(爆発音)
来るぞ――右側からだ!
(斬撃音)
ハッ!
上に気を付けろ!
(斬撃音)
――!
あぶねぇ……
にしても感染生物の数が多すぎる!なんでこんなとこに湧いてきやがるんだ?
いつまで経ってもそんな無意味な質問をする習慣が治らないものだな、君は……
このままこの害虫たちを進ませるわけにいかない。これだけの感染生物が村に侵入すれば、悲惨な結果を招くことになるぞ。
ヤトウ、そっちの右側!また来るぜ!
(斬撃音)
――クソ、刀が!斬り過ぎてどんどん鈍くなってきてしまっている!
ここでこいつらを防いでおかないと……そうだ、確か前回の任務で申請した源石爆弾がまだリュックの中に入れてたはずだ、リモコン操作のやつ。洞窟の天井に穴を開けられるぐらいの威力はある。
その際俺たちまで吹っ飛ばされない方法をまずは考えないと……
あの通気用の穴……
あれは洞窟の壁に開かれた穴だ。爆薬で塞がれた天井さえ吹き飛ばせば、そこから脱出することができる。
私たちが脱出した後にはすぐさま下のほうの爆薬を起爆させるんだ。周囲の洞窟を破壊して、こいつらの進路を塞ぐことができる……このアイデアならいけるぞ!
だが上を爆破すれば周囲の洞窟の構造が脆くなってしまう。脱出の時間もそれのせいで極僅かだ、すぐに脱出しなければ。
それと爆弾を設置する際は誰かが感染生物たちを防いでもらわなければならないんだが、やってくれるか?
んなもん、聞く必要はねえさ。あんたは設置しに行きな、俺なら持ち堪えてやるぜ。
気を付けるんだぞ。
(ヤトウが走り去る)
やいお前ら、俺はここだ!お前ら一匹たりとも!こっから出られると思うんじゃねえぞ!
(斬撃音)
あと少しだ……よし!設置完了した!
先に上のほうを吹き飛ばすぞ!
(爆発音)
穴が開いたぞ……予測の範疇にあるのを確認した。
あんたは先に上がれ!俺はこいつらをここに引き留めておくから!
ダメだ、それだと危険すぎる!このままそこで生き埋めにされるかもしれないぞ!
ここは俺の言うことに従ってくれ、さもなきゃこいつらが村まで漏れ出してしまう!
……分かった、ならこちらの合図を待て。
上がったぞ!今すぐ撤退するんだ、ノイルホーン!
おうよ!よっこらしょっと――うわッ!
どうした?
梯子が折れちまった……
そんな!?*極東スラング*!
落ち着けヤトウ!俺ならまだ大丈夫だ!
落ち着け、落ち着くんだ、何か方法を……そうだ、思いついたぞ!
このまま爆弾を起爆するから、君は盾で衝撃波を受け止めろ!それを利用してここまで上がってくるんだ!
私が必ず掴んでやるからな!
了解した!
用意!
跳べ!
(爆発音)
よし――掴まえたぞ!
上がって――こい――!
俺の身体は――よし!五体満足だ!
ノイルホーン……今度から食事の量を減らしたほうがいいぞ。
帰ったら、ハイビスカスにヘルシーセットの作り方を教えてもらうわ……
それで、私たちは森に戻ったのか?
職人くん、こっちに来るニャ!角付きの二人が無事脱出してきたニャ!
脱出成功ニャ!
なんであんたらはいつもいつも、そんなどこからでもぽっと現れることができるんだ?
……それよりも、あの肉塊は人によってあそこに置かれたものだ。誰かが洞窟の奥に潜むやつらを誘き寄せるために設置したんだろう、ほとんど私たちをターゲットにしていたと言ってもいい。
だが私たちは逃げ出すことができた、となればその人の計画は失敗に終わったかもな。
もしかして俺たちに場所を教えたあの村人の仕業か?
彼であるにしろ、そうでないにしろ、少なくとも洞窟は一時的に塞ぐことができた。彼もこれ以上私たちを相手取ることは無理だろう、自分の村を滅ぼすことが目的ではない限り。
もし鉱石病もリオレウスもあの洞窟と関係があるとして、その最も問題を解決できる直接的な方法は……洞窟の最深部を見つけることだ。
穴が広がってる方向を見るに、最深部はきっとこの山脈のどこかにあるはずだろう。具体的な位置関係を確かめるのは困難だが。
ならリオレウスを探すってのはどうだ?
洞窟の中の状況から察するに……少なくともリオレウスもそこに出現したことがあるってことだ。もしかすればそいつは洞窟の最深部にいるのかも。
ああ、その可能性は大いにあり得る。
今から村に戻っても捉えられてしまうだけだな、となれば私たちの選択肢はただ一つ……
森の奥へ入って、リオレウスを捜索する。
ちょっと待つニャ!
あれだけキモが冷える危機を乗り越えてすぐ、リオレウスを追いかけようとしたら、ネコ生(じんせい)がいくらあっても足りないニャ!
そのためにはまず!お腹を満足させることが大事ニャ!ささ、アイルー特製の料理を召し上がれニャ!
それさっきの連中の残飯だろ!
君は何も分かっていないニャ、美味というのは決して色褪せないものなのニャ!
まあいいや……俺は肉が食いてぇよ、一個くれ。
私も頼む。
さあ、生態調査だニャ!出発するニャ!
新素材が待ってるニャ!前進だニャ!
(もぐもぐ)
待っていろ……リオレウス。
利藤、あの二人を洞窟に誘い込んだワケを聞かせてもらおうか。
簡単なことだ、あいつらはバケモノ退治をしに行くって村長に言ってただろ?俺はそのチャンスを創ってやったわけさ。
よそ者に私たちの秘が知られてしまえばどうなるのか、君は分かっているのか?
もちろん分かっているさ。久ぶりに戻ってきたあんたの姪っ子も、それを知った後はしっちゃかめっちゃかに暴れてくれたもんだからな。
もしロドスのような源石を知り尽くしている企業に知られてしまえば、あれ以上にとんでもない結果を招くことになるだろうよ。
その結果を、君一人が背負いきれるとでも思っているのか?
あいつらなら洞窟の中で死んでくれるさ。
村長、あんたもよく考えてみろ。餌ならすでに撒いておいた、あんたも俺も昔は狩人だ、血の匂いは一番獣を誘き寄せることを知ってるだろ。
俺たちの秘密を見つけてしまう前に、あいつらはきっとあのバケモノと出くわして――すぐにも戦いに発展する。
もしあいつらに実力がなかったのなら、自然とあのバケモノにやられちまうさ。俺たちもそれでその結果とやらを心配する必要もなくなる。
だがもしあいつらが見事あのバケモノを退治することができたとしても、こっちは願ったり叶ったりだろ?俺たちの村に潜む危機を、見事排除することに成功したってわけ。
あいつらが中に入ってからしばらく経った後、こっちの人間が様子を見にいってもらったさ。
バケモノと戦った後なら、きっと満身創痍になっているはずだろ?そん時になったら、俺たちでも簡単に……あいつらを片付けることができる。
どっちに転んでも、俺たちに有利に働くことになるとは思わないか?
なかなか合理的に考えたものだな。
当然さ、どっちにしろ……あんたが洞窟を封鎖することよりも、しっかりと隠蔽することができる。
フンッ……
まあまあ、そんな怖い顔をしなさんな。村長さんもきっとそんな考えを持っていたはずだから、俺が先んじて実行に移させてやったってことだ。
なんせ明(あきら)の野郎がいなくなってしまった後、俺があんたの一番の助手なんだからな。
(村人が扉を開けて部屋に入ってくる)
村長、大変です!裏山の洞窟で爆発が!
そのせいで洞窟が……岩で塞がれてしまいました。
そうか。ならまた洞窟に入れるように、人を連れて瓦礫を撤去させてやれ。
もう下がってよろしい。
(村人が部屋から立ち去る)
利藤、これも君の計画のうちなのか?
いいや、むしろ想定外の事態さ。
だが洞窟で爆発が起こったのなら、あいつらも生きているとは考えづらい。おおかたバケモノと一緒に生き埋めになったんだろう、心配することでもないさ。
今回の出来事は……
やはり今後村にもたらされるかもしれない利害を加味して、君の勝手な行動に対する責任を決めさせてもらうよ。
それと私からもあそこに人を送らせてもらうぞ、彼らの口も閉じてもらわなければならないからな。
構わないさ、むしろそれでいい。では俺は先に帰らせてもらうよ、まだまだ見ておかなきゃならない帳簿が溜まっているのでね。
見送りはせん。
(利藤裕が部屋から立ち去る)
はぁ……
明、やはり君の言う通りだ……
(爆発音)
む?
また葉が一枚枯れた。
もう秋になってしまっていたのか……