
ご注文のピッツァでーす。

どうも。

……
(レオントゥッツォが近づいてくる)

この席、空いてるか?

空いてません。

じゃあ遠慮なく。

空いてないって言ったでしょ。

あなたはこのままファミリーのためにやるべきことを続ければいいじゃないですか、私みたいな一般人なんかは放っておいて。

姉ちゃん……

……

別にあなたのことを責めるつもりはありませんよ、レオン。

ベルナルドのことも。

責めるべき対象を言うのであれば、それは私だけです。

こんな国に生まれてもなお、幻想を抱き続けてきた私が悪かった。だからあなたたちを責める資格なんて、私にはありませんよ。

俺もこんなところで、お前に理性的になれなんて言えたものじゃない。

今のお前に慰めなんて与えても意味はないはずだから。

俺がお前と同じ被害者だって言っても、お前が俺を加害者だと扱うのは至極当然だろうな。

だからここで、まだ一つだけ伝えてやれるのは……俺はまだ諦めちゃいないってことだ。

それじゃ。

最近は街も物騒になってきている、お前も自分の身の安全には十分に気を付けるんだぞ。何かあれば、俺に電話してくれ。

……
(ラヴィニアの携帯に電話が掛かってくる)

はい、ルビオ部長。

裁判官殿、今お時間はあるかな?

なーんか街中えらいピリピリしとるなー。

昨日あんなことが起こればそうなるよ……

なあ、ホンマにあのディレクターんとこに行かなアカンの?

うん、きちんとディレクターさんと話さなきゃならいことがあるから。

せやかて――

大丈夫、クロワッサンはクロワッサンのやるべきことをやって。

私がついてる、心配するな。

……

……じゃあ、今日はアタシがクロワッサンのボディガードってとこかな。

うん、お願いね。

なんか起こったら、すぐに連絡するんやで。

はーい。
(ソラ達が立ち去る)

……

クロワッサン、テキサスのこと考えてるでしょ?

……分かる?

顔に書いてるもん。

まあ考えてるのはアタシも一緒だけどね。

ソラの考えてることは分かるよ。もしテキサスがここに残りたいって言ったら、きっとソラはそれを尊重するはず。

アタシもね。

でもさ――

アタシやっぱり、姉ちゃんにウチの仲間を会わせてやりたいんだ。

少なくとも、テキサスを無事シラクーザから脱出させるような方法はもう思いついたんじゃないの?

はぁ……あんたには誤魔化せられへんな。

あの二人にもきっと誤魔化せられてないと思うよ~。

アタシらがソラの考えを尊重するみたいに、向こうもきっとアタシらのことを理解してくれるって。

でも、なんたってここはシラクーザや……それにテキサスはんはこの国で一番おっかないとことつるんでもうてる、ウチにはどうにもならへんって。

えっ?てっきり思いついたのかと思ってたのに。

はぁ?

でもさ……この国のえらい人を言うんだったら、アタシらも昨日一人と会えたじゃん?
(ドアのノック音)

入りたまえ。
(ソラとテキサスが部屋に入ってくる)

おぉソラ殿、それにチェッリーニアも、ようこそ。

……

なぜソラたちを巻き込んだ?

ソラの履歴書が私の手元に届いたことなら、あれはただの偶然だったよ。

無論、ある種の必然とも言えるだろうね。

なんせこのルーチュ・デル・ジョルノ劇団は、シラクーザでも少しは人気のある劇団だからな。

だがそんな劇団のディレクターがまさかベッローネファミリーのドンが勤めてるとは思うまい、秘密にしているからね。

この街におけるベッローネの事業なら、すべて私の息子に任せている。私もあいつにいちいち口を出すつもりはない。

チェッリーニア、そしてソラ殿、私はこの劇団のディレクターを務めてもう六年になる。

だからせめてこれだけは信じてもらいたい、私のアートへの追及と愛好は、この身分となんら関係はないことをね。

できることなら、私もソラ殿には舞台上で大いに輝いてもらい、それから二人の再会をめでたいものにしてやりたいと思っているさ。

だが、彼女は巻き込まれた。それをお前はなんとも思っていないのだろう?

フフッ。

とぼけるな、ベルナルド。

確かに、ソラと出会ったことは偶然なのかもしれない。だがいくらキレイごとを言おうが、お前は本心からソラの安否を心配してやってはいないんだろ?

冗談も程々にしてもらいたいな。

シラクーザへやって来てから、初めてそういう怒った顔を見せてくれたな。悪くないぞ、チェッリーニア。

……ディレクターさん、一つ知りたいことがあります。

何かな?

あなたと交わした契約ですが、あれはまだ有効なんでしょうか?

それはあれだね――

こうしてテキサスさんと再会することはできましたが、引き続き劇団に所属させて頂きたいんです。

……ほう?

てっきりその契約の破棄を言い渡してくるのかと思っていたよ、ソラ殿。

……ファミリー同士の闘争なら、あたしは何も力にはなれません。

テキサスさんがもしこんな混乱した状況の中であたしたちを守ることになっても、きっとすごく難しいことでしょう。

それにあたし、ディレクターさんは少なくとも約束は守る人だって信じていますから。

ですので率直に言いますよ、ここに残ってあなたたちの人質になってあげます。

君の勇敢さにはいつも心を動かされてしまうな、ソラ殿。

だが、そう強張る必要もない。

ソラ殿、私は何も君を責め立てるつもりでここへ呼んだわけではない。実際あの劇場での騒動は、まあロッサーティへの挨拶みたいなものだ。

君が出した成果ならすでに十分、私の想像を遥かに超えるものだったよ。

だからだね――

私と君が交わした契約なら、ここでおしまいだ。

君はもう晴れて自由の身だよ。

チェッリーニアならもう、ベッローネの庇護を受けなくなった。

これで満足かな、ウォーラック君?

満足だと?

チェッリーニアを連れて帰ってきたことを忘れたとは言わせんぞ。

俺が知りたいのは一つだけだ。あんたは最初からそうするつもりだったんだろ?

君は私の息子に感謝すべきだよ。

君は話しの通じる相手だと、あいつから言ってくれたのだからな。

レオンのボン坊ちゃまがか。ハッ、なるほどそういうことね。

ロッサーティが発展していく勢いなら、私はずっと注目してきたさ。

チェッリーニアは所詮、今日この場で我々が協力できるように仕向けた土台に過ぎんよ。

つまり、レオンが俺のとこに来なかったとしても、いずれあんたがやって来るということか。

まったくこの親にしてこの子ありだな。

フフッ、息子にも君のその毅然とした態度を学んでもらいたいものだ。

だがよく聞けよベルナルド、ほかの連中だったらその手を食らうかもしれないけどな。

俺は違うぞ。

もちろんだ、ウォーラック。あんなことをやったのも、すべて君に分かってもらいたかったからだ。君にとっての障碍は一体どこの誰であるのか、とね。

ほう?まさか今俺の目の前に座ってるヤツがそうじゃないのか?

俺にドンを裏切らせようと思っているのなら、クソ食らえだ。

裏切らせる?それは誤解だ、私は単に気付かせてやりたいだけさ。

一番それをよく知っているのは君なんじゃないのかね、ウォーラック。

チェッリーニアが現れたことで、ジョバンナがどれだけ揺れ動いたことか。

シラクーザ人なら誰しもがサルヴァトーレのことを尊敬しているが、尊敬は盲信を意味することではないぞ。

サルヴァトーレの時代なら七年前に幕を閉じた。なのに君たちは、今も甘んじてジョバンナに付き添い、彼が残した遺産を守り抜こうとしているのかね?

君たちならもっと高く、遠くへ飛び立つことができたはずなのに。

……ドンは全体の利益を重んじる人だ。

その彼女が重んじている利益は、本当に君が求めている利益なのかね?

かつてのロッサーティならクルビアじゃ怖い者知らず、あのテキサスとも肩を並べる存在だった。

それが今じゃどうだ?ここシラクーザに戻った後、十一もの他のファミリーから見下されるがままだ。

君の思うロッサーティは、他のファミリーを凌駕し、スィニョーラをサラ・グリッジョから引きずり下ろすことができるような存在なのではないのかね?

まるで俺のことをよく理解しているような口ぶりはしないでもらいたいな、爺さん。

君のことなら理解しちゃいないさ。だが君のような人のことならよぉく理解している、その目つきもな。

生きる気力もない人間が、シラクーザと言う濁り切った水の中に適応できるはずもないだろう。

チェッリーニアが生きてあの家から出て来たところを見てもまだ分からないのか?

……だとしてもだ爺さん、あんたの言ってることが正しかったとしてもだ。

これも全部、自分らのファミリーのためにやっていることなんだよ。

あんたら古いファミリーってのは、そういう仁義から外れたことには歯牙にもかけないはずだろ?

なんだ?シラクーザ人のプライドも所詮はその程度だったのか?

まだ誤解しているようだな、ウォーラック。

私が君をここへ呼んだのは、君にも一つチャンスを共有したかったからだ。

今あるシラクーザの秩序を覆し、新しい秩序を建てる機会をね。

……

それがなんでロッサーティなんだ?

六十年前、スィニョーラはラテラーノから“銃と秩序”を持ち帰った。

今じゃ多くの人たちは、サラ・グリッジョは十二ファミリーが共に建てた組織だと思い込んでいる。

だがその十二ファミリーがスィニョーラに、如何にしてそこに座らされてしまったのかということは、すっかりと忘れたままだ。

我々はね、絶対的な力によってそこに座らされたのだよ。

アルベルトは時機の判断に固執し過ぎた、慎重になり過ぎたのだ。

スィニョーラに噛みつく際、私が欲しいのはそんな慎重な盟友なんかじゃない。私が欲しいのはね――

私と同じように、今ある秩序を覆そうと思っている友人らなのだよ。

それをよぉく考えてみてくれたまえ、ウォーラック。

今がその絶好のチャンスなのだからな。

……
(ウォーラックが電話を掛ける)

ドンはいるか?

部屋にいます。

……

なら伝えてくれ、これからチェッリーニアのあの友人らを誘拐してチェッリーニアを殺る。

……そこまでする必要はあるんですか?

ならあんたはこう聞くべきだな――

ロッサーティ、本当にこのままでいいのか、だ。

なあ、ホンマに昨日会ったあの人、そんなにすごい人なんか?

ホンマホンマ、多分そうだよ!

でもそんなすごい人、ホンマにこの街におるんやろか?

普通じゃない?アタシだったらそうするけど!

……あんたに言われたら妙に説得力を感じてまうわ。

でもなして裁判所におるって分かったんや?

それはね……あっ、いた。

だってほら、最後にああ言ったじゃん。えっとー、普段は教会にいないけど、裁判所にはいるよ、的な?

だよね、お爺ちゃん!

……

あれ、お爺ちゃん?

Zzz……Zzzz……

ウチらあんま……邪魔せんほうがええんやない?

ふがッ……んぅ?

おや、君たちか。

こんにちはー!

ちょ~っとだけ教えを乞いに来ましたー。

フフフ、おぉそうかそうか、まあ座りなさい。若者との会話なら大歓迎だよ。

ウチらのある友だちが、なんかとあるファミリーとの約束のせいで向こうに手を貸さなアカン状況にあるんです。

それでなんとかする方法がないか知りたくて。

君たちのその友人はテキサスという名前だね?

……うん。

聞く限りじゃ、ベルナルドは約束を守る男だ。

いちファミリーのドンとして、彼がそんな約束を破るとは思わないがね。

でも、今この街で起こってるのってスィニョーラ・シチリアに対する挑戦なんやろ?

ウチら……そこまで複雑なことに手を挟める余地とか方法がないっちゅーか、正直どうでもいい……

ただせめて、テキサスはんだけはスィニョーラの報復の対象にはなってほしくないねん。

……

あの時のスィニョーラは、それはもうとてもサルヴァトーレに一目を置いていた。だがそれぐらい、ジュゼッペの行いにも怒りを抱いていた。

これもすべて、彼女が定めた秩序へ極めて直接的な挑発を行ったからだよ。

シチリアーナは秩序内での挑戦ならなんであれ受け付けてくれるが、その秩序の破壊だけは断固として許さんのでな。

つまりそれって……秩序の破壊行為に対しては情け容赦がないってこと?

……私もかつてはそう思っていたよ。

だが所詮は人が建てた秩序だ、そこに絶対などというものはない。

チェッリーニアとまったく関係ない君たちの側面を見ることだってそうだ。

たまたまここで同族と出会えたこともな。

えへへ!

シチリアーナの統治よりも前に、ここシラクーザにも秩序は存在していた。

ただし、ファミリーたちが信奉していた秩序はすべて自分たちのものでな。みなそれぞれ異なる秩序を持っていたものだから、自ずとひたすらに相争ってきた。

シチリアーナがしたことは、そんな秩序を破壊することではない。

むしろファミリー同士の秩序を一つにまとめあげたのだ。

それぞれのファミリーもまた、みな一つのファミリーへとなった。

そして、シラクーザはシラクーザになったのだよ。

これがどういう意味なのか分かるかな?

えっとつまり……シラクーザがスィニョーラに支配されようがされていまいが……どっちもあんまり変わんないってことか?

その通り。

過去シラクーザに存在していた問題は消えたわけではない。私も私たちも、みなそのことをよく分かっている。

しかしそんな問題も、スィニョーラのところに赴けばすべて解決ということだ。

それってスィニョーラに会わなきゃならないってことやろ……ウチらには難しすぎるって。

この点に関してだけは、残念だが君たちの力にはなってやれない。

しかし彼女のこととなれば方法がないわけでもないよ。

ただ――

ただ?

ただ、少々その対価が大きすぎるのかもしれんな。

……

あの、ドン?

……うん?

昨晩から、ずっとそのネックレスを弄ってますよね。

ああこれ?これ、スィニョーラから貰ったものなの。

テキサスの一件の後始末と、クルビアのファミリーをシラクーザへ連れ戻してくれた際のお礼としてね。

えっ、それってそんなに貴重なものだったんですか……

もしかしてこのタイミングでそれを使うおつもりで?

……私もどうしようか迷ってるのよねぇ。

それでさっき、ウォーラックがチェッリーニアの友だちに手を出すって言ってたけどホントなの?

はい、例の友人ら数人は今出かけているみたいでして。彼女らが帰ってくる際に、待ち伏せしていた人たちがやると。

……
(ジョバンナが上着を羽織る)

ドン、どちらに?

チョコを買いに行ってくる。

やれやれ、やっぱりお前の言う通りだったな。

どこもかしこも、ロッサーティの人間はあちこちに潜んでいやがる。

ペンギン急便の連中、戻ってきたらひどい死に方をするんだろうなぁ。

しかし一つ不可解なところがある、ラップランド。

何かな?

ロッサーティがいずれテキサスに手を出すのは俺も分かっていたさ。

だがお前はサルッツォの人間だろ?なんでガンビーノにあのサンクタの後をつけさせて、俺たちはここでそいつらの家の留守番をしていなきゃならねえんだ?

お前が友情のためにここまでするような人間とは思わなかったぜ。

ボクがそんなことをする人間に見える?

まったく。

だから気になるんだ、お前一体何がしたいんだよ?

トラックで裁判所に突っ込んで、テキサスの罪を晴らすために自分から罪なんか認めて。サルッツォとベッローネの強硬手段も一緒に釣り上げてよ。

なんであの両家がおっ始めないで手を組んだのかは分からねえが、お前だったら絶対理由ぐらいは知っているはずだ。これがベッローネを、あの女を助けていることだって。

なんなら昨日の襲撃でも一度あの女に手を貸しただろ。

お前、あの女にシラクーザは泥沼で、誰も逃げられやしないことを証明してやりたいんだろ?

俺から見りゃ、今のお前は単にその泥沼からあの女を助け出しているだけだぜ。

もし、彼女が大事にしている人たちを何人か殺して、彼女が不快に思うようなことをしなきゃ、それを証明することができなければの話だ。

結局それはボクの変に偏った固執でしかなく、事実じゃない。

事実というのはね、たとえ横で見ているだけでも勝手に起こってしまうものなのさ。

でもそれだけじゃ全然足りないんだ。

ボクは必ず、彼女を邪魔しないと同時に彼女を助けてやらなきゃならないんだよ。そうしなきゃ、彼女に分かってもらえないんでね――

自分がしてきた足掻きがどれだけ無駄なことだったのかを。

……それでお前は満足するのかよ?

さあね。でもこれ以外に方法はないかな。

それはお前もどうすりゃいいのか分からないって、俺に言ってるようなもんだぜ。

そうだね、そこは否定しないよ。

でもねカポネ、キミもそろそろガンビーノみたいに一つの事実を認めるべきだよ。いくらボクからあれこれ聞き出そうとしても、キミらが欲しがってる答えは絶対に出ないよ。

……お見通しか。

彼はベッローネの一員になってもう一度成り上がろうとしているけど、キミはどうなんだい?

今もこんなとこで突っ立って、本当にボクのペットにでもなったつもり?

それとも、ボクの行く道を自分も辿りたいと思っているのかな?

……

そんな期待はやめときなよ、でなきゃキミをぶっ殺しちゃうからね。

ボクの道を歩いていいのはボクだけだ。

じゃあテキサスはどうなんだ?

テキサスは、もしかしたらこの道そのものなのかもしれないね。

フッ。
カポネはしばらくの間黙り込み、そして振り向きざまに立ち去った。

おや、これは予想外なサプライズだね。
(ジョバンナが通りかかる)

ここに来たことはないけど……でも間違いないわ。

ここがきっと、ペンギン急便のアジトね。

……
(ジョバンナの携帯が鳴る)

カタリナさん。

ソラちゃん……あぁ、そうだった、電話番号を渡したんだもんね。

もしかしてジョバンナさんって呼んだほうがよかった?

……カタリナでお願い。

この名前、結構気に入ってるから。

シラクーザのファミリーの人間って、なんでみんなして劇場で働きたがるんですか?

そりゃいつも殺しをやっているわけじゃないからね。

今そっちはみんな揃ってるの?
(マフィアたちがペンギン急便のアジトを取り囲む)

……

カタリナさん?

なんでもない。

ねえソラちゃん、あなたたちペンギン急便のことについて、少し教えてもらえないかしら?

え?

たとえば、ペンギン急便って会社はどうやって立ち上げられたのかとか、チェッリーニアはいつそこに入ったのかとか。

……あたしもよく分からないんだよね。あたしがテキサスさんに助けられた時には、もうペンギン急便はあったから。

ペンギン急便はテキサスさんと出会ってから、二人で相談して立ち上げたんだって、ボスから何回かは聞いたことがあったけど。

あっでも、あたしが入った後に起った出来事についてだったら、多すぎて全部教えられそうにないかな。

だってあたしたち、もう何年も一緒に過ごしてきたから。

そう……じゃあいつかじっくり、あなたたちと話しができるといいわね。

色々とチェッリーニアに関することを教えてあげられるわよ。

こっちも龍門に行ったチェッリーニアのことも知りたいし。

もしいつか龍門に来ることができたら、絶対あたしたちが色んなところに連れていってあげるね。

ホントに?

こんな正体の私でもいいの?

テキサスさんの昔の大親友だってことしか、あたし知らないからね。

……龍門であなたたちみたいな優しい友だちができて、チェッリーニアは本当にラッキーな人ね。

こっちこそ、シラクーザでカタリナさんみたいな友だちをいつまでも思ってくれる友だちができて、テキサスはすごくラッキーな人だと思うよ。

そうだ、ソラちゃん。

なに?

……ついさっき、インスピレーションが降りてきたの。

え?

私ってばずっと、盛大な幕引きの場面ばかりを考えてきたわ。

自分の物語の中ではせめて、彼女にシラクーザ人らしく自分の幕を引かせてあげたいって、そう思ってた。

狭い路地に囲まれて終わりを迎えるとか、車の爆弾で粉々に散っていくとか、色々ね。

でも、こういった現実でよくある場面を無闇に引用し過ぎちゃうと、逆にウソっぽくなっちゃうのよ。

だから私はそういうのを避けたかった。一番シラクーザ人らしくないシラクーザ人として、私の物語の中で彼女に演じさせたかったの。

色々と頑張ってその“シラクザーノ”としてのイメージを探ってきたわ。でも結局、自分の中で定義付けることはできなかった。

だからずっと筆が進まなかったのよ。

でも今、ちょっとだけ分かったかも。

シラクーザ人なんて、そんなもの最初から存在しなかったんだって。

チェッリーニア・テキサスは最後に、あの大火事の中で姿を消し、それ以降誰にも行方を知られずに幕を閉じたんだから。

……カタリナさん、まさか……

帰りは気を付けてね、あなたたちのために少しだけプレゼントを用意してあげたから。
(ジョバンナが携帯を切る)

ねえウォーラック、聞き間違えじゃなければ、あなたチェッリーニアの友だちを誘拐しようとしていたはずよね。

本人たちならまだ戻ってきていないわよ、なのにそこまで大掛かりに動く必要なんてある?

……もしあんたが帰ってこなかったらそうしていたさ。

まったく失望しちまったぜ、ドン。いや、ジョバンナ。

そんなに待てなかったのかしら、ウォーラック?

待てる待てないの問題じゃない。なんで俺たちは待たなきゃならないんだって話だ。

なんであんな老いぼれからの恩恵を、いつまで甘んじて受ける側でいなきゃならないんだよ?

俺たちがあんたと一緒にこの国に来たのは、いつかここの主になるためってだけだ。

そのチャンスが今ようやく来たんだ。

あなた本当に分かってるの?自分に勝つ目があるとでも思ってるのかしら?

確証は得ていないさ、あの老いぼれに勝てる自信もまだない……

だが分かるんだよ、ベッローネは本気で新しい時代を作り上げようとしているんだって。

だから俺はそれに賭けてみたいんだ。

うちの面子、どのくらいそっちについたの?

七割ぐらいは。

残りは?

あとでゆっくり俺から納得させる。

それかあんたに納得させてもらうとか。

なあジョバンナ、ここで考え直せ。そしたらあんたは俺たちのドンのままだ。

……どうやら私、本当に優秀な部下を持ったわね。

でも残念。それは無理な話よ、ウォーラック。

あんたにとって、テキサスはそこまで大事なのかよ?ロッサーティよりも?

私はただ、こんなこと起こるべきじゃないって思ってるだけよ。

俺から見れば、どうしようもなく起っちまったことだけどな。






