(ザーロが暴れまわる)

ザーロ、人間のやり方には関わらないと、狼の主の間で約束を交わしたんじゃなかったのか!

気が変わった、これもすべてベルナルドが俺の計画をぶっ壊してくれたからだ!

俺はヤツを六十八年も苦心しながら育ててやったのに。

なのにヤツは、自殺なんて下らねえことをして俺の勝利をふいにしやがった!

今……なんて言った?

親父が……自殺した?
レオントゥッツォの脳裏では瞬時に、狼の主とこのゲームに対する父の考えが過った。
そして彼はハッと気づく。父が教会で自分に話してくれたことは即ち、自分を認めてくれたことでもあり――
同時に遺言でもあった。
父は最初から自死を選ぶつもりであったのだ。

狼の主を侮辱したツケはデカいぞ。

本人が死んだというのなら、代わりの対価としてそいつの血筋をこの大地から消し去ってやる。

ベルナルドの倅よ、今ここで、貴様の父がしでかしたツケを払ってもらうぞ。

ヤツの血筋、貴様の命がそのツケだァ!!!

……

ツケだと?

確かに、親父は間違っていたのかもしれない。だが親父の理想は、いつだってこの時代を変えることだった。

親父はずっとファミリーのいないシラクーザを夢見て、そのために生涯を費やしてきた。

最初の頃、親父は自分のファミリーを手段としていたんだと思っていた。

あの時に手を出したのも、ただただタイミングが良かっただけだったんだとも。

だが今、ようやく分かったよ。

親父には時間がなかったんだ。このチャンスを逃せば、親父はもう二度と自分の理想を叶えることも、お前へ復讐してやることもできないと悟っていたんだ。

俺はヤツの短い人生の中で、あれだけのものを授けてやったというのに、ヤツは恩を裏切りで返してきやがったんだぞ!

……お前には分からないさ。

お高く留まって、何もかも手中に収めたと思い込んでいる狼の主よ。

親父は自分の命をも駆け引きの手段にしたんだ。

自分の命を代償にしてでも、お前みたいな驕り高ぶる存在に抗ってでも、自分の理想を現実するために!

その代償を支払うべきなのはお前のほうだ!

何も知らねえ小童が!
(ザーロとレオントゥッツォによる戦闘音)

よっ!テキサス、お帰り~!

そっちは片付いたの?

ああ。

そろそろこっちのほうも片付けておこうか。

最後のテキサス。

忘れたか、あの時シラクーザの支配から貴様を逃してやったのが誰だったのかを。

なのに貴様、今ここで俺に歯向かうつもりか?

私はすでにベルナルドとの約束を果たし終えた、お前にはなんの借りもない。

チッ、どいつもこいつも間抜けなヤツらばかりだ!
(爆発音)

……ベルナルドが、自殺?

どうして……?

遊びはもうおしまいだ、ラヴィニア。

私にかけたあの時の言葉の意味は、そうこうことだったんですね……

ファミリーのいないシラクーザが、あなたの本当の理想だった。

どうして、それを私に教えてくれなかったんですか……
(爆発音とラップランドのアーツ音)

ちょっと裁判官さん、戦ってる時は気を逸らさないでもらえないかな。

ラップランド――

やれやれ、こんな面白い戦いがあるってのに、ボクを呼んでくれないだなんてつれないなあ、テキサス。

呼ばなくてもどうせ勝手に来るだろ。

ヒヒッ、まあね。

群れを離れたイヌっころが、そこをどけ!貴様には関係ない!

一ついいことを教えてやるよ、狼の主だかガキだかなんだかは知らないけど。

今このシラクーザにあるものすべてが、このボクの敵だ。

キミみたいな超常的な存在だろうと、例外ではないよ。

自惚れやがって!

ドン……あんたもそうだったのか?もしあんたが俺の前にいたら、あんたもレオンと同じように、キッパリと自分の理想を選ぶつもりだったのか……?

俺はもう……何がなんだか分からなくなっちまったよ。
(矢が複数飛んでくる)

死にたくなければ集中しろ。

あんたは――

アンニェーゼの……フッ、所詮は脆い牙だ。

俺の牙が死んだからといって、俺に歯向かえるとでも思っているのか?

私はベルナルドと約束したんだ、あいつのガキに手を貸すって。

ハッ、アンニェーゼも役立たずの牙を育てたもんだ。

ならばヤツにもこのゲームから退場させてもらおうか。
(爆発音)

貴様らがいくら歯向かってこようが、この俺を滅ぼすことは不可能だ。

俺に傷一つ付けることすらできていないじゃねえか。

人間ども、貴様らは都市を築き、自らをそこに閉じ込め、あたかもこの大地の主であるかのようにふんぞり返っていやがる。

たかだか道具を少し使えた程度で、調子に乗るんじゃねえぞ。

荒野を征服できたこともねえ弱っちい虫けら風情が!

レディ~~ズ、ア~ンドジェントルメ~~ン。

これからお前らが目にするのは~、龍門でのスーパスター、あっ即ちこの俺様、エンペラー様で~あらせられるぞ。

ボス!?
(エンペラーが近寄ってくる)

テキサス、お前の休暇はそろそろおしまいだ。

……なんでボスまでここに。

なんで俺がここにだって?

お前が行っちまった後、ソラたちもこぞってお前を追いかけに出て行きやがったんだ。

おかげでこの一か月、俺がどうやって過ごしてきたのか教えてやろうか?

三千年も生きてて、ここまで退屈な日々はなかったと思っちまうぐらいだよ、こっちはなァ!

誰もパーティを開いちゃくれなかったんだぞ、誰もッ!

……

エンペラー――

まあ待てって、ザーロ。

俺はシラクーザでテメェに指図する資格なんざねえ、なんてことが言いたいんだろうが。

ぶっちゃけ、テメェらのいざこざにはこれっぽっちも興味がねえんだ。

だがよく考えたらよ、テメェと無意味な殺し合いをするよりもだ。

テメェらのルールでテメェを打ち破ってやったほうが、清々するんじゃねえのかなって思ってな。

だからよ――
黒い影が一つまた一つとエンペラーの足元から伸びていき、次第に形あるものへと化けけていく。
ザーロはこの影たちをよく知っていた。この者たちはすべて、このゲームで敗れた狼の主たちであるからだ。
この者たちがここへ現れた理由はただ一つ。
ザーロがルールを破ったからである。
ザーロのゲームは受けて立とう、だがルールを破ることだけは断じて許されないのだ。

テメェのために、ほかで死ぬほど暇してる狼の主たちを連れてきてやったぜ。

ここで一ついい知らせがある。

Dear my friend、テメェの負けだ。

完膚なきまでに、な。
狼の主に滅びは存在しない。しかし悠久とした歳月の中、この者たちはすでに互いを牽制し、圧制し、さらにはいたぶる手段を見つけていた。
己と等しい存在たちを目の前にした時、自分の行いはすべて無意味と化したのだとザーロは悟る。
彼はしばらく黙りこくった後、ついには高らかに掲げていた首を垂れ下げたのだ。

正直さ、ザーロ。

テメェが権力のことを知り尽くして弄んでる様は、マジで見てて全身痒くなっちまうぐらいなモンだぜ。

だが今、自分を裏切ったものを全部引き裂いてやらんとばかり、あちこち当たり散らして様子を見ると――

まだ本性は残っていたんだなって、そう思っちまうよ。

でもよ、お前らほかの狼もそうなんだが、何千年もこんな下らねえゲームを遊んでて飽きたりしねえのかよ?

そろそろ俺と一緒に龍門に来て、ポーカーの一つや二つぐらい学んでみたらどうなんだ。

あぁそうそう、マージャンも悪くはねえぞ。
エンペラーの皮肉に、ザーロは耳を傾けなかった。
彼は最後に、深々とレオントゥッツォのほうを一瞥するが、身体は次第に朦朧と、曖昧となっていき、ついには風の中へと消えていった。
まるで最初から存在していなかったかのように。

助かったよ、ボス。

礼ならいらん。

実際俺が手を出さなくても、ほかの誰かがやっていただろうよ。

俺は彼女からいいとこを譲ってもらったってだけだ。そうだろ、べっぴんさん?
(シシリア夫人が近づいてくる)

べっぴんさんなんて、そう呼ばれたのも随分と久しぶりね。

そっちさえ良ければ、もうしばらくシラクーザで遊んでいってもいいのよ。

俺のことならエンペラーとでも呼んでくれや。

まあ、面白い名前ね。それにあの狼の主みたく、傲慢で無知蒙昧でもない。歓迎するわ、エンペラー。

シラクーザなら、きっと俺のことをいたく気に入ってくれると思うぜ。

す、スィニョーラ――!

狼の主たちが催したゲームはホント、見ていて滑稽だったわ。

ベルナルドの子、レオントゥッツォ。

安心してちょうだい、もう彼からちょっかいを掛けられることはないわよ。

……!
レオントゥッツォは動けなかった。
この夫人がここに現れた瞬間、彼はすぐに今回の一件は――終わったんだと察しがついた。
それは何も狼の主がもたらした茶番劇だけではなく、自分たちの抗いも、ここで終わりを迎えてしまうのだと。
目の前にいるこの夫人はとても温厚そうに見えるが、レオントゥッツォの心中では予感めいたものが込み上がっていた――もしここで下手に動けば、次の瞬間には思いつく限りの最も悲惨な死に方を辿るだろうと。
しかし、もしここで縮こまっていたら、今まで貫いてきた努力と信念はすべて水の泡と化してしまうことも分かっていた。
彼はラヴィニアに目を向けるも、ラヴィニアの目からも同様の考えが見て取れる。

見苦しいところをお見せした、スィニョーラ。スィニョーラとご対面できる場面はほかにも色々と考えてきたのだが、まさかこういった形でお会いできるとは。

さしずめ夫人のほうは、すでにこの一連の事態を把握し、さらにはご決断をなされているかと思われる。

ただそれでも、どうか俺やラヴィニアにもう一度チャンスを与えて頂きたいんだ。

チャンスとは、どういったチャンスなのかしら?

対話のチャンスを、です。

俺たちがいずれは必ず死を迎えると決まっていたとして、それでも死ぬ前に、俺たちの考えを聴いて頂きたいんだ。

……

うふふふ。

若い人たちの考えにはたくさん触れておきなさいって、よくアジェーニルに口うるさく言われてきたわ。

まったくあの人ったら、私はそこまで老いちゃいないわよ。

まあいいわ、ついてらっしゃい。そのチャンスなら、すでにあなたたち自身が勝ち取っているもの。

……あの、少し待っては頂けないでしょうか?

あら、何かしら?

その前に、ベルナルドに会っておきたんです。

ええ、構わないわよ。

エクシア、テキサスさん!

みんな大丈夫か!?

平気平気~!

……ああ。

お前たち、なんでこっちに来たんだ?

心配だからですよ。それにジョバンナさんの容態も安定してくれましたから、クロワッサンと加勢しに来たんです。

せやせや。でも、なんかもう終わったような雰囲気しとるな?

まあそんなところだ。

ふぃ~……なーんか物足りないって感じはあるけど、でもこれやっと心置きなくパーティを開けそうって感じかな?

そうだな。

どんなパーティを開くかは、先にそっちで話し合っていてくれ。

テキサスさん、どっか行くんですか?

トイレだ。

トイレならそっちの方向じゃないよ。

分かってる。

もしかしてこれで一件落着、ホッとしたって感じなのかな?

まだ目の前にこのデカいのが詰まっているだろ。

フッ、ちょっと歩こうか?

ああ。

そうそう、テキサス。

キミがシラクーザに戻る前、実はスィニョーラから手紙を受け取っていたんだ。

そうなのか。

何が書かれていたと思う?

興味ない。

つれないな~。「ボッカ・ディ・ルーポに入らないか」ってお誘いが来ていたんだよ。

ボッカ・ディ・ルーポ……

ボクに首輪を括りつけたいんだろうねぇ。

でもあの手紙、ボク燃やしちゃった。

これでまた、シラクーザのほうから面倒なのがやって来るのかな~とは思っていたんだけど。

まさかキミが突然シラクーザに戻ることになるとはね

キミがすでにシラクーザへ行っちゃったって聞いた時、ボクがどれだけ驚いたか分かる?

はぁ……

で、もう決まったの?

ああ。

ここに残って、レオントゥッツォとラヴィニアに協力する。

そっちはどうなんだ?

ボクも決まったよ。

お前、自分の家で大暴れしたようだな。

父親と別れの挨拶を済ませただけさ。

……ねえテキサス、本当はボクがキミに何を求めているのかを分かっていないんじゃないの?

……分かる時はある。

でも、分からない時もある。

まあ少なくとも、今のお前が達観してることぐらいは分かるさ。

へぇ、ボクに気を掛けてくれる時もあるんだね?

邪魔臭いのは相変わらずだけどな。
肩を並べて歩いていた二人であったが、何やら心が通じたかのように、二人していつの間にか広々とした空間の両端に向かった。

少しは落ち着いてブラブラしたってのに、結局はこうなっちゃうんだね。

そうだな。

まだ憶えてるかな、テキサス?

七年前、火に包まれた豪邸の前で、今あるすべてから逃れようと、キミはボクのところへ歩み寄ってきたんだ。

あの日、ボクは完膚なきまでに負けてしまったよ。

それが七年後、雨の降る公園の中で、キミはまた同じようにボクに近づいてきた。今度は無謀にもシラクーザとかいう国に挑むためにね。

だから今日、ここでキミをぶっ殺しあげるよ。

そのセリフ、そのままこっちに返してやろう。
公園の中で、刃の交わる音が何度も響き渡る。
両者ともに、動きにはまったく無駄がなく、その一つ一つが相手の命を奪うために繰り出されている。

詩的に表現するんだったら、ボクは言うなればキミの過去だ、テキサス。

誰もこの泥沼から逃れることはできないって、ボクはそう堅く信じているからね。

キミは一度逃げたんだ、自分の過去から。でも再びここシラクーザに戻ってきて、徹底的に過去と見切りをつけると決心した。

そして全員に、自分ならこの泥沼から抜け出す能力と資格があると証明してくれた。

挙句の果てにはあの幼いオオカミのために、この泥沼を変えるために自らここに残るなんてことを言い出すとはね。

私はお前が言ってるほど偉い人間じゃない。

私の夢は最初から一つだ、仲間たちと一緒に普通の暮らしを過ごす。

もしそれを壊そうとする者が現れれば、私はそれを守るだけだ。

何も難しいことじゃない。

ずっと、私は本当の意味であなたを理解できてはいなかったのね、チェッリーニア。

シラクーザに嫌気が差していたあなたも、クルビアに反感を覚えていたあなたも、私は気付いてあげられなかった。

今思うと、私はまるで自分の祖母みたいね。

お婆ちゃん、ずっとサルヴァトーレのお爺様が考え直してくれるのを待っていたのよ。

でもその間、一度も本人に気持ちを聞こうとはしなかったし、諫めようともしなかったわ。

その点で言えば私も同じね。私もさも当然みたいに、昔のひと時がずっと続いて行くんだと思っていた。

でも今考えると、なんて図々しかったんだろう。

私があなたの傍に残っても、あなたはきっとまったく意に介さないでしょうね。私ももう少しは、ソラちゃんとも話がしたいし。

でも、今の私にまだそんな資格はないと思う。

だからせめて、いい加減この『テキサスの死』の第三幕に、チェッリーニア・テキサスの終わりにピリオドを付けさせてあげないとね。

あなたは自由よ、チェッリーニア。

誰だってあなたを決めつけられはしないわ。

そうかい。なら言い方を変えよう。

テキサス、キミはボクの悪夢だ。

キミはいつだってボクの予想を裏切ってきた。

いつだってボクよりも先を進んできた。

いつだってボクにはできない決断を下してきた。

こうして思いを吐き出すことができたのも、今ボクもキミみたいに一歩を踏み出せたからだよ。

ああ、キミの言う通り。

何も難しいことじゃなかったよ。

シラクーザのすべてを憎んでいるのなら、ボクはそいつをぶっ壊してやるべきだった。

でも結局、ボクにそうさせたのもやっぱりキミだったよ。

だからああして父親と別れを告げ、私の前に立ちはだかってきたんだな。

自分の過去とケリをつけるために。

そうさ、キミと一緒だ。

……

なら、何もこうして殺し合う必要はないはずだ。

でもこうやって起こってしまったのだから仕方がないじゃないか。

昔からずーっと、今に至るまで。ボクたちは口に出さずとも、相手を殺すことが自分にケジメを付けることだってのを分かっていた。

それが相手に対する餞別であり、一番の別れを告げる方法であるということもね。

で生き残った側は、それを経てより強い存在になれるんだって。
決してラップランドの実力がテキサスに勝っているわけではなく、かといってテキサスの腕が鈍ったわけでもない。
七年前のあの対決も、決してラップランドがテキサスよりも弱かったから敗れたわけではない。
この両者の実力は、あの時からずっと互角であったのだ。
ならばこの両者の勝敗を決する要素とは即ち、多少の運を除けばただ一つ――意志のみである。
七年前、ラップランドは意志において敗北を喫した。
だがファミリーと決別した後、彼女はテキサスに勝るとも劣らない強い意志を手にした。
そのためどちらが勝っても負けても、決して驚くようなことではない。
(テキサスがラップランドから一撃を受ける)

くッ……

おしまいだ。
(ソラが駆け寄ってくる)

テキサスさーん!

……来るな、ソラ。
テキサスはソラに一瞥し、またすぐさまゆっくりと目を閉じた。
ボクはすでに十分テキサスのことを理解できていると、この時ラップランドはそう思っていた。
ほかに理解できていない箇所なんてどこにある?
シラクーザに嫌気を差していたテキサスも、この国と戦うと決意したテキサスも見てきた。
いつもいつも、テキサスは自分の予想を裏切ってくる。
しかし今回ばかりは、いよいよ裏切ってくることもないだろう。
生きるか死ぬかに、第三のエンディングなんてものはないのだから。
だが今回、ラップランドがテキサスの目から屈しない意志を読み取った時、彼女は気付いてしまったのだ。ボクはまた間違ってしまったのか、と。
最後の最後に、ラップランドという名の存在が自身のために設けたエンディングの中、テキサスはまたもや自身の予想を裏切ってきたのだ。

……ハッ、そういうことね。
ラップランドは今回の殺し合いを、ある種の決別として、ある種の解放として見ていた。
もし自分が負けたら、素直に自分の死を受け入れよう。
だがもし自分が勝てば、もはや何者にも束縛されることはなくなる。
“テキサス”という名の軛が彼女の内側から外れてしまった際、“ラップランド”という名の狂人もまた、この世に生まれてきてしまうだろう。
だが、今語ったことは何も起こりはしなかった。
なぜならば――

テキサス、やっぱりキミはテキサスだったんだね。

当たり前だ。

そういうお前はどうなんだ?

どうやらボクも、ただのラップランドでしかないみたいだよ。
そう言って、ラップランドはテキサスに手を伸ばす。
その手をテキサスは握り返す。

ねえテキサス、ボクはキミの友だちなのかな?それともキミの敵なのかな?

敵、だが友だちでもある。

そっ、じゃあ行こうか。

その友だちらしいことを、ボクにもさせてよ。
テキサスは傍にいる三人に向けて頷いた後、ラップランドと一緒にサラ・グリッジョが構えている方向に向かっていった。
とても自然体で、あたかも最初からそうしようとしていたかのように。
ラヴィニアが教会へと入り、静かにベンチに座り込んでいる遺体を目にした時、彼女はようやく気付いた――
ベルナルドは死んでしまったのだ、と。

……
この厳しい父でもあり、長兄でもあり、自身の生涯に多大な影響を及ぼしてきた人の傍で、ラヴィニアはしばらく静かに佇んだ。
結局のところ、彼女は何も言葉をかけなかったのである。
しかし彼女はベルナルドの垂れ下がってしまった手を握る。まるで彼に何かを伝えたかのように、また彼から何かを受け取ったかのように。
そしてクルリと、身を翻して立ち去っていった。
ベルナルドは去った。であれば彼女は、ただ前へ進み続けるのみ。

知り合いから聞かされているわ、あなたのやってること。

そこで一つ聞きたいことがあるの。

今、この大地にある多くの国々は時代に順応し、変化を求めている。

その変化を求める理由も、最初はみんな己の至らぬ部分や一皮剥けなければならないことと気付いてしまったからよ。

なら、ここシラクーザもそんなことをする必要があるのかどうか。シラクーザは本当に、変化を遂げる必要があるのかしら?

スィニョーラは……ファミリーは存在して然るべきだとお考えなのだろうか?

存在して然るべきものなんてないわ。しかし、ファミリーは私が生まれるよりもずっと前、すでにこの地に幾百幾千年は存在し続けてきた。

歴史を否定することなんて、ましてや存在した物事を否定することなんて私たちには無理よ、違う?

だからあなたはサラ・グリッジョを創り上げた時、ファミリーの存続を選んだ。たとえすべてのファミリーを自分の手に委ねることになっても。

俺は何も、あなたのその選択を否定するつもりではないんだ。

むしろあの時代なら、あなたの選択は一番正しいとさえ思っている。

じゃあ今は違うのかしら?

ああ。

クルビアのファミリーを帰属させたことで、先進的な技術と思想がこの国に持ち込まれた。

ファミリー形式の統治はそれにより、すでにクルビア人によって穴だらけにされてはいるが、誰もそのことを察し付いてはいない。

親父のやり方なら、過激な面があったのは否めないさ。

親父の思想の原点は俺のとは違う。だから俺と親父のやり方も、大きく差が開いてしまった。

だが、少なくとも一つのことだけは同じだ。

俺も親父も――

シラクーザにファミリーはもう必要ないと思っている。

なら、あなたはどうするの?

……一番簡単な方法は、ここであなたと雌雄を決することだ。

だがそれは俺の親父のやり方だ、俺のじゃない。

俺だったら……

スィニョーラから一つ、ぜひとも都市を貸して頂きたいんだ。

魅力的な提案じゃないの。

新しい都市となれば当然、そこに新しい血を注いでやらなくちゃね。

でも、今のあなたは独りよ。

それでどうやって、あなたは自分の目標を達成できるって信じてやれるのかしら?
スィニョーラが言い終えるや否や、サラ・グリッジョの大扉が突如と開かれた。

あらあら?

チェッリーニア、最後のテキサスじゃないの。

こちらへいらっしゃい、よく顔を見せてちょうだい。

……ホント、あなたのお爺様にそっくりね。

……どうも。

どうやらジョバンナがそのネックレスをあなたに譲ったみたいじゃないの。

望みは何かしら?

もし龍門に帰りたいのであればそれでも構わないわよ。シラクーザは今後二度とあなたに関わらないと約束するわ。

……

ロッサーティファミリーを見逃してやってほしい。

あら、予想外の返答ね。

ウォーラックはジョバンナに暗殺をしかけ、あなたもすでに何度も何度も彼に殺されかけてきた。

なのに彼を見逃してやるつもりなの?

あいつらもただ、自分たちのやり方で必死に生きようとしていただけなんだ。

彼らのことなら、私も最初から手を出すつもりはなかったわよ。だからこのネックレスは、まだ取っておいても構わないわ。

シラクーザとは永遠に関わらない権利、今からそれと交換してやっても遅くはないわよ。

……
テキサスはレオントゥッツォの傍へ近づき、そしてその横の席に腰かけた。

それなら今はまだ必要ない、もう少しだけ休みを延長しようと思っているんだ。

そう。じゃああなたはどうなの、ラップランド?

群れから離れた一匹オオカミ、サルッツォの裏切者よ。
ラップランドもまた、ニコニコしながらテキサスの傍へと近づいていく。

ヒヒッ、ボクの考えならそこまで難しいものじゃないさ。

こいつらと一緒に、今のシラクーザをぶっ壊す。

ただ、ボクのやり方はこいつらよりもちょっと乱暴なもんだから、そこだけが違いかな。
(ラヴィニアが部屋に入ってくる)

まあまあラヴィニア裁判官、私の意志の代弁者。あなたの考えも、私に聞かせてもらえないかしら?
ラヴィニアは堂々と、席に座るレオントゥッツォの後ろに寄り添っていく。

あなたのご意志は、ここシラクーザのすべてでありました。

けど今から、私はそれを変えようと思っております。

私は間違っていたと、そう思ってるのかしら?

正しい人間は存在し得ないと、そう思っているだけです。
目の前にいる四人の若者を見やるスィニョーラ・シチリアーナ。
一人は、シラクーザ最強のファミリーの出であり、周囲の環境に影響され、文明というものに憧れを抱くも、その身分に囚われてしまったがために自らを欺いた。
一人は、その出は平凡でありながらも、機運に恵まれファミリーからの支持を得られて生き残ることができたが、そのせいもあって己に疑いが生じてしまい、また同じく自らを欺くことを選んでしまった。
一人は、シラクーザ最古のファミリーの出でありながらも、その身にこの地のすべてを強いられたことで、さながら狂乱に抗い続けた。
そして一人は、クルビアで栄華を極めたファミリーの出でありながらも、ファミリーというものに倦厭し、誰にも知られることなく静かに姿を晦ました。
この者たちのシラクーザを変える理由はどれも異なってはいるが、それでもこの者たちはここへ一堂に会した。

私の寿命にも限りはあるけれど、それでもまだ数十年もの猶予は残されているわ。

私が目を閉じるその瞬間まで、シラクーザは私がもたらした安寧を享受し続けることができるでしょう。

そこで若者よ、あなたはどうするのかしら?

あなたは父を土台に、より効率的で、より公平な体制を追い求めようとしているけれど。

あなたが選んだ道は、果たして本当に正しいと言えるのかしら?

私がここでシラクーザをあなたに渡したら、あなたはシラクーザをより良く導き、よりよい国にしてやれると、この私に約束をしてくれるのかしら?

……約束はできない。

だが今、あなたがここに座って、俺たちの考えに耳を傾けてくれているのと同じように。

もしその時、何者かが俺のやり方に疑問を呈してきたのであれば。

俺もここに座って、そいつの意見に耳を傾けてやりたい。
それを聞き、スィニョーラは微笑んだ。
(テキサスがエクシア達に近寄ってくる)

ほら~言ったじゃん、中でドンパチしてるような音が聞こえていないんだから絶対大丈夫だって。

そうやって呑気でいられるのもエクシアだけだよ。相手はこの国の指導者なんだからね……

みんなすまない、心配をかけた。

ううん、平気です。

あれ、ラップランドは……?

あいつは……
とある方角に視線を向けるテキサス。

あいつなら友だちとしての使命を終わらせた。次はどんなニヤケ面を見せてくるのやら……

ただまあ、一つだけ確かなのは――

あいつは必ずまた現れてくるだろうな。

ひぃ~、もうホンマ勘弁してほしいわぁ。

まあまあ。それより、まずはジョバンナさんのとこに戻って様子を見に行ってあげようよ。

そうだな。

ジョバンナさーん、帰ったよー!
しかし部屋には誰もいなかった。
喜んだのも束の間、困惑してしまったソラである。
だがすぐさま、彼女は綺麗に重ねられた用紙が机に置かれていることに気付く。
それは脚本であった。
ソラは1ページ目を開くと、そこには――
私の大好きな親友、チェッリーニアにこの脚本を捧げます。
それと新しい友だち、ペンギン急便のみんなにも――と、綴られていた。

これって、ジョバンナさんがずっとうんうん唸って筆が乗らなかったっていう、『ラ・モルテ・ディ・テキサス』の第三幕……

ジョバンナさん、これがあたしたちに残したかったものなの……?

ジョバンナさんも、別に行っちゃう必要なんてなかったのに……









