
これは一体どうやって作られているんだニャ?

まるでゴシャハギの毛皮のような優秀な防御性能を持っているだけでなく、ナルガクルガの鱗のような軽やかさまで備えているだなんて……

ここにある衣服の材質はどれもこんな感じニャ、しかも柔軟性も抜群にいいニャ!

何より奇妙なのが、ここにいる人たちはみんなそういった素材で作られた服を着ていることニャ。一番優秀な防具の加工屋が作った作品よりもキレイに裁断されているニャ……

こんな大量の標準化された素材を提供してくれるだけの数のモンスターがいるとは思えないニャ。

新しい素材、大好きニャ!森の中だったらもっとたくさんの新素材が眠っているニャ!

角付きの“ハンター”と一緒にリオレウスを討伐しに行くニャ!

職人くん、よく考えてみるニャ!この場所はボクたちが向かおうとしていた新大陸とはまったく異なっている場所ニャ。

森に入って狩りをしない村人たち、そしてモンスターの素材で防具や武器を作ることもない……

彼らが使ってるものは一体どこで作られているニャ?それにまだまだ村の中には見たことがないような、何に使うのかすら分からない道具もたくさん残っているニャ。

ヤトウに聞いたら、ここにも古龍観測所にいる人たちと同じように自然現象を観測したり、生態を研究する学者たちがいるみたいだけど……

それにしても違いがデカすぎるニャ!何もかもが!

違うニャ?

そうニャ!だからはやく戻る方法を探さなければならないニャ、ボクの新大陸最強学者計画もまだ挽回することができるはずニャ!

ここも新大陸みたいなとこだニャ……

職人くん、君はここも……新大陸みたいだと思っているのニャ?それに何よりも、どこの調査団も足を踏み入れたことがないような?

“ハンター”も研究員も、古龍観測所の人間もいない!まったく異なる新大陸!ボクたちしか知らない新大陸、そう言いたいのニャ?

ならもしここでの見聞と知識を記録して……元いた場所に戻ることができれば、ボクはみんなからすごく注目されるスター学者になれるじゃないかニャ!

その時になったら、きっと本の山に埋もれている竜人族の老いぼれたちからも、きっとボクの学識に呆気にとられるはずニャ――ボクはなんて賢いんだニャ!

ニャ?

いや、違う……これではダメニャ、もっと考え込んだほうがいいかもしれないニャ。

リオレウスをやっつけるにも……ボクたちはいつも“ハンター”たちと狩りに出かけているオトモたちじゃないニャ。何よりそんなボクたちは、すでに彼らを一度助けてやったニャ!

リオレウスをやっつける!ワクワクニャ!

職人くん、君がついて行きたいと言うのならボクは止めないニャ。どの道ボクはここで……

わぁ、見て見て!あれってフェリーンなのかな?

あんなちっこいの、フェリーンには見えないよ。でも全身モコモコ……すっごくかわいい!

こら、君たち!なんのつもりニャ?

わっ、喋ったよ!本当にかわいいね!

フェリーンちゃん、わたしたちと一緒に遊んでくれない?

抱っこしてあげたり、キレイなお着物を着せてあげたりしてあげるから。

それかたかいたかーいもしてあげる!こんな風に!

ウニャアアアア!この尖り耳のガキンチョども、ボクは元王立古生物書士隊の学者だニャ!君たちのおもちゃじゃないニャ!

こうすれば頭をなでなですることもできるね。

こら!勝手に頭を触るんじゃないニャ!言っておくけど……ふっ、フニャ~……きもちいいニャ~……

ってそうじゃないニャッ!

職人くん……どこに行くニャ……待つんだニャ!

よし決めた、うん、決めたニャ!

彼らはあれだけボクに懇願してきたんだニャ。あの強大なリオレウスと対抗するために、ボクの奥深い知恵を借りたいって……

優秀な元王立古生物書士隊の学者として、ボクのプロ意識がそのお願いを拒否することを拒んでいるニャ!

なら出発だニャ!今すぐに!

ほう、つまり私たちの村の近くにある森、そこで家一軒の大きさにも匹敵するような巨大なバケモノが現れた。しかもそのバケモノは飛ぶことができて、火を噴くこともでき、爪には毒が含まれていると……

ははは、なんとも奇妙な森ですね。

信じられないのは理解できます。しかし私たちは確かにこの目で確認しました、それに一戦交えたこともあります。

新たに危険をもたらす可能性があるかどうかはまだ不確定であるため……ここは速やかに村の住民らに知らせ、天災と同じ扱いとして素早く避難を開始したほうがよろしいかと。

せっかく遠くからこちらにいらしていただいたのに、そんな目に遭われてしまっただなんて、さぞ大変だったことでしょう。

申し遅れました、私は瀧居(たきい)応(まさし)。この小さな露華村で村長を務めておりますが、この村の安寧はなにも私一人の力で成し遂げたわけではありません。村のみんなが共に力を合わせてくれたからです。

さあ、どうぞお茶をお召し上がりください。

この地の特産品でございまして。眠気を覚ますことができるだけでなく、少しだけ気力も回復してくれる効能があります。

じゃあ遠慮なくいただきますわ。

瀧居さん、今は時間が差し迫っている状況です。

……やっぱ後にしておくわ。

こちらの言ってることが理解できないのですか?迅速に避難しなければ住民らの安全を確保することはできません。そうしなければ、こちらも憂いなく危機に対応することができなくなります。

やれやれ、若者がせっかちなのは世の常ですが、悪いことではありません。よくこう言うではありませんか、先に飛び立った羽獣がムシにありつけると。

まあ今はとにかくおかけください。時間はまだまだありますから、しっかりと話を聞こうじゃありませんか。

ヤトウ、ここはひとまず村長さんの言う通りにしておこうぜ。

であれば、こちら側の提案をきちんと考慮していただきたいと思います。そして突発的な危機に際して撤退時の安全を確保できるよう、あらかじめ村の近辺に防御工程を設けることを許可していただきたい。

先ほど仰っていただいたのですが、お二方はどこからいらしたのでしたっけ?確かロー……

ロドスです。

あぁそうそう、ロドスだ。

あなたがそこのオペレーターのヤトウさんで、彼がノイルホーンさん。いやぁ申し訳ない……中々覚えられなくて。

はて、あの時はなぜあなたたちに連絡を入れたのでしたっけ……そうだ、あなたたちが鉱石病を処理対応してくれると仰っていたから、でしたね。

近頃この露華村の何世帯もの家から感染者が出現してしまいまして。

島長家、渡澤家、千野家、そして石取家……石取家の子に至ってはまだ歳幼いというのに、あんな病にかかってしまうとは。本当に心苦しいばかりです。

その点に関してはぜひとも信用していただいて構いません。鉱石病関連の問題解決に関して、私たちは十分に専門性を備えておりますから。

それはもちろん。お二方が来ていただいたこともとても感謝しているのですが、ただ少し悩んでいることがありまして……

なんでしょうか?

お二方がなぜ森に住まうバケモノにそこまでの関心を寄せているのか、それがとても気になるのです。

あなたたちが所属している会社は製薬会社ではないのですか?

……

そこは俺が説明します。鉱石病の地域性の拡大はいつも表面上には現れない深い要因が潜んでいるんです。鉱石病を効果的に対処したいのであれば、源石粉塵が拡散する発生源を叩き潰すのが一番の方法ってわけです。

正直に言って、俺たちが先ほど山に入って調査した際に、村で起こってる鉱石病の感染拡大はあのバケモノと何かしらの関係があると一部の手掛かりがそう示していまして。

たとえ決定的な手掛かりがまだ出ていなくとも、事前に予防策を提案するってのも俺たちの責務ですから。

なるほど、さすがはロドスの専門家、問題解決にあたっては非常に細かくまで手が及んでいるのですね。村にいる若者たちにも、ぜひ見習ってもらいたいものです。

ですので、引き続きこちらの提案を考慮していただきたいと考えております。これは村全員の安全に関わることですので。

そうだ、専門家のお二方。一つ答えていただきたい質問があるのですが。

なんなりと。

お茶のお味は……いかがでしたかな?

あの、話題を変えないでいただき――

すごい美味しかったですよ。口当たりはすっきり爽やかで、バーに置かれてる瓶や缶のヤツよりもよっぽど美味しいです。

そうでしょう、光元家の偉い方々もお気に召していただいているお茶ですからね。

あの光元家と交易をしているのですか……

お茶の原料はリョウカソウと言いまして、とても大事な植物なんです。青暮山の付近にしか生えてくれない植物でしてね、違い場所で栽培しようにもまったく育ってくれないんですよ。

ただそのおかげもあって、東国全国でそのリョウカソウを産出できるのも、この小さな山間の土地だけとなっております。

それ以外にも、手製の鉄器や特色ある寄木細工もここの特産品でございまして。山から産出される質のいい功績と多様な木材のおかげで成り立っています。

つまり、何を仰いたいのですか?

実はですね、つい数年程前まで、ここはは狩猟を営んでいた小さな村に過ぎなかったのです。みんな狩りを生業としていて、狩人の収穫をあてに暮らしていました。

収穫が多ければ、みんな篝火を囲って歌って踊り出すほどの喜びようです。しかし何も獲れなかった場合は、みんな手持ちの食糧を指で数えながら、あと何日は持つのかを計算しながら、夜な夜な獣に騒がれる心配をしながら過ごすしかありませんでした。

しかし村が何年もの時間と労力を費やしたことで、茅葺屋根は木の板に取り換えられ、道には街灯が立ち、子供たちも毎日熱い風呂に入ることできました。

そうして今では誰も山に入って狩りをする必要も、明日の暮らしを心配する必要もなくなったわけです。

たとえお二方が偶然発見してしまった状況だけで、私たちを村から引き離すようにしたとしても……村人たちもきっと困惑してしまうことでしょう。

私たちは何も、あなた方を追いやるつもりはありません。危機的な状況が去った後、もしほかにも危険を確認できなかった場合は村へ引き返していただいても結構ですから。

ではその場合、どれだけの時間を要するのですか?一日?二日?それとも一か月?一年ですか?私たちが村に残していった財産が破損しないという保証はできますか?私たちは本当に元通りの生活に戻ることができるという保証は?

そういった保証を、ロドスは約束してくれるのですか?

今の段階では……申し訳ありませんが、おそらくはできかねます。現時点で収拾した情報だけでは状況の規模を予測することができないので。でも……

そうでしょうそうでしょう。ならば、私たちも尚更ここを離れるわけにはいきませんとも。

そのように考えてはなりません、村人たちの安全確保こそが最重要事項なんです!あの危険な大型生物だって確かに存在しています、その脅威を無視しろと言うのですか?

本当にそんなことが言えるのですか?

はい?

私たちの地域にはこんな諺がありまして、曰く“秋の胡蝶、舞うは枯葉”と。

ここの森のことなら、私たちはこれ以上にないほど知り尽くしていますよ。ヤトウさん、あなたが見たのはおそらくただの落ち葉だったのでしょう。

何を言って――

なるほど!

ノイルホーン……

なら今から村で起こってる感染状況を確認してきます。確認の結果次第で今後の治療法を組んでおきますんで。

本当にありがとうございます、お二方。では治療法の話になったのなら……もう一つお二方に頼みたいことがございまして。

なんなりと。

今ここで鉱石病を抑制するお薬を頂けませんか?

それはまたどうして……?

どうしても感染状況で不安になってしまいましてね。たとえお二方が来ていただいたとしても、万が一が今後も起こりえるのかもしれません。そのため少しだけ備えておきたいと思いまして。

お金ならしっかりと支払っておきますので、どうぞご安心を。

その必要ならありませんよ、私たちが発生源を……

ヤトウ。

なにかお困りなのでしょうか?

いや……そんなことはないです、今すぐ渡しておきますね。

そうだ瀧居村長、一つ聞きたいことがあって……村は以前狩猟を生業にしてきたって言ってましたけど、村にはまだ狩人はいるんですか?

狩りをする必要性がなくなったのなら、自ずと狩人も消えてなくなるものですよ。

さっき村に入る際に狩人らしき人物と遭遇したんですけど、知ってますか?確か、柏生(かしわい)さんだったような。

狩人を?はは、自称をすることができるのなら、私たちはみんな狩人になれますよ。

あの人はすでにそこそこお年を召していますからね。山に入って、木々に向かって棍棒を振ったり、口でそういうことを言ってるだけに過ぎません。

ただ……一つ忠告を。彼とはあまり関わらないほうがいい、とても変わった性格をしていますからね。もしかすれば、お二方にご迷惑をかけてしまうかもしれません。

周りに家族らしき人たちを見かけなかったんですけど、なんかあったんですか?

面白いことを聞きますね、彼は単に僻んでいるだけですよ。どこの村にも一人や二人ぐらい変人はいるものです、何も珍しいことではないでしょう。

さあ、時間もいい頃合いです、今日はこのあたりにしておきましょうか。何もない小さな場所ではありますが、愉快なひと時をお過ごしください。

ありがとうございます。

あぁ……そうだ。これは私個人としてなのですが、少し言っておきたいことがありまして。

老練の狩人はみな一つの道理を弁えています。森の中にいる獣の好奇心が旺盛であればあるほど、罠にかかりやすいというものです。

どうかくれぐれも、この言葉をお忘れなきよう。

私が疎いせいで、村に撤退を要求する難易度を見誤ってしまった。

証拠が欠けているこの状況下で、危険を伝えて現地の人たちを居住地域から避難させることは、確かに賢明な選択とは言えないな。

……いくら十分な証拠を入手したところで、村長さんが俺たちを信じてくれるとは限らないと思うぜ。

彼は私たちがより多くの情報を集めることを良しとしていなかった。リオレウスとの接触も阻止しようとしてきている。

君が先ほど私の止めに入ったのは、彼のそういう態度があったからなのか?

ああ、俺たちに薬を求めてきた理由もおかしかった、何か隠し事をしているみたいだったからな。ひとまず応えてやって様子見をしておいたほうがいいと思ったわけだ。

それから最後に話してきたアレ……ありゃたぶん俺たちに警告しているのかもしれねえぜ。

私は気にしていないがな。

ここの人たちの態度がどんなものであれば、私たちの目標はただ一つ。脅威を排除し、村の住民らを守ることだ。

何がなんでも、私は必ず解決策を見つけ出すよ。

ああ……

それに比べてノイルホーン、君は色々と気に掛けすぎだ。

俺はただ、柏生さんのあの態度にもなんか違和感を覚えたってだけで……

憂慮してることは理解できるが、それは私たちが気に掛けるべきことではないぞ。

重要でもないことに余計な気力を消耗するんじゃない。
氷の冷たさが、秋ごろの山林の夜に現れた。
風は未だ温もりが残された身体をよぎっていく。
噛み砕かれ、引き裂かれ、引きちぎられ、そして咀嚼され。
激痛が走った。
激痛が。
激痛が……

皆殺しにしてやるんだ!

うわぁッ――

*極東スラング*、夢か。

また夢の中で、お前を……
(ドアのノック音)

おじいちゃん、いるー?

入ってきなさい――
(和也が部屋に入ってくる)

おじいちゃん、おにぎりとタケノコの煮物を持ってきたよ。ちゃぶ台に置いておくね。

それと町から届いたお弁当も。温めたら食べられるから……って、これからお出かけ?

ああ、山にな。

も、もしかしてあの……おにいちゃんとおねえちゃんが言ってた、ちょうデカくて飛ぶことができるバケモノ退治に?

ただの狩りに行くだけだ。

じゃあさ……その……ぼくもずっとこの日のために準備してきたんだ。今はちょうすごいバケモノがあらわれたんだし、ぼくが一人前の狩人になれる時が来たんじゃないかって……

ほら、弓も山用の革靴も、小刀も持ってる。身体のどこも悪くないし、力だってすごく出るんだよ!

だからさ……いっしょに山に入って狩りをしてもいい?

駄目だ。

えっ……もうちょっと考え直してくれない?

色々と手伝うからさ。弓を持ってあげたり、罠を設置したり、毛皮を村まで持っていってやったりするからさ……

小童、お前はまだ幼すぎるし、何より経験がない。儂の足手纏いになるだけだ。

こわっぱじゃないやい!むかしだったらぼくぐらいの子供はすでに山に入って狩りをしていたんだよ、おじいちゃんだって知ってるでしょ。

ちゃんと言うことを聞くからさ!絶対に迷惑をかけないからさ!

話はここまでだ。

みんな言ってたんだ、村にはもう狩人はいないって……ひっく。

狩人は森の中で獣を倒してくれる。村の中でいちばんすごい英雄なんだって、おじいちゃんみたいな。

おじいちゃんはずっとみんなを守ってきてくれたのに、なんでみんなからあんな風に言われなきゃならないんだよ。

それにね、おじいちゃんはもう狩人じゃない、ただのよぼよぼのじいさん、山に入っても獣に骨をしゃぶられるだけだって言ってたんだ……

奴らが言ってることなら……はぁ……

森はな……日増しに危なくなってきているのだ。

あそこはもう、人が踏み入れていい場所ではなくなった。

おじいちゃん……あいつらはみんなウソつきだ。おじいちゃんは狩人のまま、そうなんだよね?

儂は……

あのバケモノのことなら必ず仕留めて、戻ってきてみせる。儂を信じろ。

ほれ、もう泣くでない。

今はまだその時ではないが、お前ならきっと一人前の狩人になれると信じておるさ。

これは儂とお前の、二人との約束だ。分かったか?

うん……ぜったいだよ?

ん?村の者たちが……全員外におるぞ?何事だ?

それじゃあ手を上げてくれるかな、こんな感じにね。

怖がることはないよ、ちょっとだけお姉ちゃんに診せてくれればいいから。

うん、いい子だね。

では次の方。
年老いた狩人がしばらくその場に立ち尽くし、やがて立ち去ろうとしたその時。
歳若きオペレーターが偶然にも彼のいる方向に目を向け、僅かな間に二人の目線が交わされた。

ふん……

僕の身体の具合はどうですか?なんだか最近やたらと頭痛が起こってて……

それなら心配はいりません、大した問題はありませんよ。

この鎮痛剤はどうぞ持って行ってください。もし激痛が起こったら一粒だけ服用してくださいね、それ以外の場合は必要ありませんので。

どうも……

ヤトウ、こっちに来て血管の造影検査結果を見てくれ。

分かった!少々お待ちを、残りの注意事項はすぐにまたお伝えしますので。

これだ、見えるか?

そんな……

……分かった。

お待たせしました、一つお訊ねしたいことがありまして。

実はそちらの感染状況に軽微な変化が見られたんです。最近は何か特殊な物品に触れたことはありましたか?それか、普段はあまり行かないようなところに行ったとか?

あっ、それなら……!えっと……酷いんですか?

今のところは酷くはありません。ただこのまま継続して活性源石と接触して鉱石病にまで発展してしまえば、そうとは限りませんけど。

もし最近行ったり触れたりしていないのであれば……前のことでも構いません。特に源石と関わったことがあったかどうか、よく思い出していただきたいです。

活性源石……そんなまさか?あそこに入る前は、ちゃんと言われた通り防護措置をしたのに……

入る前?どこかに入ったのですか?

おい成松(なりまつ)!先生を誤解させるようなことを言うんじゃない!

――!

ぼ、僕はただの鍛冶師でして、源石とはなにも……関わってるはずがありませんよ、きっと間違えちゃったんじゃないですか?

その通りだ。村のみんななら普段から規則正しい生活を送っている、先生が心配しているような状況ならないさ。

……分かりました。では今度から活性源石が出現しそうな場所は避け、出処が不明な物には触れないようにしてください。

最後の一人も終わったぞ。

なにか新しいことは分かったか?

どれも一緒だ。村人たちはみんなずっと村にいたと言うほかは、口を閉じられてしまうばかりだ。

病状の深刻度を脅しにしてもまったく効果がない。症状以外のことと今までの行動の聞き取り調査となれば、みんなすぐに押し黙ってしまう。

最終的に鉱石病と確診された感染者はほんの数名しかいなかったし、相応の措置もしてきたが、鉱石病を受けている村の影響は軽視できない状況だ。

それに先ほど君が見せてきたあの結果……検査に来た人たちはみんなああいった感じなのか?

ああ。

もし彼らがつい最近まで源石に触れたことがなかったというのなら、汚染の発生源はいったいどこから来ているんだ?

血管の造影検査結果から察するに、ここの住民たちは少なくとも数年前から活性源石の影響を受けているはずだ。

ただとても微弱な影響だったせいで、症状も明確化していなかったのかもな。まあ、鉱石病と確診された人たちが数名出てしまったことは事実だが。

俺が推察するには、接触した源石粒子の濃度が極めて低かったうえ、そこまで長時間接触していなかったのかもしれねえ。

私たちがリオレウスの爪痕から検知したあの濃度と同じ程度ということか?

いや……あいつのアレはあのまま発症を引き起こせるぐらいの濃度だ、たぶんあの確診された感染者たちと関係があるのかもしれねえ。その人たちも、森に入ったことがあるって言ってたしな。

(深呼吸)

もしこの区域が源石の影響を受け続ければ、いつかは唐突に感染が爆発するんじゃないかと、そんな考えがどうしても過ってしまうよ。

ではこの両者の源石の発生源は……同じところから来ているということか?

その可能性が高い。
(厳しめな村人が近寄ってくる)

どうも、お二人さん。

あなたは先ほどの……

失礼、自己紹介を忘れていたな。俺は利藤(りとう)裕(ゆう)、ここで生まれ育った人間だ。

どうも、何かご用ですか?

さっきは質問のやり取りに割り入ってしまって申し訳ない。あいつがみんなの前で誤解を招くことを喋って、かえって自分に悪影響を出してしまうんじゃないかと心配していたもんでな。

自分に悪影響を?それはどういう意味なんです?

いやね、この村にはみんながなかなか口じゃ言えないような一件を抱え込んでいるんだが……

お、お二方!病気を診てくださるお医者様でいらっしゃいますか?

えっと……私たちはもっぱら鉱石病のみを扱う者たちでして。

どうしたんだ、そんな切羽詰まって?

あっ、まさか……

お願いします!どうか石取家の子供を助けてください!

私はその子の家の近所に住む者なんです!病状がとても深刻で……ずっと血を吐いてて……

吐血ですか?

芳しくない状況ですね、急いで向かいましょう。

俺も一緒に行くよ。

輸液チューブ。

ハサミ!はやく!

ガーゼ!

ゴフッ……ゲホッゲホッ――

ふぅ――成功だ。似たような状況を対処したことがあって幸いだった。

あれは確か、あんたが自分に……

暇そうにしているようだな、ノイルホーン?はやくこの子に抑制剤を打ってやれ。

先生……この子は大丈夫なのでしょうか?

ひとまず持ち直しましたよ。

肺から出血が確認しました。誤った姿勢だと血の塊を排出することができず、それで気道を塞いでしまうことがあるので……必ず座らせて休ませてあげてください。

よかったぁ……

しかし楽観視はできません、まだまだ油断ならない状態ですから。

ほかの感染者の感染状況よりもこの子のほうがよっぽど深刻です、大事に至る前に抑制剤を注射してあげられたのは幸いでしたが。

とはいえ抑制剤はあくまで一時的に症状を緩和することしかできません。今後は持続的に抑制する医療法を講ずる必要が出てきます、もしくはこのままロドスに預けたほうが……

それにしてもこの様子……この子は一体何に接触したのですか?

分かりません、おそらく何も……

そんなまさか?この子のご家族は?

それも分からなくて……

一体何を隠しているんです?

(よく聞き取れない声)おとうちゃん……

(よく聞き取れない声)おとうちゃんは……ぜったいにウソはつかな……

(よく聞き取れない声)バケモノ……でっかいバケモノが……

――!

バケモノ?

それを話してはいけません!

ちょちょちょちょ!奥さん、入っちゃダメですって!

ノイルホーン、入らせないようにしっかりとな。

のどが……お水……

ここに――気を付けて、ゆっくり飲むんだよ。

(喉を鳴らす)

私は君を助けにきたんだ、何も怖くはないからな。

君の家族はどこに行ったんだい?

おとうちゃんは……どうくつから戻ってすぐ……村長に連れていかれちゃった。

洞窟?

こら!よその方にそれを言ってはいけません!それは村全体に関わって……

あなたは黙っててください!この子の命よりも大事なものがあるとでも!?

ゲホッ……

おとうちゃん……毎朝どうくつに行くんだけど、いつも遅くかえってくるんだ。

でもおととい……ゲホッ……どうくつから大きな声が聞こえて。

村長が……誰かが様子を見にいってもらわなきゃって……それでおとうちゃんが行ってかえってきたら、ずっと熱を出して……からだに石ころが生えてきちゃったんだ。

鉱石病が急速に悪化してしまったということか。

それか直接活性源石に触れてしまったようにも聞こえるな。一部身体に付着してしまったせいで、この子の感染もひどくなっちまったんだろう。

おとうちゃん、どうくつにはでかいバケモノがいて、危険だって……でもおとうちゃんはウソをついているって村長が言ってたし、みんなも信じなくなったから……おとうちゃんは村長に連れていかれちゃったんだ。

おとうちゃんがウソをつくはずがないよ……ぜったいにそんなこと……

いい子、お父さんならウソはついていないよ。そのバケモノなら……私たちもこの目で見たから。

ホント……?

ああ、安心してくれ、私たちはとてもすごいんだぞ。あんなバケモノの退治もなんのそのだ、絶対に村に危害を加えさせないよ。

おねえちゃん、あのバケモノをやっつけて……村のみんなを守ってくれるの……?おとうちゃんのことも……

ああ……約束しよう。ロドス行動隊A4の隊長ヤトウ、依頼を引き受けた。

約束は必ず守る。

ありがとう……

さあ、それよりも今はしっかりと休憩しておこうか?

ノイルホーン、そこをどいてくれ。

――!

あなた……あの子のさっきの様子は見えていたな?

今はすでに村にいる多くの人たちが感染してしまっている。もし源石粉塵が拡散している発生源を突き止めなければ、あなたたちもいずれは感染してしまい、病状が悪化してしまうんだ。

次あんな風になってしまうのはあなたのほうなんだぞ!それが分からないのか!

あなたたちは一体何を隠しているんだ!言え!

本当にごめんなさい、私のほうからは何も……

……

手を放してやってくれ、彼女も仕方がなかったんだ。ここは俺が説明しよう。

お前は先に帰っていなさい、俺が話してやるから。

ありがとうございます……
(焦る村民が立ち去る)

もう話してもいいんじゃないのか?

あの子が話していた洞窟は……村の裏山にあるんだ。村の長がそこを管理していてな、多くの村人がそこで働いている。

洞窟の中には何があるんだ?

さあな、俺はそこで働いているわけじゃないから。知ったところで話せるわけもないよ、彼女と同じように。

村長から口を封じられているのか?

それは俺の口からは言えないな。

……村長のところに行ってハッキリさせてくる。すまないが、この子の面倒を見てやってくれ。

ちょっと待て、もう少し考え直してみたらどうなんだ?

この状況をはやく解決しなければ、村はより甚大な被害を受けることになるんだぞ!

だが村長らを問い詰めたところで、真相をみすみす逃すことになる。それじゃ何も解決にはならない、どっちも曖昧に終わってしまうだけだ。

ヤトウ、彼の言う通りだ。

……

その洞窟の場所ぐらいなら、教えてやってもいい。

あの村人が教えてくれた場所の付近を一通り調べてみたんだが、辺りは家屋が少ないし、地形も複雑だ。見たところそれっぽいところではある。

あそこを見てくれ、二人の村人が話をしている。どうやら裏山を気にしてるみたいだ。

だがあの二人の目線、明らかにチラチラとそこの家に向けられているぜ。

私がその二人を抑えつけておこう、君はその中に入って調べてみてくれ。

ちょっと待て、万が一間違えていたらどうするんだ?

無関係な二人を気絶させちまったら、村にはいられなくなるぞ。

ニャ!職人くんがいいアイデアを思い付いたらしいニャ!

――!

あんたら今度はどっから湧いてきやがったんだ!?

君たちのリオレウス退治に手を貸すことを決めたニャ!泣きわめくぐらいボクたちに感謝するといいニャ、ノイルホーン!

本当にあの二人を引き離してくれるのかよ?

それはボクが言ったんじゃないニャ、職人くんが言ったんだニャ。

ヤトウ、ここはこいつらに任せてやろう。俺たちは後ろから潜入するぞ。

職人くん……君のこのアイデアは本当に通用するのニャ?

っていうかこの食材はどこから持ってきたニャ?

切り刻んで!攪拌する!誰も拒むことはできないニャ!

ウニャアアアア、チクショーニャ!

ボクは元王立古生物書士隊の学者、新大陸一の研究者になると誓ったアイルー……

断じてコックなんかじゃないニャ!

ここで裏返すニャ!これで出来上がり!出来上がりだニャ!

おっ、晩飯の時間か?

今日は朝食も昼食も食ってないんだ、ましてやおやつすらも……

あのよそ者がこの村に来てから、村長にここを見張っておけって言われてな。それからずっと……飯が食られていないんだ。

あぁ、腹が減ったなぁ――

少しは黙ってろ、それはこっちも同じだ。

なあ、あの二人は本当にこっちに来るのかよ?ずっと村の人たちの病気を診て回ってるんだろ?

俺たちはここで見張っておけばいいんだ、村長の命令だぞ。

それともあの女が引き起こしたことをもう一度繰り返したいっていうのか?ドえらく村をしっちゃかめっちゃかにしてくれたんだぞ、あの女は。

分かった分かった、我慢すればいいんだろ。

おい待てよ、なんか匂わないか?

匂い?なんのこと……はっ!

ちょうどよく焼けて、融けた脂が野菜に絡まってジュージュー焼かれている時の匂い、それから焼き上がった果物の甘い匂いも……こんな美味しそうな匂いは嗅いだことないぞ!

(ごくり)

いちいち言うんじゃない、こっちにも匂いが……

ちょっくら見に行ってみようぜ?もしかしたら誰かが飯を届けに来てくれたのかも。

行くなら一人で行ってこい、俺はここを見張っておかなきゃならないんだ……

一緒に行こうぜ、お前も腹を空かしてるだろ?

……見たらすぐに戻るぞ。

ニャニャ!アイルーお手製のディナーだニャ!栄養満点、夜の仕事も元気いっぱいだニャ!

お二人とも、いかがかニャ?

お前は……

あっ、こいつらって――

職人くん!お客さんだニャ!
(アイルー達が村人を殴る)

よ、よし!足場は安定してるな。おーい、ここにいるぞ。

踏み下ろす際は優しく――いってッ!
(ノイルホーンが倒れる)

ここがあの子の言っていた洞窟なのか?

自然にできたやつじゃないな、壁に人工の穴が開けられた痕跡が残されてる。

地面にもレールが敷かれているな……表面の痕跡もまだ新しい、おそらく最近も使用したことがあるのだろう。

俺たちがここに入った時、洞窟の入口は閉鎖されていた。俺たちを入らせないようにわざわざ閉めたというよりは、中にあるナニかを閉じ込めようとしているように見えるな……

石取家の子供の話も加味すれば、ここは最近何かしらの事件が起こったのかもしれねえ……レールが続いてる奥にはリオレウスと関係してる場所でもあるのか?

進めば分かる。

この先は……

待て――動くな!

見てくる。

ゆっくりな……気を付けてくれ。

大丈夫、ただの衣服だ。

焼き焦げた服……燃やされる前に脱いだみたいだな。

あっちにもあるぞ。

ヘルメットに、携帯用のサーチライト……おそらくあの子供の父親が残していったものなんだろう。

前に通気用の穴が開いてるぞ。おそらくはものを全部ここに置いていって、その穴から逃げ出そうと試みるも失敗したように見えるな。

ああ、しかも必死な様子で。

この洞窟の大きさは十分リオレウスの体格をすっぽりと納められるぐらいだ、きっと彼は出会ってしまったのだろう……

ノイルホーン、服のサンプルを採取した後に検査してくれ。

結果が出たぜ、活性源石を検知した。濃度は森の中にあった爪痕から取ったサンプルに近いが、少し数値が高い。

……っていうかヤトウ、なんか変な臭いがしないか?

血の匂いだ、この先から匂ってきている。

俺が見にいくよ。

これは……肉の塊?

どれも獣の肉塊だ。数もそこそこあるし、とても新鮮だ。おそらく私たちがここに入る少し前に置かれたのだろう。

見たところここまで引きずられてきたようだな、一体なぜこんな場所に……

ほかの肉食動物を誘き寄せるためとかか?あっ……

誘き寄せる……リオレウスをだ!

ニャ!

ウニャアアアアッ!?!?

ウニャアアアアッ!?!?

角付きのバカ“ハンター”!急に大きな声を出すんじゃないニャ!

あんたらが急に音もなく現れたからだろうが!

あれ……なんかいい匂いが……

ボクたちは完璧に見張りを引き離すことができたニャ、なのにこんなたくさんのご飯を残してしまうニャんて!

そうニャ!全員気絶させたニャ!

結局気絶させちまったのかよ……って待て、なんでこんだけご飯が残ってるんだよ?

それは気にしなくていいニャ……とにかく今は前進するだけニャ!

なら少しここで待っててくれ、調査したいことがあるんだ。

でもすぐに追いつかれてしまうニャ。

え?何に?

人ニャ。

なんで人が追いかけてくるんだよ?

こっそりよその人の場所に侵入しちゃったら、追いかけてくるのは自然の道理ニャ!

たとえ職人くんがたくさんの人がいた厨房から食材を盗むことがなかったとしても、遅かれ早かれバレていたはずニャ!

もうめちゃくちゃだ……

どうでもいいが、みんな静かにしてくれ。

ほら、聞こえるだろ。
(洞窟の唸る音)

どんどん近づいてきてるニャ!

すぐにも追いつかれるニャ!

いや、この音は……

洞窟の奥深くからだ。

感染生物たちが来るぞ!