お前たち!はやくしろ!
でも……
利藤だってはやく逃げろよ!命より金のほうが大事なわけが……
お前は黙ってろ!
俺はあのジジイを止めに行く!
なにボケっとしているんだ!はやく行くぞ!
妹の病気を治したくはないのか?
でも……分かったよ……
クソッタレが……
ううう……
ママぁ、どこにいるの?うう……
見つかんないよ……
ママぁ……うう、置いてかないでよぉ……
(突進連斬)
(ヤトウが獣達を倒す)
ふぅ!間に合ったぜ!
ノイルホーン、子供は無事か?
えーっと、五体満足、外傷も見当たらず……おい坊ちゃん、どこか痛むとこはあるか?
痛い……うう、鎧がチクチクする。
げっ!わ、悪ィ!
坊や!
ママー!
ありがとうございます……この子を助けていただき本当にありがとうございます!
今は絶対に森へ近づいてはダメだ、いいな?獣たちもすでに村の近くに現れているし、これからますます数を増やしていくはずだ。ここは危険過ぎる。
ヤトウ……あいつらわざとこっちに向かってきてるわけじゃないみたいだぜ。
おかしい!村の向かい側にある林には防護網が張られている、儂が直々に張ったものだ!まだ張ってそれほど経っていないというのに、なぜ獣どもがここに現れた?
少し様子を見てくる。
二人とも落ち着け。村のみんなはまだ撤退を開始していないのか?
ま、まだしてないです。採掘場が爆発して、空も燃え上がっちゃって……もう何もかも失ってしまいました。
獣たちが来たって聞いて、みんなパニックになって逃げ惑っていますけど、どこに逃げればいいのやら……
なんでこんなパニックになっちゃってるの?一体なにが起こったのさ?
直樹と一緒に人の少ない場所まで逃げようと思ったのですが、突然そこに何人かの人が現れて。気が付いたら、直樹がいなくなっていたんです……
獣どもを村に侵入させようとしていたわけか。防護網もきっとあえて何者かの手によって壊されたに違いない。
*極東スラング*、瀧居のやつはどこだ!
瀧居村長は……
(獣の唸り声)
ノイルホーン、また獣たちが来るぞ!
俺が防いでおく!盾があるから……ってそうだった、太刀でもいけるぜ!
柏生さん、すまないがこの親子を安全な場所まで避難させてやってくれ。ついでに村の状況も見て回ってほしい。獣の群れなら私とノイルホーンが食い止める。
言われるまでもない……では行くぞ未来……未来?
彼女ならもう先に行っちまったぜ?
どうしてこんなにも早く来たんだ?この前まで天災が形成されるにはまだしばらく時間がかかると言っていただろ?
野成、伊上、はやくみんな召集しろ、私がこの前言っていた避難所まで連れていくんだ!そこは比較的まだ安全だ、みんなが揃ってから一斉に避難するぞ!
この日のためにずっと準備しておいた甲斐があったよ……またお前の予言が本物になってしまったね。
燃えちまった……
山の頂上が煙に覆われて、空が……炎に……採掘場も……もうおしまいだ。
なにをボーっとしているんだ?はやく必要なものを持って逃げなさい!
俺の仕事も、暮らしも……全部なくなっちまった……
……村長さん、採掘場が燃えちまったら、俺たちはまた昔の生活に逆戻りしちまうんですか?
今はそんなことを考えてる場合じゃないだろ!
なくなっちまった……何もかも……
どうしてこんなことになったんだ?天災はまだここには到達していないはずなのに、一体なぜ?
(獣の唸り声)
獣だ!獣が来たぞォ!
獣だと!?鳴き声もこんな近くまで!防護網が張られていたのではないのか?
おい!利藤、こっちに来い!あっちはどうなってるんだ?
村長!西の防護網が破られてしまった!獣が村に押し寄せてきてる!どうすればいいんですか?
クソ、一体全体なにが起こっているんだ?
みんなよく聞け、荒てるんじゃない!必要なものだけを持って北東にある避難所へ行って、避難するまでそこで待機しているんだ!あそこなら獣も来れまい!
村長……なんで俺たちの村に……避難所なんかがあるんですか?
なんだって?
もしかして、最初からこういった事態が起こるのを知っていたんですか?
村長……今回の災害はもしかしたら、あの時閉鎖した採掘場が原因なんじゃ?
そ、そうなんですか……村長?
そん……村長?
どうなんですか、村長!
利藤、なに訳の分からんことを言っているんだ!そんなことが嘘っぱちなのはお前だって分かっているはずだろ!
今は緊急事態なんだ、みんなの生死が関わることで冗談を言うんじゃない!
村のみんな!ここで突っ立てるんじゃない!はやく避難所のほうへ行きなさい!
ふざけたことなんか言っちゃいないさ!今はもうみんなが必死に築き上げてきたものが全部台無しになっているんだぞ!みんなのために説明してくれなきゃ気が済まないさ!
どうして採掘場を閉鎖した?なぜ閉鎖した後にこんなことが起こったんだ?
そ……そうだ!急に設備点検だとか言って、採掘場を五日閉鎖した結果こんなことになってしまったんだ!採掘場はもうなくなった、山だって全部燃えちまった!
この前採掘場にあの見たこともないバケモノが現れたから、採掘場を閉鎖したんだろ?しかもそのことを隠蔽しようとしたから、こんな災害を引き越してしまったんじゃないのか?
本当ならみんなで力を合わせれば、解決できた問題だったにも関わらず!
そこの封鎖はお前が言い出したことだろ!これ以上みんなをパニックにさせるんじゃない!
それを言うなら利藤、お前の一族が貿易事業を始めてからどれだけの利益を横領したか、自分でも分かっているはずだ!この私がそのことを知らないとでも?
今、もしほんの少しでも良心というものがあるのなら、みんなが撤退するための時間を無駄にするでない!
なら避難所のことはどう説明するんだ?とっくに準備していたってことは、最初からこれを企んでいたんだろ……お前こそ採掘場の利益を独占しようとしていたんだ!
それだけでなく洞窟内部で崩落させて……鉱石病を調査しに来てくれたあの医者の二人まで殺した!
村長……
村長、あんた一体なにをしたんだ?
なぜお前たちまで……利藤……!
ああ認めよう、確かに私は採掘場を閉鎖しようと考えていた。あそこを過度に掘り進めてしまえば、いずれ必ず災害を引き起こしてしまうことも分かっていた。だからその日のために避難所を用意してきたんだ。
なぜかって?なぜならみんなあまりにも源石を頼り過ぎていたからだ!この数年我々が採掘したせいで発生した源石の微粒子はすでに生態系にまで及んでしまっている、とっくに危険が積み重なってきてしまっていたんだ!
天災は遅かれ早かれやって来る、それは私たちがやむを得ず源石を諦めなければならないことも同じだ。だが私は、あの時みんなをすぐ採掘場から避難させてやれなかった、なぜならこの村に住む者たち全員が源石交易の利益を受けているからだ。
それが今、その終わりを迎える日が早くもやってきた。
私が採掘場を封鎖したのは……確かに正体不明の生物がそこに侵入したことが原因だよ。
みんなも分かっている通り、私もかつては狩人だった。あれは私たちが簡単にやっつけられる生物じゃない、洞窟内で戦ってはならないと私はそう判断した。
石取たちはそのせいで鉱石病に罹ってしまった。いつまでも採掘作業をしていては死傷者を出してしまうかもしれないからな、だから私はみんなの安全に責任を負わなければならんのだよ。
……今この時だってそうだ、頼むから今すぐここから避難してくれ。
採掘場がどうこうよりも、生き延びることこそが一番大事なことだろ。
でも……採掘場がなくなれば、前みたいな生活に逆戻りしちまうだろ……
暗い夜に……森から聞こえる不気味な鳴き声と、流血沙汰に、凍える寒さに飢え……そして恐怖……そんなのイヤだ!俺は戻りたくねえぞ!
生き延びるって……じゃあ生きる希望ってのはどこにいあるんだよ?あんな生活に戻るくらいなら……ここで死んでやったほうがマシだ!
お前たち……なぜそんなことを……目を覚ましなさい!
そうだ……そうだよ!もう絶対あんな暮らしに戻ってやるものか!
それに村長……当時はあんただってみんなに源石採掘を推し進めていたじゃないか!ならこの事態はあんたが招いたのも同然だ!
そうだ!全部あんたのせいだ!あんたがすべてを壊したんだ!
あんたが村を滅ぼした!俺たち全員を陥れたんだ!
みんな!そのツケをここでこいつに償ってもらおう!
みんないい加減にして!やめてってば!
もうじき天災がやってくる、もう時間がないんだよ!
ツケならもう十分すぎるほど償ったでしょ!それでもこんなところで……無意味な鬱憤で命を無駄にするつもり?
未来!?どうしてここに?
こりゃいい、騒ぎを引き起こしたもう一人も戻ってきてくれたか。血は抗えないものだな。
驚かされた獣たちはすでに山を降りてきてる、防護網だって壊されたんだ。誰かがこの混乱を作り出そうとしたために……
みんなを絶望に叩き落しながら殺して、あたしたちが持っていたはずの希望を……手放すようにしてね!
……
そう、採掘場から離れても、狩猟を頼りにする必要なんてないんだよ。あたしたちは今だって明日への希望を持っているんだから。
あたしが都市から村に戻ってきたのは、まさにそのためだよ。
ウソをつくな!あんただって採掘場を閉鎖しようとしていたじゃないか!俺たちの生活をめちゃくちゃにするために!
確かに源石は危ないし制御することだって難しい。あたしもなんとかチャンスを見計らって、採掘場をぶっ壊そうとさえ考えていた。
あたしだって分かっているよ、源石がなければ今日の生活はあり得なかったって。
でも覚えてる?昔は確かに豊かな生活とは言えなかったし、みんななんとかしてこの困窮した生活から抜け出そうと頑張っていた。でもあの時、あたしたちは絶望なんかしてた?
みんなよく考えてよ!あたしたちが今日まで生きて来れたのは、本当に源石が関係してると思う?
当時のみんなが頑張って探して、源石に触れようとしたから、あの困難な生活から抜け出せるチャンスを掴み取ったんじゃないの!
そ……そうだ。
もっと昔なんて、源石すらなかった昔のことだよ?生き延びるために獣と争ってきた、それで数えきれない狩人たちがそれで死んでいってしまったけど、あたしたちは今もちゃんと生きてるじゃん!
勇気と希望はいつだって一緒に存在するんだ!あたしたちが勇気を諦めないかぎり……
希望も……いつだってあたしたちの傍に現れてくれるんだよ!
そいつの言葉に耳を傾けるな!最初に採掘場を破壊しようとしていたのはまさにこの女が言い出したことだぞ!採掘場はこの女にぶっ壊されたんだ!
でも未来があの時採掘場を閉鎖しようとしていたのって、掘り過ぎると天災を引き起こしてしまうからって警告していたからだったよな。今はその天災が本当にやって来てしまったわけだし……
俺たちはこの子を勘違いしちまっていたよな……
みんなこの瓶の中に入ってる草が見える?これは成熟したリョウカソウ、あたしたちが外と二番目に多く、源石の次に多く貿易している品だよ。
産地と生産量に限りがあったから、昔はリスク承知でないとこのリョウカソウを採ることはできなかった。
あたしが生態学者としてここに戻ってきたのは、まさにこのリョウカソウを異なる生息地でも人工栽培できないかを研究するためだった。そして今あたしが持ってるこの一株こそが、この研究における最大の発見だったんだよ。
これはほかの地域でも生育していたリョウカソウ、山の中で見つかったものだ。この一株が将来、あたしたちの産業の最初の土台になってくれる。
だからここはまず、みんなでこの場を乗り越えようよ!
乗り越える……
そうだ、俺たちはなにを血迷っていたんだ?今日まで必死に生き長らえてきたのに、このまま死んでいいはずが……
いいやダメだ!採掘場がない以上、俺たちはほとんどの収入を失うことに――
うわぁッ――
(利藤裕がヤトウに押し倒される)
誰だ……なッ!?
これ以上喋れば、頭を土の中に埋め込んでやるぞ。
減らず口が。
みんなよく聞いてくれ。今私の足元にいるこの人、彼こそが獣で混乱を生じさせようと防護網を破壊し、その混乱でみんなを煽動しようとしていた張本人だ。
村の向こう側にはこいつが事前に手配した通りに、裏で大量の資産をかすめ取ろうとしていた人たちがいたのだが、つい先ほど私が片付けてやった。
だから今はすぐに整列して、順序よく避難所まで避難して待機しに行くんだ。もうじきロドスの支援が来る。
自分たちでそこまで行くか、私に気絶させられて担がされていくか。好きなほうを選んでくれ。
ありがとう……
ロドスのお二方、もしかすれば森の中ではすでに獣の津波が発生してしまっただけでなく、もうすぐ村に到達してしまう可能性があります。今はそれが一番の脅威です。
ああ、それなら私たちが食い止めておこう。すべて食い止められる保証はないが……なるべくあなたたちの安全を確保しておくよ。
どうかここに残って、撤退した村人たちを守ってやってください。これはきっとあなた方にしかできないことでしょうから。
それと……未来のこともよろしくお願いします。
村長!どこに行くんですか!
私はこの露華村の村長であり、村にいる狩人たちの長だ……
今やあの畜生どもが森から降りてきている。たとえ私一人だけであっても、最後までヤツらを叩きのめしてやらなければならん!
お前、露丸を連れて先に避難所まで逃げていってくれ!
俺の刀は……まだ裏庭に置いてあったけな?
ええ、まだそこに。あなた……必ず戻ってきてね!
兄貴、村長は俺たち平路家を良く扱ってくれた。今こそ彼に恩返しをする時だぜ!
ああ……俺たちは村長と一緒に森から採掘場に渡ってきた。やってる仕事は違ってきても、俺たちが狩人であることに変わりはねえ。よし、狩猟矛を持ってこい!
俺たちの村、そして俺たちの家族は、俺たちが守る!
村長!待ってくれよ!
俺も行くぜい!
おかあ、狩人はもういないっておとう言ってなかった?
いいえ、澄子。狩人はずっといるわ……危険に瀕した時に、彼らは身を挺して現れてきてくれるのよ。
フンッ……この期に及んでやっと真似事を覚えただけの連中だ。狩人と呼ばれる資格などない。
この儂こそが…