一番地味で目立たぬ食品安全部……
コネはあるもまったく重要視されてこなかった食品安全部の部長がか……
この状況下において、もはやカラッチのような各ファミリーのパワーバランスを保つために選ばれる人間は必要ないかと思われます。
あなたもきっと安全で、かつ従順な操り人形を必要としているのではないでしょうか。
違いますかな?
ルビオ殿、安全かつ従順な操り人形なら自らそんなことを言い出すことはないぞ。
ワシはほかの者よりも弁えてると自負しておりますので。
ははは、弁えているね。
ルビオよ、君の言った通り、君は確かにカラッチに代わるこれ以上にないほどの人材だ。
君がそうして率直にモノ申してくれたことに免じて、こちらも少しだけ教えてやろう。
何なりと。
カラッチは、私が殺させた。
……
君は実に勇敢だ、そういった人と話をするのは悪くない。
だから一回だけチャンスをやろう、ルビオ。
この部屋から出て、さっき言ったことは忘れろ。そうすれば、下手に危険な目に遭うこともない。
それから我が家に帰って、妻と娘と一緒に、この街最後の安寧なひと時を過ごしてやるんだな。
しかしそうだとすれば、尚更ワシみたいな傀儡が必要になるのでは?
ほう?
あなたがお求めになられているのは、まさにいま繰り広げられている混乱。
スィニョーラの統治下にある今にしろ、それよりも以前の時期にしろ、あなたはスィニョーラが定めた秩序を壊そうとしておられる。
今までにおいて、ファミリー間の闘争は一般市民からすれば無関係なことでした。
ことが起これば、ワシらはただ結果を待つことしかできませんのでね。
だからワシら目線で見れば、この国がスィニョーラに統治されていようが、あるいはあなたに統治されようが、ワシら一般人からすればどれも同じです。
しかし、最後の勝者というのは、いつだって表で秩序を統率してくれる者を必要としているはずでしょう。
いちファミリーのドンとして、あなたならきっとこの道理を理解しておられるかと思います――
ファミリーから離れたとしても、一般人が生きていけなくなるわけではない。しかし一般人から離れてしまえば、ファミリーも同じことができるとは限りません。
つまり、君たちのほうが立場は上だと言いたいのかな?
弱者として、話を取り繕っているだけですよ。
フッ、取り繕っているね。
だが、それが君の本当の目的でもないのだろう。
権力です、敬愛するドン・ベッローネ。
ワシは小さい頃からこのひ弱に見える顔つきと体格のせいで、よく周りからイジメられてきました。
ワシからすれば、周りからの圧迫のほうが、ファミリーが与えてくるそれよりも痛々しく感じるのです。
ワシがずっと耐えてきたのも、すべては今このチャンスのためでした。
あなたは先ほどカラッチは自分が殺したと仰いましたが、やはりここへ来たのは正解だった。
一つ聞こえが悪いことを言いましょう。あなたがスィニョーラに歯向かったところで、到底勝てるとは思えません。
しかし、だからといって何なんです?あなたが最後に勝とうが負けようが、ワシからすればどうだっていい――
ただこの権力だけは、スィニョーラではなく、あなたからでしか授け与えることができないものなのです。
君は実に誠実な人間だな、ルビオ。誠実な人間と友情を交わすのは嫌いではないよ。
(遠くで爆発音が鳴る)
なんだ?
ドン……(耳打ち)
……
周りに伝えろ。今日はここまでだ、とな。
分かりました。
さっきのはなに!?
向こうの部屋が……ちょいと揺れたような?
どうやら彼女、キミたちのほうを選んだみたいだね。
へ?
さっきの揺れ、あれはジョバンナのアーツによるものだよ。
交渉決裂って感じかな。
見て、テキサスが窓から飛び降りたよ!アタシらもはやく追いかけよう!
うん!
(ソラ達が走り去る)
……
やれやれ、テキサス、もしも、もしもの話だ。もしあの時、ボクたちが友だちになれていたら、ボクはキミをあのままシラクーザに残ってもらうようにしてやれたのかな?
ハッ、まあ無理だろうね。
そんなことをしてもボクたちは、殺し合っていただろうさ。
(斬撃音と殴打音)
ラヴィニアさん、頼むから……俺にあんたを殺させないでくれよ。
こっちにもやらなきゃならねえことがあるんだ。
……
(ラヴィニアが巨大なガベルを振り回す)
……
できることなら来世は、あんたがシラクーザに生まれてこないことを願っているよ、ラヴィニアさん。
(ルビオが扉を開けて部屋に入ってくる)
待ちなさい。
……誰だあんたは?
君は……サルッツォの殺し屋だね?今回の襲撃なら……もうすでに終わったよ。
つい先ほど、ベッローネさんがそう伝えた。
……
(ベルナルドが部屋に入ってくる)
ラヴィニア、ここはお前が来ていい場所ではないはずだが。
あなたには関係ありません。
今のお前はサルッツォの行動を妨害しているようなものだ。そんなことをすれば、我々両ファミリーの関係に亀裂が生じかねん。
……フッ。
ならその際は、私の首を斬り落としてアルベルトに詫びを入れればいいじゃないですか!
……
まあお待ちください、ベルナルドさ……いや、ドン・ベッローネ。
一つ、お願いがございます。
何かね?
きっとこれからレオントゥッツォ様は、さしずめご多忙になられると思われます。以前のカラッチのようにワシを補佐してもらうにしても、おそらくは非現実的かと。
そこで一人、新しい秘書を置かせて頂きたいと思いまして。
ここにおられるそこの裁判官殿がその適材かと。
まあ、そうだな。
……あなたたち、一体なんの話ですか?
おっと、これは申し訳ない、ラヴィニア殿。君だけ省いて勝手に話を進めてしまったわい。
つい先ほど、ドン・ベッローネから任命を許可して頂いたんだ。この元食品安全部部長のルビオが、カラッチのポストを引き継ぎ、次の建設部部長にと。
しかし正直に言うと、行政関連の事務についてはあまり経験がないものでね。
だから経験豊富な君に、私の秘書を務めてもらいたいのだよ。
……
(ソラたちのほうは大丈夫だろうか……)
(銃撃音)
ッ!?
(牧師風のサンクタが近づいてくる)
……なぜ、お前が……あなたがここにいるんだ?
歳を取れば、人は穏やかな場所で余生を過ごしたいと思うものなのでね。
……
いたぞ!ヤツはあそこだ!
囲い込め!
どうやら、道を譲ってくれそうにないみたいだな。
当時のあの出来事のことで、彼女はまだ何かと君を心配しているからな。
私のほうもすっかり歳を食ってしまったものだから、若者の世話を焼きがちになってしまったよ。
だから少し、この老人の話し相手になってはくれないかな?
……次会ったらな、その時は必ず。
(テキサスが複数のマフィアを斬り伏せ、???の銃撃を避ける)
(間一髪でテキサスの前を防いだ盾が銃撃を防ぐ)
テキサス、カバーしに来たで!
クロワッサン!?
おやおや~、どこの誰かさんかな、こんなとこで孤軍奮闘してるのは?
……お前たちまで。
アタシが見たところだと、シラクーザファミリーの企業カルチャーってのは多分――大人数での乱闘のはずだよね。
で、ウチらペンギン急便の企業カルチャーと言えば――
年がら年中パーティを開くこと?
いや、この場合はきっと――
売られたケンカは買うのが道理、だろ。
ビンゴー!
あのさお爺さん、同族のウチに免じて、ここは見逃してもらえないかなー?
んなこと言ったって無駄やて、エクシアはん。
……
それもそうだな。
やれやれ、シラクーザの雨季は長ったらしいものだな。若い頃はまったく気にすることもなかったのだが、近頃は関節炎が悩ましくて仕方がない。
若人たちよ、負けん気を起こすことが悪いとは言わないが、くれぐれも健康だけには気を付けなさい。
えっ、ウソやろ?
やりぃ~、サンキュー!
そうだ、もしお爺さんに会いたかった場合はどこに行けばいいかな?
救いを求めようとしているのなら、生憎それを与える術は持ち合わせていなくてね。
だが秩序を欲しているのなら、私はどこにだっていよう。
(???が立ち去る)
……よし、私たちもここを離れよう。
あいよ~!
……
ドン。
状況は?
ベッローネが退いた。
そう、よくやってくれたわ。
チェッリーニアのほうはどうなったんだ?
行っちゃった。
行った?
彼女は私を殺せなかった、なら逆も然りよ。
……
そろそろ戻って準備しておきましょう。ベッローネがあのまま手を引くはずがいないもの。
……分かった。
……
(ウォールラックが瓦礫を蹴り飛ばし、何処かに電話を掛ける)
あんたの勝ちだぜ、レオントゥッツォ。
ウォーラックを丸め込んだこと、あれドンの意志じゃなかったんだろ?
だがこの場合ならあれが最善の選択だった、違うか?
……否定はしないな、ゲホッゲホッ。
もういい、喋るな。車まで支えてやるよ。
レオン、あんたまだ諦めちゃいないんだろ?
これっぽっちの挫折など、ラヴィニアが受けた困難と比べれば些細なものだ。
……やっぱり器が違うな、レオン。
もしかしたらいつか、あんたはきっとシラクーザで自分の目標を叶えられちまうかもな。
その際は、お前にも手伝ってもらう。
俺はラヴィニアと相性が悪いぞ。
彼女にしか任せられないことがあるように、お前にしか任せられないことがあるんだ。
はは、あんたってヤツは、もうそんなとこまで企んでいるのかよ。
……ディミトリー、俺はまだあんな策略を打ち出したあんたや親父を許してやったわけではない。
なぜ親父が、よりによってこのタイミングで手を出したのかもまだ分からない。
だが何を言おうが、俺も結局はこのファミリーの一員だ。
とうちゃ~く!みんな無事だね!
ハァ……ふぅ……やっぱり、自分たちのアジトが一番落ち着くね。
いや~、にしてもシラクーザの人ってばホントしつこいね、こっちはもうくたくただよ~。
ソラは大丈夫?
うん、ドレスがちょっと破けちゃったけど。
うへぇ、それ結構高かったんじゃないの?
あはは、まあなんとかなるよ。
じゃあそういうわけで、ほれほれ、ひとり一本ね。
……
もう、そんな顔しないでくださいよ。
私達三人はたまたまこの街を旅行しに来てただけって、そう思えてもらえればいいんですから。
……じゃあ、女優は一体どういうことなんだ。
えーっと……これはその、ついでに事業展開、的な?
それにほら、こうしたほうがテキサスさんを探す手間も省けるかなーっと思ったんで。
まあ結果からして、目的は達成できたし。
そうだな。
しかし、その場の空気が少しだけ重みを増した。
避けては通れない問題が脳裏に浮かび上がってきたのだ。
これからどうすればいい?
テキサスはこの言葉を口に出せずにいた。
あんなテキ……
でもねテキサスさん、あたしディレクターさんと約束してるんです。
……
ん?
あたしがテキサスさんを見つけても女優は続けるって、そういう契約を交わしてるから。
しかしそれだと……
あたしディレクターさんと少し話をしたことがあるんです。今思い返すとちょっと怖かったけど、でもあの人はあたしたちを脅しに利用するような人じゃないと思う。
そうそう、もしあのおじさんがそんなことをする人だったら、アタシらとっくに捕まえられてたはずだよ。
ホンマ、そういうの勘弁してや、聞いてるだけでゾッとするわ。
あたしたちはホント、観光がてらテキサスさんを探しに来ただけなんです。もしここが落ち着いていたら、テキサスさんにあちこち案内してもらいたかったぐらいなんですからね。
……そうか、ならことが終わった際は、必ず案内してやろう。
まあともあれ、まずは乾杯っしょ!ペンギン急便がまたシラクーザで再会できたってことで!
かんぱーい!
まあ一番大事なのは――
(ソラの携帯が鳴る)
あれ?
知らない電話番号だ。
誰にも言ってないはずなのになぁ、ここの電話番号……
はい、もしもし……
ソラ殿、君が無事で何よりだ、私もようやくホッとしたよ。
テキサスさんのこと、知っていたんですね?
まあ話を聞いてくれたまえ、ソラ殿。
さしずめ、今はペンギン急便の面々が再会できて喜んでいるところだろう。
だからこちらも手短に話す。
そちらもきっと、私に色々と聞きたいことがあるんじゃないのかな。
だから明日、劇場で君の帰りを待っているよ。
……分かりました。