学者ネコ、はやく木に登るんだ!角獣の群れが来ちまうぞ!
もう間に合わねえ!ヤトウ!
分かってる!
ニャ!この臭いヤツを食らうニャ!
(悪臭が辺りを漂う)
職人ネコ、今なにを投げたんだ?
くっせ!くっせえええ!またあの羽獣たちが来やがったのか?
効果ありだ!獣の群れが方向を変えたぞ!
職人ネコ、今君が投げたものは一体?
羽獣のフン!こやし玉ニャ!
あっ、そうか!さすがはボクの職人くん、こうもはやく羽獣のフンでこやし玉を作ってしまうだなんて!
そのこやし玉をモンスターに投げつけてやれば、あいつらはその匂いに耐えきれず逃げ出してしまうニャ!ボクたちがノイルホーンを避けていたのと同じように。
おい、俺を例えにするんじゃねえ!
一時的に方向を変えてくれたが、それでも角獣たちは森の中を駆けまわっている。このままでは面倒だぞ、リオレウスの痕跡がヤツらのせいで壊されてしまうかもしれない。
死に物狂いで駆け回る角獣たち……こりゃ普通の現象じゃねえぞ。なんでこんなワケもなく暴れ回るんだ?
この際原因はどうだっていい、今はそいつらを止めることが最優先だ。
ボクの持つ知識から推察するに、こんな大規模な獣の群れの移動にはきっとボスみたいなヤツが群れを引き連れているはずニャ。
それは本当か?もしそうであれば、そいつさえ斬っておけば済む話だな。
ちょっと待て、“そいつさえ斬っておけば済む話”ってなんだよ?
文面通りの意味だ。
どうやってそいつをぶった斬るつもりなんだ?
このまま突っ込めばいい。
暴れ回っている角獣がこんなにも大量にいるんだぞ……正気か?その原因もまだ突き止めていねえのに……
原因を確認する時間はない。今は速戦即決しなければならないんだ、君は私の援護を頼む。
待て待て、もうちょっとだけ待ってくれ!おい職人ネコ、そのーあれだ……こやし玉はまだ持ってるか?
うんち!まだたくさんあるニャ!
学者ネコ、確認したいんだが、もしこの臭いやつをボスに当てたら、ほかの角獣も散り散りになってくれるのか?
先ほど見せた彼らの反応からして、理論上は……あり得る話ニャ。
けど、効果時間はそれほど長くはないニャ!こやし玉も近い距離でないと確実に角獣に当てることはできないニャ。
サンキュー、いい方法を思いついたぜ。俺は木の上に登る、それなら一番近い距離でそのボスに当てることができるはずだ。
ヤトウ、あんたはほかの角獣が散った後の隙に飛び降りて、一発でボスを仕留めてくれ!
了解した、それでいこう。
しかしそれだと君はまた……
もっと臭くなるだけだって、なんの心配もいら――うっぷ。
(柏生義岡が駆ける足音)
……
今なら……まだ間に合う……
あいつら、足が速すぎるな。それに若さもあって力もある、抑えつけるのは困難だ。
過去に抑圧されてきたものがどんどん膨れ上がってきている、森の危険度も相変わらずだ。
あんたの身体もとっくに衰えてしまったものだな、あいつらを抑えつけられなくなるだなんて。あんたは過ちを犯し過ぎたんだ。
違うッ!
違う……そんなものは理由にもならん。
追うんだ、追わなければ。
む、これは……
(柏生義岡が駆ける足音)
あっちニャ!見えたニャ!
群れの前のほうに、一回り角が大きくて、黄色くてツヤツヤな毛並みをしたあの角獣、あいつがきっとボスだニャ!
こっちに向かってきてるニャ!
俺ならできる、俺ならできる。
集中するんだ。
もうすぐだぞ、用意しろ!
待ってくれ……鼻の詰め物が取れちまった。
はやくしろッ!
え?あっ!もうままよ!
超巨大こやし玉攻撃!成功したニャ!
――ハッ!
(ヤトウが獣に斬りかかる)
やっ……やったか?
ああ、片付けた。
やっぱりボクの見立て通りニャ、こいつら急に大人しくなり始めたニャ。
ノイルホーン、君……
分かってる!臭いんだろ、離れときゃいいんだろ!
いや、怪我をしてしまっている。
あっ、いや大丈夫、これぐらいの傷……
ちょうど少しだけ応急用の薬が残っていたんだ。こっちに来てくれ、手当をしてやろう。
えっ……お、おう。
二人とも、これを見るニャ。
ここ、群れを率いていたボスの鼻の周りに白いの粉が付着しているニャ。
これ、どっかで見たことがあるような……
ボクたちのところには“エンエンク”という生き物がいて、そいつが放つ煙状のフェロモンはモンスターを興奮させ、向こう見ずに突っ込ませてくることができるニャ。
そういった効果を利用してモンスターを引き寄せる、ボクたちのところの“ハンター”はみんなそうするニャ。
あっ、思い出した!これ、柏生さんの家に置いてあった瓶とか缶の中身じゃねえか!もしかしてあの狩人さんが……
絶対そうニャ。
俺たちが森に入ったことを知って、この粉で角獣たちを興奮させて俺たちの進路を阻んだってことなのか?
そういや確かにああ言っていたよな、“二度と森の中でツラを――”
いや、そうとは思えない。
え?
昨日の昼頃には彼はすでに森に入っていたが、私たちは洞窟の中で想定外の事態と出くわした後に森の中に入った。彼が私たちの行き先を知っているはずがない。
仮に森の中で私たちを発見したとしても、この距離で私が彼を見つけられないはずもない。
それを言うならそうかもしれねえな。あの爺さんの目的もリオレウスを探すことだ、こんなデカい騒ぎを起こしちゃリオレウスの痕跡が壊されちまう。
そうだなぁ……あるいは爺さんはこの角獣を利用するつもりだったが、思わぬ事態が起こって制御が効かなくなった可能性はないか?
……そんな意味のないことを考えてる暇があるのなら、急いで新しい痕跡を探しにいくぞ。
大変ニャ!職人くんがまた消えてしまったニャ!
さっきはまだ木の上で一緒にいたニャ、落っこちてしまった後に……
なんなんだよ!もしかしてまたアレが来るのか……?もう勘弁してくれ!
ニャ……
おい!なんかアイルーの声が聞こえたぞ、向こうのほうだ。
あっ、職人くんニャ!どうしたんだニャ?
これは……臭すぎて気絶しちまってるみてーだ。
……この先の任務で、これ以上ひどい状況にならないことを願おう。
今日もまた日が沈んでいくな。
見ろ……葉っぱの隙間から差し込んでくる日差しは揺らめき、枯葉の下から聞こえてくる暗い声も徐々に大きくなってきている。
一時的な衝動で……混乱状態に陥ってしまった獣たちだ。
あんたたちはきっと、この森の夜からは抜け出せられないんだろうな。
黙っていろ……
三回目の録音をおこ……ジジジ……
こちら……ヤトウ……ジジ……
私たちの装備が……ジャミングを……稼働に異常が……
方向を見失っ……
私たちは……ジジ……
囚われてしまった。