おい、こんなこと聞いてないぞ!?
私も聞いていないな。
まさか、あいつの独断専行なんじゃ……
構わんさ。
私が許可したんだからな。
旦那様!まさか前々からこうお考えだったんで?
敵に塩を送るのと錦に花を添えるの、お前だったらどっちを選ぶ?
ベッローネが天下を掴み取るなど、フンッ、そう簡単にはやらせんさ。
ベッローネから肉を一片でも多く削り取ってやれるのなら、多少の汚名を被ったところでどうとでもなる。
なるほど、理解しました。
では、これからどうしましょう?
車を用意しろ、娘に会いに行く。
分かりました。
あとそうだ、ダンブラウンは今どこにいる?
ダンブラウンですか?ヤツならいま洗車場で働いていますよ。
住所を寄越せ。
ヤツを……呼び戻すのですか?
ファミリーから抜けていいなんて許可した覚えはない。
……分かりました。
それと、パーティも用意してくれ。
それって……
ベッローネの坊ちゃんを招待する。
クソッ、放せよ!
ラヴィニア殿、ラップランドが提供した手掛かりからこの二名を逮捕することができました。
確認したところ、こいつらは確かにレオントゥッツォへの暗殺に関与していていましたよ。
……二人とも、彼女とは知り合いなのですか?
ハロ~。
チッ、ラップランドめ、やっぱテメェと関わってりゃロクな目に遭わねえぜ。
シラクーザで臭い飯を食わされるんだ、滅多にない機会とは思わない?
……
二人を収監してください。
分かりました。
(カポネとガンビーノが牢獄に入れられる)
現場でチェッリーニアさんを足止めし、なおかつ爆弾でカラッチを殺害した……
この自供について、今も認めますか?
疑い深いなぁ、裁判官さんは。
キミにとってもベッローネにとっても、さっさとこの一件を片付けたほうが得なんじゃないの?
やったのはボクかテキサスかなんて、そんなに気にすることかな?
……
正直に言うとさ、裁判官さん、さっさとボクを処刑したほうがよかったかもね。
ボクはファミリーから除名された捨て子だ、ちょっと頑張ればできることでしょ。
考えてもみなよ。ボクが死ぬことで、このシラクーザの司法と正義にどれだけプラスの面を与えることができるのやら。
試してみる価値があるとは思わない?
あなたが何を考えているかは分かりかねます。
しかし、もし仮にあなたが真犯人だった場合はそうしますよ、ラップランド・サルッツォ。
ですが今は、まだ会いに行かなければならない人がいるので、保留にしておきましょう。
ドン、お戻りですか。
お前はもう休め。しばらくの間、苦労をかけたな。
分かりました。
(ディミトリーが部屋から立ち去る)
……
納得できないか?
逆にどうすれば納得できるのか知りたいものだな。
……ついて来い。
お前にもそろそろ知ってもらう時が来たようだ。
どうして俺をここに?
我が主よ。
(ザーロが姿を現す)
ベルナルド、自分じゃガキを躾けられないからと言って、今度は俺に押し付けてそいつを躾させようという魂胆か?
こいつには少し理解してもらわなければならない事柄があるだけです。
なんなんだお前は――
俺は狼の主さ、幼子よ。
狼の主という言葉を耳にしたところ、レオントゥッツォは眩暈を引き起こした。
大量の情報と瑣末な断片が一瞬にして彼の脳裏に注ぎ込まれたからである。
狼の主、ないしは“獣の主”。
この大地に生きるすべての生き物とは異なった存在であり、この者たちは一度だって誕生したことはなく、ただそこに存在しているだけなのである。
そんなザーロは、狼の群れからやってきた獣の主だ。
彼と彼の同胞は荒野から、これまでの群れの行末を見届けてきた。
彼らは本能に従うまま、終わりの見えない殺戮に興じていたのである。
狼の主、ないし獣の主は不滅の存在だ。
そんな彼らは今や、同族との殺し合いでは満足しきれなくなってしまっていた。ゆえに狼の主たちは、とあるゲームを設けた。
内容は至ってシンプル、狼の主は一匹ごとに一人の人間を選んでは育て、そしてその人間同士で互いに狩りをさせる。
その者たちこそ、“牙”と呼ばれる存在であった。
そして一度も折れぬ牙を有した狼の主こそが、真に狼どもの主となることができるのである。
狼の主、狩り、牙……
まさかッ!?
そうだ。お前の父こそが、俺が一番満足する牙だったのさ。
おいルビオ、ドン・サルッツォが今日ベッローネの人間を招待してパーティを開くおつもりなんだ。
だから一番いい食材を用意して送ってきてくれ。
……まさか、本当にサルッツォが?
ルビオ、聞いてるのか?
あぁ、聞いているさ。
そうだなぁ、招待するお相手がベッローネとなれば、一番いい食材を用意するだけじゃ味気ない。
ドン・サルッツォにお伝えしてくれ。そのパーティにはこのルビオが直々に両家のために料理の腕を振るって差し上げましょうと。
ドンのご意向を聞いてくりゃせんか?
クルビアにおいて、ファミリーの面子がもし他者に施しを与えたとすれば、その施された相手は、往々にして最後には取引する際の交渉材料になり得る。
気に掛ければ掛けるほど、その者の価値は高まっていく。
そしてここシラクーザにおいて、そんな対象は最後に、雨の降る夜に殺されてしまうのかもしれない。
気に掛ければ掛けるほど、惨たらしく。
だからここに生きる場合、できることなら冷酷で情け容赦ない人間になったほうがいい。
テキサスはその点をよく理解していたのと同時に、とても嫌悪感を抱いていた。
本当に申し訳ありませんでした。
お前が謝ることはない。
もしここを出たいのでしたら、少しだけ手続きさえ済ませればすぐに出してあげますので。
手続き上、あなたの容疑はすでに晴れていますから。
いいんだ、むしろ牢屋にいたほうが何かと静かで助かる。
ところで、お前はまだ諦めないつもりでいるのか?
あなたのあの昔からのご友人ですが、本当に彼女が真犯人だと思っていますか?
……
あいつらしいやり方だが、あんなことをする理由は見えてこないな。
なら、私もまだ諦め時ではないということです。
ラヴィニアさん、ロッサーティから人が来ています。何やらウォーラックがチェッリーニア嬢と少しだけ面会がしたいと。
……どうやら休みはおしまいみたいだな。
テキサスが過った時、ラヴィニアは自分のポケットに何かが入れられた気がした。
取り出してみれば、それは一枚の紙きれだった。
そこには番号らしき数字が羅列されていて、隅には文字がこう記されている――
ペンギン急便、雨降る風吹くなんのその。
(ソラが姿を見せ、拍手が起きる)
ちょっとそこのあんた、寝るんだったらせめて足を乗っけないでもらえるか?
……んぅ?
呼んだか?
あんた以外に誰がいるんだ?ここは劇場だぞ、寝に来るような場所じゃない。
それに足を乗っけるなど、マナーがなってないにも程があるぞ!
けど、ミュージカルを見てるあんたの邪魔にはなってないだろ?
なってはいないが、傍にあんたみたいな身なりの悪いヤツがいたら、こっちのミュージカルを鑑賞する気持ちも台無しだ!
分かったよ、足を引っ込めばいいんだろ?
おいちょっと待て、食い物まで持ち込んできているのか?
……ちょっと君、ここは飲食が提供されていないはずだが。
ああ、ポップコーンが売られていないもんだから、近くの店から買ってきた。
君、こういう場所に来るのは初めてかね?
ああ、ここならリラックスできるって友だちからオススメされてな。
なら……舞台はどうだったかね?
ずーっとここで見ちゃいたが、何を喋ってたのかさっぱりだったぜ。
なんでこんなもんを演じているんだ?
……
(劇場の支配人が指パッチンをする)
このお客人をつまみ出せ。
ここは君みたいな人間は歓迎していないんでね。
おいおい、チケットはちゃんと買ったぞ!
返金してやれ。
へい。
ご退場願おうか、スィニョーレ。
そら、さっさと出ていけ。
(ガードマンが洗車スタッフをはじき出す)
そういやこいつ、舞台が始まってからずっといたな。
てっきりどっかの金持ちが劇場を体験しに来たと思ってたんだが。
まさかマジでミュージカルの分からねえ貧乏人だったとはな。
舞台上でやってたアレ、あんたらは面白いと思ってるのかよ?
フッ、そりゃ面白いさ、演者らもみんな美人さんばっかだしよ。
それにあの楽曲もだ、感動モンだぜ。
それが……芸術ってヤツなのかい?
ケッ、テメェなんかに分かるわけねえだろ。とっとと酒場にでも行って飲んだくれやがれ。
あぁそうそう、忘れてた。ほら、テメェのチケット代だ。
(ガードマンが小銭を投げる)
ぼったくった、なんて言わないでくれよ。
(洗車スタッフがガードマンに突っかかる)
なんだテメェ、歯向かうつもりか?
んなッ、この野郎ッ、結構チカラつえーぞ。
おい、はやく手を貸せ!
……
こいつの目、なんだか妙だ。
あっ、あだだだだだ!腕、腕が折れるッ!
……
(ガードマンが洗車スタッフから急いで離れる)
……ん野郎、後で憶えとけよ!
まあよせ、もうその辺にしておけ。あいつも金を拾おうとしただけだろ、貧乏人なんかにいちいち突っかかるな。
ほら帰るぞ、あとで手当してやっから。
(ガードマン達が立ち去る)
……ラヴィニアさん、すまねえな。
どうやら俺、ああいう娯楽はてんで分からねえや。
やっぱ俺は酒場で飲んだくれて、ストリップショーでも見て夜を過ごしたほうが気が合うね。
なら、君も一緒に飲むかい?
……?
ダンブラウンが声のするほうへ振り向けば、そこには路地の壁に寄りかかった男の姿がいた。
彼は傍若無人ながらも、自分に向けて手に持っている酒瓶を振ってくれている。
ラップランド、説明しろ。
パパの欲しがっていた結果はこれでしょ?
ベッローネが一番弱まった時に手を貸して、掌握して、そして最後には彼らを消滅させるんじゃなくて支配する。
教えたはずだ、ラップランド。
お前はこういう時にどうすればいいのかを。
あぁ、忘れちゃってたよ。なんせあの家を出てもう何年も経っちゃったからね。
お前のことだ、色々と大目には見てやっている。私から言い渡されたことを完遂させてなくても構わん、私の意志に背くことだって。
何を言おうとお前は私の娘だからな、ラップランド。
それぐらいなら大目に見てやってもいい。だが私がファミリーのために下した決断を覆す行為だけは何があっても許さん。
お前が私の考えを理解していてもだ。
なぜならば、このファミリーを取り仕切っているのはこの私だからだ。
七年前、お前はそういったことをしたせいで私に勘当された。そして今回、お前はまたわざと同じようなことを繰り返した。
そうすれば私が怒ると知っていながら、いや、そうすれば私を怒らせることができると知っていながら。
なぜだ、我が娘よ。教えてくれ、なぜそんな真似をするんだ?
それ以外になーんも面白みを感じられないからだよ、パパ。
パパにとって、一家の主の席はすべてにおいて優先されるのかどうか……ボクはそれが知りたいんだ。
ずっとずっとね。
(アルベルトがラップランドを強打して突き飛ばす)
ラップランドはよろめきながらも、地面から立ち上がった。
まるでこの瞬間、やっとシラクーザに戻れたんだと実感したかのように、彼女はとても嬉しそうな笑顔を見せていた。
旦那様、そろそろお時間です。
今日はここまでにしておいてやる。
続けないの?
お前が私に背いた事実は変わらない。
だが、お前が私の娘である事実も変わらない。
誰よりも私のことを理解していることもな。
お前は少し教養に欠けている。
これも私の教育の失敗か。
まあいい、時間ならまだまだたんまりとあるんだからな。
つまり、狼の主たちはみんな俺たちの暮らしに潜んでいるということか?
いや、彼は狼の主の中で、唯一人間の社会と関わり合いを持っている者だ。
ほかの狼の主たちなら、今も荒野に暮らしている。
なぜだ?
人間の権力もある種の力であると、彼はそう思っている。
その力でほかの狼の主たちに勝つことも、一種の勝利だと考えているからだ。
つまり、親父にスィニョーレを転覆させ、シラクーザを権力で掌握する人間になって、あいつの言う同族同士の殺し合いにあいつを勝たせようとしているわけか?
親父も、俺も、ひいてはファミリーも、結局はあいつの勝つための道具だったというわけだな。
そんな理由をすんなり受け入れられるわけがないだろ!
親父はそれでいいのかよ!一生ただの操り人形として扱われるなんて!
お前は一つ勘違いを起こしているな、レオン、私の息子よ。
彼は私に権力の奪い方を教えてくれた、私がお前に教えたように。
権力を使って彼の代わりにほかの“牙”たちを打ち倒すことなど、私にとっては一つの過程に過ぎん。
ここまで下してきたどの決断も、ましてやこの時に手を出したことも、すべては私の意志によるものだ。
……
それが自分の意志だなんて、どうやってそんなことが分かるんだ?
(いいや……親父は本気だ。)
(そうだ、操り人形に成り下がった人間に、親父みたいな気質は出せるはずがない。)
私たちは互いに道具として、互いの勝利を約束し合った、ただそれだけのことだ。
ドン、サルッツォから招待状が届いています。
ドン・サルッツォから、坊ちゃまをぜひとも招待したいと。
はぁ。
ソラ、そのため息もう何回目?もう数えきれなくなっちゃったよ。
仕方あらへんがな、今日裁判所であんなことが起こってもうたんやし。
なんならさ、アタシで刑務所にカチコミに行こっか。
アホかいな。
少なくとも顔ぐらいは見れるでしょー。
その考えはやめておいたほうがいいわよ。
カタリナさん!どうしてここに?
それはこっちのセリフよ、ソラ。ここら辺は危ないのに、どうしてここで散歩なんかしてるの?
あたしここの近くに住んでるの。
ウソ、まさか人に騙されたこんなところに住まわされちゃったとか?
ウチとエクシアはんがおるやさかい、大丈夫やて。
ソラ、この人は?
あっ、この前劇場で知り合ったカタリナさん。
まあ……頼りになるお友だちがいるんだったら、少しは平気なのかな。
カタリナさんこそ、どうしてここに……
あっ、気にしないで。私こういった雑多とした場所のほうが、創作しやすいタイプなの。
創作って……あっ、確か『テキサスの死』の作者もカタリナって名前だったはず。って、まさか……
ふふっ、そのまさかよ。
えぇホントなの!?どうりでテキサスファミリーについて詳しいと思ったら!
あっ、その脚本ウチも読ませてもらったで!ありゃウチでも分かるわ、えらい脚本が生まれてもうたって!
その~、カタリナはん、よかったらサイン貰えへんやろか?
もちろん、まだ金になるような名前じゃないけど。
いえいえ~、『テキサスの死』はきっとバカ売れ間違いなしや!
ふふっ、ありがと。
それよりも、さっき――
あなたたち、見たところそれなり腕っぷしはあるみたいなんだし、シラクーザのほかの刑務所だったら本当に殴り込めちゃったりできるかもしれないわね。
でも、ヴォルシーニにはラヴィニアって人がいる以上は、そう簡単にやらせてはくれないわよ。
それに今はどこもかしこもそこの刑務所に注目が集まっているんだから、下手に動くと危ないわよ。
あはは、さっきのはただの冗談やて。
あなたたちの目を見る限りは冗談を言ってるとは思えないんだけどね。
……ところで、一つ聞いてもいいかしら?
なに?
あなたたちはその……チェッリーニアのことをよく知ってるの?
まあ、かけてくれ。
……
知ってるか、むかし芸術関連にはある種の暗黙のルールというのが存在していたんだ。
ファミリーに関する創作は許されているが、決してファミリーの名前だけは出してはならないルールだ。
聞いたことはあるな。
しかし今、『テキサスの死』が堂々と世に出された。
これはきっと、最初にファミリーの名前を冠した作品になるだろうな。
それがどうしたんだ?
つまり、ファミリーたちはもう自分たちの身分を憚ることがなくなり、むしろ進んで舞台に上がろうとするようになったということだ。
これもすべて、クルビア人のおかげだな。
クルビアがシラクーザの芸能界隈に進出してきてから、色んなものが変わってしまった。
より稼ぐために、弁えられない一部の芸術家たちは――あぁ、今は細工師と呼んだほうがよかったか、彼らの作品もますます見るに堪えないほど醜くなってしまったものだよ。
人々の暮らしを観察することもせず、ただひたすら虚偽の暮らしを作り上げていく。観客に金を払わせるような暮らしをな。
技術や思考が磨き上げられることもなく、ただただ流行りの文化に乗っかるだけ。昨日流行ったものも、今じゃ翌日にはすぐ劇場で鑑賞することができるようになってしまった。
そして最後、真に秀でた作品は尽く埋もれてしまい、浮かび上がってきたゴミみたいな作品が、人々の目にする芸術のすべてに成り代わる。
なんとも恐ろしいことだ、そう思わないかい?
もし全員がそういう類のものが好きだっていうのなら、あんたの言うその芸術ってやつは捨てられて当然だと思うけどな。
確かにこれは一種の意見に過ぎないが、誰しもがそう思っているわけでもないのだよ。
佳作と称されるべきものが埋もれてしまわないようにする人たちもいるにはいるんだが、彼らはどうにもこの潮流に抗える術を知らなくてな。
……いくら昔のミュージカルのほうがよかったとは言え、俺には何がいいのか分からないね。
だが君も過去からは逃れられないでいる、違うか?
あんた一体誰なんだ?
ベンソンネキソス、週刊『ヴォルシーニのアート』の評論のページに私の名前が少しだけ載っている、探してみるといい。
ベン……なんだ?
ベンでいい。
ベン……
俺は……分からねえんだ、今のシラクーザが。
上の偉い連中が言うには、もっと文明的なやり方で問題を解決しなきゃならないらしい。
でも、俺がその文明的なやり方で事にあたった際、昔となんら変わってねえことに気が付いちまったんだ。
さっぱりなんだ。こんなことしなくていいのに、なんで自分たちにウソをついてまでこんなことをしなきゃならねえんだ?
ファミリーも多かれ少なかれ、これは時代の流れだと気付いてはいるが、誰も自分が獲得したものを手放そうとしないからだよ。
一杯どうだい?
その酒、確かいい値のするやつだったろ。
まあ、それなりには。
でも、ここは安いピッツェリアだぞ。
そうだな。
なんでそんな高い酒で、こんな安いピッツァに合わせるんだい?
私にとって、この酒もここのピッツァも、価値は同じだと考えているからだよ。
この酒の出来は確かに素晴らしい。だがこのピッツァに使われている小麦も、それに勝るとも劣らない。
なのに、この二つにこれほどまでの価格の差が開いていいものなのだろうか?その内には本当に、文明と名の付く虚飾が含まれてはいないのだろうか?
君はどう思う?
……文明という名の虚飾をか?
この酒のラベルのように、こいつを貼り付ければ、文明の旗印を掲げて、騙した相手のすべてを奪い取りことができるのだよ。
そう……チェッリーニアは龍門に逃げたのね。で、あなたたちがまさか彼女の友だちだったなんて……
えへへ、信じられないとは思うけど。
……ううん、信じるわ。
ホントに?
まず、あなたたちはこんなことで私を騙す必要がない。それに私も、彼女は生きてるってずっと信じてたから。
それにあなたたちが教えてくれたおかげで、私もようやく理解できたわ。なんで彼女が突然この街に現れたのかって。
おそらくあの清算の時に交わしたベッローネとの取引のツケを返すために、ここに帰ってきたんでしょうね。
……そう言われると、確かにあの人らしいかも。
にしても、運がいいんだか悪いんだか、よりによってルーチュ・デル・ジョルノ劇団に入っただなんて……(小声)いや、これも必然だったのかも?
劇団がどうかしたの?
……ううん、なんでもない。
芸能関係でベッローネとお近づきになりたいのなら、あそこの劇団を選んだのは正解だったわね。
でも……そうだ、少しついて来てもらえないかしら?
ここって……
私の住んでいるところよ。
うわ~、そこら辺に本と紙ばっかやな。
うふふ、ごめんなさいね。思いついて誘っちゃったものだから、片付けられてなくて。
ソラ、はいこれ。
これは、鍵?
そっ、ほら外って危ないじゃない?もし練習する場所を探してるんだったら、ここを貸すわ。
ここなら色んな脚本があるから参考資料にどうぞ、なにより静かだし。
そんな、悪いよ……
いいのいいの、友だちだと思って、ね?
……うん、ありがとう!