意も、ただの上っ面だけのものだって知りながら、それでも身の内を明かせって言うの?

アラデル
アラデル

歩み始めた道の果てが最初から決まっていたものなら、一体何を強く持てって言うのよ!

アラデル
アラデル

私は何も選んじゃいなかったわ……

アラデル
アラデル

私はただここまで歩いてきたってだけなの、ヴィーナ。気付けばもう、ここまで運命に背中を推されていただけ。

アラデル
アラデル

最初から、私たちは同じ道を行けるはずがなかったのよ。

アラデル
アラデル

……

シージ
シージ

私たちは小さい頃、一度は出会っていたはずだったな?

アラデル
アラデル

……

シージ
シージ

カンバーランドの公爵邸で。

アラデル
アラデル

てっきりもう忘れたと思ってたわ。

シージ
シージ

ほとんどな……だがあの時、私の傍にはガウェインがいてくれていた。

アラデル
アラデル

あの時、まるで太陽みたいな生き物が私に言ってきたのよ。いつの日か、必ずあなたとまた再会するって。

アラデル
アラデル

でもきっと、それがこんな形になるなんて彼も思ってもいなかったでしょうね。

アラデル
アラデル

その剣、やっぱりどうしても渡すことはできないんでしょ?

アラデル
アラデル

だったら、ここで斬ってちょうだいな。私たちはここで……

シージ
シージ

アラデル。

シージ
シージ

私がした約束を、まだ憶えているか?

アラデル
アラデル

今さらそんなこと持ち出したって何にもならないわよ!もうやめて!

(回想)

アラデル
アラデル

もう何も背負うこともなく、ただあなたたちの知恵袋として……あっ、ごめんなさい、モーガンがいるのを忘れてたわ。だったら、私は下っ端になっても構わないわ。

アラデル
アラデル

一緒にサルカズの駐屯地を吹っ飛ばしに行きましょ。火はあなたが点けてもらって、煙がそこそこ上がるようになったら、私がそこに潜り込んで連中の指揮官のケツをシバキ上げてやるから。

シージ
シージ

……

アラデル
アラデル

冗談よ。

シージ
シージ

知ってる。

アラデル
アラデル

まあ私はもう、敷かれた道しか歩くことはできないから気にしなくていいのよ、ヴィーナ。

シージ
シージ

なぜそう言う?貴様が私たちに加わってくれたら、きっとグラスゴーにまた新たな逸話が生まれるはずだ。

アラデル
アラデル

それって……

シージ
シージ

ここで約束しよう。

シージ
シージ

貴様がヤツらの指揮官のケツをシバキあげた後も、必ず無事に帰ってこれるように私が守ってやる。

シージ
シージ

私からの約束だ。

(回想終了)

シージ
シージ

あれは冗談じゃないさ、今もな。

シージ
シージ

だからみんなで帰ろう。無事に、一緒に帰るんだ。

アラデル
アラデル

――

(蒸気の吹き出す音)

その時、両者の拮抗を打ち破る音がした。
また錯覚の類だろうか?
シージが周りを見渡す。だが巨大な石像は陰影に覆われたまま微動だにせず、そこら中に横たわってるサルカズたちの死体も蘇ってくるような気配はない。

(蒸気が何度も吹き出す音)

また一度、同じ音が聞こえてきた。
すぐ傍に、彼女の目の前に。
噴射する音が、次第に回数を増していく。
音はますます大きく、リズムもますますはっきりと――地下空間全体に鳴り響いてしまうぐらいに。

ダグザ
ダグザ

なっ……なんだあれは!

そこで突如と、アラデルの心臓が激しく動悸を引き起こした。
彼女は感じてしまったのである。
運命の予兆が、またもや無惨にも鳴り響いてきたことに。

タイトルとURLをコピーしました