(レコーダーの起動音)

二回目の録音を開始する。

時間は午前9時15分。天気は曇り。私たちは青暮山地に戻った後、このまま奥へ進み続けている。

これまでの短い間、私とオペレーターのノイルホーンは任務執行中にさまざまな突発的な事態と遭遇した。

先は未知の生物……リオレウスと対峙するも、作戦は失敗に終えてしまったが。

加えてそれから現地の村へ到達した後、こちらの鉱石病発生源の調査が現地住民の妨害を受けることとなった。

原因はなお不明ではあるが、私たちは引き続き医療検査を実施する際に、現地における源石の影響はかなり以前から受けていたことが分かった。

現時点で収集したすべての手掛かりを総括して出した判断は、引き続き森の中でリオレウスを追跡し、鉱石病の発生源を突き止めることとなっている。かなり進捗状況は滞ってしまってはいるが……

ああもう!枝葉が鬱陶しすぎる!ノイルホーン、斧を渡してくれ。

なにを渡してきたんだ?斧を渡してくれと言っ……なんだこれは?デコボコしてて……それにウネウネと蠢いて……あっ!

オリジムシじゃないか!

オリジムシ?

どうしてオリジムシが私の手の中にあるんだ?

骨の素材が欠けているからニャ……でもオリジムシの殻はとても頑丈、とっても使い勝手がいいニャ!ボクは大好きだニャ!

ノイルホーン!どこに行ったんだ!

ニャ、これを見ろ、この植物の種は少しでも突っつけば爆ぜて開くニャ。

そうやって遠いところまで飛ばして、種を撒く仕組みになってるニャ……まるでバクレツの実とそっくりだニャ。

これとリオレウスになんの関係が……あっ、そうか!それってもしかして……

いや、まったく関係ないニャ。

(深呼吸)
(レコーダーの起動音)

……ここで私たちと同行してるほかの大陸からやってきたとされるフェリーンに似た種族についてだが……

アイルーニャ!

彼らはアイルーと自称していて、リオレウスに関連する知識を持っている。

アイルーたちの手助け、加えてロドス行動隊A4の豊富な問題対処の経験が合わされば、私たちはきっと今回の事件解決の鍵にますます……

おーいヤトウ!こっちに向かうぞ!

違うニャ!こっちだニャ!リオレウスはこっちに向かっていったニャ!

でもあんた、さっきはこっちだって……

それは古い痕跡ニャ、リオレウスはまたここで木の幹に身体を擦りつけていたニャ!

ウニャあ!とにかくこっちだニャ!ノイルホーンはホントにケストドンと同じように頭でっかちだニャ!
(ノイルホーンが頭をぶつける)

なんだと?ていうかケストドンってな――いってッ!誰だよこの木を切り倒したのは!?

木にまでぶつかってしまうほど、せっかちで頭の悪いモンスターだニャ!

……ますます近づくことができると信じてる。これで二回目の録音を終了する。

ノイルホーン、それとアイルーたち。

いいか、私たちはすでに二時間も歩き回っているが、今のところリオレウスの影すら見つかっていない状況だ。

もしまだここで言い争って時間を無駄にするつもりなら、洞窟に送り込んでオリジムシの話し相手にしてやるぞ。

職人ネコ、シッ、静かにするニャ。

ニャ?

あそこを見るニャ、花の上ニャ。

草むらだニャ。

その通り、あそこに――モゾモゾとしている小型の生物が潜んでいるニャ!

近いニャ――

注意が向かない暗い影の中で、危険がこっそりと迫り寄っているのに、羽虫はまったくそれに気付いていないニャ……

潜伏してるあの生物はチャンスを待っているんだニャ、目と鼻の先にあるチャンスを!それが今だニャ!

生き物が煙を吹き出したニャ!それで羽虫はフラフラと、落っこちていったニャ!

ウニャ~……なんだか頭がクラクラするニャ……

へ、へくち――!

職人くん!なんてことをしてくれたんだニャ!君のせいで逃げてしまったじゃないかニャ!

急にすごく眠たくなって……色んな素材がボクの頭の上をグルグルと回っているニャ……

羽虫も煙に触れて落っこちていったニャ、もしかしてあの煙の仕業かニャ?

これは記録しておかないとニャ……人を眠らせることができる小型の生物、もしかしたら狩りで役に立つかもしれないニャ。

それにしても小型の生物と羽虫の関係、羽虫と花の関係、“ハンター”と獲物の関係……あまりにも似すぎているニャ。

ウニャ~……似ているニャ……

そうニャ、職人くん、一つとても気になっていることがあるニャ……このテラというところは異世界だというのに、ボクたちのところと似通ってるところがあまりにも多いニャ。

村に住んでいる人にしろ、観察した生物たちにしろ、しっかりと理解した後には違っている点よりも共通点のほうが遥かに大きいことに気付いたニャ。

これまでしてきた森林調査から、ここの生物たちの姿形はボクたちのところにいる生き物たちとはまったく異なっているけれど、生態系はぴったりと一致してることが分かったニャ。

植物も、草食動物も肉食動物も……捕食と被捕食者で構成された最も基本的な生物同士の関係が。

この二つの世界の共通点……あまりにも不思議に思えてしまうニャ。

やはりボクが前に言っていたように、ボクたちがこれまで蓄積し続けてきた知識さえあれば、難なくこの世界でも生き残ることができるはずニャ。違ってるところなんかほとんどないニャ。

それに近い距離でリオレウスのこの世界における活動の数々を記録することもできるニャ、それでこのテラ唯一無二の研究者になることだって……

さすがはこのボクだニャ、ニャッハッハッハッハー!

もし生態を研究したければ、源石は必ずそれに影響を及ぼす要因として考慮しておかなければならないぜ?

源石のことニャ?確かにノイルホーンたちがいつもよく話しているけど、今のところ明確な影響は確認できていないニャ……

多分だけど、そこまで大きな問題はないと思うニャ。だってノイルホーンの様子を見るニャ、ここの人たちはきっとおバカすぎてよく理解できないのかもしれないニャ。もしかしたら単なるちょっとした特殊な石ころでしかないのかもしれないニャ!

しかし……この森には違和感を覚えてしまうニャ。ナニかが欠けているような気がするんだけど、そのナニかがまるで思いつかないニャ。

一体なんなんだろうニャ……

職人くん、君はどう――

あれ、ノイルホーン、どうして君が?

俺?俺がどうかしたのかよ?

職人くん!あれ?どこに行ったニャ?

記憶が正しければなんだかが、あれのことか?

見てみよう。

気を付けろ、絶対に近づくんじゃないぞ。

ああ、間違いねえ。『オリジムシでも分かるテラの生物百科事典』で具体的に記載されているし、出発する前にもバニラから何度も言われたことがあるやつだ……

“森の中で一番気を付けなければならない生物ランキング第三位!”だとか、“見かけたら必ず遠回りしてでも避けるようにしなければならない空飛ぶ悪夢!”だとか。

背中には眩しいほどの銀色の羽が生えているにも関わらず、正面から見れば、それはまるで夜のような漆黒を持つ幽霊のよう……

もし地面に銀色と黒色が織り交ざった綿毛を見かけたら、それは臭羽獣(くさうじゅう)の巣が必ず近くにあることを意味している。

もし彼らの巣の縄張りに足を踏み入れてしまえば、見るに堪えない結果に……

ヤトウ!ノイルホーン!職人くんがまったく見つからないニャ!

なに?そいつはいつどこで消えたんだ?

ボクたちが話してる最中に、彼が急に……

ノイルホーン……聞こえるか?

ああ、羽が羽ばたく音だぜ。

しかもどんどん大きくなって……

あっちのほうだな。

お、俺が見に行くのか?

ニャ!

職人ネコ!あんたどこをほっつき歩いてたんだよ?

ノイルホーン!これをやるニャ!

おい、何を渡して……これは……

おい待て、逃げるな!どこに行くんだよ、おい!

ノイルホーン……それって……

まさか……

臭羽獣の卵だ。

おい職人ネコ!戻ってこい!

あっちょっ――こっち来んな、お前らの卵を盗むつもりはねえよ!返してやるから!

すぐに返すから!今すぐ!だから突っつくな!角を突っつくんじゃねえ!

うえッ!くっせええええ!おええええ――

ヤトウ、助けてくれ!

っておい、職人ネコ!これ以上卵を盗むんじゃねえ!
オペレーター・ノイルホーンの自らの体験談より。
森の中で臭羽獣が縄張りの印として残した綿毛を見かけたら、絶対にそこへ踏み入れないように。
特に、そいつらの卵に触れることは。
さもなくば……
嵐のような悪臭に見舞われることになる。
(ノイルホーン達の駆ける足音)

に、逃げ出せたか?あいつら、もう追っかけてきてねえよな?

向こうで足止めを食らっているようだ。

つ、疲れたぁ……

水、飲むか?

ちょっと待って、こっちに来ないでくれ。

盾を構えるんだ、それで少しは匂いを遮ることができるはず……水はそっちに投げるよ。

ヤトウ……

ノイルホーン、いま君がどうなっているかは分かっているな?ならお互いある程度距離を置いたほうがいい。

ノイルホーン、臭すぎるニャ!離れろニャ!

離れるんだニャ!

あんたらな――うッ!

なんか頭がクラクラする……あいつらに角を突っつかれまくったせいか?

なんか……地面がすごい揺れてるような感じが……俺、もう意識がモヤモヤし始めちまったのか?

いや、そうじゃない……

はやく起きるんだ!

すごい数が来てるニャ……

たくさんのモンスターが山を下ってきたニャ!