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【アークナイツ大陸版】登臨意 WB-ST-1「忽ち少年事を夢みる」 翻訳

兄さん、やることないから私を呼んで将棋をやるのはいいよ。なのに石で“閑”という文字を作って私を嘲笑おうとしているだなんて、ちょっと虐めが過ぎるんじゃないのかな?

普段からお前に教えてやった棋理、あれをいちいち頭に思い描いて石を進めるようなお前ではないだろ。

兄さんも嫌なことを言うね。まるで私がしっかりと学んで、この棋盤でなら兄さんと肩を並べられるような言い草じゃないか?

棋盤に書いたこの一文字、お前より上手く書けるはずもないだろうさ。

そんなにやる気がないのなら、もっと別のことを探して気晴らししたらどうなんだい?観光したり、楽器でも習ったり……本当に何も思いつかないのなら、私が書法を教えてあげようか?

石の打ち合いは退屈なものだ。だが手の打ち合いで相手の思考を僅かではあるが読み取ることができる、そこだけは面白みがある。

へぇ?じゃあ兄さんはこの一局で、私から何か読み取れたのかな?

そうだな、お前からは……

龍門からの観光客
龍門からの観光客

親父さん、ちょっと今流れてるドラマおかしくねえか?なんで十七話から急に二十話まで飛んじまったんだよ?

番頭
番頭

砂のせいで幾つかのディスクに傷がついちまったもんだから、何話か流せねえんだ。まあ我慢してくれや。

龍門からの観光客
龍門からの観光客

ちぇー、ちょうどいいところだったのに。前回まで戚清秋と沈白上が殺し合っていたのに、何がどうなったら協力することになったんだよ?

酒を飲む常連客
酒を飲む常連客

そこまでの三話なら、沈白上は自分の師匠を殺した仇であることを戚清秋が気付いて、敵討ちに出たんだ。

酒を飲む常連客
酒を飲む常連客

しかし玉門に来て、実は沈白上はすでに軍に加わっていて、しかもかなり高い階級に就いていることを知ってしまってね。

酒を飲む常連客
酒を飲む常連客

ちょうど強敵が国を侵略しに来てる頃だからな、両者ともここでやり合ってるわけにはいかない。“国の仇は家の恨みをも超える”ということで、彼も宗師の傘下に加わったってわけ。

酒を飲む常連客
酒を飲む常連客

そう難しいシナリオでもないさ。けど十九話のあの崖で剣の何たるかを論じるシーンはもう、最高だね!

龍門からの観光客
龍門からの観光客

うわっ、めちゃくちゃ憶えてるじゃん、すげーな。一体何回見てきたんだ?

番頭
番頭

ここ玉門だったらな、適当にそこら辺のガキに聞いても、『玉門風雲』のシナリオをすらすらと暗唱してくれるもんぜ。

番頭
番頭

たださっきのお客さんは一つだけ肝心なとこを言い忘れてるぜ。確かに戚清秋は軍で沈白上を見つけたが、すぐに恨みを忘れたってわけでもねえんだ。

番頭
番頭

あん時は例の宗帥、まあ言うなればマスターみたいな方人がな、自分が沈白上に代わってお前の復讐の剣を受けてやるって言ってきたんだ。それであの剣を論じる場面ができたってわけ。

番頭
番頭

あん時は曇天に砂嵐、まるで天地万物が二人の武闘を見届けようって様だったぜ。でも二人が剣を抜いたその瞬間――

サルゴン人の恰好をした観光客
サルゴン人の恰好をした観光客

(たどたどしい炎国語)ウソ、ウソっぱちだ!あんたウソつきだ!

サルゴン人の恰好をした観光客
サルゴン人の恰好をした観光客

そのドラマ、ちゃんばらは楽しいが、細部はてんでダメだね。

番頭
番頭

なんだフセイン、また来てくれたのか。まだまだ炎国語は習得できていねえはずなのに、ドラマの内容はもう分かっちまったのか?

サルゴン人の恰好をした観光客
サルゴン人の恰好をした観光客

当然だ!『玉門風雲』は五十年前の本当の出来事を書いてる。たくさん、この世の侠客たちは互いの恨みを忘れ、みんなあのマスターに率いられて外敵に抵抗した。

サルゴン人の恰好をした観光客
サルゴン人の恰好をした観光客

“これ”の宿屋でたくさんのシーンが撮影されたことも知ってるぞ!

番頭
番頭

“これ”じゃなくて“ここ”な。

サルゴン人の恰好をした観光客
サルゴン人の恰好をした観光客

……

龍門からの観光客
龍門からの観光客

外国から来たそこの兄ちゃん、あんた炎国の歴史にやけに詳しいね。

サルゴン人の恰好をした観光客
サルゴン人の恰好をした観光客

当たり前だ。あのマスターが俺に武術を教えてくれた時に言ってくれたことだからな、サルゴンで。

サルゴン人の恰好をした観光客
サルゴン人の恰好をした観光客

マスターはある一本の剣を持っているんだ。とても特殊な剣でな、絶対に鞘から抜いちゃいけねんだ!

番頭
番頭

おいおい、またそれかよ。あんたが本当にその宗帥の直弟子なら、あんで昨日リングですぐあのフェリーンの嬢ちゃんに負けちまったんだよ?

サルゴン人の恰好をした観光客
サルゴン人の恰好をした観光客

フェリーンの嬢ちゃんがなんだ、確かに彼女の武芸はすごかったが、彼女を舐めるんじゃないぞ?

龍門からの観光客
龍門からの観光客

サルゴンさんよ、炎国語じゃそれは嬢ちゃんのほうを舐めてるんじゃなくて、あんたのほうをだな……

???
野次り出す周囲の人たち

わはははははは!

龍門からの観光客
龍門からの観光客

]ところで、もしこのドラマが実話をベースに作られたってんなら、玉門には本当に武術の達人たちが手を組んで外敵と戦った歴史があるのか?

龍門からの観光客
龍門からの観光客

“侠の大なる者、国の為に民の為に”ってな。普段は世間をぶらぶらとふらついてるのに、いざとなったら国をも守る。いや~さすが玉門、考えただけでシビれるね。

酒を飲む常連客
酒を飲む常連客

だがドラマはドラマだ、実話ベースでも多少は美化されている。歴史がどうこうなんて、当時を経験した人でなければ口には出せんよ。

酒を飲む常連客
酒を飲む常連客

それに、今はもう刀とか剣でちゃんばらするような時代じゃない。本当にお国に尽くしたいのなら、アーツをしっかりと学んで、天師を目指したほうが確実だ。

酒を飲む常連客
酒を飲む常連客

玉門みたいな辺境の要塞で、もしここで大勢暮らしてる一般人たちの支えがなくて、ほかの都市からの補給頼りじゃ、一体どれくらいのコストと物資がかかるのやら。

酒を飲む常連客
酒を飲む常連客

当時新しくできたばかりのこんな辺鄙な都市に、一家揃って引っ越してきた人たち、そして今もここに残ろうとする人たちの中で、“国の為、民の為”って言葉を背負っちゃいない人間なんていないよ。

酒を飲む常連客
酒を飲む常連客

しかしまあ、ドラマで語られてる実話ベースにしたってところなら、あの宗帥しかいないだろうな。まあもうその人も引退だけど。

ガタイのいい男性
???

どいとくれ。

ガタイのいい男性
???

薬を届けに来た。

番頭
番頭

おう、お疲れさん。そっちに置いといてくれ、あとで若いヤツらに店の裏まで運ばせとくよ。

ガタイのいい男性
ガタイのいい男性

先生が調合してくれた傷薬、あと火傷の薬は全部ここだ。今月は補給が足りねえもんだから、あんまり量は調合してやれなかったが。

番頭
番頭

先生に毎度毎度お願いしちまってすまねえな。はい、これお代な。あとこれ、この前うちに入った物資なんだが、持って行ってくれや。

番頭
番頭

あっ、ちょいと量が多いな。少しだけ待っててくれ、うちのモンに運ぶのを手伝わせとくから。

ガタイのいい男性
ガタイのいい男性

いや、いい。

(ガタイのいい男性が荷物を置いて立ち去る)

番頭
番頭

おいおい、荷車いっぱいのもんだぜ?あれを一人で担いじまったのか?

番頭
番頭

一体医館はどっからあんな人を見つけてきたんだ?すげー力持ちだな……

番頭
番頭

おおあんた、降りてきたか。

(リーが近寄ってくる)

リー
リー

ここに宿泊して数日経つっていうのに、一階のスペースはいつもお客さんでごった返してますねぇ。

番頭
番頭

そりゃ先日ここと龍門がドッキングして補給を始めてくれたおかげだよ。けどこんなタイミングで天災が起っちまったもんだから、仕方なく分離しなきゃならなかったけどな。

番頭
番頭

突拍子なもんだから、大勢の商人や観光客は今も玉門に取り残されちまってる。ここしばらく街の宿屋はどこも満室だろうな。

番頭
番頭

客は多けれど、その分色々と忙しなくなるもんだ。おまけに気の強い人たちも多いもんだから、ちょっとでも気に障ることが起こりゃまたしっちゃかめっちゃだぜ、ったく……

リー
リー

商売が良すぎるってのは、同業者からすれば羨ましい悩みですよ。

リー
リー

しかしまあそれもそうでしょうね。うちの龍門での仕事も番頭さんとこぐらい繁盛してしまえば、おれだって頭を抱えちまいますよ。

番頭
番頭

今日もまずはお茶だけでいいんだな?

リー
リー

ええ、お願いします。ところで番頭さんにお願いしていた“アレ”、なんですけど……?

番頭
番頭

ああ、あれね、ほらよ。ここ半年間、玉門で開かれた武闘会のランキング変動をまとめたヤツだ。あんたが探してる“武術の達人”がここに載ってなけりゃ、俺もお手上げだね。

リー
リー

いやぁ、まさか玉門では今もこういった武術を競う催し物の伝統が残されているとはねぇ……確かに武に富んだって言われるのも納得です。

番頭
番頭

ここにおられる平祟侯は軍を厳しく指揮しておられる方だからな。でも今は戦う必要もないもんだから、手持無沙汰な武人たちに、運動がてらああして会場を設けてやっているのさ。

番頭
番頭

まあともかく、もし急いでないのなら、もう何日かここに泊まったらどうだい?お客さんの出入りも多いもんだから、もしかしたら探してる人もここでばったり出会えるかもしれねえよ?

番頭
番頭

そうだ、なんなら都市の南にある鍛冶屋にも聞いてみるといい。

番頭
番頭

あそこにいる鍛冶師はかなりのベテランでな。ここ玉門にいる、それなりの武人たちとか護衛仕事の連中はみーんなこぞってそこに集まるんだ。

リー
リー

こりゃご親切にどうも……見知らぬ土地ですからね、色々と不便でして。

番頭
番頭

んでちょいと余計なことを聞くんだが、あんたがこう苦労して探してるその人は、恩人なのか?それとも仇で?それか借りがあるとか?

リー
リー

まあデカい借りがあるのは確かですねぇ、ざっと計算したところだと……

(回想)

リー
リー

今度はまたどのくらいかかるんだ?

???
ワイ・テンペイ

分からん。

リー
リー

戻ってくるのか?

???
ワイ・テンペイ

事が済んだらな。

リー
リー

お前さん、三日後にはワイフーの誕生日なんだぞ。これでもし向こう側にいるあの子の母親に知られて何か言われても、おれは知らんぞ。

???
ワイ・テンペイ

俺はいい夫にも、いい父親にもなれん。

???
ワイ・テンペイ

この一生で、一つの事を済ませることができればそれで十分だ。

(回想終了)

番頭
番頭

じゃあ借りを返すってヤツか?そりゃ難しいと思うぞ。大炎の地は広いっていうが、ここ玉門の人口だけでも十万人は下らねえ。本気で避けてたり隠れてたりしてる人を探すのは至難の業だぜ。

リー
リー

……

番頭
番頭

まあそう焦んなさんな。ささ、茶でも飲んでくれや。玉門特産の醤獣肉(ジャンショウロウ)でもどうだ?

リー
リー

じゃあお言葉に甘えて、うちの娘っ子さんが外で今やってる試合が終わるまで座らせてもらいますよ。

番頭
番頭

あいよ、じゃあこれ、この間入ってきた龍門の春茶。こんな新鮮な茶葉なんざ、こっちも何年か振りだぜ。

リー
リー

ありがとうございますぅ。こんな貴重なもんを頂いちゃって、なんだか申し訳ないですねぇ。

番頭
番頭

いいんだいいんだ、気にせず飲んでくれや。

リー
リー

……

リー
リー

この味……今頃の龍門の春茶なら、こんな渋味は出ないはずなんだけどな……

冷淡な女性
冷淡な女性

……あなたは……

冷淡な女性
冷淡な女性

待ち合わせ場所はここだって聞いていないのだけれど。

リー
リー

えーっと……どちら様で?

冷淡な女性
冷淡な女性

いや……違ったか……

番頭
番頭

お二人さんお知り合いで?ちょうど満席になっちまったもんだから、相席にしてくれねえか?

冷淡な女性
冷淡な女性

知り合いではないわ。私はお茶を一杯だけ頂ければ十分だから。

リー
リー

いいさいいさ、おれは気にしませんよ。

番頭
番頭

そうかい、ならごゆっくりどうぞ。何か注文でもあったら呼んでくれや。

リー
リー

お嬢さんもしかしておれを誰かさんと間違ってしまったとかですか?

冷淡な女性
冷淡な女性

少し面影があっただけよ。

リー
リー

じゃあ、長い間会っていない友人とかなんですかねぇ……

冷淡な女性
冷淡な女性

まあ、そんなところ……これ、あなたのお茶だけど?

リー
リー

まあまあ、どうぞどうぞ。

冷淡な女性
冷淡な女性

知らない人に、お茶をご馳走しちゃってもいいのかしら?

リー
リー

見間違いも一種の出会い、出会いは即ち縁ってことです。

リー
リー

そちらもはやくご友人が見つかるといいですね。

冷淡な女性
冷淡な女性

はやく見つかっても退屈なだけよ。時が経てば、自ずと見つかるわ。

リー
リー

面白いことを言いますねぇ。でもまあ長らく会っていない人を探すと、答えはその人が持っているのでなく、その人を探してる時間にあるのかもしれませんねぇ。

冷淡な女性
冷淡な女性

あなたってば、誰に対してもそうやってくどくどモノを言う人なのかしら?

リー
リー

いえいえ、そんな度胸はありませんよ……

(冷淡な女性が椅子を押して立ち上がる)

リー
リー

あれ、もう行っちゃうんですか?

冷淡な女性
冷淡な女性

言ったでしょ、お茶を一杯だけって。

(冷淡な女性が立ち去る)

リー
リー

変な人だな……

タイホー
タイホー

せっかくお戻りになられたのですから、まずは将軍のところへ行かれては?

ズオ・ラウ
ズオ・ラウ

軍の仕事でお忙しいでしょうから、後にしておきます……

タイホー
タイホー

尚蜀の一件で、粛政院はすでに持論を得ました。ズオ公子におかれても疚しいことをされたわけではないため、将軍に対して後ろめたい気持ちを抱く必要はないかと。

ズオ・ラウ
ズオ・ラウ

いえ、そういうわけでは……

ズオ・ラウ
ズオ・ラウ

家に帰ってもやることがありませんから、まずは街の様子でも見て回りましょう。太傅が此度ボクを玉門へ連れ戻したのも、おそらく何らかの異変を予見したからだと思います。事前に気を引き締めなければ。

タイホー
タイホー

もしご公務でしたら、私もお供致します。

ズオ・ラウ
ズオ・ラウ

タイホーさんも何年振りかの玉門でしょうから、色々と感慨深いのでは?

タイホー
タイホー

ここまでの民生の景色を見て、確かに出て行った時と比べれば色々と変化を遂げていました。

タイホー
タイホー

北方での戦は絶え間なく、されど玉門は依然と民の安生を守り続けている。これもすべては将軍の治政にあり、感服致しました。

ズオ・ラウ
ズオ・ラウ

街の向こう側にある武闘会場、相変わらず賑やかですね。

ズオ・ラウ
ズオ・ラウ

先ほど、太合さんの名前が今もランキングの第五位に高々と掲げられてるのが見えましたよ。

タイホー
タイホー

あれは所詮、虚名に過ぎません。もし私をあのランキングから蹴り落としてくれる若者が現れてくれれば、それこそ喜ばしいというもの。

タイホー
タイホー

して、今リングの上で対峙してるあの二名の娘っ子たち……

タイホー
タイホー

……

ズオ・ラウ
ズオ・ラウ

どうされました?

タイホー
タイホー

いえ。ただ、ズオ公子の武功はあの台上にいる二人の娘っ子と比べて如何なものなのだろうかと、考えていただけです。

ズオ・ラウ
ズオ・ラウ

オホン……

ズオ・ラウ
ズオ・ラウ

太傅も言っておられましたよ。持燭人の務めとは、明かりを以て巨獣の影を駆逐し、巡遊を以てして社稷の患いを察するのだと。

ズオ・ラウ
ズオ・ラウ

何よりも大事なのはそういった責務を銘記し、機敏にその務めにあたることです。武功はその二の次に過ぎません……

タイホー
タイホー

仰る通りで。

ズオ・ラウ
ズオ・ラウ

……

ズオ・ラウ
ズオ・ラウ

……ところで、あの台上におられるお二人と比べて、ボクの武功は如何ほどのものですか?

タイホー
タイホー

率直に申し上げますと、ズオ公子の軽功は卓絶ではあるものの、正面切って相手取るとなれば、勝算は向こうのほうにあるかと……

台上にいるその二人は、すでに対戦して10ラウンドとなっていた。
だがお互いに息が上がることはなく、相手よりも先んじて一撃を繰り出そうとしている。
フェリーンの娘は接近戦を試み、立て続けに激しい爆音を生じさせるほどの拳撃を繰り出し、しっかりと対戦相手の得物を抑え込んだ。
そして次の瞬間、両者ともに一撃を相手に食らわせたものの、フェリーンの対戦相手である異部族の恰好をした少女は、攻撃を受けた勢いのまま弾け飛んでいってしまった。

ワイフー
ワイフー

そこまで!

ワイフー
ワイフー

リングから出てしまいましたよ。

ワイフー
ワイフー

リングの面積は狭い上に、あなたが使用しているのは遠距離用の武器ですから、実力を発揮するにも限度があるかと……

ワイフー
ワイフー

けどルールはルールですので、あなたの負けです。

異部族の恰好をした少女
異部族の恰好をした少女

……

ワイフー
ワイフー

中々腕っぷしはあるようですね、あなたが繰り出てくる技は見たことがありません。

異部族の恰好をした少女
異部族の恰好をした少女

(たどたどしい炎国語)この試合に負けたら、もう上には上がれないってこと?

ワイフー
ワイフー

武を習う者として、勝敗に重きを置くわけにはいきませんが、今の私にはどうしても試合に勝てなければならない理由があるので……

異部族の恰好をした少女
異部族の恰好をした少女

じゃあそういうあなたも、あの剣が目当てなの?

ワイフー
ワイフー

剣?なんのことですか?

異部族の恰好をした少女
異部族の恰好をした少女

街の人が言ってた。このランキングで一位になった人には、特別な剣が授けられるって。

ワイフー
ワイフー

いや……私がランキング上位を目指しているのは、あの人に私の名前を気付いてもらいたいからってだけですよ。

異部族の恰好をした少女
異部族の恰好をした少女

今のあなたは、三十一位。つまりあなたよりも強い人が、まだ三十人あまりがいるってことだよね?

ワイフー
ワイフー

……まあ、そうですけど。

異部族の恰好をした少女
異部族の恰好をした少女

あなたの武術、確かにすごかったよ。

異部族の恰好をした少女
異部族の恰好をした少女

(どうやらこの方法じゃダメか……)

ワイフー
ワイフー

えっ、言うだけ言ってどっか行っちゃった……

ワイフー
ワイフー

でもこの試合に勝ったおかげで、私の名前もランキングの1ページ目に出てくるようになりましたね。

ワイフー
ワイフー

でもあの人、見てくれるのかな……

録武官
録武官

十五試合目、千夫長(せんふちょう)は着剣が四か所。右腕、左わき腹、中腹、そして喉元。チョウバイは無傷、よってチュウバイの勝利となります。

千夫長
千夫長

ははは、負けだ負けだ。これがもし戦場だったら、すでにチュウ嬢の剣で三回は死んでいたよ。

チュウバイ
チュウバイ

武闘会で比べるのはあくまで武芸であって、戦場で敵を殺す際の心構えではありません。戦場で命を落としていたのは私のほうです。

千夫長
千夫長

チュウ嬢はいつも宗帥のお傍におられるのだから、武功も見識もやはり一日千里と優れたものであるな。素直に感服したよ。

チュウバイ
チュウバイ

……まぐれで勝てただけですよ。

チュウバイ
チュウバイ

宗帥が武闘記録簿に書いた注釈を見せてください。

録武官
録武官

近頃の記録ならすべてここにありますよ。師は何かとお忙しいですが、それでも姉弟子であるあなたの対戦には特に注目しておられる。剣術のこともすごく褒めておられましたよ。

チュウバイ
チュウバイ

……

録武官
録武官

何か気になることでも?

チュウバイ
チュウバイ

あの方が言っていた「剣意が不純だ」という言葉がどういう意味なのかを、考えていただけです。

チュウバイ
チュウバイ

このような剣術では、いつになったらあの方を超えることができるのでしょう。

録武官
録武官

師が口述していた『武典』には、それらしき論述はされていませんから、きっと姐さんに向けられた言葉なのでしょう。

録武官
録武官

「宗帥を超える」なんてことを考えている人も、この世を見渡せどそう多くはないでしょうし。

チュウバイ
チュウバイ

あなたも私が自惚れていると?

録武官
録武官

職務の範疇に収まっている仕事をしただけですよ。師のお傍で、如実に各人の武功の評価を記録するという仕事をね。

チュウバイ
チュウバイ

……今日の会場はいつもより人が多いっていうのに、なぜあの方はよりによってこんなタイミングで席を外しているのでしょう?

録武官
録武官

ズオ将軍のところにお客人がご来訪されたんです。師もどうやらそこで昔からのお知り合いとお会いするとのことでして。

チュウバイ
チュウバイ

そうですか、なら私は先に上がらせて頂きましょう。

録武官
録武官

お気をつけて、チュウバイの姐さん。

チュウバイ
チュウバイ

……

チュウバイ
チュウバイ

私よりもあなたのほうが宗帥と一緒にいる時間が長いでしょう、何故今もそうやって私を呼ぶんです?

録武官
録武官

筆を執り事を録する者は、なおのこと他者の長所に目を光らせておくべきだと、師がそう仰っていました。

録武官
録武官

武功も見識も、姐さんのほうがずっと僕よりも上です。色々と学ばなきゃならないところがあるからですよ。

チュウバイ
チュウバイ

……まあ良いでしょう、好きにしてください。

威厳に満ちた男性
威厳に満ちた男性

……

常装の恰好をしたその将軍は弓に矢を掛ければ、盃の形に見える弓は満月とも形容できるほどの形に引かれていた。
彼の手は微かに震えていたため、矢もそれに応じて僅かに揺れ動く。矢が揺れ動くたびに、その将軍の眉間には皺が一つ増えていく。
放たれた鉄製の弓矢は半身を草藁に埋め込んでいくが、正鵠をわずかに外すといった結果になってしまった。

お見事。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

世辞はいい。自分の身体の調子なら、自分が一番理解している。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

二年前ならまだ剣や槍を執って、少しばかり振るうこともできたのだが、今年はとうとう弓すらまともに引けなくなってしまった。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

自ら出征する必要がないとはいえ、こんな病夫に玉門の守りを任せるのはやはり不適切だ……私に残された時間もそろそろだというのに。

リャン・シュン
リャン・シュン

将軍が受けられたその傷は、この玉門を幾度となく守ってきた証左になります。その功績は忘れる者など、朝廷にはおりますまい。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

この左宣遼、俗世にもはや未練などはないさ。だが、今も未解決の大事が幾つか残されてしまってることだけが懸念だ……

リャン・シュン
リャン・シュン

此度私がここ玉門へ来たのは、太傅の命を受け、将軍に協力するためでございます。玉門の国に帰する事務であれば、大小問わず責を担いたい次第です。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

太傅は本当に、“協力しろ”と申されたのか?

リャン・シュン
リャン・シュン

太傅の仰りたいこと、さしずめ将軍もすでにお察しがついているかと……

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

梁殿には礼を言わなければならないな、私の代わりに尚蜀での一件を片付けてくれたのだから。左楽はまだ若いため、色々と不手際も多かったことだろう。迷惑をかけたな。

リャン・シュン
リャン・シュン

恐縮でございます。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

しかし子を思う親の気持ちは、まだあまり理解できていないのではないだろうか。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

子供の成果というのは嬉しいものだが、それよりも過ちが怖い、僅かであろうとな。左楽が今背負っている責務ならなおのこと、寸分たりとも過ちは許されんものだ。

リャン・シュン
リャン・シュン

左公子は若くして才能に富んでおり、お考えもとても機敏でございます。若者がたまに羽目を外してしまうのも、よくあることでしょう。そう過度に心配する必要はありません。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

では梁殿から見て、この左宣遼の行いは、羽目を外していると思うか?

リャン・シュン
リャン・シュン

……将軍にはきっと、将軍なりのお考えがあるのでしょう。私はそう信じております。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

梁殿が尚蜀の地方官として、政に務め民を愛していることは、玉門にも届いている。しかし一つ訊ねておきたいのだが、戦いを経験したことはおありかな?

リャン・シュン
リャン・シュン

何年か前に、尚蜀の河で水賊が発生したことがありまして、その対応で……ただ当然ながら、これらは将軍が経歴された戦場とは比べ物にもなりません。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

なら将が前線で判断を下すことと、為政者が人民のために政務を全うことの違いぐらい、梁殿も理解されているはずだろう。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

戦況というのは目まぐるしく変化していくものだ。幾千幾万もの将兵らの生死は、すべて指揮官の一瞬の判断に委ねられている。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

そこでその時必要となるのは決断する勇気か、それとも機を窺うための思考力か。梁殿はどちらが必要になるとお考えかな?

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

歳という名の矢はすでに弓にかけられた、もはや射ぬわけにはいかんのだよ。

リャン・シュン
リャン・シュン

深く肝に銘じておきます。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

梁殿が玉門へ来て頂き、この“玉門参知”を担うことになったのなら、戦場にその身を置いたも同然。私たちも言わば、同僚と言ったところだろう。だからこの左宣遼のやり方にも、どうかご理解頂きたい。

リャン・シュン
リャン・シュン

自ずと全力は尽くしますとも。無論、将軍のことも信じております。

リャン・シュン
リャン・シュン

しかし今回我ら大炎が直面している巨獣の問題は、民のために政務を全うすることでもなければ、戦場で敵を討つことでもありません。

リャン・シュン
リャン・シュン

私は将軍のご判断を信じておりますが、どうか将軍のほうも私の考慮を信じてくださればと思います。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

うむ……

またもや矢が一本放たれ、今回は正鵠を得ることができた。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

リャン殿も引いてみるか?

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

梁知府は文才もさることながら、剣術弓術もそれなりの、まさしく文武両道の俊才と聞くのでな。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

しかし私が持つこの玉門の弓は重い。梁殿には少しばかり難しいのではないだろうか?

リャン・シュン
リャン・シュン

……

千夫長
巡防営の城兵

将軍、龍門のウェイ総督がお見えになりました。今は議事殿にてお待ちしております。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

そうか、分かった。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

リン殿の娘も数日前にはここへ来られたのだ。日数を数えれば、魏様もそろそろ来られる頃だと思っていたよ。

千夫長
巡防営の城兵

それと、太傅もご到着しております。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

……

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

太傅とウェイ様は、一緒に来られたのか?

リャン・シュン
リャン・シュン

此度のウェイ様は、さしずめご公務のために来られたわけではなさそうですね。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

公務だろうがそうでなかろうが、同時にこのお二方をお迎えに上がらなければならないことに変わりはない。

ズオ・シュエンリャン
ズオ・シュエンリャン

どうやら今日、このズオ・シュエンリャンに物申したいとお考えになられている方々は、梁殿一人だけではなさそうだ。

リィン
リィン

ねえ、兄さん。

チョンユエ
チョンユエ

昨晩、ある夢を見てな。

チョンユエ
チョンユエ

窓の外では激しく夜風が吹き荒んでいたが、開けてみれば、外の砂漠はなんと樹海に変っていた。木々は新芽をつけ、中には花を咲かせるものまでいた。

チョンユエ
チョンユエ

枝はすくすくと伸びていき、やがては一枚の網を織り成した。玉門城はその網に絡まってしまい、ビクとも動けずにいたものだよ。

リィン
リィン

人路を辞さなけば、花 枝に留まることを難し。

リィン
リィン

つまり兄さんは、今も玉門から離れたくはないということかな?

チョンユエ
チョンユエ

前回お前が玉門を出る時には、どういった句を残していったか……それすらも記憶が覚束なくなってしまったよ。

リィン
リィン

清夜 満城に絲管散らされば、行人これ辺頭なるを信じれず。

チョンユエ
チョンユエ

どうやら新しい句のようじゃないか。久方ぶりに会ってみれば、令の心境も変化したようだな。

リィン
リィン

百年なんて、そう長い時間ってわけでもないさ。ただ少しここの夢を見たからね、ついでに戻ってきただけだよ。

チョンユエ
チョンユエ

だが私からすれば、この“百年”は三万余りもの日夜に相当する。軍からの急報であり、斥候出関であり、信使の帰還であるのさ。

チョンユエ
チョンユエ

お前が去ってから、ここの守りに徹していた将兵らは数え切れぬほど代わっていった。この城壁に積み重ねられたレンガも、何度修繕されてきたことか。

チョンユエ
チョンユエ

まあおかげで、こいつは今もここに立っていられるがな。

チョンユエ
チョンユエ

ところでリィン、尚蜀でニェンとシーに会ったのか?

リィン
リィン

会ったは会ったさ、二人とも相変わらずだったよ。しかも今は、中々いい場所を見つけて好き勝手やっている。

チョンユエ
チョンユエ

なら、あいつにも会ったんじゃないのか?

リィン
リィン

私たちの中で、兄さんの手を煩わせないような弟や妹なんて存在しないよ。

リィン
リィン

シーは臆病で、考え過ぎなところがある。なのに誰にも相談することなく、いつも自分の世界に引き籠もりがちだから、何かと自分を追い詰めて問題を起こしかねない。

チョンユエ
チョンユエ

ニェンは洒脱のように見えるが、ああ見えて一番の寂しがり屋だ。もし何か新鮮事で気を紛らわせることができなければ、自暴自棄になってしまう。

チョンユエ
チョンユエ

お前に至っては何も心配していないさ。ただ一つだけ、飲み過ぎるあまりに、食い逃げをして店に迷惑をかけることだけが心配だ。

チョンユエ
チョンユエ

しかしお前は長女とは言え、公務を担っていないのであれば、少しは下の弟や妹たちの面倒を見てやってくれ。

リィン
リィン

それは姉として失格だって、私を責めているのかな?

リィン
リィン

この世に私たちみたいな関係性を持った家族なんてどこにいるのさ?私もどこの誰にそれを学べばいいのやら……結局のところ、自分で察するしかないんだよ。

リィン
リィン

あの妹たち、みんな打ち明けずに勝手に抱え込んで勝手に悩み出すものだから、どうしようもないじゃないか。

チョンユエ
チョンユエ

あの子らのせいでもないさ。もしお前があの子らの立場にいた場合でも、今みたいに悠々自適でいられるとは限らないぞ。

リィン
リィン

悠々自適を言うんだったら、兄さんには敵わないよ。“我”を完全にほっぽり出して、もう一個新しい“我”を見つけ出したんだからさ。

チョンユエ
チョンユエ

……

チョンユエ
チョンユエ

“朔(スオ)”という名も、あの残り僅かとなってしまった魂も、すべてあの剣に封じ込んだ。今の私は、少し武術に通じてるだけの凡夫に過ぎんさ。

リィン
リィン

“少し武術に通じてる凡夫”なんてよく言えたものだよ。その一言だけで、どれだけの武才らの修練への道を阻んできたんだろうね?

チョンユエ
チョンユエ

一日の鍛錬は一日の武功を得る。数百年過ごしてきたという尺度から見れば、この“少しばかり”という言葉は些か尊大に聞こえたかもしれないな。

リィン
リィン

……

斜め前方にある砂の水路は、絶え間なく数トンにも及ぶ黄砂を吐き続け、前進する玉門のために砂が生じる抵抗力を取り除いてくれている。
この巨大な移動都市は、今まさに彼女の新たな終着点へと奔走しているのだ。

リィン
リィン

これから玉門を離れるっていうけど、その後はどうするつもりなの?

チョンユエ
チョンユエ

北を離れるとなれば、南へでも行って田園風景を楽むなり、中原の焼酎でも味わうなり、あるいは年や夕がいた場所でも散策しようと思っている。

チョンユエ
チョンユエ

これだけ広大な国なんだ、行く場所は山ほどあるさ。

チョンユエ
チョンユエ

……だが、同じように盃を挙げて共に笑ってくれる人たちは、もう一人も見つからんだろうな。

遠くを望めば、砂海に揺らぐ陽炎のせいで、景色はとても粗造で朧気に見える。
風は吹き荒ぶも、城楼にぶつかった際にはすでに勢いも弱く、巻き上げられた細砂が両の頬に当たったとしても、その感触はまるで柔和(にゅうわ)の一言であった。
黄砂遠くは三千もの地から来たり、年を流し洗い罷(や)むは一屈指あるのみ。

千夫長
玉門の城兵A

……装備の識別番号を見るに、本日午前には城内に帰還しているはずの天災トランスポーターの部隊で間違いありません。

千夫長
玉門の城兵A

現場には激化源石炸薬が炸裂した痕跡が残されているため、死体はもうすでに結晶化し、粉塵化してしまったかと……

リン・ユーシャ
リン・ユーシャ

……残留してる源石に気を付けて。

リン・ユーシャ
リン・ユーシャ

ここは都市から二時間はかからないルートに位置してる場所よ。こんな近い場所で、一体誰が政府の天災トランスポーターを……

千夫長
玉門の城兵A

物資含め、金目なものはすべて無くなっています。察するに、きっと強盗かそこら辺の仕業なんでしょう。

リン・ユーシャ
リン・ユーシャ

……それとも、そういう風に見せかけているとか?

リン・ユーシャ
リン・ユーシャ

このまま捜査続行よ。もし天災の観測データが見つからなければ、厄介極まりないわ……

千夫長
玉門の城兵B

おーい、見つけたぞ!

千夫長
玉門の城兵B

少し離れた場所、そこに捨てられた甲冑の下にあったぞ。

千夫長
玉門の城兵B

あの破損具合を見りゃ……きっと俺たちの兄弟たちが必死に守り抜いてくれたんだろうな……

リン・ユーシャ
リン・ユーシャ

……

リン・ユーシャ
リン・ユーシャ

もう時間がないわ。周囲を警戒しながら、直ちにデータを市内に持ち帰るわよ。

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